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【TEIZI】全9-5


5.「貞治のタイムマシン」

 「カズノリ、お~~い、カズノリ」

「はい、貞治社長。何か?」

「貞治は付け無くて良い。何回言えば解るんだ?」

「すいません・・・社長」

「それは良いけど、昨日お前に頼んだ家庭用ヘルシーバイクの組立は
どこまで進んだ?」

「もう出来てますよ」

「どこだ?おまえ、また嘘ついたな・・・この会社辞めるか?」

「貞治社長、僕、ウソ付いてません・・・」

カズノリは村瀬研究所所長、村瀬貞治の同級生だった。

「何処にあるんだ?」

「ほら、そこに・・??あれれ???昨日、確かにここに置いて
帰りましたけど?」

「どこにある?」

「いやだなあ社長・・俺を騙そうとしてる?それとも、
自分で片付けたの忘れました?」

「カズノリ!」

「はい!」

「おめぇ・・・クビだ!」

「社長、冗談はよしこさんですよ」

「誰がお前に冗談言わねえとなんねぇだ?」

「ですよね???」


 二人は工場の隅々まで捜したが見つからない。

貞治が床の傷と歪みを発見した。

「おい、ここに置いたって言ったよな?」

「はい、その辺です。そこに4つの傷があるでしょ?そこです、
間違いありません」

カズノリがその場に近づくと軽いモーター音がした。

次の瞬間だった。探していた家庭用ヘルシーバイクらしきシルエットが
突然なにも無い空間から浮かび上がってきた。そして徐々に輪郭が
ハッキリして、そのヘルシーバイクが姿を表わした。

二人は呆然と立ちつくしていた。

「カズノリあんちゃん、お前なにやった?この機械に何か細工したのか?」

「そういえば昨日の帰り際、家庭用ヘルシーバイクから変なモーター音が
したから・・・」急視線を上に向けた。


「したからどうした?」

「したから・・・200ボルトの電流を流してやりました。貞治社長、
すいません。すいません。どうかクビだけは勘弁して下さい!」

貞治は家庭用ヘルシーバイクをくまなく調べた。

「解った。その代わりお前、このバイクに乗れ!」

「乗りますけど、電気流さないで下さいよ」

「ああ、流さないから。とっとと乗れ!」

貞治は下を向き不気味な笑みを浮かべた。


 「約束ですよ」

「ああ、解ってる」

カズノリがヘルシーバイクにまたがった瞬間、貞治は剥き身の200ボルトの
配線をバイクの金属部に当てた。

瞬間、カズノリが悲鳴を上げた。

「嗚呼!!!・・・て・い・じ・てめぇ、このやろ・・・・」

と同時にさっきと同じモーター音がして、そしてカズノリはバイクごと
影が薄くなり消えた。

「消えた・・・???」貞治は小さな声で呟いた。


 カズノリは意識が遠くなった・・・

そして、気が付くと景色が変わっていた。

あれ?さっきは作業場だったのに・・・ここは?・・・どこだ?

空き地のど真ん中でヘルシーバイクに乗っていた。

どこだここは??なんか古そうな町並みだな?

バイクから降り、町を眺めた瞬間、カズノリは息を飲んだ。

なんか知ってる・・・この町に見覚えがある??

あっ!

これって貞治と6年間通った小学校?ずいぶん新しく見える。

でも、もう取り壊して存在しないはずなのに??

あっ、あの車はコルト1000だ、しかも新車?

ここはいったい?

もう一度ゆっくり辺りを見渡した。そこへ通りを歩いてくる丸刈りの
小学生がいたので声を掛けてみた。

「ぼく、ここは何ていう町なの?」

「ええ??ここ知らないの?吉祥寺だよ」

「今、何年?」

「何が?」

「西暦だよ」

「西暦か・・・1957年だよ。そんなことも知らないの?おじさんなんか?
・・・どっから来たのさ?」

「いや、いいんだ。ありがとうね」

なんだ?これって昭和にタイムスリップしたのか?

しかも生まれる前・・・だから小学校がまだ新しかったんだ。

だんだん不安になってきた。

どうやって元に帰る?

