【SANGA(神々の戦い)】全18-18

18、「最終章」

一輪の花


 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 泣きなさい、怒りなさい、
 愛しなさいと
 そう、ありのままに、ありのままに
 風は大気の汚れを吹き跳ばし
 雨は大地を洗う 
 涙は心を洗う
 そう、心が疲れたら泣こう
 涙で洗い流そう
 今が心から泣くとき、今が涙を流すとき  
 その涙で一輪の花を咲かせよう
 疲れたら花を見よう
 花はいつもそこにある
 そう、君の胸の中に


 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 空を飛ぶ小鳥をごらん
 森の木々を飛び回るリスをごらん
 みんな初めから自由なんだ
 だから彼らに自由という言葉はいらない
 だって自由が当たりまえだから
 君は苦しいと自分を縛り
 君は悲しいと自分を縛る
 小鳥と何が違うの?どこが違うの
 自由をもっと楽しもう
 誰にも止めることは出来ない
 だって、君は初めから自由だから


 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 君は、生きるのが不安だと云う
 人は生れ、そして死に
 君は不安という妄想に
 恋をしてしまったようだ
 おおいに恋をするのも良い
 おおいに恋を楽しんで
 一生懸命、 恋を生きて
 全身全霊で恋を味わって
 もし、疲れたときは戻っておいで
 きっと、一輪の花が癒してくれる
 そしてその花はこう言うんだ
 お帰りなさいと




 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 一輪の花を見たいと君は云う
 僕はいつだって咲いてるよ
 いつだって君と一緒
 何故そんな質問するんだい?
 僕は何処にも行かない
 後にも先にも僕は君と一緒
 淋しいこと聞かないで
 君は僕を困らせようとしてる?
 心を止めてほしい
 心の奥深いところ見て
 僕は小さく小さく咲いているよ
 君のための花
 僕の声を聞くことは簡単なこと
 だって、僕は君で君は僕だから


由美子が風輝を偲び曲を作り、摩耶の作詞による作品となった。

由美子にとってもかけがえのない存在フウキ。

時を同じくしてエジプトのピラミッドの一部が何者かの手によって
破壊される事件が世界を震撼させた。

そこにはKIZUNAと銘打った犯行声明文が地元警察と新聞社に投稿されていた。
それは、キリスト圏・イスラム圏・各宗教宗派に対しての犯行声明。 

『我々「ONE」は人間の作った宗教を全面的に排除する。

唯一絶対神である、神は人間は作ったが宗教は作っていない。

世界人類の覚醒と世界の絶対平和のため』

という身勝手なくだりだった。当然、世界の目はONEへ向けられた。

世界中のマスコミは一斉にONEへの活動を誹謗中傷し集中攻撃した。

エレボスの思惑通りに事は運んだ。

ピラミッドの事件以降世界からはONEの事を口にする者はいなくなった。

イギリスのとあるビルのオフィイスでマーラが「人間とはそんなものよ、
時代がどうであれ情報に左右されるのは世の常。一番可愛いのはしょせん
自分の身の安全。世界に君臨する者はいつの世も民衆を誘導してやらんとな。
それも我々エレボスの勤め」

マーラは勝ち誇っていた。


 そのころ東京では、旧SANGAの面々に由美子も加わり居酒屋の
一室に集まっていた。

シバが「今日は大変お疲れ様でした。本当にみんな久しぶりだね。
元気そうでなによりだよ。

本当にこれで良いのか?もう一度みんなの意見を聞きたいと思って
集まってもらった。

フウキ君は我々に、ある意味人間として、いや、魂が覚醒する
切っ掛けを与えてくれた。

そして目指す目的はSANGA(安住の地)のはず。たとえ、我が身が
滅びようとも魂は永遠に不滅。 

今、やらずして何時やるのか?

フウキ君が生前ことある事に言っていた言葉を思い出して欲しい。

ひとりが変われば自ずと廻りそして地域社会、そして世界が変わると
何時も言っていた。

それが今なんじゃないかって僕は思うんだ。思い起こしてほしい。
あの久慈氏が晩年は180度人間が変わった。たったひとつの詩と
摩耶さんとの出会いで。人間は瞬時に変われるんです。

僕はフウキ君の志を繋げて行きたいし実現したいんだ。
フウキ君の死後、僕は臆病になっていた。 今、気が付いたんだ。
僕達は志半ばなんだってね。みんなの意見を聞きたい」


摩耶が「私もこの数年何かを置き忘れているようで、しっくりこなかったの。
今、シバさんの言葉で何が足らなかったのかが解りました。
SANGAは志半ばだったって事に。そして私も志半ばだったって事を、
そしてこれが私の天命だって事を」

インドラが涙目で言葉を発した。「僕も摩耶さんと同じです。今、此処に
何で僕がいるのか。どうあるべきか解った気がします。僕もフウキさんの
目指した世の中になって欲しいです」

花梨が「SANGAの中で私が一番先にフウキさんと出会い、土地柄が
札幌でもあって、一番長く接してきました。フウキさんは何時も前を
見て歩いてました。私のこの世で尊敬するフウキさんがやってきたことを、
完結させたいと思います」

ラトリが「僕もフウキさんを追っかけて札幌の大学を受験し、半ば強引に
親に願い出て住んだ札幌。フウキさんから色々と学んできました。
僕もSANGAを愛してます。そしてライフワークと自覚してます」

「私もいいですか?」遠巻きに様子を伺っていた由美子が口を開いた。

「私は晩年のそれも一時のフウキさんしか知りません。でもフウキさんの
話は花梨さんから、ことある事に聞いて来ました。

私は、ろくすっぽ会話も出来ない徳島の田舎の娘でした。
フウキさんが切っ掛けを与えてくれたおかげで人前で表現できました。
ここにこうして居れるのもフウキさんのおかげです。

皆さんの邪魔にならないようにしますので、どうか、どうか私を仲間に
入れて下さい・・・」

シバが「ここに居ると言うことはもう仲間なんだよ。フウキ君が最後に
見つけてくれた大事なSANGAの仲間・・・」

全員が拍手をした。

アグニが話し始めた「僕もみんなと同じです」

簡単に云い終えたアグニはバックから包み物を取り出した。

「今日はみんなに視てもらいたい物があるんです。これは僕が小樽の喫茶店で
パラレルのフウキさんに貰った緑色の石なんです」包みを開けて花梨に手渡した。

「例のエジプトテロ事件の前に、小樽でフウキさんから預かった石なんです。
何故、僕が預かったのか未だに解らないんです。皆さん手にとって感じてみて下さい」

由美子が「あの~~う、フウキさんと会ったんですか?」

シバが説明した「パラレルワールドのもうひとりのフウキ君が
半霊半物質でアグニの前に現われたんだ」

「それって幽霊ですか?」

「ウ~~ン。とも違うかな・・・別世界のフウキ君ってとこかな」

「由美子ちゃん、後で教えてあげるね」花梨が言った。

摩耶が切り出した。「前回と同じ活動内容でするの?それとも違う方法か何かで?」

アグニが「此処に居るのが歌い手2人・詩・書・絵・小説・癒しの波長」

インドラが続いた「これらを複合して統合するとどうなりますかね・・・」

「あっ・・・」突然、由美子が声を上げた。

全員んほ視線が由美子に集中した。

花梨が「由美子ちゃん、どうかしたの?」

由美子はじっと目を伏せて何かを視ていた。そして片手には緑の石が握られていた。

由美子は石を握って直ぐ、身体に振動が走った。そして次の瞬間、自分の
身体を眼下にして宇宙空間をさまよっている自分を感じた。

間もなく風景が変わって今度は白い宮殿のような処に自分が座っていた。
右側を視るとあの懐かしい顔がそこにあった。

「フウキさん、お久しぶりです」

手を振っているフウキがにこやかに立っていた。 その横には見慣れた顔もあった。

「あっ、ヘルさんもお久しぶりでございます」

由美子はサンガにトリップしてたのだった。しかも由美子はヘルを知っていた。

ヘルが「これから数年後の地球の姿を見せてあげよう。その世界は望む
望まざるに係わらず、進む道は自分で決めているのです。

そこは嘘隠しの出来ない自分の行く地球の姿。大きく分けると地球は2方向に分かれる」

由美子が初めに垣間見た世界は、薄暗くチョット獣臭いジメジメした
何とも云えないよどんだ空気の世界だった。

人間は様々で、ブツブツ何か独り言を言ってる者。目が血走った修羅の形相のような者。
長い髪に半裸同然の出で立ちで男に媚びを売る女性。等々、自分の欲望丸出しの世界が
そこにあった。

胸に声が聞こえた。「ここは将来の地球の姿、自分最優先の世界」

次に垣間見た世界は、ほんのり暖かく初夏の日差しのように心地よい、
そして秋のような透き通った空気が本当に遠くまで見通せた。
道を歩く人は皆、輝いていて、にこやかでピュアな感じがする。

先ほどとは全く違った世界がそこにあった。

「もうひとつの地球の将来」声が胸に響いた。


 次の瞬間SANGAの仲間の中に座っていた。

花梨が「由美子ちゃん、トリップしたの?」

「はい、身体から飛び出したと思ったらフウキさんとヘルさんの居る
世界に行きました。そしてヘルさんが近未来の地球は二つに分かれていて、
その二つの地球を少しだけ視せてもらいました。

サンガのヘルさんが云うには球は近い将来二つに分離するそうです。
ひとつは自己中心的で欲望のままに我を通そうとする世界。
今の世の中の灰色な部分をデフォルメしたような世界。

もうひとつは調和の取れた、神の世に近い世界みたいです。フウキさんも
サンガにおりました。ニコニコ笑ってました」

話を聞いていたシバが「ちょっとごめん・・・みんな、僕の話を聞いて
くれるかい。今の由美子ちゃんの話を聞いていて思ったんだけど。

もう一度、SANGAの存在意義を確認しないかい。僕は今までこの
世の中を楽園的な世の中に修正できないかなと考え、
行動してきたところがあるんだ。

百匹目の猿じゃあないけど、僕達SANGAの影響が知らず知らず廻りに
及ぼすだろうと考えていた。

でも、それは思い上がりではないかなと思ったんだ。たった今。

由美子ちゃんがサンガで視せられた近未来の世界は、ズバリ二方向に
分離されていて双方の世界が存在する。
今のこの世を良しとする利己主義の世界と調和を求める人間、いや本来の魂のすがた。

当然、どちらを選ぶのも各自次第ってわけ。だから近未来は分離されているんだ・・・

で、僕らの意義は後者の調和を求める人の少しでも手助けになればと思うんだ。
あくまでもガイドのような縁の下の力持ち的な・・・・どうだろうか?」

花梨が「私も今、そんな気がします。私は歌の世界を通してだけど、
同じ歌でもその時々で伝わり方が違うのね。

原因は色んな要因があると思うけど、それって原因のひとつにこちら
側があるような気がするの。最初の頃は、只がむしゃらで心に余裕が
なかったの。でもちゃんと伝わったのね。

そのうち馴れてくると客席の反応を気にしたり、歌う側も馴れて
きたっていうか新鮮味が欠けたっていうか・・・と同時に心に穴が
開くことがあったのね。

そこいくとKIZUNAのような自然発生のパワーって凄いなって思うの。
それに作られたものって冷めるのも早いような気がするの・・・
此処のみんなも感じてると思うけど」

由美子も深く頷き「私も押しつけにならないKIZUNAの歌のように
自然発生的な歌も良いかなって思いました」

全員一致でSANGAの今後の方向性が決定された。

活動は再開する。但し自然発生的な方向性を目的とする。 
全ての教義的なものは無く、あくまでも個人の自主性を最優先し尊重して活動する。

SANGAに類する作品は著作権フリーとし、宣伝活動は個々の判断によるものとする。

摩耶作詞・由美子作曲の作品「一輪の花」がネット配信され世界中で歌われることとなった。

その後、地球はサンガの予言通り二方向に別れていった。

2026年、争いのない平和に満ちた地球が再構築された。

もうかつての地球を思い起こす者は無かった。

新生地球には国境は無く、人種や差別、言葉の違いや性別さえも
無くなっていた。

かつての地球的習わし、常識の類はこの新生地球にはもはや存在してい
なかった。真実の文明に支えられた地球は宇宙の仲間入りを果たし、
霊的文明へと進化を遂げていた。

将来の地球が光り輝く星になりますように、願いを込めてSANGAここに完結。

THE END
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【SANGA(神々の戦い)】全18-17

17、「石」

 ここは札幌の隣町小樽。季節は初夏。観光客が絶えないこの街に、昔は
穀物倉庫として利用されていた石造りの倉庫群が昭和のレトロ感が観光客
には人気があったあった。

その倉庫を現代風にアレンジし小洒落た喫茶店として営業している。
店内の照明はランプだけというレトロ感も観光客に人気があり、雑誌に
掲載され通年沢山の観光客が訪れていた。

そんな観光客のひとりにスケッチブック片手に楽しそうに人間
ウォッチングしている男が居た。

その男、元SANGAのアグニだった。アグニはひと月前に視た夢が
気になり3日前から小樽に滞在していた。

その夢とは・・・この喫茶店で懐かしい人と出会い固い握手をしている
もので、誰とは特定出来ないが、只々懐かしさだけが印象的だった。
その場所がこの喫茶店だった。

店を特定する迄ほぼひと月費やし、今日が小樽に滞在して三日目、
このまま何の変化が無いなら、明日には帰郷する予定でいた。


 ウェイトレスが「お客様、ご来店ありがとうございます。当店より、
オリジナルのランプ型ストラップを記念にお持ち帰り下さい」

「あ、ありがとうございます」

「ところで3日前から、誰かをお待ちのようですが待ち合わせか何かですか?」

屈託のない笑顔で聞いてきた。

「あ、ハイ・・夢で懐かしい誰かと、この店で逢っていたんです。
とっても大事な人と・・・それでつい来ちゃいました。でも今日、
逢えなければ帰ります。ご迷惑駆けます」

「いえ、素敵なお話しですね、お会い出来る事を願ってます」

「ありがとうございます」

結局その日も夕方まで何の出会いもなく帰ろうと支度をしたその時だった。 

薄暗い店内に男性が入ってきた。

顔は確認できないがアグニの胸に

「待たせたね」

という耳には聞こえないが直接心にその声は伝わってきた。

その男は視線をアグニに向けたまま薄暗い店内をアグニの座るテーブルに
向かって歩いてきた。

アグニは近づいてきたその男を直視した。瞬間、アグニは思わず声を発した。

「エッ!ウソッ・・・」その目線の先に立っていた人物は宮園風輝その人だった。

瞬間アグニの目に涙が溢れてきた。

男性はアグニの正面に座った。

アグニは心の動揺を抑えながら口を開いた「あなたは、どちら様?」

男はニヤニヤしながら口を開いた「どうしたアグニ。別れて3年
過ぎたらもう僕を忘れてしまったのかい・・・」

「・・・・」アグニはフウキならではの懐かしいオーラを確認した。
と同時に身体が震えてきた。アグニの思考は完全にパニックを起こしていた。

フウキは囁くように「ようやっと解ってくれたらしいね。そうさ、
君の目の前にいる僕は宮園風輝だよ、そんな幽霊でも見たような顔を
するなよ・・・フフッ」

「幽霊のほうが、まだましです」

ウェイトレスが近寄ってきて言った「いらっしゃいませ」フウキに
メニューを差し出し、視線をアグニに移すと微笑んで「お客様、待った
甲斐があったようですね・・・良かったですね・・・」

ウェイトレスにはアグニが待ちこがれていた逢いたい人にようやっと
会えた喜びでアグニが涙ぐんでいるように映った。

「コーヒー下さい」

「ハイ、かしこまりました」

ウェイトレスが去るのを待ってまたアグニは話し始めた。

「フウキさん。これはいったいどういう事なんですか?」

「今、君の前に座っている僕はパラレルワールドのフウキなんだ。
この世界で死んだフウキは僕と別のフウキなんだ」

「別世界のフウキさんがこっちの世界に来るって?そういう事出来るんですか?」

「現実には不可能さ。でもこの世に波長を合わせればある意味可能なんだ。
但し反霊反物質だけどね。アグニ君の視ている僕はイリュージョンで超リアルな幻想。

それはこの際、おいといて。僕がここにこうしている理由は君に
渡したい物があるからなんだ」

「あ、はい・・?」次の瞬間フウキは空中から緑色の石を取り出し
アグニに渡した。

「・・・?石ですか?」

「ただの石と違うんだ。時空移動を容易くする石なんだよ。
これを使い別の地球で行われている光景を視て、SANGAのみんなに伝えてほしい。
今こそSANGAを復活させる大事なタイミング。それによって地球は大きく変わる。
その切っ掛けをアグニ君に頼みたい」

そう言い終えるとフウキは煙のように消えてしまった。

ウェイトレスがコーヒーを持ってきた時にはアグニはひとりで座っていた。

「あれ????待ち合わせの男性はどこに??」

「急いでたみたいで帰りました。コーヒーは僕が頂きます」

通路は誰も通った気配がなかったのでウェイトレスは狐に摘まれたように
唖然としていた。

 
 東京に戻ったアグニはシバに事の経緯を話した。

「そうか、フウキ君が小樽に・・・」

「そうなんです。何で小樽なのか僕にも解らないけど、この緑の石は
こうして現実にここにあるんです」

アグニはバックから石を取り出しシバに手渡した。受け取ったシバは
何かを観察していた。

シバが「待ってるね!この石は誰かを待ってるような気がするんだけど・・・?」

「シバさんもそう思いますか?僕も数日持っていて同じ事を感じてました。
この石には意識があって、誰かこの石の力を引き出せる所有者に渡してほしい。
その相応しい所有者を僕達に探し出してほしいのかなって感じてたんです」

「そうかもね、たぶんそれだよ。フウキくんが係わってアグニくんに
渡したという事はアグニ君、いやSANGAのメンバーは絶対に
使命感を持ってやってくれるだろうという事かも知れないね」

「久々に6人集合しますか?」2人は久々に心の内側に熱いものを感じていた。


 ここは韓国の釜山市。世界権力エレボスの(アメリカのマーラ)
(イギリスのアンラ)久慈健栄の後を継いだ(韓国のキム・シャウン)
の3人が打合せをしていた。

マーラから提案が「今、世の中ではONEという実体の無い、しかし
確実に存在してる集合体があるのはご存じだと思う。

はじめは只の流行と気にしていなかったが、ネット社会では異常な
勢いで広がっている。

それも年齢層・性別・人種に関係無く早い話が今では誰もがONEの存在を知っている。

いわば潜在的集合意識が動き始めてきたという事じゃ。今の社会は我々の
先人達が集合意識を誘導して作り上げてきた、我々の為の社会。
その呪縛から世界は目覚めつつある。早いとこ処置しないとならんのだよ」

アンラが「3年程前にミスター・ミヤゾノご世を去っていらいSANGA
という小さな組織も今は無い。
それで終わりと思ったが、違う動きが発生したようだ。今度は首謀者が
無く本当に自然発生なのだ。

歴史的にもルネッサンス期が自然発生だったが、今度は情報量と速度が格段に違う。
組織が無いから叩きようがない・・・」

キム・シャウンが「SANGAの面々を3年程、見張ってはいるが
残党の6人やSANGAの会員も、この3年間まったく動きが無い。
ONEの影響はヨーロッパやアメリカからの影響が強いようです」

マーラが「実体の無い力(組織)か・・・厄介じゃのう」

「9・11の時のように世界の目を違う方向にそらさんとならんようだ
のう・・」アンラが言った。

マーラが「テロか・・・」

キムは「やはり宗教戦争が手っ取り早く単純で自然ですか・・・」

マーラが「キリスト・イスラム・仏教・ヒンズーと影響を与えないと
毎度のようにキリスト圏とイスラム圏だけでは世界はもう動かんぞ」

キムが「宇宙はどうですか?宇宙人の存在を世界に知らしめ、地球人が
一丸となり、ある方向に向かうというシナリオはどうですか?
SF小説のようですが如何かと?」

「その手を使うと奴ら(異星人)を表に公表せねばなるまいのう・・・
そういう時期か・・・?」マーラは腕を組みながら呟いた。

アンラは「正直言って奴らは我々と相反する者、下手をすると一般人を
覚醒させんとも限らん。
覚醒した人間が増えたら我らの世界も終焉じゃ・・・どうしたものか?」

マーラが「やはり今回もテロしかあるまい!」

アンラとキムも首を縦に振った。

マーラが続けた「今度も世界的に驚くような事を仕掛けんといかん
だろうな・・・ピラミッドでも破壊するか?」 

キムが「好い考えですね、それをやったら世界中が敵になりますよ。
ピラミッドはエジプトというよりも地球遺産だからな・・・
そこに『KIZUNA』と書いたメッセージを残し、一気に
KIZUNAの悪いイメージを世界に発信ましょう」

マーラが言った「キム・・・おぬしもなかなかの悪よのう・・・
フッフッフッフ・・・」

エレボスの3人は不気味な笑みを浮かばせていた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-16

16、「ONE」

 フウキは広島市の本通商店街に座っていた。

20代前半と思われる女の子が「あのう、宜しいでしょうか?」

「はい、いらっしゃい!どうぞ」

「私は、今服飾系の仕事をしてるんですけど、上司との人間関係や
仕事上でも会社の方針と合わない部分があって退職しようかどうか
悩んでます。仕事的には嫌いでないので、それも含めて相談したくてきました」
「はい、まずあなたは、どうなりたいですか?」

「どうと云うと?」

「具体的に例えば技術を身に付けたいとか、結婚までの腰掛けとか、
あなたと会社との繋がりのスタンスの事です」

「技術を身に付けたいです」

「では、今の職場はそういう意味ではどうですか?」

「はい、技術的には申し分ありません」

「じゃあその技術習得のひとつに人間関係も含まれているとしたらどうしますか?」

「仕事と人間関係ですか?」

「はい」

「・・・・どうしてですか」

「あなたは生まれてから死ぬまで、ずっと人間と係わっていきます。
例外はなく永遠にです。解ります?」

「はい」

「そして、あなたに都合のいい人間というのは、あなたがこの世を
生きる為に障害になる事は教えてくれません」

「あ、はい」

「社会には色んな人間がいて皆それぞれ好き勝手に主張しあい、時には味方となり、
そして敵にもなります。ただし敵味方というのはその時々のあなたにとって・・・
の話しです。それが社会だと思いませんか?」

「あっ・・・はい・・・」

「障害を避けて生きてきた人生と、障害は障害と認めそれと向き合う人生。
どっちを選んでも自由なんですどちらを選びますか?
立場を変えてみましょう。もしあなたに子供がいて同じ事で悩んでいたら、
あなたは何と声を掛けます?その事をまず考えてみませんか。
もし本当に嫌なら退社を勧めます。精神的にも良くないので・・」

「はい・・・何か解ったような気がしてきました。ありがとうございました。
わたし、もう一度自分と向き合ってみます」

「良い朝を迎えますように」フウキは軽く手を振った。

仕事を終えたフウキはテーブルとイスをたたみ、身支度をして帰り道の
路地に差し掛かった。次の瞬間、暗闇の中から2人の黒い影が現われた。

突然「宮園風輝さんだね・・・」男に声を掛けられた。

それはトーンの低い厳つい声だった。

「ハイ、君は?」次の瞬間フウキの背中に激痛が走った。

「うっ・うっ・・・・つ・ついに・・きたか・・」

そっと近寄ってきたもうひとりの男がフウキの背中にサバイバル
ナイフを突き刺したのだった。

そして2人組の男が暗闇に走り去っていった。

フウキは前屈みのまま倒れ込んだ。次の瞬間、フウキは意識を肉体から切り離した。

痛みから解放されたが肉体的なダメージはひどく、人通りの少ない路地。

翌早朝、新聞配達員によって発見されたが、倒れてから既に5時間が経過していた。

警察と救急車が来た時にはフウキの身体は帰らぬ人となっていた。

警察の発表では、解剖の結果刃物のような者で背中をひと突き。
それが心臓に達し致命傷になったとの結論がなされた。

フウキの所持品が無いことから金品目的の通り魔的犯行と断定した。

公には発表されていないが、フウキの遺体は死後硬直が認められず、
監察医は頭を傾げていた。フウキは刺された直後に魂を肉体から
意識的に離脱させたために死後硬直が無かったからだった。

フウキが息を引き取ったと思われる同時刻にSANNGA6人は同じ夢を視た。

笑みを浮かべたフウキが白い装いで目の前に立っていた。

「今日僕は帰ります。SANGAを一度解散してほしい。
そして個々の活動をしながら過ごして下さい。再復活の為に今は
エネルギーを蓄えてほしい。僕はいつでも皆さんを応援してます。
今後はチャネリングでお話ししましょう。又、逢いましょう」

朝を待って6人はいっせいに連絡を取り合った。 

シバの指示で札幌在住のラトリが代表し、余市町のフウキの実家に
連絡を入れたが、何の連絡も入っていないとの事。

次はインドラからの提案で正午になったらエネルギーをひとつにし、
同時にフウキへチャネリングを試みる事にした。

打合せ時刻になって直ぐに花梨がフウキと繋がった。

花梨の話では昨夜、エレボスに手配された2人組の男に後ろから
刺されフウキの肉体は死を迎えたというものだった。

程なくしてフウキの実家から札幌のラトリに電話が入った。

「広島の警察から連絡が入りフウキらしき男性が殺されたので
身元確認をしてほしい」という連絡があったらしい。

インドラ・花梨・シバ・摩耶の4人は新幹線で広島に向かった。
警察の霊安室では変わり果てたフウキの姿があった。

司法解剖の結果、後ろからサバイバルナイフで心臓をひと突きされた
事による即死というものだった。

インドラ・摩耶・花梨・シバはその場で天を仰いだ。

遺体はフウキの家族に引き取られ、故郷での葬儀にはSANGA6人と
由美子が列席した。

宮園風輝30歳の人生はここに終わった。

SANGAはフウキの遺言通り解散された。


 
 フウキの死から3年が過ぎた。

世の中は管理・監視社会と変貌した。何をするにも身分証明書の提示が
義務付けされたり、運転免許証にもマイクロチップが埋め込まれ、
街のあらゆる所に監視カメラの設置がされた。

犯罪登録された人間は6時間以内には、国内であれば潜伏場所を90%
解析出来る仕組みも開発された。

これらは表向き犯罪防止と称し、実は人間管理の為のシステムで、
何時何処で誰と誰が何を話したかまで監視する仕組みでだった。

さらに個人の行動も過去数時間前まで時間を逆行する事が出来る
システムが構築された。

テロ対策室には今はもう解散したSANGAも「テロ活動の疑いあり」
として監視登録されていた。

世界はエレボスの思惑通りワンワールドに統一されようとしていたが、
それに立ち向かう反体派も水面下で組織が結成され、ネットを通じて
世界に配信されていた。

ネットの力は驚異的な早さで広がり、そこには人種の壁・言葉や身分の
違いはもちろん、キリスト教・イスラム教・仏教・ヒンズー教と、
あらゆる宗教の壁も取り外された。

エレボスの意思とは全く別の意味で、世界の意識は自然と統一されつつあった。

世界に発信される際の合い言葉は「ONE」発信源はイギリスだったが、
初めは水面下で燻っていたONEの活動も時と共に急激に広がった。

まるで圧縮されたゴム風船から解き放たれた空気のような勢いだった。 

魂の叫びは、ある時は歌や絵などに隠されていた。

そんな中で日本の歌手、花梨の書いた曲が世界に無料配信されていた。

その曲は「KIZUNA(絆)」という題名で、フウキの事を思い描き
ながら作られたバラード曲。

歌詞の中にフウキとサンガの文字がアナグラムとして隠されていた。

KIZUNAは著作権フリーとしたこともあり、ONEが中心となって
8カ国語に翻訳され配信された。

そして世界中で愛される歌へと成長した。

配信され2ヶ月で世界に広まる快挙。

このKIZUNAはただの歌ではなかった。花梨が旧SANGAの仲間と
音魂(おとだま)を利用した魂の癒しの歌であった。

フウキの死後徐々にそして急激に世界は動き始めた。

エレボスの圧力規制の執行よりもONEの伝わる波は早かった。

エレボスが弾圧を掛けようとした時には、すでに違う風が吹くという
具合にONEの動きは目を見張るものがあった。

偏らない思想・音楽・文学等、ONEの影響は止まるところを知らず、
21世紀のルネッサンスとまで云われた。

またONEとは数字の始まり1であり、創造性、意志の強さ、
暗い夜が終わり夜明けの始まりという意味である。

着実に目に見えて世界は変わりつつあった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-15

15、「ね・・・」

 シバと摩耶は朝早くから事務所に詰めていた。

シバはフウキの残した言葉の意味が気になり、摩耶とフウキの言葉の
意味を考えていた。

何故このタイミングで「これが最後になるので一気に引揚げますから」
・・・これはどういう意味だろう?


 その日の昼頃、事務所にフウキが訪れた。

「シバさん、摩耶ちゃん、昨日はお疲れ様でした」

フウキはいつもと変わらぬ様子で椅子に腰掛けた。 

摩耶が口火を切った「フウキさん昨日『これが最後になるので一気に
引揚げま』すからって言ってましたがどういう意味なんですか?」

「うん、影の支配者エレボスのターゲットはズバリ、僕、宮園風輝なんだ。
このままだとSANGAの存続に係わってくる可能性がある。
だからSANGAとの係わりを絶とうと考えての言葉なんだ」

シバが「まだまだ我々にはフウキ君が必要なんだけど・・・」

「シバさん、摩耶さん。僕は永遠に、さよならをする訳ではないんです。
ほとぼりが冷めるまでの間、僕は僕で旅をしながら僕独自のやり方で
やっていきます。今、芽吹いたばかりのSANGAという花の芽を刈り
取りたくないんです。どうか解ってやって下さい」

摩耶が肩をふるわせて泣いていた。

その摩耶を労るようにシバは摩耶の肩に優しく手を乗せていた。

シバが「摩耶ちゃん、後の事は僕達6人が協力して頑張ろうよ。
そしてフウキ君の帰る場所を守ろう!」

摩耶はシバの言葉に目を赤くしながら頷いた。

「じゃあ、しばらく留守にしますので他の皆さんにも宜しく伝えて下さい」

フウキはSANGAの事務所を後にした。

フウキは名前を「フレイ」と改名し旅に出た。

天界サンガは風の宮の神官フレイの名前だった。

フレイは四国の徳島にいた。

徳島市内の南新町でフレイは商店街の閉まった後、商店の軒先に小さな
テーブルとイスを置いて座っていた。

テーブルの上には「相談に乗ります」とだけ書かれていた。

恋愛の相談が多くあったがフレイの目的は相談の内容にあるのではなく、
縁のある相談者を待っていた。

「あのう、チョット宜しいですか?」20代の男性であった。 

「はい!どうぞ」 

「相談事というか、宗教の事なんですが宜しいでしょうか?」 

「はい、どんな事ですか?」

「昔からこの町は真言宗の檀家が多く、僕の家も代々そうなんです。
でも今、結婚を前提に付き合っている彼女の家は熱心な法華教なんですね。
その教義の中に真言亡国で(家の柱)つまり当主が弱いとかで向こうの
両親が結婚に反対してるんです。

僕はハッキリ言って宗教の事は解らないんですがどう思われますか?
そして今後どうやれば上手くいきますか?」

「はい!ズバリ結婚と宗教は関係無いと思います。問題はあなた達が
どうありたいかという事です。宗教って人間が幸せになる為の心の指針の
様なものです。結婚の障害になる様な宗教は本当に真の宗教と言える
でしょうか?別の言い方をするなら、お二人が本当に結ばれたいのなら、
自分達はどうあるべきか。

が大事な事ではないでしょうか?結婚するのはお二人です。
家系ではありませんし、まして親でもありません。宗教などもっての
ほかだと思います。どうでしょうか?」

「そうですが、親が・・・」 

「結婚するのは?」 

「自分達です」

「大切なのは?」 

「・・・自分達です」

「誰の為の結婚ですか?」 

「自分達の為です」

「もう、結論は出ているようですね。結婚は自分達の為にあるんです。
因みに彼女の名前と生年月日は?」 

「レイカです。昭和59年12月18日です」

「はい、彼女は冷え性ですから、根菜類を多く食べて身体を温め、
そこを克服出来たら子宝に恵まれます。言葉の意味が解りますか?
・・・お幸せに!」

「な・何か吹っ切れました!勇気が湧いてきました!ありがとうございます!」

男性の顔は明るくなり暗闇に去っていった。

「いらっしゃいませ」今日二人目の客である。年の頃は25歳くらいの女性。 

「あのね、私ね、由美子って言います・・・ね。何をね、や・や・
やったらいいでしょうか?」

「面白いね!君は何が好きなんだい?」

「オムレツと半熟卵です」

「そっか。じゃあ、おでんの卵は?」

「好きです。あとダシ入りの厚焼き卵もね」

「でも君、オムレツにはなれないよ。半熟卵にもね。さあどうしようか?」

「・・・???」

「僕が聞いたのは君が何をしている時が一番好きなの?って事さ」

「ギターです」

「ギターか・・チョット待ってね。君の生年月日は?」

「昭和62年2月28日の14時30分です。何秒頃か解りませんけど」

フレイは彼女の左上を視て優しい声で言った「君はどんな曲が好きなの?」

由美子は目を輝かせながら言った「ビートルズが好きですね。あと
サイモンとガーファンクルやELPもね」

「君、本当に音楽好きなんだねえ」

「はい、大好きです。特に昔の歌が・・・でも父と母がね『あんまり
やってはいけません』と言うんですねね・・・」

「何でかな?」

「私がね、一生懸命やるとね、時間が解らなくなって気が付くとね、
1日くらい経ってたりするのね。それだから母に怒られます」

「何で怒るの?」

「私ね、学校もね、アルバイトもね、ギター弾くと休むんですね・・フフフ」

由美子は自分で言って笑っていた。 

「君、音楽やってる時って何処に行ってるか解る?」

「な、な、何で解るんですか???初めて聞かれました!」
由美子は目を丸くしながら話し始めた。

「あのですね、その場所はね全部が音っていうかリズムっていうか
気持ちいい香りのする場所なんですね。

そこで曲を作ると楽しいです。昨日もね、晩ご飯食べてから曲作り
したんですね。気が付いたら朝ご飯の時間だったりしました」

「そっか。由美子くん、君は花梨っていうミュージシャン知ってるかい?」

「はい、彼女の歌は好きです?・・・ね」

「そうか。じゃあ今度はギター持ってきて僕に何曲か聞かせてほしいな。
出来るかい?」

「私の家、すぐそこなんですね。今でもいいですか?ね?」

フウキは笑顔で頷いた。

由美子は話しもそこそこに駆けだして行った。

30分程してギターを背負ってやってきた。

その後ろには両親が心配そうな顔をして同行していた。 

「やあ、早かったね」

「御両親も一緒に来ました・・・ね」

「今晩わ。僕はフレイと申します。今日初めて由美子さんとお会いしまして、
彼女の作った曲を聴かせて下さいってお願いしました」

フレイはにこやかに頭を下げた。

「で、ご両親は彼女の作った曲を聴いた事ありますか?」 

母親が「この娘はいつも自分の部屋でギターを弾きながら
歌ってますから聞いてますが、何か?」

「正式に目の前でという意味です」

「いいえ」

「それでは、ここで僕と一緒に聞いてみませんか?」

「聞くのは良いですが、彼方はいったいどなたさんですか?」

テーブルの上を指さして「僕はみての通り、人と会話をする会話士です」 

「会話士??」2人は怪訝な顔をしていた。

そこに由美子が「歌っていいですかね?」

フレイが「いつも通りに歌ってね」

「はい!」

最初の曲はAマイナから始まるしっとりとしたバラードだった。

次はアルペジオでテンポのいい曲だった。

最初は多少の恥じらいもあり緊張した様子の由美子だったが、
その後は完全に音楽の中に入ってしまった。

気が付いた時、周りには30人程の若者が聞き入っていた。 

30分程で歌い終わり由美子は我に返った。

そこには見慣れない人達が大勢いて由美子は驚いた。

商店街中、由美子への賞賛の拍手が響き渡りアンコールの声が上がっていた。

その予想だにしない光景を目の当たりにした両親は狐に摘まれたか、
別世界に迷い込んだかのように思えた。

フレイが両親に「どうでしたか?由美子さんの初舞台は」

父親が「とにかく今は驚きのひと言です。この娘は小さい頃から表現が
下手でした。あなたも話してわかるように・・・

それでギターを抱え、ひとり部屋に籠もりストレスを発散してるんだと
ばかり思っていました。そこで見ている妻も、私と同じ気持ちだと思います」

母親は目を潤ませながら由美子を見ていた。

「ところで、彼方は以前からあの子を知っているんですか?」

「いいえ。さっき言ったように今日ここで初めてお会いしましたが」

「何故あの娘が歌を作ってる事など知ってるんですか?
恥ずかしながら親も知らない事なんです」

「僕が会話士だからです」

「会・話・士ですか?」

「はい!言葉以外でも会話は出来るんです。相手の心の声と会話するんです」

「由美子の心の声は何と?・・」

途中で由美子が近寄って来て話しは中断された。

歌い終わり観衆も引け先程とは変わり静かな商店街に戻っていた。

その後3人はフレイに頭を下げて帰っていった。

その別れ際、由美子は満面の笑みを浮かべながらフレイに手を振っていた。
その印象的な微笑んだ絵はフレイの心に残った。

二日後、由美子が顔を出した。

「先日は、どうもありがとうございました」

「どういたしまして。ところで両親とちゃんと向き合って話しをしたかい?」

「はい!もう私の全行動に対して、口出しはしない
ようにするから、自分のやりたい事をやりなさいと言われました」

すっかり口癖の「ね」が治っていた。

「そう・・・!理解してもらってよかったね。で、これからどうする?」

「私、音楽に関係する仕事をしてみたいです」

フレイはメモ用紙にSANGAのアドレスを書いて由美子に渡した。

「じゃあ、ここに摩耶さんという君と同じくらいの人が居るから電話して、
花梨の関西・四国方面でのコンサートスケジュールを聞いて直接彼女に会いに行くといい。

『フウキからの紹介』って言ったらいいよ、相談に乗ってくれるから。後は君次第・・・
これだけは憶えておいてね、由美子さんは頑張らなくていい。君らしくいればいい」

「どういう意味ですか?」

「分かりやすく言うと・・・自分流!僕はまた違う街に行くからね。
また何処かで会おう・・・」


 その後、由美子は神戸ドームコンサートに来ていた花梨の楽屋を訪ねていた。

「初めまして。私は由美子と言いましてミュージシャンを志しています。徳島で
フレイさん、いやフウキさんと知り合いまして花梨さんを紹介していただきました」

「そうですか。で、フウキさん元気でしたか?今、何処に居るんですか?」

「今はもう徳島を出て、行き先は解りません」

「そう・・・で、話変わるけど由美子さんは何をなさってるの?」

「曲を作ってます」

「そうですか・・で、今日は何処に泊まるんですか?」

「神戸から徳島へバスで帰ります」

「せっかくだからコンサートを見て、私達の宿泊するホテルに泊まりませんか?
ついでに打ち上げも付き合ってよ。フウキさんの話しを聞かせて」

楽屋から出た由美子をスタッフが会場へ案内した。

由美子がフレイという人物の一角に触れた瞬間だった。

コンサートは2時間半で終了した。

由美子にとって初めて見るライブコンサートであり、花梨の発する
バイブレーションに生で触れたのであった。

最初、涙を必死にこらえていたが、周りは当たり前のように涙を
流していたのを確認すると、こらえる必要性が無い事に気付いた
由美子はこらえるのをやめた。こんな感動は初めてだった。

「花梨さんって凄い!・・・」と心から思った。

コンサートも終わり2人はホテルにチェックインした。

花梨が「ホテル代は私が払うから遠慮しないで。じゃあシャワーを
浴びて11時に下のロビーに来てね」

「はい」由美子にとっては夢のような一時であった。 

「おまたせ。それじゃあ行きますか」

一行30名は難波の料理屋で打ち上げをして、二次会はカラオケ店に
移動した。大きな部屋で二次会は行われた。

挨拶は花梨が勤めた「今日は大変お疲れ様でした。二次会も盛り上がり
ましょう。今日は徳島から私の友達の由美子さんも参加です。
大いに飲みましょう。乾杯!」

あれだけのコンサートを作り上げたメンバーだけあってパワーも凄かった。
途中メンバーのマコトがマイクを取った。

「それでは花梨ちゃんのお友達にここらで一曲お願いします」

「さんせ~~い」声を上げたのは花梨だった。

「はい。私はギターの弾き語りでいいですか?」バンドのメンバーから
ギターを借りた。

「じゃあ、私の作った曲で(風)を歌います」

側から小声で「おい、あの娘、素人だろ?プロを前によくやるよな。
最近の女の子は大胆というか怖いもの知らずというか・・・」 

チューニングを終えた由美子が「・・・風、お聞きください」

風はフレイに披露した想い出のバラード曲だった。

歌い始めて間もなく、ざわついていた会場に静寂が走った。
聞こえるのは由美子の歌声とアコスティックギターの調べ。
素人の女の子がプロの集団を黙らせた瞬間だった。

はじめは緊張していた由美子だったがそれも束の間、
曲とギターと由美子がひとつとなった。

由美子の心の中は心地良さ以外、何も無かった。歌い終えた瞬間、
怒濤の様な歓声と拍手が響いた。

花梨とは違った意味で「凄い!」皆が認めた瞬間だった。

そのままアンコールをもらい、結局3曲歌う事になった。
一番喜んだのは花梨であった。

「さすがフウキさん。強烈な人を送り込んできたのね」

翌朝、ロビーでコーヒーを飲みながら花梨は「昨日のあなた、
決まってたわよ。プロの集団を一気に独り占めしたんだから。
音楽やりたいんでしょ!東京に出てきなよ、落ち着くまで私の
マンションに住むといいよ。

そうしなよ、それに、あんたの云うフレイの別の顔も見てみない?
今、私がこうして歌っているのはフレイさんのおかげなのよ」

「そうですか。フレイさんて凄い人なんですね。私、父と母に相談して
花梨さんに連絡します。私の心は決まってるからお世話になると
思いますが、その時はよろしくお願いします」

「待ってるね」2人は大阪を後にした。 

スタッフの1人が「花梨ちゃん、昨日のお友達は?」

「徳島に帰りました」

「あの娘、面白い娘だったね。磨いたら絶対に光るよ」

「そのうち上京するので宜しくお願いします。あの人は私の師匠からの
預りものなの・・・」

「任せてよ。彼女は天賦の才がある」スタッフの目は未来の由美子の
姿を描いていた。

それからひと月後、由美子は上京し花梨のマンションで世話になった。

SANGAにも顔を出し会員仲間とも直ぐに馴染んだ。

【SANGA(神々の戦い)】全18-14

14、「束の間の平安」

 SANGAの活動は個人的霊性の開発を目的とし、宗教とは大きく
異なり崇める対象は存在しない。あくまでも自分の内なるハイアーセルフ
(高次の自己)に触れる事を目的としていた。

フウキは東京の事務所にいた。

「ごめん下さい」

30歳前後の女性の訪問であった。 

「はい!いらっしゃいませ」フウキが応対に出た。 

「こちらの会のお話を聞きたくて伺いました」 

「はい、どうぞこちらに」フウキは笑顔で応えた。 

「私は菅野といいます。こちらは宗教と違い自分自身の本質に触れる
為の会と聞きました。 私はハイアーセルフに繋がりたいんです。 
その辺の事が聞きたくて来ました」

「ハイアーセルフには誰でも無意識で繋がってるんですよ。あなたは
そのハイアーセルフに繋がって、どうしたいとか具体的に何かありますか?」 
「はい?とりあえず繋がりたいんです」 

「そうですか。多くの方はそう言います。因みに貴女は今パソコンの
前にいると仮定して下さい」 

「・・・はい」

「そのパソコンは既にネットに繋がってます。なのに、貴女はその
パソコンがネットに繋がればいいのにと思って座ってるんです。 
ここまでの話しで何が足りないと思いますか?・・・」

「入力ですか?」 

「そうですよね!入力しないと応えてくれませんよね。では、貴女はどうですか?」

「入力してない・・・」 

「はい!ハイアーセルフは絶対におせっかいしません。貴女が聞いて
もいない事に応えるはずがありません。というか応えようがありません。
聞く聴かないは貴女次第とも云えます」

「私・・・次第ですか?」 

「はい。これは多くの人にも云える事なんですが。ただ漠然と聞こえない
と云ってるだけで、具体的に何が聞きたいのか?そこがポイントです。 
ネットだと聞きたい事や調べたい事にはキーボードを打ち込むのに、
こと、こういう世界では漠然としていて限られた人しか聞こえないと思い込む。

まるでとっておきのインスピレーションか何かが得られると思いがちですが、
そんなお節介はありません。こちら側が求めて初めて応えてくれるんです。

パソコンと同じでこちらが入力しないと応えてくれない。
但し!パソコンは答えを教えてくれるけど、この世界は答えを教えて
くれません。答えは自分で導き出すです」 

「では、聞く為のコツは?」 

「少しやってみましょうか? 深い深呼吸を3回して下さい。
次に自分の内面の肯定です。目を閉じて内面を見つめて下さい。途中の誘惑に耳を
傾けないで進んで下さい。頭を使わないで全身で感じて下さい。何か見えますか?」

「いいえ」 

「何か聞こえますか?」 

「お・か・え・り・な・さいって聞こえます。チョット待って下さい?」 

「聞き直さなくていいです。その声の発信元がハイアーセルフです」 

次の瞬間、彼女の目から涙が溢れていた。

「私は何年もハイアーセルフに話しかけて来ました。本当に本当に自分の
中にあったんですね・・・」 

「今度から沢山、聞きたい事をハイアーセルフに聴いて下さい。幾らでも
応えてくれますから。早い時は全部聞き終わらないうちに答えが返ってきますよ・・・」 

「どういう事ですか?」 

「繋がると云う事はそう言う事なんです。時間差が無いんです」

「時間差が無い?」 

「この世は時間差をもうけていますが、本来は時間という概念は無いんです。
 原因と結果が同時にあるという事です。質問と答えが同時にあるんです」 

「もうひとつ宜しいですか?」

「どうぞ」 

「悟りとは?」 

「自分に返る」

「自分に返る?ですか・・・今日はありがとうございました。貴重な
経験をさせてもらいました」 

「お役に立てましたか?」 

彼女が帰ってから話しを横で聞いていた摩耶はフウキに質問した。 

「フウキさん、彼女にいきなり突っ込んだ話ししましたけど、珍しいですね」 

「うん、彼女は魂が欲していたんだ。話の内容と云うよりも、この会の
波動を感じたかったんだ。潜在的な部分でね。彼女はもう熟した果実の
ようで何時弾けてもいい状態だった。 これからも今みたいタイプの訪問者が多くなるよ」

「フウキさんは今のような人が来たら一瞬で透視するんですか?」

「そうだよ。一瞬で、少なくても7通りの観点から視るよ。 
車に例えると、外観・足回りタイヤの色と質・エンジン性能・
それに付随するメカ・走りの能力・内装のデザイン質・どんなユーザーを
対象にしてるか、等々、車だけでもこれだけの見方が出来るんだ。 

人間を越えるとこの車のデザイナーやメカ設計者の性質・
どんな気持ちで設計したか等も視える。 

人間も一方向や二方向じゃ相談相手に失礼でしょ?
最低でも過去・現在・未来を視ないとその人の本質を語れないよ。
それが僕の立場でありSANGAの立場でもあるんだ」

「私、そこまで視てませんでした・・・」摩耶は下を向いた。 

「摩耶ちゃんは表現の仕方が僕と違うだけなんだ。現に久慈さんがそうだよ。
彼には言葉で表現出来ない摩耶ちゃんの一面が伝わった。
僕と摩耶ちゃんは方向性は一緒でも伝え方が違うだけ。

もっと言うなら、僕は摩耶ちゃんの様に詩と書だけで人間を感動させる
事は僕に出来ないよ・・・」

2人の前には摩耶が久慈に送った詩が飾ってあった。


 その頃、世界は戦争や経済のバランスが崩れる等、相変らずの
様相であった。久慈が死んでも世界の在り方は依然として何ら
変わる事なく運営されていた。

自然環境も「観測史上初」という言葉が当たり前のようにマスコミは
連日報道していた。

久慈の後継者に指名されたのは、韓国のキム・シャウンだった。
彼は武闘派でならした存在で別名「アジアのハリケーン」という
通り名が付いていた。 

キムから日本の裏社会に指令が出ていた。 

「SANGAの宮園を1ヶ月以内に抹殺せよ」との指令。

以前と違い、表に出て活動を始めたSANGAは知る人ぞ知る存在だった。 

彼らにとってフウキの行動パターンは手に取るように把握できた。 


 SANGAになにかを察知したフウキから招集がかけられた。

「皆さん、忙しいところ集まっていただきありがとうございました。 
今日は緊急の波動チューニングをします。これが最後になるので一気に
引揚げますから100%僕に任せて下さい」

シバが何かを察知して口を開いた。 

「フウキくん何があったの?緊迫した雰囲気がするんだけど?」 

「気のせいですよ、シバさん。今日は全員、同時に波動チューニング
するので事務所を閉鎖して円陣組んで座って下さい」 

事務所は閉鎖され窓は閉ざされ薄暗くし、円陣を組んで座った。 

「各自、サンガの守護者を意識して繋がって下さい。その守護者と
一体になったら、そのままサンガの宮で集会をします。 
創造の宮のアメンに僕が繋がるので全員、僕に集中して下さい」 

しばらくして7人全員がひとつになり、意識はアメンと繋がり次元を
越え全員がある一定方向に向けて上昇した。 

大いなる存在と初めて繋がった瞬間であった。

全員が宇宙の始まりと終わりを体験した。

サンガの宮で7日間を過ごし事務所に戻った。 

誰も声も出さないまま目を瞑っていた。

フウキが口火を切った「今日はこれで終わります」あっけない言葉だった。 

それから1時間あまり声を発する者もなく事務所には沈黙が続いた。 

フウキ以外の全員は初めて強烈な体験を味わっていたのだった。

外はいつの間にか夕闇に包まれて、6人は現実の世界に戻る事が苦痛にさえ思えた。

我に帰った時にはもうそこにフウキの姿は無かった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-13

13、「山 河」

 摩耶の一件が過ぎ、別人のようになった久慈は今までとは180度方向性が変わり、

日本の主要経済はもとより各界にその影響が出始めた。 

今の久慈は虚を廃し実を取ると言わんばかりに、見せかけの強者の政治
や経済などは攻撃し、庶民の目線での行動を取るようになった。 

その分、久慈への風当たりも強くなってくるのも世の術。

ある時、闇の指導者マーラとアンラが来日した。

マーラが「ミスター久慈、あなたは今更なにをなさろうとしてます? 
築き上げてきた我らが地位を根底から覆す行動はどうしたものですか?」

「ミスター・マーラ、私は目覚めたんだ。この世に生誕してきた目的を。
しかも若干20代の娘に教えられた。
お二人さん・・・この久慈を青臭いと笑ってやって下され。人間は
どんなにつくろっても限度がある。

