【SANGA(神々の戦い)】全18-18

18、「最終章」

一輪の花


 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 泣きなさい、怒りなさい、
 愛しなさいと
 そう、ありのままに、ありのままに
 風は大気の汚れを吹き跳ばし
 雨は大地を洗う 
 涙は心を洗う
 そう、心が疲れたら泣こう
 涙で洗い流そう
 今が心から泣くとき、今が涙を流すとき  
 その涙で一輪の花を咲かせよう
 疲れたら花を見よう
 花はいつもそこにある
 そう、君の胸の中に


 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 空を飛ぶ小鳥をごらん
 森の木々を飛び回るリスをごらん
 みんな初めから自由なんだ
 だから彼らに自由という言葉はいらない
 だって自由が当たりまえだから
 君は苦しいと自分を縛り
 君は悲しいと自分を縛る
 小鳥と何が違うの?どこが違うの
 自由をもっと楽しもう
 誰にも止めることは出来ない
 だって、君は初めから自由だから


 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 君は、生きるのが不安だと云う
 人は生れ、そして死に
 君は不安という妄想に
 恋をしてしまったようだ
 おおいに恋をするのも良い
 おおいに恋を楽しんで
 一生懸命、 恋を生きて
 全身全霊で恋を味わって
 もし、疲れたときは戻っておいで
 きっと、一輪の花が癒してくれる
 そしてその花はこう言うんだ
 お帰りなさいと




 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 一輪の花を見たいと君は云う
 僕はいつだって咲いてるよ
 いつだって君と一緒
 何故そんな質問するんだい?
 僕は何処にも行かない
 後にも先にも僕は君と一緒
 淋しいこと聞かないで
 君は僕を困らせようとしてる?
 心を止めてほしい
 心の奥深いところ見て
 僕は小さく小さく咲いているよ
 君のための花
 僕の声を聞くことは簡単なこと
 だって、僕は君で君は僕だから


由美子が風輝を偲び曲を作り、摩耶の作詞による作品となった。

由美子にとってもかけがえのない存在フウキ。

時を同じくしてエジプトのピラミッドの一部が何者かの手によって
破壊される事件が世界を震撼させた。

そこにはKIZUNAと銘打った犯行声明文が地元警察と新聞社に投稿されていた。
それは、キリスト圏・イスラム圏・各宗教宗派に対しての犯行声明。 

『我々「ONE」は人間の作った宗教を全面的に排除する。

唯一絶対神である、神は人間は作ったが宗教は作っていない。

世界人類の覚醒と世界の絶対平和のため』

という身勝手なくだりだった。当然、世界の目はONEへ向けられた。

世界中のマスコミは一斉にONEへの活動を誹謗中傷し集中攻撃した。

エレボスの思惑通りに事は運んだ。

ピラミッドの事件以降世界からはONEの事を口にする者はいなくなった。

イギリスのとあるビルのオフィイスでマーラが「人間とはそんなものよ、
時代がどうであれ情報に左右されるのは世の常。一番可愛いのはしょせん
自分の身の安全。世界に君臨する者はいつの世も民衆を誘導してやらんとな。
それも我々エレボスの勤め」

マーラは勝ち誇っていた。


 そのころ東京では、旧SANGAの面々に由美子も加わり居酒屋の
一室に集まっていた。

シバが「今日は大変お疲れ様でした。本当にみんな久しぶりだね。
元気そうでなによりだよ。

本当にこれで良いのか?もう一度みんなの意見を聞きたいと思って
集まってもらった。

フウキ君は我々に、ある意味人間として、いや、魂が覚醒する
切っ掛けを与えてくれた。

そして目指す目的はSANGA(安住の地)のはず。たとえ、我が身が
滅びようとも魂は永遠に不滅。 

今、やらずして何時やるのか?

フウキ君が生前ことある事に言っていた言葉を思い出して欲しい。

ひとりが変われば自ずと廻りそして地域社会、そして世界が変わると
何時も言っていた。

それが今なんじゃないかって僕は思うんだ。思い起こしてほしい。
あの久慈氏が晩年は180度人間が変わった。たったひとつの詩と
摩耶さんとの出会いで。人間は瞬時に変われるんです。

僕はフウキ君の志を繋げて行きたいし実現したいんだ。
フウキ君の死後、僕は臆病になっていた。 今、気が付いたんだ。
僕達は志半ばなんだってね。みんなの意見を聞きたい」


摩耶が「私もこの数年何かを置き忘れているようで、しっくりこなかったの。
今、シバさんの言葉で何が足らなかったのかが解りました。
SANGAは志半ばだったって事に。そして私も志半ばだったって事を、
そしてこれが私の天命だって事を」

インドラが涙目で言葉を発した。「僕も摩耶さんと同じです。今、此処に
何で僕がいるのか。どうあるべきか解った気がします。僕もフウキさんの
目指した世の中になって欲しいです」

花梨が「SANGAの中で私が一番先にフウキさんと出会い、土地柄が
札幌でもあって、一番長く接してきました。フウキさんは何時も前を
見て歩いてました。私のこの世で尊敬するフウキさんがやってきたことを、
完結させたいと思います」

ラトリが「僕もフウキさんを追っかけて札幌の大学を受験し、半ば強引に
親に願い出て住んだ札幌。フウキさんから色々と学んできました。
僕もSANGAを愛してます。そしてライフワークと自覚してます」

「私もいいですか?」遠巻きに様子を伺っていた由美子が口を開いた。

「私は晩年のそれも一時のフウキさんしか知りません。でもフウキさんの
話は花梨さんから、ことある事に聞いて来ました。

私は、ろくすっぽ会話も出来ない徳島の田舎の娘でした。
フウキさんが切っ掛けを与えてくれたおかげで人前で表現できました。
ここにこうして居れるのもフウキさんのおかげです。

皆さんの邪魔にならないようにしますので、どうか、どうか私を仲間に
入れて下さい・・・」

シバが「ここに居ると言うことはもう仲間なんだよ。フウキ君が最後に
見つけてくれた大事なSANGAの仲間・・・」

全員が拍手をした。

アグニが話し始めた「僕もみんなと同じです」

簡単に云い終えたアグニはバックから包み物を取り出した。

「今日はみんなに視てもらいたい物があるんです。これは僕が小樽の喫茶店で
パラレルのフウキさんに貰った緑色の石なんです」包みを開けて花梨に手渡した。

「例のエジプトテロ事件の前に、小樽でフウキさんから預かった石なんです。
何故、僕が預かったのか未だに解らないんです。皆さん手にとって感じてみて下さい」

由美子が「あの~~う、フウキさんと会ったんですか?」

シバが説明した「パラレルワールドのもうひとりのフウキ君が
半霊半物質でアグニの前に現われたんだ」

「それって幽霊ですか?」

「ウ~~ン。とも違うかな・・・別世界のフウキ君ってとこかな」

「由美子ちゃん、後で教えてあげるね」花梨が言った。

摩耶が切り出した。「前回と同じ活動内容でするの?それとも違う方法か何かで?」

アグニが「此処に居るのが歌い手2人・詩・書・絵・小説・癒しの波長」

インドラが続いた「これらを複合して統合するとどうなりますかね・・・」

「あっ・・・」突然、由美子が声を上げた。

全員んほ視線が由美子に集中した。

花梨が「由美子ちゃん、どうかしたの?」

由美子はじっと目を伏せて何かを視ていた。そして片手には緑の石が握られていた。

由美子は石を握って直ぐ、身体に振動が走った。そして次の瞬間、自分の
身体を眼下にして宇宙空間をさまよっている自分を感じた。

間もなく風景が変わって今度は白い宮殿のような処に自分が座っていた。
右側を視るとあの懐かしい顔がそこにあった。

「フウキさん、お久しぶりです」

手を振っているフウキがにこやかに立っていた。 その横には見慣れた顔もあった。

「あっ、ヘルさんもお久しぶりでございます」

由美子はサンガにトリップしてたのだった。しかも由美子はヘルを知っていた。

ヘルが「これから数年後の地球の姿を見せてあげよう。その世界は望む
望まざるに係わらず、進む道は自分で決めているのです。

そこは嘘隠しの出来ない自分の行く地球の姿。大きく分けると地球は2方向に分かれる」

由美子が初めに垣間見た世界は、薄暗くチョット獣臭いジメジメした
何とも云えないよどんだ空気の世界だった。

人間は様々で、ブツブツ何か独り言を言ってる者。目が血走った修羅の形相のような者。
長い髪に半裸同然の出で立ちで男に媚びを売る女性。等々、自分の欲望丸出しの世界が
そこにあった。

胸に声が聞こえた。「ここは将来の地球の姿、自分最優先の世界」

次に垣間見た世界は、ほんのり暖かく初夏の日差しのように心地よい、
そして秋のような透き通った空気が本当に遠くまで見通せた。
道を歩く人は皆、輝いていて、にこやかでピュアな感じがする。

先ほどとは全く違った世界がそこにあった。

「もうひとつの地球の将来」声が胸に響いた。


 次の瞬間SANGAの仲間の中に座っていた。

花梨が「由美子ちゃん、トリップしたの?」

「はい、身体から飛び出したと思ったらフウキさんとヘルさんの居る
世界に行きました。そしてヘルさんが近未来の地球は二つに分かれていて、
その二つの地球を少しだけ視せてもらいました。

サンガのヘルさんが云うには球は近い将来二つに分離するそうです。
ひとつは自己中心的で欲望のままに我を通そうとする世界。
今の世の中の灰色な部分をデフォルメしたような世界。

もうひとつは調和の取れた、神の世に近い世界みたいです。フウキさんも
サンガにおりました。ニコニコ笑ってました」

話を聞いていたシバが「ちょっとごめん・・・みんな、僕の話を聞いて
くれるかい。今の由美子ちゃんの話を聞いていて思ったんだけど。

もう一度、SANGAの存在意義を確認しないかい。僕は今までこの
世の中を楽園的な世の中に修正できないかなと考え、
行動してきたところがあるんだ。

百匹目の猿じゃあないけど、僕達SANGAの影響が知らず知らず廻りに
及ぼすだろうと考えていた。

でも、それは思い上がりではないかなと思ったんだ。たった今。

由美子ちゃんがサンガで視せられた近未来の世界は、ズバリ二方向に
分離されていて双方の世界が存在する。
今のこの世を良しとする利己主義の世界と調和を求める人間、いや本来の魂のすがた。

当然、どちらを選ぶのも各自次第ってわけ。だから近未来は分離されているんだ・・・

で、僕らの意義は後者の調和を求める人の少しでも手助けになればと思うんだ。
あくまでもガイドのような縁の下の力持ち的な・・・・どうだろうか?」

花梨が「私も今、そんな気がします。私は歌の世界を通してだけど、
同じ歌でもその時々で伝わり方が違うのね。

原因は色んな要因があると思うけど、それって原因のひとつにこちら
側があるような気がするの。最初の頃は、只がむしゃらで心に余裕が
なかったの。でもちゃんと伝わったのね。

そのうち馴れてくると客席の反応を気にしたり、歌う側も馴れて
きたっていうか新鮮味が欠けたっていうか・・・と同時に心に穴が
開くことがあったのね。

そこいくとKIZUNAのような自然発生のパワーって凄いなって思うの。
それに作られたものって冷めるのも早いような気がするの・・・
此処のみんなも感じてると思うけど」

由美子も深く頷き「私も押しつけにならないKIZUNAの歌のように
自然発生的な歌も良いかなって思いました」

全員一致でSANGAの今後の方向性が決定された。

活動は再開する。但し自然発生的な方向性を目的とする。 
全ての教義的なものは無く、あくまでも個人の自主性を最優先し尊重して活動する。

SANGAに類する作品は著作権フリーとし、宣伝活動は個々の判断によるものとする。

摩耶作詞・由美子作曲の作品「一輪の花」がネット配信され世界中で歌われることとなった。

その後、地球はサンガの予言通り二方向に別れていった。

2026年、争いのない平和に満ちた地球が再構築された。

もうかつての地球を思い起こす者は無かった。

新生地球には国境は無く、人種や差別、言葉の違いや性別さえも
無くなっていた。

かつての地球的習わし、常識の類はこの新生地球にはもはや存在してい
なかった。真実の文明に支えられた地球は宇宙の仲間入りを果たし、
霊的文明へと進化を遂げていた。

将来の地球が光り輝く星になりますように、願いを込めてSANGAここに完結。

THE END
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【SANGA(神々の戦い)】全18-17

17、「石」

 ここは札幌の隣町小樽。季節は初夏。観光客が絶えないこの街に、昔は
穀物倉庫として利用されていた石造りの倉庫群が昭和のレトロ感が観光客
には人気があったあった。

その倉庫を現代風にアレンジし小洒落た喫茶店として営業している。
店内の照明はランプだけというレトロ感も観光客に人気があり、雑誌に
掲載され通年沢山の観光客が訪れていた。

そんな観光客のひとりにスケッチブック片手に楽しそうに人間
ウォッチングしている男が居た。

その男、元SANGAのアグニだった。アグニはひと月前に視た夢が
気になり3日前から小樽に滞在していた。

その夢とは・・・この喫茶店で懐かしい人と出会い固い握手をしている
もので、誰とは特定出来ないが、只々懐かしさだけが印象的だった。
その場所がこの喫茶店だった。

店を特定する迄ほぼひと月費やし、今日が小樽に滞在して三日目、
このまま何の変化が無いなら、明日には帰郷する予定でいた。


 ウェイトレスが「お客様、ご来店ありがとうございます。当店より、
オリジナルのランプ型ストラップを記念にお持ち帰り下さい」

「あ、ありがとうございます」

「ところで3日前から、誰かをお待ちのようですが待ち合わせか何かですか?」

屈託のない笑顔で聞いてきた。

「あ、ハイ・・夢で懐かしい誰かと、この店で逢っていたんです。
とっても大事な人と・・・それでつい来ちゃいました。でも今日、
逢えなければ帰ります。ご迷惑駆けます」