とりあえず、ヘルシーバイクに乗ってみた。

なにも変わらない・・・

ライト用のダイナモを回してみる。

回し始めて数十秒後、急にあのモーター音がした。

同じ音だと思った次の瞬間、目の前に貞治社長が立っていた。

「おう、戻ったか!で、どうだった?」

「あっ、社長!俺、戻ったんですね。これ凄いですよ・・・
歴史が変わりますよ!」

「どう変わると?」

「知りたい?」

「もったいぶるな!カズノリてめぇ・・」

「あれ?俺がバイクに乗った途端、電気通したのは??誰だったか
覚えているのかなあ~~?しかも200ボルトの・・」

「あっ、あれは手が滑ったんだ。すまない・・」

「手が・・・滑った???あの離れた位置にある電線が手が
滑ってここにある???」

「カズノリ・・・ゴメン・・・ゴメンなさい」

「おう、今度は素直だね・・貞治さん」

「もう、俺が悪かった。給与上げるからひとつ」

「解った、じゃあ説明するよ。これはとんでもない機械だよ。
気が付いたら別の世界にいたんだ。

たぶんこの工場が出来る前で、ここは原っぱだった。

しかも1957年で、そばにあった小学校も全然、新しいままだった。
俺たちの生まれた昭和32年なんだ。そこに通う小学生とも話ししたよ。
年数はその子から聞いたんだけどね。これは、とんでもない発明だよ!」

「そっか・・・俺も体験しようかな。どう思う?」

「うん、まだ全然解らないけど、ライトのダイナモを回してみたら戻ってきたよ」

「そっか、解った。俺もやってみるよ」

そう言って貞治はヘルシーバイクをこいでみた。

しばらくこいだが何もかわらない。するといきなりカズノリが
200ボルトの線を鉄部に当てた。

その瞬間、例のモーター音が聞こえてきて貞治は消えた。


意識が戻った貞治はヘルシーバイクを物陰に隠し一目散で走り出した。

足を止めた場所は井の頭公園の外れにある一軒家の前。

そこに洗濯物を干している女性の姿があった。

瞬間、貞治の眼から急に涙が溢れてきた。

視線の先にあったのは若い頃の母親シゲミだった。

シゲミは貞治が中学校に入った年、交通事故で他界していた。

気持ちを静めた貞治は、母親の方に向かって歩き出した。

「あのう~~すいませんが、この辺で村瀬さんのお宅、知りませんか?」

「村瀬ならうちですけど?」

懐かしい母の声。また涙が出そうになったのを必死にこらえた。

「ご主人は何時頃、お帰りになりますか?」

「だいたい6時半頃には帰りますけど・・・。どちら様ですか?」

「はい、御主人のケンエイさんの知人で、久慈カズノリと申します。
じゃあ、6時15分頃、駅で待ってれば会えますね?」咄嗟に名前を偽った。

「はい、その頃には・・」

「じゃあ、そうさせてもらいます」

シゲミは主人の知人にしては、珍しく年配だと感じた。
と同時に不思議な親近感も感じていた。

貞治は父の帰宅まであと9時間あるので、いったん元の世界に戻った。

工場に戻った貞治は、今晩いかにして父親に自分を認めさせようか考えた。

父のケンエイは中学校の教師で堅物な性格。

「なあ、カズノリ。俺、今日の夕方6時頃、母親の件で父親に会おうと思うんだ。
知ってると思うけど母親は13年後、事故死した。それを父親に知らせたいと思う。
だけど、どうやれば信用するかなって考えてるんだけど・・・」

貞治は珍しく真剣にカズノリに相談した。

「貞治、気持ちは解るけど、それって歴史を変えることにならないの?」

「うん、少なくとも我が家の歴史とその取り巻きは一変するだろうな」

「もしかしたら貞治だって、この会社立ちあげるかどうか解らないしょ?」

「それは云えるけど・・・母親が生きていてくれるならこんな会社無くたって構わないよ」

「お母さんの死まで、まだ13年あるよね。この装置を上手く操作出来るようになったら、
お母さんが亡くなる1日前でも事故は回避できるって事だよね」

「つまり何が言いたいわけ?」

「この機械を時空設定可能に出来るようにすれば、事故直前に行って
回避出来るよね。最悪まだ13年あるんだから、そっちを考えない?