メッキはメッキでしかない、いつかは必ず剥げるもんです。
それを認めるのが怖いから、権力をかざし、時には恫喝して自分を
強くみせる。もうそんな世の中長くは続きません。

メッキはメッキです、無垢にはどうあがいてもなれない。 
この年になって気が付きましわい・・・これからは世の為になる
ことを少し考え実行します・・・」 

マーラとアンラはお互い目配せをし、黙って退席した。 

帰りの車で2人は「ミスター久慈も終わりましたね・・・」そう言い残し
日本を後にした。 

久慈は日本とアジアで力のある影の実力者達に招集をかけた。 
東京の某ホテルで78名の人間が出席し集会は行われた。 


 「今日はお忙しい中集まっていただき、ありがとうございます。
皆さんの耳にはいるのは時間の問題だと思いますので、噂が歪曲
しないように私の口から今までの経緯を述べさせて頂きます。 

この久慈健栄はアメリカのマーラと英国のアンラと決別いたしました。 
理由はこの久慈が組織エレボスの脱退を申し出たのが理由・・・」

会場はどよめいた。 

「まあ、最後までお聞き下さい。私はこの年になるまで、やりたい放題
のことをやってきた。がここに来て私は生き方を変えようと思い立った。

たぶん私の命は狙われる事にになるが、命ある限り社会への償いをしたいと
考えております。私は、しかめっ面で生きるより、笑顔で生きることを
選んだのです。たとえそれが短命に繋がっても私は後悔ありません。

すぐに私の後継者は決まるでしょうが、これだけは解ってやって下さい。
 
世の中のあり方は既に変わってきている、これからは力でどうにもならない
事が多くなる。改心は早いに越したことはない。それが久慈の言葉です。
ありがとうございました・・・・」

久慈は頭を深々と下げた。

会場から野次が「爺さん勝手なもんだな、散々好きかってしやがって、
何人の人間が泣いたと思うんだ。最後はみなさんさよならかよ!」

「爺さん、あんたのおかげで今まで泣いてきた人間にどう詫びるんだい?
スイマセンのひと言かい・・・勝手だのう」

久慈は罵声の飛び交う中会場を後にした。 

期を同じくして、アメリカのマーラから武闘派組織に指示が出された。 

「久慈健栄を抹殺せよ!」との指令だった。 

引退宣言の後、久慈は原宿の摩耶を訪ねていた。退院後初めての再会であった。 

「摩耶ちゃん元気かね?」

「久慈さんお久しぶりです」 

「今日は摩耶ちゃんと話しがしたくて、押しかけてきてしまったよ。 
迷惑でなかったら食事でもつき合ってくれないかな?」

「あっ、はい!わかりました、あと5分待って下さいね。
ひとつ仕上げたら行きますね・・・」

2人はレストランにいた。 

久慈が「摩耶ちゃん、その後身体の具合はどうですか?」 

「はい、天候が崩れたり雨の日は頭痛がしますけど、それ以外は身体の
痺れも無くなりました・・・快調です」 

「それは良かった、何かあったら相談して下さい。いい医者なら
いくらでも紹介しますよ」 

「ありがとうございます。それと、もうそんなに気を遣わないで
下さいね・・・久慈さんのせいではありませんから」

久慈は久々に摩耶の笑顔に触れ穏やかな心を取り戻した。 

食後のコーヒーを飲みながら久慈が呟いた。

「私も引退を申し出てきましたよ。長年にわたり私のワンマンで運営し、
まとめてきた組織でして、辞めるときは散々罵倒されました。 

当然と言えば当然なんだけどね。たぶん、その組織は黙って私を
辞めさせないでしょう。私は奴らの弱点を知りすぎてるしね」

久慈の表情が濁った。 

「たぶん、こうして摩耶さんと食事をするのも最後かも知れない。
本当にありがとう・・・久慈も最後は人間に戻って死ねるよ・・・」 

「久慈さん、そんな寂しい話ししないで下さい。これから、この国を変えて下さい」

久慈は黙って微笑んでいた。 

「ところで、今日はSANGAの皆さんへ私からのプレゼントを
持ってきたんだ。どうか受け取ってやってほしい」 

久慈はカバンから封筒を取り出した。封筒の宛名はSANGA様と書かれていた。 

「・・・何ですかこれは?」 

「まあ、黙って開けて下さい」封筒の中身は小切手だった。 
額面は一億となっていた。 

「久慈さんこんなの受け取れませんよ」

「摩耶さん、黙って久慈の話を聞いてくだい。これは汚い金でも
何でもない・・・私の持ってる多くの壺や絵画を売却したもの、
これでSANGAの運営に使って欲しい。
そして人材を育成して欲しいのです。SANGAはもう今までのように
影で燻ってないで大きく羽ばたいてほしい。 

先日、代表のフウキさんと病院でお会いしましたが、あの方は
悟りを開いた立派なお方だ・・・SANGAの意識をもっと多く人に
伝えて世の中を変えてほしい。
 
それには必ず事務局となる拠点が必要です。 
個人の駆け込み寺にもなるでしょう。その為に使ってほしいのじゃ」 

「でも私のいちぞんでは受け取れませんすみませんが・・・」

久慈の表情は真剣だった。

「摩耶さん私には時間がないんです。さっき話したように抹殺指示が
下れば、一週間以内いや今日・明日にも実行されます。 

やり方は色々あるけれど自殺死、もしくは脳梗塞や心筋梗塞など死又は
再起不能になるくらいの致命的な障害が残るような方法を使います」 

「脳梗塞?」 

「そうです、仕掛け人が手のひらに隠し持っていてターゲットと握手
など接触した時に、その小さい針でちくりとやるんです。瞬間薬が
注入され、3日ぐらいすると脳に血栓がつまり重い脳梗塞になり
事実上の人生は終わります。病気ですから誰も不信感を持ちません。

このような事例は過去にも沢山あります。私は組織を抜けた人間・・・
普通に人生を終われないんですよ。
 
それと、これは私から摩耶さんにこの度の、お詫びと今後の活動に期待を
込めて久慈の気持ちです」 

もうひとつの封筒を渡した、摩耶様と書いていた。 

「なんですか?」封筒の中身は三千万円の小切手だった。

「久慈さん私本当に困ります」

摩耶は、これを受け取ると久慈がこの世から本当に消え去るような
気がして受け取れなかった。

摩耶は涙が出て来た。心の中でフウキさん・・・サンガのトール様!・・・
摩耶の心は泣いていた。

「摩耶さん、私はこの世で長年生きてきて泣かせた人の数は数え切れない、
せめて最後は人の役に立つ事をしたいと願っているが今云った事情で、
もう私には時間がない。だからバトンをSANGAに託したいのじゃ。

最期ぐらい活きた金を使わせて下さい。久慈健栄最後のお願いです。

私の代わりに何とか世のために活かして下され。明日、朝一番で銀行
から引き出して下さい。 

もう時間がない、これは私名義の口座でないけれど調べが進むと奴らはどんな
手を使ってでも口座を凍結させようとする・・・だから早いほういい」

そう言い終えると久慈はレストランを出た。 

最後に摩耶に手を振ったのが、摩耶が見た久慈の最後の姿だった。

摩耶はシバとフウキに相談し、翌朝一番でシバとアグニの3人が
銀行から現金を引き出した。 

その数日後、久慈のいうように久慈名義の口座は国税局の指示で凍結された。
久慈が脳梗塞で倒れたのがその直後。危篤の情報が流れ、間もなく死の
知らせが報道された。


 SANGAでは久慈の遺言どおりされ、EIKEN基金として処理され、
SANGAの運営に使われた。

EIKENとはKENEI(健栄)のフォログラム。

東京の渋谷にSANGAの拠点を移し、フウキも札幌の自宅と東京を行き来した。

摩耶は久慈の心を変える切っ掛けとなった詩をSANGA事務所の
上座に飾ってもらうことにした。

野を駆けし我が山河
   今も青き我が心の山河
     京の都、比叡の山並み
                EIKEN

と書かれた大きな書が飾られた。 

毎月8日を「SANGAの日」と定め、その日は一日中瞑想と一般の
無料解放相談の日と定めた。
 
本当の意味は出資者、久慈健栄の亡くなった日が8日であった。
 それを知るのはSANGAの7人。全員胸の奥に封印した。

久慈の死後SANGAへの抵抗勢力は消え失せたがエレボスは声を
潜めただけで消滅したわけではなかった。 

SANGAの事務所に出入りする人間も増え摩耶が常勤するようになった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-12

12、「よみがえり」

 新生SANGAは今までとは違い、雪をかき分け這いだしてきた植物の
芽のような力強さを秘めていた。 

全員内から湧いてくるような計り知れないパワー。

インドラには静寂の中に佇む禅僧の組む禅ような気魄があった。 
ユーギルが常に付いていた。

アグニは、只ひたすらに絵を描き続けた。その絵は静寂の中の炎・・・
荒々しさの中の静寂という陰陽を上手く一枚の絵で表現していた。 
ミーミルの指導の下の作だった。絵は納品したその日に全てが
完売という日が続いた。

花梨は声音域が2オクターブ上がり自分の歌に広がりをみせた。 
イズンの指導のおかげで容姿にも、ひときは輝きをみせファン層も
年代を超え巾が広がった。

シバの書く小説は深みを増し、ひとつの中にファンタジー・推理・
恋愛という各分野が絶妙に絡み合った出来となり、売上部数はいっきに
跳ね上がった。智の宮ウルの影響が顕著に現れていた。

ラトリはエネルギーそのもの。彼に近寄る者は内から漲るパワーを感じていた。
ラトリ自身も自分の持つ得体の知れない力を感じていた。 
特にひ弱な老人や動物は顕著にその効果が現れて、ラトリが側にいる
だけで元気が出るのを感じた。
彼の後ろにいるのは、月の神オーズは月光浴という言葉があるように
月のもつ神秘の力を持ち合わせた神であった。

摩耶の詩と書はかつての繊細さを残したまま計り知れないエネルギーが、
こもった作風となった。
摩耶の書は有名な酒蔵メーカーのラベルやキャッチコピーに使用され始め
仕事のオファーも多くあった。トールは別名調和の神でもあった。

フウキはアメンの指示の元宮大工を辞め日本全国の神社の封印解きと、
人材集めの旅に出ていた。

SANGA7人はある意味人間を越えつつあった。 

7人のコンタクトは携帯電話を使用せず、ある種テレパシーによる
コンタクト方法をとっていた。

SANGA7人の間には時間と空間が存在していなかった。

今後の地球のコミュニケーションがそうなるであろう形態をSANGAの
7人は既にやっていたのだった。

一方、向井はフウキ以外のSANGAの全貌をすでに把握していた。 
久慈にSANGAの報告をし今後の対策を話していた。 

向井は「SANGAの弱点は年齢が若いということ、生身の人間まして
世の中の同年代は異性を意識し、幸せは異性との交際の中にあると思い
がちです。男女の恋愛を上手く利用しようという企みでございます」 

「それは解ったが、そして、結末は、どうしようと言うのじゃ?
失恋させ落ち込ませるっていうことか?その後は」向井は返答に詰まった。 

久慈は「向井君もう帰って良い君は脇の甘いのう・・・昔の君はもっと違ったがのう。
もろ刃の日本刀の様だった。長年ご苦労さん」 問答無用であった。

久慈は机上の電話の受話器を取り、傘下組織の渡辺敏郎を呼びつけた。 
渡辺は日本の極道を束ねる強者であった。

久慈は、ことの経緯を渡辺に聞かせた。 

渡辺は「久慈の親父さんから直々に話しとはビックリしましたよ解りました。
ここ日本は車社会です何時事故があってもおかしくありません。
車に気をつけないといけませんやねぇ・・・」2人は不気味な笑みを浮かべていた。


 ここは渋谷某所、シバが横断歩道を渡ろうと飛び出した瞬間、
左方向からトラックが信号を無視しシバの方へ突進してきた。

その刹那シバの身体が一瞬歪んだかと思うと、トラックの向こう側に移動していた。

一瞬の出来事にシバもトラック運転手も何が起こったのか理解できなかった。 

次にトラックはそのまま電柱に激突して止まった。

人混みが出来る前にその運転手は走り去り姿をくらましてしまった。

シバは全員にテレパシーを送った。

そのころ、同様の車による事故が5ヶ所で起きていた。いずれも間一髪で
助かったが余談は許されなかった。 

花梨と摩耶にフウキから「夜道に注意して下さい、一人では歩かないように」
との意識が伝わった。 

渡辺の妨害工作は次から次へと手を変えながらSANGAに降りかかって
きたが、いつも理屈に合わない方法で6人は難を逃れてきた。


 久慈の指令を受けてから半年程経ったある日、渡辺は久慈のオフィイスにいた。 

「親父さん・・・奴らはいったい何者なんですか?半年間指一本触れて
ないんですよ?・・・たかだか若ゾウ6人に私ら組織の人間がです。
奴らの正体を教えて下さい」 

「渡辺の手下の者でもそうか?実を言うと奴らは天界のサンガの加護が
あるのじゃ・・・」 

「親父さん勘弁して下さいよ、いくら、わしらみたいな法を外した
極道でも神さんには適いませんですよ。どおりで歯が立たないはずですよ」

「渡辺すまんかったなぁ、もう帰ってくれ。また何かあったら頼む」 

「へぃ、失礼します」久慈健栄は久々の憤りと敗北感を味わった。

数十年ぶりの屈辱であった。


個々の活動は勢いよく広まりTVやネットの世界では有名になっていた。
そんなある日のこと、摩耶が原宿の路上で作品を並べていると、一人の
紳士な老人が屈んで作品を手にとって眺めていた。

「これ、お姉さんのオリジナルかい・・・?」 

「はい!」 

「これは独学での作品かい?」 

「はい!お気に入りが合ったら云って下さい。それ以外にもお客さんの顔を視て
即興で作ったりもします」

「それじゃあ、その即興でお願いしようかな」

「かしこまりました。 そのイスにお座り下さい」

摩耶は自分のしていた膝掛けを老人に差し出し「お寒いですからこれ差し
支えなければお使い下さいね」

 摩耶はそっと差し出した。老人は素直に受け取った。

摩耶が筆にに集中し始めると「その者、久慈!」という意識が伝わってきた。
摩耶はそのまま筆を運んだ。「はい!どうでしょうか?」 

作品を手に取った久慈は心の奥で、子供の頃野山で駆け回っていた
自分のことが急に胸にこみ上げ熱いものが頬を伝わってきた。 

ここ何十年来忘れていた感触だった。

書の内容は

 野を駆けし我が山河
   今も青き我が心の山河
     京の都、比叡の山並み

久慈は黙したままお金を払い席を立った。

「おねえさん、ありがとうね・・・いまの私の心に染み入る詩です。 

よく比叡まで私の心読めましたね私は感動してます。この色紙は大事に
させてもらいますよ。心、洗われるようです。どうもありがとうね」

老人は丁寧に摩耶にお辞儀をした。

次の瞬間久慈をめがけて一台の車が暴走してきた。 

「危ない!」 

摩耶は久慈を両手で跳ねのけ、自分が車の前に飛び出し盾になった。 
車は摩耶を跳ねて止まった。

周りの悲鳴と共に道路には摩耶の血で染まっていた観衆が声を上げた。 

倒れた摩耶は薄らぐ意識の中その声が聞こえていた、と同時に血
でまともに見えていない目で老人を探していた。 

「お爺さん大丈夫?・・」

声になっていなかった。除々に意識は遠のいていった。

老人は我に戻り、状況を見渡すとそこに見慣れた人間の姿があった。 

それは久慈に恫喝された向井が呆然と立っていた。 

そう、向井は久慈を狙って車を突進させてきたのだった。
そこに摩耶が久慈の盾になるべくして割ってはいったのであった。

久慈はしわがれた声で「すまん誰か救急車を呼んで下され。そして警察も頼みます」

と叫び摩耶の傷口を止血していた。 

久慈はこの時、このいたいけな少女に自分がしてきた人生の愚かさを、
この短時間で懺悔させたのだった。 

摩耶は救急病院へ運ばれて応急処置室に運ばれた。 

警察はは摩耶の携帯アドレスから無作為に数人の名前をピックアップし、
最近の通話履歴から花梨に電話をした。

花梨は連絡を聞き一斉にSANGAにラインした。 

「摩耶が車に跳ねられ重体」

フウキから電話があった。

「花梨ちゃん、すぐに病院に向かって逐一状況を知らせて欲しい」 

「解りました、すぐシバさんとアグニくんとで病院に向かってみます」

3人は大学病院の救急病棟に走った。 

摩耶は救命の集中治療室で治療中。 

看護師の話しだと親族を至急呼んで欲しいとのこと。 

親は仙台だと話しをすると「今日がヤマ場です」との返答。 

シバは席を立ちSANGAのメンバーにラインした。 

「摩耶危篤、SANGA全員で光を摩耶に・・・」 

全員から応答があった「シバさん了解しました、摩耶さんのこと
お願いします。これから送ります」 

アストラルの世界では日本各地から摩耶の元に念が筋となった飛ばされていた。 

シバが待機している所に老人が立っていた。 

その老人が3人の所にきて「あのう、君たちはこのお姉さんのお友達ですか?」 

シバが「はい、彼女は摩耶と云いまして私達の仲間です」

「そうですか、私は原宿で彼女の詩を買いましてね。立ち上がって
帰ろうとした時に車が急に私をめがけて飛び込んできたんです。 

それを見ていた彼女が私を突き飛ばし私の盾になって彼女が跳ねられた
というわけなんです。 
そしてその車を運転していたのが私の知り合いでして、私を怨んでの
仕業のようです。本当に彼女には申し訳ないことをしたと思うております」

老人の手には血で染まった摩耶の書いた色紙が握られていた。 

「そうですか、あなたを養護するために自分を盾になったんですか・・・」 

シバをはじめ花梨とアグニは涙をながして下を向いた。 

「私はシバと申します、私達3人は摩耶ちゃんの仲間です」 

「私は久慈健栄と云います、この度は大変申し訳ないことを致しました」
深々と頭を下げた。 

3人は耳を疑った、そこに立っていたのはあの久慈健栄その人だったから。 

一見、品の良い普通の老人に見えた。 

シバが「いま、治療室で頑張っているのは摩耶という仙台出身の
書家なんです。数年前に上京して路上で創作活動をしてます」

なんで摩耶と久慈が?複雑な心境のシバはそこまで言うのがやっとだった。 

シバが話し終えると3人は摩耶に念を送りはじめた。

久慈は離れたところにある電話BOXで電話をかけていた。


 そこにフウキが現れた。シバがフウキに事の次第を説明した。 

「そうですか」フウキは言葉を続けた。

「摩耶の意識と繋がりました。摩耶は事故前からこうなることを全て
把握していたようです・・・」 

3人は意味が解らなかった。 

フウキが続けた「潜在意識下では久慈と摩耶の間では了承済みの出来事
だったという事。つまり、こうなる約束だったということ。 
これを契機に久慈さんは大きく変わってくるでしょう。
久慈さんが変われば日本はおろか世界が変わる可能性もあるという事」

花梨が「摩耶ちゃんはどうなるんですか?」2人も頷いた。 

「明日になれば意識も戻りますよ。回復もことのほか早く医者を
ビックリさせると思うよ。摩耶は今天界のサンガでバージョンアップ
しようとトールの下で頑張ってるよ」 

3人はフウキの言葉にほっとひと息ついた。

久慈が戻ってきた。 

フウキが「僕はSANGAのフウキと申します」 

「SANGA?」久慈は耳を疑った。 

「SANGAってあの歌手だとか小説家のグループの?」 

「はい、そうです。私がSANGA代表の宮園風輝と申します」 

「そうですか、君たちがSANGAの方達ですか・・・」

「いや、数々の失礼なことを、あなた達にしてしまったようですね。
私も好い経験させてもらいました。 
特に摩耶さんは私の眠っていた心を何も語らず書だけで刺激してくれました。
それだけじゃない、こんな私の身代わりのようなことまでされては、
この久慈は摩耶さんになんとも言いようのない・・・・」 


 言葉に詰まった久慈の目から止めどもない涙が溢れていた。 

その涙が全てを語っていた。そのまま無言で久慈は立ち去った。

翌日、摩耶の意識が戻った。

意識が戻った摩耶を確認すると、母親は安堵感からかその場に倒れ込んでしまった。 

「あっ!お父さんお母さん・・2人揃ってどうしたの?」摩耶のか細い声だった。

父親が「お前は老人を守るようにして自分から暴走してきた車に
跳ねられてしまったんだよ。憶えてないのかい?」 

摩耶は遠い意識の中から微かにそのことが蘇ってきた。 

「あのお爺さんはどうなったの?」 

「転倒して軽いかすり傷を負っただけらしいよ」 

「・・・よかった」摩耶は自分のことよりも久慈のことを心配していた。 

病院から久慈のもとへ、摩耶の意識が戻ったことの報告がなされた。 

SANGAの仲間も病院に集まり、摩耶への気遣いのため遠くから顔を見せて帰った。 

その後、久慈が沢山の花と果物を手下の者に持たせて挨拶に来た。 

その光景を見た摩耶は「あっ!お爺さん元気で良かった・・・」
第一声が久慈を気遣う言葉だった。 

久慈はまたも摩耶の言動に涙していた。 

「摩耶さん、昨日はありがとうございました。あの車は私を狙った者の
犯行だったんです。こんな見ず知らずの老人のために、摩耶さんは身を
挺して護って下さった。お礼の言葉もありません。ありがとうございます」

「大丈夫です。私はすぐに元気になります、だって若いですもん・・・」

その後退院までの一月間久慈は毎日病院を訪れていた。 

摩耶と会話をしてると自分の忘れていた純真な子供の頃の気持ちが
蘇ってきた。久慈自身も不思議な感じがしていた。

「今日はこれを持ってきてしまったよ」久慈がカバンから取り出した。

それはあの時の色紙。折れ曲がった跡が残り薄汚れていた。

「あ!汚れてる。新しいの書きましょうね」 

「いや!これが私の宝なんだよ。この色紙があったおかげで私は救われた。
色んな意味でね・・・掛替えのない宝なんだよ。いつもカバンに入れてあるんです。
こんな老人がおかしいでしょ・・・笑ってやって下さい」 

「お役に立てて嬉しいです」 

なにげない会話だったが、今の久慈にとっては至福の時間だった。 

以前の久慈からは誰も予想できなかった。 

摩耶は無事退院の日を迎えることが出来た。 

その日病院には母親とアグニがいた。

久慈はタクシーを手配し、治療代など全ての支払いを済ませ玄関で待っていた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-11

11、「意識のチューニング」

 久慈の配下にあたる向井政晴から久慈に連絡があった。 

「久慈様、兼ねてから久慈様がおっしゃっていた反勢力の全貌が見えてまいりました」

「で?・・・・」威厳のある久慈の声。 

「組織名はサンガといいまして、わずか7名からなる集まりでございます。
今のところトップの人間の正体は全く解りません。 

残りは今流行の花梨という女性歌手と女マネージャーの摩耶。 
小説家の芝山という男と原宿で絵を描いている若者具志といいます。 

それと今年沖縄から札幌の大学に入学した男ですが名前は宮越。もう一人は不明です。

計不明者2人と今いった5名からなる組織で組織名はサンガでございます」

「馬鹿者。この、わしに報告するのに不明者がございますとは、
どういう事なんだね?・・・君はガキの使いか?」 

「た・大変申し訳ありません・・・すぐに」 

「まあよい。若造のしかも7人とはのう?・・・・」


「はい、それが不可思議なんです。 歌にしても本にしても、
絵にしてもメッセージせいが全く見あたりません。 

もっと大きな組織で影響力のあるところは幾らでも存在します。 

私の印象では単なる同じ意識を持つ、ネットか何かで知り合った
集まりではないかと思われますが。 

久慈様がサンガを意識されるほどの事ではありません。久慈様の下で
働いて40年、初めての経験です」

「向井もまだ解ってないようだのう・・・まあよい。
 とりあえず、いつものやり方で始末せい。小説家は電車で痴漢決定じゃ。
 週刊誌とテレビを通じて大きく騒ぎなさい。

その梨花という歌手とマネージャーはダブルブッキングの2回もして
くれりゃあ、大きな借金を負ってしばらくは立ち直れんじゃろうて。

残るは取るに足らんからそのままで良い。くれぐれも悟られるなよ。
解かりましたね・・・」


「はい、かしこまりました」

向井はその場を離れると事務所に戻り部下に指令を発した。

2人のやり取りをサンガの世界から地の宮の神官ミーミルはじっと
見下ろしていた。 

「とうとう久慈が動き出したようだ。相変わらずのやり方か」

ミーミルは憂いの帯びた眼差しでみつめていた。


 ここは京王、井の頭線。シバは渋谷駅から吉祥寺に向かっていた。 

電車が高井戸駅に差し掛かった時突然、シバの胸にある意識の言葉が
響いてきた。

「シバよ、聞きなさい。私は天界サンガの者。これより先は両手で
つり革を掴みなさい。今後、立って乗り物を乗るときは常に両手は上に」

そう、言葉にならない意識が伝わってきた。シバは指示に従って両腕は
絶えず上に上げていた。

同じ車両に乗り合わせていた久慈傘下の仕掛け人3人はタイミングを
掴めず業を煮やしていた。 

彼らの計画は女性がシバの横に立ち小さい声で「やめて下さい」と2回云う。
そこで側にいる男がシバの手を掴み上げ「やめろ!」と大声で騒ぐ。 
もう一人も騒ぎ始める。男2人と女性の3人は途中の駅でシバを下車させ
警察を呼び女性に被害届を出させ、男2人は目撃者として証言するという手はず。

ところがシバの両手は上げたままである。3人は予想外の展開に苛立っていた。 
シバは指示に従った。その後もシバは列車に乗る時は必ず、座るか混雑を
避け空いている列車の時間帯に移動する事を心がけた。 

一方、摩耶もサンガのエイルから「ダブルブッキングに注意せよ」と夢で
何度か伝えられていた。シバからも久慈が動き始めたらしいから注意
するようにと連絡があった。

彼らはしばらく注意しながら様子をみることにした。

向井が久慈にその後の報告をしていた「久慈様、どうもあの2人は警戒
してか罠にはまりません。いっきに闇から闇に葬りましょうか?」 

久慈はタバコをくわえながら「君が弱音を吐くのも珍しいのう・・・
ところで奴らのトップは掴めたのかな?」

「はい、それがまだでございます」 

「何故だね?」

「あ、いや、申し訳ありません。今度お会いする時はハッキリしてる事と思います」

「思います・・と云ったか?この私に?・・・」向井は失言したと顔を青くしていた。 

「それにしても不思議よのう?実体があるようで無いような連中か?
相手は幽霊か何かですかねぇ?いいですか、次回、会う時までにハッキリしない
場合は、あなたには今までと違う仕事をしてもらう事になりますからね」

向井はハッキリと久慈に恫喝された。

自分の事務所に戻った向井はその苛立たしさを部下数人に浴びせていた。 

「貴様らは何をやってるんだ!おかげであの久慈の糞じじいに恫喝されたんだ。
このわしが・・」3人の部下は持っていたステッキが折れるまで殴られた。


 フウキからラトリ伝令が入りSANGAが札幌に集結された。 

フウキが「みなさん、今日は忙しい中、お疲れ様でした。緊急招集を
かけた理由は既にエレボスが動き出しており、躍起になってこの
SANGAの実体を探しているようです。

今のところダメージは無いけれどチョットした油断が命取りになります。 
たぶん実体を掴むまでそう長くはないでしょう。 

それで今日は皆さんに、いっきに波動チューニングして天界のサンガと
繋ぐパイプを太くしようと考えてます。 

シバさんも今よりもっと太いパイプで繋がりましょう。 

皆さんは、まず自分に揺るがない芯を作る瞑想をしてもらいます。 
そして僕が隣の和室で一人60分づつ個人セッションします。 

その内容は皆さんの波動チューニングして、いっきに天のサンガに
体外離脱させ、サンガ13の宮のどこかにパイプを作る作業をします。 

結果、1回でも大きく繋がると、この世界に戻ってからも天のサンガ
からの指示を意識的に受信できるようになるんです。

当然今までも繋がっていますが今度はハッキリと自覚できるようになります。
今までは意識を集中させてから繋がってましたよね、今度からは意識した
瞬間に繋がって会話できます。時間差はありません。 

アナログとデジタルほど違います。いやそれ以上です。まずは、
そこまでで今日は終了します。で、意見や聞きたい事ありますか?」

インドラが「ここまでは理解できましたが、その後はどう考えてるんですか?」 
「うん、今日のチューニングが終わり次第で話し合おうと考えてる、
これは今まで話してないことだけど、みんなの意識が同じくらいの
レベルでないと実現できない事ってあるんだ、だから今回集まってもらいました」

全員がフウキの前に座った。部屋はローソクの明かりと微かな、
お香の香りが漂った異空間の感があった。 

フウキが「まずは全員深い深呼吸を3回して下さい。では軽く瞑想に
入ります。鼻から息を大きく吸って5秒止めて下さい。
意識は鼻から吸って尾てい骨に息を降ろして止める。
 
その後静かに背骨を登って口からゆっくりと吐く、吐き終わったら、
また息を5秒間止めて下さい。約30分で終了します。では開始して下さい」

部屋にはメトロノームが規則正しいゆっくりとしたリズムを刻んでいた。

SANGAの面々は日頃から瞑想は馴れていたので全員素早く深い瞑想に入った。

「はい、解いて下さい。ではアグニ君を残して全員退室願います」 

部屋ではフウキとアグニが対面して座り、10分ほどの瞑想に入った。 

「アグニくん座蒲団を枕に仰向けになって目を瞑って」 

アグニは従った。

「じゃあ、身体から抜けてホテルの屋上に出ようか?何が視える?」 

「近所のビルの屋上が視えるよ」 

「じゃあ、もっと高く上がってみようか」 

「はい、北海道が視えます」

「じゃあ、もっと上行こう」 

「地球が下に見えます」 

「次はアグニのガイドにサンガに誘導願って。ハイ!」 

次の瞬間アグニはいっきに次元を越え白いドームの様なところを
通り抜け白く光り輝くサークルのような所に居た。 

正面には10数人の意識体があった。 

隣にはフウキの存在も感じられた。

正面の意識集団の中からミーミルが語りかけてきた。 

「アグニ久しぶりです、私は汝が地球に生まれる以前から汝のことを知っている者、
これからは私ミーミルが守護する。フウキを中心に働いて下さい」 

アグニは深く頭を下げたと同時にミーミルの意識と重なり合った。 
止めどなく表現しようのない歓喜の涙が溢れてきた。

10数人の意識体から祝福のバイブレーションが2人に注がれた。 
サンガでの学習経験は3日程続きアグニの意識はこの世界の身体に戻った。 
その間、この世界では30分程の出来事だった。

フウキが声を掛けてきた「どう?」 

「はい、ハッキリしたビジョンが視えました、夢とは全く違う感覚ですね」

「それでは誰とも話さずに自室に戻り、今の経験に慕っててよ。 
食事の時間前にコールするから」 

「はい、ありがとうございます」アグニはそのまま無言で退室した。

フウキがみんなに語った。 

「今後この部屋から出た人は、まっすぐ部屋に戻ってもらいます。 

人によって感じ方が違うから、他の人に意識を植え付けないようにするためです。
食事の前に皆さんにコールしますから。つぎは、花梨ちゃん入って」

フウキの誘導のもと、花梨の意識はサンガにあった。 

イズンの意識が花梨と重なっていた。サンガの空間には、ほのかな花の
香りと静かな音楽が流れていた。天国を絵に描いたような風景がそこに
あった。花梨も3日間学習し戻った。 

「次はラトリ入ってきて」

その後全員が終えたのは夜の10時を過ぎていた。

7人全員が集まった。

フウキが口火を切った「今日で天界のサンガと太いパイプが出来たし、
それぞれのガイドも決まった。従来通り各々の活動して下さい」

フウキはゼンマイ仕掛けのロボットが全部のパワーを使い果たしたかの
ようにその場に倒れ込んだ。

「フウキさん・・・」

フウキは翌日の夕方まで部屋で寝ていた。側では摩耶が付き添っていた。 

シバの指揮の下全員チェックアウトを済ませ解散していた。 

「うっ!摩耶かい?」 

「フウキさんお目覚めですか?」 

「嗚呼、よく寝たよ。パワー全開だったからね、でも、もう大丈夫だよ、
摩耶ちゃんありがとう。ところでみんなは?」

「もう夕方の5時ですよ昨日から19時間近く寝てたんですよ」 

「そんなに寝てたのかい?・・・」

「みんな宜しくって言ってました。今頃はみんな家路について活動してる頃ですよ」

「ごめんね摩耶ちゃん」 

「いいえ、どういたしまして」

「ところで摩耶ちゃん・・・僕腹減った」 

「もう大丈夫ですね!」2人はチェックアウトし食事に向かった。 

食事をしながらフウキは「ところで摩耶ちゃん、何か好い夢視たかい?」

「ハイ!今朝、龍の夢視ました」 

「そうかい、龍は未知なるパワーの証明でもあるんだ。内在するパワーが
漲ってる証しだよ」

「パワーですか?何か夢って面白いですね」 

「そうだね、脳は眠ることがないから、肉体が寝たと同時に別世界に
入っるんだ、全く違う夢が重なることがあって支離滅裂に思えるけど、
ひとつの夢で2つの違う世界を視るからなんだ。面白いよね」 

2人は食事を済ませて別れた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-10

10、「シバとアグニ」

 アグニは活動拠点を原宿に移しその界わい複数の店舗に自作の絵を
置いてもらい、その売上で生計を立てていた。 

アグニの絵は沖縄の海を連想させるような明るい海の絵が多く
「見ているだけで癒される」と高い評価を得ていた。 

原宿に集まる若い層に人気が集中していたが、最近はアーティスト風の
人間が作品を購入者も多く見受けられる。

感性を大事にする人はアグニの作品に魅力を感じ、年齢や性別問わず
購入する人も多かった。

アグニは仕上げたばかりの作品を持ってお得意さんの雑貨店にいた。

「こんにちは」 

「おう・・・アグニ君、君の絵は評判良いね。ここに飾った3点の絵は
すぐに売れてしまったよ。次回入荷したら連絡欲しいってお客さんまで
いるんだよ・・・良かったね」


「はい、ありがとうございます。店長さんのおかげです・・・
感謝しております。頑張りますのよろしくお願いいたします」

「なに、僕は君の絵が好きだから店に置いてるだけだよ。頑張って良い
作品を作って。アグニ君の作品展開催したり、画廊に置いてもらえる
ように頑張ってよね・・・君が有名になったら僕もうれしいよ・・・」 

「はい、ありがとうございます」 

「これが3点の売上げね、はい」手数料を引いた代金を店長は支払った。 

アグニの絵は販売金額の30%を店側に支払い、残りはアグニの収入
という取り決めで置かせてもらていた。

原宿という土地柄ファッション目当ての客の多い中で絵を売るという
事は思ったより楽ではなかった。 

そんな中で自分の絵にリピターがあると云う事はアグニにとって大きな
喜びのひとつであった。

そしてアグニの最近の構想の中にフウキから聞いている日本の
近未来の姿や潜在意識の表現や秘めた可能性、心の奥深い表現
みたいなものを絵で表してみたいと考えていた。 

絵のことでは摩耶とも連絡を取合いながら話し合う機会が多くなった。
沖縄から上京し、個性的な人間の多さに心躍らせていた。 

そう、アグニは人間ウォッチングがすっかり日課になってしまった。

暇なときは原宿・渋谷・銀座・六本木や巣鴨にスケッチブックを片手に
出かけていた。

沖縄では風景画を中心に書いていたが、フウキとの出会いから
人物の奥深さに触れたアグニは表現の自由さを学んだ。 

御茶ノ水駅前のカフェ・フォルテッシモでアグニとシバは待ち合わせていた。 

 シバは今、執筆中の小説の大筋を聞かせ、その本の表紙と挿絵をアグニに依頼していた。

一通り仕事の話しを終えるとシバが「ところでアグニ君最近、変化は無いのかい?」

「変化って・・・?」 

「意識変化のことだよ」

「SANGAの仲間と会ってる時は色々なビジョンが視えるけど、
僕だけでいると何の変化もありません」 

「そっか、僕は時間が早く感じられて仕方がないよ」

「あっ!それは僕も感じます。最初は東京は刺激が多く、沖縄はのんびりだから、
その違いかなって思ってたけど、普段、家で絵を描いてる以外でも早く感じます」

「これにはどうも事情があるらしいよ・・・」 

アグニは目を丸くした「どういう事ですか?」

「だんだんと今の時間の観念が崩れ始めるらしい。先日、フウキ君から
これからの地球の在り方を聞いたんだけど・・・この地球はどうも
パラレルの地球に分裂するらしい。

今までの在り方を良しとするタイプと、アセンションする新しいタイプ。
この二つに地球は移行するらしい。 

新しいタイプはバージョンアップされていて神に近い人間みたい。 

今までは思った事が形になるのに一定の時間を要していたものが、
その世界は即形になるので、思いと現象が一体って事みたい・・・

つまり時間軸がない世界だよ」

「嘘偽りのない世界か?・・・理想の世の中ですね」 

「そうなんだよ。地球は過去に6回そういう事があって、今度で7回目
らしいよ。でも、これが最後らしい、その後は無いって聞いたよ。
7が完成で完結なんだってさ・・・」

「そうなんだあ。今の地球社会の在り方って偽りだと思ってないけど・・・
すると・・・今のままで良しとする人間はどうなるのかな?」 

「このまま欲望のみがデフォルメされて、争いや戦争のネガティブな
想念の地球に移行するらしいよ。今の地球に近いらしいけどもっと
個人主義っていうか協調性が無い世界みたい。

当然、自然界にも反映されるから地震や考えられない自然災害が
当たり前に起こるらしいんだ・・・」 

「地獄絵図みたいですね」

「大変な世の中になるらしい」シバが囁いた。

シバの話しは続いた「それでエレボスは最後の悪あがきを企んで、

自分たちの世界に引き込もうと奮闘してるらしい。

天界のサンガの影響を受けた魂との駆引きが水面下で繰り広げられて
いると云う事。で、最終的には新しいひとつの世界に移行し、
その世界は時間差が無い世界で、原因と結果が同時にあるから
表と裏も同時に存在するんだ。 

なによりも大きく違うのは、人はみな神に近くなるという事。
分離から合一というわけらしい」


「・・・でも、現在はそんなに変わったと思わないけどシバさんは
どう思われます?」 

「表面ズラは大きく変わってないけど、目に見えないところで何かが
大きく変わったと実感してるんだ。 

さっきいった時間差が短くなったのと、今まで眠っていた事がだんだん
表面に出て来てる感じがする。

個人的にも。天の岩戸が開いてアマテラスが出て来たって云う感じだよ」

「?・・・すいません、具体的に?」 

「うん、僕の知り合いでクニオっていう友人がいるんだけど、ごく普通の
サラリーマンでそいつが急に歌を作り始めたんだ。作詞作曲してるんだよ。

一日で2曲っていうペースでもう38曲になったって云ってたよ。 

どんな感じ?って質問したら『曲が勝手に湧いてくる』って云ってたよ。 

クニオは子供時代から音楽は聞きはするけど楽器や、それらしい事
やってなかったんだぜ。それだけじゃないよ。

もう一人の友人はヒデミツっていう男なんだけど、こいつは高校の
教師なんだけど、いきなり株相場に手を出し始めたんだ。  

それがテレビの株式相場をたまたま見ていて、この会社の株が値上がり
するって閃いたらしい。そしたら現実になった。

そんな事が何回か続いたので去年の夏に支給されたボーナスから
30万円で2社の株を買ったらしい。 

それが3ヶ月後には52万円に跳ね上がったらしいよ。 

そいつも真面目で株や相場をやるようなタイプじゃないし、実際、
株相場に興味なんか無かったっていうんだ。それで2人にはある共通点
があるんだよ。何だと思う?」 

「共通点???・・・解りません」 

「2人とも、ある日突然閃いたという共通点があるんだ。面白いと思わない?

それでフウキ君に聞いたら2人は前世でその仕事に携わってて今になって
潜在していた能力が表面に出て来たって云ってたよ。

これからは潜在意識も表面意識もひとつになるからその証しかもしれない。 
たぶん、この2人は氷山の一角で、もっと沢山の人が同じような経験してると思うよ。

そしてフウキ君が云うように、これからの地球は表裏一体になるんだと思う」

「面白い・・・表裏一体か?・・・」

「ところで話し変わるけど、エレボスの影は見えてない・・・?」 

「僕は絵だけの表現で、しかも原宿だけだから全然そんな障害めいた事は無いですけど」 

「そっか、僕のほうはやたら原稿のチェックが多いんだ。思想や社会
風刺めいた事を書くと途端にチェックが入れられるよ。 

こっちは、めげないで違う言い回しを使ったりして誤魔化すけど、
着実にエレボスの影響だと解るよ。

こっちにはSANGAが付いてるから心強いけど・・ハハハ」

2人はこれから起こるSANGAへの妨害を全く予想していなかった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-9

9、「沈黙の勢力」

 久慈健栄はニューヨークのとある高層ビルの一室、エレボスの影響を
受けた久慈・アメリカのマーラ・イギリスのアンラ。世界を陰で仕切る
3人が同席していた。 

 久慈が「最近、世界の数ヶ所で我々の反抗勢力が動いているようだ。 
今のところ5つの国からの情報が私のところに入っている。主導者の
名前はまだ挙がってないが時間の問題だろう。取るに足らない。 

いつもの事だと思うが、違うのは直接的な行動でなく、どうも潜在的に
働きかけている風が感じられる」

マーラが「こちらもCIAに調査させてるが、今回は今までと違い少し
解りづらいようだ」 

アンラが続いた「どんな勢力であれ問題はないだろう。金と権力で動かん
人間はいないし出会ったことがない。それで動かん人間はハッキリ言って
取るに足らない存在だ。もう少し様子を見ようではないか。 

それよりも、ここらで中東辺りで事を起こし、武器をさばいて金にせんと
ならん。マーラさんには、今まで同様手を打ってほしいのだが。 
久慈さんも協力願いますよ」

二人は頷いた。

程なくして中近東で戦火が登った。

日本は桜まっ盛りの季節となり、ここ札幌の街も遅ればせながら桜の花の
咲く季節となった。 

札幌の中心部を抜け、裏参道を通り円山公園から北海道神宮へ向けフウキは歩いていた。 

公園では桜の花の下で焼き肉をしながら酒盛りをしている。

この光景を見ていると・・・池田棟梁の顔がよぎった。ちょうどこの季節だった。
子供を車から守ろうとして自分を盾にして死んだ棟梁。

フウキはその事を期に覚醒という体験を経て、様々な出会いと気付きを得た。 
又ここに立っている自分自身の運命を再確認していた。

神宮での参拝を終え、来た道を戻っていると突然ある意識が伝わってきた。

「私はアマテラスのトール。あなたに育てて頂きたい人がいます。
その者は空・星・自分・未来」と直接意識に語りかけてきた。

フウキはしばらくそのキーワードの意味が理解出来ずにいた。

「その者は空・星・自分・未来」か?

「空」青・宇宙・地・雲? 

「星」惑星・月・宇宙? 

「自分」自我・フウキ・ハイアーセルフ? 

