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【Eve(エバ)】全9話-4

4【ミナト電機-Ⅲ(リアルビジョン)】

 ミナトはメモリービジョンの製造販売自粛を呼びかけた頃から
頭にもうひとつの構想があった。リアルビジョンの開発であった。

リアルビジョンとはその名の通りリアルなビジョンの再生装置
という意味だった。

ヘッドホンに画像再生のメガネが付いた装置で画像は約100インチ大
映画の迫力があり、DVDデッキの出力端子に差し込むだけの簡単操作。

ここまではパナソニー電機の商品と同じ仕組みだが、ミナトが考えた装置は、
リアルさがまったく違うのであった。

どう違うのかというとパナソニー電機の商品はビジョンを見る。
つまり、映画やテレビを視聴するという単なる2次元的な装置。

ミナトが開発したのは3次元感覚の装置だった。

風景映像を見ると、自分が実際にその場で体験しているような錯覚を
リアルビジョンで体感させるというものだった。

簡単に言うと睡眠中の夢と同じ臨場感をあじわえるという装置で、
従来のタイプが平面で、リアルビジョンは立体の違いだった。

リアルビジョンで映画を見ると自分がその場面に完全に入り込むことが可能になる。

当然、自分の存在や言葉意思は相手には繋がらないので、あくまでも傍観者にすぎない。

パナソニー電機との大きな違いは、画面上の一部分に視点を集中すると
その場面が全体像からクローズアップされるところが特徴。

例によって山田社長が呼び出された。会社に来る時に簡単な映像の入った
DVDなりビデオを持参して欲しいとのことだった。

山田はミナト社長の発明に期待してやってきた。

「ミナト社長こんにちは・・・今度は何の開発をなさったんですか?
一応、支持どおりDVD持参しました」

「山田くん、今回のも面白いと思うんだが、説明は後に、とりあえず見てみる?」

「はい、見ます」

山田の好きなサイモン&ガーファンクルのコンサートDVDと映画
スターウォーズのDVDを手渡した。

リアルビジョンが接続されサイモン&ガーファンクルのDVDが再生された。

山田は、最初はじっと静かだったが段々と身体をゆすりはじめ、
次第にノリノリの様子になった。

ミナトは途中で停止ボタンを押した。

山田は不満そうな表情で云った「何で、辞めるんですか?これから明日に
架ける橋だったのに・・・」

「いや、すまんすまん。僕にとっては暇なもんだから・・・」

2人は目を合わせて笑った。

「ミナト社長これは凄い・・・、まるでサイモン&ガーファンクルの
コンサートをその場で見ているようでした。

サイモンに集中するとサイモンだけがクローズアップされるんですね。
これは凄い。ところでスターウォーズ見て良いですか?」

山田はミナトの顔を視て「途中で止めます?」

「うん、止める。僕が退屈だから・・・」

途中で止めることなく最後まで見終わった。

「ミナト社長これは画期的ですね。前作のメモリービジョンといい、
素晴らしい発想です。で、今度の??商品名は?」

「リアルビジョンにしようかと思ってる」

「そうですか。このリアルビジョンといいミナト社長の発想は
藤子不二雄のドラえもんみたいですね。いやぁ!ビックリです」

「そうか、気に入ってもらえたようだね」

「リアルビジョン発売の前に君に相談したいことがあるんだ」

「・・・何ですか?」

「僕が懸念してるのが、前のメモリービジョンのような負の効果だ。それを一緒に考えたい。

前の場合は死んだ娘が忘れられず、メモリービジョン依存症に
なったご婦人がいたんだよね。

それで途中自粛したんだけど。このリアルビジョンはどうかな?」

「そうですねぇ、どちらも依存してしまうと一緒だと思うんですけど、
でもそれ云うとゲーム機だって同じこと言えると思うんです。

こちらは、リアルな臨場感を楽しむ・・・ということで僕は支障ないと思います。
特に環境DVDなど、良い景色を実感するのは精神上とっても良いと思いますし、
身体の不自由な老人や障害者なんかは、このリアルビジョンで旅に行った気分に
なれて、精神的にも良い製品だと思うのですが。

僕なら、妻と新婚旅行でヨーロッパ旅行に行った気分をもう一度味わい
たいですよ。DVDとリアルビジョンがあったら可能なんですから僕は絶対、
肯定派にまわりますね。

感じ方の違いですから、否定したらきりがないと思います」


「そっか、山田くんにそう言ってもらえると自信が湧くよ。
ありがとう。一番最初の製品は君にプレゼントさせてもらうよ」

その2ヶ月後には電気屋で発売され、瞬く間に世界のヒット商品になった。

この商品を映画の世界に活かしたいとのことで、映画館造り専門の工事会社
から商品開発の依頼も入ってきた。

ミナト社長はリアルビジョンの基本があるので、リアルビジョン再生機の
劇場用開発の時間は要しなかった。但し、映倫との取り決めでホラーと
過激暴力等の映画は劇場で使用しないという条件付だった。

自宅のDVDのホラーは自己責任ということになっていた。

この商品も、医療の分野でリラクゼーション効果のある映像を利用した、
医療の新分野を構築しようとしていた。

リアルビジョンを切っ掛けに世界は映像の分野で画期的な躍進をとげた。

そして、リアルビジョンが世に出て半年の月日が流れた。
ミナト社長のもとに手紙が届いた。

リアルビジョン開発者様

リアルビジョンで夢の世界、あるいは次元を越えた世界を映像で視ることは
出来ないのでしょうか?

夢は人間が視るものつまり人間の大脳の視覚野が関係してます。

夢を記憶している脳の部位に働きかけて、夢の再現もしくは目が醒めてる
状態で意識の視点を夢の中に置くことは出来ないものでしょうか?

というのも私は長年にわたり同じ夢に怯えております。

今度同じ夢を視た時は、その悪夢に立ち向かおうと思っております。

でも、実際にその夢を視た時は逃げようとする自分がおります。

夢の中とはいえ自分の情けなさでいっぱいです。

もし、起きてるてる状態でその夢を再現出来たら、悪夢と闘いそして
克服できると信じております。

なんとかリアルビジョンを改良できないものでしょうか?

私のように夢で悩んでいる人は多くいるはずです、是非、リアルビジョン
の改良開発お願いできないものかとお便りいたします。

            川田みより


手紙を読んだミナト社長の技術屋魂に火が付いたと思ったが、今の段階では無理と感じた。

脳の世界は未知の領域が非常に多く、今だ医者でさえ不明の分野が多すぎる。
その一つが夢であった。

夢を視る脳の部位は解明できても夢を視る仕組みはさっぱり解らない。

予知夢や行った経験のない場所を視る人も多くいる。

それが何処から来るのかはっきりした解明がなされていない。

いくらミナトでも未知の領域は素人同然だった。


 そして、その手紙の事を忘れ半年が過ぎた。

昨夜遅くまで研究室に籠って働いていたミナトが夢でうなされ起きた。

夢の中で執ように見知らぬ男に追われるミナトがいた。

恐怖で足がすくみ、身動きできない自分がいたのだった。

夢から覚めたミナトはその瞬間半年前の手紙を思い出した。

朝食後、早めに研究室に入り、机の中からもう一度あの手紙を出して読んだ。

「なんとかするか・・・」ミナトは呟いた。

例によって研究室に籠った。まともな食事もとらず3週間が過ぎようとした。

研究室から大きな声が上がった。

「駄目だ!~~~~」

現段階で次元越えは無理と結論が出たのであった。

ミナトは初めて挫折感を味わった。

END
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