もしそれが可能になったら世界は変わるよね。この村瀬研究所から
世界が変わるんだ・・・どう?」

「お前、たまには良いこと言うな」

結局その日は父親に会わずに終わった。


 二人は翌日から装置の開発に没頭した。

完成までに10年の月日が流れ、そしてついに実行の時を迎えた。

「貞治、10年前にも言ったけど、歴史が変わるかも知れないよ。
心して頑張ってほしい・・・じゃあな」

貞治は手を振って微笑んだ。

次の瞬間、事故当日にタイムスリップした。

事故直前だった。井の頭街道に貞治は立っていた。

事故の予定時刻10分前、貞治は母親に声を掛けた。

「お母さん、僕は未来から来ました。もうすぐここにダンプカーが
飛び込んできます。危ないのでこのまま帰宅しませんか?」

「誰ですか?貴男は何を云ってるの?全くお話しになりません。
失礼します」

貞治はこう来るだろうと読んでいた。

「私は未来から来た貴女の息子、貞治です。父はケンエイ、中学校の先生です。

3人暮らし。貴女の父はミノル、母はアケミ。貴女のすぐ上の優しいお姉さんは
結核で早くに他界しました」

母親は貞治の言葉を遮った。

「それがどうかなさいました?そんなこと、私の履歴を見れば
簡単に解ること。いったい何が目的ですか?」ムッとした声だった。

これも想定内・・と貞治は思った。

「じゃあ、最期にします。僕が来た世界では、貴女の死後、
タンスの中から一遍の詩が出て来ました。花という詩です。

貴女の故郷、小樽の海岸に咲くハマナスをテーマにした詩です。
高校時代に書いたお気に入りの詩のようです。詩の最期には美鈴と書いてありました。
父に聞いたら貴女のペンネームだと聞かされました」