「未来」過去・明日・希望・来世?・・フウキにはしっくりこなかった。


 ある時、花梨から携帯に電話が入り、ミルキーコーヒーで待ち合わせた。
そこにはインドラとラトリも同席していた。 

花梨が「フウキさん、呼び立ててごめんなさい。ちょっとした相談があったの・・・」

「なに?」

「インドラとも話してたんだけど、最近、不可思議な事が多くて。
何だろうと思っています? 
例えば興業先から突然の解約やコンサート依頼があって準備してたら
直前になって突然、依頼主からのキャンセルなど立て続けに続いたんです」 

「うん、まだハッキリしないけど何かが動いている可能性もあるから様子みようか。
何らかの勢力が動いているとしたら向こうからコンタクト取ってくるからね。

あったら久慈の勢力が加わってると考えられるよ。出方を見た方がいいね。
もしかしたらシバさんにも何かの動きがあるかも知れない、その時はまた考えよう。

彼らはひとつの道筋を打ち立てるんだ。とっても甘く、楽しそうな道筋を。 
そしてそれを断っても違う逃げ道というか2番手も用意してあるんだ。

ちゃんとね。 

どちらを選んでも計画のうちなんだ。気が付いた時には自然と彼らの
手中に収まってるっていう事。人間の心理をついた巧みなやり方だよ。 

彼らのやり方は無理のない誘導で合法的なやり方。それと人間の弱みを
見つけるのが非常に上手い。コンタクト取ってきても時間を置くこと。
そして感情的にならないでね」 

インドラが「私達、メッセージ的な歌詞や言動は無いはずなのに何故?」

「彼らも無知じゃないよ。君たちの波長にどんな力があるか知ってるから
対抗策を考えてるんだ。そういうのを見極める力があるんだ。 
むやみに世界を仕切っていないよ・・・

必要なのは何があっても自分の中心線がぶれないようにね。
ぶれそうになったらSANGAの5文字を思い出してね・・・」

3人は気を引き締めようと思った。

その後、4人は食事をしにススキノの近くにある小料理屋リンちゃんに行った。 

店には男性客が1人いて、いつものようにママはにこやかに出迎えた。 

「あらフウキさん、久しぶりね。元気にしてたの?」 

「ママさん、久しぶりです。今日は4人です。美味しいもの食べさせて下さい」

「はいよ!」 

フウキは3人に「ここは死んだ棟梁が何回か連れて来てくれた店なんだ。
みんなも使ってやってね」

花梨が笑顔で「宜しくお願いいたしま~す」

4人は和やかなムードで食事をしていた。 

ママはその男性客と話していた。その客が席を立ち4人の後ろを通った
瞬間フウキは何かを察知した。 

「ママ、彼は何やってる人なの?」

ママが言った「フウキさんも解る?あの人の気配。今日、初めていらした
お客さんなのよ。星さんという名前なの・・・」

星が席に戻ってきた。 

ママはおしぼりを出しながら言った「星さんはお仕事、何なさってるんですか?
差し支えなければ・・」

星は笑顔で答えた「僕の職業は、なかなか解らないと思うよ。もし一回で
当てたら焼酎のボトル2本キープします。さて何でしょうか?・・・」

ママは視線を落とし右脳に集中し始めた。 

「・・・あのねえ、大きな建物と黒板のような大きく黒い板が視えるわ・・・
前に座ってる人は私服・・・大学か専門学校かそれに類する職業か??・・・
高校より上の学校の先生か講師?」

星は目を丸くして言った「何で・そこまで解るの?」 

ママはフウキに目をやった。

フウキの顔がにやけていた。 

星は言った「噂には聞いていたけどママはそこまで視えるんだね」 

「あらっ、なんの噂なの?」

「ススキノの外れにある小料理屋リンちゃんのママは面白いっていう噂」 

「私が面白いって?やだ、私は芸人じゃありませんよ」

みんな笑った。 

「ところで正解は?」

「僕は大学で天体物理学を教えてます」

ママはビールをつぎながら「あら難しそう。まだ若いのにご立派ね・・・」
 
「いやぁ、珍しい分野だから札幌ではこの分野を教える人が少ないんですよ。
だから僕みたいに若くても先生やれちゃうんです・・・」

横で聞いていたフウキが珍しく口をはさんできた。 

「僕は宮園風輝と言います。突然すみません。たまにこの店を利用する
者ですけど、星さんは宇宙と自分いや宇宙と人間のかかわり、
人間の核構造と太陽系の類似などに興味を持ってませんか・・・?」 

フウキには珍しく、いきなりの質問だった。星は真顔になってビール
飲む手を止めた。 

「やっぱりですか・・・いやね、今日ここに来たのは理由があったんです。 
噂を聞いたというのはじつは嘘でして・・・
ひと月程前から夢でRINって3文字を視るんです。このひと月で5回も視ました。 

RINって何だろうな?って考えてたんですよ。 

そして今日の昼間、仕事でこの店の前を通ったんです。 

そしたら字は違ったんですけどリンちゃんって看板が目に入り、
チョット気になったから暖簾を潜ってみたんです。 

それがこんな興味の湧く人達に出会うなんて思いもよりませんでした。 
ママさんの観察力や宮園さんの桁外れの洞察力に僕は今ビックリしてます。 

いや・・・ハッキリ言って今・僕は感動さえしてます。 
もう少し宮園さんや皆さんと話しをさせてもらって宜しいでしょうか?」

ママが「ここはね、そういう人達が立ち寄る場所なのよ」そう言いながら
ビールジョッキーを出してきた。

そして星の音頭で乾杯をした。店はいっきに緊張が解けた。

それから6人はしばらく話を続けた。 

花梨達3人のフウキとの出会いの事や、ママのシリパの会など時間は瞬く間に過ぎた。

星は最後に「今日は貴重な経験をさせてもらいました。普段、職業上、
言葉を選ぶ立場にあります。目に見えない世界の話しは思っていても
言葉で表現するのは御法度なんです。 

でも今日はスッキリしました。僕の思ってた世界を現実に行動している
人がおられるとは感激です。この出会いやSANGAの事、そしてこの
店の事も同人誌で取り上げたくなりました。 
よろしいでしょうか?当然、実名は一切出しません」

皆、頷いた。  

星は続けた「皆さん、今度この店に集まる事があったら是非、僕にも声を
掛けて下さい。今日は本当にありがとうございました」

星もフウキも謎が解けた夜だった。

後日、2人は何度か会い、フウキはスピリチュアルな世界をレクチャーをした。    

 そして星の云っていた同人誌が発刊された。しかし、その同人誌が
やがてエレボスが支配する久慈健栄の配下の人間の目に止まる事となり、
日本での妨害勢力はSANGAの面々の知らないところで着々と進行する
予定だったが、闇の権力に入るSANGAの情報はいつも信憑性に欠ける
ものであった。

SANGAは講演会や集会のような表立った活動の記録が皆無で、
冊子や会報の類も出していないので実態が掴めないでいた。

花梨とシバの名前はリストに上がっていたが、

その内容は決して久慈健栄に影響を及ぼす勢力といえない為、闇勢力は
正直いって業を煮やしていた。 

これはSANGAの思惑通り。

そう、SANGAの基本は目に見えない世界から人の意識を変える事を
目的としていた。だから表だった活動が無いのであった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-8

8、「東京集会」

 ここは札幌文化会館小ホール。花梨にとって初となる単独ライブ
が始まった。オープニング曲は、大今ブレイク中のバラード
「AKATUKI」が演奏された。 

作詞、摩耶・作曲、花梨の三番目の作品だった。ジャケットにはアグニの
イラストが描かれ、SANGAの仲間初の共同作業となるこん身の作。

楽屋ではインドラが花梨のマネージャーとなり、まとめ役として活躍していた。

我の強いミュージシャン同士の意地の張り合いも、インドラがそこに
いるだけで自然と心穏やかにまとまり音楽と一つになれた。 

花梨はその光景を眺めるのが好きで楽しんでさえいた。

「フウキさんが言うようにインドラって面白いよね!」 

毎度の会話であった。シバはエッセイや小説などで事あるごとに、

みんなを取り上げていた。

鹿児島の高校を卒業し、フウキの住む札幌の大学をあえて選んだラトリは、
今やSANGAの事務局的な役割をはたしていた。

フウキ曰く「ラトリは無駄のない的確な情報処理能力があり、自分の思考
を入れず素直に人の言葉を伝える能力に長けているので、ラトリの言葉は
そのまま素直に受け取って構わない」と他の仲間に話していた。

花梨の歌声は日本全国子供からお年寄りにまで浸透していった。
本人思いはあくまでもライブでインドラから伝わる癒しの波長と花梨の
歌声に触れて欲しい・・・というものだった。 

シバからラトリに「今年は東京でSANGAの集会をしたい。
それで良ければ宿泊施設をリザーブしたいと思う。日時は忙しい
花梨のスケジュールに合わせたい」との申し出があった。

忙しい花梨も一年ぶりのSANGAの再会を楽しみにしていた。
スケジュールの合間をぬって東京でSANGAの7人が集結した。

ラトリが進行した。
 
「昨年、鹿児島で集まりSANGAを結成してから一年が
経過しました。この一年間大変ご苦労様でした。まずは、
フウキさんからひと言お願いします」
 
「はい、一年間お疲れ様でした。SANGAの影響は僕の予想より早く
進行しております。僕はアストラル意識を視ています。

この世の現象と違います。このような動きは世界7ヶ所でほぼ同じ
時期に発生した動きです。神の仕組みって凄いです。

SANGAと同じ志を持った集団がここ以外の地域に6集団あります。 

我々はこの一年間である程度の方向性を掴めたと思いますが、それは
反対意識の妨害が無いからことのほかすんなりと出来た事、そろそろ
反対の勢力は気が付く頃だと思います・・・
 
姑息な手を打って攻撃してきますので、皆さん心して下さい。 
彼らは巧妙にしかも合法的にやってきますから、自分の心ににしっかり
した芯を持って行動して下さい。迷った時には心ニュートラルです。 

我々の目的はあくまで、その勢力に反発する事ではありません。
反発しても絶対に潰されます。今の社会では・・・ 

あくまでも自然発生の力を利用して目覚める手伝いをする事です。目には見えない
心ウキウキワクワクの波長を発し伝える。それがSANGAの使命です。

そのことを決して忘れないで下さい。ありがとうございます」

フウキの力強い言葉だった。会議も終わりその後の茶話会に移行した。


 シバが「花梨さん、アルバムはいつ頃出す予定なの?」

「話しはあるけど、まだオリジナルが少ないからもう3曲ぐらい
作らないと・・・と思ってます。

今、摩耶さんに詩をお願いしてるの。ジャケットのデザインもアグニ
さんに依頼してま~~す」 

「楽しみにしてるね。僕は運転中でも聴いてるけど、君の曲って鎮静
効果があるような気がするけど?」

フウキが口をはさんできた。 

「花梨の曲はシータ波を出してるので、聴く人によっては鎮静効果が
悪影響する事もあるから運転にはあまり向きませんよ。 
どうせなら安眠マスクしてリラックスし聴いてみて下さい。体外離脱を
誘う効果がありますよ」 

花梨が不思議な顔をしながら口を開いた。

「フウキさん、それってどういう事なんですか?」 

「θ波って眠りに入った時に現れる脳波なんだけど、花梨の歌声はその
θ波が出てるんだ。それだけじゃないよ。そのθ波が右脳と左脳両方に
作用するんだ。しかも若干の周波数のズレが微妙にアストラル体に作用し
体外離脱を誘発させてるんだ。当然、個人差はあるけど」

フウキの説明に花梨は驚いた。

花梨は「初めて聞きました。そういえば私のライブに来ていて寝てる人
がいるから不思議に思ってました」 

ラトリが「僕も前から気になってました。せっかくチケット買って来て
るのに、何で寝てるのかな?って、そう云う事だったんですね」

フウキが「音楽はダイレクトに波長が伝わりやすい。それに絵や小説・詩・物・風景等、
みんな波長があるんだ。一番伝わりやすいのがあるけど・・・何か解る?インドラ!」 

「・・・?」

「解らない?なぜ僕がインドラに聴いたか」

「・・・人間ですか?」

「そう!人間。インドラの穏やかさが皆を誘うんだよ。そのうちもっと
進化するよ。お楽しみに。インドラだけでなく皆もそうなんだけど、
もっと進化するよ。速いペースで・・・」

摩耶が「どう進化するんですか?」

「それを言ったら進化が遅くなるから今は言えないよ。お楽しみに!。
今、言える事は人間は無限の可能性があるって事。自分に制限さえ付けなければね。
そして僕の仕事はその制限を壊す手伝いなんだ。手伝いにならないことは言わないよ」

シバが「フウキ君がさっき反対勢力がそろそろ気付くって言ってたけど、
具体的にどういう妨害が考えられるの?」 

「いくらでも考えられるよ。例えばシバさんが山手線に乗ったとする。
女子高生が隣に居てその女子高生が痴漢!と騒いだとする。それを側に
いた会社員風の男が止めろとばかりシバさんの手を払ッたと仮定するよね。 

当然シバさんは駅で事情聴取される。当然やってないと主張するよね、
でも被害者と目撃者が最初からグルで同じ証言をしたら警察はどう判断します?

ほぼ無条件でシバさんを疑うよね。やってないという立証が出来ないから。 

実際この手口で上げられた人も存在するんだよ。著名人になればなるほど
マスコミも面白おかしく騒ぎ立てる。結果的にシバさんの書いた本にも影響する」

「なるほど、これからの言動や行動には十分な注意が必要になるね」シバは言った。 

シバが続けた「話し変わるけど、僕の今書いている本の構成がもうすぐ終わるんだ。
そしたら表紙にアグニ君の絵と摩耶さんの題字を使いたいのでお願いしたい。
頼むね二人で打ち合わせしてね。 

内容は二風谷の妖精ピノが繰り広げる動物と人間と妖精のふれあいを描いたものなんだ。
イメージは雄大な自然とちょっとメルヘンチックな感じで頼むね・・・」

アグニと摩耶は頷いた。

フウキが「インドラとラトリ以外の4人は想像が形になる仕事していて
気付いていると思うけど、創作の仕方にチョットした変化を感じない?」 

アグニが「変化って・・・?」 

「うん、今ま以上に創作にリアル感が伴ってないかい?違う言い方を
するとイメージが勝手に湧いてくる感じとかさ」

摩耶が口を開いた「凄くあります。花梨とも話してたんですけど、自分の
中からイメージが降ってくるっていうか不思議だよねって話してました」

フウキは「創作の時にみんなの心がクリアーになってきた証しなんだ。 
正確には天から降ってくる・・・というよりも自分の奥深いところと
繋がりやすくなった・・・という方が的確かな。 

みんなは自然にやってるけど、アメリカのミュージシャンや芸術家は
そうなりたくてマリファナに頼ったりするんだ。 

みんなはそれを自然に身につけてるんです。ここでは当たり前の話し
だけど、本当はみんな凄い事やってるんだよ。 

その方法が筆やペンだったりギターを使ってね。感性が磨かれれば
磨かれる程、内面と繋がり易くなります。 

ラトリやインドラも、みんなと違う意味で1年前とは大きく変わってるよ。 
能力は使えば使う程磨かれます。みなさんこの1年で大きく変化してます。 
SANGAの今後が楽しみです」

無事SANGA集会も終わり、各々が意識の波動チューニングを済ませ
帰路に着いた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-7

7、「SANGA結成」

 2013年、鹿児島市内のホテルに7人が集結。一室を借り会議が
行われた。進行役はフウキ。

「今日は大変お疲れ様です。あらためまして進行役を務める宮園風輝です。 
昨年の5月に、仕事上の師匠の死に直面し、それを切っ掛けにこの世での
使命を悟り今に至っております。 

基本的能力はオールマイティーですが、人間の能力を引き出す力は
過去世からやってる事なので得意です。

指名しますので、各々で自己紹介を簡単にお願いします。

初めは・・・花梨さんお願いします」


 「はい、花梨と申します。フウキさんと同じ札幌市出身の歌手です。
歌手と言っても路上とか小さなライブステージで歌ってます。 
フウキさんは私の歌は聴く人の心を癒す力があると教えてくれました。 
皆さんよろしくお願いいたします」

「あとで彼女の歌を聴きましょう。僕の言ってる意味がわかりますよ」


「アグニ君、お願いします」

「具志阿国です。みなさんアグニと呼んで下さい。 
沖縄は那覇出身の絵描きです。僕も花梨さんと同じで、僕の描いた絵に
力があると言われここに参加しました。よろしくお願いいたします」

「彼の絵を見て下さい。ここにいる皆は解ると思います。インドラくん、お願いします」


「僕は山田印度羅です。皆さん、インドラと呼んで下さい。京都の大原から来ました。
僕は皆さんのような目に見える特技はありません。
フウキさんに言わせると人の心を穏やかにさせる能力があるらしいです。
よろしくお願いいたします」

「この方も解りますよね?マヤさん、どうですか?」 

「はい、すぐに書けますね」

「そのままマヤさん、お願いします」

「小林摩耶です。マヤと呼んで下さい。仙台から来ました。
私は書と詩で表現してます。仙台の路上がわたしの表現の場です。 
依頼者の顔を視て、その方をイメージした詩を作り書にして売ってます」

「一瞬で目に見えない特徴をつかみ書に表わします。素敵な才能です。
続いてシバさん、おねがいします」

「芝山正彦と申します。シバです。東京から来ました。最長老の30歳で
職業は小説家です。高次元の情報を小説で表現してます。一度読んでやって
下さい」

フウキが付け加えた「シバさんはアカシックレコードにアクセスして小説を
書き上げてます。興味深い事が書かれてますから皆さんどうぞ読んでみて
下さい。では最後にルーキーのラトリ君」

「はい、宮越羅取です。ラトリとよんで下さい。ここ鹿児島の高校3年生です。
僕は昨年、夢の指示に従ったらフウキさんと飛行機で出会いました。
自分の能力がまだ判ってません。宜しくお願いいたします」

「彼はまだ自覚してませんが、能力は未知数です。特に夢による予知は
大きな才能のひとつです」

「一通り自己紹介が終わったところで、次にこの会の名前を命名したいと
思います。皆さん、お願いします」

「ひまわり会」 

「暁の会」 

「セブン・スピリッツ」 

「はい。他にありませんか?マヤさんは無いですか?」 

「はい、SANGAです」 

シバが「それ、どういう意味ですか?」

「皆さんの波長に同調させたら浮かんだんです。意味は解りません」

シバは「SANGA・・良い響きですね。僕の(暁の会)は取り下げます」 

アグニが言った「僕もSANGAはとても好いと思います」

全員一致でSANGAに決定した。

フウキが続けた「実に面白いよ。実は僕達7人は上の世界ではすでに
知り合いで、その世界をサンガと呼ぶんだ・・・
全く同じ名前を皆は選んだのさ。さすがマヤさんだね。

では、これからこの会をSANGAと決定します。 

アグニ・インドラ・カリ・シバ・ラトリ・マヤ・フウキの7人です。 
7というのは完成を表わす数字で変革の数字でもあり、改革を成し遂げる
大きな影響力と実力を備えます。ここにSANGAの発足を宣言します!」

「次にこのSANGAの方向性を定義したいと思います。ここからが
SANGAの皆さんがこの世に転生した大きな意味です。

テレビや新聞で知ってると思いますが、この世界には三人の黒幕が存在し、
その一人が久慈健栄で日本の政治・経済・法曹界・マスコミ・あらゆる
分野にその力を誇示し、日本はおろかオセアニアにその影響力を及ぼしている。

彼らの正体はズバリ、後ろで暗黒の神エレボスが誘導しています。

昔から世界の在り方はエレボスの思惑通りに動いてきました。 
エレボスの興味はずばり金と権力です。残念ながら他に興味は有りません。

金があれば権力も思いのままと思ってますし、現に世界の在り方はそうなっています。

当然、異論を唱える者もこの世に多数存在しましたが、結局は無視され、
中にはエレボスの傘下に入れられ、時には抹殺されてきました。 

あのフォークソングの神と云われ、反戦歌を歌い有名になった
ボブ・サイモンさえもその仲間に引き込まれたんです。

エレボスのやり方はいつも合法的で巧妙です。その卓越した洗脳の技術は
完璧で知らぬ間に誘導され、人間はそれを良しとし常識としてしまいました。

集団意識の操作です。この在り方が地球をエレボス化してるんです。
かつて、地球は丸いと唱えたガリレオは宗教裁判で処刑されました。
エレボスはガリレオの説を許さなかった。

このようなケースは山程あります。

武器を製造し売りたければ、戦争を起こせば武器が高い値段で売れる。
同時に戦争に反対の対抗勢力も用意して、民衆の心のはけ口を設ける。
彼らの得意とする手口です。

第二次世界大戦で日本はハワイの真珠湾を攻撃し、アメリカを
世界大戦に巻き込んだ。

アメリカ人の気質は自分の身は自分で守る・・・それを上手く利用した事件です。

石油が儲かるとなれば動力源を石油依存の社会にし他の動力源は無視、
もしくは特許を買い取り抹殺する。このように数えればきりがないのです。

しかし長年にわたり世界に君臨したエレボスの勢力も終焉を迎えます。
今後、世界はSANGAの様な活動が確実に増えてきます。

今、僕はその勢力に対抗する方法として、従来の直接的なやり方ではなく
SANGAの皆さんの特色を活かしたやり方を取ってはどうかなと考えて
います。僕の中にある構想を具体的に話します。

それは、SANGAの皆さん個々のバイブレーションを使うんです。」

「アグニさん、あなたは絵のバイブレーションを使うんです。 
右脳に訴える絵を描いていただきたい。
言葉や音楽でなく視覚で伝えるんです。そんな絵を描いて下さい。

インドラさん、あなたは言葉とか要りません。
集団の中に紛れ込んでいるだけで周りは段々と穏やかになり、
その穏やかさの中から何かに気が付く人が必ず出て来ます。
そういう力をインドラさんは持ってます。

早い話が、鎮静効果を人に及ぼす力を生まれつき持ってる・・という事です。 
それを活かす方法を自分でも探して下さい。

花梨さん、あなたはずばり歌のバイブレーション。歌の持つエネルギーを
伝えるんです。既に自分でも気が付いていると思いますが、そういう魂に
響く曲を作って歌って下さい。近い将来、世に出る切っ掛けとなる事が
あるでしょう。その期を利用したら面白いかもしれません」

シバさんの小説は説得力を持ってます。小説は著者の意識が直接伝わり
ますから、それを上手く利用されて下さい。

今後はパラレルワールドにも触れて欲しいです。これは僕の個人的な
要望ですけどね。あとSANGAの面々の事も面白い題材になりませんか? 
伝える事は沢山ありますから是非、良い小説を書いて下さい。

ラトリ君はいい夢を視て下さい。夢はこの世よりも上の世界に近いんです。
そこからの情報はあなたの力に変わります。焦らずにいて下さい。
面白い能力が開花するはずです。

「摩耶さんは既にやってられますね。あとは客の悩み事を透視して、
メッセージを含めた書も面白いかもしれません。

僕は個々の能力を覚醒させる手伝いをさせてもらいます。そして、より
多くの呪縛が解けるよう行動します。

長くなりましたが僕からの話はこれで終わります。あとは皆さんの決意を
順にお聞かせ下さい。

その後、個々に決意を表明し合い、会食をし翌日には全員が決意新たに帰路に着いた。

新時代へ向けてのスタートがここから始まった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-6

6、「七人の使者-Ⅲ」

 悟り後のフウキは日常の価値判断が180度変わり、一般の価値判断
とのギャップに苦しんでいたが、当初よりは上手に立ち回れるようになっていた。

ことあるごとに【この世は上手く出来ている】と実感していた。


 東京から戻り半月が過ぎようとした頃。仕事の休憩中に先輩の
納谷さんが「おう、フウキ今月は休まねえのかい?」 

「今の所、予定ありません。」 

普通ではあり得ない会話である。納谷はフウキの予定に合わせ、仕事を
組んでくれていた。納谷のおかげで全国を移動できた。良き理解者であった。

フウキは見えない力で応援されている事に感謝していた。
と同時に納谷の言葉から、もうじき次の指示が来る事を予感していた。


 ここは東北仙台は槻木にある農家。そこにマヤという名の女性が居た。 
マヤは不思議な夢を視て目が覚めた。  

その夢とは・・・槻木町のある友人宅の部屋から空を眺めていると、
東の上空に十二支の雲が並んで漂っていた。 

その雲をよく見ようと外に出て目を凝らした。すると黒いとてつもなく
大きな黒い龍が上空を飛んでいた。 

マヤは金縛りにあった様に身動き出来ず只呆然と眺めていた。 

そしてマヤの目と龍の目が合った瞬間、龍は20メートル位の小さな
白い龍に変わっていた。 

その龍は先程の異様までのリアルさは無く、荒削りの白い彫刻の様であり、
口に白い玉をくわえていた。 

そして龍はマヤを見つめ口を開いた。その瞬間、ドーンという雷のような
天にも轟く音が空一面に響いた。 

瞬間場面が変わり、今度は大きな野原にマヤは立っていた。 

遠くに、一人の体格のいい男が現れマヤに向かって歩み寄ってきた。 
その男は毛皮のベストを着た熊祖のような猟師の出で立ち、男の左手
には昔風の長い二本筒の銃を持ち、マヤの方に笑顔で歩いてきた。

男はマヤの前に立ち、持っていた銃を差し出した。その銃は二本の
筒のうち片方にティッシュで栓がしてあった。そしてティッシュを抜いて
マヤに銃を渡した。 

「ありがとう」と礼を言って受け取りそこで夢は終わった。 

マヤは夢の解釈をネットで調べたが、見当が付かずにそのままでいた。


 フウキは仙台空港で遅めの昼食を取り、仙台駅近くにホテルを予約して
チェックインした。部屋で小一時間ほど瞑想し東一番丁通りをぶらついていた。 
見知らぬ仲間と出会う事を心のどこかで楽しみにしていた。

「さて、今日は何屋さんに飛び込もうか?」通りを歩いていると、
一件の書道具専門店が気になり店に入った。

書には別段、興味は無かったが店内の有名書家の作品に紛れて、色紙に
書かれた一枚の作品が気になった。
 
  早春の朝日に遊ぶ
    黒龍の浅き夢ごころ
              摩耶

フウキはその書から伝わるバイブレーションに興味を示した。

「すみません。この書にある摩耶さんって書家の方ですか?」

「あっ、それね。それは地元の娘さんで詩と書を色紙に書いて、
路上販売して女性で、当店のお客さんでもあるんですよ。 

お兄さんも是非見てやって下さい。即興でその人にあった詩と字体で
書いて路上で商売してる若い娘さんなんです。地元ではあれで結構
有名なんです・・・」

「そうですか。で、何処に何時頃行けば会えますか?」

「うちの店の前で九時頃になったら来ますよ。見てやってください」

「はい。ありがとうございました」 

フウキは九時に出直した。 

そこには年の頃ならフウキと同じくらいの飾らない感じの女の子がいた。

「摩耶さんですか?」

「あっ、ハイ・・・?」

「僕はフウキと言いますが、先程この店の店主さんから君の色紙を
見せられてここに来ました。僕に合った詩を書でお願い出来ますか?」

「あっ、はい、ありがとうございます。ではここにお座り下さい」 

摩耶は改めてフウキを見直した。一瞬目を疑った。 

仕事柄、人の顔と雰囲気を観察するのが不可欠であったが、
摩耶は初めての体験をしていた。 

目に映ったフウキは半分透き通って見えたからだった。 
摩耶は幽霊か宇宙人と出くわしたと思った。平静を装い口を開いた。 

「お客さんは何処から?何をやってる人なの?」精一杯の言葉だった。 

「僕は、今日札幌から来たんです。仕事は大工・・・」 

「私が聞きたいのはそういう事ではありません。あなたは何者かって
事です・・・あっ・・・唐突ですみみません・・・」言い終わってから
とっさに出た言葉を反省した。 

フウキは笑みを浮かべ言った「今、言ったように札幌から摩耶さんに
会いに来た大工ですけど」 

「あっ、そうですか。・・・えっ?私???今、何て言いました?」 

「札幌から摩耶さんに会いに来た大工です」 

「新手のナンパか何かですか?そういうの私、興味無いので・・・ 
帰ってくれますか?」少しムッとした摩耶であった。 

「話し方を変えますね。摩耶さん、あなたは僕を視て身体が半分透けて
見えましたよね。それは摩耶さんが僕を霊視した結果なんです。 
気付いてると思いますが、あなたはお客さんを霊視して作品を作っている。 
それが的確に表現されているからお客さんの評判がいい」

フウキがそこまで話すと、摩耶の表情が柔和になり心を開いていた。

「私は小林摩耶と云います。あなたが言ったようなかたちで路上で
商売しております」 

「唐突でごめんなさい。僕は宮園風輝と申します・・・」

仙台に来た目的と今までの経緯を一通り話し、摩耶の顔色をうかがった。

「ご丁寧にありがとうございます。でも、私がそんな大役が務まると思い
ませんし、宮園さんのいうような人間ではありませんけど・・・」 

「そうですか。僕は無理強いはしませんので、考えておいて下さい。
明日札幌に帰ります。唐突に変な事をいって本当に申し訳ないです。 
最後にひと言、良いですか?」

「・・・ど、どうぞ」 

「干支の十二支はまず摩耶さんの気を引くため。次の黒龍はあなた自身の
パワーを表わしてます。白い龍は神の使命を表わします。 
次に出て来た猟師はあなたのガイドで、鉄砲の筒から紙を抜いたのは
封印を解かれ、いつでも使用可能になったと伝えたかった。僕流の
解釈はこうです・・・」

摩耶は衝撃に打ちのめされた。 

「何故、私の夢の内容をフウキさんが事細かに知ってるんですか?」 

「摩耶さん、あなたのガイドがそう伝えてほしいと言いました」

しばらく二人の間に沈黙があった。 

摩耶は顔をゆっくりと上げた。目には涙がにじんでいた。

「お役に立てるかどうか解りませんが、やってみます」 

フウキは微笑んで言った。 

「お近づきの印に今夜は飲みませんか。他の仲間の話も聞かせます」 

摩耶は店を早仕舞いし居酒屋で話した。 

翌朝、ホテルで朝食を取ってると突然、金色に輝く「鹿児島」という文字が
頭に浮かんだ。

フウキは急遽仙台から東京経由で鹿児島に飛んだ。

飛行機を降りて市内に直行しホテルを取ってから町を探索した。時間は
夕方になっていた。 

思い起こせば、これまでの五人の事は順調過ぎるくらい上手く運んだ。

サンガの計画は完璧だった。

繁華街をぶらつき感じ入るものが無かったので夜の10時にはホテルに
戻りその日は終わった。

翌朝、ホテルの朝食を済ませ部屋に戻った瞬間頭の中で閃いた。

「10時05分羽田行き」

フウキは早速チェックアウトし、羽田行きのチケットを購入して
何とかその便に間に合い飛行機は鹿児島をあとにした。

フウキは自問自答していた「いったい鹿児島は何だったんだろう?」
そういうこともあるか・・・

飛行機は離陸しシートベルト着用のサインが消えた。 
隣の席に座っていた若い学生風の男性がフウキに声を掛けてきた。 

「あのう、すみません」

「はい?」フウキが応えた。

「お一人ですか?」 

「はい、一人です」ここでフウキには上からの啓示の意味が解った。 
少し楽しんでみようと思った。

「おたくさんも一人?」 

「はい」 

「東京へ?遊び?それとも旅行?」

「僕、今朝、夢を見たんです。それが金色の文字で(今日、東京へ!)
という夢でした。最初は無視したんですけど胸の奥で行かなくちゃ、
という気がしてたまらなくなったんです。 

それで今日、学校を休んで飛行機に乗っちゃいました。変ですよね。

自分でも解ってるんですが・・でも、チョット不安で・・誰かに聞いて
欲しくて、つい隣の席にいたお兄さんに声をかけてしまいました・・・
ごめんなさい」

「話してくれてありがとう。僕は宮園風輝。札幌市在住よろしく」 

「あ、はい僕は宮越羅取(ラトリ)です。鹿児島高校3年です」 

「ところでラトリくん君の話からすると東京での用事が決まってない
ようだし、僕と半日程つき合わない?」 

「はい、でも僕は宮園さんの事、何にも知らないからその・・・」 

「そうだよね。でも僕は君の事を知ってるよ。君には二つ上の姉さんが
居て、しかも双子のね。君の彼女は髪が長く、その香りはいつもレモン
の様で君は気に入ってる。彼女が入っているクラブは吹奏楽ってとこかな?
他にも言う?」 

ラトリは耳を疑った。 

「どうしてそんな事まで知ってるんですか?宮園さんは神様・・・?」 

「驚かしてごめんよ。君の情報は、今上から聞いたから知ってるよ」 

「上って何ですか?」 

「ガイドのことだよ。君の事をいつも見守っている縁の下の力持ち
的存在をガイドと云うのさ。ある意味、君の事を今の君以上に知ってる
非物質の存在だよ」 

「それって守護霊の事ですか・・・?」 

「そうとも云う。僕は宗教的な意味合いが嫌いだから、ガイドって表現
するけど。もうひとつ付け加えると昨日、僕は急遽仙台からここ鹿児島
に来たんだ。君に会う為にね。 

君が未成年だと云うのは、今解った。だから昨日はいつもの癖で夜の町を
探してしまったよ。だから会えず終いさ。
 
でも、今こうして東京に僕と君が向かってると云う事は、たぶん東京で
何かがあるんだ。だから僕は半日つき合わないか?って聞いたのさ」

「何だか解ったような解らないような感じです。でも話しかけたのは
僕ですし東京で行きたい所も無いからおつき合います」 

「了解!じゃあ、まず小説家のシバさんに会おうか?彼は僕より年上で
小説家なんだ。羽田に着いたら連絡してみるよ。その前にここまでの
経緯を話すね。今、仲間は君と僕を含め全部で7人いるんだ・・・」 

飛行中、一通りの流れをラトリにレクチャーした。 

浜松町からシバに電話を入れ、銀座で待ち合わせ遅めの昼食をすませた。

シバが言った「近々7人で会って話しませんか?顔合わせもしたいし、
皆の意思も確認したい」 

フウキは「そうだね。とりあえず鹿児島で会いましょうか? 

ラトリ君は高校生だから負担にならないように、みんなが鹿児島に
集合しましょう。 

ラトリ君はまだ自覚してないようだけど、君は動物と会話出来る能力と
自然界の空気、又は波動を読む事に長けているので、自分を磨いて
おいて欲しい。コツは頭に頼らないで全身で感じて欲しい」

三人は再会を誓い銀座をあとにした。

【SANGA(神々の戦い)】全18-5

5、「七人の使者-Ⅱ」

 沖縄から帰郷して2週間が経っていた。

瞑想中に啓示があり、関西空港行きのチケットを購入していた。

京都に入り、大原の三千院を拝観していた。

「あのう、すみません。写真よろしいですか?」 

一人の老人が写真を撮って欲しいと頼んできた。 

「はい、よろしいですよ」 

フウキはファインダーから覗いた刹那、老人の後ろに人影を確認した。 

撮り終わって辺りを見て回ったが何処にも人影はなかった。 

もともと三千院は地域的に嵯峨野の様に地域がら観光客の多い所ではない、
今日は特に人影が少なかった。

先ほどの老人もいつの間にか姿が無かった、そろそろ帰ろうかと
山門近くに来ると、どこからか読経の声がした。

振り向くと数十人の僧侶がフウキのあとを追うように迫ってきた。
 
フウキはその一団に道を譲った。

刹那、一人の僧侶がフウキの方を見て微笑みかけてきた。 

と思った瞬間その一団は跡形もなく消え去っていた。

フウキは立ち止まり天を仰いだ。 

すると声なき声が聞こえた「僧侶」 

「僧侶か?何故に三千院まできて僧侶なのか?」不思議に思った。

腹が空いてきたので精進料理の店に入り豆料理を注文した。

料理を待ってると、さっきの僧侶の一行が唱えていた読経の声がまたした。 

聞こえてるのはフウキだけのようだった。

「お待ちどおさま」料理を持ってきた青年は髪型は今風だったが、
さっき三千院での僧侶の集団でひとり微笑んだ彼だった。 

「この三千院は今日が初めてなんだけど、何時もこんなに観光客が少ないのかい?」

「今日は特別少ないですよ、たぶん重要なここに縁のある人がお出でに
なるやも知れまへん。このお寺は不思議なんですわ」

「君はここの人なの?」 

「いいえ、アルバイトです」 

「何でここなの?」フウキはもう彼の事を解っていた。 

「お兄さんも変わった事、聞きはりますね?」次の瞬間その青年は
フウキの事を霊視した。 

そう、青年には透視能力があった。

「あっ!あなたは?」刹那、彼の目から涙が落ちていた。

「わざわざこんな所まで出向いて頂き恐縮でございます。 お久しゅうございます」 

「私は今世では宮園風輝といいます。久しぶりですね」 

「僕はは山田印度羅(インドラ)と申します。ようこそ大原へ」

「先ほど三千院で君の前世の姿を視せてもらったよ」 

「はい、過去に僕が世話になったお寺が三千院でした」 

「ところで君に?・・・癒しの能力が・・・」

「はい、僕がいると、どういう訳か周りが穏やかになるみたいです。 
子供の頃から親や学校の先生から言われております」 

「癒しの人か・・・面白い」フウキは事の経緯を丁寧に話した。


インドラは「解りました。僕でよければお手伝いさせて頂きます」 

二人は堅く約束した。

「ところで急遽、札幌から来たので宿を取ってないんだ。この辺で民宿
紹介してくれない?そして今日の夜、暇なら一杯付き合いなよご馳走する」

その夜、二人は大原の居酒屋で会食をして別れた。

翌日、フウキは京都駅にいた。

時刻表に目を向けると「東京」の文字が金色に光った。

「・・・此処まで来たら従ってみるか」フウキはそのまま目的地を東京に
変えた。新幹線の中でこんな事を考えていた。

ここまでは順調に来た。まだ見ぬ三人との出会いが楽しみ。

東京に着きとりあえず山手線に乗り適当に渋谷駅で下車した。 

渋谷のスクランブル交差点を井の頭線への通路から眺めていた。
もう夕方になっていた。 

ホテルの部屋で瞑想をしていたが天啓がないのでとりあえず渋谷の
繁華街に出る事にした。

「これが物質文明の行き着いた姿・・・」

歩いていると突然、若者がフウキに声をかけてきた。 

「お兄さん元気?」フウキは無視して通り過ぎようとした

「チョット待ってよ」その若者は行く手を阻んだ。 

「お兄さん、チョット遊びに行かない?」 

「行かない」

「何処から来たの?」

「札幌」 

「良いところだよね札幌ってさ」 

「で?何か用事でもあるのかい?」 

「だからぁ、遊びに行こうよ楽しい所知ってるよ。女の子も沢山いるし、 
渋谷に来たついでに楽しまない?」 

「女の子よりも君の方が見ていて楽しいよ・・・」

「物分かりの悪い兄さんだね。俺の言ってる意味解らない?」 

「解らない」 

そのやり取りを聞いていた仲間と思われる3人連れがやってきて、
獣のような目をしてフウキを囲んだ。

「いい店を知ってるから遊ぼうって、こいつは親切に言ってるのね。 
だから兄さんはハイお願いしますと黙ってこいつについてきたらいいんだよ。
云ってる意味・・わ・か・る・よ・ね!」

「わからない」

その4人はいきなりフウキの両腕を抱え強引にビルの陰に誘導し、
通用口のような所から地下の倉庫に連れ込みドアに鍵をかけた。

「おい、札幌の兄さん。俺たちは遊ぼうかって云ってるのよ。
その態度は好くないと思うけど・・・言葉の意味をよく考えて」

「君たち、回りくどい言い方はよしてハッキリ言いたい事を言いなよ」

4人はお互いの顔を見合わせて笑った。

そのうちの一人が日本刀を持ち出しフウキの顔面にちらつかせた。 

「こういう事・・・解った?」

「だから、言葉で表現しなよ」

フウキはその場で禅を組み、日本刀を持った若者の目に視線を向けた。 

程なくしてその若者は日本刀をその場に棄て後ずさりした。 

仲間の一人が「???・・・おい、どうしたんだ?」 

もうひとりが、その日本刀を拾い上げフウキの胸元に当てた。 

しばらくすると、さっきと同じように、その男も後ずさりした。 

「何だよ、お前ら。どうしたんだよ?」 

仕切っていた男が日本刀を取りフウキにかざした。 

フウキの眼光は強烈だった。 

その若者は今までの気魄をそぎ落とされた様に「じゃあ帰っていい。 
渋谷の街で何かあったら、俺の名前はヤスって言うんだけど、
俺の名前使って構わねえから。気をつけて・・・それじゃ」

フウキは何事も無かった様に平然と外に出た。 

後ろからその光景を見ていた若者が「ヤスさん、どうかしたんすか?
三人とも狐に摘まれたような顔して何かあったんすか?」

ヤスが口を開いた「あいつは狂気か何か知らんが、目が完全に座ってた。 
あんな人間初めて見た。お前らはどうだった?」 

「あいつ絶対、変ですよ。薬の時の目とも違うし・・・初めてですよ」 

「俺も最初はいつものように日本刀でびびって財布を出すかと思って
簡単に考えたけど、なんか解らないけどあいつの顔が鬼に見えたんだ。
そしたら身体がこわばって動かなくなったんすよね・・・すいません」

この街はいろんなのが居るからなあんなのもいるさ。

フウキは相手の波長を鏡のようにそのまま3人に送ったのであり、
3人は自分自身の心に驚いたのであった。

フウキは何事も無かったようにまた渋谷の街を闊歩していた。

今度は本屋の看板が気になったのでその本屋に入った。 

店内を歩いていると小説のコーナーに30歳前後の凛とした雰囲気の
男性が立ち読みしていた。

「この人か?」フウキはその男の横に立った。 

ゆっくりとした口調で話しかけた。 

「こんにちわ。僕に合う小説、選んでくれませんか?」 

いきなり話しかけられた男だったが「宜しいですよ。どんなジャンルが好きですか?」 

「あなたが選んでくれる本なら何でも結構です」 

「はあ・・??」

男は並んでる書籍の中から一冊を取り上げ「これなんてどうですか?」 

「はい、ありがとうございます。これに決めさせてもらいます」 

フウキが本を片手に去ろうとした瞬間男は「それ、著者は僕なんです」 

「そうですか、この本をあなたが・・・是非拝読させて頂きます」 

本を購入し店内を廻り本屋を出たところに、先ほどの男が立っていた。

フウキは「先ほどはありがとうございます。僕は札幌から渋谷見物に来ました。
帰りの飛行機で読む本を探していた所あなたと出会いました。この本を紹介して
くれてとてもありがたく思っています。 

・・・もしお時間があったらコーヒーをご馳走させてくれませんか? 
何でも唐突ですみません・・・僕の悪い癖なんです」

男は笑いながら承諾した。 

二人はドトールコーヒーに入り向かい合わせに座った。 

「僕は札幌から来た宮園風輝と申します」 

「僕はその本の著者で芝山正彦です。通称シバ。本のご購入ありがとうございました。
このような出会いは僕も初めてです。

僕の本を購読されてから友達になる事は当たり前にありますが、購読前にお友達に
なる事があるとは、考えた事ともありませんでした。貴重な体験です。
こちらこそありがとうございます」

話が弾み、そのまま渋谷で芝山行きつけの小料理屋に行った。

「今日は珍しい体験をしました。今度、僕の書くエッセイに取り上げたい
題材ですよ。ところで今日は僕の話ばかりで・・・君の話も聞かせてよ。
本以外なにかの用事で渋谷に来たんでしょ?お仕事ですか?」

「人捜しに来ました」 

「人捜しですか?それでお探しの方は見つかりましたか?」

「はい見つかりました。あなたです」 

「???ははは、冗談が上手いですね」 

「いえ、本当です」 

「と言いますと?」 

「いいえ芝山さんはもう気付いてるはずです」

芝山の目つきが変わった。

「やはり、あなたでしたか。今日の夕方近く、急に渋谷の紀伊国屋さんに
行きたくなり気付いたらその店の前に立ってたんです。 

何処へ行ったらいいか解らず、とりあえず自分の本を陳列している所に
足を運んでみようと思いました。

すると後ろから君が声を掛けてきました。僕は流れのままにしました。 

そしたら君は帰ってしまったので勘違いかな?と思い店を出た所、
再度声を掛けられたので間違いないと思い今に至っております。 
どうして私を捜しに札幌からわざわざ?」 

「それもあなたは感づいていると見受けられますが?」 

「ははは、かなわないなぁ、宮園さんには・・・その通りです。
僕は悟りは開いていませんが、ある程度の事は解るるつもりです。

何故、僕なのか。何故、僕が小説を書いているのか宮園さんを視て自覚しました。
それで全部で何人集める予定ですか?現在何名なのか教えて下さい」

フウキが人集め中なのを芝山は既に察知していた。

「僕をフウキと呼んでいただいて結構です」

「全部で僕含め7人集めようと動いております。現在は5名で残り
二人も時間の問題かと思います」

「その5人の能力はどんな?」 

「まず僕はある人の死を切っ掛けに覚醒しました。僕の役目は人の覚醒補助。
札幌の花梨さんは音楽家。この人の音楽は感動を与えます。

沖縄のアグニ君、彼は絵描きで独特の波長を絵で表現します。

京都大原のインドラ君は人を癒す能力があります。ヒーリング能力が
あります。まだ本人は自覚してませんが手かざしで身体も癒えるでしょう。 

そしてシバさんは小説家で高次元の情報を小説に書き上げる力があります。
アカシックレコードを読み、まとめる事が出来るでしょう。

今のところこの5人です」

「あと二人ですか。7人は強い縁で繋がってると思います。
頑張って下さい。僕に出来る事でしたら何でもお手伝いします。
僕がアカシックレコードですか?面白いです試みてみます」

「大丈夫ですよ。あなたは過去世でやってましたから充分能力はあります」

「是非やってみます。フウキさんと話してると不思議です、何でもやれる
気がします。パワーが漲るというかフウキさんは熱い方だ、まるで澄んだ
空気のような感じのする人ですね・・・解りましたお互い頑張りましょう!」

シバは心地よい酒を久々に味わった。フウキとの運命の出会いに感謝した。 

フウキは札幌に戻った

【SANGA(神々の戦い)】全18-4

4、「七人の使者-Ⅰ」

 雨上がりの大通り公園。アカシアの花の香りがとても心地よかった。

自分の意識の違いが当たり前だった風景が、こんなにも違って視えるんだ。
そう想いながらでベンチに座っていると、遠くから女性の歌声が微かに聞こえてきた。

声の波長からその人の意識が解るようになっていたフウキは耳を傾けた。 
声の主は20代前半と思われる髪の長い、飾り気のない女の子。

フウキは女性の近くに移動し目を瞑り、歌に集中した。

彼女の歌声から意識の広がりを感じていた。 

透き通った歌声・・・例えるなら雲ひとつ無い澄んだ青空。 

次の瞬間アトランティスの都、ウルの神殿で歌っている光景が視えた。 
何曲か黙って聞き、歌い終えるのを待って話しかけた。 

「君の歌って透き通っていて、とっても良いね・・・もうすぐテレビや
ラジオから流れるようになるよ。もっと曲を沢山作ってね・・・」 

「はい、ありがとうございます。私もあなたのその眩しいオーラに
吸い込まれそうになったわ。何している人ですか?・・・」

「僕は大工見習いだよ・・・」 

「解った!宮大工さんでしょ?」

「何で?」 

「私、神様に携わってる人はなんとなく解るの」 

「じゃあ、何故僕が君とこうして話してるか解るかい?」

彼女は軽く目を瞑った「・・・・人集め???」

「ハハッやっぱり・・・うんそう、僕は風輝っていいます宜しく」

「私は花梨(カリ)です。何かを表現したくて大通りや狸小路で
こうしてギターを抱え歌ってるの。その何かはまだ解らないけど・・・」

「ずばり聞くね。花梨さんは僕のこと・・・」 

フウキが言い終わらないうちに「知ってるかって聞くつもりでしょ?
ハイ知ってます。だから私こうして路上で歌っていたんだわ・・・
縁ある人と出会うために。今、あなたを観て理解できました・・・」

フウキはことの経緯を話した。

花梨は「解りました。これで私の天命が少し理解できました。 
私でよければお手伝いさせて下さい。とりあえず何をすればいいの?」 

「歌を作って下さい。作ろうとするのではなくエナジーを感じて下さい。
曲が降りてくるのを・・・降りて来たら譜面に起こして下さい。
花梨さんなら出来ます。と言うより、もうやってますよね?」

「解りました。それでフウキさんは残り五人をどうやって探すんですか?」

天を指さし黙って微笑んだ。

二人はアドレス交換し、大通りをあとにした。


 フウキは自宅で瞑想を始めた。次に出て来たのが「沖縄」という文字。

翌朝チケットを買い那覇に飛んだ。

国際通りにホテルを予約し平和通り商店街をぶらついた。 

ここはかつて文明が栄えていた所か、なるほど・・・懐かしい・・・

呟きながら歩いていたら、1時間前に飛行場で食事をしたはずなのに、
急に空腹感をおぼえた。

足を止め見上げた店が「ソーキそば」と看板にあった。 

暖簾をくぐり席に着いた。

「メンソーレー、いらっしゃいませ」 出て来たのは50歳前後の男性。 

「何に致しましょうか?」 

「ソーキそばお願いします」 

「かしこまりました」 

そばを食べながら「違う・・・この人ではない・・・そんなに早く見つかるわけないか」 

会計を済ませもう一度店内を見渡した。 

そこに一枚の絵が目に入った・・・なにか気になる・・・ 

「すみません、この絵を描いた方はどなたですか?」

「ああ手前どもの息子ですが・・・何か?」 

「今こちらにご在宅ですか?」 

「ええ、居りますが・・・あなたは?」 

「突然ですみません。私は今日札幌から来ました宮園と申します。 
こういう絵を探していたんです。是非、息子さんにお会いしてお話し
聞きたいのですが・・・宜しい出でしょうか?」

「構わないサー、チョッチ待って下さいネ」店主は二階に目を向け叫んだ。

「おーい、アグニ~~!・・・」 

「なに・・・父さん」上から返事が返ってきた。

「お客様がお前と話をしたいとさ」 

「・・・?うん、今降りるさ・・・」 

階段から降りてきたのは柿の種のような目が印象的な二十歳位の青年だった。 
「はい、何か用ですか?」フウキは一瞬で彼の人となりを認識した。 

「初めまして。突然ですみません、僕は宮園フウキと申します。 
今日、札幌から来ました。ソバを食べていたらこの絵に興味があり、
お父さんに頼んで君をよんでもらいました」

「・・・はあ??・・・」 

「もし差し支えなければどこかでコーヒー飲んでお話ししませんか?」

なに?この人???「・・・良いですけど・・」 

「お父さん、チョット息子さんとコーヒー飲ん来てもいいですか?」 

父親が「??はい、どうぞどうぞ・・宜しくねぇ~」

二人は近くのミルキーコーヒーに入った。 

「急に呼び立ててごめんね。改めて、僕は札幌から来た宮園フウキと
いいます。大工をやってます」

「はあ、・・・僕は具志アグニといいます。・・・で僕に何か?」

フウキは目を瞑りアグニを透視した。 

「君は今、上京したいと考えてます。そして本格的に絵を勉強したい。
と考えているが父親一人を沖縄に残しておくのも心配だし、自分が我慢
するしかないと思ってます・・・」 

フウキの突然の言葉に目を丸くし「えっ?あなたはユタ(沖縄の霊能者)ね?」 
「唐突でごめん。でも、黙って聞いてくれるかい?・・・
そして君は小さい頃に離別した母親が東京にいるのを知っていて
是非会いたい。でもお父さんの手前少し躊躇している。
その葛藤で悩んでいる。友達に相談しても意見は二つに分かれるし、
自暴自棄になっている・・・」 

「やっぱりあなたはユタさぁ!・・・言いたい事があったらハッキリ言ったらどうね?」 

「僕はユタでも何でもない。ただ、アグニ君の絵が世界を変える一役に
なると視ているんです。今言った一連の事はアグニ君のガイドが教えて
くれたのをそのまま言葉にしただけだよ・・・」

「ガイド・・・?」 

「そう、ガイドだよ。俗に守護霊と言うけど、僕は宗教が嫌いだからガイドと表現します」 

「なんか解らないさぁ、僕は絵しか描けないし急に世界がどうとか
云われてもなんのことか解らないさぁ・・・それにお金もないさぁ」

「今に解るよ。今日は国際通りのホテルに泊まるから、夜、気が向いたら酒でも
飲もうか・・・気が向いたらでいいからね。携帯に電話ちょうだい。じゃあ・・・」

メモに電話番号を書いてアグニに手渡し二人は別れた。

夜になりフウキの携帯が鳴った。 

そのまま二人は会話の出来る地元の人しか行かない酒屋に入った。 

「乾杯!」 

アグニが「今日はつんけんした態度でごめんなさい。唐突だったから
びっくりしたさ~~」 

「いや、こちらこそごめんね。普段は大工していて話し方知らないから、
思ったまま話しちゃった。反省してるよ・・・」 

それから二人は軽く世間話をして本題に入った。 

話し始めたのはアグニからだった。

「今日の話の中で解らない事があるんだけどさぁ、絵が世界を変える
手助けになるって・・・どういう事ね?」 

「絵や音楽って云うのはひとつのエネルギーなんだ。優しさであったり恐怖や癒し、
それぞれにパワーがあるんだ。だから人はその時の心境にあった音楽や絵画などを
好むんだ。その手助けをするのがアーチストの仕事なんだ」

「僕の絵が?」

「そう、アグニ君の絵が」

「もうひとつ聞くけど、札幌からなんでわざわざ沖縄まで?」 

「うん、君に会いに来たんだ」

会話していくうちに段々とアグニの心が目覚め開いて来たのをフウキは感じた。 

「アグニ君、ちょっと目を閉じて眉間に意識を集中してみて」

アグニは指示に従った。 

「フウキさん、何だか光がゆらゆらと視えるさぁ」 

アグニはビールジョッキを持ったまま意識が飛とんでいた。

5分程してアグニは意識を戻した。側ではフウキが笑みを浮かべていた。

「不思議さぁ。色んな景色が視えたし動物もいたさぁ。僕に何かしたわけ?」

愛情を込めて言った「それもひとつの世界。こちらがイリュージョン。
つまりこの世は幻影なんだ。僕は目覚めたけど大半の人間はその幻影の中で生きている。

そこで君の描く絵や、これから紹介する札幌の花梨という女の子の
音楽が必ずキーポイントになってくる。 

目覚める人を手助けする働きがあるんだ。君の描く絵のエネルギーが
人を変える役に立つ、と言うよりも切っ掛けになる・・・」

二人は翌日もミルキーコーヒーで会う約束をして別れた。 

「じゃあまた明日」 

アグニは首を傾げながら手を振って別れた。帰路の途中何度も自問自答した。

アグニはそのまま風呂に入りベットに入った。 

翌朝、早く目が覚めたアグニは目を疑った。

家の中が少し光って見える、こんな朝は初めてだった。

昨日までと違う・・・何か上手く言い表せないけど・・・光ってて新鮮。
ワクワクする・・・昨日の事が頭の中を過ぎった。 

その状態のままアグニはミルキーコーヒーに入った。 

店の向こう側でアグニに手を振っているフウキの姿があった。

「やあ、おはよう。よく眠れたかい?」アグニは朝の事を克明に話し聞かせた。

「良かったね。いい朝を迎える事が出来たね」 

「フウキさん、こうなる事知ってたの?」 

「知らないよ。予測は出来たけど・・・好い経験したじゃない。

ところで僕は1時45分のフライトで帰る。 

絵を書きためておいて。頭で描くんでなく感性で描いてね。 
7人全員が揃う時は札幌か東京で再会しよう。しばしお別れ・・」 

「フウキさん、僕、なんか・・吹っ切れました。ありがとうございます」

フウキは沖縄をあとにした。飛行機の中ではもう次の事を頭に描いていた。

札幌に戻りさっそく花梨と落ち合い、沖縄土産を渡しアグニの事を話した。

「フウキさんって凄いパワーですね!会って話してるだけでフウキさんの
その独特なエネルギーが伝わってきます」 

「それは僕のせいだけじゃないんだよ。受け取る側の問題さ。既に準備が
出来てるから受け入れる情報量も多くなるんだよ。僕は単なる切っ掛けに
過ぎない・・・それだけ」 

「で、フウキさんはこれからどちらに行くんですか?」 

「まだ、指示が来ないからとりあえず職場に復帰しないとね」

「どこからの指示ですか・・・?」

フウキは天をさし人差し指を立てた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-3

3,「宮園風輝」

 宮園風輝(ミヤゾノ・フウキ)札幌市で大工として働いていた。 

風輝の憧れはイエス・キリスト。憧れの職業も当然宮大工という単純な発想であった。

桜が満開に咲く5月初め、フウキは大工仲間から誘われ円山公園の花見に出かけた。

ジンギスカン鍋を囲みながら缶ビールを数本飲んですっかり出来上がり、
フウキは夜桜を楽しんでいた。

棟梁の池田が「おい、フウキ酒飲んでるか? いっぱしの宮大工に
なるには酒も大いに飲んで遊びも大いにやれ・・・」

フウキの尊敬する大好きな棟梁の池田だった。

池田もフウキの事を息子の様に可愛がり、叱咤激励しながらいつも
面倒をよくみてくれていた。 

その日、フウキは花見でひとしきり酒を飲んで家路についた。 
風呂に入って間もなく携帯が鳴った。同僚の納谷先輩からだった。

「風輝、棟梁のこと聞いたか?」 

「・・・何ですか?」 

「池田棟梁が車にはねられて死んだ・・・
あの帰り道で、棟梁の前を子供が車道に飛び出したらしい・・・
急に路地から車が出て来て子供を引きそうになったらしい。 

咄嗟に棟梁がその子供を抱え、自分が盾になって車に激突して頭を強打
したらしい。で、意識不明のまま死んだらしい・・・即死みたいだ」
受話器の向こうで納谷のすすり泣く声がしていた。 

葬儀は社葬となり、公私にわたる関係者が大勢列席し棟梁の人柄を偲んだ。 

フウキは通夜の席で背後から「フウキ・フウキ」という声を聞いた。 

それは聞き慣れた棟梁の声。
が、耳でなく違うところで感じていた。辺りを見回すも誰もいない。 

「あれ??確かに棟梁の声だったけど・・・??」 

「フウキ、フウキ、俺だ。池田だ」また声がした。 

今度はハッキリと解った。 

フウキも「池田棟梁ですか?」と心で話した。 

「そうだ。俺、車にはねられて死んでしまったみてえだ。
でも全然、痛くねえ・・・って言うか、ふわふわと良い感じだ」

「棟梁、僕、聞こえます。棟梁の思ってる事が伝わりますよ・・・」 

「そっか! 俺、死んで解ったんだけど、お前はこの世でとんでもねえ役目が
あるようだ。フウキが目覚める切っ掛けを与えるのが俺の天命だったって訳さ。 

これからフウキは覚醒に向け勉強しないとならない事があるんだ頑張れよ。
そんな訳で俺のこの世での役目は終わった。 

この事は誰にも云うな・・・他言無用。 女房子供にも云わなくていいからな。
あいつらも生まれる前からこの事は了承済みんだ。

そう云うことで頑張って下さい・・・スサ$&#%さま」

以降フウキには二度と棟梁の声は聞こえなかった。

葬儀も終わり心身ともに疲れ果てたフウキは、自宅のソファーに
横になり棟梁との会話を一語一句噛みしめていた。

そのうち寝に入った。
 
突然、身体を揺さぶられる感覚で目が醒めた。 

あっ!ついそのまま寝てしまった。もう今日は風呂に入って寝よう」
と思った瞬間。何かがおかしいぞ・・・??あれっ??身体が浮いて
いる?それにソファーに横になって寝ている僕がいる・・・? 