「いえ、素敵なお話しですね、お会い出来る事を願ってます」

「ありがとうございます」

結局その日も夕方まで何の出会いもなく帰ろうと支度をしたその時だった。 

薄暗い店内に男性が入ってきた。

顔は確認できないがアグニの胸に

「待たせたね」

という耳には聞こえないが直接心にその声は伝わってきた。

その男は視線をアグニに向けたまま薄暗い店内をアグニの座るテーブルに
向かって歩いてきた。

アグニは近づいてきたその男を直視した。瞬間、アグニは思わず声を発した。

「エッ!ウソッ・・・」その目線の先に立っていた人物は宮園風輝その人だった。

瞬間アグニの目に涙が溢れてきた。

男性はアグニの正面に座った。

アグニは心の動揺を抑えながら口を開いた「あなたは、どちら様?」

男はニヤニヤしながら口を開いた「どうしたアグニ。別れて3年
過ぎたらもう僕を忘れてしまったのかい・・・」

「・・・・」アグニはフウキならではの懐かしいオーラを確認した。
と同時に身体が震えてきた。アグニの思考は完全にパニックを起こしていた。

フウキは囁くように「ようやっと解ってくれたらしいね。そうさ、
君の目の前にいる僕は宮園風輝だよ、そんな幽霊でも見たような顔を
するなよ・・・フフッ」

「幽霊のほうが、まだましです」

ウェイトレスが近寄ってきて言った「いらっしゃいませ」フウキに
メニューを差し出し、視線をアグニに移すと微笑んで「お客様、待った
甲斐があったようですね・・・良かったですね・・・」

ウェイトレスにはアグニが待ちこがれていた逢いたい人にようやっと
会えた喜びでアグニが涙ぐんでいるように映った。

「コーヒー下さい」

「ハイ、かしこまりました」

ウェイトレスが去るのを待ってまたアグニは話し始めた。

「フウキさん。これはいったいどういう事なんですか?」

「今、君の前に座っている僕はパラレルワールドのフウキなんだ。
この世界で死んだフウキは僕と別のフウキなんだ」

「別世界のフウキさんがこっちの世界に来るって?そういう事出来るんですか?」

「現実には不可能さ。でもこの世に波長を合わせればある意味可能なんだ。
但し反霊反物質だけどね。アグニ君の視ている僕はイリュージョンで超リアルな幻想。

それはこの際、おいといて。僕がここにこうしている理由は君に
渡したい物があるからなんだ」

「あ、はい・・?」次の瞬間フウキは空中から緑色の石を取り出し
アグニに渡した。

「・・・?石ですか?」

「ただの石と違うんだ。時空移動を容易くする石なんだよ。
これを使い別の地球で行われている光景を視て、SANGAのみんなに伝えてほしい。
今こそSANGAを復活させる大事なタイミング。それによって地球は大きく変わる。
その切っ掛けをアグニ君に頼みたい」

そう言い終えるとフウキは煙のように消えてしまった。

ウェイトレスがコーヒーを持ってきた時にはアグニはひとりで座っていた。

「あれ????待ち合わせの男性はどこに??」

「急いでたみたいで帰りました。コーヒーは僕が頂きます」

通路は誰も通った気配がなかったのでウェイトレスは狐に摘まれたように
唖然としていた。

 
 東京に戻ったアグニはシバに事の経緯を話した。

「そうか、フウキ君が小樽に・・・」

「そうなんです。何で小樽なのか僕にも解らないけど、この緑の石は
こうして現実にここにあるんです」

アグニはバックから石を取り出しシバに手渡した。受け取ったシバは
何かを観察していた。

シバが「待ってるね!この石は誰かを待ってるような気がするんだけど・・・?」

「シバさんもそう思いますか?僕も数日持っていて同じ事を感じてました。
この石には意識があって、誰かこの石の力を引き出せる所有者に渡してほしい。
その相応しい所有者を僕達に探し出してほしいのかなって感じてたんです」

「そうかもね、たぶんそれだよ。フウキくんが係わってアグニくんに
渡したという事はアグニ君、いやSANGAのメンバーは絶対に
使命感を持ってやってくれるだろうという事かも知れないね」

「久々に6人集合しますか?」2人は久々に心の内側に熱いものを感じていた。


 ここは韓国の釜山市。世界権力エレボスの(アメリカのマーラ)
(イギリスのアンラ)久慈健栄の後を継いだ(韓国のキム・シャウン)
の3人が打合せをしていた。

マーラから提案が「今、世の中ではONEという実体の無い、しかし
確実に存在してる集合体があるのはご存じだと思う。

はじめは只の流行と気にしていなかったが、ネット社会では異常な
勢いで広がっている。

それも年齢層・性別・人種に関係無く早い話が今では誰もがONEの存在を知っている。

いわば潜在的集合意識が動き始めてきたという事じゃ。今の社会は我々の
先人達が集合意識を誘導して作り上げてきた、我々の為の社会。
その呪縛から世界は目覚めつつある。早いとこ処置しないとならんのだよ」

アンラが「3年程前にミスター・ミヤゾノご世を去っていらいSANGA
という小さな組織も今は無い。
それで終わりと思ったが、違う動きが発生したようだ。今度は首謀者が
無く本当に自然発生なのだ。

歴史的にもルネッサンス期が自然発生だったが、今度は情報量と速度が格段に違う。
組織が無いから叩きようがない・・・」

キム・シャウンが「SANGAの面々を3年程、見張ってはいるが
残党の6人やSANGAの会員も、この3年間まったく動きが無い。
ONEの影響はヨーロッパやアメリカからの影響が強いようです」

マーラが「実体の無い力(組織)か・・・厄介じゃのう」

「9・11の時のように世界の目を違う方向にそらさんとならんようだ
のう・・」アンラが言った。

マーラが「テロか・・・」

キムは「やはり宗教戦争が手っ取り早く単純で自然ですか・・・」

マーラが「キリスト・イスラム・仏教・ヒンズーと影響を与えないと
毎度のようにキリスト圏とイスラム圏だけでは世界はもう動かんぞ」

キムが「宇宙はどうですか?宇宙人の存在を世界に知らしめ、地球人が
一丸となり、ある方向に向かうというシナリオはどうですか?
SF小説のようですが如何かと?」

「その手を使うと奴ら(異星人)を表に公表せねばなるまいのう・・・
そういう時期か・・・?」マーラは腕を組みながら呟いた。

アンラは「正直言って奴らは我々と相反する者、下手をすると一般人を
覚醒させんとも限らん。
覚醒した人間が増えたら我らの世界も終焉じゃ・・・どうしたものか?」

マーラが「やはり今回もテロしかあるまい!」

アンラとキムも首を縦に振った。

マーラが続けた「今度も世界的に驚くような事を仕掛けんといかん
だろうな・・・ピラミッドでも破壊するか?」 

キムが「好い考えですね、それをやったら世界中が敵になりますよ。
ピラミッドはエジプトというよりも地球遺産だからな・・・
そこに『KIZUNA』と書いたメッセージを残し、一気に
KIZUNAの悪いイメージを世界に発信ましょう」

マーラが言った「キム・・・おぬしもなかなかの悪よのう・・・
フッフッフッフ・・・」

エレボスの3人は不気味な笑みを浮かばせていた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-16

16、「ONE」

 フウキは広島市の本通商店街に座っていた。

20代前半と思われる女の子が「あのう、宜しいでしょうか?」

「はい、いらっしゃい!どうぞ」

「私は、今服飾系の仕事をしてるんですけど、上司との人間関係や
仕事上でも会社の方針と合わない部分があって退職しようかどうか
悩んでます。仕事的には嫌いでないので、それも含めて相談したくてきました」
「はい、まずあなたは、どうなりたいですか?」

「どうと云うと?」

「具体的に例えば技術を身に付けたいとか、結婚までの腰掛けとか、
あなたと会社との繋がりのスタンスの事です」

「技術を身に付けたいです」

「では、今の職場はそういう意味ではどうですか?」

「はい、技術的には申し分ありません」

「じゃあその技術習得のひとつに人間関係も含まれているとしたらどうしますか?」

「仕事と人間関係ですか?」

「はい」

「・・・・どうしてですか」

「あなたは生まれてから死ぬまで、ずっと人間と係わっていきます。
例外はなく永遠にです。解ります?」

「はい」

「そして、あなたに都合のいい人間というのは、あなたがこの世を
生きる為に障害になる事は教えてくれません」

「あ、はい」

「社会には色んな人間がいて皆それぞれ好き勝手に主張しあい、時には味方となり、
そして敵にもなります。ただし敵味方というのはその時々のあなたにとって・・・
の話しです。それが社会だと思いませんか?」

「あっ・・・はい・・・」

「障害を避けて生きてきた人生と、障害は障害と認めそれと向き合う人生。
どっちを選んでも自由なんですどちらを選びますか?
立場を変えてみましょう。もしあなたに子供がいて同じ事で悩んでいたら、
あなたは何と声を掛けます?その事をまず考えてみませんか。
もし本当に嫌なら退社を勧めます。精神的にも良くないので・・」

「はい・・・何か解ったような気がしてきました。ありがとうございました。
わたし、もう一度自分と向き合ってみます」

「良い朝を迎えますように」フウキは軽く手を振った。

仕事を終えたフウキはテーブルとイスをたたみ、身支度をして帰り道の
路地に差し掛かった。次の瞬間、暗闇の中から2人の黒い影が現われた。

突然「宮園風輝さんだね・・・」男に声を掛けられた。

それはトーンの低い厳つい声だった。

「ハイ、君は?」次の瞬間フウキの背中に激痛が走った。

「うっ・うっ・・・・つ・ついに・・きたか・・」

そっと近寄ってきたもうひとりの男がフウキの背中にサバイバル
ナイフを突き刺したのだった。

そして2人組の男が暗闇に走り去っていった。

フウキは前屈みのまま倒れ込んだ。次の瞬間、フウキは意識を肉体から切り離した。

痛みから解放されたが肉体的なダメージはひどく、人通りの少ない路地。

翌早朝、新聞配達員によって発見されたが、倒れてから既に5時間が経過していた。

警察と救急車が来た時にはフウキの身体は帰らぬ人となっていた。

警察の発表では、解剖の結果刃物のような者で背中をひと突き。
それが心臓に達し致命傷になったとの結論がなされた。

フウキの所持品が無いことから金品目的の通り魔的犯行と断定した。

公には発表されていないが、フウキの遺体は死後硬直が認められず、
監察医は頭を傾げていた。フウキは刺された直後に魂を肉体から
意識的に離脱させたために死後硬直が無かったからだった。

フウキが息を引き取ったと思われる同時刻にSANNGA6人は同じ夢を視た。

笑みを浮かべたフウキが白い装いで目の前に立っていた。

「今日僕は帰ります。SANGAを一度解散してほしい。
そして個々の活動をしながら過ごして下さい。再復活の為に今は
エネルギーを蓄えてほしい。僕はいつでも皆さんを応援してます。
今後はチャネリングでお話ししましょう。又、逢いましょう」

朝を待って6人はいっせいに連絡を取り合った。 

シバの指示で札幌在住のラトリが代表し、余市町のフウキの実家に
連絡を入れたが、何の連絡も入っていないとの事。

次はインドラからの提案で正午になったらエネルギーをひとつにし、
同時にフウキへチャネリングを試みる事にした。

打合せ時刻になって直ぐに花梨がフウキと繋がった。

花梨の話では昨夜、エレボスに手配された2人組の男に後ろから
刺されフウキの肉体は死を迎えたというものだった。

程なくしてフウキの実家から札幌のラトリに電話が入った。

「広島の警察から連絡が入りフウキらしき男性が殺されたので
身元確認をしてほしい」という連絡があったらしい。

インドラ・花梨・シバ・摩耶の4人は新幹線で広島に向かった。
警察の霊安室では変わり果てたフウキの姿があった。

司法解剖の結果、後ろからサバイバルナイフで心臓をひと突きされた
事による即死というものだった。

インドラ・摩耶・花梨・シバはその場で天を仰いだ。

遺体はフウキの家族に引き取られ、故郷での葬儀にはSANGA6人と
由美子が列席した。

宮園風輝30歳の人生はここに終わった。

SANGAはフウキの遺言通り解散された。


 
 フウキの死から3年が過ぎた。

世の中は管理・監視社会と変貌した。何をするにも身分証明書の提示が
義務付けされたり、運転免許証にもマイクロチップが埋め込まれ、
街のあらゆる所に監視カメラの設置がされた。

犯罪登録された人間は6時間以内には、国内であれば潜伏場所を90%
解析出来る仕組みも開発された。

これらは表向き犯罪防止と称し、実は人間管理の為のシステムで、
何時何処で誰と誰が何を話したかまで監視する仕組みでだった。

さらに個人の行動も過去数時間前まで時間を逆行する事が出来る
システムが構築された。

テロ対策室には今はもう解散したSANGAも「テロ活動の疑いあり」
として監視登録されていた。

世界はエレボスの思惑通りワンワールドに統一されようとしていたが、
それに立ち向かう反体派も水面下で組織が結成され、ネットを通じて
世界に配信されていた。

ネットの力は驚異的な早さで広がり、そこには人種の壁・言葉や身分の
違いはもちろん、キリスト教・イスラム教・仏教・ヒンズー教と、
あらゆる宗教の壁も取り外された。

エレボスの意思とは全く別の意味で、世界の意識は自然と統一されつつあった。

世界に発信される際の合い言葉は「ONE」発信源はイギリスだったが、
初めは水面下で燻っていたONEの活動も時と共に急激に広がった。

まるで圧縮されたゴム風船から解き放たれた空気のような勢いだった。 

魂の叫びは、ある時は歌や絵などに隠されていた。

そんな中で日本の歌手、花梨の書いた曲が世界に無料配信されていた。

その曲は「KIZUNA(絆)」という題名で、フウキの事を思い描き
ながら作られたバラード曲。

歌詞の中にフウキとサンガの文字がアナグラムとして隠されていた。

KIZUNAは著作権フリーとしたこともあり、ONEが中心となって
8カ国語に翻訳され配信された。

そして世界中で愛される歌へと成長した。

配信され2ヶ月で世界に広まる快挙。

このKIZUNAはただの歌ではなかった。花梨が旧SANGAの仲間と
音魂(おとだま)を利用した魂の癒しの歌であった。

フウキの死後徐々にそして急激に世界は動き始めた。

エレボスの圧力規制の執行よりもONEの伝わる波は早かった。

エレボスが弾圧を掛けようとした時には、すでに違う風が吹くという
具合にONEの動きは目を見張るものがあった。

偏らない思想・音楽・文学等、ONEの影響は止まるところを知らず、
21世紀のルネッサンスとまで云われた。

またONEとは数字の始まり1であり、創造性、意志の強さ、
暗い夜が終わり夜明けの始まりという意味である。

着実に目に見えて世界は変わりつつあった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-15

15、「ね・・・」

 シバと摩耶は朝早くから事務所に詰めていた。

シバはフウキの残した言葉の意味が気になり、摩耶とフウキの言葉の
意味を考えていた。

何故このタイミングで「これが最後になるので一気に引揚げますから」
・・・これはどういう意味だろう?


