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【Pino】10-9

9「天才ヤスマサ」

彼はヤスマサ、30歳。ユニークな感性の持ち主。 

ヤスマサは中学・高校・東京国立大学その全てをトップの成績で卒業。

しかし 彼には大きな問題があった。 

他人と交わる事が苦手だったのだ。

唯一、気を許せた相手は母親とヨークシャーテリアのミルキー12歳。 

彼は大学生の頃、母親にねだって犬の言葉が理解出来るという
バウリンガルなる装置を買ってもらい、それを自分流に
アレンジして犬と会話が出来る装置に作り上げた。 

ミルキーも人間的な意識を持った天才犬であり、事実上ヤスマサの姉役でもあった。

ヤスマサの職業は物理学者と発明家で何処の組織からも束縛されない自由人。

たまに蟻の巣を観察するのが好きだった。 

ある時ミルキーに「ねえ、ミルキー聞いて。蟻ってひとつの宇宙を形成してるんだよ。

人間はひとつのコロニーの形成って言ってるけど何か違うんだよね。

あれはあれで宇宙なんだ。完璧なんだよ。 

蟻が歩く基本は六角形なんだ。

それを意識して歩くからどんなに遠く巣から離れても帰れるんだよ。 

たまに間違って他の巣に入ると、すぐ仲良くなってそっちの
巣で世話になるんだよ。面白いね」 

ミルキーは「私は蟻嫌いなの。あの匂いは鼻が痛くなるのよ。
ちゃんと手を洗ってから私に触ってね・・・」 

いつもこんな調子で二人はコンタクトをとっていた。


 ある時ミルキーが「ヤスマサ、少しは世の為になる発明や発見でもしたら?」 
ミルキーに尻を叩かれるこの光景は日常茶飯事。 

「もう考えたよ。後は実験だけなんだ」 

「・・・・どんなもの?」 

「原子振動装置だよ」

「??何に、それは?」 

「細胞を振動させたら発熱してしまう装置を電子レンジって云うでしょ。 
僕の発明は原子だけを振動させるんだ。 
結果、その物体は次元を越えて半透明になってしまうんだ。 
家の壁は荒い構造体だから壁も通り抜けちゃうんだよどう? 
理論的にはそれを繰り返すと身体の癌だって治っちゃうよ・・・」