「フウキ!」 

「???」 

「フウキ、黙って聞いて下さい。私はフレイと申します。あなたの魂の
知り合い・・・私の声が聞こえる様になるまで待っていました。 

池田棟梁のおかげでこうして話が出来るようになりました。 
この地球の為に早い覚醒を・・・」

フウキは我に返った。 

なにこれ・・・?。夢にしてはリアル過ぎ・・・

それを期にフレイからフウキへの教育は始まった。 

「今日はパラレルワールドを経験させよう。パラレルワールドとは
平行宇宙の事。この地球が同時に幾つも存在し自分も複数存在する。 

但し、各々が独立した世界で社会を形成してるから、全く同じ世界や
自分は存在しない。 

夢を思い浮かべて欲しい。夢の世界では自分が経験している。 
でも夢を見ている自分とは違うことが解る。実際にパラレルワールドを
視て解って欲しい」

そう言い終わると二人は違う世界を上空から眺めていた。 

「これもひとつの世界。同じ札幌でもどこかが違う。よく見て下さい」 

「あっ!札幌駅が無い?大通りも公園じゃなくただの林になってる」

「パラレルワールドとは似て異なるもの。ここの住人はこちらの世界が
本物で、フウキさんの世界が写し世と思ってる。
次にこの世界のフウキさんを視てみましょう」

次の瞬間、もう一人のフウキの上空にいた。 

この世界のフウキはイラストレーターの仕事をしていた。 

フウキが言った「僕もイラストが好きなんですよ・・・」 

「好きと云うことは持って生まれた才能もあるし、このように別パラレルの
君がやっている事もある。では、別の世界を視に行きましょう」

今度垣間見る世界は現実の世界と大きく違うものだった。 

「ここもパラレルワールドのひとつで、アセンションした
もう一人の君の世界」 

フウキは目を凝らした。 

「この世界はもう天国の様な世界ですね。建物も緑も空気も全てが違う。
透き通っている・・・いや、ピュアーって云った方が方が表現しやすいかな?」 
「ここの住人は半霊半物質。フウキさんの住んでる世界と霊界と
呼ばれる世界の間に位置します。 

細胞的には振動数が早いので粗雑なフウキさんの世界から視ると
半分透けて視えるんです。向こうの住人もフウキさんを確認出来ますよ。 
もう一人のフウキさんを視に行きましょう」  

次の瞬間、二人は大きな建物の中にいた。  

「あそこで瞑想しているのがフウキさんです」瞑想しているフウキは
二人に気が付いた。 

「やあ!フウキ君。もう一人の僕が来るとは初めての経験だ。ようこそ」 

「こんにちは」自分に自分が挨拶している事にフウキは妙な感じがした。 

「君の世界では邪神エレボスが好き放題やってると聞いてます。 
僕に応援出来る事があったら何なりと申しつけ下さい。役に立てると
思います。遠慮無くどうぞ・・・僕はあなたなんですから」 

「ありがとうございます」 

この世界は思いが伝わって来るので、その気持ちの純粋さにフウキは心が高揚した。 

 
 フウキの意識が戻った。 

「なるほど、多元宇宙はこうなってるのか」 

翌日の夜、フウキは誰に教わるでもなく自然と瞑想に入っていた。 

フレイもそこにいた。 

「今日は自然と動物の世界の波動の確認をしてみましょう」

二人は十勝と日高の上空を散策した。 

「フウキさん山の呼吸大地の呼吸を感じ取って下さい」 

「山々と大地の沸上がるエナジーを感じます」 

「それから?」

「生命力と優しさを感じます」 

「はい、ではあの滝を感じて下さい」 

「はい、凛とした空気と独特なエネルギーを感じます」

「その独特とは?」 

「息吹?・・・龍?」 

「はい!次はあの動物(鹿)と波長を合わせて下さい」

「はい、これから母親になろうとしていて気が少し立っています」 

「では、あのフキの葉の下に集中して下さい」 

「はい!小人さんが見えます。人間のような感情が感じられますが、
意識は自然を意識しています・・・妖精?」 

「あの方達はコロポックルといい、昔から北海道で動物と共存して
暮しています。人間と比べると多少神経質ですが平和主義です」

「北海道の土産物屋さんにある彫刻とよく似てます。人間でも
視える人がいるんですね」

「そう、昔はアイヌと共存してましたからね。では位置をもっと上に
移動しましょう」

眼下には北海道があった。

次の瞬間、意識は宇宙に漂っていた。 

「今度はこの位置から地球を視てみましょう」

「フレイさん、この地球なんですけど薄暗く落ち着かないのですが・・・」

「よく視ておいて下さい。 これがアストラル体の地球。人間世界のアストラルと
共鳴して黒ずんでいるでしょ。これだから自然災害が頻発するんです」 

フレイの説明にフウキは心が痛くなってきた。 

「今日は疲れたでしょう・・・次で最後にします」 

急に意識が下に引き込まれたと思った瞬間母親の子宮の中にいた。 

・・・ああ心地良い。ずっとこのままでいたい・・・ 

そして意識は再び宇宙に漂っていた。 

同じだ・・・母親の子宮内と宇宙の波長は同じだ・・・

フウキは瞑想を解いた。  

今日は沢山の事を学んだから少し疲れた。そう思いながら眠りに入った。

その後、フレイの指導がひと月ほど続いたある日。

フウキは北海道神宮の社殿の修繕工事を会社から言い渡された。 

いつものように熨斗紙を口に加えて作業をしていると、意識が半分だけ
身体から離れ神社のご神体の前にあった。

もう一人の自分は無心に作業をしていた。 

同時に意識が2つある体験は初めてだった。

ご神体の前のフウキの意識は電流が走ったように痺れていた。 

その後、何事も無かった様に作業を終わらせその日は無事終わった。 

今日のあの体験は何だったんだろう?

霊的体験はもう馴れていたが、1度に二つの意識は初めての経験だった。

風呂から出て居間で何気なく天井を見た瞬間それは起こった。 

自分がこの世に生れてきてから、今までのことが瞬間的に脳裏を走馬燈の
ように駆けめぐった。

そして、すべてが一瞬にして解ってしまったのだった。 

フウキ覚醒の瞬間。 

フウキはとにかく泣いた。止めどもなく涙が溢れてくる。 自分が総てとひとつ・・・いや、
この宇宙とひとつだった。それ以下でもそれ以上でも無い。

宮園風輝の覚醒の瞬間だった。 

 
 フウキの意識はサンガにあった。

そのサンガで10人の神官を前に改めて人間界での決意を表明した。
 
10人の神官全員がフウキを讃えた。 

そして最後にアメン神官から「よくやった。だがこれからが正念場。
各宮からも君の援護をする魂を既に地上に送り込んである。
その数6名。各々天賦の才能があり、君の手助けをする為に下界した魂。 

フウキ君を含め7名の波動を日本中に広め、そして世界へと広げて
いただきたい。同じ動きは世界で起きる。 

もう一度言います。 

邪神エレボスを撃退するのではなく、民衆を目覚めさせて欲しい。 
それが神のやり方です。決してエレボスに危害を加えてはなりません。

我々も力を惜しまない。思う存分やって下さい」

衝撃的な一日を終え、数日間寝ないで覚醒を味わった。 

以前のフウキと覚醒後のフウキとは猿と人間ほどの違いがあった。 

フウキは瞑想中「まず六人の同士を探そう・・・」どのような現れ方を
するのか、どんなタイプなのか妙にワクワクしていた。

【SANGA(神々の戦い)】全18-2

2、「暗黒の神エレボス」

 世界の経済は不調を来たしているとテレビや新聞では報道されていたが、
街には物が溢れかえり、様々な様相の人間と物が入り乱れていた。

不景気とはほど遠い感がそこにあった。

世界は人口が過剰になり、明日の食料にも事欠くという地域や、
中東のある都市では、贅の限りを尽くした街が存在していた。 

世界的に格差が一段と増してきた。

東京の一角に超高層ビルが建っていた。その名はKUJIビル。
近代建築の粋を結集したハイテクビル。その最上階に鎮座するのが、
日本の政治・経済・文化・スポーツを思いのままにする陰の最高権力者
久慈健栄(75歳)である。

人は彼をエレボスと呼び、彼に歯向かう者はこの世に存在しなかった。

彼の勢力圏は主にオセアニア諸国で、世界には同じような立場の人間が
アメリカに一人、イギリスに一人と、世界はこの三人の権力者が君臨し、 
陰で政治経済を左右していた。

そんなエレボスの元に大手電機メーカーの野口代表がやってきた。 

「久慈様、私どもニッセイ電気はご承知の通り今、経営の危機に
瀕しております。度重なるリストラで急場をしのいでおりますが、
この不景気でなんとしたものか・・・一向に業績が上がりません。 
そこで、久慈様のお口利きで銀行融資を承りたくお願いにまいりました。
なにとぞ日銀へ手回しをよろしくお願いいたします」

「野口さん、あなたの会社の直系従業員数と関連会社の従業員数は?」 

「・・・はい、約二万五千人です」

「そうですか。現在ニッセイ電気さん独自の特許数とそれに関連する
売上げ収入は他社のメーカーさんの三分の二ですね。 
この数字では先が望めないと判断しております。 

どうやら野口さん、あなたは方向性を見間違えてるようですね。 
私の知る先代社長さんは気骨がありました。たぶんあの方なら社員を
簡単に切る様な真似はなさらなかったと思いますがねぇ。

ここらでニッセイ電気を閉めましょう。 

特許の数が少ないと云うことは電気メーカーとしては致命傷です。 

野口さんも知っての通り、近年電気の分野は特許の申請をしてる間に
次の新しい技術が開発され、先の申請した特許が下りる前にもう
古い技術と化します。 

どうやらニッセイ電気も潮時が来た様ですね」 

「久慈様、そう言わずに何とぞ御思案下さい」 

「残念ですがもう遅いですね。大切な従業員の事も考えてどこかの傘下に
入れてもらいなさい。それも立派な社長職の仕事ですよ・・・お疲れ様」 

その後、久慈は某電機メーカーの社長に電話を入れた「今、ニッセイ
電気の社長が帰りましたよ。打合せ通りに事が運びました。
もうじき世間を賑わすでしょうね。あとはあなたの手腕で頑張りなさい」

それからひと月後、新聞に「ニッセイ電気破綻」の文字が大きく一面
トップを飾り日本中の話題となった。

久慈の後ろには悪神エレボスが憑依しており、今回の件もエレボスの指示
通りに久慈は動いていたにすぎない。 

このように人間本人が考えている様に見えて、実は陰でネガティブ
エネルギーが憑依し誘導するというケースは非常に多い。

その様子をサンガの神々が天界より視ていた。 

智の神ウルが呟いた「相変らずエレボスは姑息な真似をする・・・
彼の思考は金と権力でいっぱいのようだ」 

その頃、政治の世界では日本に対して農作物の貿易自由化法案が
叫ばれていた。 

国民の絶対数の意見は反対派が占めており、与党議員の中でもその
法案に反対する議員が多くいた。 

内閣総理大臣の多田が久慈に面会していた。

「久慈様の思惑通りに事を勧めてまいりましたが最近、野党はもとより
世論までもが強くて困っております。 

たぶんこのままだと年内に解散総選挙という事になりかねません。 
そうなれば我が党は絶対不利になります。どうしたものかと思い
参上致しました」

「多田君よくやった・・・ご苦労だった。予定通りじゃて・・心配するな。 
君もここらで一休みしなさい。 

ここらで野党にまわり、のんびりと高見の見物でもしてなさい。
今にアメリカは中近東で戦争に荷担し、日本は又金銭援助を余儀なく
されるはず。 

今後の総理大臣も大変だが国民はマスメディアの流す、表面の情報しか
見てないから上手くいくだろう。そのうちまた君に動いてもらうよ。
その時まで羽を休めなさい」

人間界ではエレボスの言ったとおり戦争が始まり、日本は直接参加せずに
援助金と支援物資や燃料を国連軍に供給し間接的に参戦をした。

このように闇の世界の3人は長年思い通りに世界を独占してきた。

【Pino】10-4 (アップするの忘れてました・・・)

4「Pino」

 ここは北海道、日高山脈の中腹。 

この世に生を受けて11歳までは麓の町で育った女の娘、
名前はピノ。彼女の数奇な生き方をちょっと覗いてみましょう。  

彼女が11歳の誕生日目前、人生を左右する悲惨な事件は起きた。 

ピノを学校まで迎えに父親の運転で弟と母親を乗せて向かった、
赤信号で停車中の車に前方からダンプカーが信号を無視して追突し、
3人とも一瞬のうちにこの世を去ったのだった。 

ピノは1人残され叔母の家に預けられたが極度のいじめに遭い、
何時も1人で山遊びをするのが唯一の安らぎだった。

山でリスや狐を観察するのがピノの日課となっていた。

そんなある日、裏山でピノが遊んでいると叔母の息子のヒデタカが
薪をピノめがけ投げつけた。 

そういう行為は日常の事でピノはもう平気だったが、 
たまたまその時は側でリスがドングリを啄んでいて
ヒデタカはそのリスめがけて投げたのだった。 

ピノはその事に気が付き、とっさに薪とリスの間に分け入った。 

薪はピノの頭を直撃しピノは意識を失いその場に倒れ込んでしまった。

その様子を見たヒデタカはピノをそのまま放置し逃げ帰ってしまった。 
 
空には月が昇り山はひんやりと冷え込んでいた、倒れたままのピノは意識を
取り戻し周りを見渡した瞬間ビックリした。 

そこには狐や野ウサギ、リスやテンといった動物が、ピノの様態を
案じているかの様にピノを中心に輪を作っていた。 

そして一匹のリスが側に寄って来た。 

ピノの視線と目があった瞬間、ピノに何かを語りかける様な仕草をした。 

「君、大丈夫なの?」ピノにはリスの言葉が理解が出来た。 

ピノは「頭が少し痛い・・・」返答した。

リスは「さっきはどうもありがとう、私はあなたに助けられたリスです。
本当に感謝してます」 

「・・・あっ・・・はい・・・」 

そう答えた瞬間ピノはまた気が遠くなった。

ピノはそのまま数日間、気を失っていた。 

目が覚めたのは東の空から太陽が昇って間もない頃だった。 

身体は毛皮に包まれる様な感触があった。
 
ピノは倒れてから3日経ってから気が付いたのだった。 

自分に何が起きたのか把握出来ていなかった。 

微かに声が聞こえた。

「気が付いたの?良かった・・・」

「もう大丈夫だ!」 

「良かった!良かった!」

ピノの周りがざわついていた。 

あの時のリスが「もう大丈夫よ、元気になって良かった!」ピノは突然飛び起きた

「あっ?」

ピノを包んでいたのは熊だった。 

熊は「驚かないで!私はあなたの味方・・・」

その他にも沢山の動物達がピノの周りに群がっていた。 

「人間さん、まずは水をお飲み」鹿とリスが何かを差し出した。 

それはフキの葉を数枚重ねた器に水が入っていた。
 
ピノはいっきに飲み干した。

さっきまで不安そうな顔をしていた動物たちは一瞬で安堵の顔になった。

次に、リスや狐などの小動物が次々と木の芽や山菜を運んで来て
ピノの周りに置いていった。 

「ありがとう」ピノはお礼を言った。

「ところで・・・みんな、どうしたの?」ピノが聞いた。 

キツネが「私達はこの山に住む仲間。君がいつもあの人間にいじめられて
いるのをずーっと見ていたんだ。今回リスさんがあの人間にやられそうに
なったのを君に助けてもらったから・・・この森の仲間がお礼したくて
集まったんだ・・・」

数十匹の動物の姿がそこにあった。 

そこには熊や狸、狐などの肉食の動物も、鹿などの草食系の動物も
みんな一緒にいた。 

「私、ピノといいます。私を救ってくれて本当にありがとう・・・それと、
ここは私の家からどのくらい離れているの?」 

熊が言った「ここは人が全く来ない山の中。私の背中に乗せて一日ほど
山奥に入った所。しばらくここに居なよ」

「ありがとうございます。でも私、食べ物とか取ってこれないから・・」 

「大丈夫だよ。君達が食べてるような動物の肉は無い・・・
けど魚と野菜と木の実は沢山あるからここに居なよ」狸が言った。

ピノはこの優しい動物達としばらく暮す事にした。
 
山の生活は夜明けと同時に始まり夜更け後眠りにつく。

食事は一日一食で完全菜食。 

水は身体が欲するままに飲む。 

自然の中で生活するというのは自然に従う事が基本となる。

雨が降れば何日も洞穴で過ごす事もある。

ピノにとって一番の楽しみは渡り鳥や地方から来た鳥達との会話だった。 

その地方や土地の変わった動物や自然の話を聞くのが楽しみだった。

中でもお気に入りはアイヌ民族と動物達の共存と交流の話や 
森の妖精達と動物との交流の話し。
 
昔はアイヌ民族と動物はお互いのテルトリーが決まっていて
境界線を越える事は希だった。 

それが日本人が南から入ってきて境界の収拾がつかなくなった話や 
動物は普通に妖精達と会話をし、今も交流が当たり前のように
なされているなど、おとぎ話しのような話を聞かされた。 

ピノが基本的に思ったことは、 

妖精も動物も自然もすべての動植物は調和を保つことを原則としており、
調和が乱れることや乱されることを極端に嫌いそして恐れた。

肉食動物と草食動物の間には制約があり、食用の為の捕食は双方合意の
もとでなされていた。 

無意味な殺生は存在しなかった。 

捕食される側も合意がなされていた。

ピノはキツネにその事で質問したことがあった。

「じゃあ、何で捕食される側は逃げるの?」 

キツネは答えた「逃げるのは生命体としての本能なんだ。
解ってはいても死は怖いのさ・・・」 

「ふ~ん」 

そんな暮らしも5年が過ぎようとした頃、ピノの目に登山者の人間二人が
目に映った。 

久々の人間であった。 

自然界には実在しない色遣いの服装とリュックを久々に見た。
 
ピノに何ともいえない懐かしさが頭に蘇ってきた。 

「ねえリスさん、あれは何?」 

リスは答えた「あれは敵よ。私達の仲間を見たら殺そうとするの。
絶対、音を立てたり見つかってはいけないのよ」 

リスは説明するも、ピノは懐かしさを拭えなかった。 

ピノはリスの制止を聞かず人間のあとを追った。

登山者の二人は倒木の上で一息ついていた。

ピノが様子を伺っていたら足下の木を踏んでしまい音をたててしまった。

二人は熊か・・・と警戒しながら音の方を振り返った。 

そこには丸裸で髪の長い少女らしき姿があった。

二人は一瞬目を疑った。 

「誰だ?」ひとりが声を掛けた。 

ピノは即、走り去っていった。

町に下山した二人は警察に通報し、見たままを説明した。

その二日後には20名ほどの救助隊が結成され山に捜索に入ってきた。

捜索が入って二日目に大きいなブナの木の下にあった洞穴から
10歳前後の少女のものと見られる白骨体が発見された。 

死因は頭部損傷の疑いがあり司法解剖に回された。

死因は頭蓋骨陥没によるものと判明され被害者のDNA鑑定の結果、
行方不明のピノと断定された。 

殺人事件と見なされ、関係者の事情聴取によりヒデタカの傷害による
殺人と死体遺棄が伝えられた。

後日、関係者に発見現場の状況報告と写真が送付された。 

ピノの白骨死体の周りにはクルミやドングリなど、さまざまな木の実と
動物の毛や鳥の羽毛が散乱した写真だった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-1

1「サンガと10人の神官」

 人間時間の西暦2011年、天界のサンガである集会がなされた。
議題はこの荒廃した人間界を立て直しするという計画。 

長年にわたり陰で人間界を操つり支配してきた魔界を消滅させる必要があった。
今の人間界はそのネガティブなエネルギーに強く支配されてる為、逆三角形の
ような構図が展開されており、魔界の存在はそのダークなエネルギーを食して
生きていた。 

彼らの苦手な事は愛や慈しみといった他人を労る心や行為であった。

上辺だけ繕う偽善が得意で、世界もそれによって巧みに運営されていた。

人間時間2011年夏。天界サンガの神殿に10人の神々が集結した。


・創造の宮(神官アメン)それを囲むように
・美の宮(神官イズン)
・智の宮(神官ウル)
・太陽の宮(神官ユーギル)
・月の宮(神官オーズ)
・アマテラスの宮(神官トール)
・風の宮(神官フレイ)
・地の宮(神官ミーミル)
・光の宮(神官ヘル)
・水の宮(神官エイル)

計10の宮が存在する。各宮を取り巻く形で無数の集団が存在し
サンガの都は構成されていた。 

それぞれの宮には神官と呼ばれる長老がおり、その宮特有の役割が
設けられており、それら総てを統括するのが「創造の宮」であり
神官の長がアメンであった。 

同時にサンガの都をとりまとめる長でもある。

アメンが「本日の議題は人間界の心なき暴走と破壊についての対策である。
ぜひ皆の意見を仰ぎたい。このままでは地球が破壊されかねない。 
今後の地球の方向性を決定し、その方法を決める為に集まってもらった。 
順番に意見を聞きたい」


美の宮イズンが「私の宮からは数十人の魂を人間界に降ろし、報告も
受けておりますが、皆さんご承知の通り地球は暗黒の神エレボスの
支配下になり数千年が過ぎ心なき物質文明も此処にきて終焉を間近に
しておりますが、今だ悪あがきをしております。 

それに携わってる民衆も古き習慣を捨てる覚悟が全然出来ていません。 
それどころか格差がいちだんと激しくなっております。 

国によっては聖戦と称し神の名を借りた戦争や宗教の弾圧・洗脳など
相変わらずの社会です。 

この社会の在り方は違うと気付いている人間も大勢おりますが、
そのような人間に限って社会的に力がありません。 

力なき言動には民衆も耳を貸しません。それが大まかな人間世界の
現状であります」

智の宮ウルが「宗教はもはや政治権力と結びつき布教と称し世界各国で
人心を操り、挙げ句の果てに植民地化と化す合法的な占領等々、
キリストやモハメッドの意に反する教えが主流とされ、仏教は智を満足
させる為の手段となり、哲学化された教えは知識のみの仏教で、
もはや形式だけが残る宗教と化した。新興宗教も教祖の死後は形のみが
先行されております。これが今の地球の宗教事情でございます」

月の宮のオーズが「本来教義がない自然崇拝の宗教も形骸化され、 
我々への捧げ物や生け贄などと称し、未だに動物を殺してお供えしてるが、
我々はそのような事は一切望んでおりません。人間の愚かな解釈には
困っております」

水の宮エイルが「先の神々と同じ見解でございます。人間はどうも御利益
的要素と信仰を混同している様でございます。我々は祟りを与えるなど全く
思った事もなく、人間が勝手に作り上げた妄想で人間自身が苦しんでおります」 

太陽の宮ユーギルは「人間の愚かさは昨日今日の事ではないが、これだけ地球の
エーテル層にまで影響を及ぼす事となってしまっては、はやいとこ手を打たねば
地球存亡にかかわる。
よって暗黒の神エレボスを排除せねば真の平和は望めないだろう」

アマテラスの宮トールは「私もユーギル様に賛成でございます。 
但し、エレボスも元は我々と同じ神の一員。葬るのは容易い事ではござい
ません。いかなる方法で対処すれば良いものかと・・」

風の宮のフレイが「風の宮からは25年前、使者を人間界に降ろしました。 
その者、宮園風輝と名乗りすでに準備が出来ております。 

あとは本人の最終自覚があればいつでも交信が可能でございます、
なんなりとお申し付け下さい」

最後に神官アメンが締めくくった「そろそろ結論を言おう。知っての通り
我々、神界の者は人間界に直接関与出来ない。

よってサンガから転生させたその宮園風輝に使命を悟らせ、その風輝の
下に天使の役目を持つ者数人を各宮から選抜配備させ速急にエレボスと
対決してもらう事とした。 
 
他にも各宮で話し合って奥の手を用意しておいてもらいたい。 

相手はエレボス。今から遡ること三千有余年の間、陰から人間界を操ってきた邪神。
今度こそ奴を抹殺し平和な地球に立て直そうではないか・・・以上!」 

【SANGA(神々の戦い)】全18話

あらすじ

 宇宙には森羅万象を司る神の存在がある。
その存在は宇宙そのものであり人間的な意味合いの神とはちがう。

人間の云う神とはその下の存在を意味していた。
 
そこは天空の都「SNGA(サンガ)」人間界の秩序と発展を
天空から見守り間接的に調整する場所。

人はこのサンガの存在を古くから黄泉の国・神代の国と呼び
崇拝の対象としてきた。

近年の人間界は物質趣向主義者が地球の半数を占め、
心の伴わない文明と化してしまった。

結果として人間界の歪んだ集合意識が地球のエーテル層に
影響を及ぼし自然界に多大な影響をあたえ始めた。

地震や竜巻など極端な異常気象が多発し自然バランスが損なわれ、 
近い将来地球文明は重大な岐路に立たされようとしていた。 
 
この地球では過去6度の天変地異があり、多くの人間が失われ
現在が7度目の岐路にある。

7という数字は特別な意味をも含んでいた。

この数千年間、地球はサンガの神々とは対照的な存在達に
上手に無理なく誘導されてきた。 

その存在とは元々サンガの住人達であった。

この世に使命を持ってサンガより降りてきたが欲望に
流されて使命を忘れてしまった神々。 

元来神のパワーを持った存在であったがゆえにネガティブなパワーも
強く、この地球人類は簡単に誘導し服従させられた。

近年ではマスコミを操作して無理なく合法的に洗脳するという
手法で民衆を監視してきた。 

それが現代社会の様相であり集団意識。
 
ここに、地球人類をその呪縛から解放するために選ばれし
7人の賢者が得意の能力を発揮する。

それは当初間接的であったが結果的に集団意識を少しずつ覚醒させる
ことになった。

宮園風輝を中心とした7人の賢者。その変化の様子を描いた作品。

【Pino】10-10完結編

10「老人の涙」

 札幌の街が一望できる藻岩山の中腹に位置するホスピス。
医者の手を離れた患者が余生を穏やかに過ごす為だけに存在する施設。
ひとりの中年男性が少ない余生を過ごすために選んだところだった。

 早朝、介護士の相木が部屋を訪れた。

「西村さん、おはようございます。体調はどうですか?トイレは
行かれました?体温を測りますね」

かるい黄疸症状のある西村の顔が微笑んだ「おはよう相木ちゃん。うん今日は
なんだか調子がいいよ、久々に良い夢を視たしね・・・」

「そうですか・・・それは良かったですね・・・で・どんな夢でした?
聞かせていただいてもいいですか?」

西村は窓から街並みを眺め呟くように「うん・・・俺って若い頃は
やんちゃばっかりの半端者だったんだ・・・」

「へ~~そうなんだ・・・西村さんヤンキーだったんですか・・・」

「大きな悪事する勇気もねえ、ただの中途半端な大バカ者さあ・・アハハ」

体温計を差し出し「で?どんな夢でした?」

「母親が優しい顔でラーメンを出してくれる夢なんだ」

「え??ラ・ラーメンですか・・・?」

「そう・・・たかがラーメン、なんの飾り気もないどこにでも普通にある
醤油味のラーメンさ・・でも、俺にとってはこの世で唯一絶対の安らぎの
味なんだ。デパートの大衆食堂のただの普通のラーメン・・・

母親は無言なんだけど『いつもすまないねぇ・・・あんな父さんと一緒に
なったばっかりに・・・母さんが悪いんだ・・・ごめんね』子供ながらに
俺にはそう聞こえるんだ」

「唯一絶対ですか?」

「そう、俺の父親はろくすぽ働かねえ、昼間っから家で酒飲んで
酔っぱらっているようなグータラ男の基本のようなおやじでよ。
母親ばかり働らかせ、思うようにいかないとすぐに機嫌が悪くなるバカ親父さ・・・

それだけじゃねえ、俺は父親から虐待されてたんだ。年中から年中
身体中アザだらけよ。顔は殴らねえから友達や先生達は知らねんだ。
あの酔っぱらい親父なりに殴り方をちゃんと考えてるよ・・・

殴られた時は決まって母親の働くデパートの大衆食堂に逃げ込んだよ。
そんな俺の顔を見て察した母親は黙って・・・ラーメンを俺の前に
置いてくれたんだ。逃げ込んだ時はいつも・・・いつもさ・・・

中学校に入ってから俺も素行が悪くなりはじめ、一応高校に進学したが
中途退学して家を飛び出し、札幌で大工の見習いをしながら暴走族に
入ったんだ。何度も警察の世話になったよ。

その頃知り合った彼女と結婚してすぐに父親になったんだ。

俺は、てめえの父親みたいには絶対ならねえと心に決めてたんだけどな・・・
子供が小学校に入った頃、勤めていた工務店を喧嘩して辞めたんだ。
どういうわけか・・・それから家で酒を飲んで暴れるようになっちまった。

気がついたら一番嫌いなあの親父と同じことを俺の息子にしてたんだ・・・
この世で一番嫌いで軽蔑する・・・あのオヤジとこの俺が一緒だったんだ」

西村の目から涙が頬を伝わって落ちた。

「そうですか・・・」

「俺も、最期は遺体の引き取り手がない、ただのオヤジで終わりそうだ」

「そんな寂しいこと言わないでください・・・」

「悪いね朝から嫌な話し聞かせてしまって・・・すまないね・・・」

「いえ・・・わたしが思い出させたみたいで・・・すみません・・・」


 「それはそうと、この施設に来てひとつ気がついたことがあるんだけど
聞いていいかい?」

「なんでしょう?わたしで分かることでしたら・・・」

「ここに来て2月経つけど、何十名もの患者さんがここに入所するよね。
そういう人がさっ最初は険しい顔してたり、また魂が抜けたような人
だったりっていう印象なんだけど・・・
それがひと月も経たないうちにみんな穏やかな良い顔っていうか
優しそうな仏さんのような顔にも見えるんだけど・・・
俺の気のせいかな?相木ちゃんどう思う?」

「よく見てますね・・・そうなんです。そのとおりなんです。
わたしも途中で気がついて先輩に同じこと聞いたことありました。
この現象はここだけのことではなく、このような施設や死刑宣告された
服役中の方にみられるみたいです」

「死が近くにある人ってことかい?」

「その先輩いわく、死の宣告された方は三つの大きな壁に直面するようです。
一の壁、
余命を宣告された人は、とにかく絶望とい谷に落ちるようです。
人間のいちばんの問題は死。その死を突きつけられると、今まで培った全て
が音を立てて崩れ落ちるようです。ひと言で言うと『絶望』の意識状態。

二の壁、
一の壁を乗り越えた頃から、助かろうとする意識に変わるみたいです。
良いと云われる薬・医者・病院などとにかく模索して実行する。でも、
それもかなわぬと知る時が来ます。死以外の道はないと悟ります。

三の壁、
二の壁を越えた辺りから自分には死しかないと穏やかな気持ちで受け
入れます。死の超越です。そうなると恐れや迷いといった心が動揺する
ことがなくなります。逆にお見舞いに来た人を慰めるくらいの心のゆとり
までみせて見舞客の涙をそそります。

このような死までの心理状態の壁を『三つの大きな壁』と表現してるようです」

西村は「やはりそうか・・・」呟いた。

それから数日後西村が「相木ちゃん、頼みがあるんだが」

「はい、なんでしょう?」

「おれさ・・はやく元気になってさ・・ラーメン・・食いてぇ・・・
ただの素朴なラーメン・・・」

「分かりました。この相木がご馳走させていただきます。チャーシューと
玉子はどうしますか?」

西村は「チャーシューはいらねえ・・・海苔一枚あればいい・・・約束だよ」

「任せてください」相木は力一杯の笑みを浮かべた。

そして最期の時が来た。

「母さん・・・このラーメンとっても美味しい・・・ありがとう!

僕、父さんのことなんとも思ってないからね、気にしないでね・・・」

それが西村最後の言葉に・・・

【Pino】10-9

9「天才ヤスマサ」

彼はヤスマサ、30歳。ユニークな感性の持ち主。 

ヤスマサは中学・高校・東京国立大学その全てをトップの成績で卒業。

しかし 彼には大きな問題があった。 

他人と交わる事が苦手だったのだ。

唯一、気を許せた相手は母親とヨークシャーテリアのミルキー12歳。 

彼は大学生の頃、母親にねだって犬の言葉が理解出来るという
バウリンガルなる装置を買ってもらい、それを自分流に
アレンジして犬と会話が出来る装置に作り上げた。 

ミルキーも人間的な意識を持った天才犬であり、事実上ヤスマサの姉役でもあった。

ヤスマサの職業は物理学者と発明家で何処の組織からも束縛されない自由人。

たまに蟻の巣を観察するのが好きだった。 

ある時ミルキーに「ねえ、ミルキー聞いて。蟻ってひとつの宇宙を形成してるんだよ。

人間はひとつのコロニーの形成って言ってるけど何か違うんだよね。

あれはあれで宇宙なんだ。完璧なんだよ。 

蟻が歩く基本は六角形なんだ。

それを意識して歩くからどんなに遠く巣から離れても帰れるんだよ。 

たまに間違って他の巣に入ると、すぐ仲良くなってそっちの
巣で世話になるんだよ。面白いね」 

ミルキーは「私は蟻嫌いなの。あの匂いは鼻が痛くなるのよ。
ちゃんと手を洗ってから私に触ってね・・・」 

いつもこんな調子で二人はコンタクトをとっていた。


 ある時ミルキーが「ヤスマサ、少しは世の為になる発明や発見でもしたら?」 
ミルキーに尻を叩かれるこの光景は日常茶飯事。 

「もう考えたよ。後は実験だけなんだ」 

「・・・・どんなもの?」 

「原子振動装置だよ」

「??何に、それは?」 

「細胞を振動させたら発熱してしまう装置を電子レンジって云うでしょ。 
僕の発明は原子だけを振動させるんだ。 
結果、その物体は次元を越えて半透明になってしまうんだ。 
家の壁は荒い構造体だから壁も通り抜けちゃうんだよどう? 
理論的にはそれを繰り返すと身体の癌だって治っちゃうよ・・・」

「その発明はダメね」 

「何んでさ・・・?」 

「そんなのが世の中に広まったら死ぬ人がいなくなっちゃうでしょ。 
地球に人が溢れちゃうわ」

「そっか・・・そこまで考えなかったよ。さすがミルキーだね・・・」 

「そんな発明しなくていいから私の好きな美味しいジャーキーを空気と
水で作る装置でも考えて!」

「ハイ」

こんな調子で日の目を見ない大発明が過去に幾つも存在した。


ヤスマサとミルキーが公園を散歩していた時だった。 

公園の上空に葉巻型のUFOが浮かんでいた。 

「ヤスマサ、上を見て。あの白いのは・・・?」 

「あれはねえ、UFOと言って宇宙人の乗り物だよ」 

「静かだねぇ。どうやって飛んでるの?」 

「地球の乗り物でないから解らないよ」 

「あれ便利そうね。ヤスマサは作れないわけ・・・?」 

「原理さえ解れば作れると思うけど・・・作ってみようかな」 

「賛成!これからはそういう発明しなさい」

「はい!」

ヤスマサは何日も研究室に入り浸りだった。 

ミルキーも半ば心配になり始めた頃だった。

「解った!」部屋の中から声がした。

憔悴しきったヤスマサが研究室から出て来た「ミルキーやったよ。僕やった」 
そう言いながら倒れ込んでしまった。 

極度の過労である。 

目が覚めたヤスマサはミルキーに「これ見て」と言いながら
テニスボール大の物体を取り出し、放り投げたと思った瞬間、
空中でホバーリングして浮かんでいた。 

ミルキーが「オメデトウ!これ乗れるの?」 

「うん、乗れる大きさにしたら可能だよ。でもこの大きさだと無理だね。 
人間が乗れる大きさにするにはもっと予算が必要だから・・・個人では無理」

ヤスマサの携帯が鳴った「はい!あっ父さん?・・・」 

顔色が変わりすぐに携帯を切り宙を仰いだ。 

ミルキーが「ヤスマサどうしたの?何かあった?」心配そうに尋ねた。

「母さんが急に倒れて病院に運ばれたんだ、意識不明みたい。 
ミルキー、僕どうしよう?ねえ・・・」 

ヤスマサはうろたえていた「しっかりしなさい。すぐ病院に行きなさい」 

「うん、解った。僕行くね」
 
父とヤスマサが医師から、母の病状は脳梗塞と診断され、5日間は脳が
腫れる可能性が考えられるから危篤状態と告げられた。 

死んだ脳は再生しない為、今後は後遺症も考えられるという診断だった。

それから数日が過ぎ母の意識は戻ったがヤスマサの知る母とは何かが違う気がした。

ヤスマサはミルキーにそのことを説明をした。

ミルキーは「前に作った原子振動装置を工夫して何とかならない?」

ヤスマサの目が光った。即その装置を持って部屋に籠ってしまった。
部屋から出て来たのは5日後の朝だった。

ミルキーが心配そうに尋ねた「ヤスマサどうだったの?」 

「ミルキー、出来たと思うけど何かに試さないと解らない・・・」

「どうやって試したらいいの?」ミルキーは聞いた。 

「まず悪いヶ所周辺にこっちの赤い光を当てて細胞ごと分解するんだ。 
そして今度はこの青い光をもう一度照射したら他の健康な細胞と同調し、
死んだ細胞の再生が始まり完了する仕組みなんだけど・・・」 

ミルキーは意を決しヤスマサに言った「私は12歳なのね。
最近、足腰が弱ってるの。私で試せないかい・・・?」 

「それ絶対イヤだよ!ミルキーに何かあったら僕、生きていけないから」

「ヤスマサ、いいかい。しょせん犬と人間は寿命が違うの。
私はもう12歳のお婆ちゃん。あんたより必ず先に死ぬんだからね。 
ヤスマサの役に立てるのなら命は惜しまない。
ましてお母さんの一大事だもの・・・ヤスマサわかって・・・
人間とは構造が違うけど同じ動物だもの。私で試しなさい!解った?」

ミルキーは涙をためながら強い口調で言った。 

そしてミルキーが地権者となり、装置の光の照射が始まり30分経過した。
ミルキーはヨロヨロしながら起き上がった。

「ねえミルキーどう?痛いところ無い?ちょっと歩いてみて?」 

ミルキーはゆっくりと歩きヤスマサを見上げて「全然痛くないし、何となく 
前より快調かも・・・これならいけると思う。やったね!ヤスマサ!」 

「後遺症だとかはこの先解らないけど、基本的には自分の細胞での再生だから
大丈夫だと思うよ・・・」

それから一月後。普段と変わらない母の姿が台所にあった。 

その経緯を知るのはヤスマサとミルキーだけだった。


母親の一件がありヤスマサは人間の身体にも興味を持ち始めた。 

ある時、いつもの閉じこもりから出て来たヤスマサは頭に妙な
ヘッドホン装置を装着していた。
 
「今度はなに?」ミルキーが聞いた 

「これはね、脳細胞の活性化を図り超能力を身につける装置なんだ。 
僕が試したら意識が地球を飛び越えたんだよ。それから僕の生まれる前の
人生や今度生まれる場所まで見えちゃったよ」 

ミルキーはじっと聞いていた。 

「人間の脳って殆どの部分が寝ているからそこを刺激して活性化して
あげると今言った事が起きるんだ。お坊さんは長年修行して悟りを得るけど、 
この装置を付けるとたった数分で悟った気分になれるよ。 

装置を外したら前と同じだから疑似悟りだけど危険性はないと思うよ。 
疑似であってもそう云う世界を薬や葉っぱに頼らないで垣間見れるのは
いいと思うけどミルキーどう?」

この頃からヤスマサの発想はミルキーの理解を超えてきた。


 「 ミルキー、これ見て!」 

ヤスマサは満面の笑みを浮かべていた。

「また何か作ったの?」 

「うん、やったよ。無重力装置だよ」

「無重力?つまりどういう事?」

「前から宇宙線の力に着目してたんだ。宇宙エネルギーは宇宙から地球に
降り注いでいるんだ。しかも無尽蔵に。 

それを地球で使えるエネルギーに変換出来たらいいなと思ったんだ。

そしてその変換装置を作っていたんだ。でも殆ど失敗続きで半分諦めてた。 
ちょうど先週の今日、寝不足も重なって疲れたから一服しようとクエン酸
ジュースを作ろうと思い、クリスタルコップを洗おうと手に取ろうとしたら
間違って足下にあったチタンの粉に落としたんだ。 

そしたらコップに入っていた何かの物質が反応して、そのコップが変な
動きをしたんだ。おやっ?と思い、そこから又、研究が始まって、
今日これが完成したんだ」 

唐突に机の上にあった鉄球を乳白色の容器に入れ、ミルキーめがけて放り投げた。 

その物体は放物線を描き、軽いパルス音を出してミルキーの手前で
ホバーリングして静止した。 
 

「ミルキー、これが無重力装置だよ。計算ではこの大きさでエジプトの
ピラミッドを一週間もあれば作れると思うよ。但し、設計と石切りは別だけどね」

ヤスマサの能力に拍車が掛かった。 

さすがのミルキーもつき合いきれず、空返事が多くなってきた。

「ミルキー、聞いて。僕、昨日ねえ。熱の対流力学を研究したんだよ。
今年の夏前に天然の冷房装置を作ってあげるね。 

地熱の温度は特殊地帯とかは別にして季節や地域に関係なく15度なんだ、
それを上手く利用すれば夏は冷房に、冬は暖房の補助に使えるんだ・・・ 

道路の雪だって工夫次第で溶かせるよ。

あと部屋の芳香剤だって格安で作れちゃうよ。使うのは高分子吸収体と香水だけ。 
ミルキーのトイレシートを使うんだよ。 

あとは遮熱断熱塗料とか湿度取り剤とかシリコンのコーティング剤なんて
格安で簡単に作れちゃうよ。 

理屈が解れば結構化学も面白いよ。 

今、僕が考えてるのは宇宙線を利用した発電装置で、それを一家に一台
設置すれば電力会社から電気を買う必要無いんだ。 
究極の自家発電装置なんだよ。 良いと思わない?・・ねえ、ミルキー!
・・・・・・聞いてるの?・・・・」

最近の二人はこんな調子だった。

母親から電話で「ヤスマサ、お父さんが夕べ飲み過ぎたみたいで、
二日酔いがひどいのよね。速攻で効く方法ある?」 

「水だよ」 

「昨日寝る前にシジミの味噌汁を沢山飲んでたのよ。今朝もだけど・・・」 

「母さん、それ逆効果だよ!血液の水分より濃いものは反対に血液の水分を
奪うんだ。だから酒を飲み過ぎた朝は喉が渇く。味噌汁は液体だけど水分
じゃないから逆効果だよ。水や体液に近いスポーツドリンクを沢山飲ませて
尿を沢山出させてよ。それしかない。二日酔いはくれぐれも濃い飲み物は
控えてね。利尿作用を高める物が良いね、水や番茶のようなもの」

そばで聞いていたミルキーは「そんな事まで知ってるの?」ヤスマサに聞いた。

「これも化学の知識なんだよね。例えば寒暖の差もそうなんだ。 
流体力学なんだけど、液体や空気なんかは暖かい方から冷たい方へ移動。
液体は濃い方から薄い方へ移動して調和を保とうとするんだ。 
暖かい方は上で冷たい方が下で中間が飽和状態なんだ。

そしてその寒暖の差でエネルギーが生じ自然界では風という現象。 
我々は化学や物理学を知らず知らず上手に使いこなして生活してるんだね。
 
自然界は調和をしようとする本能があると思うんだ。 
自分が自分がって主張するけど他人の事も考えてやると調和が取れていいのにね。 
調和の取れた状態って平和だと思うけど・・・ねえミルキー聞いてる??」

その頃になるとミルキーはヤスマサの言ってることがわからなくなり、
遠い存在に思えてきた。

この頃からミルキーは寝る時間が増え、ヤスマサとの会話も少なくなり、
ミルキー13歳の春他界した。

【Pino】10-8

8「夢職人ミホコ」

私は夢職人ミホコ。仕事は依頼者の夢を実現にする手助けする事。
 
依頼者本人が望む職業は別世界(パラレルワールド)のもう一人の
自分が既に手がけているケースが多いんです。

そこからの情報をこちらの依頼者の深層意識に植え込む作業をします。
 
するとこちらの依頼者は約二ヶ月という短期間でそれを習得出来ます。
当然無いようにもよりますが・・・

理屈はこうです。パラレルの自分とこちらの自分は必ず繫がってます。
だから情報の収集が結構簡単なんです。  

依頼者は自分の望む才能を手に入れ、それを職業としたり趣味に活かしたり
出来ます。それがけっこう無理なく出来るんです。なんせ自分のことだから。 

今のところクレームはありません。
 
大まかな基本は私が作成しますが、あとは本人次第となります。 

ここだけの話、歌手のYやKさんはお客さんのひとりです。

芸術の世界ではH・山形もそう。

基本的に分野は問いません。依頼者が頭でなりたいと考える人物や
職業は既に別世界(パラレルワールド)の自分が経験してる可能性があります。
 
そこに行って意識を借りてきてこちらの依頼者の深層意識に植え付ける作業を
約ふた月繰り返すやり方です。 

別世界の自分が経験してない場合は見本になるお好みの人物の意識を
植え付ける方法もします。 

但し、前者よりも時間は掛かりますが基本的には可能です。

先だって文学好きの青年が来て、「吉川英治を尊敬してるのでその
意識を取り込んで小説を書きたい」との依頼を引き受けました。 

後日依頼者本人の書いた小説を見せてもらいましたが作風は吉川英治
そのもので、似すぎていて面白味に欠けていました。

だから全てが上手くいくとは限りません。

今日もひとりの依頼者が訪れた。


 「ごめん下さい」 

「はい、いらっしゃいませ。どうぞお掛け下さい」 

還暦をとうに過ぎたと思われる上品なご婦人だった。

「あのう、実は今年65歳になりますが子供の頃から長年助産師に
なるのが夢だったんです。生命の誕生をこの手で受け止めたかったんです。 

主人が公務員という事もあり転勤続きの為、ひとつの街で腰を据えて
何かを学ぶと云うことが出来なかったんです。 

この年齢では夢を実現出来ないのは解っていますが、せめて助産師さんの
意識をあじわう事だけでも出来ないでしょうか?」

「確かにお客様の年齢から考えるとこれから仕事に従事するのは
無理かも知れません・・・」 

ご婦人はうなだれ下を向いてしまった。 

ミホコは今までの経験とご婦人の透視から別の方法を探った。
 
ミホコの目が輝いた「こういうのはどうでしょう?別世界のお客様の中に
詩人のお客様がおります。その方もやはり生命の誕生に興味があるようです。 
その意識を取り入れてお客様も詩を作るんです。

普通の詩と違い生命の誕生を題材にして人間はもとより動物の誕生をも詩に
託すというのはどうでしょうか? 

年齢も環境も関係なくペンと紙があれば何処ででも出来ますし、
ネット上でしたら無制限に投稿出来ますけど。

当然、沢山の他人の目にも止まります。いかがですか? 

諦めかけていたご婦人の目が輝いた。 

ご婦人が言った「それはいい考えですね。別世界に詩で表現している
私がいるんですね?

