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【Hisae】全8話-5

5「大工の棟梁リンさん」

PCにメールが届いていた。

Hisaeへの問い合わせであった。

初めまして私は60歳になる普通の主婦です。

私の主人は長年建築の仕事を営んできましたが、
今年で引退すると言い始めました。

私が「まだ60歳なんだから辞めるのは早いのでは?」と言ったところ
「住宅をいじるのはもう飽きた」との応えでした。

私は黙って受け入れました。

でも、主人が現役中に話したことを、私は解らないながらもずっと
聞いてきました。

私は「建築って面白い・・」と思いながら聞いてまいりました。

その主人の話を何らかの形にして置きたいと思っていた所に
Hisaeさんのブログを拝見しました。

私は「主人の話を形に出来るのはこれだ!」と思いHisaeさんに
メールした次第です。


制作してほしい内容は、長年主人から聞き覚えてきた「大工の裏話」
的な話を一冊の本にまとめて欲しく思います。

口べたで人付き合いの下手な主人に、最後の仕事から帰っていつものように
風呂に入りそして晩酌という時、食卓に「長年ご苦労様でした」とメモを
添えて本を置いておきたいのです。

私の心ばかりのプレゼントをしたいと思いHisae様にメールしました。

是非、お考え下さいませ。  林 奈美



大工さんか?・・奥さんから仕事のエピソードをもらえるなら引き受けるか。

Hisaeは承諾メールを返信した。


奈美さんからメールが入った。

早速の返信ありがとうございます。

主人の最後の現場があと一ヶ月程で完工だそうです。

仕事の内容は・・・・

以上、私が主人から聞いた事をまとめてみました。

解らない事がありましたら遠慮なくメールして下さいませ。  林 奈美


Hisaeは構想を練った。

建築関係は初めてだった。

まして、送られた内容が非常にリアルだったので気を引きしめた。


あらすじ

これは、大工の棟梁、リンさんの物語。

リンさんは無骨だが仕事に関しては実直で堅い性格。

昭和を絵に描いたような頑固一徹の大工さんだった。

その背景にはいつも「小森の棟梁」という師匠の教訓があった。

ある時は、ただ同然で請負い奥さんを困らせることも。
人助けと自腹を切ってまで手がけた仕事など、など。
損得よりも、自分の心に従った仕事をする。
そんなリンさんの物語。

そんな彼を知る人は皆親しみを込めてりんさんと呼んだ。

これから始まる物語はそんな大工の棟梁リンさんの半生にスポットを
当ててみました。




ここは、札幌市内の住宅地にある一戸建ての現場。

「リンさん、すまんけど・・」

「なんだい!岩さん」

「この床のレベル出してくんねえか?」

「あいよっ」

リンさんは腰袋からスケールを取り出し計測をし、
水平機を当てレベル出しをした。

「リンさん、ありがとうよ。相変らず速くて正確だね。
やっぱ、リンさんの仕事は気持ちいいねぇ」

「馬鹿云うな。こんなもん誰だって出来らあな。俺の若い頃は水管で
叩き込まれたもんだ」

リンさんの脳裏に、遠い昔の想い出が過ぎった。



「おい、ハヤシ(リンさんの本名)」

「へい・・」

「ヘイじゃねえよ、ハイだろうが」

「ヘイ、すいません」

「またヘイ・・・。おめえは何度教えても解かんねえ奴だなあ」

「あっ、すみません」

「今日は、おめえにレベルの採り方教えるからしっかり憶えろや!
いいか、1回しか教えねえぞ。耳の穴かっぽじって聞くんだぞ。
その前にバケツ半分位い水入れもっててこいや」