 その日の昼頃、事務所にフウキが訪れた。

「シバさん、摩耶ちゃん、昨日はお疲れ様でした」

フウキはいつもと変わらぬ様子で椅子に腰掛けた。 

摩耶が口火を切った「フウキさん昨日『これが最後になるので一気に
引揚げま』すからって言ってましたがどういう意味なんですか?」

「うん、影の支配者エレボスのターゲットはズバリ、僕、宮園風輝なんだ。
このままだとSANGAの存続に係わってくる可能性がある。
だからSANGAとの係わりを絶とうと考えての言葉なんだ」

シバが「まだまだ我々にはフウキ君が必要なんだけど・・・」

「シバさん、摩耶さん。僕は永遠に、さよならをする訳ではないんです。
ほとぼりが冷めるまでの間、僕は僕で旅をしながら僕独自のやり方で
やっていきます。今、芽吹いたばかりのSANGAという花の芽を刈り
取りたくないんです。どうか解ってやって下さい」

摩耶が肩をふるわせて泣いていた。

その摩耶を労るようにシバは摩耶の肩に優しく手を乗せていた。

シバが「摩耶ちゃん、後の事は僕達6人が協力して頑張ろうよ。
そしてフウキ君の帰る場所を守ろう!」

摩耶はシバの言葉に目を赤くしながら頷いた。

「じゃあ、しばらく留守にしますので他の皆さんにも宜しく伝えて下さい」

フウキはSANGAの事務所を後にした。

フウキは名前を「フレイ」と改名し旅に出た。

天界サンガは風の宮の神官フレイの名前だった。

フレイは四国の徳島にいた。

徳島市内の南新町でフレイは商店街の閉まった後、商店の軒先に小さな
テーブルとイスを置いて座っていた。

テーブルの上には「相談に乗ります」とだけ書かれていた。

恋愛の相談が多くあったがフレイの目的は相談の内容にあるのではなく、
縁のある相談者を待っていた。

「あのう、チョット宜しいですか?」20代の男性であった。 

「はい!どうぞ」 

「相談事というか、宗教の事なんですが宜しいでしょうか?」 

「はい、どんな事ですか?」

「昔からこの町は真言宗の檀家が多く、僕の家も代々そうなんです。
でも今、結婚を前提に付き合っている彼女の家は熱心な法華教なんですね。
その教義の中に真言亡国で(家の柱)つまり当主が弱いとかで向こうの
両親が結婚に反対してるんです。

僕はハッキリ言って宗教の事は解らないんですがどう思われますか?
そして今後どうやれば上手くいきますか?」

「はい!ズバリ結婚と宗教は関係無いと思います。問題はあなた達が
どうありたいかという事です。宗教って人間が幸せになる為の心の指針の
様なものです。結婚の障害になる様な宗教は本当に真の宗教と言える
でしょうか?別の言い方をするなら、お二人が本当に結ばれたいのなら、
自分達はどうあるべきか。

が大事な事ではないでしょうか?結婚するのはお二人です。
家系ではありませんし、まして親でもありません。宗教などもっての
ほかだと思います。どうでしょうか?」

「そうですが、親が・・・」 

「結婚するのは?」 

「自分達です」

「大切なのは?」 

「・・・自分達です」

「誰の為の結婚ですか?」 

「自分達の為です」

「もう、結論は出ているようですね。結婚は自分達の為にあるんです。
因みに彼女の名前と生年月日は?」 

「レイカです。昭和59年12月18日です」

「はい、彼女は冷え性ですから、根菜類を多く食べて身体を温め、
そこを克服出来たら子宝に恵まれます。言葉の意味が解りますか?
・・・お幸せに!」

「な・何か吹っ切れました!勇気が湧いてきました!ありがとうございます!」

男性の顔は明るくなり暗闇に去っていった。

「いらっしゃいませ」今日二人目の客である。年の頃は25歳くらいの女性。 

「あのね、私ね、由美子って言います・・・ね。何をね、や・や・
やったらいいでしょうか?」

「面白いね!君は何が好きなんだい?」

「オムレツと半熟卵です」

「そっか。じゃあ、おでんの卵は?」

「好きです。あとダシ入りの厚焼き卵もね」

「でも君、オムレツにはなれないよ。半熟卵にもね。さあどうしようか?」

「・・・???」

「僕が聞いたのは君が何をしている時が一番好きなの?って事さ」

「ギターです」

「ギターか・・チョット待ってね。君の生年月日は?」

「昭和62年2月28日の14時30分です。何秒頃か解りませんけど」

フレイは彼女の左上を視て優しい声で言った「君はどんな曲が好きなの?」

由美子は目を輝かせながら言った「ビートルズが好きですね。あと
サイモンとガーファンクルやELPもね」

「君、本当に音楽好きなんだねえ」

「はい、大好きです。特に昔の歌が・・・でも父と母がね『あんまり
やってはいけません』と言うんですねね・・・」

「何でかな?」

「私がね、一生懸命やるとね、時間が解らなくなって気が付くとね、
1日くらい経ってたりするのね。それだから母に怒られます」

「何で怒るの?」

「私ね、学校もね、アルバイトもね、ギター弾くと休むんですね・・フフフ」

由美子は自分で言って笑っていた。 

「君、音楽やってる時って何処に行ってるか解る?」

「な、な、何で解るんですか???初めて聞かれました!」
由美子は目を丸くしながら話し始めた。

「あのですね、その場所はね全部が音っていうかリズムっていうか
気持ちいい香りのする場所なんですね。

そこで曲を作ると楽しいです。昨日もね、晩ご飯食べてから曲作り
したんですね。気が付いたら朝ご飯の時間だったりしました」

「そっか。由美子くん、君は花梨っていうミュージシャン知ってるかい?」

「はい、彼女の歌は好きです?・・・ね」

「そうか。じゃあ今度はギター持ってきて僕に何曲か聞かせてほしいな。
出来るかい?」

「私の家、すぐそこなんですね。今でもいいですか?ね?」

フウキは笑顔で頷いた。

由美子は話しもそこそこに駆けだして行った。

30分程してギターを背負ってやってきた。

その後ろには両親が心配そうな顔をして同行していた。 

「やあ、早かったね」

「御両親も一緒に来ました・・・ね」

「今晩わ。僕はフレイと申します。今日初めて由美子さんとお会いしまして、
彼女の作った曲を聴かせて下さいってお願いしました」

フレイはにこやかに頭を下げた。

「で、ご両親は彼女の作った曲を聴いた事ありますか?」 

母親が「この娘はいつも自分の部屋でギターを弾きながら
歌ってますから聞いてますが、何か?」

「正式に目の前でという意味です」

「いいえ」

「それでは、ここで僕と一緒に聞いてみませんか?」

「聞くのは良いですが、彼方はいったいどなたさんですか?」

テーブルの上を指さして「僕はみての通り、人と会話をする会話士です」 

「会話士??」2人は怪訝な顔をしていた。

そこに由美子が「歌っていいですかね?」

フレイが「いつも通りに歌ってね」

「はい!」

最初の曲はAマイナから始まるしっとりとしたバラードだった。

次はアルペジオでテンポのいい曲だった。

最初は多少の恥じらいもあり緊張した様子の由美子だったが、
その後は完全に音楽の中に入ってしまった。

気が付いた時、周りには30人程の若者が聞き入っていた。 

30分程で歌い終わり由美子は我に返った。

そこには見慣れない人達が大勢いて由美子は驚いた。

商店街中、由美子への賞賛の拍手が響き渡りアンコールの声が上がっていた。

その予想だにしない光景を目の当たりにした両親は狐に摘まれたか、
別世界に迷い込んだかのように思えた。

フレイが両親に「どうでしたか?由美子さんの初舞台は」

父親が「とにかく今は驚きのひと言です。この娘は小さい頃から表現が
下手でした。あなたも話してわかるように・・・

それでギターを抱え、ひとり部屋に籠もりストレスを発散してるんだと
ばかり思っていました。そこで見ている妻も、私と同じ気持ちだと思います」

母親は目を潤ませながら由美子を見ていた。

「ところで、彼方は以前からあの子を知っているんですか?」

「いいえ。さっき言ったように今日ここで初めてお会いしましたが」

「何故あの娘が歌を作ってる事など知ってるんですか?
恥ずかしながら親も知らない事なんです」

「僕が会話士だからです」

「会・話・士ですか?」

「はい!言葉以外でも会話は出来るんです。相手の心の声と会話するんです」

「由美子の心の声は何と?・・」

途中で由美子が近寄って来て話しは中断された。

歌い終わり観衆も引け先程とは変わり静かな商店街に戻っていた。

その後3人はフレイに頭を下げて帰っていった。

その別れ際、由美子は満面の笑みを浮かべながらフレイに手を振っていた。
その印象的な微笑んだ絵はフレイの心に残った。

二日後、由美子が顔を出した。

「先日は、どうもありがとうございました」

「どういたしまして。ところで両親とちゃんと向き合って話しをしたかい?」

「はい!もう私の全行動に対して、口出しはしない
ようにするから、自分のやりたい事をやりなさいと言われました」

すっかり口癖の「ね」が治っていた。

「そう・・・!理解してもらってよかったね。で、これからどうする?」

「私、音楽に関係する仕事をしてみたいです」

フレイはメモ用紙にSANGAのアドレスを書いて由美子に渡した。

「じゃあ、ここに摩耶さんという君と同じくらいの人が居るから電話して、
花梨の関西・四国方面でのコンサートスケジュールを聞いて直接彼女に会いに行くといい。

『フウキからの紹介』って言ったらいいよ、相談に乗ってくれるから。後は君次第・・・
これだけは憶えておいてね、由美子さんは頑張らなくていい。君らしくいればいい」

「どういう意味ですか?」

「分かりやすく言うと・・・自分流!僕はまた違う街に行くからね。
また何処かで会おう・・・」


 その後、由美子は神戸ドームコンサートに来ていた花梨の楽屋を訪ねていた。

「初めまして。私は由美子と言いましてミュージシャンを志しています。徳島で
フレイさん、いやフウキさんと知り合いまして花梨さんを紹介していただきました」

「そうですか。で、フウキさん元気でしたか?今、何処に居るんですか?」

「今はもう徳島を出て、行き先は解りません」

「そう・・・で、話変わるけど由美子さんは何をなさってるの?」

「曲を作ってます」

「そうですか・・で、今日は何処に泊まるんですか?」

「神戸から徳島へバスで帰ります」

「せっかくだからコンサートを見て、私達の宿泊するホテルに泊まりませんか?
ついでに打ち上げも付き合ってよ。フウキさんの話しを聞かせて」

楽屋から出た由美子をスタッフが会場へ案内した。

由美子がフレイという人物の一角に触れた瞬間だった。

コンサートは2時間半で終了した。

由美子にとって初めて見るライブコンサートであり、花梨の発する
バイブレーションに生で触れたのであった。

最初、涙を必死にこらえていたが、周りは当たり前のように涙を
流していたのを確認すると、こらえる必要性が無い事に気付いた
由美子はこらえるのをやめた。こんな感動は初めてだった。

「花梨さんって凄い!・・・」と心から思った。

コンサートも終わり2人はホテルにチェックインした。

花梨が「ホテル代は私が払うから遠慮しないで。じゃあシャワーを
浴びて11時に下のロビーに来てね」

「はい」由美子にとっては夢のような一時であった。 

「おまたせ。それじゃあ行きますか」

一行30名は難波の料理屋で打ち上げをして、二次会はカラオケ店に
移動した。大きな部屋で二次会は行われた。

挨拶は花梨が勤めた「今日は大変お疲れ様でした。二次会も盛り上がり
ましょう。今日は徳島から私の友達の由美子さんも参加です。
大いに飲みましょう。乾杯!」

あれだけのコンサートを作り上げたメンバーだけあってパワーも凄かった。
途中メンバーのマコトがマイクを取った。

「それでは花梨ちゃんのお友達にここらで一曲お願いします」

「さんせ~~い」声を上げたのは花梨だった。

「はい。私はギターの弾き語りでいいですか?」バンドのメンバーから
ギターを借りた。

「じゃあ、私の作った曲で(風)を歌います」

側から小声で「おい、あの娘、素人だろ?プロを前によくやるよな。
最近の女の子は大胆というか怖いもの知らずというか・・・」 

チューニングを終えた由美子が「・・・風、お聞きください」

風はフレイに披露した想い出のバラード曲だった。

歌い始めて間もなく、ざわついていた会場に静寂が走った。
聞こえるのは由美子の歌声とアコスティックギターの調べ。
素人の女の子がプロの集団を黙らせた瞬間だった。

はじめは緊張していた由美子だったがそれも束の間、
曲とギターと由美子がひとつとなった。

由美子の心の中は心地良さ以外、何も無かった。歌い終えた瞬間、
怒濤の様な歓声と拍手が響いた。

花梨とは違った意味で「凄い!」皆が認めた瞬間だった。

そのままアンコールをもらい、結局3曲歌う事になった。
一番喜んだのは花梨であった。

「さすがフウキさん。強烈な人を送り込んできたのね」

翌朝、ロビーでコーヒーを飲みながら花梨は「昨日のあなた、
決まってたわよ。プロの集団を一気に独り占めしたんだから。
音楽やりたいんでしょ!東京に出てきなよ、落ち着くまで私の
マンションに住むといいよ。