私も実は詩が大好きで詩集を何冊も持っています。 

自分では書かないけど不思議と詩に惹かれます。ぜひその方法で宜しく
お願いいたします」

それから2ヶ月が経ちご婦人はネットに投稿し始めた。 

生命の誕生を表現したご婦人特有の表現が、年齢を問わず好評で、
それを見た出版社の目に止まり詩集の発売も決定したと、ミホコの事務所に
最大級のお礼とひとつの詩が同封された手紙が届いた。


 こんな依頼者もあった。 

「僕は建築設計の仕事をしてます。もう25年やってますが僕の作品は
日の目を見たことがありません。

多次元の僕で設計士は存在しないのでしょうか? 

僕自身多少の才能はあると思うのですが、これだけやって認められないと
自信喪失します。もし多次元に設計士の僕がいたらどんな具合か教えて下さい」 

こういう類の相談は厄介だった。 

才能が今生で開花するタイプと、次の生で開花するタイプがあるからだった。

夢職人という商売と意味合いが違うケースだった。 

「残念ですが、私の仕事と意図が違うようです。そのご相談は別の方に
相談なさって下さい」と断るしかなかった。 

多次元の自分が認められていたとしても、こちらもそうなるとは
限らないからである。

安易な事を云えないのもこの商売であった。

「僕は坂本龍馬を生涯の師と思っています。その坂本龍馬の
意識を取り込んで欲しいのです」 

「はい、それは可能ですがひとつ聞かせて下さい。あなたの尊敬する
坂本龍馬は机上の彼なのか?それともあなたが足を使った上での実像に
近い彼なのか?お聞かせ下さいませんか?」 

「はい、映画や小説などで情報を得ましたが・・」 

「そうですか。ひと言いいですか、小説の人間はあくまでも作者の意識化での
想像です。特に過去の偉人は創作が多いようです。  

もし実際と大きくかけ離れていたらあなたはどうなさいますか? 

私が繋がる人物は作りものではなく現実の坂本龍馬なんです。 
小説のように格好いい龍馬とは限りません。それでもよろしいですか?

脅しではありません。忠告と思って下さい。 

彼と重なると云うことは全てを受け入れるという事です。 
万一、期待と違った場合は少し厄介ですよ。 

なにせ深層意識の世界ですから。もういちど龍馬の事をよく調べた上でも
遅くないと思います。 

過去にヘミングウェイにあこがれたお客様がおられて彼を取り込んだんです。 

私もその頃はまだ解っていなかったんです。 

作品は確かにヘミングウェイ風に書けました。 

でも世間が英雄視する人間ヘミングウェイと実際は大きく違ったんです。 

夜は電気を付けないとひとりで眠れないという臆病で気の小さな人物だったんです。

彼の小説は自分には無いあこがれをデフォルメした姿として書いて
いたんですね・・・表向きと実際は大きく違ったんです。

その依頼者を元に戻すのに大変な思いをしました。 

これはひとつの例ですが実際、著名人の方は虚と実の差が私もよく解りません。 

急ぐ事はありません。よく考えて下さい」 

実像と虚像の違いは珍しいことではなかった。

特に書物にされるような著名人や歴史上の偉人は。作者で大きく影響されます。  

それを知るミホコは極力お客様自身のパラレルワールドを勧めるようにしていた。 

パラレルの自分は必ずどこかでこちらの自分と繋がっている事を知っていたから。

【Pino】10-7

7「小説請負人ハマⅡ」

 今日もまた依頼があった。今回の依頼は小さい頃の夢で歌手になって世界中
を飛び回り、みんなに感動を与える人間になりたいという女性の依頼。

例のごとくあらすじをFAXした。

あらすじ 

川田ミヨリ20歳。職業歌手。 

MIYORIは高校の時所属していた合唱部で歌う事の楽しさを経験した。 

その経験がMIYORIを歌の世界に導く切っ掛けとなった。 

しかし、MIYORIには性格上の問題があった。 

それは他人と同じ事をするのが大の苦手という事。 

だからMIYORIが歌の楽しさを知ると同時に独自の歌が作りたくなり、
ギター片手に作詞作曲を手がけ今では50曲のレパートリーを超えた。 

そのどれもが完成度が高く、プロのアレンジを加えると歌謡史に残るのでは
と専門家先生のお墨付きだった。 

でもMIYORIの意識は違った。 

まだデビューもしていないのに、夢の舞台は日本には無かった。 

そう、頭の中は世界を相手に歌っているMIYORIの姿だった。 

結局、日本の音楽関係者からは「世間知らずの天狗少女」と相手にされず
MIYORIの才能は埋もれてしまった。

だが夢を諦めないという強い意志のMIYORIはバイトでお金を貯め
単身渡米した。場所はニューヨーク。 

昼間はカフェで働き夜はバーのウェートレスをしながら、あらゆる
オーデションに応募するという下積み生活が3年ほど続いた。 

そんなある日の休憩中、店の裏道でMIYORIはアドリブでギターを
弾きながら今の心境をバラード調で歌っていた。 

そこにたまたま通りかかったのがプロデューサーのJ・キングだった。 

彼は大物歌手を何人も世に出した凄腕のプロデューサー。 

「ねえ君、もう一度今の歌やってみてよ」MIYORIは要求に応え歌った。 

じっと聞いていたJ・キングは歌い終わっても微動だにしない。 

MIYORIは「ごめんんなさい。私、休憩終わりだから行きます。
聞いてくれてありがとう」そう言って立ち去った。

J・キングは「この娘には一種特有な波長が感じられる。それは今まで
経験した事の無いものだ。世間に知らしめたい・・・」いつもの感がひらめいた。

彼はその衝撃を抑えきれなくなった。 

その事が切っ掛けでMIYORIは夢のアメリカデビューが叶った。 

そこからが怒濤の勢いでアメリカ、ヨーロッパと瞬く間にMIYORI
の歌は世界を駆けめぐった。 

MIYOという愛称で世界の人気者になっていった。 

日本でMIYORIを批難していた音楽関係者も手のひらを返したように
態度が豹変した。 

「こんな内容でどうでしょうか?」とハマはFAXした。 

先方から返信がきた「ありがとうございます。内容に申し分ありません
感謝してます。ただ、最後は人気絶頂の中、白血病でMIYORIを他界
させて下さい。最後は幻の歌手として終わりたいのです」 

小説は一冊だけ製本され依頼者ミヨリに届けられた。

今日もまたハマのもとに一通の手紙が届いた。


 僕は小林ヤスマサ。

来年定年退職を迎えるごく普通の公務員です。長年自分を抑えて組織に
従ってきた何処にでもいる公務員。

定年退職を迎えるに辺り、僕が若い頃夢見た職業に小説の世界だけでも
いいのでなりたいのです。 

その夢とは芸術家です。僕は長年規則の中で生きて来ました。
規則から外れることを許さない世界です。 

その反動もあり自由な発想の表現者として芸術家を選びました。
結末はどうでもかまいません。 
とにかく破天荒な自分を演じさせて下さい。 

小林ヤスマサ


 ハマは執筆に取りかかった。

 あらすじ 
K・ヤスマサ・年齢不詳・出身地不詳・職業アーティスト。

作風?本人曰く宇宙と風。 

かつて岡本太郎は「どんなものにも顔がある」と表現した。 

彼の場合は「どんなものにも宇宙がある」そんな調子のK・ヤスマサであった。

彼は世田谷の某大学を出たあと、叔父の薦めで世田谷区役所の勤務を
3年勤めたが、性分に合わないと退職し、毎日下北沢・渋谷・吉祥寺あたりで
路上に自分の作品を並べて販売し細々と生活をしていた。 

K・ヤスマサの作風は自分で云うとおり宇宙を意識しているらしいが、
なかなか理解に苦しむものだった。 

右と左が○と□のメガネを作って「宇宙を見るメガネ」と言ってかけてみたり、 
キューピー人形に鉄の鎖を巻き付け「悟り直前(宇宙即我)」
と題し販売したりと一般人の理解を超えた作風だった。

そんなK・ヤスマサにいつも優しく接していたのがイクヨだった。 
彼女には特異能力があり希望者の顔を見て、その人に今一番必要な言葉を
書で表現し販売する書家でもあった。

イクヨの感応能力は学生の間では評判だった。 

そんなイクヨはK・ヤスマサの一番の理解者でもあった。 

路上販売の生活が一年ほど続いた頃、何処から聞きつけてきたのか
大手広告代理店からK・ヤスマサに作品の依頼があった。 

来年竣工予定の駅前ビルの玄関ホール前に「宇宙をイメージした
オブジェを置きたい」との依頼。 

費用は材料費込みで300万円。
 
K・ヤスマサにとっては思いがけない仕事の依頼だった。

その作品を期にK・ヤスマサの名前は徐々に世間に浸透し数年後には
奇才K・ヤスマサと評され、世界的にも徐々にであるが有名な芸術家の
ひとりと評された。 

だが本人は「・・・?何かが違う。何か解らないけど何処かおかしい」
と眠れぬ夜が続いた。 

悩み続けたある日「そうだ!まだ宇宙が見えてない。僕の宇宙はこんな
ちっぽけな型には納まらない!」と悟る時が来た。 

「僕の宇宙は頭の中のその向こうに存在する世界。それが絶対の宇宙!」 

そう言い残しK・ヤスマサは全ての依頼を断ってイクヨと旅に出た。

 数年後、バルセロナの路上で東洋人のカップルが作品を展示販売していた。

女は色紙に筆字で○(調和を表現)を描き依頼者の顔を見てその人にあった
漢字を○の中に一文字書くというやり方で販売していた。 

西洋人には「東洋の神秘」と評され受けがよかった。

一方男性は何時間でも瞑想して目を開けたと同時にいっきに金属の造形に
取りかかった、その姿は西洋人には理解に苦しむものだったが、
作品は安定感のある斬新な出来が受け、こちらも違った意味で評判がよかった。

そんな二人を地元では「オリエンタルイリュージョン」と親しみを込めて評した。

ハマは依頼者にFAXした。

依頼者小林ヤスマサは作品に納得したが注文をだしてきた。 

「作品のあらすじは了承出来ますが、イクヨの神秘性も随所に入れて欲しい」

との依頼がありイクヨの才能も含め小説は出来上がり製本され小林ヤスマサに送られた。

小説請負人ハマの仕事が雑誌に紹介され、数年後には「小説請負人」という
商売が日本にとどまらず世界的にもメジャーになってきた。 

SF・恋愛・サスペンス・童話などなど多彩なジャンル専門の才能ある
小説請負人が、職業として普通に受けられるようになった。

小説請負人という職業のパイオニアはハマであった。
 
この形態のあり方を「ハマノベル」と称され世界の共通語とされた。

【Pino】10-6

6「小説請負人ハマⅠ」

私はハマ、職業は作家。貴方の為だけのオリジナル小説を書きます。  

恋愛・推理・サスペンス・SF・ジャンルは問いません。

貴方の希望する小説を貴方の為だけに執筆します。 

当然、貴方の大切な人に送る小説もOKです。 

人気小説は依頼者のパラレルな自分の自叙伝。 

別世界の自分の半生を描いた小説に人気があります。 

依頼者が来た場合、その依頼者の生い立ちと小説にしてみたい事柄、 
登場人物の名前を教えてもらい、ジャンルを聞いて依頼者にあった
書き方をします。内容が決まってない人は相談に応じます。 

最後にこの小説は誰の為に作成するのか? 

ここがポイントになり、それによってメッセージ性が変わってきます。

こんなすべり出しで客と1時間ほど打合せをしてから、制作に一週間ほど
時間を掛けて書き上げるというもので、費用は一律10万円。 

出張取材が必要な場合は別途料金で請負った。 

ハマの発想は今までこの業界には類がない。評判が評判を呼び予約も多くあった。 
 
今日も依頼者の訪問があった。


 「いらっしゃいませ」 

「小説を書いて下さい」来たのは初老の紳士だった。 

「はい、ではいくつか質問をさせて下さい。まず、この小説は誰の為に
作るものですか?」 

「妻の為です。昨年、体調不良で他界した妻の為です。58歳でした」 

「内容は随筆風・恋愛風・物語風等どのように描きたいですか?」 

「童話風で・・・妻を主人公としてケルトの妖精にしたてて欲しいです。 
生前、妻はケルト文化の神秘的な世界が好きだったものですから・・・」 

ハマは一瞬目を瞑り瞑想に入った。時間にして一瞬だったがハマには
数時間の感覚があった。ハマがいったん瞑想すると時間を超越できる
能力があった。

「はい、もう私の中にイメージが湧いてきました。あとはご主人さん
をどのような場面で登場させますか?」 

「僕は要りません。登場させないで下さい。妻には最後まで何一つ優しい
ことをしてあげられず苦労ばかり掛けてきたので、せめてこの小説は
僕抜きで違う伴侶と結ばせてやりたいのです。この小説は妻に捧げる
レクイエムのつもりです・・・」

ハマには視線をさげた依頼者の心根が辛く思えた。 

「そうですか解りました。今日の打合せの大筋を2~3日で通知します。 
それで良ければ執筆活動に入ります。それで宜しいでしょうか?」

「はい、お願いいたします」 

ハマは、概略の作成に取りかかった。
 

 ここはイギリスはウェールズにある小さな漁村。 

古来からのケルトの風習が多く残るこの村のある人間の家の屋根裏に 
ブラウニーという家事が好きな妖精がいた。 

よく人間の手伝いをしてくれ、報酬のミルクや蜂蜜を忘れたり、
仕事に文句をつけたりすると、ブラウニーは怒って家を
めちゃくちゃにする事もある。 

また、丁寧に扱わないと悪戯好きなボガードになりさがり、更に落ちると
醜くて物を壊したり投げつけたりするドビーになってしまう。

そのブラウニーがある時、人間の青年ニップに禁断の恋をしてしまう。 

妖精ブラウニーは事あるごとに山に入り、フェニックスの落とした羽を
集め帽子を作ったり、妖精ならではの手法による小物を作りニップに
手作りの小物をプレゼントした。 

ニップもその厚意に報いるためにブラウニー専用のドールハウスを作って
プレゼントをしたりと、二人の間はだんだんと深まりやがてふたりは
恋に落ちしまった。 

人間と妖精という大きな壁を抱えたまま時は過ぎていった。 

そんなある日、ケルトの神話伝説に人間の青年に恋をした妖精が
トネリコ山脈のどこかにある、ココというキノコと白龍の涙を煎じて
満月の夜に妖精が飲むと人間に変身出来るというのを耳にした。

ブラウニーはその伝説に掛けてみようと決断した。

ブラウニーの身内から「そんな伝説に信憑性がない。トネリコ山脈は
危険な山だから辞めた方がいい」 

「妖精は妖精同士で結ばれるべきだ・・・」との声も多くあった。 

そんなケルトの妖精ブラウニーの半生を描いた物語。
 
 二日後ハマは依頼者に概略を説明した。

電話の向こうで依頼者のむせび泣く声が聞こえた。 

それから6日間で小説は完成し、製本され依頼者に手渡された。 

「はい、この世でただひとつの物語です。お読み下さい」そう言って渡された。 

その4日後にお礼の手紙がハマの手元に届いた。 

心のこもった感謝の手紙だった。


 「いらっしゃいませ」依頼者の訪問であった。 

ハマは、ひととおり説明し相手の言葉を待った。

「あのう・・・」 

「はい?」

「こんなお願いの前例ありますか?」 

「はい!どんな事でしょうか?」 

「主人公は実は宇宙人の子で、大きくなって本当の自分に目覚め、 
地球を救うという使命を思い出す・・・という内容で描けませんか?」

「はい、可能ですよ。では登場人物の名前を数人教えて下さい。
二日前後にこちらから大筋を連絡します。それでよければ一週間で
描けると思います」 

「はい!よろしくお願いします」

二日して依頼者に概略をFAXした。


ここは渋谷駅、井の頭線の通路にあるコインロッカー。 

そのロッカーの中の一つから微かな声がした。 

駅員はロッカーの鍵を開け中を見て唖然とした。そこには産着に包まれ
指をくわえた生後間もない女の赤ん坊がいた。 

駅員の通報によりその赤ん坊は警察が保護し、渋谷区内の孤児院に引き取られた。

その子は生後間もないせいもあって里親が早く決まり、同じ渋谷区内の
夫婦に引き取られた。 

月子と命名され、幼児期青年期を愛情たっぷりに育てられた。

月子が二十歳になったある満月の夜、たまたま近くの公園をジョギング
していた月子は突然激しい目眩がしその場に倒れ込んでしまった。

気が付いてみると何やら身体が軽い。 

いや、重力が全く感じられなかった。 

周囲に視線を向けてびっくりした。 

そこは乳白色のブヨブヨとした狭いけど狭さを感じさせない心地良い空間。 

次の瞬間隣から声ではない声がした。 

「ニーナ・ニーナ」

誰かが月子に話しかけてくるのだった。 

「私はニーナでありません。月子・・・」

瞬間、月子にその意識体が重なってきた。 

「月子、あなたはプレアデスから来た宇宙巫女です。二十歳まで地球人に
育てられました。 
今、地球は修羅場と化し我々宇宙の存在も大変心配してます。
あなたにはこの地球を変える一役を生前から約束されていた」 

「??私、そんなこと知りません。地球に返して下さい。それにあなた達、 
宇宙人がやったらどうですか?」 

「我々には直接手を下してはいけないというルールがあって、 
そこで20年前、あなたを地球人として育て上げるために生後一ヶ月の
ニーナを失礼ですがコインロッカーに置いてきたんです。 

そして縁あって月子さんの今のご両親が育ててくれたんです。 
深層意識では御両親とも承諾済みですけどね・・・そしてあなたも・・・」

「チョット待ってよ。 じゃあ、私は両親と血が繋がってないと?・・・」 

「そうです」そのまま月子は気を失ってしまった。 

その時月子はその存在から黄色い石をもらった。その石は宇宙の存在と
会話が出来る能力や、他にも様々な力を秘めていた。 

やがて使命に目覚めた月子は地球を救うため友人を集め、地球人の
意識改革を始めることになったが、困難の連続。

だがそんな日々の中にも心温まる出会いがあり、独特のヒューマンドラマに
仕上がった。

依頼者はFAXを読み快諾した。 

後日、依頼者に一冊の本が届けられた。

ある時、ハマの友人マキコがやってきた。 

「ハマさん久しぶり。最近はどう?何か面白い事あった?」 

「そう簡単に面白い事なんて無いよ・・・」 

マキコが「私も一冊頼もうかな?」 

「あんたの何を書くのよ?」 

「私、最近考えてる事があるの。近い将来、家も家族も全部棄てて
旅に出ようかなって思ってるのね。 
そして長年思ってたんだけど世界中を回って絵を描きたいの。 
世界中の町並みを」 

ハマは驚いたが冷静に語りかけた「それ小説で実現しない?マキコが
これから実際にやるんでなくバーチャルでやってみたらどう?」

「バーチャル?なにそれ?」 

「マキコが実際に体験しないで小説の中だけで経験をするのよ。 
つまり仮想現実を小説にしてしまうの。 

小説の中で色んな体験をしながら旅を重ねるのよ。費用はかけず旅をし
絵も学ぶの。但し仮想でね。 

だからやりたいことをどんどんやるの。男にもなれるし神様にだってなれる。
神として人類に警告を発するなんてのはどう?

創造は自由で制限が無いから何だって出来る。想いのまま・・・どう?」

「ハマ、それ面白そう。自分の夢を追えない環境の人や、夢を一度挫折した
人が再トライして夢を達成するの。たとえ小説の中でも形にしたら何かが
変わるかもしれないよね・・・なんかワクワクする・・・・」 

「マキコ、私も夢が広がったわ。ありがとう。これ商売になるかもしれないね?
なんか喜ばれそう、ワクワクしちゃう。さっそくマキコの夢叶えちゃいましょう。 
当然無料でね・・・発想のお礼」

「OK」 

この企画はみるみる間に広がった。 特に中高年層や主婦に好評だった。

【Pino】10-5

5「覚醒の旅」

 神(ジン)エイジ55歳男性、妻子有り。職業タクシードライバー。  
彼は何処にでもいるごく普通の中年男性。 
 
寒さの厳しい朝。客待ちの為に地下鉄駅の近場で停車し客を待っていた。 

そこにダンプカーが後ろから追突するという事故が起きた。
運転手の居眠りが原因だった。 

当然ダンプ運転手による過失。 

エイジは病院へ救急搬送され精密検査の結果、腰の強打で全治2週間の
診断が下された。事故の大きさからすると軽傷で済んだ。

が、事の始まりはここからだった。


 エイジは事故以来、尾てい骨が熱く感じられ、背骨に沿って蟻が這うような、
あるいは電気が背骨に沿って上がるような何とも表現しようもないチクチク感を感じた。 

時には背中が火で炙られたかのような感じや、背中にバケツの水を
突然掛けられたような冷たい感じも味わった。


エイジは医者にいくら訴えても「異常は見あたりません」と毎回同じ答えだった。 

異常はそれだけでは無かった。胸の辺りが急に熱くなったり、頭のてっぺんが
圧迫感を感じ若干盛り上がったかのような感もあった。 

それは肉体の感覚であり医師には相談してないが他にも異変はあった。

急に目の前の景色がが光り輝いたり、相手の考えてることや行動が
事前に解ることに気が付いていた。 

自分が事故を契機に完全に気が触れたと思い、暗く重い日が続いた
かと思ったら急に全てが至福に満たされ光の世界に入ったかのように
感じられ、自分と全てが一体化されたような感じさえあった。

ハッキリいって、自分で自分をコントロール出来なくなっていた。

エイジは「何だ、この感覚は?どうなったんだ俺の頭は?
誰に相談すればいい?精神科にも一度受診したが、事故の後遺症と
診断され精神安定剤を処方された・・・俺はやはり精神疾患なのか・・・?」

エイジは心底困っていた。 

事故からふた月が過ぎ身体は完全に回復し、仕事に復帰したが、
お客さんが行き先を告げる前に行き先が解ってしまったり、 
客同士の会話も、言葉の嘘や虚栄も多くエイジはだんだん辛く思えてきた。 

何せ話す言葉と心の声が全く違ったり、本音と建て前の違いが解ってしまい、
自分とは関係ないと言聞かせてはいても仕事がどんどん辛くなってきた。

そんなある日雑誌を見に書店に入った。

何かに誘導されるかのように宗教思想のコーナーに立っていた。 

「何でこんなコーナーに?・・・」 

何気なく取り上げた本が「クンダリーニ覚醒のプロセス」という題名の本。 

ページをめくっていて突然、目が釘付けとなった。 

この本に書かれている体験と自分が事故後経験した不可思議な体験が
本の内容と酷似していたのであった。 

 
 さっそく購入し一日で読破した「そうか、そう言うことだったのか」 
何となく原因が解った気がした。

にしてもなんで僕がこんな目に・・・?

それから来る日も来る日もクンダリーニのことが頭を過ぎる・・・

・・・・なんで?

・・・・・・・・どうして?

結論として本に書いてあるように、このままクンダリーニを頭頂から
抜けさせ悟りを目指すことに一大決心をした。

妻のムラサキにも今までの事情とこれからの事を話して聞かせた。 

最後に「今後一週間は食事は要らないし部屋にひとりにして欲しい。
外と完全に遮断したい。万いちこの方法が失敗したときは人間破壊が
起きる可能性もある・・・その時は・・・」 

そうムラサキに説明し許可を求めた。

結婚して30年間こんなに真剣なエイジをムラサキは見たことはなかった。 

ムラサキもエイジの一大決心に従う決意をした。 

その後エイジは会社を退職し部屋に籠もることになった。 
 
部屋は小電球の明かりだけ、最低限の明るさにし、
その薄暗い部屋でエイジはひとり行に入った。
 
手元にあるのはその本だけだった。最初のうちはもっぱら呼吸法に時間を費やし、
だんだん慣れてくると同時に胸の辺りにぼんやりとチャクラの輝く光が見えた。 

数日経った頃には眉間に意識を集中するとやはり色は違うが
ぼんやりとしたチャクラの光が心地よく感じた。 

と同時に自分の奥深いところにある自分と、重なる方法も憶えた。 
本とは若干違うところもあるが、それは個性の違いだと云うことも解った。

部屋に籠もって5日後の朝だった。

尾てい骨のチャクラから登ってきたエネルギーは頭頂を貫き
天に向かって伸びた。 

と同時にエイジの肉体はその衝撃で気絶していた。

意識だけは至福に満たされハッキリとしていた。 

次の瞬間、意識は地球の外に飛び宇宙と一体になり、そして自分の
この地球が生まれて去るまでのビジョンと自分の地球上での今までの
輪廻転生までもが全て思い出された。

「宇宙即我」どこかで聞いた事がある。

この感覚だったのか・・・ 

今のエイジにピッタリの言葉であった。

しばらく覚醒と戯れ、その後エイジは部屋を出た。 

妻のムラサキは変身したエイジを黙って迎え入れた。 

「お疲れ様でした」ムラサキが云うとエイジは涙顔で黙ってうなずいた。
 
二人の会話はそれだけで全てを物語っていた。

覚醒を果たしたエイジには恐れという感情は消えていた。

恐れは自分があるから生ずる心の乱れ。

今はあるがままにある。言葉で説明で表現できない世界観。

それからのエイジは数週間というもの何やら別世界を堪能してるかの
ように見え、   端から見ると宙に浮いたようなエイジがそこにあった。
 
当の自分が忘れていた事や、この世での自分や家族の経緯など
一つ一つ確かめていた。 

ひととおり確認を終えたエイジは脱皮した蝉のように自由の身となった。

覚醒のプロセスを終了した。

覚者となったエイジの中には葛藤がもはや存在しない。

葛藤が無いという事は考えも行動も自由であり何でも出来る、

つまり制限や制約のない自分がそこにあった。
 
自分を縛るものが無いという意識状態になっていた。 

エイジはムラサキの提案でとりあえず本を書こうということになり
執筆活動を始めた。

書きたい事は何も無かったが、パソコンの前に座りキーボード上に手を
乗せると文章が浮かんできた。 

その文章をキーボードを叩くという方法で本を執筆した。

一冊目は4日間で200ページを打ち込み、
ムラサキが編集を手伝うという方法で出来上がった。

その内容は大まかに、これからの人間と地球の在り方というものだった。

実際に近未来の地球を垣間見てきた者だからこそ描ける内容になっていて、
おもしろおかしく書き上げていた。 

他にも意識と制限の問題に触れた内容も多くあった。

書店から出版されるまで二年の歳月が流れ、その後エイジの元に
読者からの問い合わせや相談が増え、講演会も不定期ではあるが開催された。

その講演会は本の執筆と同様、題材は直前になって決まるというものだった。

「今日は僕の講演に来て頂きありがとうございます」 

ここから半トランス状態が始まり言葉が勝手に口を付いて出て来るのだった。

今日も要請で講演会がありエイジは出向いた。

「今日は近未来の事についてお話しさせて下さい。
 
近未来の地球は一定の期間、具体的に云うと今から20数年後まで続き、
その後、二つに分かれる事になります。 

一方は今の世界の在り方を良しとする人たちの地球であり、もう一方は
人間本来のありかた、つまり霊的な意味合いの生き方をする人たちの地球。 

この両方の地球が出来上がります。 

残念ながら親兄弟、配偶者でさえも一緒の世界に暮すとは限りません。 

どういう事かというと、各々が自分の居心地の良い、自分を表現しやすい
世界を選びそこに住む事になるんです。

物質欲の強い思考の人はそのような人の多い世界を選びます。
 
自分で自分をつくろったり、自分に嘘はつけないから普段の思いが
そのまま表面に出ます。

そしてそのような世界を選ぶんです。好きだから。
 
これはどちらの世界も同じで好きな方を選択します。自然なかたちで・・・
嘘は絶対に通用しません。

それが本来の魂の法則だからです。

宗教用語は使いたくないのですが、

今までの地球では地獄で仏という言葉があります。

どんなに辛いと思っても必ず助けてくれる人に巡り会えるという意味ですが、 
今後の世界では地獄的意識は地獄へ移行します。

この世のように同じステージに立つことはできないんです。気がつくまで。 

そして近い将来はこの世界も消滅します。つまり別れて存在します。 


 残る一方はバージョンアップした地球になります。

キリスト教では「神が審判を下す」とありますが神は審判を下しません。
 
全ては自分で自分を裁く事になります。

もう一度言います。 

嘘や偽りが絶対に通用しない世界が今後の世界です。

葛藤や障害の無い世界が待っています。 

それが近未来の地球意識の在り方。 

もう一度言います。 

今後、地球は分離して二つの道を歩みます。 

その後、片方はやがて消滅し、残った地球が今後の地球の
在り方で礎となります。

その時、今のこの文明を振り返りこう思うでしょう。

「猿が文明を創っていた」と。 

それほど今後に残る文明は霊的に目覚めた文明となるでしょう。 

双方どちらを選ぶのも自由。自分次第。


違う講演会では「2012年12月21日問題の件で説明して下さい」
来場者からの質問だった。

「その件に関して 私の見解を述べます。巷で言うところの
世の滅亡はありません。

但し、その日を境に目に見える早さで従来の世界の在り方の終焉を迎え、
新しい在り方へと変わっていくでしょう。 

その為に皆さんはこの地球へ転生して来たのです。

これからの在り方について色々なことが言われてますが、 
私の口からは宇宙時代の到来とだけ言わせてもらいます。
 
どの世界を選ぶのもあなた次第。 

今までの集団意識的常識は通用しませんから、 
内なる自分を信用して新しい時代を迎えて下さい」

【Pino】10-4

4「Pino」

 ここは北海道、日高山脈の中腹。 

この世に生を受けて11歳までは麓の町で育った女の娘、
名前はピノ。彼女の数奇な生き方をちょっと覗いてみましょう。  

彼女が11歳の誕生日目前、人生を左右する悲惨な事件は起きた。 

ピノを学校まで迎えに父親の運転で弟と母親を乗せて向かった、
赤信号で停車中の車に前方からダンプカーが信号を無視して追突し、
3人とも一瞬のうちにこの世を去ったのだった。 

ピノは1人残され叔母の家に預けられたが極度のいじめに遭い、
何時も1人で山遊びをするのが唯一の安らぎだった。

山でリスや狐を観察するのがピノの日課となっていた。

そんなある日、裏山でピノが遊んでいると叔母の息子のヒデタカが
薪をピノめがけ投げつけた。 

そういう行為は日常の事でピノはもう平気だったが、 
たまたまその時は側でリスがドングリを啄んでいて
ヒデタカはそのリスめがけて投げたのだった。 

ピノはその事に気が付き、とっさに薪とリスの間に分け入った。 

薪はピノの頭を直撃しピノは意識を失いその場に倒れ込んでしまった。

その様子を見たヒデタカはピノをそのまま放置し逃げ帰ってしまった。 
 
空には月が昇り山はひんやりと冷え込んでいた、倒れたままのピノは意識を
取り戻し周りを見渡した瞬間ビックリした。 

そこには狐や野ウサギ、リスやテンといった動物が、ピノの様態を
案じているかの様にピノを中心に輪を作っていた。 

そして一匹のリスが側に寄って来た。 

ピノの視線と目があった瞬間、ピノに何かを語りかける様な仕草をした。 

「君、大丈夫なの?」ピノにはリスの言葉が理解が出来た。 

ピノは「頭が少し痛い・・・」返答した。

リスは「さっきはどうもありがとう、私はあなたに助けられたリスです。
本当に感謝してます」 

「・・・あっ・・・はい・・・」 

そう答えた瞬間ピノはまた気が遠くなった。

ピノはそのまま数日間、気を失っていた。 

目が覚めたのは東の空から太陽が昇って間もない頃だった。 

身体は毛皮に包まれる様な感触があった。
 
ピノは倒れてから3日経ってから気が付いたのだった。 

自分に何が起きたのか把握出来ていなかった。 

微かに声が聞こえた。

「気が付いたの?良かった・・・」

「もう大丈夫だ!」 

「良かった!良かった!」

ピノの周りがざわついていた。 

あの時のリスが「もう大丈夫よ、元気になって良かった!」ピノは突然飛び起きた

「あっ?」

ピノを包んでいたのは熊だった。 

熊は「驚かないで!私はあなたの味方・・・」

その他にも沢山の動物達がピノの周りに群がっていた。 

「人間さん、まずは水をお飲み」鹿とリスが何かを差し出した。 

それはフキの葉を数枚重ねた器に水が入っていた。
 
ピノはいっきに飲み干した。

さっきまで不安そうな顔をしていた動物たちは一瞬で安堵の顔になった。

次に、リスや狐などの小動物が次々と木の芽や山菜を運んで来て
ピノの周りに置いていった。 

「ありがとう」ピノはお礼を言った。

「ところで・・・みんな、どうしたの?」ピノが聞いた。 

キツネが「私達はこの山に住む仲間。君がいつもあの人間にいじめられて
いるのをずーっと見ていたんだ。今回リスさんがあの人間にやられそうに
なったのを君に助けてもらったから・・・この森の仲間がお礼したくて
集まったんだ・・・」

数十匹の動物の姿がそこにあった。 

そこには熊や狸、狐などの肉食の動物も、鹿などの草食系の動物も
みんな一緒にいた。 

「私、ピノといいます。私を救ってくれて本当にありがとう・・・それと、
ここは私の家からどのくらい離れているの?」 

熊が言った「ここは人が全く来ない山の中。私の背中に乗せて一日ほど
山奥に入った所。しばらくここに居なよ」

「ありがとうございます。でも私、食べ物とか取ってこれないから・・」 

「大丈夫だよ。君達が食べてるような動物の肉は無い・・・
けど魚と野菜と木の実は沢山あるからここに居なよ」狸が言った。

ピノはこの優しい動物達としばらく暮す事にした。
 
山の生活は夜明けと同時に始まり夜更け後眠りにつく。

食事は一日一食で完全菜食。 

水は身体が欲するままに飲む。 

自然の中で生活するというのは自然に従う事が基本となる。

雨が降れば何日も洞穴で過ごす事もある。

ピノにとって一番の楽しみは渡り鳥や地方から来た鳥達との会話だった。 

その地方や土地の変わった動物や自然の話を聞くのが楽しみだった。

中でもお気に入りはアイヌ民族と動物達の共存と交流の話や 
森の妖精達と動物との交流の話し。
 
昔はアイヌ民族と動物はお互いのテルトリーが決まっていて
境界線を越える事は希だった。 

それが日本人が南から入ってきて境界の収拾がつかなくなった話や 
動物は普通に妖精達と会話をし、今も交流が当たり前のように
なされているなど、おとぎ話しのような話を聞かされた。 

ピノが基本的に思ったことは、 

妖精も動物も自然もすべての動植物は調和を保つことを原則としており、
調和が乱れることや乱されることを極端に嫌いそして恐れた。

肉食動物と草食動物の間には制約があり、食用の為の捕食は双方合意の
もとでなされていた。 

無意味な殺生は存在しなかった。 

捕食される側も合意がなされていた。

ピノはキツネにその事で質問したことがあった。

「じゃあ、何で捕食される側は逃げるの?」 

キツネは答えた「逃げるのは生命体としての本能なんだ。
解ってはいても死は怖いのさ・・・」 

「ふ~ん」 

そんな暮らしも5年が過ぎようとした頃、ピノの目に登山者の人間二人が
目に映った。 

久々の人間であった。 

自然界には実在しない色遣いの服装とリュックを久々に見た。
 
ピノに何ともいえない懐かしさが頭に蘇ってきた。 

「ねえリスさん、あれは何?」 

リスは答えた「あれは敵よ。私達の仲間を見たら殺そうとするの。
絶対、音を立てたり見つかってはいけないのよ」 

リスは説明するも、ピノは懐かしさを拭えなかった。 

ピノはリスの制止を聞かず人間のあとを追った。

登山者の二人は倒木の上で一息ついていた。

ピノが様子を伺っていたら足下の木を踏んでしまい音をたててしまった。

二人は熊か・・・と警戒しながら音の方を振り返った。 

そこには丸裸で髪の長い少女らしき姿があった。

二人は一瞬目を疑った。 

「誰だ?」ひとりが声を掛けた。 

ピノは即、走り去っていった。

町に下山した二人は警察に通報し、見たままを説明した。

その二日後には20名ほどの救助隊が結成され山に捜索に入ってきた。

捜索が入って二日目に大きいなブナの木の下にあった洞穴から
10歳前後の少女のものと見られる白骨体が発見された。 

死因は頭部損傷の疑いがあり司法解剖に回された。

死因は頭蓋骨陥没によるものと判明され被害者のDNA鑑定の結果、
行方不明のピノと断定された。 

殺人事件と見なされ、関係者の事情聴取によりヒデタカの傷害による
殺人と死体遺棄が伝えられた。

後日、関係者に発見現場の状況報告と写真が送付された。 

ピノの白骨死体の周りにはクルミやドングリなど、さまざまな木の実と
動物の毛や鳥の羽毛が散乱した写真だった。

【Pino】10-3

3「セールス」  

新井田マサオ45歳、職業住宅リフォームの営業。勤続20年のベテラン。

人はマサオを営業になる為に生まれた人間と評した。マサオは25歳で
車の営業を始めた。 

高度成長時代のおかげもあってカタログひとつで200万円の車を
月55台はコンスタントに販売してきた。 

ある時、同僚のクニオがマサオに「新井田君はどうしてそんなに売りまくるわけ? 
俺さあ、部長から今月30台売らないと来月は解雇と言われたんだ・・・」

クニオはセールスのコツを始めてマサオに尋ねてきた。 

「コツなんて無いよ。しいて言えば話し好きの客には聞き役を、
寡黙な客には多少雄弁に接する。相手の空気を読み、出来るだけ時間を
掛けずにたたみ込むようにしてるだけだよ。特別なテクニックって無いさ。

営業はクニオ君のほうが上手だと思ってるよ。車の事も僕なんかよりも
よく知ってるし・・・」

クニオはますます暗くなった。 

マサオは続けた「クニオ君はもしかして、やたら車の説明を客にしてない?」 

「・・・・確かにそう言われたら思い当たるけど・・・それが?」 

「いや、客は車の事を既に調べ上げた上でここに来てると思うんだ。
いや僕達以上に詳しいかも知れない。だからそれ以外の何かがあるのかもね。 
ちなみに僕はいつも車の説明は殆どしてないよ。聞きたい事あったら
パンフを読むかネットで調べてって云ってるけどね」

「うそっ!車屋なのに車の説明無しなの?」 

マサオは付け加えた「営業っていうのは何の商品を売るかでなく、
いかに自分を売るかが営業の仕事だと思うんだけど」

その後クニオは成績を伸ばし名実ともにトップセールスとなった。

マサオは車の販売28ヶ月連続日本一の実績を納め将来を有望視されたが
29歳の誕生を境に会社を辞職した。


 次にマサオが営業職として選んだのは住宅リフォームの訪問販売。
この業界は典型的な強引な売り込みの悪徳商法をする業者も少なからずあった。 

マサオが入社したのは町の塗装屋さん「HMペイント」という一般住宅専門の
塗装会社。家を遮熱し保護するという特殊ペイントの商品だった。
 
販売方法は訪問販売。売り方は自由。金額は大きさ形によって規定価格が
決定され、それ以上は売っただけ営業の利益になるというものだった。

マサオは訪問販売は初めての経験であったが、持ち前の笑顔と人なつっこさが
効をそうしここでもトップの成績を収めていた。 

そんなある日のこと、新人の水戸に営業のノウハウを教えてほしいと会社から云われた。
 
「ぼ・ぼく・・・水戸ダイスケと申します。25歳です。宜しくお願いします」 

「新井田です。皆はマサオと呼びます。宜しく」

二人は住宅地に到着した「今日は僕の後を黙ってついてきて雰囲気を読んでね。 
僕は教えるの苦手だから見ていて下さい。とりあえずそれだけ・・・」

「はい!」 

それから二人は住宅地に入り営業を開始した。 

「今日はここから始めます」二人は住宅地を歩き回り午後3時には契約を1件取った。 

「はい、これで今日は終了です」 

「??えっ!まだ3時ですし20件ぐらいしか訪問してませんけど・・・」 

「うん、僕は件数や時間は関係ないの。集中が途切れたらそこで終わりにしてる。
人それぞれのやり方があるからね。ところで何かひとつでも興味ある事あった?」 

「訪問販売は軒並み訪問すると思ってたけど新井田さんは違う様な気がしました」
 
「それは、塗装パターンの家を探してるんだ」
 
「パターン??・・・ですか?」 

「うん、例えば塗装は壁を保護するのと、外観を綺麗にするというのが
大きなポイントだよね。つまり外壁の綺麗な家には訪問しない。 

当然綺麗な家でも話さないと解らないけど僕の場合はとりあえず無視します。
低い可能性に掛ける時間がもったいないから・・・ 

次に家の周りが整理されていない住宅は無視します。その気はあっても予算が
無いとか子供が小さくて家の周りに気が廻らないお宅が多いから。 
家に気を配る人は、生活に余裕のある人と老夫婦の世帯が比較的多いよ。 

それと会話をしていて聞く側が頭を傾げて聞いていたら、話を聞いていない
証拠だよ。他にも沢山の判断基準がある。借家の場合は庭を手入れしていない家が
多い。そういう風に絞って訪問するから僕の場合は量より質を取るのさ。 

最初は僕も軒並み訪問したよ。でもポイントが解ったら、そのポイントを
つく仕事をした方が簡単で効果的な事が解ったんだ。 
ダイスケ君もこの仕事をやるなら自分にあった方法を考えるといいよ」

ダイスケはマサオの言葉を一字一句噛みしめた。

マサオはそれからしばらくは質問攻めにあった。

ダイスケは入社3ヶ月でマサオに次ぐ成績になり部下も与えられ教育する立場となった。

やがてマサオは訪問販売の業界を去るときがきた。 

最終日の朝礼でマサオはこんな話をした。 

「今日で訪問販売を卒業します。最後にこの商売で培ったポイントをひとつだけ伝授します。 

それは、売ろうとしない事。客と息を合わせる事が最大のポイントです。 

これは僕の見解ですけどね。 

今日までお世話になりました。
 
この会社と皆さんには感謝します。

ありがとうございます」

マサオは入社以来、退社までトップの成績だった。

【Pino】10-2

2「ガイドの仕事」

私はガイドのマーヤ。年齢、性別すべて不詳。というより私の世界では
必要無いからありません。
 
当然、名前もありません。人の世では便宜上マーヤといいます。

仕事はガイド。

一般的には守護霊と言われてますが宗教的制約が多いので
守護霊と言わずガイドと言います。 

仕事はこの世に生を受けた人間のガイド役。
 
ガイドの仕事はもっぱら人間の黒子役です。そう表現した方が解りやすいかも。

今、私がガイドを務めている魂は26歳の女性。名前はヒロコ。
 
群馬県前橋市在住の英会話と旅、バレーボールとお酒が好きな女の子。
ちょっと覗いてみましょうね・・・ 


 いつもと変わらない一日の始まりだった。

「母さん、行って来ま~す」 

「気を付けてね」 

ヒロコは黒の原付スクーターのズーマに乗って家を出た。

そのスクーターはちょっとエンジン改良を施したので時速80キロほど出た。

ガイドのマーヤはいつも微笑ましく上から観ていた。 

でも、今日は違った。

マーヤは真剣にヒロコの意識に念を送っていた。

いつも通勤で利用しているトンネルで崩壊のおそれがあり・・・
マーヤは進路を変えるように、ヒロコの意識に働きかけていた。 

『ヒロコ、その道は今日は通ってはダメ。危険!迂回しましょう。
あなたの人生にバイク事故は組み込まれてないの!ケガも無いの』 

マーヤはヒロコに念を送り続けた。 

当のヒロコは鼻歌交じりで運転、全然気が付いていない。 

あと1㎞程でトンネル、時間にして3分程だった。 

マーヤは方法を変えた。 

進路方向に狸を誘導し、進路を妨害し時間を稼ぐ事にした。 

「あらっ?犬かしら?いや違う?・・・た・た・狸??
何でこんな所に?危ないよ、どいてちょうだい!」 

狸は道路の真ん中をヨロヨロと進路を妨害しようとした。

「危ない!山へ帰りなさい・・・狸さん」

狸は愁いの満ちた目でろこを見つめた。 

「この狸、怪我をしてるのかしら?・・・」バイクを止めた。

ガイドのマーヤは方法を変更し、心優しいヒロコの性格を利用した。 

「ねえ狸さん、どうしたのよ?車にはねられた?大丈夫?」
バイクを降りて近寄った。 

その刹那、トンネルの方角で瓦礫が崩れる大きな音がした。

狸は急に飛び起き姿を消した。 

頭の整理がつかなかった。ヒロコは事の次第を母親に携帯で報告し安心させた。 

時が過ぎ事件の事を忘れかけた頃、店にある男性がやって来た。

ヒロコは靴屋の店員をしていた。 

「いらっしゃいませ」 

「すみません、黒いスニーカーありますか?」 

「はい、こちらです」普通の会話であった。 

男性はスニーカーを購入し帰って行った。 

『ヒロコ、その男性は運命の人なのよ。しっかり憶えておいてね』マーヤは呟いた。 

出会いから二日後の夜、ヒロコは同僚3人と前橋駅前で酒を飲む事になっていた。 

同僚のネネが「今夜は何処に行こうか?」 

別世界からはガイドのマーヤが念を送った。

『味処番屋・味処番屋』

ヒロコは「最近オープンした味処番屋はどう?」

ネネが「賛成!そこにしよう」 

3人は味処番屋に行った。 

店員が「いらっしゃいませ。3名様ですか?どうぞお好きな所にお座り下さい。
メニューです。どうぞ」

ヒロコは店員の顔を見ずにそのままメニューに目をやった。 

メニューから視線をずらすとその先に真新しい黒のスニーカーがあった。

あっ!このスニーカー?視線を店員の顔に向けた。 

あっ、この前の・・・お客さんだ・・・ 

店員も「たしか・・・そこの靴屋さんの店員さん・・・」

「履き心地はいかがですか?」ヒロコが声を掛けた。

「はい、足が軽く感じ仕事に最高っす・・」

「そうですか、良かった。またお越し下さい」ヒロコは言った。  

挨拶もそこそこに3人は乾杯をしたわいない話で時が過ぎた。 

そのままカラオケ店へと向かい、3人が別れたのは10時頃だった。 

ヒロコは友人のアクビが経営しているスタンドバーに一人で寄ることにした。

「アクビ元気してた?」 

「ロコちゃんいらっしゃい。聞いたわよ、トンネルの事故と狸の話・・」 

「アクビも知ってるの?今思うと不思議な話よね・・・びっくりだわよ」 

二人が話し始めて間もなく一人の男が入ってきた。 

「あ~~らっ。上野さんいらっしゃい。お久しぶり」 

ヒロコは目を疑った。 

そこに立っていたのは味処番屋の青年だった。

二人は同時に「あっ!」

アクビは言った「何?・・・どうして?・・・二人は知り合いなの?」 

その様子を観ていたマーヤは『予定通り。お幸せに!』と頷いていた。

やがて二人は結ばれ、子供を授かり5人の孫にも恵まれた平和な人生を過した。 

月日は流れご主人は他界し、ヒロコも80歳を過ぎ旅立ちの準備を無意識に始めていた。

ガイドのマーヤの世界からすると一瞬の早さであった。 

他界したヒロコを一番先に出迎えたのはガイドのマーヤだった。 

「ヒロコお疲れ様でした。今回の生でのガイド役のマーヤ、お久しぶり」

ヒロコにとってマーヤはかけがえのない存在だった。



 もうひとつ男性の例を見てみよう。

ここは渋谷。広域暴力団の水信会に属するトマリ連合の若頭カズトミ55歳。
通称念仏のカズ。 

カズトミの兄やんが念仏を唱えたら、敵味方関係なくその場から逃げろとまで
恐れられた存在だった。 

カズトミのガイドはダイスケという存在。 

今日もカズトミは、よその組と縄張り争いの抗争をしていた。

カズトミは敵対する組の若い者に、短刀で腹をひと突きされ
意識不明の重体に陥っていた。 

病院のベッドに横たわったカズトミはだんだんと意識が遠のき、

気が付いたら意識は天井近くにあり、下には血だらけの自分がそこにあった。 

「何だ・・・?これ・・・どうなってんだ?」 

『君の肉体は死のうとしてる』

カズトミは驚いてそちら側に意識を向けた。 

「何だ、てめえは?」

目に入ったのは懐かしい感じがするけど知らない存在だった。 

『私はダイスケ。あなたがこの世に来てからずーっと見守ってきた。 
あなたとは昔からの知り合い。今の抗争で刺され、肉体は死のうとしてる。 
私はあなたを復活させる事が出来る。但し条件付きで』 

「何じゃい・・・それは?俺をなめんじゃねえぜ、ったく・・」 

『そうですか。じゃあ好きにしていいです。強制はしません』 

「ちなみにどういう条件だ?」 

『まず組を解散し、あなたは通訳者として余生を生きる』

「通訳?バカいえ、俺は自慢じゃねえが日本語以外話せねえよ」 

『違います。あなたは今私と会話してるように、ガイドの言葉を伝えればいいの』 

「俺、霊能者じゃねえ・・・」 

『いえ、あなたは小学校まで能力はあった。でも中学に入った頃、その能力を批難され、
それが切っ掛けで、能力を自ら封印した。
たった一言の事で。それからは全く聞こうとしないから自然と聞こえなくなった』

カズトミは40年程前の事を思い出した。
 
そして自分が何故この世に生を受けたのか思い出した。

「あっ、そうだった!俺は通訳者として生まれたんだった」

次の瞬間、病室のカズトミの心臓が鼓動した。
 
看護師が走り、医者は急いで処置をした。

その後、刑を終えて出所後カズトミは組を解散し、しばらく
四国の田舎に籠もり、60歳を迎えた日。全く自分と縁のない
仙台市で路上に簡単なイスとテーブルを出して座った。 

テーブルの張り紙には、あなたのガイドの通訳いたします。
と書いてあった。

カズトミはすぐに有名になったが、偉ぶる事も高ぶる事もせず、 
残りの人生を通訳者として質素に生きた。

生涯TVやマスコミの出演を拒否し、不世出の通訳者として一生を貫いた。
 
通訳で得たお金は孤児院に寄付した。

カズトミは年明け一月の寒い朝に誰にも看取られずひとり亡くなった。
 
所持していた物はポケットの中に3,000円の現金と母親の写真だけだった。

【Pino】10-1

1「石と手紙」

 東京都三鷹市井の頭の閑静な住宅地。高校生の神居 誠(カムイ・マコト)
18才(通称ドリル)は日課となっていた散歩で井の頭公園に来ていた。  

平日だというのに多くのカップルが散歩したりボートに乗ったりで
楽しそうにしていた。 

ここ井頭公園は学生の街。吉祥寺駅から歩いてすぐの公園で昔から人気の
デートスポットでもある。

ドリルは公園内の辨財天堂でお参りするのが日課であり散歩コースになっていた。

今日も夕方の散歩をし辨財天堂に手を合わせた。 

庚申塔の方に目を向けた時、塔の下に何やら紫色をした卵形の石をみつけ、
それが光った様な感じがしたので近寄った。 

確かにその石は他の石と違い、どことなく自ら光を発してる様に感じられ、
ドリルは恐る恐る左手でそっと拾った。
 
一瞬、左手に電気が走ったようにチクチクっと感じられた。 

とりあえず帰ってからゆっくり確かめようと、その石を何気なくリュックに
無造作に入れ散歩を続けた。

一時間程の散歩を終え帰宅したドリルは手を洗い、拾った石も一緒に洗おうと
リュックから取り出し洗った。 

そして自分の部屋に戻り窓サッシの下に石を置き乾かした。 

ドリルはお気に入りのフォークギターを取り出し、今練習中のレッドツェペリン
の名曲、天国への階段を弾き始めた。 

弾き始めて5分ほど経った頃、窓ガラスが小さく振動し始め音がした。 

ドリルは何が起きたのか解らず、ただ呆然とギターを抱えたまま見入っていた。 

石は振動と同調するかの様に淡く光り、その光は微妙な強弱もあった。

不思議な事もあるものと石を手にしたその時だった・・・

後ろから「こんにちは・・・こんにちは・・・」と繰り返し声が聞こえた。

ドリルの声の方を振り返った。

瞬間「えっ?」思わず声を発した。

部屋に緊張が走った。 

そこには知らない何者かが立っていた。 

「ど・泥棒??」ドリルは声にならない声で叫んだ。 

その存在は「こんにちわ。驚かないで・・突然ごめんなさい」と言った。 

ドリルは「あなたは誰?なんでここにいる?」ここまで話すのが今のドリルには
精一杯。 

その存在は「突然済みません。私はファイと申します。あなたが先ほど拾った
その石の事で、私は150年ほど未来の日本から来ました」

「150年?未来?・・・なに??あんた、頭大丈夫?」ドリルは言った。

「ごめんなさい。納得出来ないですよね・・・無理もないよね・・・
証明するしか方法はないものね・・・
 
ちょっと耳を貸して下さい。

今日あなたはもう一度、井の頭公園へ行く事になります。そしてサンロードを
2往復することになります。 

今はそこまでしか解りません。明日また寄らせて下さい同じ時刻に・・・
また来ます。その時はあなたも信じてくれると思います。 
今日は帰ります。ほ、本当に失礼しました。お許し下さい・・・」

そう言い残してファイはその場から消えた。

ドリルは「今のなに?1人で勝手に語って、何で勝手に帰るんだよ?・・ったく。
腹立つ・・急に部屋に入って来て信じろと??ふざけんじゃねえよまったく。
絶対、公園なんて行かねえし・・・って云うかあいつつ誰????」

我に返り急に手が震えてきた。
 
ふるえも消え、ぶつぶつ呟きながらまたギターを弾き始めた。
 
しばらくして母親からメールが来た。 

「井の頭線が急に不通になった。タクシーが全然走ってない。
すまないけどサンロードに迎えに来て荷物持って欲しい。 
マコトへ。母より」

「何だよ、吉祥寺か・・・」ドリルは吉祥寺に向かった。 

サンロードに入ってから待ち合わせ場所に直行した。 

そのまま荷物を持ってサンロード入口を出た時母親が「あっ、マコト申し訳ない。
西友で買い忘れた物があるの。このまま戻って好い?」 

「ああ、かまわないよ。行こう」 

そう言った瞬間、ファイの言葉が脳裏をかすめた。 

「まじかよ?あいつの話そのまんまかよ?」
 
ドリルは好奇心と同時に何とも言われぬ不安を憶えた。

翌日、ドリルはいつものように学校から戻り日課の散歩をこなした。
途中、井之頭辨財天堂で昨日の事を思い出し帰宅した。 

内心ドリルはいくつかの質問を考えていた。そしてその時が来た。 
昨日のように紫の石が微細な振動を始めた。
 
突然、霧のような揺らめきの中からそれは現れた。 

「こんにちわ。昨日はごめんね、ドリル」  

もう呼び捨てかよ?