「はい」

リンさん、18歳の事だった。

大工さんの下の立場を「手元」と呼んだ。リンさんがまだ手元の頃。

「解ったか?」

「ハイ、でもなんで水管、使うんですか?」

「地球の重力は一定なんだ。この管の水の先端の位置とバケツの水位は
同じ高さになるんだ。その先端の位置に印を付けておくと自ずからこの
印がガイド(基準)になる」

「何でも基準が必要なんだ。家を建てるんでも、人生だってそうだぜ。

自分がどうなりたいか基準ってえものがないと迷うことになるぞ。

人生の方向性の基準だ。あの広い海に出たって、
羅針盤ってのがあるから安心なんだ。

その昔は星の位置が基準だ。基準があるから自分を見失わない。
憶えておきな」

「へい」

小森棟梁の話は建築の事に例えて人生をも教えてくれた。

リンがもっとも尊敬し信頼する棟梁だった。


「リンさん、また宙に飛んでるぞ」仲間の大工達は笑った。

リンは考え出すと、手が止まる癖があった。

「リンさん、リンさん」

「あっ、また止まってたか?」

「止まってた・・今日は5分ほど」

大工仲間は全員、笑った。


リンが結婚したのは25歳。妻の奈美と知り合ったのは
大工仲間の紹介だった。

初めてのデートはススキノのディスコ「釈迦曼荼羅」だった。

リンの踊りは一風変わっていた。

金槌で釘を打つ格好やカンナがけの様子が踊りの中に入っていた。

奈美さんを楽しませた。

その後、交際を重ねて結婚した。

自分で工務店を独立したのは42歳の時だった。棟梁の小森が
亡くなったのを期に独立した。

決して順調な滑り出しではなかった。経費を払って終わり。
給与は無しという月もあった。


そういう月に限って、小森棟梁の話が思い出された。

「良いかリン、家の形を見たら、その家の主人の人柄が解るんだぜ」

「どういう事ですか?」

「単純明快な人が好む家は、凹凸が少なく四角形の単純形が多い。
複雑な形は、変梃なこだわりの多い人が好む」

「思い起こせばたしかにそうです」

「だろう」

「これは誰でも解ることだが家の廻りが整理されてない家、
手を掛けてない家は借家が多い」

「なるほどです」リンは納得した。

「家の廻りが整頓されていて、植木の手入れのしてある家は年寄りか
生活にゆとりのある人が多い」

「小森棟梁は分析力あるんですね」

「単なる経験だよ。おめえもそのうち解るよ」

「俺の見立てでは、全てに几帳面で家だけ乱雑ってな人間はいねえ」

「家庭も仕事も繋がってるぜ。リンも将来家を持ったら几帳面に
手入れしろよ。家はおめえを表わす」

「よく大工の家は汚いって云うけど、そういう奴らは本当の大工じゃねえ。
ぶっつけ大工てんだ。リンはそうなるなよ、憶えとけ」

「はい」

「どうせ、大工になるなら本物の大工になんな・・いいなリン。
経営や数字の為の大工になるなよ」

「まあ、どちらを選でもリンの勝手だがな」

小森の棟梁には色んな事を教わった。

「仕事に馴れるなよ!馴れはそれ以上にはなれねえ。
そこで止まってしまう。これで良しと思ったら、それまでだ」

「大工にも大きく2通りある。今が良ければ的な工事する大工と、
10年いや、その先を見越した工事をする大工がいる。

表向き一応どちらも大工だ。

どちらを選ぶんでも勝手だが、俺らは客の財産をいじってるんだ
忘れるなよ。財産は長く価値が変わらねえ、だから財産なんだ。

数年で変わるような物は財産とはいえねえ」


リンは技術以外のメンタルな教えにも共感していた。

言葉で言い尽くせない程色んな事をリンは小森から教わった。

自分の会社も小森棟梁に見習い経営したいと頑張ってきた。

ただ、小森棟梁には癖があった。

青森出身のため訛りが激しく聞き取れない言葉が多くあった。

「へだりにこれを打ち込め」

「???棟梁へだりってなんですか?」

「へだりはへだりだべ。右・へだりのへだりだべ」

「あっ・・・はい」

「リン釘っこさ、わんつかよこへ」

リンは頭の中で言葉を整理した「釘っこ。くぎだよな。わんつか??
わずか・・少し。つまり釘を少しよこせ・・・か」

リンは棟梁の言葉を頭の中で通訳するのだった。

リンが旅行で青森のねぶた祭りを見に行った時のこと。
青森弁を理解できる自分が不思議だった。


Hisaeはひと息ついた。

う~~~ん。

このままでは面白さが乏しいなぁ~~

なんの変哲もない、ただの生真面目リンさんの自叙伝だよな~~。

盛り上がりに欠けるよな~~~。

物わかりの良い、ただの大工の棟梁・・・。

浮気?倒産?建築ミス????特許????


Hisaeは奥さんからのメールに再度読み返した。

フムフム・・・

なるほどね。とりあえず今日は屁こいて寝よう。

Hisaeは翌日の昼まで寝ていた。

あ~~寝た寝た。

いつもならコーヒーを飲んでキーボードに向かうのが
日課だったが、今日はコーヒー抜きでPCの前に座った。



リンは「熱の力学」に注目した。

熱は暖かい方から冷たい方へ移動。暖かい熱は上で冷気は下。

地下は南極も赤道直下でも地球何処でも一定の15度。

これを効率よく利用出来たらエネルギー問題を多少緩和??か

雪は0度以上で融ける・・・道路の路盤を0度にするには・・

呼び水、呼び暖気??

解った。

これがあれば、農家の夏冬のハウス内の冷気や暖気問題が多少緩和されるはず。

製品は特許を申請し瞬く間に世に広がった。

「ハヤシ空調システム」が農家で話題になっていた。

本人が考える以上に反響を呼び瞬く間にハヤシ空調システムは、
農家に広まった。

特に冬場は、ビニールハウス内でストーブを点けっぱなしの花農家は
省エネと、開花の時期を調整できるとあって好評をよんだ。

その地域は南国でも好評価を得て瞬く間に全国へ広がった。
熱の逆作用だった

小銭が貯まったリンは60歳を迎え引退した。

残りの人生を愛車NOAHをキャンピングカーに改装し、
夫婦で全国の行脚の旅に出た。

リンさん62歳であった。
END


Hisaeはメールした。

さっそく製本し、この世で一冊の本「大工の棟梁リンさん」を送った。

早速メールが着た。

ありがとうございました。最後の仕事終いに間に合います。

私の感じていた通りの出来映えにビックリしてます。

主人に喜んでもらえると思います。

主人の顔が思い浮かばれます。

ありがとうございます。 林 奈美


間に合って良かった。

Hisaeはほっとした。

晃平のところでも髪切りに行こうかなあ?



END
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