そうしなよ、それに、あんたの云うフレイの別の顔も見てみない?
今、私がこうして歌っているのはフレイさんのおかげなのよ」

「そうですか。フレイさんて凄い人なんですね。私、父と母に相談して
花梨さんに連絡します。私の心は決まってるからお世話になると
思いますが、その時はよろしくお願いします」

「待ってるね」2人は大阪を後にした。 

スタッフの1人が「花梨ちゃん、昨日のお友達は?」

「徳島に帰りました」

「あの娘、面白い娘だったね。磨いたら絶対に光るよ」

「そのうち上京するので宜しくお願いします。あの人は私の師匠からの
預りものなの・・・」

「任せてよ。彼女は天賦の才がある」スタッフの目は未来の由美子の
姿を描いていた。

それからひと月後、由美子は上京し花梨のマンションで世話になった。

SANGAにも顔を出し会員仲間とも直ぐに馴染んだ。

【SANGA(神々の戦い)】全18-14

14、「束の間の平安」

 SANGAの活動は個人的霊性の開発を目的とし、宗教とは大きく
異なり崇める対象は存在しない。あくまでも自分の内なるハイアーセルフ
(高次の自己)に触れる事を目的としていた。

フウキは東京の事務所にいた。

「ごめん下さい」

30歳前後の女性の訪問であった。 

「はい!いらっしゃいませ」フウキが応対に出た。 

「こちらの会のお話を聞きたくて伺いました」 

「はい、どうぞこちらに」フウキは笑顔で応えた。 

「私は菅野といいます。こちらは宗教と違い自分自身の本質に触れる
為の会と聞きました。 私はハイアーセルフに繋がりたいんです。 
その辺の事が聞きたくて来ました」

「ハイアーセルフには誰でも無意識で繋がってるんですよ。あなたは
そのハイアーセルフに繋がって、どうしたいとか具体的に何かありますか?」 
「はい?とりあえず繋がりたいんです」 

「そうですか。多くの方はそう言います。因みに貴女は今パソコンの
前にいると仮定して下さい」 

「・・・はい」

「そのパソコンは既にネットに繋がってます。なのに、貴女はその
パソコンがネットに繋がればいいのにと思って座ってるんです。 
ここまでの話しで何が足りないと思いますか?・・・」

「入力ですか?」 

「そうですよね!入力しないと応えてくれませんよね。では、貴女はどうですか?」

「入力してない・・・」 

「はい!ハイアーセルフは絶対におせっかいしません。貴女が聞いて
もいない事に応えるはずがありません。というか応えようがありません。
聞く聴かないは貴女次第とも云えます」

「私・・・次第ですか?」 

「はい。これは多くの人にも云える事なんですが。ただ漠然と聞こえない
と云ってるだけで、具体的に何が聞きたいのか?そこがポイントです。 
ネットだと聞きたい事や調べたい事にはキーボードを打ち込むのに、
こと、こういう世界では漠然としていて限られた人しか聞こえないと思い込む。

まるでとっておきのインスピレーションか何かが得られると思いがちですが、
そんなお節介はありません。こちら側が求めて初めて応えてくれるんです。

パソコンと同じでこちらが入力しないと応えてくれない。
但し!パソコンは答えを教えてくれるけど、この世界は答えを教えて
くれません。答えは自分で導き出すです」 

「では、聞く為のコツは?」 

「少しやってみましょうか? 深い深呼吸を3回して下さい。
次に自分の内面の肯定です。目を閉じて内面を見つめて下さい。途中の誘惑に耳を
傾けないで進んで下さい。頭を使わないで全身で感じて下さい。何か見えますか?」

「いいえ」 

「何か聞こえますか?」 

「お・か・え・り・な・さいって聞こえます。チョット待って下さい?」 

「聞き直さなくていいです。その声の発信元がハイアーセルフです」 

次の瞬間、彼女の目から涙が溢れていた。

「私は何年もハイアーセルフに話しかけて来ました。本当に本当に自分の
中にあったんですね・・・」 

「今度から沢山、聞きたい事をハイアーセルフに聴いて下さい。幾らでも
応えてくれますから。早い時は全部聞き終わらないうちに答えが返ってきますよ・・・」 

「どういう事ですか?」 

「繋がると云う事はそう言う事なんです。時間差が無いんです」

「時間差が無い?」 

「この世は時間差をもうけていますが、本来は時間という概念は無いんです。
 原因と結果が同時にあるという事です。質問と答えが同時にあるんです」 

「もうひとつ宜しいですか?」

「どうぞ」 

「悟りとは?」 

「自分に返る」

「自分に返る?ですか・・・今日はありがとうございました。貴重な
経験をさせてもらいました」 

「お役に立てましたか?」 

彼女が帰ってから話しを横で聞いていた摩耶はフウキに質問した。 

「フウキさん、彼女にいきなり突っ込んだ話ししましたけど、珍しいですね」 

「うん、彼女は魂が欲していたんだ。話の内容と云うよりも、この会の
波動を感じたかったんだ。潜在的な部分でね。彼女はもう熟した果実の
ようで何時弾けてもいい状態だった。 これからも今みたいタイプの訪問者が多くなるよ」

「フウキさんは今のような人が来たら一瞬で透視するんですか?」

「そうだよ。一瞬で、少なくても7通りの観点から視るよ。 
車に例えると、外観・足回りタイヤの色と質・エンジン性能・
それに付随するメカ・走りの能力・内装のデザイン質・どんなユーザーを
対象にしてるか、等々、車だけでもこれだけの見方が出来るんだ。 

人間を越えるとこの車のデザイナーやメカ設計者の性質・
どんな気持ちで設計したか等も視える。 

人間も一方向や二方向じゃ相談相手に失礼でしょ?
最低でも過去・現在・未来を視ないとその人の本質を語れないよ。
それが僕の立場でありSANGAの立場でもあるんだ」

「私、そこまで視てませんでした・・・」摩耶は下を向いた。 

「摩耶ちゃんは表現の仕方が僕と違うだけなんだ。現に久慈さんがそうだよ。
彼には言葉で表現出来ない摩耶ちゃんの一面が伝わった。
僕と摩耶ちゃんは方向性は一緒でも伝え方が違うだけ。

もっと言うなら、僕は摩耶ちゃんの様に詩と書だけで人間を感動させる
事は僕に出来ないよ・・・」

2人の前には摩耶が久慈に送った詩が飾ってあった。


 その頃、世界は戦争や経済のバランスが崩れる等、相変らずの
様相であった。久慈が死んでも世界の在り方は依然として何ら
変わる事なく運営されていた。

自然環境も「観測史上初」という言葉が当たり前のようにマスコミは
連日報道していた。

久慈の後継者に指名されたのは、韓国のキム・シャウンだった。
彼は武闘派でならした存在で別名「アジアのハリケーン」という
通り名が付いていた。 

キムから日本の裏社会に指令が出ていた。 

「SANGAの宮園を1ヶ月以内に抹殺せよ」との指令。

以前と違い、表に出て活動を始めたSANGAは知る人ぞ知る存在だった。 

彼らにとってフウキの行動パターンは手に取るように把握できた。 


 SANGAになにかを察知したフウキから招集がかけられた。

「皆さん、忙しいところ集まっていただきありがとうございました。 
今日は緊急の波動チューニングをします。これが最後になるので一気に
引揚げますから100%僕に任せて下さい」

シバが何かを察知して口を開いた。 

「フウキくん何があったの?緊迫した雰囲気がするんだけど?」 

「気のせいですよ、シバさん。今日は全員、同時に波動チューニング
するので事務所を閉鎖して円陣組んで座って下さい」 

事務所は閉鎖され窓は閉ざされ薄暗くし、円陣を組んで座った。 

「各自、サンガの守護者を意識して繋がって下さい。その守護者と
一体になったら、そのままサンガの宮で集会をします。 
創造の宮のアメンに僕が繋がるので全員、僕に集中して下さい」 

しばらくして7人全員がひとつになり、意識はアメンと繋がり次元を
越え全員がある一定方向に向けて上昇した。 

大いなる存在と初めて繋がった瞬間であった。

全員が宇宙の始まりと終わりを体験した。

サンガの宮で7日間を過ごし事務所に戻った。 

誰も声も出さないまま目を瞑っていた。

フウキが口火を切った「今日はこれで終わります」あっけない言葉だった。 

それから1時間あまり声を発する者もなく事務所には沈黙が続いた。 

フウキ以外の全員は初めて強烈な体験を味わっていたのだった。

外はいつの間にか夕闇に包まれて、6人は現実の世界に戻る事が苦痛にさえ思えた。

我に帰った時にはもうそこにフウキの姿は無かった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-13

13、「山 河」

 摩耶の一件が過ぎ、別人のようになった久慈は今までとは180度方向性が変わり、

日本の主要経済はもとより各界にその影響が出始めた。 

今の久慈は虚を廃し実を取ると言わんばかりに、見せかけの強者の政治
や経済などは攻撃し、庶民の目線での行動を取るようになった。 

その分、久慈への風当たりも強くなってくるのも世の術。

ある時、闇の指導者マーラとアンラが来日した。

マーラが「ミスター久慈、あなたは今更なにをなさろうとしてます? 
築き上げてきた我らが地位を根底から覆す行動はどうしたものですか?」

「ミスター・マーラ、私は目覚めたんだ。この世に生誕してきた目的を。
しかも若干20代の娘に教えられた。
お二人さん・・・この久慈を青臭いと笑ってやって下され。人間は
どんなにつくろっても限度がある。

メッキはメッキでしかない、いつかは必ず剥げるもんです。
それを認めるのが怖いから、権力をかざし、時には恫喝して自分を
強くみせる。もうそんな世の中長くは続きません。

メッキはメッキです、無垢にはどうあがいてもなれない。 
この年になって気が付きましわい・・・これからは世の為になる
ことを少し考え実行します・・・」 

マーラとアンラはお互い目配せをし、黙って退席した。 

帰りの車で2人は「ミスター久慈も終わりましたね・・・」そう言い残し
日本を後にした。 

久慈は日本とアジアで力のある影の実力者達に招集をかけた。 
東京の某ホテルで78名の人間が出席し集会は行われた。 


 「今日はお忙しい中集まっていただき、ありがとうございます。
皆さんの耳にはいるのは時間の問題だと思いますので、噂が歪曲
しないように私の口から今までの経緯を述べさせて頂きます。 

この久慈健栄はアメリカのマーラと英国のアンラと決別いたしました。 
理由はこの久慈が組織エレボスの脱退を申し出たのが理由・・・」

会場はどよめいた。 

「まあ、最後までお聞き下さい。私はこの年になるまで、やりたい放題
のことをやってきた。がここに来て私は生き方を変えようと思い立った。

たぶん私の命は狙われる事にになるが、命ある限り社会への償いをしたいと
考えております。私は、しかめっ面で生きるより、笑顔で生きることを
選んだのです。たとえそれが短命に繋がっても私は後悔ありません。

すぐに私の後継者は決まるでしょうが、これだけは解ってやって下さい。
 
世の中のあり方は既に変わってきている、これからは力でどうにもならない
事が多くなる。改心は早いに越したことはない。それが久慈の言葉です。
ありがとうございました・・・・」

久慈は頭を深々と下げた。

会場から野次が「爺さん勝手なもんだな、散々好きかってしやがって、
何人の人間が泣いたと思うんだ。最後はみなさんさよならかよ!」

「爺さん、あんたのおかげで今まで泣いてきた人間にどう詫びるんだい?
スイマセンのひと言かい・・・勝手だのう」

久慈は罵声の飛び交う中会場を後にした。 

期を同じくして、アメリカのマーラから武闘派組織に指示が出された。 

「久慈健栄を抹殺せよ!」との指令だった。 

引退宣言の後、久慈は原宿の摩耶を訪ねていた。退院後初めての再会であった。 

「摩耶ちゃん元気かね?」

「久慈さんお久しぶりです」 

「今日は摩耶ちゃんと話しがしたくて、押しかけてきてしまったよ。 
迷惑でなかったら食事でもつき合ってくれないかな?」

「あっ、はい!わかりました、あと5分待って下さいね。
ひとつ仕上げたら行きますね・・・」

2人はレストランにいた。 

久慈が「摩耶ちゃん、その後身体の具合はどうですか?」 

「はい、天候が崩れたり雨の日は頭痛がしますけど、それ以外は身体の
痺れも無くなりました・・・快調です」 

「それは良かった、何かあったら相談して下さい。いい医者なら
いくらでも紹介しますよ」 

「ありがとうございます。それと、もうそんなに気を遣わないで
下さいね・・・久慈さんのせいではありませんから」

久慈は久々に摩耶の笑顔に触れ穏やかな心を取り戻した。 

食後のコーヒーを飲みながら久慈が呟いた。

「私も引退を申し出てきましたよ。長年にわたり私のワンマンで運営し、
まとめてきた組織でして、辞めるときは散々罵倒されました。 

当然と言えば当然なんだけどね。たぶん、その組織は黙って私を
辞めさせないでしょう。私は奴らの弱点を知りすぎてるしね」

久慈の表情が濁った。 

「たぶん、こうして摩耶さんと食事をするのも最後かも知れない。
本当にありがとう・・・久慈も最後は人間に戻って死ねるよ・・・」 

「久慈さん、そんな寂しい話ししないで下さい。これから、この国を変えて下さい」

久慈は黙って微笑んでいた。 

「ところで、今日はSANGAの皆さんへ私からのプレゼントを
持ってきたんだ。どうか受け取ってやってほしい」 

久慈はカバンから封筒を取り出した。封筒の宛名はSANGA様と書かれていた。 

「・・・何ですかこれは?」 

「まあ、黙って開けて下さい」封筒の中身は小切手だった。 
額面は一億となっていた。 

「久慈さんこんなの受け取れませんよ」

「摩耶さん、黙って久慈の話を聞いてくだい。これは汚い金でも
何でもない・・・私の持ってる多くの壺や絵画を売却したもの、
これでSANGAの運営に使って欲しい。
そして人材を育成して欲しいのです。SANGAはもう今までのように
影で燻ってないで大きく羽ばたいてほしい。 