ドリルは妙に馴れ馴れしいと思った。 

「こんにちわ。昨日、君の言った通りになったから話を聞くよ・・」

「そう、信用してくれたんだ。ありがとう」 

「いや、まだ半分ですけど」ドリルが返した。 

「で、何ですか?」ぶっきらぼうにドリルは言った。 

ファイが「実は私が此処に来た理由は、この手紙なんだ」ファイは手紙を
ドリルに渡した。
 
その手紙の宛名は同じクラスの板垣久美子だった。

「??」ドリルは皆目見当がつかなかった。 

「ねえ、ファイさん。これどういう意味?」当然の質問であった。

「僕の事はファイでいいよ。じゃあ、これから説明するよ。
この差出人は板垣久美子さんのおばあちゃんのトメさんで、
板垣久美子さんへの手紙なんだ」

「えっ?確か、お婆さんは昨年亡くなったって聞いたけど?」 

「そう。そのトメさんなんだけど、彼女へひとつ言い忘れた事が
あったらしく、僕は彼女へこの手紙を渡してくれるように頼まれたんだ」

「何で君が?」ドリルは首を傾げながら聞いた。

「ドリルがその石の持ち主になったからなんだ。その石には太古の昔から、
ある役目があるんだよ。その石を所持した人間は霊界と、この世との
伝達人の使命が科せられるというものなんだ。 

以前の持ち主は高齢のため他界したんだ。

遺族はその使命を知らないままこの石を君が昨日行った井之頭辨財天堂に
棄ててしまったんだよ。もう50年も前の話しなんだけど。

そこへドリルが昨日通りかかり、その石との縁を50年振りに
作ってしまったんだ・・・君が」

「何で僕なの?」 

「ドリルはその石を洗う時に可哀想・・・と思ったからだよ、普通の人は
そんなこと思わないよ。それでその石は君を選んでしまったんだ。 
君と石が同調したのは、その石の意思だったんだ。君が石に選ばれたのさ」

「石の意思??それダジャレなの・・・勝手に選ばれても困るんだけど・・」

「それは・・・僕に言われても困るんだ」 

「まっ、大体のことは解ったけど、その手紙を板垣さんに何て説明して渡すの?」

「方法は二つあるんだ」

一つは彼女の夢に侵入して渡す方法 
但し、夢から覚めると忘れやすいというリスクがある。 

一つは彼女に直接手渡す方法
但し、受け取ってから3分以内に読んでしまわないと手紙は消滅してしまうんだ。

ドリルは聞いた
「直接読んで聞かせる方法はどう?一番簡単でてっとり早いと思うけど」

「じゃあ、その手紙読んでごらん?」

ドリルは手紙を広げた。

言葉に詰まった。・・・・「??」手紙は白紙だった。

「ねっ、解った?第三者は宛先しか読めないのさ」

「とりあえず3分以内に読むように伝えるよ、これ渡すから。 

でも板垣さんに何て言って渡そうか?渡す切っ掛けが難しいよ。
ファイも考えて」

「それがドリルの今後の仕事になるんだ。だから頑張って」 

そう言ってファイは消えた。


 翌日の放課後、板垣久美子を校庭の裏に呼び出した。 

「ドリル君、私に何か用・・・?」 

「こんな事、信じてくれないと思うけど、板垣さんの去年死んだ
お婆さんからの手紙をあるルートであの世から僕が預かったんだ。
それで受け取ったら3分以内に呼んでほしい。それ過ぎると手紙が
消滅するんだ」ドリルは言い終えるとホッとした。 

「何それ?・・何で私のお婆ちゃんなの?」 

「何か君に言い残した事があったらしく、それが重要な事だったみたいで、
今回僕が依頼されたんだ。僕も、なんで僕なのか解らないけど・・・」

板垣久美子は半信半疑で手紙を受け取り素早く読んだ。

しばらくして彼女の目から涙が頬を伝って落ちた。

そして彼女の手からその手紙が消えた。 

「板垣さん、どうだった?大丈夫?」

「ドリル君ありがとう。私、お父さんの事で長年悩んでいた事があったの。
この手紙で私の誤解だったと解ったわ。 

それをお婆ちゃんが気にしていて生前私に話して聞かせようと思ってたらしい。
それが出来ないまま他界したので、死んでからも気にしていたみたいなの。

ドリル君ありがとう。私、最初は半分疑ってたけど、あの手紙はお婆ちゃんに
間違いないわ。筆跡も同じだったし。ありがとう、ドリル君」 

「何の事か解らないけど誤解が解けて良かったね。お疲れさん」 

「でも不思議ね、あの世からの手紙なんて。三流SF小説みたいな事あるのね」

「僕も今回が初めての経験なんだ。だからまったく見当がつかないよ。
今日の事は内緒に頼む。面白い話があったら教えるね」

ドリルは不思議な達成感みたいなものを感じた。
 
これがドリルとファイと不思議な石との出会いであり、不思議な世界を旅する
物語の始まりとなった。


 ある日の夕方、突然ファイが手紙を持ってドリルの部屋に現れた。
 
「やぁ!いたの?」

「あっと、びっくりした・・・」ドリルは目を見開いた。 

「驚かしてごめん」 

「あのさあ、今度から現れる時、何かドアをノックするとか
合図のようなもの無いの?」

「ノックする体が無いからノック出来ないし・・そうだ!その石を
振るわせるって言うのはどう?」

「うん、それでいいよ」 

「これからそうするね。今日はこの手紙を渡して欲しいんだ」

そう言いながら手紙をドリルに渡した。 

「ハイ!・・・・水島信夫?・・・どっかで聞いたこと・・・??
もしかしてこの人って広域暴力団の水信会の組長と同じ名前だけど・・違うよね?」 

「そうだよ、その水島・・・」
 
「えっ!・・今回はお断りします」ドリルは即答した。

「大丈夫だよ。本人に会わなくても、もうひとつの夢に侵入する方法を
試したらどう?」
 
「あっそれ、聞こうと思ってたんだよね。どうするの?」 

「夜寝るときに左手に石を持ち右手に手紙を持って、頭の中で水島信夫って
何度も名前を云いながら寝るんだ。

そうすると起きた所が水島信夫氏の夢の中っていう訳さ。後は彼に説明してから
手紙を渡す。但し、こういう人達は夢の中でも荒っぽいのが多いからね。

ちなみに殴られてもダメージは無いけど夢の中の君は多少痛いと錯覚するかも。
肉体が無いからって無茶しないようにね」

「何にそれ・・・」

そしてドリルは説明された通り眠った。

 ここは水島信夫の夢の中。

子分と思われる者3人と水島信夫が渋谷のクラブで酒を飲んでいた。
これから他の組の者と何かあるらしい。不穏な空気。 

水島が「いいか、お前達。俺に何かあっても俺にかまわず逃げろ。
もし俺がおっちんでしまったらこの家業から足洗え。そしてまっとうに暮らせ。
解ったな」

「ヘイ頭、解りました。でも俺は頭を必ず護りますから」 

「ありがとうな、政晴」この一部始終を視ていたドリルは

「何なんだ?これから、もしかして抗争?そんな時にどうやって手紙を渡すの??」

夢の中のドリルは焦っていた。

次の瞬間、ドリルは水島信夫の前に立っていた。

これが夢のいい加減さである。

護衛役の政晴が急に立ち上がりドリルを威嚇した。 

「何だ、てめえ!・・・どっから出て来やがった?」

「はっ僕も解りません。これ読むように申し使ったんで渡しに来ました」 

上着のポケットから手紙を出そうと手を内ポケットに入れた瞬間、
水島はドリルが胸からピストルを取り出すと思った。

次の瞬間、水島はソファーの後ろに隠れた。政晴と他2名はドリルに飛びついた。 

「ま・ま・待って下さい。これは手紙ですから」
 
政晴はドリルの手から手紙をむしり取り「頭、これ」と水島に手紙を渡した。 

「何だこれは?」それには《信夫へ、ヒサより》と書いてあった。

死んだ母親から水島信夫に宛てた手紙だった。

「なめとんか、こらっ!」水島はドリルの胸ぐらをつかんだ。

「おう、若いの。俺の母親はとっくにあの世に行っちまってる。
もう少しましな嘘をつきな。えっこらっ!」

ドリルも必死だった。 

「まずは読んでもらえませんか?それから判断して下さい頼みます」

必死にドリルは説得した。

「読むだけなら読んでやらぁ!」水島は急に態度を変えた。

そして、ゆっくりと手紙を開いた。 

『信くん。突然の手紙で驚かせてごめんね。 

あなたは優しい子だった。

人の道を外したのはお母さんのせいなの。

私も子供の頃、お母さんからいつも厳しく育てられたの。

お母さんはいつも反発したかったけど出来なかった。
 
そしてお母さんが親になった時、母親のイヤだった躾の仕方を・・・
何故か、信くんにやってしまったの。

お前は当然反発したけど私はお前に何もしてやれなかった。
今になって本当に悪く思ってます。信くん、ごめんなさい』

その手紙を水島信夫は読み終えて、あっさり棄ててしまった。
次の瞬間、拳銃がドリルに向けられた。

そこで夢から覚めた。

「かぁ~~~。殺される所だった」

夢と知ってはいても、そのリアルさにドリルは、いたたまれなくなった。
それから数ヶ月が過ぎ、広域暴力団の水信会は突然解散し、
水島信夫組長以下135名は刑に服す者、かたぎに戻る者、
田舎に帰って家業を継ぐ者が続出し極道の世界では、この事を発端に組を
解散するのが相次いだ。

それを知ったドリルは自分のやってる、誰にも語れない不可思議な役割が
少しは世の為になってることをチョットだけ誇らしく思った。


 ドリルの部屋の石が振動し、ファイが手紙を持ってやってきた。

ファイは手紙を渡した「これ・・・」 

「ファイさあ、今日は君にチョット聞きたいことあるんだ」

「僕の解る事ならいいけど、なに?」

「ファイはどこの世界から来てるの?」 

「僕はね、君たちに解りやすく説明すると、君達は4次元で僕は5次元だよ」 

「ここは3次元じゃないの?」 

「正確には3次元に時間が加わるから4次元なんだ便宜上だからどっちでも
良いけどね」

「じゃあ、この手紙も5次元から?」 

「そうだよ」 

「死んだ人が逝く世界?」 

「そう、但しその上に逝く人もいるよ」 

「その上って?」 

「解りやすく言うと神に近くなるってことさ」

「えっ、神様っているの?」 

「大いなる神は存在するよ。君たちの考える神と違うけど、
本当の神はチョットずぼらだけど存るよ」

「ずぼらな神か・・・?面白い。じゃ、悪い事やって死んだ人はどうなるのさ?」

「ドリルはどうなると思う?」

「3次元とかに落ちるの?」 

「違うんだ。肉体が死んだら5次元に戻るんだよ」 

「戻るって?この世より上って事?」 

「次元で云うと上になる。それとこの世の人は全てが上の次元からの転生なんだ。
こっちの世は下なんだ。
 
これにはルールがあって、上の次元からから下の次元にしか転生出来ないという
ルールなんだ。そういう意味で人間は一番下の次元なのさ」

「じゃあ、地獄の世界も人間より上な訳?ファイ、それっておかしくない?」

「おかしくないよ。全ての人間は死んだら周波数がこの世の人間より高くなるんだ。

但し、死に方によっては思いっきり周波数の低い状態を選ぶ魂がいるんだ。
つまり一般的に言う地獄ってやつ。みんな自分で選んでるのさ。 

この世だって神様の様な人もいれば地獄の大将みたいな奴もいるだろう。
何でもリアルだし隠し事出来ないんだ。 

死んだ魂は本来の周波数の高い所に戻るけど、死んだ事を知らずに周波数の
低い場所を漂ったりポジテブな世界に移行するんだ。

閻魔様が決めるんでなく、全ては自分で行き先を決めてるのさ」 

「じゃあ、仏教の見解と違うね?」 

「あれはあれで一つの戒めとしていいと思うよ。本当は今、僕が言った様に
地獄も5次元なんだ。解ってもらえたかい?」

「・・・何となく」 

「そのうちドリルにも解るよ」 

「で、本題。今度の仕事」ドリルに手紙を渡した。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-13完結編

13、狸小路

 ある日マチコママがふたりに差入れを持って狸小路に遊びに来た。 

シリパに話しかけた「最近シリパの会への質問で2012年問題を取り
上げた質問が多いのね。京子ちゃんの所にはそういう類の質問は無い?」

「私の所は相変わらず恋愛問題が多いけど、ケンタの所は、未来にトリップさ
せてるから半信半疑か、それ系の質問が多いみたい」

「でも、未来はたえず変わってるから下手な説明できないし、
ママも言葉選ぶわよ・・・」

シリパが「そ・・そこなのよ。パラレル的に云うと未来は必ず分裂するから、
自分がどこを選択するかで結構違ってくるしね。曖昧な答え方も出来ないわ」

「だから私は一応の見解を出そうと思ってるの。
未来については大きく二つに分離されると思う。
今云えるのはその事だけってね。京子ちゃんはどう思う?」

「そうね、それが今の段階では無難な答えかもね」

京子は家に帰ってからママとの会話をケンタに話した。 

ケンタは「まあ、それだけ現状は不確かだからそういう言い方がベストかもね。 
神の感覚だと100年の時間的誤差は許容範囲。
だから予言は外れることが多いし難しい。そのことが解ってるから本当の覚者は
日時を克明にしないのもうなずけるよ・・・」


 狸小路の京子のところにリョウゼンが初めて尋ねて来た。 

「きょ・きょ・京子ちゃん・・・なに・なにやってらの?」 

「リョウ??リョウゼンなの?・・あんた久しぶりね・・・元気?」 

「あっ・はい」 

「そう・で、今日はどうしたの?1人なの?こんな夜にリョウゼンの来る
ところじゃないよここは・・・」 

「・・・・」リョウゼンは黙ってしまった。 

「リョウゼンどうした?」京子は優しい口調で言った。

「こ・これ・」リョウゼンはポケットから一枚の絵を出しそっと差し出した。

「な~に?これ」未来都市を背景にした二人の人間と犬を描いた挿絵だった。 

「なに?リョウゼンはこんな世界を観てみたいのかい?」

「はい」 

途中でリョウゼンの雰囲気に何かを察知した。 

「チョット待ってね」京子は携帯でマチコママに連絡を取った。 

最近、会員の誰かともめたらしくしく、それ以来リョウゼンは会に顔を出さなくなったという事。

京子は「お前、シリパの会でもめたんだって・・・どうしたの?」

リョウゼンは耳を両手で塞ぎ座り込んだ。これ以上、外からの情報は
拒否するというリョウゼンの表現のひとつだった。

「もういい。わかったからさ、ちょっと私の話を聞いて!」

「はい聞きますです。です」 

「未来に行くのもいいけど、この絵と少し違うかも知れないよ。わかった?」 

「はい、です~~ぅ」  

「お前はサザエさんのタラちゃんか・・・」

KENに事情を話し二人の身体の管理を頼みトリップした。
 

 ここは500年後の札幌。リョウゼンの思い描いた世界とは大きく違っていた。 

雑誌にあるSFの世界は透明のドームがあり、未来型の車が空中を飛ぶ
世界がリョウゼンの頭の世界であった。リョウゼンは何か考えていた。 

京子が「リョウゼン、どうしたの?なに考えてるの?」

「そうですよね。これが現実ですよね」リョウゼンの言葉使いが変わっていた。 

京子は思い出した。トリップした世界ではリョウゼンの意識は一般人の感覚だったことを。 

リョウゼンは夢に描いた世界と違った事にショックをおぼえた。 

「現実はこんなものですよね」悲壮感があった。 

京子が「どうせならこのままの世界を描いたら?そして未来は精神的な文明で、
理にかなった世界は実際こうなってます。みたいなお手本を描いたらどう? 
未来人はビックリするわよ。500年も前にこんな絵を描いた人間がいるってね・・」

「面白いですね。さすが京子ちゃんです」 

ほどなくして二人は戻ってきた。 

京子は「リョウゼン、今日は楽しかったわね。マチコママも心配してたわよ。
会に顔出しなさいね」

「あ・あ・ありがとう・・バイバイです」

会の話になるとうつむくリョウゼンだった。 

「気をつけて帰りなよ、お休み・・リョウゼン」 

リョウゼンは後ろ向きのまま手を振った。相変わらずのリョウゼンに京子は微笑んだ。

 
 それからひと月程経ち再びリョウゼンが京子の前に顔を出した。 

「リョウゼンいらっしゃい。今日はどうしたの?」 

リョウゼンは画板から8枚の作品を取り出した「こ・こ・これっ!」 

「おっ!作品出来たのかい?どれ、見せてね」

目をやった瞬間京子は絶句した。

そして「KEN!!来て!」大きな声で叫んでいた。
京子の声が狸小路に響きわたった。

「どうしたのシリパ?大きな声出して」 

「KENごめんね。これ!この絵見てよ!」
 
「おう、リョウゼン来てたのかい?」 

京子が差し出した絵を見たKENは息を呑んだ。

「これ、リョウゼンが画いたの・・・?」 

絵は8枚有り一枚の絵に七つの世界が描かれており、それが7部構成に
なっていて一枚一枚しっかりしたストーリーがあった。

計49の世界が緻密に描かれていた。最後の8枚目には地球が変わる直前の絵が描かれていた。
この絵は実際を観てきた人間にしか描けない絵であった。この絵の価値を知る
人間はこの3人だけだった。 

シリパがリョウゼンに「リョウゼンはもうひとりだけでトリップ出来るんだね。頑張ったね」

リョウゼンは満面の笑みを浮かべうなずいた。

KENが「それにしても完璧な絵だ。僕の観た通りの世界。あの世界をカメラで撮ったようだ」

京子が「リョウゼン、この絵は、リョウゼンが大きくなるまでお母さんに言って
封印してもらいなさい」

「ふういん??わ・わ・わかりませんです・・・」

京子は母親に手紙を書いた『この絵は今、世に出す絵ではないと思います。
この作品は社会的に影響を与え兼ねません。
それだけ今のリョウゼン君の絵は、一作品一作品が注目を集めます。
 
因みに、この絵は約500年後の世界まで見事に描かれています。
我々夫婦と他数名が垣間見てきた未来の世界と寸分違わず一致しております。

リョウゼン君が大きくなるまで封印をお奨めいたします。生意気なこと言って
すみません 京子』そう走り書きをし、母親へ渡すように言った。 

「リョウゼン、どうせ描くなら昔の東京・・江戸って云うけどそっちの方が
みんなは喜ぶかもね」 

「む・む・昔ですか?」

「そう、昔よ。頭はチョンマゲで着物を着て刀持ってる時代。日本の皆は
好きだから沢山の人が喜ぶと思うけど・・・どう?」

「き・き・京子ちゃんと行った京都とかですか?」 

「そう。あれは京都だけど、今の東京を昔は江戸っていうの。
日本の中心なのよ。面白いよ。リョウゼンくん解りましたか?」

「はい、解りました」そう云ってリョウゼンは帰って行った。 

ふたりをを観ていたKENが「彼は天才だね。あそこまで正確に描けるなんて
思わなかったよ。久々にビックリした・・・」 

「私も以前からあの子の絵は見ていたけど、今回のは特別だったわよ。
だって一枚の絵で10年ごとのドラマを7回トリップして、ひとつの絵に見事に
納めちゃうんだもの。それも7枚で約500年分よ、最後の一枚は視点が宇宙空間から
未来の地球を観たものだった、完璧に出来上がっていたわ。 
もしかしたら昔のミケランジェロやダビンチの絵を世に先んじて見た心境?」

「でも500年後の人は解ると思うけど、今の人が解るかどうか???」
KENは遠くを見ていた。

しだいに常連が増え路上では限界が出始めた。 

「ねえケンタ、これから冬になるし、トリップして帰ったら客と二人とも
冷たくなって震えてるよ」 

「そうだね。札幌の屋外では僕のやってることは限界があるかも。
小さな店舗でも借りる?」
 
「でも、それならシリパの会と同じくなるよね。かといって宗教色は絶対イヤだし・・・」

寒冷地ならではの課題が生まれた。

結局、二人は一戸建てに引越し、そこで看板を上げて再スタートした。 

会員ナンバーの一番がリョウゼンだった。

The END

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-12

12、時空の旅

 ケンタと京子は宇宙の存在との約束が遅れてることを気にしていた。 

「さて、ケンタ。これから先どうするの?今までは神社廻ったりとふたりの
都合でどうにでもなったけどさ、ひとを育てるって簡単じゃないよ。
今までの会は技術だけだから何とかなったけど、石の力も借りたし・・・」

「そこだよ京子ちゃん。最初に両方の世界を視せるんだよ。そして二つの
世界の意識の在り方の違いを説明するんだよ。視てるから話が早いと思わない?」 

「なるほどケンタらしい考え方だね。でも事務所無いしどうやって人集める?」 

「最初は狸小路でやるしかないかな・・・今まではカウンセリングみたいな
感じだったけど明日からは地球の未来を旅しませんか?て言うのはどう? 

二つの世界があることを説明しておいて、両方ともトリップして見せるのさ。 
あの妖精の長老達に視せたようにね。自分たちが変わらなければ未来は
変わらないという事を自覚してもらうんだよ。どう?」 

「私の旦那は天才だ・・・」

「とりあえず僕はその方向で行く。京子ちゃんは今のスタイルを維持してほしい」

「なんで?」 

「それはそれで必要だからさ僕の方はチョット、カルト風に取られがちだから
敬遠されると思うんだ。だから食べるためには仕方ないよ。頼む」

「・・・うん、わかった」

ふたりは狸小路にいた。

ケンタのテーブルには「時空の旅」と書いた張り紙があった。 

3人の男が興味ありげに張り紙を見ていた。

25歳位いのレゲエ風の男が「これどういう事っすか?」 

KENが「葉っぱや薬を使わずに未来の札幌にトリップするのさ」 

3人は笑った。 

「マジッスか?」 

「マジッスよ、1人3千円、3人まとめてだと割り引いて1人2千円。
合わせて6千円でどう?もしトリップ出来なかったら全額返金するけど」

色黒のゲンが興味を示した。

レゲエのオキが「1人2千円だって。タイキもやろうぜ」

「いいよ」 

KENが「座らないと出来ないから3人とも、そこのベンチに座ってほしい。
そして深呼吸を三回して」 

3人は従った。 

「次は3人手を繋いでゲン君は僕の手を握って目を閉じて僕の指示を待ってほしい。
視る世界は二つ。僕も同行するから心配は要りません。では未来に飛びます。
心を空にして下さい」KENは片方の手の黒石に集中した。 

4人は同じ狸小路に飛んだ「はい、目を開けていいですよ」

そこは明るくそして全体に白っぽい透明感のある狸小路だった。
 
3人は初めてテーマパークにいった子供のように目を輝かせていた。 

タイキが「この辺りはラルズのあたりだよ。全然雰囲気が違うね」 

ゲンは「メッチャやばくない?人もなんか半分透明だし。光ってるよ」 

オキは「このまま歩いてススキノ行ってみない?」

四人は南に移動した。 

先にオキが声を上げた「無い。ススキノが無い!ただの公園に変わってるぜ」 

KENが「そうなんだ。未来の世界ではススキノは消滅してるんだ。酒を飲むという
習慣が無くなるのさ。当然風俗もね。だから酒場はこの時代には消滅したんだ。 
車を見てごらん、乳白色のブヨブヨした感じ。あれが未来の車だよ。
燃料は宇宙線だから永遠に動くのさ。無尽蔵のタダ燃料だよ。一台に一個の装置なんだ。
これは家も同じ仕組みだから未来に北海道電力さんは存在しない」 

車好きのオキはいたたまれない気持ちになった。

「次は上から札幌を見てみようか?またみんな手を握って。いいかい・・・行くよ」 

瞬間、藻岩山山頂に移動した。

「これが未来の札幌市だよ。高い建物が無いでしょう?これは都市集中型の過去と
違い、未来はみんな好きな所に住むんだ。仕事の為に都会に住む必要が無いからね。
しばらく見学してよ」 

3人は目を皿のようにして札幌の街を眺めた。 

「じゃあ、もうひとつの世界に行くよ。手を握って」

4人は大通り公園にいた。 

「ここは4人離れないようにしてね。絡んでくる人間が多いから無視して」 

ゲンは思った「臭せ~~。何だ?この匂いとジメジメした重い空気?薄暗い空。
公園なのに全体が重たい。人の顔も全員がヤクザか変質者みたいな奴らばっか」 

「おい兄ちゃん達、金貸してくんねえかなあ?良い服着てんなあ。
俺のと交換してくれよ。おい、その髪の変なの。おめえのはいらねえ。
安心しな・・・但し、金貸しな」

KENが振り向いた「やめなよ!俺、ミノルさんのダチだよ」 

「な、な、な、なんだ!もっと早く言ってくれよな」 

絡んできた男は走って逃げた。

「なんなんすか?あいつは」 

「この世界は絡まれてばっかりだから、うちの嫁さんが過去で知り合った
ヤクザもんがこの世界にいるから何かあったらその人の名前を使いなと話を
付けてあったのさ。それを利用しただけ。この世界は自分の欲望だけで生きて
るんだ。特徴は他人の事は考えない世界。これも未来の札幌なんだよ残念だけどね」

タイチは「俺、こんな世界イヤだよ・・・」 

「大丈夫ださ。執着を持たない、人を傷つけない、いつもにこやかにワクワク
してればこの未来には来ないよ」KENは言った。 

「あと見たいところある?」 

ゲンが「僕の家族のこと気になるんだけど・・」

KENは「ごめん。それはルールがあって見せてはいけない事になってるんだ。
ごめんね・・・」 

オキが言った「誰のルールなのさ?」

KENは天を指さした。 

「次どこか行きたいとこある?」

そう言ってる間に今度は女らしき者がタイチに寄ってきた。

「ねえ、兄さんいい事して遊ばない?あんた良い男だから安くするけど。どう?」

「イヤ結構です」

「なんだい兄さん、おだてりゃ普通はハイって言うもんだよ。
このアタイをいったい誰だと思ってんだい?えっコラ若いの」 

豹変してドスの効いた声だった。 

「姉さんごめんな。さっきこいつらを遊ばせたとこなんだよ。また今度くるからさ」
KENが割って入った。

女は「ちっ、解ったよ、絶対だよ。んじゃな・・・」

3人は「もう帰りたい」とKENに言った。

KENは了承しもとの狸小路に戻った。

そこには京子の姿があった。

「お疲れさん。気になって来てみたら、人だかりがあるじゃない。見てみたら4人が
手を繋いでぐったりしてるから、みんな救急車や警察呼ぼうとか言ってるし、
私が言い訳して付き添ってたのよ。で、どうだった?」
 
3人は戻ってからしばらくは呆然としていた。

KENが「お3人さん、どうでしたか?」 

オキが「いい経験しました。あれは何十後の札幌ですか?」 

「近未来かな。ミノルって今ススキノに実在するからね」 

「えっ!近い将来であんなに変わるんですか?」 

「確定はしてないけど可能性は充分あるよ」

ゲンが「楽しかったです。で、僕達はどっちを選ぶんですか?」

KENは「自由なんだ・・可能性は最初の方だけど選択権は自分にあるから、
その時に心に葛藤がある人は後の方に。葛藤を手放した人は最初の世界に
移行するんだ。今日は僕にとっても君たちが初めてのお客さんなんだ。
楽しかったよ、ありがとうね」 

3人は今、経験したことをお互い確認し合いながら歩いていった。

京子が「やりかたを少し変えないと危ないね。四人もぐったりしてるんだもの。
絶対薬か何かを疑われるよ」 

「ごめんごめん。そうだよね・・・」

二人は今後の課題をかかえて帰宅した。

結局ふたりは近場で店を開きKENの客の場合、京子がトリップ後の身体の
介護をすると言うことになった。初日に来たオキ・ゲン・タイチの3人は
沢山の客を紹介してくれた。 

噂はあっという間に広がり一日に大勢が訪れる日もあった。

KENの体力は5人まで。その後は京子に任せることにした。
リピーターも多くなった。

そんなある日、KENの前に1人の婦人が現れた。 

内容は、歳若くして死んだ息子に会いたいのでその世界に行って欲しい
というものだった。 

KENは「それは可能ですけど、行ってあなたはどうなさりたいのですか?」 

「ただ会えればいいの。他に望む事は無い。ただ会えればいいそれだけ」

「ごめんなさい。僕にはお手伝い出来ません」キッパリ断った。 

「あなたはインチキなの?どういう事?じゃあ、なんでこんな事やってるわけ?」

KENは下を向いたまま黙った。婦人は怒り心頭で去っていった。 

側にいた京子がその光景を見ていた。 

「KENさんどうしたの?今日は調子悪いのかい?」 

「・・・。今の女の人は死んだ子供さんは男の子だと思うけど、
思い入れが強過ぎなんだよ。視せるのは簡単なんだけど場合によっては、
すごくショックな場合があるんだ。
そうしたら今の彼女はその世界に行って助けようとする。つまり彼女は死を
選ぶことになりかねない・・と思ったのさ。誰にでも簡単にトリップさせないよ、
特に本人に害になると思った場合は・・・」 

今度の客は20才くらいの女の子だった。

「いらっしゃいませ」 

「あのう、前世の私を視ること出来ますか?」 

「・・・あなたは前世は何がいいですか?」

「??・・・どういう事ですか?」

「今のあなたと前世のあなたは関係無いですよ。
未来はあなたが創造して下さいね。仮にあなたの前世は農家で苦労して
死にましたよって言ったら、あなたは一生それを引きずって生きていきます。
そしたら知らない方がいいと思いませんか?
それにこの地球人の前世は大体が農家か漁師なんですよ・・・」

「じゃあ、三年後の未来を視せて下さい。」 

「事情はどういう事ことかな?聞いてもいいかなあ?」

「また事情ですか?もういいです・・・」

帰ってしまった。 

イッセイが聞いてきた「今日はどうかしたんすか?」 

「ふふ・・彼女は何でも良かったのさ。暇つぶしなんだ。まったく関心がない。
本当に興味があったらちゃんと考えて質問してくるよ。お金もったいないから
帰ってもらったのさ」

向こうでシリパがKENを見て微笑んでいた。

今日の札幌の空は満月が輝く穏やかなな夜だった。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-11

11、テロ工作

 ミルキーが突然京子の前に現れた。 

「おや、ミルキーどうしたの?先日は世話になったね。で、今日はどうかしの?」 

「いきなりごめんなさいダニ。実は先日、北海道各地の妖精たちが
旭川のコタンに集まったダニ。

その内容が、人間の自然破壊とその対策についてなのね。

その事はよくある会議の内容で問題は無いダニ。話しはその後に起こったダニ」

京子は真顔になった。 

「シャコタンにある神威岬の長老が『長年人間達の黒い想念の影響を受けてきた。
そのせいで自然破壊が進んだ。でも我々は耐えてきた。だがもう限界。

この辺で我々は立ち上がり人間社会に忠告を発したい。
それには、皆の力を集結する必要がある』って演説したダニ」

「具体的にどういう事になるのよ?」

「本州の人間が350年程前、北海道を侵略した事があるダニ。 
その時は我々妖精と自然をつかさどる龍神と北海道アイヌの頭の
シャクシャインさんが組んで本州からの侵略に対し人間界と妖精界の
両方で戦って我々の民が勝利したダニ。 

その時は人間界に多大な犠牲者が出たダニよ。 

今回、人間のアイヌさん達は少ないから加わらないけど、
妖精達はみな本気みたいなの。

それでミルキーが相談にきたダニ。 

本来人間から視えない世界の我々は人間界と戦ってはいけないダニよ。 

視えない敵は絶対有利ダニ。人間が滅ぶのは間違いないダニ。 

長老達は全てのダムに人間に検知されない毒を入れるとか、鳥に乗って
人の多く集まる場所の空から、秘伝の毒花粉を蒔くって相談してたダニ。
人間全員死ぬダニ」

「ケンタ聞いた?」

「ごめん僕、波長合わせてなかった。後で聞かせて」 

京子は「ミルキー達は反対出来なかった訳?」 

「北海道の長老同士が決めたことは絶対ダニ。反対した者は村八分に
なるから生きていけないダニ」 

「チョット待ってね。ケンタと相談するわよ」

京子は事の次第をケンタに話した。

「そっか解ったよ。でも妖精達の手を汚さなくても人間界は今後変わるよ。 
その事を長老達に説明し中止するように説得しようか?
ミルキーに長老会を開いてもらって、その場で説明しよう」

ミルキーはその事を伝えに戻った。 

「ねえ京子、二つの石でどのくらいの精霊を未来にトリップ出来ると思う?」 

「精霊は人間じゃないから結構多く運べるかもね。どうして?」

「多くの精霊に地球の近未来を視せたいのさ。人間は黙ってても二つの
世界に別れて、新しい世界で人間と妖精さんは一緒に暮らせるって教えたいのさ」 

「なるほどね」 

ミルキーが戻ってきた。

「明後日が満月の夜だからその日に決定の会議ですって。場所は白老のコタン
との事。でも人間は見学だけで口出し無用って言われたダニよ」

「まっ、参加出来るだけとりあえず良し」ケンタは笑みを浮かべた。


満月の夜ふたりは、ふたつの黒石を持って末席で長老達の話を聞いていた。 

長老のひとりが「それでは、ちょうどひと月後の夜に空部隊とダム部隊で、
同時進行と云う事でいいダニね」

「チョット待って下さい!」ケンタが末席で立ち上がった。 

「お前は人間だ!人間は意見するな!」強い口調でケンタは恫喝された。

「是非、話しを聞いて下さい」 

「意見無用ダニ」ケンタはふたりの妖精に手を押さえられた。 

今度は京子が「待って下さい。すぐに済みますから時間を下さい」

「駄目ダニ!」ふたりは強引に外へ連れ出さされた。 

中ではざわめく声が止まらない。

そのうち聞き慣れた声がした?ざわめきがやんだ。
 
静寂の中でミルキーの必死さが伝わる叫びの声だった。 

「みなさん、待って下さい!あのふたりは私が札幌で一年間お世話に
なったふたりなんです。決して皆さんの思うような人間ではありません。
どうぞふたりの話を聞いてやって下さい。お願いしますダニ」 

「お前は人間のスパイか?」

「違います。ただ話を聞いて欲しいだけダニ。なんにも要求しません。 
ただ聞いて欲しいそれだけダニ!」 

ミルキーは悲痛な声で訴えた。 

ある長老が「事が済むまで三人ともひと月の間、監禁だ!」 

「そうだ、そうだ!」三人は真っ暗闇の中、別々の部屋に監禁された。

「なに、この空間は?トリップが効かない。全ての能力が封印されたみたいよ。
ケンタとコンタクトも出来ないじゃん」

ケンタは秘策を考えていた。

ここに来る事は我々三人しか知らないから心配する人間もいないって事か。
ましてこの空間は封印された空間か・・?

ミルキーは「長老達は解ってないの・・・本当の仕組みを・・・
あの二人には申し訳ないことをしてしまったダニ。アポイの神どうか・・・」

次の日の早朝、三部屋のドアが開いた「長老がお呼びだ」と声がした。 

三人は昨日の部屋へ通された。 

「解ったと思うがあの部屋は封印された部屋だ。なんの力も使えまい。 
どうだ、我々はお前達と争うつもりは毛頭無い。よっておとなしく引き下がる
なら解放しよう。さもなくば一ヶ月監禁する。
人間の肉体は水・食料が無ければ維持出来まい。置いてきた肉体はひと月
持たないダニ。どうするダニ?」
 
ケンタは京子に意識を飛ばした。

「京子とミルキーはおとなしく引き下がって欲しい。
そして京子は自分の身体に戻り、僕の身体にも入って、たまに食事を
させて肉体の維持を頼みたい。京子なら出来るはず。頼む」 

京子に通じた。

「わかった・・・私と彼女は引揚げます」 

「京子さん・・・」ミルキーは悲痛な顔で言った。 

「ミルキーは黙って・・・申し訳ありませんでした。今すぐ私を解放して下さい」

ふたりは無事解放されたが、ケンタは再び監禁された。 

札幌に戻った京子はケンタの肉体に水と食料を補給させ、そのままシリパの会へ向かった。

マチコママとサキがいた。 

「京子ちゃん久しぶりね」 

京子の顔を見てママは、あの時のことが脳裏によみがえった。 
そう、ケンタが沖縄で倒れたときと同じ顔をしていた。

「京子ちゃんケンタくんに何があった?」

京子は一部始終を説明した。 

「そう・・・で私や会は何をすればいい?何でも言ってちょうだい」 

京子もそこまでは考えていなかった。

ただママに話したかった。

聞いてほしかった。 

ママが察し「解った。一緒に最良の方法を考えようか」 

サキが「ママ、両事務所でトリップできる会員さんって何人いるんですか?」

「う~~ん、チョット待ってね・・・」

ママが電話した。

「あっそう、スタッフ入れて34名。ありがとう。こっちが28名で計62名ね」
 
京子が「ママ、私 新たな石を一つ持ってるわよ」 

ママが「総勢62名でどうする・・・?」 

サキが「人間62名がその集会に参加して、人間として説得するのはどうかしら?」

京子が「私達もそう思った。でも長老達は話しすら聞いてくれなかったのよ。
おまけに仲介で入ったミルキーも監禁されたの。問答無用なの」

沈黙が走った。

サキが「いきなり長老さん達に地球の近未来のビジョンを見せる方法無いかしら?
百聞は一見にしかずよ。あの光景を視たら話を聞くと思うけど・・」

ママが「チョット待ってサキちゃん、ミルキーとコンタクトしてここに呼んで欲しいの」

「ええ」サキは眼を閉じた。

「ハイ」ミルキーと繋がりました。 

「京子さん申し訳ないダニ、ミルキーのせいでこんなことに・・・」

京子が「なに言ってるのよ。ミルキーが教えてくれなかったら大惨事になってたわ。
今ならまだ防げるわよ。希望を棄てたら駄目」 

ママが「今、来てもらったのはミルキーさんの世界には、人間界でいう
映画のようなものかホームシアターみたいな、なにか想念を投影出来る
ような物ないかしら?
無くても工夫して作れないかしら?もしそれが可能なら近未来の映像を映し出すの。
そしたら明るい未来があることを解らせること出来るの。 

一度目を向けたら後は楽よ。興味を持ったら説得出来る可能性が充分あると
思うのね。ミルキーさんも何か考えてちょうだい・・・」

「映画はないダニね・・テレビとか映画は人間の世界独特ダニよ」 

サキが「何でもいいの。白い大きな幕を作りたいの」 

「どの位の大きさがいいダニ?」

「この窓4枚分ぐらい・・・どう?」 

「それなら出来るダニ」 

「あとこちらの世界は電気がない世界なのよね・・・」 

京子が「そこは念写しかないわね」

ママが「あとは映像をスクリーンに投影する方法よね。向こうの世界での
投影だから全てが想念写か。そんなパワー持ってないわね・・・」 

京子が「沖縄でケンタが倒れたときみんなから集めたエネルギーは大変な
パワーだったわ。その方法でひとりにパワーを集中させて集めたパワーを
集約して映像化するのはどう?