母親は貞治の言葉を止めた。

目には涙が滲んでいた。

「解りました。お前は本当に貞治なのかい??。今、年はいくつになるの?」

貞治は涙ぐんで言った「56歳・・・」

「良い人生を歩んでいるのかい?」

「うん・・おかげさまで・・・」

「家族は?」

「妻と2男1女の子供の5人家族だよ。孫は2人、もうすぐ1人増えるんだ」

「そうかい、幸せなのかい?」

「うん・・・」話しながら昔に戻っている自分がいた。

「それは良かった。未来のお父さんは元気なのかい?」
母親も大粒の涙をためながら言った。

「うん、元気だよ。今だ、ひとり身なんだ。母さん以上の人出てこないみたいだよ」

「お前がここに来るということは、何にも聞かされてないということなのね・・・」

「??えっ、なにが??意味が解らないけど?」

「私はもうこの世から去る運命なの。たとえお前がその事故から私を
救ったとしても、私の寿命が尽きる時がもう目の前まできてるのよ。

そう、私は末期の癌で医者のいう余命を過ぎてしまってるの。
未来では癌の特効薬はあるのかい?」

「・・・・まだ」

「いっとき延命しても結果は大きく変わらないのね。そうかい、父さんから
聞かされてなかったのかい・・・

父さんを宜しくね。今日はありがとう。

最後の最後に、お前の成長した姿をこの目で拝めたんだから母さんは幸せ。
ありがとうね貞治。

歴史を変えたら駄目よ世界はこれでも上手く廻ってるの」

数分後、救急車の音が吉祥寺の町に響いていた。


 貞治はその後、塞ぎ込む事が多くなった。

「社長、元気出していきましょうよ」

「なぁ、カズノリ。この装置、解体しようかと思うんだけど」

「えっ、長年の労力をフイにするの・・・?どうして?」

「母さんの『歴史を変えたら駄目よ、これでも世界は上手く廻ってるのよ』って
いう言葉の意味が気になるんだ」

「僕も最近、考えてたことあるんだ。神は人間に必要なものは全て
与えてるってね。時間もそのひとつかと思う。

だから、必要以上のものは逆に害になるかもって?
原子力のようなものは、害になるかも知れないってね」

「カズノリ、お前は何十年に1回良いこと云うな。この装置を設計図ごと
破棄しようや・・・長年手伝ってもらったのにごめんなカズ・・・」

「うんいいよ、好い経験させてもらったし・・・破棄賛成」

大発明タイムマシンは日の目を見ないまま破棄された。

だがその後、二人は未来への移動装置を考えていた。

懲りもせず・・・

END


渡辺敏郎は4編の短編小説を一気に書き上げた。

そこへもうひとりの僕が突然やってきた。

「やぁ!小説、書けたかい?」

「あっビックリした!本当に来たんだね?」

「冗談だと思ったのかい?」

「そんなことはないけど・・・最初はパラレルを意識して書いたけど、
途中でどれがパラレルなのか解らなくなってしまったよ」

「君から出た君の物語は全部、僕達のパラレル・セルフだよ。
僕達の中に無いものは創造できない。だから書けない」

「そういうものなの?」

「そういうもの!但し、デタラメは別」

「パラレルの仕組み、簡単に教えてくれる?」

「前にも言ったけど、パラレルは平行。ワールドは世界or宇宙。 
セルフは自分。つまり同時進行する別宇宙の中の地球や自分。

もっと簡単に言うと、無数の隣り合わせの世界の自分。

自分は宇宙なんだ。その宇宙の中には無数の世界が存在しそのどれにも自分がいる。
似てはいるが確実に別物なんだ。同じ自分は万に一つも存在しない。

だから、今のこの自分が一番大事な存在なんだよ」

「その数は?」

「無限」

「じゃあ、ここにいる君もその地球から来たのかい?」

「そういうこと」

「じゃあ絵描きの僕も居るのかなあ?」

「当然、存在する」

「なんで解るの?」

「君が思うことは偶然だと思うかい」

「言ってる意味が解らないけど?」

「頭にあるものは、形になるんだ。君は、警察官の自分を思い浮かべたことある?」

「警察官は無いけど」

「僕らのパラレルに警察官はたぶん存在しないからね。
だから、想像すらしないと思うよ。

なんで君や僕が小説を書くか・・・という事なんだけど、創造の訓練でもあるのさ」

「創造の訓練?・・・つまりどういう事?」

「僕達はトータルした制限の中で活動しているのさ。社会・地域・家庭・そして自分。
それらには勝手なルールと言うか取り決めがあって自然と従ってるのさ。

身体だってだんだん老いていくだろう?本来は好きなだけ生きて
かまわないんだ。近年では寿命は80歳以上とされてるよね?
でもひと昔前は寿命50年とも云われていたんだ。どこが違うと思う?」

「医療の進歩や食生活?」

「それも一理ある、でも字のごとく一理ね。集団意識の違いなのさ。
皆が寿命意識を80歳以上に引揚げたからその位は生きるという意識が
当前働くんだ。もしそれが120歳だとしたらその位までは生きられるよ。
この肉体もその意識に従うからね。

極端な話し、ある集団がこの人間社会から完璧に離れ何処かの山の中か
ジャングルで生活すると仮定する。

現代の人間の作ったルールなんて全く関係なく生活するんだ。
当然、寿命という言葉も無い。そうすると病気や死の概念も変わる。
結果、年齢は300歳・・だってありえるんだ。

これは近年、紹介されたんだけど、ヒマラヤに住むある
修行僧集団がいるんだ。裸で雪の中に寝る場面が紹介されたんだ。

たぶん、どんな医者に聞いても首を傾げると思うよ。
そんなの不可能とね。一笑されておしまう。

でも彼ら修行僧は知ってるんだ。雪の中でも裸で暮すことは可能なんだってことをね。

出来るという肯定した意識が働くから本当に出来ちゃう。我々現代人は制限に
縛られてるのさ、無意識に。それが今、変わろうとしてる。地球ごとそっくりね。

またひとつのパラレル・ワールドが作られるよ。
話し戻すけど、君の書く小説はSFファンタジーが多くないかい?」

「ああ、よく解るね。そう言われたらそうなんだ・・・」

「僕もそうだからね」

「なんで・・・?」

「創造の訓練をしてるんだ。固定観念に縛られない自由な発想を。
まっ、そういう事だからこれからも創造し続けなよ。
書くということは創造が形になる前の第一歩だからね。
僕達はいや、人類は絶えず創造し続けるんだ、永遠に永遠に」

そう言い終え、もうひとりの敏郎は消えた。
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