先日、代表のフウキさんと病院でお会いしましたが、あの方は
悟りを開いた立派なお方だ・・・SANGAの意識をもっと多く人に
伝えて世の中を変えてほしい。
 
それには必ず事務局となる拠点が必要です。 
個人の駆け込み寺にもなるでしょう。その為に使ってほしいのじゃ」 

「でも私のいちぞんでは受け取れませんすみませんが・・・」

久慈の表情は真剣だった。

「摩耶さん私には時間がないんです。さっき話したように抹殺指示が
下れば、一週間以内いや今日・明日にも実行されます。 

やり方は色々あるけれど自殺死、もしくは脳梗塞や心筋梗塞など死又は
再起不能になるくらいの致命的な障害が残るような方法を使います」 

「脳梗塞?」 

「そうです、仕掛け人が手のひらに隠し持っていてターゲットと握手
など接触した時に、その小さい針でちくりとやるんです。瞬間薬が
注入され、3日ぐらいすると脳に血栓がつまり重い脳梗塞になり
事実上の人生は終わります。病気ですから誰も不信感を持ちません。

このような事例は過去にも沢山あります。私は組織を抜けた人間・・・
普通に人生を終われないんですよ。
 
それと、これは私から摩耶さんにこの度の、お詫びと今後の活動に期待を
込めて久慈の気持ちです」 

もうひとつの封筒を渡した、摩耶様と書いていた。 

「なんですか?」封筒の中身は三千万円の小切手だった。

「久慈さん私本当に困ります」

摩耶は、これを受け取ると久慈がこの世から本当に消え去るような
気がして受け取れなかった。

摩耶は涙が出て来た。心の中でフウキさん・・・サンガのトール様!・・・
摩耶の心は泣いていた。

「摩耶さん、私はこの世で長年生きてきて泣かせた人の数は数え切れない、
せめて最後は人の役に立つ事をしたいと願っているが今云った事情で、
もう私には時間がない。だからバトンをSANGAに託したいのじゃ。

最期ぐらい活きた金を使わせて下さい。久慈健栄最後のお願いです。

私の代わりに何とか世のために活かして下され。明日、朝一番で銀行
から引き出して下さい。 

もう時間がない、これは私名義の口座でないけれど調べが進むと奴らはどんな
手を使ってでも口座を凍結させようとする・・・だから早いほういい」

そう言い終えると久慈はレストランを出た。 

最後に摩耶に手を振ったのが、摩耶が見た久慈の最後の姿だった。

摩耶はシバとフウキに相談し、翌朝一番でシバとアグニの3人が
銀行から現金を引き出した。 

その数日後、久慈のいうように久慈名義の口座は国税局の指示で凍結された。
久慈が脳梗塞で倒れたのがその直後。危篤の情報が流れ、間もなく死の
知らせが報道された。


 SANGAでは久慈の遺言どおりされ、EIKEN基金として処理され、
SANGAの運営に使われた。

EIKENとはKENEI(健栄)のフォログラム。

東京の渋谷にSANGAの拠点を移し、フウキも札幌の自宅と東京を行き来した。

摩耶は久慈の心を変える切っ掛けとなった詩をSANGA事務所の
上座に飾ってもらうことにした。

野を駆けし我が山河
   今も青き我が心の山河
     京の都、比叡の山並み
                EIKEN

と書かれた大きな書が飾られた。 

毎月8日を「SANGAの日」と定め、その日は一日中瞑想と一般の
無料解放相談の日と定めた。
 
本当の意味は出資者、久慈健栄の亡くなった日が8日であった。
 それを知るのはSANGAの7人。全員胸の奥に封印した。

久慈の死後SANGAへの抵抗勢力は消え失せたがエレボスは声を
潜めただけで消滅したわけではなかった。 

SANGAの事務所に出入りする人間も増え摩耶が常勤するようになった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-12

12、「よみがえり」

 新生SANGAは今までとは違い、雪をかき分け這いだしてきた植物の
芽のような力強さを秘めていた。 

全員内から湧いてくるような計り知れないパワー。

インドラには静寂の中に佇む禅僧の組む禅ような気魄があった。 
ユーギルが常に付いていた。

アグニは、只ひたすらに絵を描き続けた。その絵は静寂の中の炎・・・
荒々しさの中の静寂という陰陽を上手く一枚の絵で表現していた。 
ミーミルの指導の下の作だった。絵は納品したその日に全てが
完売という日が続いた。

花梨は声音域が2オクターブ上がり自分の歌に広がりをみせた。 
イズンの指導のおかげで容姿にも、ひときは輝きをみせファン層も
年代を超え巾が広がった。

シバの書く小説は深みを増し、ひとつの中にファンタジー・推理・
恋愛という各分野が絶妙に絡み合った出来となり、売上部数はいっきに
跳ね上がった。智の宮ウルの影響が顕著に現れていた。

ラトリはエネルギーそのもの。彼に近寄る者は内から漲るパワーを感じていた。
ラトリ自身も自分の持つ得体の知れない力を感じていた。 
特にひ弱な老人や動物は顕著にその効果が現れて、ラトリが側にいる
だけで元気が出るのを感じた。
彼の後ろにいるのは、月の神オーズは月光浴という言葉があるように
月のもつ神秘の力を持ち合わせた神であった。

摩耶の詩と書はかつての繊細さを残したまま計り知れないエネルギーが、
こもった作風となった。
摩耶の書は有名な酒蔵メーカーのラベルやキャッチコピーに使用され始め
仕事のオファーも多くあった。トールは別名調和の神でもあった。

フウキはアメンの指示の元宮大工を辞め日本全国の神社の封印解きと、
人材集めの旅に出ていた。

SANGA7人はある意味人間を越えつつあった。 

7人のコンタクトは携帯電話を使用せず、ある種テレパシーによる
コンタクト方法をとっていた。

SANGA7人の間には時間と空間が存在していなかった。

今後の地球のコミュニケーションがそうなるであろう形態をSANGAの
7人は既にやっていたのだった。

一方、向井はフウキ以外のSANGAの全貌をすでに把握していた。 
久慈にSANGAの報告をし今後の対策を話していた。 

向井は「SANGAの弱点は年齢が若いということ、生身の人間まして
世の中の同年代は異性を意識し、幸せは異性との交際の中にあると思い
がちです。男女の恋愛を上手く利用しようという企みでございます」 

「それは解ったが、そして、結末は、どうしようと言うのじゃ?
失恋させ落ち込ませるっていうことか?その後は」向井は返答に詰まった。 

久慈は「向井君もう帰って良い君は脇の甘いのう・・・昔の君はもっと違ったがのう。
もろ刃の日本刀の様だった。長年ご苦労さん」 問答無用であった。

久慈は机上の電話の受話器を取り、傘下組織の渡辺敏郎を呼びつけた。 
渡辺は日本の極道を束ねる強者であった。

久慈は、ことの経緯を渡辺に聞かせた。 

渡辺は「久慈の親父さんから直々に話しとはビックリしましたよ解りました。
ここ日本は車社会です何時事故があってもおかしくありません。
車に気をつけないといけませんやねぇ・・・」2人は不気味な笑みを浮かべていた。


 ここは渋谷某所、シバが横断歩道を渡ろうと飛び出した瞬間、
左方向からトラックが信号を無視しシバの方へ突進してきた。

その刹那シバの身体が一瞬歪んだかと思うと、トラックの向こう側に移動していた。

一瞬の出来事にシバもトラック運転手も何が起こったのか理解できなかった。 

次にトラックはそのまま電柱に激突して止まった。

人混みが出来る前にその運転手は走り去り姿をくらましてしまった。

シバは全員にテレパシーを送った。

そのころ、同様の車による事故が5ヶ所で起きていた。いずれも間一髪で
助かったが余談は許されなかった。 

花梨と摩耶にフウキから「夜道に注意して下さい、一人では歩かないように」
との意識が伝わった。 

渡辺の妨害工作は次から次へと手を変えながらSANGAに降りかかって
きたが、いつも理屈に合わない方法で6人は難を逃れてきた。


 久慈の指令を受けてから半年程経ったある日、渡辺は久慈のオフィイスにいた。 

「親父さん・・・奴らはいったい何者なんですか?半年間指一本触れて
ないんですよ?・・・たかだか若ゾウ6人に私ら組織の人間がです。
奴らの正体を教えて下さい」 

「渡辺の手下の者でもそうか?実を言うと奴らは天界のサンガの加護が
あるのじゃ・・・」 

「親父さん勘弁して下さいよ、いくら、わしらみたいな法を外した
極道でも神さんには適いませんですよ。どおりで歯が立たないはずですよ」

「渡辺すまんかったなぁ、もう帰ってくれ。また何かあったら頼む」 

「へぃ、失礼します」久慈健栄は久々の憤りと敗北感を味わった。

数十年ぶりの屈辱であった。


個々の活動は勢いよく広まりTVやネットの世界では有名になっていた。
そんなある日のこと、摩耶が原宿の路上で作品を並べていると、一人の
紳士な老人が屈んで作品を手にとって眺めていた。

「これ、お姉さんのオリジナルかい・・・?」 

「はい!」 

「これは独学での作品かい?」 

「はい!お気に入りが合ったら云って下さい。それ以外にもお客さんの顔を視て
即興で作ったりもします」

「それじゃあ、その即興でお願いしようかな」

「かしこまりました。 そのイスにお座り下さい」

摩耶は自分のしていた膝掛けを老人に差し出し「お寒いですからこれ差し
支えなければお使い下さいね」

 摩耶はそっと差し出した。老人は素直に受け取った。

摩耶が筆にに集中し始めると「その者、久慈!」という意識が伝わってきた。
摩耶はそのまま筆を運んだ。「はい!どうでしょうか?」 

作品を手に取った久慈は心の奥で、子供の頃野山で駆け回っていた
自分のことが急に胸にこみ上げ熱いものが頬を伝わってきた。 

ここ何十年来忘れていた感触だった。

書の内容は

 野を駆けし我が山河
   今も青き我が心の山河
     京の都、比叡の山並み

久慈は黙したままお金を払い席を立った。

「おねえさん、ありがとうね・・・いまの私の心に染み入る詩です。 

よく比叡まで私の心読めましたね私は感動してます。この色紙は大事に
させてもらいますよ。心、洗われるようです。どうもありがとうね」

老人は丁寧に摩耶にお辞儀をした。

次の瞬間久慈をめがけて一台の車が暴走してきた。 

「危ない!」 

摩耶は久慈を両手で跳ねのけ、自分が車の前に飛び出し盾になった。 
車は摩耶を跳ねて止まった。

周りの悲鳴と共に道路には摩耶の血で染まっていた観衆が声を上げた。 

倒れた摩耶は薄らぐ意識の中その声が聞こえていた、と同時に血
でまともに見えていない目で老人を探していた。 

「お爺さん大丈夫?・・」

声になっていなかった。除々に意識は遠のいていった。

老人は我に戻り、状況を見渡すとそこに見慣れた人間の姿があった。 

それは久慈に恫喝された向井が呆然と立っていた。 

そう、向井は久慈を狙って車を突進させてきたのだった。
そこに摩耶が久慈の盾になるべくして割ってはいったのであった。

久慈はしわがれた声で「すまん誰か救急車を呼んで下され。そして警察も頼みます」

と叫び摩耶の傷口を止血していた。 

久慈はこの時、このいたいけな少女に自分がしてきた人生の愚かさを、
この短時間で懺悔させたのだった。 

摩耶は救急病院へ運ばれて応急処置室に運ばれた。 

警察はは摩耶の携帯アドレスから無作為に数人の名前をピックアップし、
最近の通話履歴から花梨に電話をした。

花梨は連絡を聞き一斉にSANGAにラインした。 

「摩耶が車に跳ねられ重体」

フウキから電話があった。

「花梨ちゃん、すぐに病院に向かって逐一状況を知らせて欲しい」 

「解りました、すぐシバさんとアグニくんとで病院に向かってみます」

3人は大学病院の救急病棟に走った。 

摩耶は救命の集中治療室で治療中。 

看護師の話しだと親族を至急呼んで欲しいとのこと。 

親は仙台だと話しをすると「今日がヤマ場です」との返答。 

シバは席を立ちSANGAのメンバーにラインした。 

「摩耶危篤、SANGA全員で光を摩耶に・・・」 

全員から応答があった「シバさん了解しました、摩耶さんのこと
お願いします。これから送ります」 

アストラルの世界では日本各地から摩耶の元に念が筋となった飛ばされていた。 

シバが待機している所に老人が立っていた。 

その老人が3人の所にきて「あのう、君たちはこのお姉さんのお友達ですか?」 

シバが「はい、彼女は摩耶と云いまして私達の仲間です」

「そうですか、私は原宿で彼女の詩を買いましてね。立ち上がって
帰ろうとした時に車が急に私をめがけて飛び込んできたんです。 

それを見ていた彼女が私を突き飛ばし私の盾になって彼女が跳ねられた
というわけなんです。 
そしてその車を運転していたのが私の知り合いでして、私を怨んでの
仕業のようです。本当に彼女には申し訳ないことをしたと思うております」