但しそのパワーは前回と違い未来の統一した映像でないと駄目なの。
バラバラだと映像にムラが出来て駄目なの。

だからみんな同じ未来のビジョンを同時に視ることが大事なのよ。 
そしてひとりに集中して未来から送るの。
受けた側は幕に映像を投影するのよ。どう?」 

ママが「さすが京子ちゃんね、それ完璧よ。その投影する役、私にさせて
ちょうだい。京子ちゃんはケンタくんの事があるから力が入って集中が
ブレる可能性があるわ。これはマチコの命令・・・いいわね!」

京子は深々と頭を下げ「ママ、これで二度目ね。ありがとうございます」


 ママが口を開いた。

「さっ!サキちゃん伝令を出してね。日時は追って連絡します。都合のいい人は
自分の都合の良い事務所に指定の30分前に集合で頼みますって」

指示は続く「私とサキちゃんはその村に一緒に行ってスタンバイね。
会のみんなから私に送られた映像を投射するけど、サキちゃんは石を
片手で持って、もう一方の手は私の手を握って投影させるためのパワーを送ってほしいの。

たぶんこの方法は多くのパワーが必要よ。頼むわね。 あと、こちらは
メメちゃんの指導でまとめてもらう。
ここは京子ちゃんは一応部外者だからメメとナベの指示に従ってね」

「はい!」 

日時は決定した。二日後の午後6時開始。

ママにはもう一仕事あった。 

長老達にその映像を見てもらう方法をミルキーとサキとママで考える事だった。

それが一番難解なこと。ミルキーは単純に「私が人間世界のお友達に教えて
もらって視てきた未来の世界を見せますって云うのはどう?」 

ママは「当たって砕けろ!それで行きましょうか?」

サキがミルキーに「ミルキーの世界の人たちは未来にトリップ出来ないの?」 

「そう言う能力ないダニ。コロポックルは今を楽しむ方向性だから
そんなに未来のこと興味湧かないダニよ。ミルキーは一度視てるから別だけどね」

当日の朝が来た。

ここはケンタの住まい。あれから一週間、ケンタの身体の維持をしていたが、
一週間でもだんだん痩せて来たので軽いジョギングもして肉体の維持をした。

今日はいよいよ交渉の日か、気を引き締めて行こう。
 
5時にママとサキは二風谷にいた。 

ミルキーは会議に先立って長老達に「私が人間世界に世話になってた時の
友人に地球の近未来世界を視せてもらったダニ。その映像が今日届くダニよ。
この地球の未来がどうなってるか皆さんに視てもらいたいダニ。お願いしますダニ」 

長老のひとりが「視るのはかまわないがそのふたりは誰ダニ?」 

ミルキーが「はい、この方達が未来の映像を実際にこの白い幕に出してくれる
マチコさんとサキさんダニ・・・」 

「今、紹介いただいた私がマチコでこの子がサキです。宜しくお願い致します」

ひとりの長老が「最近の人間は解らんからな。おかしな事やったら拘束するダニよ。
覚悟しておくダニ」

いきなりのプレッシャーだった。 

ママは「ハイ」と素直に返事をした。

ママは会に念を送った。数秒後にパワーが送られてきた。

「サキちゃんこのパワーをもっと増幅して映像に・・・」 

白幕に未来の光景が鮮やかに投影された。 

全ての精霊達が視入っていたが、少し過ぎた頃から少しずつざわめきが起こって来た。

そこにミルキーが駆けつけた。

「ここの住人には何の事か理解出来ていないダニ」 

ママは気が付いた「そっか、私達目線か・・説明が必要みたいね・・・
ミルキー悪いけど私達手が離せないから、京子ちゃんを至急ここに呼んできて
ちょうだい。お願い」

すぐに京子がやってきた。 

ママは「京子ちゃんお願い、画面の解説して。この精霊達は意味が解らないの」 

「わかった!」京子がビジョンを視ながら説明を始めた。

だんだんざわめきが消え精霊達は目を丸くしてビジョンに釘付けとなった。 

京子節を交えながら30分が過ぎた。

会場は最初とまるで違う雰囲気になっていた。 

その時、長老のひとりが「この女は悪魔だ。惑わされるなよ皆の衆。
こいつは一週間前に収監された女ダニ。お前は何の企みでここにいる?」

全ての集中が途切れた。そしてビジョンも消えた。

「はい、私は確かに一週間前、収監された女です。主人も収監されたままです。 
でも、私は納得がいかずこのような手段を考えました。 

もし私の云うことが嘘だと云うならその時は私を一生収監して下さい。そのうち
別世界の肉体も死ぬでしょうけど、死を覚悟でこの場にこさせてもらいました」 

ある長老が「のう、話を聞いてからでも遅くないダニ。この者は本当に死を
覚悟でここにおるダニ」 

「そうじゃのう・・・聞くだけならかまわんかものう」 

ひとりの長老が「じゃあ、多数決で今の意見に賛成な者は?」 

半数を超えた。

「それでは手短に話すダニ」

「皆さんありがとうございます。今のは未来の片側の世界です。 
実はもう片側が存在します。どうぞご覧下さい」 

「ミルキー、シリパの会に飛んで反対の世界の映像を送るように頼むわ。行って!」 

京子はママの顔を見た。

ママも用意が出来てるようだった。

サキちゃんもうなずいた。

ビジョンが再開された。

そこは札幌の大通り公園、薄暗い空と重たい空気感が漂う世界だった。

目を見開いた男が弱者を棒のような者で叩き、何やら汚い言葉を吐いている。
 
警察官は笑って見ている。そこは修羅場の世界だった。
 
視線を下に向けたコロポックルも多くいた。 

京子がママを制止させた。 

「どうでしょうか?これも近未来の世界です。今視たのは札幌市です。
私の住む未来の様子です。先ほどのも私の住む未来の世界です。
このように世界は完全に二つに分かれる運命を辿ります。 

ですから皆さんが手を汚すことなく自然に、世界はこのように変わります。

今、皆さんが動いたら、もうひとつの明るい世界が無くなる可能性があるんです。 
正直皆さんにそのような権限は神から与えられておりません。 

今一度考え直して下さい。

今この場で、私と収監されている主人をどうするかお決め下さい。
考えたうえで主人を投獄するなら私も一緒に監禁して下さい・・・」

そこにミルキーが現れた。

「長老の皆さん、解ってやって下さいダニ。彼女達に大それた望みはありません。 
ただ、平和な世の中と笑顔のある生活だけが望みです。

我々妖精も調和が目的のはず。調和の形が今皆さんのやろうとしてることですか?
わたし・・・なんか違うような気がします・・・教えて下さい?」

ママが「私は人間です。自然破壊や動物の迫害、全部人間がやった事です。
今更言い訳しません。でも人間の世界はあなた方が言う悪い人間ばかりでは
ありません。今回あなた方に考え直してほしく集まった数は80人です。 

みんな私の住む札幌から先ほどのビジョンを見せるために、映像にあった
別の未来世界に行って、ここにビジョンを送ってくれました。
どうか、もう一度考え直して下さい。お願いします」 

話しているママの後ろに62名の仲間がいつのまにか立っていた。

全員が長老達に向かって頭を垂れた。

両者の間に長い沈黙が走った。 

だんだんと長老達の険しい顔が柔和な顔に変わった。 

ほどなくしてケンタも京子の横に立っていた。

それは人間と妖精の和解であった。 

その後、シリパの会では妖精の世界との交流が始まった。

親善大使はミルキーとサキであった。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-10

10、天照大御神

 二人がシリパの会を脱会して3日。とりあえず脱会したがその先の事は
全てが未定だった。 

「ねえケンタ、どういう形態取ればいいと思う?」 

「僕も解らないから、とりあえず寝る前に今の地球を透視したんだ。
そしたら青いはずの地球が黒に近いグレーなんだよ。

こりゃ重傷だと実感したんだ。と同時に丸山公園が浮かんだんだ。
とりあえず丸山でも行って高いところから街を眺めてみるよ、どう・・・?」

「そっしようか・・・」

二人は円山公園に来た。

京子が「この公園久々だね。札幌の街もちょっと見ぬまに高い建物が多くなったのね」 

突然ケンタが「シッ!」と京子の言葉を制止させた。

ケンタにメッセージが来たようだ。その場に黙って立っていた。 

「何言ってきたの?」京子が聞いた。 

「狸小路って・・・何だろ?」


その日の夜、二人は大通公園から狸小路に向かって歩いていた。 

「???ねえケンタ。さっきから後ろに気配を感じるのよ。どう?」

「うん、僕も同じさ・・・これ生身の人間じゃない。一回止まろうか?」

止まった瞬間、二人は後ろを振り向いた。 

京子は気を失ったように倒れ込んだ。

ケンタは状況判断ができていなかった。

「京子!京子!京子!」顔をさすったり背中をさすったりと意識の回復をまった。 

やがて京子は意識が戻りケンタの顔を見ながら「あのね、あれと目があった
瞬間、私の中にいきなり入ってきて気が遠くなったのよ。 

気が付いたら私、月にいたのよ。そこで色んな宇宙人が一斉に語りかけてくるの。
それが全部、何を言ってるか解るのね。 

要約すると各場所の封印を解いて残り二つの黒石を探せっていう事なの。 

だから、石のある場所を教えてって言ったら、

出来ないって言うのよね。私もつい、じゃあ偉そうに言うな。
バカ野郎!って言ってやったわよ。腹立つわ!まったく」

「京子ちゃんホントにバカ野郎って言ったの?」 

「本当よ。駄目だった・・・?」 

「いや・・・ じゃあ明日から石探しするかい?」 

「その前にみんなの所寄って行こうよ。チョットだけでいいからさ」   

「姉さん、久しぶりです。」 

「おう、元気でやってるのかい?また家出少女連れ込んでないだろうね」 

「シリパ姉さんは会えば必ずそれだよ。もうやってませんから」 

「そうかい、真面目になったかい?」 

「そうでもないけど」 

「バカ野郎、じゃあまたなっ」 

ケンタが「なんか京子ちゃんは水を得た魚のようだね。いつもこんな会話なの?」

「そう」

今度は向こうから厄介そうな男が二人歩いてきた。 

京子が「おう、ミノルとエイジ、久しぶりだね。何年ぶりだよ?相変らず二人かい?
あんたらも出世しないね。元気にしてた? こちら私の旦那でケンタ」

エイジが言った「結婚したんか・・・よろしく」 

「この二人はミノルとエイジ。いつも二人なの。ホモなんだ」

「ばっかやろう相変らずだな、シリパも。この人が旦那さんかい?・・俺、
ミノルっていう極道者なんだ。宜しく・・・。シリパには世話になってます」

続けてエイジが「だ、だ、だ、旦那さんも大変なのと一緒になったねえ。
ま、ま、ま、まっ、シリパの面倒みてやって下さいや」

「ミノル、エイジ。お前達、言ってることがヤクザっぽいよ!
ウザイからとっとと消えなよ・・・」 

「ガハハハ・・そっか。じゃあな、シリパおめでとうさん」

「ハイヨ!」

ケンタの知らない京子の顔を垣間見た。複雑な思いがした。 

「ここに何年座ったかな?色々と楽しかったよ。ここに集まる人間は
正直でいいよ。不器用だけど一生懸命がいいね」

京子は自分の言葉を心に噛みしめていた。翌日からふたりは石探しを始めた。 

「ねえケンタさあ、やっぱり神社かな?会の石は奉納されてる石でなく、
社務所の後ろに落ちたって言ったよね・・・」 

「僕は氏神様のような小さな祠かなんかの感じがするんだけど・・・」

「神社や祠なんてそこらじゅうにあるよ。どうやって探すのさ?」 

「いや、必ず切っ掛けがあるはずだよ・・・」

ケンタはふとミルキーの事を思い出した。

「京子ちゃんそうだよ!ミルキーがいた!二風谷の赤石だよ!」 

「あっ、そうだ!赤石と黒石も共鳴し合うのよね。その手があったわね。
ミルキーとコンタクト取るわ」

ここは二風谷。京子はミルキーに念を送り気配を読んだ。

「あっ!京子さん久しぶりダニ。来てくれたダニ?・・・うれしいダニ」

「ミルキー突然ごめんね」 

「ぜんぜんかまいません。尋ねてくれてありがとうダニ」

「実はね・・・・」と経緯を話した。 

「そうですか。たぶん二日あれば探せると思うダニ。但し、封印が
掛かってたら感知出来ない可能性もあるダニよ。
あんまり期待しないで待って下さいダニ」 

「ミルキーありがとう。恩に着るよ」

しばらくしてミルキーの気配があった。 

「おや?ミルキー、ありがとうね。で、どうだった?」

「京子さん、やっぱりひとつは封印してあるみたいダニ。
もうひとつは余市の隣町で仁木の神社の小さいお堂の辺りみたいダニ」 

「へ~~!そこまで解るのかい?凄いよミルキーは!」

「シリパの会のおかげで力がついたみたいダニ」 

「そっかい。良かったね。ありがとう。ついでにシリパの会に寄ってったら?
 サキちゃんもスタッフとしていつもいるよ」 

「はい寄ってくダニ」

ふたりは仁木神社に向かった。 

「ここか、お堂があったよ。まず参拝しようか?」二礼三拝した。 

突然ケンタの様子が変だった。 

「ケンタどうしたのよ?」 

「ごめん。上半身が痺れて死ぬかと思うような衝撃だったよ」 

「へ~~!」ふたりはお堂の周りを探した。

「あった・・・!」京子が見つけた。 

「これだよね。ケンタ触ってみてよ」   

ケンタは石を握った。

次の瞬間また電気が走り異空間を移動していた。

ケンタが視たのは大正時代の仁木だった。

数人の村人らしき人と神主さんがこのお堂に祝詞をあげていた。 

この神社のご神体に魂入れをしてるようだった。

天地を貫く紫色の光が視える。

天照大御神とガイドが教えてくれた。

ケンタは戻った。

「この石で間違いない。久々に石でトリップしたよ。同じ感触だった」
 
ふたりは寄り道せずに札幌に帰った。部屋に戻って石を綺麗に洗い
太陽光を浴びせた。

「ねえケンタさあ、この仕事も使命感があっていいけどさ、
もう米びつの底が見えてるよ。また、狸小路にでも座るかい?」

「僕も一緒に座ろうかな・・・?」

「イヤだよ。ふたりでなんか」

「違うよ。僕は僕で絵とか詩を描いて、やり方を変えた占い師ってどう?」

「面白い」

ふたりは夜、狸小路に座ることになった。

「言い掛かり付ける奴がいたら私にいいなよ。それと、ここじゃアタシは
シリパで通してるから呼ぶとき気をつけてね。じゃあ・・宜しく!新米さん」

「僕はKENでいくよ。シリパ先輩宜しくお願いします」 

「おう任せな新入のKEN。但し、売上の30%は私に上納しなよ新米さん」 

ケンタは久々にガッペむかついた。

KENは占い相談に来てくれた客にガイドからのメッセージをひと言、
書にして添え営業した。

途中シリパは何度も冷やかしに顔を出した。

平日はふたりで売上が一万円。帰りは早くても12時近かった。 

それから、もうひとつの石の捜索方法をふたりで話し合うのが日課になった。

「砂の中からダイヤを探すようで滅入ってきそうだよ。ケンタはどう?」 

「うん。さすが手掛かりが無いのは滅入るよ」

ある朝、ケンタは夢を視た。

『大切な山は神河の東』

??ケンタは解らなかった。京子に聞いても無理だった。 

半分諦めかけていた。ふた月ほど経ったある日、客のひとりと話してると

「僕の出身は上川町です」と言った。 

KENは首を傾げた。

「上川?それってどの辺でしたっけ?」

「大雪山の下、層雲峡と旭川の間です」

KENはピンときた。

「あっ!」 

「どうかしましか?」客は何のことか解らなかった。 

「あのう、神河ってありますか?」 

「神河って聞いたことあります。東川町の方じゃないですか?」

さっそくケンタと京子はネットで調べ、飛んだ、大雪山の東上川とふたりは仮定した。

そこは東川神社だった。

仁木神社と同じくらいの御堂があった。

ケンタは石を取り出し注意深く様子を観察した。

なんの反応もない。本殿に向かった。ここも天照大御神とあった。 

京子も「なんの変化もないわね・・・ここじゃあないのよ。
ケンタ、せっかくだけど帰ろう・・・」

「・・・そうしようか」 

ふたりが車に乗り、来た道を戻ろうとした瞬間、道路にリスがいて
進行を妨害した。 

とっさに京子が「待って!」と声をあげた。 

「どうかした?」 

「やっぱりここよ。りすが帰るなって進路妨害したの。
もう少し気配を感じてみようよ」

「了解」ふたりは車内で瞑想した。 

ケンタが目を開けた『木の下』ふたりは車から降り意識を集中した。 

一時間ほど経過した時、さっきのリスがいた。京子はそのリスに
導かれたかのように近寄った。 

「ケンタ」京子の声がした。 

「あったのかい?」

大きな木の根元に黒い小さい石があった。

ケンタが「二つの石が同調してる。これだね間違いないよ」

「よかった。リスさん導きありがとうね。これで三位一体よ」

それからふたりは車中泊しながら各寺社の封印と解いて廻った。

ひととおり北海道を廻ったふたりは久し振りに自宅でゆっくり休息をとった。

京子が「なんか独特の達成感があるね。廻って初めて解ったけど天照大御神って
多いのね。それって分霊って言うのかな。あとお寺は一軒も無いのね」 

「お寺は人間が造ったもので、今の役場の住民課的な役目が事の始めだから、
本来の信仰の形態と違うのかもね。だから神社周りが主体だったかもね」

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-9

9、旅立ち

ケンタと京子は二人揃って余市町に帰郷した。 

「ねえケンタ、のどかね・・・やっぱり田舎はいいね・・・」 

「山・川・海。余市町は三拍子揃ったいい所だよ・・将来は余市町かな?」
運転しながらケンタは呟いた。

トンネルを潜り余市に入ってすぐ右手の海の方に巨大なUFOが浮かんでいた。 
一辺が200m以以ありそうな三角形のUFOだ。二人はしばらく見入った。 

ケンタが「こんな田舎に何の用事だろうね?」 

「それにしても見事ね。他は誰も気付いてないみたいよ。見てないもの」

「そっか僕達だけか・・・」

「もしかして私達になんか用事があるわけ?」 

ケンタは京子と金星の一件を思い出した。

ケンタの実家に着いた二人はその事には触れないでいた。

夕食を済ませ、ろ酔いの二人はUFOの事を語り始めた。 

ケンタが「何だろうね?あれは母船だよ。余市に地震か何か起こるのかなあ?
東北の地震の時もその前後はUFOだらけだったから」

「二人でUFOに繋がってみようか?」

「さすが京子ちゃん、物怖じしないね」 

「よし!コンタクト取ろう」 

二人は手を繋いで瞑想に入り、体外離脱して二人はUFOに乗り込んだ。

ケンタが「うわっ!広いね・・・こりゃ案内がいるね・・・
誰かとコンタクト取ろうか・・・?いいかいやるよ」

次の瞬間別の空間に二人は移動していた。目の前には霧状の光った意識体が二つあった。 

ケンタがコンタクトを開始した。 

「私はこの町に縁のある者。何かこの町に用事でもあるんですか?」 

意識体は「驚かしてすまない。あなた達に用事があって此処に来ました」 

「?・・・僕たちに??な・何でしょうか?」

「我々の仲間は世界中に網羅して、あなた達のような方とコンタクトを勧めてきました。
今回もその一環です。あなた達二人だけで出かけるのを待っていました」 

京子が「あんた達はストーカーか?おい」宇宙人を恫喝した。 

「話を聞いて下さい。これは人類の未来にも関わるる話なんです。 
今の地球は夜明け前の一番暗い苦しい時期です。お二人も既にご承知のとおりです。 

この地球は今後二つの道に分かれて進む事に決定してます。それもご存じのはず。 

それで、新生地球の為の先駆者をひとりでも多く増やしてほしい。
いわば新人類の育成・・・」 

「で?」 

「今のシリパの会を閉鎖するか、お二人には脱会してもらいたい」 

「どうしてよ?」 

「今の会は正直、神秘主義の会で趣旨が違います。いまのメンバーは能力を
付けたい人の集団で自分の欲求を満たす為に存続してる会です。 

残念ながらこれからの地球は実践的でなければならないのです。 
今の会を軌道修正するには時間が掛かります。 

それなら閉会するか新しく趣旨の違う会を結成するかしか。 
二人にはよく考えていただきたい。 

地球は両極の氷が溶け始めています。するとその多くの水が増えて重力
バランスが変わります。今のバランスが変わりより球体に近くなります。 
そうなると極の移動も否めません。

地震や火山活動が増えます。結果、人類に多大な悪影響を及ぼします。 
決して遠い未来でなく、すぐそこまで来てます。

そうなった場合地球の人口は大きく減るのです。 

その事はハッキリ言って阻止できません。だから一人でも多くの人間を
アセンションさせる手助けが必要となります。 

それには今の体制では無理なのです。今ある習慣を変えなくては新しい
地球に移行できません。

古い体制の地球、つまり今の地球にしか住めなくなります。
今後、時間が消滅した世界では思ったことがすぐ形になります。

つまりもう一つの取り残された世界は修羅場となります。
これは間違いなくそうなります。 

何故なら宇宙ではそうなった星が多くあるからです。実証済みです。 

話が長くなってすみません。早い話が二つに分離される地球の片方の
新地球へ多くの魂を移行させるお手伝いをしませんか?と言う提案です。 

我々地球外の魂はこの事に直接関与できません。だからこういう形を取って
いるのです。お判り頂けましたか?」 

ケンタは「大方の見当はついておりました。ですが今、急にシリパの会の
解散・離脱といいますが我々にも準備が必要です。
返答の余地は無いと思いますがいつ頃までに返答したらいいのですか?」

「すぐです。もう既にあなた達はその事を決めて生まれてきてます。 
あとは実行のみです。すでに奥様の心は決定しています。奥様、頑張りましょう」 

ケンタは京子の顔を覗いた。 

京子はケンタの顔を見て黙ってうなずいていた。 

ケンタは「・・・・・解りました。札幌に帰ったら早速、行動に移します。
今後とも我々二人を導いて下さい。お願いいたします」

二人の意識は戻ってきた。 

京子が口を開いた「さっ、つべこべ言ってる暇無いよ。帰ったら5人集合して
伝えましょ。その前に私達の意向を確認しましょう。ケンタはどうしたいの?」 

「僕は二人が抜けて、あとは三人に任せたいと思う。それでもう一人スタッフを
増やそうと思う」 

「それ賛成よ。スタッフにいい子がいるのよ。サキちゃんって子なんだけど、
ミルキーさんが来たとき面倒をみてたの。本質をついた見方が出来るのよ。 

彼女なら素質ある。そして考えたんだけど、置土産に石を置いていくのはどう?
もともとケンタの石だから・・・これは私の意見だけど・・・」 

「うん、僕もそう考えていた・・・」 

「じゃ、決定だね。早速、集合かけるよ」 

「うん頼む」

二人は余市の空を眺めた。澄んだ空に星が綺麗に輝いていた。 

「こんな運命になろうとは子供の頃思いもしなかったわよ」 

「僕もさ」


 居酒屋リンちゃんに5人集合し、余市であった事を包み隠さず説明した。 

京子が「そういうわけで、二人は脱会させてください。
今後私たちはどんな活動になるかまったく決まってないけど。

決まったら連絡する。あと、スタッフをひとり育ててあるのね。
みんなの意見を聞いてからと思って今日は連れてきてないけど素質あるの。

妖精のミルキーの面倒をみてくれていたサキちゃんなんだけど、みんなの力になるわよ。

それとシリパの会に置みやげがあるの。この石使ってください。
ケンタと私から皆へのお礼なの・・・本当に勝手言ってすみません・・・」

ケンタと京子は深々と頭を下げた。 

ママが「事情は解った。二人の決意は固いようだから反対は出来ない。 
でも、これだけは云わせてちょうだい。 

この会は、この場所で三人で発足したの。ここが船出の場所。
ケンタくんと京子ちゃんががいなかったらこの会は存在しなかった。
私はそれを忘れない。

石は単なる切っ掛けで、この会に命を与えてくれたのはケンタくんなの。 
だから何かあったらこの会はいつでも応援します。 

いや、もし会が応援しなくても私は全てを投げ打ってでも二人を応援する。 

平凡な飲み屋のママで終わるはずの人生が、こんな充実した人生に
なったんだもの・・・困ったらいつでも言ってちょうだい」 

ママは言葉に詰まり下を向いた。 

メメが口を開いた「私もママと同じです。応援させて下さい。 
私も平凡なOLでした。京子さんに出会って人間として育ててもらいました。 

今は指導する立場にまで育ててもらいました。このご恩は忘れません。 
お二人のお手伝い出来る日が必ず来ると思っています。 

その時は無条件でお手伝いさせてもらいます。私からの最大級のお礼を
言わせて下さい。ケンタさん京子さん、どうもありがとうございました・・・」 

マチコママが「今日も貸し切りで飲み食べ放題やっちゃいます。 
二人の旅立ちに乾杯!」

みんな笑顔で泣いていた。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-8

8,ミルキーの別れ

ミルキーがシリパの会を訪れてから約一年が過ぎた。

シリパの会でもすっかり人気者でミルキー目当てに来る会員もいるが、
ただ普通に好奇心だけではミルキーは見えないので自分の波動を上げる
必要があった。 

最初の切っ掛けはミルキーへの好奇心であっても、そのうち自分の
固定概念が邪魔になっていることに気付き始め会のプロセスに沿って
実行するようになり意識が変わる者も多くいた。

会員のひとりが「ミルキーさんって結婚とかしないの?」 

「私はシャーマンだからしなくてもいいダニ。でも、今後は解らないダニ」

「好きな人いないの?」

「旭川のコタンにひとりいるダニ・・・ダニ。 

私達の結婚は人間の世界のと違うダニよ。

私達は魂の結合を意味するの。だから結婚すると二つの魂が一つに重なり
合って新しい一つの存在になるダニ。それが私達の結婚の意味ダニ」 

「なんかステキですね。ありがとうございます」

このような形でミルキーはいつも質問攻めであった。

そんなある日ミルキーが京子の所に来た。 

「京子さん、そろそろミルキーは二風谷に戻る時期が来たみたいダニ。
これからは本格的に北海道の自然界の浄めの旅に出なさいと長老さんに
指示されたダニ」 

「ここを拠点に出来ないのかい?」

「二風谷には特別な場所があって浄めの旅で、下がってきた波動を調整して
くれる場所があるダニね。だから二風谷を拠点にするのが都合が良いダニ」 

「そうかい。こっちの都合ばかり云えないよね。じゃ、みんな集めてミルキーの
送別会しようかね。」

「京子さん、ミルキーはこのまま二風谷へ帰ります。シリパの会の皆さんに
会うと別れが辛くなる・・・ダニ」

「そうかい、またおいでよ。いつでもあんたは大歓迎さ。楽しい日々を一緒に
過ごさせてもらったわ。ありがとうございます。立派なシャーマンになってね」

京子の目から涙が溢れてきた。

ミルキーは手を振りながらゆっくりと消えていった。

メメちゃんちょっと来て京子が云った。

「実は今朝ミルキーがきて・・・」事の次第を話した。 

「だから会員さんにミルキーからくれぐれも宜しくと伝えてね」

「そうですか。解りました。皆さん残念がるわね・・・私も寂しいです」

ミルキーとの別れから数ヶ月が過ぎ、ミルキーの事を語る人も少なくなった。
そしていつもの日々が流れた。
 
ママが呟いた「あ~あ、こんな空白の時間にはミルキーちゃん最高よね。
色んな話題提供してくれたわね。特に動物の意識とか自然の摂理の話し
なんて楽しかったわ」 

メメも「そうですね。今まで人間サイドだけの考えで、とくに動物学者さん
なんて語ってたけど実際にミルキーさんの話しと大きく違うところ多かったわね。
勉強になったわ」 

「そう、動物はオーラを視て感じてるなんて絶対に学者さんなんて
解らないわよね・・・」

「今頃お浄めの旅で、あっちこっち飛び回ってるのかしらね」

二人は宙を見つめていた。

「ごめんください」訪問者があった。 

「ハイ」メメが応対した。 

「あの~~う。私はオイマツと申しますがこちらにミルキーさんという
妖精さんが居ると聞いて来たんですけど・・・」 

「ミルキーとは非物質の存在でして、誰でも視えると云うものではありません。
それに今は日高に帰郷しましたが何かありましたか?」

「そうですか。実は私の家の納戸に小人さんが数人住んでるみたいなんです。
私は見えないですけど気配と話し声を感じるんですね。 
それでこちらにもそういう方がいると聞いたのでお邪魔しました」

「そうですか。それでミルキーさんにご相談というのは?」 

「はい。何故、我が家なのか?何か要求ごとがあるのか通訳って云うんですか?
その子達の声を聞いて欲しいと思って訪問させていただいた次第なんです」

「そうですか。チョット待って下さい」メメはママの顔を見た。 

ママが「今言った事情でミルキーは日高に帰郷したんですよね。もし良かったら
私で良ければ、その小人さんに話し聞いてみましょうか?」 

「えっ、お願い出来るんですか?」 

「断言は出来ないですけど、試す価値はあると思います。わたしミルキーという
妖精とコンタクト取れてましたから試す価値はあります」

「はい。ではお願いします」 

「それでは深呼吸を三回して私の手を取ってその情景を心に思い浮かべて下さい」

「ここでですか??」

ママが「あの世界は時間や距離がないんです。いつも今なんですね」

オイマツはママの手を取って思い浮かべた。

ママはその納戸に飛んだ。するとそこには6人の妖精がいた。 

「こんにちわ、私はマチコといいます。この家の方があなた達が何の
目的でこの納戸にいるのか教えてほしいと私の所に相談に来たんです。

それで私がここに来ました。事情を聞かせてもらえませんか?」

マチコママは単刀直入に聞いた。

「私達は白老町のコタンから来た妖精ダニ。ここの子供さんにレイトくん
という私達の知り合いがいるんですけど、ここに生まれる前は私達の仲間
だったダニ。今度は人間として生まれるから、生まれた時には是非遊びに
来てねって言われました。

明日がレイトくんが誕生して三年目なんです。それが過ぎると私達の意識が
伝わりずらくなるので最後の誕生祝いの儀式を何日間かやってました。

それも明日で終了です。驚かして申し訳ありませんダニ。明日になったら帰ります」

ママは戻ってきた「オイマツさん、もう少し私に時間くれますか?」 

「ハイ、かまいませんけど」再びママはオイマツの手を握り集中した。
 
そこは白老のコタン「オイマツさんここは白老にあるアイヌのコタンです。
この集落の湖の奥まった所を意識してくれますか?」 

「はい、小さな人たち数人が花から蜜のようなもの?を集めてます」 

「あの人達はここの妖精達です。そこにオイマツさんの知ってる人がいますか?」 

「あの黒い毛皮のベストを着た妖精さんってたぶん、私・・?見覚えあります」

「よく思い出してください・・・」

「たぶん私です。その横にいる髭の人が主人です」

「そうですか。そのご主人が今のあなたの息子さんのレイトくんなんですよ」 

ふたりは戻りマチコママが「いまのビジョンで息子さんとの縁が解りましたか?」 

「はい、夫婦でした・・・」

「それは大いにあり得る事です。不思議でも何でもありません。お宅の納戸に
いる妖精達はレイトくん誕生の祝いの儀式を数日掛けてしていたようですね。 
レイト君が生まれる前の彼らとの約束みたいですっよ。
明日には終って帰るみたいです。ご迷惑掛けたこと詫びてました」

「そうでしたか・・・ありがとうございました」 

狐につままれたように半信半疑でオイマツは帰っていった。

「ちょっとサービスし過ぎたかしら?聞くよりも視た方が早いと思って
サービスしちゃったわよ。余計な知識がない人の方がトリップするの楽ね。 
それと妖精も人間に転生するんだと解ったわよ」

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-7


7、同窓会

12月の中頃、シリパの会に珍しい訪問者二人が顔を出した。
ケイスケと蛯子であった。

「こんにちは」ナベが出た。

「あっはい!いらっしゃいませ」 

「蛯子と申しますが、京子ちゃんおりますか?」奥から声がした。 

「蛯子かい?」 

「そうで~~す、蛯子です」

「ナベさん、今、留守って言って、帰えってもらって・・・」

聞いていた会の全員が笑った。

奥から京子が出てきた。

「なに?詐欺師蛯子、あんたが来ると良いことないからね」

「京子ちゃん相変わらずだな・・・もう時効だよ・・・」 

「何、蛯子その馴れ馴れしい態度は・・・・で、二人揃ってどうかしたの?」

ケイスケが「今度、札幌のホテルで中学校の同窓会を予定してるんだ」 

「良かったじゃない。それで?」 

「それで、京子ちゃんに幹事やってほしいんだ」 

「良いよ。但し仕事優先だからね。それでいいならここに出欠の
ハガキ集まるようにしておいてよ。あとは誰が幹事なの?」

「僕達二人とハマさんの4人」

「ハマさんか・・・懐かしいね。今、何してるのさ?」 

「結婚して小樽で美装屋さんで働いてるって」 

「そっか・・・うん、了解したよ」 


 同窓会がジャスマックプラザで開催された。総勢85名の会だった。 

ケンタと京子は雛壇に立たされ結婚を全員に祝福された。

「ありがとうございます」ケンタがお礼を言った。 

その横では京子が目を険しくして一点を視ていた。 

ケンタが「・・・どうかした?」と言いながら寄ってきた。

「ケンタ、あのマサコの左横視て」

ケンタにはすぐ意味が解った。

「あいつ確か・・・」

「そう、B組のケンジよ、間違いないわ」 

「あいつ3年前に車の事故で死んだはず・・・どうしたんだろ?

・・・いいから、ほっておこう」 

京子は渋い顔で「うん解った」

ハルミが京子の横に来た「京子ちゃんおめでとう」 

「ありがとう、近場で手を打ったわよ・・・」 

「ほんと、でもみんなはそうなるって思ってたわよ」 

「そうなんだ。ところで話し変わるけど、ハルミはB組よね。
死んだケンジとマサコって何かあったっけ?」 

「京子知らないの?あの二人結婚寸前だったらしいのよ。
それであの事故でしょ、一時はハルミ落ち込んでしまい自殺未遂までしたとか。
それ以上の詳しいこと知らないけど今日は久々に見たわよ」 

「フ~~ん」  

蛯子とケンタが近づいてきた。

「よっ京子ちゃん飲んでるかい?」 

「飲んでるわよ。詐欺師蛯子、今日はお疲れさん」 

「あんたもまともに挨拶出来るんじゃない」

「京子ちゃん、ケンタは?」ケイスケが聞いた。 

「ケンタ?知らないわよ。戻ったら何か伝えておく?」 

「いや、俺たちで探すよ」

京子はマサコの横にいるケンジがやはり気になった。

トイレにいた京子が戻ってきた。 

会場を見渡すと、なんとケンタがマサコと話しをしていた。 

その上からケンジがケンタを睨んでいた。 

ケンタ本人もその事を知っていた。 

京子が近寄った。 

ケンタが京子に向かって「ちょっとマサコちゃんと京子話してくれる?
僕トイレに行くから」

どういう訳かケンジもケンタのあとを着いていった。 

ケンタは声にならない声でケンジと話を始めた。

「なんで彼女に付きまとう?」 

「マサコは俺の嫁だ。俺が何しようがオメエに関係ねえ」 

「そうはいかない。マサコちゃん苦しんでるぞ。解放してやれよ」 

「オメエに関係ねえ」 

「ケンジは死んだんだ。マサコちゃんと住む世界が違うんだ。
冷静に思いだしてみろよ」

「おれはこうしてここにいる。それにしてもお前誰だ?うるせえ野郎だな」 

「俺はお前のこと知ってるぞ。ケンジって言うんだよ」 

「ケンジ?ケンジ?どっかで聞いたことある・・・?けど関係ねえ」

ケンタはポケットから石を出した。

石は急に光り始めた。

ケンジは何かを思い出したようにじっとしていた。 

そして突然柔和な顔になり自分のガイドと消えた。

ケンタに「ありがとう」と伝わってきた。 

ケンタが会場に戻ると京子とマサコがにこやかに話していた。 

京子が「お疲れさん。マサコのガイドから聞いたわ、お礼言われたわよ。
マサコも急に顔色が良くなったわ」

会場内では蛯子が酒を飲み過ぎたらしく鼻水を垂らし寝ていた。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-6

6,リョウゼン

 札幌は山から冷たい風が降りてくる季節になっていた。 

最近シリパの会は異色の新会員さんの話しが多くなされていた。 

その新人さんはリョウゼンといって、若干20才の青年。 

彼はサバン症候群で、一度見たものは忘れずにそのまま絵に描くことが出来た。
その類い希な才能は北海道内では有名でTVに作品が紹介されたりもしていた。 

ひょんなことからここに入会してきた。担当は京子だった。 

「リョウゼンくん、私と一緒に200年前の日本に行ってみない?
どうせなら京都なんてどう?」

「な、なんで?なんで?」 

「200年前の京都はリョウゼンくんの描きたい物が沢山あるような気がするのよ」 

「はいはい、行きましょう」

「ハイは一回でいいの。じゃあ深呼吸を3回してから私の手を握ってね。
目を閉じて・・・リョウゼンくん行くよ!」

ここは200年前の京都の四条大宮だった。

「ここから四条通りを八坂神社に向かってゆっくり移動しようね」 

「はい」 

「リョウゼンくんどう?描いてみたいもの沢山ないですか?」 

「京子ちゃんここの街とっても良いだすね!ゆっくり移動して下さい」 

「リョウゼンくんチョットまって。君、なんか変わった?」 

「実は違う世界に来ると感覚がみんなと同じくなるんですね。
何回トリップしてもこの感覚なんです」

「なるほどね!私たちのいる世界だけがリョウゼンくんの表現が普通と
違うのね。なぜかな?・・・面白い」

京子は続けた「リョウゼンくん何でだと思う?」 

「解らないです。僕のもっと深い部分に何かあるのかも知れません」

「リョウゼンくん、ここが四条河原町よ。昔は呉服屋さんと旅籠が多いのね。
そば屋もあるし時代劇と似てるね。四条大橋の手前左が先斗町で橋を越えて
右が祇園で正面が八坂神社よ。清水寺に行ってみようか?」 

現代とは先斗町も祇園も全然違う。二人は三年坂を通って清水寺に着いた。 

京子が「全てが全然違う。全然観光化されてないよ。すごくシンプルね。
門前に数件茶店があるだけよ。リョウゼンくん、ここ絵になる?」 

「はい、清水の舞台は変わってないです。それと下に広がる町並みの
茶と黒のモノトーンはそれなりに面白いと思います」

「なるほど。絵のセンスは変わってないのね」

「せっかく京都に来たから他も観る?」

「比叡山」 

「じゃあ、手を握って」 

「さすがここはお坊さんばっかりね。天台宗か。大きいお寺ねこれが延暦寺か・・」 

「あのお坊さん、僕だよ・・・」 

「えっ?・・よく見ると目の辺りが似てるわね。何を話してるの?・・
大峯千日回峰行がどうしたって?私解らないわ。リョウゼンくん解る?」 

「解りますが説明が込み入って面倒くさいですよ。聞きますか?」 

「今度ゆっくり聞かせてね。で・・ももしかしてそれでリョウゼンっていう
名前なの?もしそうだとしたら君の親も凄いね」
 
ひととおり京都の街を見て回り二人は現代に戻ってきた。

京子の第一声が「面白い発見があったのよ。ナベ、今晩四人にマチコママの所に
招集掛けてもらえるかい?頼むね」

京子はミルキーと狸小路を歩いた。

「ここに座ってカウンセリングの商売を始めたのがこの仕事の
切っ掛けなのよ。メメともここで出会ったの。私達の原点よ」 

「京子さん久しぶりです」 

狸小路の仲間に「これ鯛焼き差入れ。みんなに配りな・・・はい」 

「この人達も古い仲間なの」京子は一瞬セキロウを思い出した。

居酒屋シリパで久々に5人が揃った。

「今日は急にすみません。実はリョウゼンくんという自閉症の会員さんが居るの。
彼はサバンなの、その事は問題じゃなく、実は二人で200年前の京都へ
一緒に飛んだのね。そしてリョウゼンくんと会話をしたの。 

ところが、なんか私の知ってるリョウゼンと違うのよ。 

なんと、普通に私と会話してるの! 

つまり別世界では障害が無いのよ。当然と言えば当然の事なんだけどね。

で、リョウゼンくんはこの世界だけの表現方法が自閉症だとしたら、
やり方次第では健常者と同じ表現出来ると思ったのね。

リョウゼンだけじゃないわよ。世の中に沢山いるの。

どう思う?やり方によっては潜在意識に働きかけるから
表立ってやらなくても可能性があると思うのね。

ただリョウゼンくんのようなサバンの子はその才能まで無くなってしまうか
どうかが課題なのよ。みんなどう思う?」

京子は一気に語った。

ケンタが「京子ちゃんの言わんとしてることは解る。でもこちら側の見解で
仮にそういう子が健常者になった場合、周りも変わらなくてはならない訳だよね。

もし絵の才能が無くなったら、ごく普通の子に変わるわけだよね。
そうなった時、こちらの対応とか・・」

ママが「う~~ん、確かに会は病院と違うからとっても難しいよね」 

メメが「京子さんの云うように自閉症は肉体的問題が無いから治ると思います。 
ただ、それを良しとする家族の場合はかまわないけど、今が良いと思ってる
家族もいると思うと正直考えちゃいます」

ママが言った「条件付きならどうかしらね?例えば自閉症が発覚してすぐとか、
つまり幼いうちって事よ。
あと、例えば40才くらいの大人の場合、いきなり健常者になったら世の中を
上手く渡っていけずに逆にストレスを感じると思うのね。

数十年分の世の中を健常者の目線で勉強しなきゃいけないから大変なことだと思うの。

それなら元のままが良かったと思ったって遅い気がするのね。どう思うナベちゃん?」

「僕はすぐに結論出せません。現にリョウゼンくんはうちの事務所の会員さんで、
よく知ってるけど会うたびに笑顔で楽しそうなんですよ。
この会が大好きみたいなんです。

彼を健常者にするっていう事は彼本人と周りが変わらなければ成立しないと思います」

「さすがナベちゃんね、それで?」 

「わかりません・・」皆こけた。 

京子が「そうよね。簡単に結論出せる問題じゃないよね。世の中自閉症と言う
障害があっても、すごい発明や発見をする科学者や物理学者がじっさい存在
するんだもの。チョット私、軽率だったかも・・・反省します」 

ママが「でも、リョウゼンくんのケースはとっても役に立ったわ。 
なんか人に言えないけど重要なこと学んだ気がするの。

いい勉強になりました。ありがとう京子ちゃん」

メメは「本当に可能性って無限ですね。ところでミルキーさんは今の
話しどうでしたか?」 

「ミルキーも勉強になったダニ。私達の世界には病気がないから考えた事
ないダニね。私たちは基本が動物と自然と調和に限定されてるダニ。
でも人間って面白いダニ。今度生まれる時は人間も良いかもねダニ」

みんな笑っていた。

ママが「京子ちゃん、それでリョウゼンくんのこと今後どうするの?」 

「親御さんに一度打診するわ。せっかくの可能性だからやり過ごすのも
どうかと思うのよ。結論はお任せね」

シリパの会の壁には数枚の絵が飾ってあった。

すべて京都の古い町並みであった。

リョウゼンくんの事は身内の希望で、今のままで良しとされた。 

だが、シリパの会には日の目を見ない極秘のプロセスが追加された。

やがてリョウゼンは日本画壇から「天才アーティスト」の称号を頂くことになる。  

当のリョウゼンはそんなことはお構いなしでシリパの会にいつもどおり顔を出し、
みんなと楽しいひと時を過していた。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-5

5、動物園

京子はミルキーに「あなた達は何人くらい居るの?」 

「二風谷で50人位7グループ。北海道全地域に生息していてここ札幌にもいるダニ」

「食事は?」

「木の芽や野草が主で海の民は海藻も食べるダニ。原則、肉系は食べないダニ。
寿命は基本好きなだけ生きられるダニ」 

「娯楽は?」

「笛・太鼓・踊り・童話ダニ」 

「結婚、出産は?」 

「結婚は別の集落に行ったり来たり。子供は夫婦で念ずれば次の日には出産するダニ」

「質問攻めで本当にごめんなさい。争い・戦争の類は?」 

「無いダニ。こちらの世界は自己利益追求で侵略し奪い合いの為に戦うダニ。
 私たちは調和と奉仕が全てという理念。奪いあう、と与え合う、の違いダニ」

「あなた達にとって神とは?」 

「自然を司るのが神ダニ」

「学校は?文字は言葉は誰が教えるの?」 

「全て無い。正確に言うと必要ないダニ。最初から知って生まれるから
誰も教えない。教わらないダニ」

「最後にあなたは誰?」 

「私はあなたで、あなたは私。それ以上でもそれ以下でもないダニ」

「ミルキーさんありがとうね。久しぶりに真剣に話したよ。
ミルキーさん達は素晴らしい世界に住んでるのね。勉強になりました。
ありがとうございます」 

「長い間私たちは人間界に知られず生きてきたダニ。
たまに里の人間に姿を見せたら、物の怪とか妖怪などと噂され続けて
生きてきたダニ。今、本当に分かち合えてうれしいダニ。 

もっとも、昔はお互い交流してたのに、いつしか伝説扱いにされたダニ。 
今回あなた達と解り合えたのが嬉しいダニよ。

村長に話したら喜ぶダニよ。たぶん200年振りとか言われそうダニ。 
京子さん、サキさんありがとうダニダニ」


 会員のショウタが宇宙人の話をしていた。

それを横で聞いていたミルキーはその会員に話しかけたが会員には視えずにいた。

それを見ていた京子は二人の通訳にはいった。 

「ショウタくん、ミルキーが話をしたいらしいのね。通訳する?」 

「はいお願いします。今どこに居るんですか?」 

「この花瓶の横にいるの。私はそのまま伝えるからね。ミルキーさんどうぞ」 

「宇宙人と私たちは交流してるよ。昔から地球に来てるけど地球人が宇宙人達を
認めるまでは干渉出来ない決まりがあるだって」 

「でもTVとかでよくやってるけど?」 

「あれは地球人が操作してるものと、実際の事が含まれてるんですって。
その場合、その地球人も了承してこの世に生まれてるんですって」

「何をしに地球に居るんですか?」
 
「あなたは蝉が木の幹で殻からもうすぐ出ようとしてるのを見たら、
出るまで見届けようと思いませんか?」

「思います」

「それと同じで、今地球が脱皮しようとしてるから宇宙人は見に来てるんだって。
脱皮したら宇宙人が実は沢山地球にいるのが解るはずだって」

「なんで視えないのですか?」

「まず、半霊半物質という事と動きが速すぎて今の地球人の目には映らないですって」

「ふ~~ん」 

「ショウタロウくんまだある?」 

「半霊半物質って何次元ですか?」

「4,5次元ですって」

「SFのような地球侵略ってあるんですか?」

「私の知る限り邪悪な宇宙人はいませんって」

「名前や性別はあるんですか?」 

「名前も性別も必要ありません。そこが超越した存在の宇宙人と人間との違いだって」 

「解りました」


「はい、ショウタくんもういいの?」 

「はい結構です。ありがとうございます」

「僕、ミルキーさんにお目に掛かりたかったよう」

「君の意識を変えれたらばっちりよ。制限を外してね。中程中程」

「え~~と、ミルキーさんは何かある?」

「ショウタくんは7という数字に縁があるから今後大切にしてねってそう言ってるよ」 

「ありがとうございます」

「ねえミルキーさん、明日なんだけど私に半日でいいから私に付き合わない?」 

「どこにダニ?」 

「円山動物園よ」 

「行くダニ」


京子とミルキーは動物園にやってきた。

「さあ、ここが動物園よ。動物の意識をいろいろ教えてね」 

「ダニダニ」

「ここが鳥、猛禽類ね。意識を視てほしいの」

「大ワシやオジロわしか。この意識はね、基本捕食だけど風を読むのが好きダニ。 

目に見えるのは小動物のオーラと同じ仲間のオーラ。

同類の雌と雄の違いはオーラで瞬時に見分けるダニ。

普段はのんびりした意識ダニ。お腹が空くとあの目が役に立つダニ。

でもカラスがよくバカにしてるダニよ。力は下でも意識は上ダニ」

「ねえ、カラスって世界中に生息してて悪賢いでしょ?何故なの?」 

「カラスの賢さは持って生まれた才能ダニ。生物の意識が形で視えるダニ。

そしてそれを認識してるダニ。だから死に逝く生物は目で判断出来るダニ。

だいたい当たってるダニ。鳥類の中では意識は上。 

私たちコロポックルに肉体があったら全員カラスにやられて絶滅してるダニ」

「草食動物はどう?」 

「ひたすら食べることを考えてるダニ。野心が無いから発展性もないダニ。
性格も穏やか・・・地を這う安定感ダニ。

動物園のライオン・虎・チーターなどの猛獣たちは意識的には草食に近いダニ。

ここの暮らしが長いからかな?野生の意識を外に向けなくても食べて
いけるからダニ」

「猿はどう?」 

「猿は・・・チンパンジーのオーラが人間に一番近いダニね。ミルキーも初めて、
こんな賢い動物は・・・京子さんチョット自由にして良いダニか?」

「思う存分どうぞ」

ミルキーはオリに近づいた。その瞬間、何かを察したチンパンジーは
挙動不審になった。ミルキーはチンパンジーの横にいた。

次の瞬間、一匹のチンパンジーに重なった。

京子の方を向いて手を振り始めた。京子も手を振り返していた。
そして手振りで京子とミルチンパンは会話をしていた。 
遠くでその様子を見ていた飼育員が京子に寄ってきた。 

「あのうお客さん、ちょっといいですか?」 

「・・・はい?」いきなりだったので京子もびっくりした。 

「お客さんこのチンパンジーはノアって言うんですが、何かコンタクトを
取ってませんでしたか?」 

京子はマズイと思った。 

「あっあのチンパンの真似をしてみたんです。可愛いですよね・・・」
とやりすごした。 

ミルキーが戻ってきた。 

「チンパンジーって今まで知ってる動物の中で一番賢いダニ。 
ああやってても次の行動を考えているダニ。

ボスに対しての信頼感もしっかりしてるダニ。

あのチンパンジーは人間を観察するのが好きみたいで特に子供が
お気に入りのようダニ」 

「私も今度やってみよっと。さっ、次は爬虫類館に行こうか?」

「ヘビは温度に反応するダニ。小動物の体温とオーラの色と体臭を
感知するダニよ。皮膚全体で感知出来るダニ。 

だからいつも新鮮な皮に取替えるダニ。乾燥が嫌いダニ。
この類の動物はみんな乾燥が嫌いダニ」 

「ミルキーさんありがとうね。おかげでとっても楽しかった・・・」

「京子さん、さっきから気になってる事あるダニ」 

「何?」

「この辺に龍がいるダニ?龍の気配がするダニ。龍は私たちと同じ世界に
いるダニ。自然を司る力があるダニよ」 

「そうだ、この山の辺りは結構龍神さんを奉ってるわよ。
ミルキーさん感じるんだ?出たら教えてね」 

ミルキーがすでに京子の左後ろ上空を指さしていた。

京子が振り返った、その方向に白い50メートルくらいの大きな龍が
浮かんでいた。龍の視線は京子を観ていた。

京子と目があった。

さすがの京子もあまりの威厳さに身動き出来ないで立ちすくんだ。

ミルキーは手を振って挨拶しに龍に向かって飛んでいった。 

京子は貴重な体験に心震わせていた。

ミルキーが戻ってきた。 

「京子さん、龍が宜しく言ってましたダニ」 

「ミルキーさんなにか話したの?」

「初めましての挨拶と動物園のチンパンジーの話ししたダニ」

「ミルキーさんも人間っぽいね。全般的に動物園どうだった?」 

「はい、捕食という意識が少なくてみんな寝てるような感じがしたダニ。
全般に犬猫のペットみたいなのんびり感が野生と大きく違うダニね」

「なるほどね。今日は龍にも会えて貴重な体験をさせてもらいました。
本当にありがとう。みんなにも今日の体験を話すわね」

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-4

4、三つの黒石

サキはミルキーを会に連れてきた。 

「京子さんケンタさんに聞いてると思うけど、こちらが二風谷のミルキーさん」 

「あなたがミルキーさんね、私は京子。よろしく」

「あっミルキーです、初めましてダニ」

「あなたが赤い石の持ち主さんね?詳しく聞きたいな、その石のこと」
 
「はい、昔から我が村に先祖代々伝わった石ダニ。紫と青と赤の三つがあって
我が村のフチセの家計に伝わるものダニ。 
この石の効果は今ひとつ解らないけど、先日ケンタさんから少し教わったダニ。 
なんでもこの会の黒い石と波長が似てるからって言ってたダニ。 
制限を外す効果があるって言ってたダニよ」

京子が「三つの石か・・赤石ね・・・」 

「どうかしたダニか?」

「いや、この会の黒石はケンタくんが神社の裏で拾った物なんだけど、
それ以外にも存在するのかなって思ったのよね」

「サキはあるような気がします」 

「でしょ、私もなんか気になるのよね。別にほしい訳じゃないけど、
あるならお目に掛かりたいものよね」

サキが続けた「ミルキーさんが人捜しをした時に、石同士が共鳴するから
その振動を追うって言ってましたよ」 

「なるほどね」京子は何か閃いた。 

「ねえ、ミルキーさん。先日見たシリパの会の黒石も波長の共振を感じ取れる?」

「はいダニ」

「それ感じ取ってほしいのね。見てみたいのよ他の石も探してくれない?」 

「いいダニよ」

「サキさんミルキーはカムイの窓に行ってくるダニね。夜には帰るダニ」 

「ミルキーさんごめんね。お願いします」サキが言った。

京子が「サキさん、ルキーはしばらく札幌に居るの?」

「なんでも、せっかく札幌に来て知り合いも出来たからしばらく
滞在したいって言ってましたけど」 

「私、ミルキーさん見てて感じたんだけど、動物のこと詳しいと思うの。 

それでサキちゃんがあの子からその能力をレクチャーして貰うのよ。 
そのお返しに私が石の能力をもっと開花させるわ。お互いの能力を
教え合うのよ。どう?」

サキは「何だか楽しそう!戻ったら聞いてみます」

ミルキーが戻った。 

「ただいま戻りましたダニ。解りましたよ。札幌には無いけど全部北海道に
あるダニ。にっき?大切な山は神河の東黒??そんな町ミルキー知らないダニ」
 
「ミルキーさんありがとうね、ごめんね。それで、さっきサキさんと
話したんだけど・・・」京子は経緯を話した。 

「ミルキーさんはどう?」 

「楽しいダニ。この石もっと知りたいダニ」 

「じゃあ成立ね」 

「ミルキーさん、動物の事そんなに詳しいの?」サキが聞いた。 

「動物も食物も木や花も解るダニ、人間はそんなに興味ないみたいだけど、ダニ」

ミルキーのレクチャーが始まった。 

「基本的に動物は感性で生きてるダニ。自然環境と波長を合わせながら
生きてるダニよ。コツは匂いと雰囲気と波長ダニ。

目はもっぱらオーラを確認する為に使うダニ。 
捕食して自分に害があるかどうかはオーラの色で判断するダニ。 

当然、動物によって見え方が全部違うダニ。 

人間は犬とか猫を飼うけど犬は単純で無邪気だけど猫の方が犬より賢く
レベルは上ダニ。

木の意識は穏やかで感情は一定。植物は繊細で空気と光が
栄養源で私たちの遊び場ダニ」 

サキが「人間の考えと似てるけど人間は考えが基本人間的なのよね。
オーラで視るなんて思ってなかったわ。さすが妖精ミルキーさん、
凄く解りやすいね。
ところで犬とかで、すぐ吠える犬が多いでしょ、あれはどういうこと?」 

「威嚇、恐怖、遊び、臆病犬の警戒心、色々あるダニ。猫は状況判断の天才ダニ。
猫は風を感じてるダニ。山の猫はそれ以上でその山全部を感じて行動してるダニ。
犬はどちらかというと目先のことだけダニ。 ミルキーは猫のお友達多いダニ。
ずるいのは狐や狸。ミンクもずる賢いダニ。熊なんかすごく単純さんダニ。
余計なこと考えないで食べることが好きなだけ。
食べ物のために一日で山ひとつ越えるダニよ。でもみんな仲間ダニ」

「人間の思いこみって勝手ね。反省しなくちゃね・・・だって、
人間中心の考えだもの。ミルキーさんゴメンね」

「基本、明るい暗い、腹減った腹いっぱい、繁殖と子育て、
あとわずかな遊び、そして警戒心ダニ」

「とっても解りやすいわ。ミルキーさんありがとう。
あと、死に対する捉え方は?」

「淡々としてるダニよ。基本死は怖くないの。だから死の恐怖ってそんなに
無いダニ。当然私たちもダニ」

「ありがとう。じゃあミルキーさんから質問どうぞ」

「黒石と私の赤石、違うけどどうしてダニ?」 

「私の解る事は、シリパの会の黒石はこの世の硬い石だけど、
赤石はこの世での物ではない石なのね、非物質なの。 

だから普通の人間には視えないでしょ?そこを除けば二つは一緒の波調だよね。

あとは使い方のコツ。私の知る限りパラレルワールドやタイムスリップに
多く使うけど、それ以外の可能性もあると思うわ。私は試したこと無いのね」

「なるほどダニ」 

「あと、この会の石のことを制限を外す石とケンタさんは言ってたけど」 

「制限?・・・」ミルキーはしばらく黙った。  

「なるほどダニ。制限を付けるからそれ以上になれない。つまり出来ないと
勝手に勘違いするということかダニ・・・なるほどダニ」 

サキは、この子どんどん知識を吸収する恐るべし妖精と思った。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-3

3、ギジムナー

  ミルキーが「まだ青石の気配が無いのでカムイの窓から青石の居場所を突き
止めるからもうチョット待ってて下さいダニ。

あっ!それと、お土産。ミミズクの涙で作った丸薬と丹頂鶴の爪で作った
丸薬ダニ。ミミズクは夜でも遠くの物がよく見えるダニ。

丹頂鶴の爪は疲れた時、飲むと身体が軽くなるダニ」

「ありがとう」

ミルキーはカムイの窓から小一時間で戻ってきた。 

「ミルキーさんどうだった?」 

「解りました。青石は沖縄の小さい島にあったダニ。今すぐ飛ぶダニよ。
サキさんの膝に乗らして下さいダニ」 

ミルキーはサキの膝の上に乗った。 

「行きます、エイ!」

二人は沖縄の伊江島に飛んだ。 

「ヨイショット!」 

二人は小さい山の頂に立っていた。

「あれ?ミルキーさん、身体が大きくなってるよ?」 

「違うダニ。サキさんが小さくなってるダニよ」

「たぶんミルキーに同調したダニ。あっ!赤石が同調し始めたダニ」 

二人は青々とした海岸を見渡した。

「あっ居た!」ミルキーが叫んだ。 

そしてミルキーはサキの手を握った。

次の瞬間、二人は浜辺に立っていた。

「あんた何やってるダニ?」ミルキーはいきなり語気を強めて青年に言った。

ビックリした青年は「なんでこんな所まであんたが来たダニ?」

「長老があんたに青石を盗まれたから取り返してこいって、命令されたダニ。
 あなたどういうことダニ?それになんでこんな所にいるダニ?」

「ご、ご、ごめん。盗む気は無かったダニ。お婆が最近妙に塞ぎ込んでいて
オッカァもオドも心配さして、お婆に聞いたダニよ。お婆どうかしたかって? 