「その発明はダメね」 

「何んでさ・・・?」 

「そんなのが世の中に広まったら死ぬ人がいなくなっちゃうでしょ。 
地球に人が溢れちゃうわ」

「そっか・・・そこまで考えなかったよ。さすがミルキーだね・・・」 

「そんな発明しなくていいから私の好きな美味しいジャーキーを空気と
水で作る装置でも考えて!」

「ハイ」

こんな調子で日の目を見ない大発明が過去に幾つも存在した。


ヤスマサとミルキーが公園を散歩していた時だった。 

公園の上空に葉巻型のUFOが浮かんでいた。 

「ヤスマサ、上を見て。あの白いのは・・・?」 

「あれはねえ、UFOと言って宇宙人の乗り物だよ」 

「静かだねぇ。どうやって飛んでるの?」 

「地球の乗り物でないから解らないよ」 

「あれ便利そうね。ヤスマサは作れないわけ・・・?」 

「原理さえ解れば作れると思うけど・・・作ってみようかな」 

「賛成!これからはそういう発明しなさい」

「はい!」

ヤスマサは何日も研究室に入り浸りだった。 

ミルキーも半ば心配になり始めた頃だった。

「解った!」部屋の中から声がした。

憔悴しきったヤスマサが研究室から出て来た「ミルキーやったよ。僕やった」 
そう言いながら倒れ込んでしまった。 

極度の過労である。 

目が覚めたヤスマサはミルキーに「これ見て」と言いながら
テニスボール大の物体を取り出し、放り投げたと思った瞬間、
空中でホバーリングして浮かんでいた。 

ミルキーが「オメデトウ!これ乗れるの?」 

「うん、乗れる大きさにしたら可能だよ。でもこの大きさだと無理だね。 
人間が乗れる大きさにするにはもっと予算が必要だから・・・個人では無理」

ヤスマサの携帯が鳴った「はい!あっ父さん?・・・」 

顔色が変わりすぐに携帯を切り宙を仰いだ。 

ミルキーが「ヤスマサどうしたの?何かあった?」心配そうに尋ねた。

「母さんが急に倒れて病院に運ばれたんだ、意識不明みたい。 
ミルキー、僕どうしよう?ねえ・・・」 

ヤスマサはうろたえていた「しっかりしなさい。すぐ病院に行きなさい」 

「うん、解った。僕行くね」
 
父とヤスマサが医師から、母の病状は脳梗塞と診断され、5日間は脳が
腫れる可能性が考えられるから危篤状態と告げられた。 

死んだ脳は再生しない為、今後は後遺症も考えられるという診断だった。

それから数日が過ぎ母の意識は戻ったがヤスマサの知る母とは何かが違う気がした。

ヤスマサはミルキーにそのことを説明をした。

ミルキーは「前に作った原子振動装置を工夫して何とかならない?」

ヤスマサの目が光った。即その装置を持って部屋に籠ってしまった。
部屋から出て来たのは5日後の朝だった。

ミルキーが心配そうに尋ねた「ヤスマサどうだったの?」 

「ミルキー、出来たと思うけど何かに試さないと解らない・・・」

「どうやって試したらいいの?」ミルキーは聞いた。 

「まず悪いヶ所周辺にこっちの赤い光を当てて細胞ごと分解するんだ。 
そして今度はこの青い光をもう一度照射したら他の健康な細胞と同調し、
死んだ細胞の再生が始まり完了する仕組みなんだけど・・・」 

ミルキーは意を決しヤスマサに言った「私は12歳なのね。
最近、足腰が弱ってるの。私で試せないかい・・・?」 

「それ絶対イヤだよ!ミルキーに何かあったら僕、生きていけないから」

「ヤスマサ、いいかい。しょせん犬と人間は寿命が違うの。
私はもう12歳のお婆ちゃん。あんたより必ず先に死ぬんだからね。 
ヤスマサの役に立てるのなら命は惜しまない。
ましてお母さんの一大事だもの・・・ヤスマサわかって・・・
人間とは構造が違うけど同じ動物だもの。私で試しなさい!解った?」

ミルキーは涙をためながら強い口調で言った。 

そしてミルキーが地権者となり、装置の光の照射が始まり30分経過した。
ミルキーはヨロヨロしながら起き上がった。

「ねえミルキーどう?痛いところ無い?ちょっと歩いてみて?」 

ミルキーはゆっくりと歩きヤスマサを見上げて「全然痛くないし、何となく 
前より快調かも・・・これならいけると思う。やったね!ヤスマサ!」 

「後遺症だとかはこの先解らないけど、基本的には自分の細胞での再生だから
大丈夫だと思うよ・・・」

それから一月後。普段と変わらない母の姿が台所にあった。 

その経緯を知るのはヤスマサとミルキーだけだった。


母親の一件がありヤスマサは人間の身体にも興味を持ち始めた。 

ある時、いつもの閉じこもりから出て来たヤスマサは頭に妙な
ヘッドホン装置を装着していた。
 
「今度はなに?」ミルキーが聞いた 

「これはね、脳細胞の活性化を図り超能力を身につける装置なんだ。 
僕が試したら意識が地球を飛び越えたんだよ。それから僕の生まれる前の
人生や今度生まれる場所まで見えちゃったよ」 

ミルキーはじっと聞いていた。 

「人間の脳って殆どの部分が寝ているからそこを刺激して活性化して
あげると今言った事が起きるんだ。お坊さんは長年修行して悟りを得るけど、 
この装置を付けるとたった数分で悟った気分になれるよ。 

装置を外したら前と同じだから疑似悟りだけど危険性はないと思うよ。 
疑似であってもそう云う世界を薬や葉っぱに頼らないで垣間見れるのは
いいと思うけどミルキーどう?」