老人の手には血で染まった摩耶の書いた色紙が握られていた。 

「そうですか、あなたを養護するために自分を盾になったんですか・・・」 

シバをはじめ花梨とアグニは涙をながして下を向いた。 

「私はシバと申します、私達3人は摩耶ちゃんの仲間です」 

「私は久慈健栄と云います、この度は大変申し訳ないことを致しました」
深々と頭を下げた。 

3人は耳を疑った、そこに立っていたのはあの久慈健栄その人だったから。 

一見、品の良い普通の老人に見えた。 

シバが「いま、治療室で頑張っているのは摩耶という仙台出身の
書家なんです。数年前に上京して路上で創作活動をしてます」

なんで摩耶と久慈が?複雑な心境のシバはそこまで言うのがやっとだった。 

シバが話し終えると3人は摩耶に念を送りはじめた。

久慈は離れたところにある電話BOXで電話をかけていた。


 そこにフウキが現れた。シバがフウキに事の次第を説明した。 

「そうですか」フウキは言葉を続けた。

「摩耶の意識と繋がりました。摩耶は事故前からこうなることを全て
把握していたようです・・・」 

3人は意味が解らなかった。 

フウキが続けた「潜在意識下では久慈と摩耶の間では了承済みの出来事
だったという事。つまり、こうなる約束だったということ。 
これを契機に久慈さんは大きく変わってくるでしょう。
久慈さんが変われば日本はおろか世界が変わる可能性もあるという事」

花梨が「摩耶ちゃんはどうなるんですか?」2人も頷いた。 

「明日になれば意識も戻りますよ。回復もことのほか早く医者を
ビックリさせると思うよ。摩耶は今天界のサンガでバージョンアップ
しようとトールの下で頑張ってるよ」 

3人はフウキの言葉にほっとひと息ついた。

久慈が戻ってきた。 

フウキが「僕はSANGAのフウキと申します」 

「SANGA?」久慈は耳を疑った。 

「SANGAってあの歌手だとか小説家のグループの?」 

「はい、そうです。私がSANGA代表の宮園風輝と申します」 

「そうですか、君たちがSANGAの方達ですか・・・」

「いや、数々の失礼なことを、あなた達にしてしまったようですね。
私も好い経験させてもらいました。 
特に摩耶さんは私の眠っていた心を何も語らず書だけで刺激してくれました。
それだけじゃない、こんな私の身代わりのようなことまでされては、
この久慈は摩耶さんになんとも言いようのない・・・・」 


 言葉に詰まった久慈の目から止めどもない涙が溢れていた。 

その涙が全てを語っていた。そのまま無言で久慈は立ち去った。

翌日、摩耶の意識が戻った。

意識が戻った摩耶を確認すると、母親は安堵感からかその場に倒れ込んでしまった。 

「あっ!お父さんお母さん・・2人揃ってどうしたの?」摩耶のか細い声だった。

父親が「お前は老人を守るようにして自分から暴走してきた車に
跳ねられてしまったんだよ。憶えてないのかい?」 

摩耶は遠い意識の中から微かにそのことが蘇ってきた。 

「あのお爺さんはどうなったの?」 

「転倒して軽いかすり傷を負っただけらしいよ」 

「・・・よかった」摩耶は自分のことよりも久慈のことを心配していた。 

病院から久慈のもとへ、摩耶の意識が戻ったことの報告がなされた。 

SANGAの仲間も病院に集まり、摩耶への気遣いのため遠くから顔を見せて帰った。 

その後、久慈が沢山の花と果物を手下の者に持たせて挨拶に来た。 

その光景を見た摩耶は「あっ!お爺さん元気で良かった・・・」
第一声が久慈を気遣う言葉だった。 

久慈はまたも摩耶の言動に涙していた。 

「摩耶さん、昨日はありがとうございました。あの車は私を狙った者の
犯行だったんです。こんな見ず知らずの老人のために、摩耶さんは身を
挺して護って下さった。お礼の言葉もありません。ありがとうございます」

「大丈夫です。私はすぐに元気になります、だって若いですもん・・・」

その後退院までの一月間久慈は毎日病院を訪れていた。 

摩耶と会話をしてると自分の忘れていた純真な子供の頃の気持ちが
蘇ってきた。久慈自身も不思議な感じがしていた。

「今日はこれを持ってきてしまったよ」久慈がカバンから取り出した。

それはあの時の色紙。折れ曲がった跡が残り薄汚れていた。

「あ!汚れてる。新しいの書きましょうね」 

「いや!これが私の宝なんだよ。この色紙があったおかげで私は救われた。
色んな意味でね・・・掛替えのない宝なんだよ。いつもカバンに入れてあるんです。
こんな老人がおかしいでしょ・・・笑ってやって下さい」 

「お役に立てて嬉しいです」 

なにげない会話だったが、今の久慈にとっては至福の時間だった。 

以前の久慈からは誰も予想できなかった。 

摩耶は無事退院の日を迎えることが出来た。 

その日病院には母親とアグニがいた。

久慈はタクシーを手配し、治療代など全ての支払いを済ませ玄関で待っていた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-11

11、「意識のチューニング」

 久慈の配下にあたる向井政晴から久慈に連絡があった。 

「久慈様、兼ねてから久慈様がおっしゃっていた反勢力の全貌が見えてまいりました」

「で?・・・・」威厳のある久慈の声。 

「組織名はサンガといいまして、わずか7名からなる集まりでございます。
今のところトップの人間の正体は全く解りません。 

残りは今流行の花梨という女性歌手と女マネージャーの摩耶。 
小説家の芝山という男と原宿で絵を描いている若者具志といいます。 

それと今年沖縄から札幌の大学に入学した男ですが名前は宮越。もう一人は不明です。

計不明者2人と今いった5名からなる組織で組織名はサンガでございます」

「馬鹿者。この、わしに報告するのに不明者がございますとは、
どういう事なんだね?・・・君はガキの使いか?」 

「た・大変申し訳ありません・・・すぐに」 

「まあよい。若造のしかも7人とはのう?・・・・」


「はい、それが不可思議なんです。 歌にしても本にしても、
絵にしてもメッセージせいが全く見あたりません。 

もっと大きな組織で影響力のあるところは幾らでも存在します。 

私の印象では単なる同じ意識を持つ、ネットか何かで知り合った
集まりではないかと思われますが。 

久慈様がサンガを意識されるほどの事ではありません。久慈様の下で
働いて40年、初めての経験です」

「向井もまだ解ってないようだのう・・・まあよい。
 とりあえず、いつものやり方で始末せい。小説家は電車で痴漢決定じゃ。
 週刊誌とテレビを通じて大きく騒ぎなさい。

その梨花という歌手とマネージャーはダブルブッキングの2回もして
くれりゃあ、大きな借金を負ってしばらくは立ち直れんじゃろうて。

残るは取るに足らんからそのままで良い。くれぐれも悟られるなよ。
解かりましたね・・・」


「はい、かしこまりました」

向井はその場を離れると事務所に戻り部下に指令を発した。

2人のやり取りをサンガの世界から地の宮の神官ミーミルはじっと
見下ろしていた。 

「とうとう久慈が動き出したようだ。相変わらずのやり方か」

ミーミルは憂いの帯びた眼差しでみつめていた。


 ここは京王、井の頭線。シバは渋谷駅から吉祥寺に向かっていた。 

電車が高井戸駅に差し掛かった時突然、シバの胸にある意識の言葉が
響いてきた。

「シバよ、聞きなさい。私は天界サンガの者。これより先は両手で
つり革を掴みなさい。今後、立って乗り物を乗るときは常に両手は上に」

そう、言葉にならない意識が伝わってきた。シバは指示に従って両腕は
絶えず上に上げていた。

同じ車両に乗り合わせていた久慈傘下の仕掛け人3人はタイミングを
掴めず業を煮やしていた。 

彼らの計画は女性がシバの横に立ち小さい声で「やめて下さい」と2回云う。
そこで側にいる男がシバの手を掴み上げ「やめろ!」と大声で騒ぐ。 
もう一人も騒ぎ始める。男2人と女性の3人は途中の駅でシバを下車させ
警察を呼び女性に被害届を出させ、男2人は目撃者として証言するという手はず。

ところがシバの両手は上げたままである。3人は予想外の展開に苛立っていた。 
シバは指示に従った。その後もシバは列車に乗る時は必ず、座るか混雑を
避け空いている列車の時間帯に移動する事を心がけた。 

一方、摩耶もサンガのエイルから「ダブルブッキングに注意せよ」と夢で
何度か伝えられていた。シバからも久慈が動き始めたらしいから注意
するようにと連絡があった。

彼らはしばらく注意しながら様子をみることにした。

向井が久慈にその後の報告をしていた「久慈様、どうもあの2人は警戒
してか罠にはまりません。いっきに闇から闇に葬りましょうか?」 

久慈はタバコをくわえながら「君が弱音を吐くのも珍しいのう・・・
ところで奴らのトップは掴めたのかな?」

「はい、それがまだでございます」 

「何故だね?」

「あ、いや、申し訳ありません。今度お会いする時はハッキリしてる事と思います」

「思います・・と云ったか?この私に?・・・」向井は失言したと顔を青くしていた。 

「それにしても不思議よのう?実体があるようで無いような連中か?
相手は幽霊か何かですかねぇ?いいですか、次回、会う時までにハッキリしない
場合は、あなたには今までと違う仕事をしてもらう事になりますからね」

向井はハッキリと久慈に恫喝された。

自分の事務所に戻った向井はその苛立たしさを部下数人に浴びせていた。 

「貴様らは何をやってるんだ!おかげであの久慈の糞じじいに恫喝されたんだ。
このわしが・・」3人の部下は持っていたステッキが折れるまで殴られた。


 フウキからラトリ伝令が入りSANGAが札幌に集結された。 

フウキが「みなさん、今日は忙しい中、お疲れ様でした。緊急招集を
かけた理由は既にエレボスが動き出しており、躍起になってこの
SANGAの実体を探しているようです。

今のところダメージは無いけれどチョットした油断が命取りになります。 
たぶん実体を掴むまでそう長くはないでしょう。 

それで今日は皆さんに、いっきに波動チューニングして天界のサンガと
繋ぐパイプを太くしようと考えてます。 

シバさんも今よりもっと太いパイプで繋がりましょう。 

皆さんは、まず自分に揺るがない芯を作る瞑想をしてもらいます。 
そして僕が隣の和室で一人60分づつ個人セッションします。 

その内容は皆さんの波動チューニングして、いっきに天のサンガに
体外離脱させ、サンガ13の宮のどこかにパイプを作る作業をします。 

結果、1回でも大きく繋がると、この世界に戻ってからも天のサンガ
からの指示を意識的に受信できるようになるんです。

当然今までも繋がっていますが今度はハッキリと自覚できるようになります。
今までは意識を集中させてから繋がってましたよね、今度からは意識した
瞬間に繋がって会話できます。時間差はありません。 

アナログとデジタルほど違います。いやそれ以上です。まずは、
そこまでで今日は終了します。で、意見や聞きたい事ありますか?」

インドラが「ここまでは理解できましたが、その後はどう考えてるんですか?」 
「うん、今日のチューニングが終わり次第で話し合おうと考えてる、
これは今まで話してないことだけど、みんなの意識が同じくらいの
レベルでないと実現できない事ってあるんだ、だから今回集まってもらいました」

全員がフウキの前に座った。部屋はローソクの明かりと微かな、
お香の香りが漂った異空間の感があった。 

フウキが「まずは全員深い深呼吸を3回して下さい。では軽く瞑想に
入ります。鼻から息を大きく吸って5秒止めて下さい。
意識は鼻から吸って尾てい骨に息を降ろして止める。
 
その後静かに背骨を登って口からゆっくりと吐く、吐き終わったら、
また息を5秒間止めて下さい。約30分で終了します。では開始して下さい」

部屋にはメトロノームが規則正しいゆっくりとしたリズムを刻んでいた。

SANGAの面々は日頃から瞑想は馴れていたので全員素早く深い瞑想に入った。

「はい、解いて下さい。ではアグニ君を残して全員退室願います」 

部屋ではフウキとアグニが対面して座り、10分ほどの瞑想に入った。 

「アグニくん座蒲団を枕に仰向けになって目を瞑って」 

アグニは従った。

「じゃあ、身体から抜けてホテルの屋上に出ようか?何が視える?」 

「近所のビルの屋上が視えるよ」 

「じゃあ、もっと高く上がってみようか」 

「はい、北海道が視えます」

「じゃあ、もっと上行こう」 

「地球が下に見えます」 

「次はアグニのガイドにサンガに誘導願って。ハイ!」 

次の瞬間アグニはいっきに次元を越え白いドームの様なところを
通り抜け白く光り輝くサークルのような所に居た。 

正面には10数人の意識体があった。 

隣にはフウキの存在も感じられた。

正面の意識集団の中からミーミルが語りかけてきた。 

「アグニ久しぶりです、私は汝が地球に生まれる以前から汝のことを知っている者、
これからは私ミーミルが守護する。フウキを中心に働いて下さい」 

アグニは深く頭を下げたと同時にミーミルの意識と重なり合った。 
止めどなく表現しようのない歓喜の涙が溢れてきた。

10数人の意識体から祝福のバイブレーションが2人に注がれた。 
サンガでの学習経験は3日程続きアグニの意識はこの世界の身体に戻った。 
その間、この世界では30分程の出来事だった。