この頃からヤスマサの発想はミルキーの理解を超えてきた。


 「 ミルキー、これ見て!」 

ヤスマサは満面の笑みを浮かべていた。

「また何か作ったの?」 

「うん、やったよ。無重力装置だよ」

「無重力?つまりどういう事?」

「前から宇宙線の力に着目してたんだ。宇宙エネルギーは宇宙から地球に
降り注いでいるんだ。しかも無尽蔵に。 

それを地球で使えるエネルギーに変換出来たらいいなと思ったんだ。

そしてその変換装置を作っていたんだ。でも殆ど失敗続きで半分諦めてた。 
ちょうど先週の今日、寝不足も重なって疲れたから一服しようとクエン酸
ジュースを作ろうと思い、クリスタルコップを洗おうと手に取ろうとしたら
間違って足下にあったチタンの粉に落としたんだ。 

そしたらコップに入っていた何かの物質が反応して、そのコップが変な
動きをしたんだ。おやっ?と思い、そこから又、研究が始まって、
今日これが完成したんだ」 

唐突に机の上にあった鉄球を乳白色の容器に入れ、ミルキーめがけて放り投げた。 

その物体は放物線を描き、軽いパルス音を出してミルキーの手前で
ホバーリングして静止した。 
 

「ミルキー、これが無重力装置だよ。計算ではこの大きさでエジプトの
ピラミッドを一週間もあれば作れると思うよ。但し、設計と石切りは別だけどね」

ヤスマサの能力に拍車が掛かった。 

さすがのミルキーもつき合いきれず、空返事が多くなってきた。

「ミルキー、聞いて。僕、昨日ねえ。熱の対流力学を研究したんだよ。
今年の夏前に天然の冷房装置を作ってあげるね。 

地熱の温度は特殊地帯とかは別にして季節や地域に関係なく15度なんだ、
それを上手く利用すれば夏は冷房に、冬は暖房の補助に使えるんだ・・・ 

道路の雪だって工夫次第で溶かせるよ。

あと部屋の芳香剤だって格安で作れちゃうよ。使うのは高分子吸収体と香水だけ。 
ミルキーのトイレシートを使うんだよ。 

あとは遮熱断熱塗料とか湿度取り剤とかシリコンのコーティング剤なんて
格安で簡単に作れちゃうよ。 

理屈が解れば結構化学も面白いよ。 

今、僕が考えてるのは宇宙線を利用した発電装置で、それを一家に一台
設置すれば電力会社から電気を買う必要無いんだ。 
究極の自家発電装置なんだよ。 良いと思わない?・・ねえ、ミルキー!
・・・・・・聞いてるの?・・・・」

最近の二人はこんな調子だった。

母親から電話で「ヤスマサ、お父さんが夕べ飲み過ぎたみたいで、
二日酔いがひどいのよね。速攻で効く方法ある?」 

「水だよ」 

「昨日寝る前にシジミの味噌汁を沢山飲んでたのよ。今朝もだけど・・・」 

「母さん、それ逆効果だよ!血液の水分より濃いものは反対に血液の水分を
奪うんだ。だから酒を飲み過ぎた朝は喉が渇く。味噌汁は液体だけど水分
じゃないから逆効果だよ。水や体液に近いスポーツドリンクを沢山飲ませて
尿を沢山出させてよ。それしかない。二日酔いはくれぐれも濃い飲み物は
控えてね。利尿作用を高める物が良いね、水や番茶のようなもの」

そばで聞いていたミルキーは「そんな事まで知ってるの?」ヤスマサに聞いた。

「これも化学の知識なんだよね。例えば寒暖の差もそうなんだ。 
流体力学なんだけど、液体や空気なんかは暖かい方から冷たい方へ移動。
液体は濃い方から薄い方へ移動して調和を保とうとするんだ。 
暖かい方は上で冷たい方が下で中間が飽和状態なんだ。

そしてその寒暖の差でエネルギーが生じ自然界では風という現象。 
我々は化学や物理学を知らず知らず上手に使いこなして生活してるんだね。
 
自然界は調和をしようとする本能があると思うんだ。 
自分が自分がって主張するけど他人の事も考えてやると調和が取れていいのにね。 
調和の取れた状態って平和だと思うけど・・・ねえミルキー聞いてる??」

その頃になるとミルキーはヤスマサの言ってることがわからなくなり、
遠い存在に思えてきた。

この頃からミルキーは寝る時間が増え、ヤスマサとの会話も少なくなり、
ミルキー13歳の春他界した。
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