フウキが声を掛けてきた「どう?」 

「はい、ハッキリしたビジョンが視えました、夢とは全く違う感覚ですね」

「それでは誰とも話さずに自室に戻り、今の経験に慕っててよ。 
食事の時間前にコールするから」 

「はい、ありがとうございます」アグニはそのまま無言で退室した。

フウキがみんなに語った。 

「今後この部屋から出た人は、まっすぐ部屋に戻ってもらいます。 

人によって感じ方が違うから、他の人に意識を植え付けないようにするためです。
食事の前に皆さんにコールしますから。つぎは、花梨ちゃん入って」

フウキの誘導のもと、花梨の意識はサンガにあった。 

イズンの意識が花梨と重なっていた。サンガの空間には、ほのかな花の
香りと静かな音楽が流れていた。天国を絵に描いたような風景がそこに
あった。花梨も3日間学習し戻った。 

「次はラトリ入ってきて」

その後全員が終えたのは夜の10時を過ぎていた。

7人全員が集まった。

フウキが口火を切った「今日で天界のサンガと太いパイプが出来たし、
それぞれのガイドも決まった。従来通り各々の活動して下さい」

フウキはゼンマイ仕掛けのロボットが全部のパワーを使い果たしたかの
ようにその場に倒れ込んだ。

「フウキさん・・・」

フウキは翌日の夕方まで部屋で寝ていた。側では摩耶が付き添っていた。 

シバの指揮の下全員チェックアウトを済ませ解散していた。 

「うっ!摩耶かい?」 

「フウキさんお目覚めですか?」 

「嗚呼、よく寝たよ。パワー全開だったからね、でも、もう大丈夫だよ、
摩耶ちゃんありがとう。ところでみんなは?」

「もう夕方の5時ですよ昨日から19時間近く寝てたんですよ」 

「そんなに寝てたのかい?・・・」

「みんな宜しくって言ってました。今頃はみんな家路について活動してる頃ですよ」

「ごめんね摩耶ちゃん」 

「いいえ、どういたしまして」

「ところで摩耶ちゃん・・・僕腹減った」 

「もう大丈夫ですね!」2人はチェックアウトし食事に向かった。 

食事をしながらフウキは「ところで摩耶ちゃん、何か好い夢視たかい?」

「ハイ!今朝、龍の夢視ました」 

「そうかい、龍は未知なるパワーの証明でもあるんだ。内在するパワーが
漲ってる証しだよ」

「パワーですか?何か夢って面白いですね」 

「そうだね、脳は眠ることがないから、肉体が寝たと同時に別世界に
入っるんだ、全く違う夢が重なることがあって支離滅裂に思えるけど、
ひとつの夢で2つの違う世界を視るからなんだ。面白いよね」 

2人は食事を済ませて別れた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-10

10、「シバとアグニ」

 アグニは活動拠点を原宿に移しその界わい複数の店舗に自作の絵を
置いてもらい、その売上で生計を立てていた。 

アグニの絵は沖縄の海を連想させるような明るい海の絵が多く
「見ているだけで癒される」と高い評価を得ていた。 

原宿に集まる若い層に人気が集中していたが、最近はアーティスト風の
人間が作品を購入者も多く見受けられる。

感性を大事にする人はアグニの作品に魅力を感じ、年齢や性別問わず
購入する人も多かった。

アグニは仕上げたばかりの作品を持ってお得意さんの雑貨店にいた。

「こんにちは」 

「おう・・・アグニ君、君の絵は評判良いね。ここに飾った3点の絵は
すぐに売れてしまったよ。次回入荷したら連絡欲しいってお客さんまで
いるんだよ・・・良かったね」


「はい、ありがとうございます。店長さんのおかげです・・・
感謝しております。頑張りますのよろしくお願いいたします」

「なに、僕は君の絵が好きだから店に置いてるだけだよ。頑張って良い
作品を作って。アグニ君の作品展開催したり、画廊に置いてもらえる
ように頑張ってよね・・・君が有名になったら僕もうれしいよ・・・」 

「はい、ありがとうございます」 

「これが3点の売上げね、はい」手数料を引いた代金を店長は支払った。 

アグニの絵は販売金額の30%を店側に支払い、残りはアグニの収入
という取り決めで置かせてもらていた。

原宿という土地柄ファッション目当ての客の多い中で絵を売るという
事は思ったより楽ではなかった。 

そんな中で自分の絵にリピターがあると云う事はアグニにとって大きな
喜びのひとつであった。

そしてアグニの最近の構想の中にフウキから聞いている日本の
近未来の姿や潜在意識の表現や秘めた可能性、心の奥深い表現
みたいなものを絵で表してみたいと考えていた。 

絵のことでは摩耶とも連絡を取合いながら話し合う機会が多くなった。
沖縄から上京し、個性的な人間の多さに心躍らせていた。 

そう、アグニは人間ウォッチングがすっかり日課になってしまった。

暇なときは原宿・渋谷・銀座・六本木や巣鴨にスケッチブックを片手に
出かけていた。

沖縄では風景画を中心に書いていたが、フウキとの出会いから
人物の奥深さに触れたアグニは表現の自由さを学んだ。 

御茶ノ水駅前のカフェ・フォルテッシモでアグニとシバは待ち合わせていた。 

 シバは今、執筆中の小説の大筋を聞かせ、その本の表紙と挿絵をアグニに依頼していた。

一通り仕事の話しを終えるとシバが「ところでアグニ君最近、変化は無いのかい?」

「変化って・・・?」 

「意識変化のことだよ」

「SANGAの仲間と会ってる時は色々なビジョンが視えるけど、
僕だけでいると何の変化もありません」 

「そっか、僕は時間が早く感じられて仕方がないよ」

「あっ!それは僕も感じます。最初は東京は刺激が多く、沖縄はのんびりだから、
その違いかなって思ってたけど、普段、家で絵を描いてる以外でも早く感じます」

「これにはどうも事情があるらしいよ・・・」 

アグニは目を丸くした「どういう事ですか?」

「だんだんと今の時間の観念が崩れ始めるらしい。先日、フウキ君から
これからの地球の在り方を聞いたんだけど・・・この地球はどうも
パラレルの地球に分裂するらしい。

今までの在り方を良しとするタイプと、アセンションする新しいタイプ。
この二つに地球は移行するらしい。 

新しいタイプはバージョンアップされていて神に近い人間みたい。 

今までは思った事が形になるのに一定の時間を要していたものが、
その世界は即形になるので、思いと現象が一体って事みたい・・・

つまり時間軸がない世界だよ」

「嘘偽りのない世界か?・・・理想の世の中ですね」 

「そうなんだよ。地球は過去に6回そういう事があって、今度で7回目
らしいよ。でも、これが最後らしい、その後は無いって聞いたよ。
7が完成で完結なんだってさ・・・」

「そうなんだあ。今の地球社会の在り方って偽りだと思ってないけど・・・
すると・・・今のままで良しとする人間はどうなるのかな?」 

「このまま欲望のみがデフォルメされて、争いや戦争のネガティブな
想念の地球に移行するらしいよ。今の地球に近いらしいけどもっと
個人主義っていうか協調性が無い世界みたい。

当然、自然界にも反映されるから地震や考えられない自然災害が
当たり前に起こるらしいんだ・・・」 

「地獄絵図みたいですね」

「大変な世の中になるらしい」シバが囁いた。

シバの話しは続いた「それでエレボスは最後の悪あがきを企んで、

自分たちの世界に引き込もうと奮闘してるらしい。

天界のサンガの影響を受けた魂との駆引きが水面下で繰り広げられて
いると云う事。で、最終的には新しいひとつの世界に移行し、
その世界は時間差が無い世界で、原因と結果が同時にあるから
表と裏も同時に存在するんだ。 

なによりも大きく違うのは、人はみな神に近くなるという事。
分離から合一というわけらしい」


「・・・でも、現在はそんなに変わったと思わないけどシバさんは
どう思われます?」 

「表面ズラは大きく変わってないけど、目に見えないところで何かが
大きく変わったと実感してるんだ。 

さっきいった時間差が短くなったのと、今まで眠っていた事がだんだん
表面に出て来てる感じがする。

個人的にも。天の岩戸が開いてアマテラスが出て来たって云う感じだよ」

「?・・・すいません、具体的に?」 

「うん、僕の知り合いでクニオっていう友人がいるんだけど、ごく普通の
サラリーマンでそいつが急に歌を作り始めたんだ。作詞作曲してるんだよ。

一日で2曲っていうペースでもう38曲になったって云ってたよ。 

どんな感じ?って質問したら『曲が勝手に湧いてくる』って云ってたよ。 

クニオは子供時代から音楽は聞きはするけど楽器や、それらしい事
やってなかったんだぜ。それだけじゃないよ。

もう一人の友人はヒデミツっていう男なんだけど、こいつは高校の
教師なんだけど、いきなり株相場に手を出し始めたんだ。  

それがテレビの株式相場をたまたま見ていて、この会社の株が値上がり
するって閃いたらしい。そしたら現実になった。

そんな事が何回か続いたので去年の夏に支給されたボーナスから
30万円で2社の株を買ったらしい。 

それが3ヶ月後には52万円に跳ね上がったらしいよ。 

そいつも真面目で株や相場をやるようなタイプじゃないし、実際、
株相場に興味なんか無かったっていうんだ。それで2人にはある共通点
があるんだよ。何だと思う?」 

「共通点???・・・解りません」 

「2人とも、ある日突然閃いたという共通点があるんだ。面白いと思わない?

それでフウキ君に聞いたら2人は前世でその仕事に携わってて今になって
潜在していた能力が表面に出て来たって云ってたよ。

これからは潜在意識も表面意識もひとつになるからその証しかもしれない。 
たぶん、この2人は氷山の一角で、もっと沢山の人が同じような経験してると思うよ。

そしてフウキ君が云うように、これからの地球は表裏一体になるんだと思う」

「面白い・・・表裏一体か?・・・」

「ところで話し変わるけど、エレボスの影は見えてない・・・?」 

「僕は絵だけの表現で、しかも原宿だけだから全然そんな障害めいた事は無いですけど」 

「そっか、僕のほうはやたら原稿のチェックが多いんだ。思想や社会
風刺めいた事を書くと途端にチェックが入れられるよ。 

こっちは、めげないで違う言い回しを使ったりして誤魔化すけど、
着実にエレボスの影響だと解るよ。

こっちにはSANGAが付いてるから心強いけど・・ハハハ」

2人はこれから起こるSANGAへの妨害を全く予想していなかった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-9

9、「沈黙の勢力」

 久慈健栄はニューヨークのとある高層ビルの一室、エレボスの影響を
受けた久慈・アメリカのマーラ・イギリスのアンラ。世界を陰で仕切る
3人が同席していた。 

 久慈が「最近、世界の数ヶ所で我々の反抗勢力が動いているようだ。 
今のところ5つの国からの情報が私のところに入っている。主導者の
名前はまだ挙がってないが時間の問題だろう。取るに足らない。 

いつもの事だと思うが、違うのは直接的な行動でなく、どうも潜在的に
働きかけている風が感じられる」

マーラが「こちらもCIAに調査させてるが、今回は今までと違い少し
解りづらいようだ」 

アンラが続いた「どんな勢力であれ問題はないだろう。金と権力で動かん
人間はいないし出会ったことがない。それで動かん人間はハッキリ言って
取るに足らない存在だ。もう少し様子を見ようではないか。 

それよりも、ここらで中東辺りで事を起こし、武器をさばいて金にせんと
ならん。マーラさんには、今まで同様手を打ってほしいのだが。 
久慈さんも協力願いますよ」

二人は頷いた。

程なくして中近東で戦火が登った。

日本は桜まっ盛りの季節となり、ここ札幌の街も遅ればせながら桜の花の
咲く季節となった。 

札幌の中心部を抜け、裏参道を通り円山公園から北海道神宮へ向けフウキは歩いていた。 

公園では桜の花の下で焼き肉をしながら酒盛りをしている。

この光景を見ていると・・・池田棟梁の顔がよぎった。ちょうどこの季節だった。
子供を車から守ろうとして自分を盾にして死んだ棟梁。

フウキはその事を期に覚醒という体験を経て、様々な出会いと気付きを得た。 
又ここに立っている自分自身の運命を再確認していた。

神宮での参拝を終え、来た道を戻っていると突然ある意識が伝わってきた。

「私はアマテラスのトール。あなたに育てて頂きたい人がいます。
その者は空・星・自分・未来」と直接意識に語りかけてきた。

フウキはしばらくそのキーワードの意味が理解出来ずにいた。

「その者は空・星・自分・未来」か?

「空」青・宇宙・地・雲? 

「星」惑星・月・宇宙? 

「自分」自我・フウキ・ハイアーセルフ? 

「未来」過去・明日・希望・来世?・・フウキにはしっくりこなかった。


 ある時、花梨から携帯に電話が入り、ミルキーコーヒーで待ち合わせた。
そこにはインドラとラトリも同席していた。 

花梨が「フウキさん、呼び立ててごめんなさい。ちょっとした相談があったの・・・」

「なに?」

「インドラとも話してたんだけど、最近、不可思議な事が多くて。
何だろうと思っています? 
例えば興業先から突然の解約やコンサート依頼があって準備してたら
直前になって突然、依頼主からのキャンセルなど立て続けに続いたんです」 

「うん、まだハッキリしないけど何かが動いている可能性もあるから様子みようか。
何らかの勢力が動いているとしたら向こうからコンタクト取ってくるからね。

あったら久慈の勢力が加わってると考えられるよ。出方を見た方がいいね。
もしかしたらシバさんにも何かの動きがあるかも知れない、その時はまた考えよう。

彼らはひとつの道筋を打ち立てるんだ。とっても甘く、楽しそうな道筋を。 
そしてそれを断っても違う逃げ道というか2番手も用意してあるんだ。

ちゃんとね。 

どちらを選んでも計画のうちなんだ。気が付いた時には自然と彼らの
手中に収まってるっていう事。人間の心理をついた巧みなやり方だよ。 

彼らのやり方は無理のない誘導で合法的なやり方。それと人間の弱みを
見つけるのが非常に上手い。コンタクト取ってきても時間を置くこと。
そして感情的にならないでね」 

インドラが「私達、メッセージ的な歌詞や言動は無いはずなのに何故?」

「彼らも無知じゃないよ。君たちの波長にどんな力があるか知ってるから
対抗策を考えてるんだ。そういうのを見極める力があるんだ。 
むやみに世界を仕切っていないよ・・・

必要なのは何があっても自分の中心線がぶれないようにね。
ぶれそうになったらSANGAの5文字を思い出してね・・・」

3人は気を引き締めようと思った。

その後、4人は食事をしにススキノの近くにある小料理屋リンちゃんに行った。 

店には男性客が1人いて、いつものようにママはにこやかに出迎えた。 

「あらフウキさん、久しぶりね。元気にしてたの?」 

「ママさん、久しぶりです。今日は4人です。美味しいもの食べさせて下さい」

「はいよ!」 

フウキは3人に「ここは死んだ棟梁が何回か連れて来てくれた店なんだ。
みんなも使ってやってね」

花梨が笑顔で「宜しくお願いいたしま~す」

4人は和やかなムードで食事をしていた。 

ママはその男性客と話していた。その客が席を立ち4人の後ろを通った
瞬間フウキは何かを察知した。 

「ママ、彼は何やってる人なの?」

ママが言った「フウキさんも解る?あの人の気配。今日、初めていらした
お客さんなのよ。星さんという名前なの・・・」

星が席に戻ってきた。 

ママはおしぼりを出しながら言った「星さんはお仕事、何なさってるんですか?
差し支えなければ・・」

星は笑顔で答えた「僕の職業は、なかなか解らないと思うよ。もし一回で
当てたら焼酎のボトル2本キープします。さて何でしょうか?・・・」

ママは視線を落とし右脳に集中し始めた。 

「・・・あのねえ、大きな建物と黒板のような大きく黒い板が視えるわ・・・
前に座ってる人は私服・・・大学か専門学校かそれに類する職業か??・・・
高校より上の学校の先生か講師?」

星は目を丸くして言った「何で・そこまで解るの?」 

ママはフウキに目をやった。

フウキの顔がにやけていた。 

星は言った「噂には聞いていたけどママはそこまで視えるんだね」 

「あらっ、なんの噂なの?」

「ススキノの外れにある小料理屋リンちゃんのママは面白いっていう噂」 

「私が面白いって?やだ、私は芸人じゃありませんよ」

みんな笑った。 

「ところで正解は?」

「僕は大学で天体物理学を教えてます」

ママはビールをつぎながら「あら難しそう。まだ若いのにご立派ね・・・」
 
「いやぁ、珍しい分野だから札幌ではこの分野を教える人が少ないんですよ。
だから僕みたいに若くても先生やれちゃうんです・・・」

横で聞いていたフウキが珍しく口をはさんできた。 

「僕は宮園風輝と言います。突然すみません。たまにこの店を利用する
者ですけど、星さんは宇宙と自分いや宇宙と人間のかかわり、
人間の核構造と太陽系の類似などに興味を持ってませんか・・・?」 

フウキには珍しく、いきなりの質問だった。星は真顔になってビール
飲む手を止めた。 

「やっぱりですか・・・いやね、今日ここに来たのは理由があったんです。 
噂を聞いたというのはじつは嘘でして・・・
ひと月程前から夢でRINって3文字を視るんです。このひと月で5回も視ました。 

RINって何だろうな?って考えてたんですよ。 

そして今日の昼間、仕事でこの店の前を通ったんです。 

そしたら字は違ったんですけどリンちゃんって看板が目に入り、
チョット気になったから暖簾を潜ってみたんです。 

それがこんな興味の湧く人達に出会うなんて思いもよりませんでした。 
ママさんの観察力や宮園さんの桁外れの洞察力に僕は今ビックリしてます。 

いや・・・ハッキリ言って今・僕は感動さえしてます。 
もう少し宮園さんや皆さんと話しをさせてもらって宜しいでしょうか?」

ママが「ここはね、そういう人達が立ち寄る場所なのよ」そう言いながら
ビールジョッキーを出してきた。

そして星の音頭で乾杯をした。店はいっきに緊張が解けた。

それから6人はしばらく話を続けた。 

花梨達3人のフウキとの出会いの事や、ママのシリパの会など時間は瞬く間に過ぎた。

星は最後に「今日は貴重な経験をさせてもらいました。普段、職業上、
言葉を選ぶ立場にあります。目に見えない世界の話しは思っていても
言葉で表現するのは御法度なんです。 

でも今日はスッキリしました。僕の思ってた世界を現実に行動している
人がおられるとは感激です。この出会いやSANGAの事、そしてこの
店の事も同人誌で取り上げたくなりました。 
よろしいでしょうか?当然、実名は一切出しません」

皆、頷いた。  

星は続けた「皆さん、今度この店に集まる事があったら是非、僕にも声を
掛けて下さい。今日は本当にありがとうございました」

星もフウキも謎が解けた夜だった。

後日、2人は何度か会い、フウキはスピリチュアルな世界をレクチャーをした。    

 そして星の云っていた同人誌が発刊された。しかし、その同人誌が
やがてエレボスが支配する久慈健栄の配下の人間の目に止まる事となり、
日本での妨害勢力はSANGAの面々の知らないところで着々と進行する
予定だったが、闇の権力に入るSANGAの情報はいつも信憑性に欠ける
ものであった。

SANGAは講演会や集会のような表立った活動の記録が皆無で、
冊子や会報の類も出していないので実態が掴めないでいた。

花梨とシバの名前はリストに上がっていたが、

その内容は決して久慈健栄に影響を及ぼす勢力といえない為、闇勢力は
正直いって業を煮やしていた。 

これはSANGAの思惑通り。

そう、SANGAの基本は目に見えない世界から人の意識を変える事を
目的としていた。だから表だった活動が無いのであった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-8

8、「東京集会」

 ここは札幌文化会館小ホール。花梨にとって初となる単独ライブ
が始まった。オープニング曲は、大今ブレイク中のバラード
「AKATUKI」が演奏された。 

作詞、摩耶・作曲、花梨の三番目の作品だった。ジャケットにはアグニの
イラストが描かれ、SANGAの仲間初の共同作業となるこん身の作。

楽屋ではインドラが花梨のマネージャーとなり、まとめ役として活躍していた。

我の強いミュージシャン同士の意地の張り合いも、インドラがそこに
いるだけで自然と心穏やかにまとまり音楽と一つになれた。 

花梨はその光景を眺めるのが好きで楽しんでさえいた。

「フウキさんが言うようにインドラって面白いよね!」 

毎度の会話であった。シバはエッセイや小説などで事あるごとに、

みんなを取り上げていた。

鹿児島の高校を卒業し、フウキの住む札幌の大学をあえて選んだラトリは、
今やSANGAの事務局的な役割をはたしていた。

フウキ曰く「ラトリは無駄のない的確な情報処理能力があり、自分の思考
を入れず素直に人の言葉を伝える能力に長けているので、ラトリの言葉は
そのまま素直に受け取って構わない」と他の仲間に話していた。

花梨の歌声は日本全国子供からお年寄りにまで浸透していった。
本人思いはあくまでもライブでインドラから伝わる癒しの波長と花梨の
歌声に触れて欲しい・・・というものだった。 

シバからラトリに「今年は東京でSANGAの集会をしたい。
それで良ければ宿泊施設をリザーブしたいと思う。日時は忙しい
花梨のスケジュールに合わせたい」との申し出があった。

忙しい花梨も一年ぶりのSANGAの再会を楽しみにしていた。
スケジュールの合間をぬって東京でSANGAの7人が集結した。

ラトリが進行した。
 
「昨年、鹿児島で集まりSANGAを結成してから一年が
経過しました。この一年間大変ご苦労様でした。まずは、
フウキさんからひと言お願いします」
 
「はい、一年間お疲れ様でした。SANGAの影響は僕の予想より早く
進行しております。僕はアストラル意識を視ています。

この世の現象と違います。このような動きは世界7ヶ所でほぼ同じ
時期に発生した動きです。神の仕組みって凄いです。

SANGAと同じ志を持った集団がここ以外の地域に6集団あります。 

我々はこの一年間である程度の方向性を掴めたと思いますが、それは
反対意識の妨害が無いからことのほかすんなりと出来た事、そろそろ
反対の勢力は気が付く頃だと思います・・・
 
姑息な手を打って攻撃してきますので、皆さん心して下さい。 
彼らは巧妙にしかも合法的にやってきますから、自分の心ににしっかり
した芯を持って行動して下さい。迷った時には心ニュートラルです。 

我々の目的はあくまで、その勢力に反発する事ではありません。
反発しても絶対に潰されます。今の社会では・・・ 

あくまでも自然発生の力を利用して目覚める手伝いをする事です。目には見えない
心ウキウキワクワクの波長を発し伝える。それがSANGAの使命です。

そのことを決して忘れないで下さい。ありがとうございます」

フウキの力強い言葉だった。会議も終わりその後の茶話会に移行した。


 シバが「花梨さん、アルバムはいつ頃出す予定なの?」

「話しはあるけど、まだオリジナルが少ないからもう3曲ぐらい
作らないと・・・と思ってます。

今、摩耶さんに詩をお願いしてるの。ジャケットのデザインもアグニ
さんに依頼してま~~す」 

「楽しみにしてるね。僕は運転中でも聴いてるけど、君の曲って鎮静
効果があるような気がするけど?」

フウキが口をはさんできた。 

「花梨の曲はシータ波を出してるので、聴く人によっては鎮静効果が
悪影響する事もあるから運転にはあまり向きませんよ。 
どうせなら安眠マスクしてリラックスし聴いてみて下さい。体外離脱を
誘う効果がありますよ」 

花梨が不思議な顔をしながら口を開いた。

「フウキさん、それってどういう事なんですか?」 

「θ波って眠りに入った時に現れる脳波なんだけど、花梨の歌声はその
θ波が出てるんだ。それだけじゃないよ。そのθ波が右脳と左脳両方に
作用するんだ。しかも若干の周波数のズレが微妙にアストラル体に作用し
体外離脱を誘発させてるんだ。当然、個人差はあるけど」

フウキの説明に花梨は驚いた。

花梨は「初めて聞きました。そういえば私のライブに来ていて寝てる人
がいるから不思議に思ってました」 

ラトリが「僕も前から気になってました。せっかくチケット買って来て
るのに、何で寝てるのかな?って、そう云う事だったんですね」

フウキが「音楽はダイレクトに波長が伝わりやすい。それに絵や小説・詩・物・風景等、
みんな波長があるんだ。一番伝わりやすいのがあるけど・・・何か解る?インドラ!」 

「・・・?」

「解らない?なぜ僕がインドラに聴いたか」

「・・・人間ですか?」

「そう!人間。インドラの穏やかさが皆を誘うんだよ。そのうちもっと
進化するよ。お楽しみに。インドラだけでなく皆もそうなんだけど、
もっと進化するよ。速いペースで・・・」

摩耶が「どう進化するんですか?」

「それを言ったら進化が遅くなるから今は言えないよ。お楽しみに!。
今、言える事は人間は無限の可能性があるって事。自分に制限さえ付けなければね。
そして僕の仕事はその制限を壊す手伝いなんだ。手伝いにならないことは言わないよ」

シバが「フウキ君がさっき反対勢力がそろそろ気付くって言ってたけど、
具体的にどういう妨害が考えられるの?」 

「いくらでも考えられるよ。例えばシバさんが山手線に乗ったとする。
女子高生が隣に居てその女子高生が痴漢!と騒いだとする。それを側に
いた会社員風の男が止めろとばかりシバさんの手を払ッたと仮定するよね。 

当然シバさんは駅で事情聴取される。当然やってないと主張するよね、
でも被害者と目撃者が最初からグルで同じ証言をしたら警察はどう判断します?

ほぼ無条件でシバさんを疑うよね。やってないという立証が出来ないから。 

実際この手口で上げられた人も存在するんだよ。著名人になればなるほど
マスコミも面白おかしく騒ぎ立てる。結果的にシバさんの書いた本にも影響する」

「なるほど、これからの言動や行動には十分な注意が必要になるね」シバは言った。 

シバが続けた「話し変わるけど、僕の今書いている本の構成がもうすぐ終わるんだ。
そしたら表紙にアグニ君の絵と摩耶さんの題字を使いたいのでお願いしたい。
頼むね二人で打ち合わせしてね。 

内容は二風谷の妖精ピノが繰り広げる動物と人間と妖精のふれあいを描いたものなんだ。
イメージは雄大な自然とちょっとメルヘンチックな感じで頼むね・・・」

アグニと摩耶は頷いた。

フウキが「インドラとラトリ以外の4人は想像が形になる仕事していて
気付いていると思うけど、創作の仕方にチョットした変化を感じない?」 

アグニが「変化って・・・?」 

「うん、今ま以上に創作にリアル感が伴ってないかい?違う言い方を
するとイメージが勝手に湧いてくる感じとかさ」

摩耶が口を開いた「凄くあります。花梨とも話してたんですけど、自分の
中からイメージが降ってくるっていうか不思議だよねって話してました」

フウキは「創作の時にみんなの心がクリアーになってきた証しなんだ。 
正確には天から降ってくる・・・というよりも自分の奥深いところと
繋がりやすくなった・・・という方が的確かな。 

みんなは自然にやってるけど、アメリカのミュージシャンや芸術家は
そうなりたくてマリファナに頼ったりするんだ。 

みんなはそれを自然に身につけてるんです。ここでは当たり前の話し
だけど、本当はみんな凄い事やってるんだよ。 

その方法が筆やペンだったりギターを使ってね。感性が磨かれれば
磨かれる程、内面と繋がり易くなります。 

ラトリやインドラも、みんなと違う意味で1年前とは大きく変わってるよ。 
能力は使えば使う程磨かれます。みなさんこの1年で大きく変化してます。 
SANGAの今後が楽しみです」

無事SANGA集会も終わり、各々が意識の波動チューニングを済ませ
帰路に着いた。
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