そんだら沖縄の島にギジムナー族の人で昔大変世話になったお人が居て、
ひと目会いたいって言ったダニ」 

「お前のお婆幾つになったダニ?」 

「250才くらいダニ」 

「おめえの婆さま、達者だな。それにしても青石を持ち出すのは違反ダニ。
長老は怒ってしまったダニ。
お前の両親は肩身の狭い思いしてるダニよ。それで見つかったダニ?そのお方」

「カムイの窓から視たらこの辺だったから来たけどまだ見つかんね」

「そっか・・・」 

「ここの人たちは、皆のんびりしてるから、こっちまでいい気分になって、
つい探すの忘れるとこだったダニ」

「事情は判ったダニ。でも違反は違反ダニ。帰ったら覚悟するダニよ」 

「うん!んでこの方は?見た事無いダニね?どなたさん?」

「札幌であんたを捜す手伝いと、私の面倒を見てくれてるサキさんダニ」 

「こんにちは」

「サキさんご迷惑掛けますダニ。そのような事情で本当にすみません。
ところで黒砂糖食べますか?ここの美味しいダニよ」

ミルキーが「あんたそれどころじゃないダニ。私達も一緒に探すから、
早く探して二風谷に帰ろうダニ。・・・で、特徴は?」

「ギジムナーで250才くらいダニ」

「それで?」

「そんだけダニ」 

「あんた、ばっかじゃないの!」

サキが「まず、ギジムナーの長老を探そうよ。そして相談するのよ」 

「サキさん頭いいダニ」 

「あんたがバカなのよ。ダニ」

三人は長老を捜した。 

サキが提案した「ミルキー、あなた達は笛持ってないの?」 

「あるダニよ。それが?」

「笛の音色は吹く側の特徴が出るのよ。つまりギジムナーと違うあなた達の
音色に興味を持ち、向こうから寄ってくるかもよ」

「さすがサキさん。じゃあミルキーが吹くダニね」 

ミルキーの音色はアイヌの民族音楽に近い独特な音色だった。

笛を吹き始めてから一時間ほど経った。

沖縄の夕日が空一面を赤く染め、笛の音が島の空に響く後ろの方で
ザワザワと音がした。

ミルキーは振り返った。数人のギジムナーが居た。 

ミルキーが「あっ、初めまして。私たち北海道から妖精探しに来た三人組です。
宜しくお願いしますダニ」

「ニングルか?」ひとりの長老らしき者が聞いた。 

「いえ、どちらかというとコロポックルです」

「そっか、懐かしいなあ」 

「懐かしいと言いますと、コロポックルの誰かとお知り合いでしたか?」

「そうよのう、もう200数十年前かな。ひとりのコロポックルのメノコが
船に乗ってここに来たことがあったワイ。

ギジムナー衆と何年か暮らしたあと台風に乗って本土に帰って行ったワイ」 

「もしかしたら僕の婆ちゃんかもしれないダニ」ひととおり経緯を話した。 

「そっか、それはそれはご苦労さんでしたワイ。もしかしたらワシの
事かもな・・・じゃが、わしも会いたいが会いに行く元気がないワイ」

「それが良い方法があるダニよ。時空を越えて行けばすぐ着くダニ。もし良ければ
僕に触って下さいダニ。すぐ飛んで行って婆さんと会って戻るダニ。どう?」


「そっか、じゃあ頼むかワイ」そのまま二人は消えた。

ミルキーが「まあ、勝手なこと。何の挨拶もなく、さっさとあの子
行ってしまったダニ」

「でも、願いが叶って良かったじゃないの」サキが言った。

「サキさん、迷惑掛けてすみませんダニ」

「いいのよ。それよりもせっかくギジムナーさん達が
居るんだから少し遊んでいこうよ」 

「そうダニね・・」

それから二人は3日間ギジムナー達と飲めや歌えで沖縄を満喫して帰郷した。

ここはサキの家。 

「ギジムナーさん達とても楽しかったね。ずーっとユンタクだもの。
肉体が無いから酔わないはずなのに、ほろ酔いになったわね。 観念だけでも酔うのね」

「本当に楽しかったダニ。サキちゃんミルキーせっかくここに来たから
もう少し札幌に居たいダニ、それにシリパの会の人ともっと話しをしたいダニ」

「じゃそうしよう。決まり!」

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-2

2、三つの石

 アヤミの持っていた黒い石を見たミルキーは、自分の持っている赤い石を
ポケットから取り出した。

「これは私たちの世界で先祖代々受け継がれた石ダニ。この赤い石はメノコの赤石
というダニ。 他にオッカイの青石とカムイの紫石の三つの石があるダニよ。
そのうちの一つがこのメノコの赤石ダニ」 

アヤミが「あなた達の仲間もみんな持ってるの?」 

「違う。赤石と青石はカムイの使い、シャーマンが持つダニ。
紫はその上の神官が持つダニ。その三つダニ」 

メメが聞いた「なんでミルキーはアヤミさんのこの黒い石に反応したの?」 

「石から出てる波動がとっても似てたから驚いたダニ」 

今度はメメが「こちらの黒い石は特殊な力があるのね。手に握ると思いが叶うの。 
叶うといっても私達の次元から他の次元に移動する力限定なのね。

それと今アヤミちゃんはこの石を握ってるからあなたが視えるのよ。
普通はあなたの姿は視えないのよ」 

「でもメメちゃんやケンタさんは視えてたダニよ」

「この二人は無くても視えるようになったのよ」 

「解ったダニ!」

メメが「その赤い石は何か力あるの?」 

「ミルキーまだフチ(おばあさん)から習ってないダニ。習う前に出て来たダニよ」

「そっか」

メメが「その赤い石もこの黒い石も同じ波動ならもしかしたら同じ事、
出来るかもね。アヤミさん試してみない?
私たちは石が無くても出来るから実験にならないわ。どう?」

アヤミが言った「面白いですね。ミルキーさんやってみない?」

「ダニ!」 

「じゃあ決定ね!ケンタさんよろしいですか?」 

「うん、面白いね!ミルキーさん戻り方だけ教えるね。戻る時は石を握って
心にこの場所の情景を思うこと。すると簡単に戻れるからね。

アヤミさん、ミルキーさんは次元が元々違うからそこだけ勘違いしないでね。
それだけ。じゃあ行ってらっしゃい」

アヤミとミルキーは他次元へ移動した。 

残ったメメとケンタは会話を始めた。 

「メメちゃん面白い人連れて来たね・・・」 

「でも妖精はどの次元に属するのかな?」

「仙人とか修験者とか自然を司る世界だよ。神界より下の辺りで人間界より上。
そこに龍もいるよ」 

「でも話してる内容は人間っぽいですね」

「僕達に合わせてるみたいだね。元々自然相手だから感覚がチョット違うかも」

ほどなくして二人が戻ってきた。 

メメが聞いた「ミルキーさん、どうでしたか?」

「出来るダニ」 

「アヤミさんは?」 

「はい、ミルキーさんの赤石も同じ感覚みたいです。今は未来の二風谷に
行って来ました。ダムも何にも無くって澄み切った空気の中で熊も鹿も狼も皆、
人間と共存してました。

まるでおとぎ話の本の絵みたいでした。ミルキーさんったらそれを見て泣いて
ましたよ。この世界最高ダニって。私ももらい泣きです。楽しかったです」

事務所入口のドアが開いた。 

「すみません。中央店の京子さんからこちらに寄るようにって
言われて来ました。サキって言います」

アヤミが「そろそろ時間なので行きます」と言ってサキと入れ違いに出て行った。

メメが「あっ、京子さんから伺ってます。明日そちらに女の人を行かせるからって。
こちらにどうぞ。何でも京子さんのガイドが言って来たらしいですよ。」 

「そっか」

メメが「サキさん、どうぞ入って下さい」 

サキは奥に入ってきた。

その瞬間、「あら!可愛い!」 

メメが「サキさんに視えるのね?」

「はい!先日もこの妖精さん位の大きさの子に会いました」 

「どこでダニ?」 

「大通公園の9丁目の花壇の処でです」 

メメが「ミルキーの知り合いか何かなの?」 

「すいません。その子、青い帽子とベスト着てませんでしたか?ダニ」 

「そう、その話し方よ。ダニって言ってましたよ。あなたのお知り合い?」 

メメが「ミルキー、何か事情あるんでしょ?差し支えなければ聞かせて」

「はい。さっき石の話したダニ。その青石を無断で持ちだしたのがいて、
時空を駆け回って好き放題してるダニ。 

私は村長から頼まれてその子を探しに札幌に来たダニ。
今までウソ言ってすみませんダニ」

メメが「私、嘘は嫌いなの。もう駄目よ。今度嘘ついたら家から出て行ってね」 

「メメさんケンタさんごめんなさいダニ・・・」

ケンタが口を開いた「まあ事情は解ったよ。知り合ったのも何かの縁。
お手伝いします。でもどうやって探す?札幌はそれなりに広いよ。
それに札幌にまだ居るとは限らないし・・・」 

「すみません。その探すお手伝い役を私にやらせてもらえないですか?
 私、何故京子さんにここに行けって言われたか・・・今、解りました。
この事だったんですね」とサキが言った。

「なるほど、彼女がサキさんをここに行くように言ったわけが解ったよ。
僕、彼女の旦那でケンタと申します。いつもお世話になります。
でも、こんなお願いして良いのですか?」

「はい」 

メメが「ミルキーさん良かったわね」

「ダニダニ・・」ミルキーは丁寧にお辞儀をしていた。 

メメが「この子、嬉しい時、ダニダニって言うのよ」みんな笑った。

その日からミルキーはサキの家にやっかいになり青石探しを始めた。

「ミルキーさんの赤石とその青石が近づいたら何らかの反応があるわけ?」 

「三つの石は三位一体ダニ。だから近いほど共鳴が大きくて、三つが重なると
凄い光になるダニ」

「今回もその共鳴を辿って札幌に来たダニ。でも次元移動してたら解らないダニ。
今は違う次元に居ると思うダニ」

「大体解りました。それで明日からどういう動きするの?」

「明日の昼頃まで待って共鳴がなかったら、別次元にカムイの森っていう処が
あって、そこにカムイの窓という場所があるダニ。

その窓から覗いて青石の行き先を視て飛んでみるダニ」 

「明日を待たないで直接今行ったら?」

「そこに入るにはルールがあるダニよ。十勝岳と旭岳と二風谷にある鉱山植物を
煮込み、鹿の角のエキス少量を混ぜて煎じた液体を、カムイ神殿に奉納しないと
カムイの森に入れないダニよ。急いでも半日以上かかるダニよ」 

「面倒くさいのね」

「だからこれから山に戻って液体を作って戻るダニ。帰りは明日の昼頃に
なると思うダニ」

「私に出来る事、何かある?」 

「ありがとう。これは巫女のミルキーにしか出来ないから。
明日戻ったらまたお願いしますダニ」

「はい、じゃあ待ってますダニ・・」

翌日の昼前に鹿の胃袋で作った水筒に奉納する液体を入れて
ミルキーは戻ってきた。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-1

1、二風谷の妖精ミルキー

 シリパの会は慌ただしい一日となり、メメは夕食を外で済ませ
夜10時の帰宅となった。 

部屋のドアを開け、今日もちょっとした異変に気付いた。
数日前からスズランの香りがほのかに香る? 

部屋にスズラン系の香料を含んだ物は無いはずだった。
 
原因がわからなかったが気にするほどの事でもないし、スズランの香りは
嫌いではなかったので原因を追及せずにいた。 


遅めの風呂と洗濯となったが、ひととおり済ませベットに入ったのは12時を過ぎていた。

至福の瞬間である。 

そのまま寝入った瞬間、またスズランの香りがして起きた。

今度は今までよりも香りがきつく感じた。 

辺りを見回した、次の瞬間ゴミ籠の裏に隠れた何かを発見した。 

メメは思わず「なに?」そして恐る恐るゴミ籠の裏を確認した。

そこには20センチほどの小さな人影。 

お互いに眼と眼が合った。

内心驚いたが、平静を装ったメメが優しく聞いた。 

「今晩わ、私はメメ。あなたはどなたですか?」 

メメは仕事柄、異空間の存在とのコンタクトはお手のものだった。 

「私に名前はありません。日高はニ風谷の山の方からこの街に来たダニ」 

「どうしてここに来たの?」 

「花屋さんで遊んでいたら、あなたが店の前を通りかかったダニ。
何だか分かんないけどあなたと話をしてみたくなり、
後をついて来てしまった・・・ダニ」

「何日も前からここに居るの?」

「そうダニ。いつ気が付いてくれるか待ってたダニ」 

「それで最近、この部屋、花の香りがしたのね。これはあなたの香りだったのね」

「臭くてすみませんダニ」 

「あっ、謝らなくていいのよ。この香り、わたし好きよ。それよりあなたに
名前付けない?名無しさんだと話しにくいし、好きな名前何かある?」 

「ミルキー・・・ダニ」

「ミルキーさんか・・・可愛いね。何か意味でもあるの?」 

「前に世話になってた家の人が付けてくれたダニ。それが好いダニ」

「そっか・・・じゃあミルキーさんねよろしくね。ところでミルキーさんは
年齢は幾つぐらいなの?」 

「ミルキーに歳は無いダニ」

「そっか、ゴメンね。ついこの世界の癖なのよ。で、何でこの札幌に来たの?」

「仲間はみんな植物の世話してるけど、私は違う事やってみたいって
長老にそう言ったダニ。

そしたら長老さんが我々部族は昔からそう決まってるって怒ったダニ。

ミルキーに皆と同じことが出来ないなら村から出て行くようにって
命令されたダニ・・・それで出て来てしまったダニよ」

ミルキーの目は半分涙ぐんでいた。

「ミルキーさんは何をやってみたかったの?」 

「ないダニ」 

「え・・・??」 

「違う世界を見た事あまり無いから、何をやりたいか解らないダニ」 

「なるほどね。じゃあ、やりたいことが見つかるまで私の部屋に居てもいいわよ。
ゆっくりやりたいことを探してちょうだいね。ず~~っとここに居て良いよ」 

「メメさんありがとうダニ」

「今日は遅いからまた明日話そうね。お休みなさい、ミルキーさん」 

「メメさん、ひとついいダニか?」 

「はいどうぞ」 

「ミルキーは寝ないダニ」 

「どうして?」 

「生まれてから一度も寝た事無いダニ」 

「そっか、私たちのこの世界は身体があるから休めないと壊れちゃうのね。
だから8時間ぐらいは身体を休めるのよ。それを寝るって云うの。お休みなさい」

メメは即、寝に入った。

翌朝6時にメメは起床した。 

「ミルキーさんおはよう」 

「メメさんどーもダニ」

「朝まで何やってたの?」

「そこの公園で花の手入れしてたダニ。サルビアの蜜がいっぱいあったから、
ついでに持ってきたダニ。人間はサルビアの蜜好きダニか?」

「あっありがとう。ミルキーさん」 

「ミルキーでいいダニ」

「はい、ミルキー。私もメメでいいダニよ」 

「ダニダニ」ミルキーはこの家に来て初めて笑った。 

「今日は仕事に行くから適当にやってていいよ。帰りは夜の7時頃になるの」 

「仕事は何?」 

「う~~~ん説明できないよ・・・そうだ、私について来る?」

「行くダニ」二人はシリパの会に向かった。

「おはようございます」メメがケンタに挨拶をした。 

「メメちゃん今日は目が光ってるよ。何か良いことあった?・・・・れれ???
メメちゃん、また可愛いお友達肩に乗せて・・・どうしたの?」

メメは笑顔でケンタの側に寄ってきた。 

ケンタが「おやっこれは・・・妖精さんだね。珍しいお客様で・・・」

メメが「こちら日高の二風谷の方から来たミルキーさん。
年齢不詳、性別は無いらしいけど見た感じ女の子の意識が強いみたい」

「こちらは私のボスでケンタさんです」

「ミルキーさんよろしくね」

「ケンタさんもよろしくお願いしますダニ」

「あははは可愛いね。ゆっくり遊んでいって下さいね」

ケンタが続けた「ミルキーさんは食事とかどうしてるの?」 

単純な質問である。

「私たちは花や木のエナジーを頂くダニ」

「なるほど」 

メメが言った「色々な経験がしたくて街に出て来たらしいのね。
それで私がたまたま花屋の前を通りかかったら、私に目が止り興味を
持ったみたいで、家までついて来たらしいの」

「それはそれは。メメちゃんのどんな所に興味持ったのかな?」

「メメのオーラがみんなと違ったダニ。それで確かめたくなった」

「そうですか。納得いきました。シリパの会へようこそ」 

ほどなくして会員のアヤミさんが入ってきた。

「おはようございます」 

アヤミは全く気付いてないようだった。

ケンタとメメは目を合わせた。 

メメは心の中で「人によっては見えないのね」

ケンタが「アヤミさんこの石持ってメメさんの机の上を見てくれるかい」

そう言って石をアヤミに渡した。 

アヤミは云われたとおりメメの机に目をやった。 

「あっ、これは・・・」メメがにこやかな顔で頷いた

「こんにちわ」 

「こんにちわ、私ミルキー。二風谷から来てメメさんの家で昨日から
お世話になってるダニ」

「私はアヤミです。札幌生れです。よろしくダニ」

ミルキーは喜んだ。

「アヤミさんこの子どうしたんですか?」 

「今もケンタさんに話してたの。花屋の前を通りかかったら
私が目に止まったらしく興味を持ったみたいでついて来のよ」 

アヤミが「おもしろい」 

その時、ミルキーがアヤミの手にある黒い石を見て叫んだ。 

「あっ!それ!その石どうしたダニ??」

「これ?」 

アヤミはケンタの顔を見た。

「なんでこの石に興味があるの?」とケンタが聞いた。 

ミルキーは自分のポケットから同じ形の赤い石を取り出した。

【HisaeとSizu】10-10完結編

10.「母さんの塩むすび」

あ~~よく寝た。昨日は花子と下北沢で遅くまで飲んでたのに、
この清々しい気持ちの朝は何だろう?花子と飲むとストレス感じないから?

Hisaeは布団から出てPCの電源を入れた。一日の作業はここから始まる。

メールが入っていた。

「Hisae様、初めてメールいたします。

先日、他界した友達のこと書いて欲しくてメールしました。

その友達の名前は納谷勝雄と申します。

勝雄と僕は高校からの友達です。

その勝雄が先日、肝硬変で他界しました。56歳でした。

僕は彼から沢山のことを学びました。

勝雄は高校卒業後調理師を目指し専門学校に入り、その後調理師として
36年頑張ってきました。

ごく普通の優しい二児の父親としての生涯と、料理の本質を見極めようと
鋭く厳しい目を持った人間です。

そんな彼を偲び形にしたいと考えメールしました。

内容は、Hisae様のアレンジで結構です。

勝雄にはこれという大きなエピソードはありません、平凡なので逆に
表現が難しいと思いますがお願いいたします。    松岡幸彦」

う~~ん。これといったエピソードが無いのか・・・チョット
難しいかもね・・・まっ、何とかするけども・・・よし引き受けようか・・・

「松岡様 お引き受けしたいと思います。執筆にあたり納谷さんの
人柄と、お二人の写真があれば添付して下さい。

私の中にお二人のイメージを作りたいのです。あらすじが出来
上がったらメールいたします。  Hisae」

「ありがとうございました。写真は二年前の同窓会の集合写真と本人の
近影です。あと、彼の性格は地味で自分から表面に出るタイプでは
ありません。いつも影から冷静な視線でものごとを見つめ適切なことを
言ってくれます。侍の調理師のような男でした。

僕が若い頃、東京で家庭を持っていました。長女の出産も東京でした。
出産を知った彼はわざわざ札幌から東京に日帰りで出産祝いを持って来てくれたんです。

あの時は本当にビックリと同時に感激しました。

僕は妻の実家小樽に住みついてから、数度だけ酒を交わしました。
お互いに休みが合わず飲む回数は少ないほうでした。今になって
悔やんでおります。もっと飲みたかったと・・・

最後に飲んだのが2年前のクラス会です。本当に良い想い出になりました。

その後、僕は大阪に転勤になり現在に至っております。
今、心には空白ができております。どうぞ宜しくお願いいたします。 松岡」


 Hisaeは考えた。

調理師か・・・私、料理苦手だからどこまで表現できるか?
こんな事なら料理の基本だけでも学ぶんだった~~

「母さんの塩むすび」

あらすじ

彼の名は納谷勝雄。他人は彼のことを調理界の哲学者と呼ぶ。

類い希な才能を持つ彼は、高校の時、調理人だった兄がおり、
その兄の作ってくれた一杯のラーメンの味に魅了され、
自分も高校を卒業したら料理の道を極めてみたい。

そう心に誓い、調理の道に足を踏み入れることになった。

調理の学校を出た彼は最初社会に馴れるため学校で斡旋している
レストランで働くことになった。

その後、調理に道は一ヶ処に止まってはいけない。もっと料理を
学びたいと思いから複数の店を歩いた。

調理の世界の閉塞感を感じながらも38年間思考してきた。

そんな彼が心に秘めた調理のある思いがあった。

調理仲間には話せないが、高校時代からの親友で、今は調理の世界から
離れて公務員になった心の友である松岡に密かに語っていた。

彼流の料理に対する哲学があった。

彼の料理の極意は『塩むすび』という4文字だった。

その4文字に納谷勝雄の調理人生が表わされていた。

決して華やかではないが数日間じっくり煮込んだスープのように、
奥深く味わいのある彼の人生を綴った作品」

「松岡様、簡単ですがこんな内容でどうでしょうか?ご検討願います。 Hisae」

「Hisae様 宜しくお願いいたします。 松岡」

その後、二人は打合せを重ね執筆をする事になった。

Hisaeは、そっか・・・調理の世界は出来るだけ避けてきたけど、
衣食住に携わることは避けて通れないか。

Hisaeガンバンべ・・・自分に気合いを入れた。


 「母さんの塩むすび」

 ここは北海道岩内町。札幌から東に2時間半の港町その町で
主人公の納谷勝雄は産まれた。

勝雄は納谷家の次男として育ち、岩内町の中学を卒業し近隣の町、余市町の高校に通った。
通学に時間が掛かるという理由ので下宿し、その町で高校時代を過ごした。

勝雄は温厚な性格で、たくさんの友達に囲まれ、生涯の友と巡り
会ったのもこの高校であった。


 三年生の春。

「勝雄、今日の放課後、俺の家でジンギスカンパーテーやろうぜ」
仲間のひとり地元出身の富田が誘った。

勝雄は「いいね~~。俺、飲み物担当するよ。で、何人来るの?」

富田は「15人位かな」

「なに・・そんなに来るの?」

「そう」

勝雄は瞬時に金額を頭の中で計算し「じゃあ一人300円会費だな」

富田が「ああ頼む、俺が鍋とか燃料を用意してるから食料は全部、
勝雄と松岡とダイスケに任せていい?」

二人は勝雄の指示で買物に行った。

15人が食べてる最中。話を聞きつけた隣のクラスの伊藤や曽我部や秀敏が
急にやってきた。

松岡は「肉足りなくなりそうだからお前ら、ひとり300円だから
900円分の肉を買い足してこいよ・・・楽しくやろうや・・・」

当然だった・・・が、勝雄は違った。

「チョット待って。肉だけでなく燃料や野菜も飲み物も
トータルして考えて買ってきてよ」勝雄が言った。

エイジが「うん、さすが勝雄、ちゃんとポイントをついてるね・・・」

勝雄はその場の感情に流されないで冷静に観る目を持っていた。

瞬間的に判断し、そして対応する生徒だったが、反面、人情もろく、
すぐ涙するタイプでもあった。

そこが、勝雄の友達受けする要因でもあった。

そんな勝雄がみんな大好きだった。


 勝雄のクラス3年C組は普段はバラバラでまとまりが全然無かった。
が、ここぞという時は学校でトップのまとまりをみせ、他の先生や
生徒をいつもアッと言わせた。

合唱コンクールや球技大会は2年連続総合優勝に輝いた。
小さいことではあるが開校以来の快挙だった。

球技大会などは練習もしない、意見もバラバラで競技開始寸前まで
各々が適当にやっていたかと思いきや、いざ始まると一枚岩のような
まとまりをみせて三宅先生を驚かせた。

勝雄はそんなクラスが大好きだった。

そして一生涯つきあっていく友もこの時期に出来たのだった。

因みに、2年・3年とクラス替えのない学校で、担任の三宅千種が
女性特有の優しさのある指導を展開するが、男子生徒の向井などは
何時も勘違いして好き放題して、三宅を困らせることがよくあった。

そんな向井に意見するのが決まって勝雄だった。

勝雄は1年から卒業まで千種のクラスで、三宅先生からの信頼も厚く、
千種も勝雄をいつも心の何処かで頼っていた。


 3年の秋、学校祭も終わり就職試験の結果も出て。大方の仲間は進路が決定していた。

「学校祭が無事終ったし、みんな僕の下宿先に集まり騒ごうや・・」と
声を掛けたのも勝雄だった。

その下宿で10名ほどが集り学校祭の打ち上げをやっている最中だった。

突然警察官が6名ほどその場に入ってきた。

「君達、何をやってる!」ひとりの警官が大きな声を張り上げた。

「オイ、そこ、すぐタバコを消しなさい」

当然だった。学生服を着た高校生が喫煙していたのだから。

その偉そうにしていた警官が「ここで、何をしている?君達はどこの
学生だ」威厳のある声で尋問した。

勝雄が「全員、後志高校です」

「何年生かね?」

「はい、3年です」

「近所から不穏な動きがあると通報があった。おい、そこの・・・
タバコを消しなさいと言ってるだろう」

「す・すいません」トシアキだった。

勝雄が「はい、今日は最後に就職が決まった、上野くんの就職祝いで
集まってました。喫煙しうるさくして大変申し訳ありません」

勝雄は深々と頭を下げた。

続く全員も深く頭を下げた。

警官は「他に薬だとか、シンナーの類は所持してないのか?あるなら
さっさと出しなさい。あとで出したら面倒くさい事になるからな・・・」

勝雄が「そんな悪いことやってません」

「そんなって、未成年のタバコも悪いことだろが・・・」

「そうでした・・・すみません・・・」

「いいか、君達。折角就職も決まったというのに警察に厄介になったら
就職内定も台無しだろう。そんなことも解らんで浮かれてたのか?」

「何度も何度も面接で落とされて、やっと受かったんです。僕達・・
嬉しくてつい・・・軽はずみな行動を取ってしまいました。すみません」
勝雄の半分泣いたような神妙な声だった。

その偉そうな警官が「解った、今回は目を瞑ろう。但し、今度このような
騒ぎを起こしたら学校に連絡するから心しなさい。今日は即刻解散しなさい」

下宿人の勝雄と他3人を残して解散した。

後日、あれは演技だったと勝雄が話していた。

全て、勝雄が咄嗟に考えた嘘・・いや、シナリオであった。
勝雄はこのように瞬時のアドリブに長けていた。


勝雄が進路を決める切っ掛けになったのは、札幌の兄が作ってくれた
ラーメンが美味しかったからと松岡にに話していた。

松岡も勝雄からその話しを聞かされ、調理の世界は面白そうと考え
調理師学校に進路を決めた。

学校を卒業して数年後。松岡は仕事で東京に身籠もった
妻と二人住むことになった。そして女の子をもうけた。

出産のことは当時東京に住んでいた富田だけに知らされていたが、
何処から聞いたのか勝雄の耳にも入り、彼は東京に出産祝いを渡しに
わざわざ上京し、その日のうちに札幌に帰省した。

後日、松岡が仲間で酒を飲む時は、必ず嬉しそうにその時のことを語っていた。

 
 調理師になった勝雄は最初、小さなホテルで働いていたが、経営不振で
倒産し、その後上司から紹介されたレストランに移ったがそこも閉鎖。

幾度か職場を変わって気づいたことがあった。

人の数だけ調理方法があって、味付けも考え方もみんな違う。
諸先輩の理屈は皆ごもっとも・・・

でも、持論が多すぎて憤りを感ずることが多多あった。

最後の二十二年は大型病院の経営するレストランの調理長として晩年を終えた。


 事あるごとに高校時代の仲間と酒を交わす機会も多く、若い頃の
エピソードを話すのが勝雄の楽しみだった。

決まって出る話題が下宿でのその警察の話題だった。

本当に楽しい3年間だったようである。

また、料理の哲学をよく語っていた。心の底から調理が好きだった。

ある時、勝雄とダイスケとミノルが居酒屋で飲んでいた。

ミノルが「勝雄は職業だからしかたないけど、料理に凄いこだわりが
強いようだけどなんで?」

勝雄は笑顔で応えた「うん、いい塩梅ってひと口に表現するけど、
どの辺りの加減をいうと思う?」

「う~~ん、おいしさ加減?」ミノルが言った。

「でも、その加減って人によってみんな違うよ。たとえば家庭環境や国の違い、
体調や季節の違いなどきりがないと思わない?」勝雄は焼酎を口に含んで言った。

ミノルが「うん、そうだよね、焼酎だってロックもいれば水割りだって
人それぞれに好みの加減があるよね・・・」

ダイスケが「そうだけど、それ言ったらやっぱきりがないけど・・・」


「そこなんだ、料理って案外、絶対数の問題でさ、美味しいっていう
人が多いとその味は良いと言われる。
つまり、味は目と鼻と舌と思い込みの感覚なんだ。特に感覚って
個人差がある。つまり美味しいって幻影だと思ったんだ。
早い話が・・・錯覚だよ。錯覚・・・

それを踏まえた上で、僕はいい塩梅を追求したくなったんだ。
色々試したり考えたりしたけど結果解らなかった・・・

でも、三十数年間やってひとつ見えたことがあるんだ。
目隠しをして鼻も塞いで何か食べたらどうなると思う?」

ダイスケが「・・・・?味気ないと思う」

「そう・・・つまり味って観念でも決まるんだ。カレーの味はさ、
頭の中に子供の頃からインプットされてるからあの味がカレーと
云えるんだ。あれがカレー風シチューだったら・・・
カレーかシチューかどっちだと思う?」

ミノルが「シチュー」

勝雄が「でも、カレーって云って出されたら?」

ミノルが「???・・・カレーかな・・・」こころなしか声が
少し小さくなった。

「そう、他から与えられた観念でカレーになるんだ」

ダイスケが「言ってることが解らないけど・・・」

「うん、早い話が、思い込みで脳は変化するっていうこと」

ダイスケが「思い込みで脳の変化???・・・勝雄悪い、
もう少し解りやすく説明してくれる?」

「うん、味は味わう人によって変化したり。作ってる人のひと言でも
変化する。つまり、観念で変化する。それが僕の結論なんだ」

ミノルが「そしたらさぁ。作る側の立場どうなるの?・・・」

「美味しく食べられるように、食材に魔法を掛けるんだ」

「魔法???じゃぁ、勝雄が一番美味しいと思う最高の料理はなに?」

「海苔の巻いてない、具も何も入ってない今は死んだ母さんが子供の
頃作ってくれた塩むすび・・・今のところそれが一番美味しかったんだ。
もう二度と味わえないけど・・・心にあるお袋の味」

ミノルとダイスケは納得した。

ミノルが「確かにあれは無条件で美味しい。絶対あれ以上シンプルで
美味しい料理は無いかもね・・・」

勝雄が付け加えた「あれこそ塩加減で簡単に味が左右される食べ物は無いね。
シンプルイズベストな食べ物・・・それが・・・かあさあの塩むすび・・・」

ダイスケが「言ってることよく解るよ。勝雄は食の哲学者だね・・・」

勝雄が「哲学者か・・ダイスケ面白いこというね。今まで料理の世界でしか
表現できなかったけどさ。なんか人生でも同じ事が云えるような気がするんだ。

人生経験豊富な人や金銭面でも何不自由してないで、高い車に乗って、
いい家に住んで宝石をたくさん飾って、それって、豪華なフランス
料理か日本料理みたいでさ。

でも、時が経つどんなに優雅な料理でも消えるんだよね、絶対最後は無くなるんだ。

腐った高価なフランス料理と、腐ったただの塩むすびと何処が
違うと思う?結局腐ったら同じだと思わない?

最後に残るのは思いで。

これは詭弁で究極の例えかも知れないけどさ。
最近になってそんなこと考えたんだ。

そしたら急に、数年前に他界した母親の作ってくれた塩むすびが頭に
浮かんだんだ・・・胸が熱くなり涙が出て来たよ。

世界各国、色んな食材や調理のしかたがあるけど、最後は母親の作った
手料理に敵わないかも。

料理の味プラス愛情・・・

味って脳の何処かにインプットされる。それが生涯に渡って味覚の好みにも出るんだ。

途中どんなに手の込んだ料理を食しても、最後は母親の素朴な
手料理に戻るような気がする。

あと料理って絶対笑顔で食べて欲しい・・・

母親の通夜の席での料理は全然美味しくなかった・・・

味が美味しいとかそうじゃなく僕の心が沈んでたんだ。

そういう意味では笑顔ってバイブレーション上げてくれるんだ。
今日みたいに普通にある居酒屋料理でも。

味覚以外の部分で美味しく感じる。

当然料理をつくる側も笑顔で作るのが本当は良い。

そんな人の作ってくれた料理って、美味しさや楽しさが
食べる側に絶対伝わると思う。

この世界に入って最初の料理長が『納谷いいか、食は命だ。
どんな料理でも絶対に手を抜くな。手を抜いて良い料理なんてひとつも無い。
俺たちは命を提供してるんだから』そう教えてくれたんだ・・・今でもそう思うよ。

それに食に国境は無い。中華料理やフランス料理が日本に来るのに
パスポート持ってこない。ミノル話しが周りくどくなってゴメンな」

ミノルが「勝雄・・・なんか料理の話しから、すごい話しに
進展したね・・・でも・・なんか凄いよ」

ダイスケが「やっぱ、シンプルイズベストって事なの?」

勝雄が「うんそれが俺の結論かも知れない。やっぱ、料理の基本は
母さんの塩むすびかも・・・」

後日、ミノルがその時の三人の会話を語っていた。


 勝雄の晩年には不定期だけれど、死んだ恩師三宅千種を
忍ぶ会を「千種の会」と命名し飲み会が行われた。

富田は珍しい料理が出ると決まって「勝雄これどういう風に作ったの?
これ何に?」と質問すると、勝雄はひとつひとつ丁寧に答えていた。

数年ぶりのクラス会が余市の富田家で宿泊可能な有志による手作り
料理のおもてなしで開催された。

勝雄は久しぶりに同級生の顔をみた。

そして「やっぱ友達って良いよな。高校時代に何時でも簡単に戻れる。
あの頃は毎日、何をやって遊ぼうか?どういう風にしたら楽しいか?
そんなことばっか考えてた」

クラス会では明け方まで楽しそうに勝雄は飲んでいた。

翌朝、多少のアルコールが残っていたがみんなの制止も聞かず札幌に帰っていった。

皮肉にも、それが全員がみた勝雄最後の姿となった。

2014年3月21日春分、肝硬変でこの世を去った。勝夫56歳の誕生日の数日後だった。

葬儀には高校の友人11名が列席した。

通夜に儀が終了し最後の焼香も終った。

その時、幸夫がその10名に声を掛けた。

「すまないけど、友人みんな勝雄の遺影の前、横一列に並んで欲しい、
最後の挨拶をしようよ。俺が勝雄に引導を渡す・・・」

横一列に11名が並んだ。

幸夫が前に出て手を合わせ「合掌」大きな声で言った。

全員合掌した。

遺影に向かい「納谷勝雄・・・大変お疲れ様でした。俺たちはみんな
勝雄が友達だったこと誇りに思ってる。

本当に楽しい想い出ありがとう。先にそっちに行っててくれ。

そのうち・・・必ず俺達も行く。そしたらまた千種の会やクラス会やろう。

その時は勝雄が幹事やってくれ、先に死んだ千種先生や敏明も呼んで欲しい。

先にそっちに行った勝雄の役目だ。幹事を頼んだぞ。

そして、そして、今度この世に生まれたらまた俺たち友達になろうな。
約束だからな・・・

本当にありがとう。そしてお疲れ様でした。合掌」

全員泣きながら合掌して終わった。

松岡は勝雄の塩むすびの話しが頭を過ぎり懐かしんでむせび泣いていた。

ここに、納谷勝雄追悼の小説を捧げる。 松岡

END


Hisaeは手を止め、製本して松岡に送った。

やっぱ、何度書いても死は苦手だね・・・

でも、最後の松岡が引導を渡す場面は書いてて泣いてしまった。

実際の葬儀でもでもやればいいのに・・・

訳の解らない僧侶のお経より、友人などの引導の方が
よっぽど好いと思うけど・・・そう思うの私だけかな?

そして、全ての職業や人にもよるけど、ある一線を越えた人って
共通する見解があるのよね。

シンプルが基本みたいな・・・

行き着いた人って今回の調理・武道・芸術・音楽・他の分野
でも達人って行き着くところは同じ臭いがする。

昨日一緒に酒を飲んだ花子も同じだった。

表現は皆違うけど・・・お母さんの塩むすびかも。

THE END

【HisaeとSizu】10-9

9.「夢」

 「何処なのよ・・ここは??」

HisaeはSizuと池袋で飲んで自宅に戻り、たしか・・・布団を敷いて
シャワーを浴び寝た・・・うん。昨日のことだからしっかり覚えている。

確かに寝た・・けど??ここ何処だ??

Hisaeはアイヌの代表的な楽器ムックリを囲炉裏のまえで演奏していた。

「なんで?」

その時後ろから「ヌック・・・朝からムックリを鳴らしてどうした?」

Hisaeは振り返り声の主に視線を向けた。

「誰??」髭の生えた濃い顔をした見知らぬ男。

この出立は・・・みかしてアイヌの人?

それに私の持っている紐の付いた楽器っぽいものは?

私の頭どうかした?オネェの髭で焼酎飲み過ぎか・・?

Hisaeは「あんた誰だ?」

その男が「なんだって???」

「イシリクラン(なんか変)」Hisaeが言った。

これってアイヌ語?・・・なんで私がアイヌ語出来るのよ?

「イペルスイ(腹がすいた)」男が言った。

「うるせ・・腹がすいたぐらいで、ぐだぐだ言うなっ。
こっちは何が何だかさっぱり解らねんだから・・・」

「エシアンテ(腹立つ)」と言い捨てて男は出て行った。

「何が腹立つだ・・・こっちがエシアンテだよ。あれ??私の頭やっぱ変だよ・・・」

その時Sizuのことが頭を過ぎった。

「Sizuはどうなった???」

次の瞬間ひとりの女が入ってきた。

「姉さん目が醒めたの?」

紛れもなくSizuの声だった。でも姿形は全く違う。

「あんたSizuなの?」恐る恐る聞いた。

「そうだよ、私はSizu」

「なんかおかしいと思わない?」Hisaeは目を丸くして言った。

「おかしくないの。ここは130年程前の北海道なの。場所でいうと太平洋側の静内」

「なんで静内に?しかもアイヌ?」

「これは私の夢の中なの。ただの夢じゃないのSizuと姉さんの前世」

「夢って事は解ったけど、なんで私があんたの夢の中にいるのよ?」

「Sizuねぇ、他人の夢と同調させること出来るの。同時に同じ
夢を二人で共有できるの」

「お前そんなこと出来るのかい?・・たまげたね・・・
でも面白いね。で、これはどっちの夢なの?」

「二人共通の夢、姉さんと前世で一緒だったから当時のこと思い出してるの」

「・・・解ったわよ。そういう事なら表に出て楽しもうよ。
それと、あの男は誰なの?」

「姉さんの旦那さんでセキという名前だよ」

「ふん~~。で、私は主婦なのかい・・・」

「フチというシャーマンよ」

「あんたは?」

「私もフチなんだけど病気とかのお払い専門のフチで祈祷師みたいなもの」

「私は?」

「姉さんは、神託とか妖精とアイヌの架け橋というか、通訳みたいなこと」

「へ~~面白い」

「それとラマッコロクルという長老の知恵者がここでは
絶対的存在なのね、だから逆らったりしないでね。

それと、倭人は北海道を我が物顔で歩いているけど逆らわないように。
私達アイヌはハッキリいって迫害を受けてるの人種差別」

「そっか、そういう時代か・・・・解ったよ、外を案内してよ」
Hisaeは複雑な気分で表に出た。


外は澄み切った空と海と川が一度に視界に入る所だった。

「Sizuここ凄い所ね・・・綺麗・・・」

「綺麗でしょ・・・これからこの地も文明が栄えて段々と
町が変わるの。本当に進化って呼べるのかどうか?」

「あっ・・・思い出した。さっき私の旦那らしき男が腹減ったって
言ってたけど・・・どうするの」

「大丈夫だよ、何処かに行って食べてるよ」

「何を食べてるの?」

「夏場はそこら中食べ物が豊富にあるの。蓄えは冬場のぶんだけ、
肉や魚を干したりするの」

「なんかそれって原始風で好いね」

それから二人は村を散策して歩いた。

「姉さん全然思い出せないの?」

「うん、断片的に、言葉だとか、音楽や服や家の造りなど良いなって感じるけど。
あんたのように詳しく思い出せない」

「そっか・・私はこの時代は楽しい事ばかりだったから結構鮮明に覚えてたのね」

「そういえば姉さんは、いつもラマッコロクルと言い争い
してたから・・・一度、村を追放されたことあったのよ」

「あんたそんなことまで覚えてるの?」

そこへ、向こうから長老ラマッコロクルが二人に向って歩いてきた。

Sizuが「噂をすれば何とかよ」

Hisaeは深々とお辞儀をした。

それを横でSizuが慌てて辞めさせた。

長老は一瞬怪訝な顔をしたがそのまま通り過ぎた。

「Sizuなんで折角の挨拶止めるの?」

「お姉さん、今の挨拶は倭人式なの。アイヌ式とは違うのね。
だから村長は変な顔してたの」

「なるほどね・・・めんどくせぇ・・・」といいながら道ばたの小石を蹴っていた。

Sizuはその仕草が面白いと笑っていた。

「Sizu・・・ところで、この夢いつ覚めるのよ?」

「もう帰りたいですか?」

「いや、帰らないで、みんなをからかって遊ばない?」

「姉さん、こっちの人達は純粋なんだから。それに姉さんのというか・・・
フチの言葉には影響力あるんだから・・・」

「はいはい」

Hisaeは思った「なんで私がSizuから注意を・・・???」

「姉さんこっちに来て」

「はいよ」

二人は小川の淵に来た。

Sizuがスズランの群生を指さした。

「おや、スズランかい・・・綺麗だね・・・」

Hisaeが近寄ると葉の陰に黒い影が隠れた。

「なに?・・・Sizu今、何か動いたけど??」

Sizuはその影に近寄って声をかけた。

「出ておいで・・・」

スズランの葉の陰から小さい人の形をした生きものが顔を出した。

ジッと見ていたHisaeは「あんた誰?」声をかけた。

「この人達はコロポックル族、妖精だよ」Sizuが応えた。

「妖精なの・・・ウソッ・・本当に妖精なの??可愛い・・・
こんにちは私ヌック。あなたは?」

「Pinoだよ・・・」

「Pinoちゃんよろしくね。Sizu、この子Pinoちゃんだって、
可愛いね・・・」

「Sizuは前からこの子らと知り合いで、妖精さん達の世話役なの」

「へ~~。他にも仲間いるんですか?」

Pinoはヌックの後方を指さした。

ヌックが振り返るとそこには10人ほどのコロボックルの集団が立っていた。

ヌックが「皆さんこんにいちは・・・」

その中の一人が「ヌックさん、こんにちはダニ。ここで何やってるダニ?」

「Sizuおもしろい・・・この子達ダニだって」

「姉さん・・・」ヌックはまた叱られた。

ヌックはその場に屈んで「Pinoさんはここで何をやってるダニ?」

「ノッキリ(花)から蜜を採ってるダニ」

「蜜は美味しいの?」

「美味しいから採ってるダニよ・・・」

「それもそうね・・・変なこと聞いてすいませんでした」

「ヌックさん、あなたおもしろいダニダニ」

それから二人と妖精達は太陽が真上に来るまで語り合っていた。


 Sizuが「姉さんそろそろ帰りましょう」

「えっ、もう帰るのかい?もっとコロポックル達と話そうよ・・・」


 次の瞬間Hisaeは自宅のベットの上で目が醒めた。

「????なに????夢???」

ベットから起き上がっり、Sizuの寝ている部屋に入り、いきなり
寝ているSizuを揺らし「おい、Sizu起きろ・・・」

「なに???あっ、姉さんおはようございます」

「お前さ、今、夢見てなかった??」

「姉さんとアイヌ部落で妖精達と遊ぶ夢見たけど」

「やっぱり、あの夢は本当だったんだ・・夢に妖精のPino出て来た?」

「Pinoちゃんや10人の仲間もいたよ」

「同じだ。あんた夢を操作できるのかい?」

「操作かどうか解らないけど、こういう夢視たいと思ったら。
なんかその夢が視えるけど」

「へ~~、そういうこと出来るんだ。今朝の夢みたいに二人同時に
同じ夢も視られるのかい?」

「姉さんと前世の何処かで一緒だったのかな?って思って寝たの。
同時に同じ夢を視たいとは思ってなかったけど・・・」

「そういうことか。あんたの能力は凄いよ。そしたらさ、あんたが
なんで今回は自閉症という表現方法で産まれてきたのか知りたいと思わない?」

「それ解らない・・・解りたいと思わないし・・・」」

「そっか・・・ごめんねSizu」

「はい」

「話し変えようね。Sizuはアイヌ以外に他の世界にも遊びに行くのかい?」

「たくさん行きました」

「何処か思いでに強く残る夢ある?」

「印度でヨガをやってました」

「それはどんな想い出があるの?」

「肉体の感覚を超越して光の世界に繫がる修行をヨガを通してやってよ」

「ヨガね・・・で、出来たの?」

「結構簡単にやってたよ」

「今のSizuは出来ないのかい?」

「必要ないからやってない・・・」

「なんで?」

「出来ても役に立たないもん」

「・・・なるほどね。しかしお前本当に変わったね。これからもその
感覚を磨いてね。頭は限界があるから感覚を研ぎすますのよ」

「はい、姉さんのおかげです」

「なんだい、そんなお世辞も使うようになったのかい」

「お世辞ではありません。Sizuの本心です」

「はい、ありがとう素直に受け取っておくよ」

【HisaeとSizu】10-8

8.「亡くなった母からのメール」

Sizuが実家に戻って一ヶ月が過ぎた。

Hisaeは仕事に追われ寝る暇も無く働いた。チャネリング小説という
分野を確立したおかげで依頼や問い合わせが多く、仕事に追われる毎日が続いた。

「あ~~~。Sizuの奴がいたおかげで結構助かってたんだな・・・
なんで帰したんだろう???あれはあれで楽しかった・・・・」

最近のHisaeはSizuのことでひとり呟くことが多くなった。

チョット、エバに電話してみよっと。

「もし~~~エバかい・・・Sizuからなんか言ってこない?」

「なんにも言ってこないけど・・・どうして?気になるなら自分で
電話してみたらいいジャン・・・」

「なんで私が?Sizuに電話しなきゃいけないのよ」

「そうよね・・・で、何にか用なの?・・・」

「何かって???」

「用事あるから私に電話くれたんでしょ?」

「あ・・・いや・・・もういいのゴメンね」

姉さん、Sizuが帰ったもんだから淋しんだ・・・わかりやすい
ババァだ・・・・顔に似ず可愛いかも・・・

エバは即、Sizuに電話した。

「Sizu・・エバだけど今日辺り店に遊びに来ない?
・・・えっ??Hisae姉さんなにやってるって?
わたし知らないわよ・・・自分で電話してみたら?」

あの二人どうなってるの?・・・姉さんはめんどくせ~~けど
Sizuは可愛い・・・

エバの計らいで同時にオネエの髭で顔を合わせることになった。
二人には当然内緒であった。


 「いらっしゃいませ~~~。姉さん久しぶりね・・・生きてたの?」

「当たり前でしょ、私を誰だと思ってるの・・・たく!」

「なんかイライラしてる?」

「なんもしてねぇよ・・・カタチチのエバさんよ・・・」

「やだ・・・なにそれ・・・喧嘩売ってる~~」

「売ってねえし・・・早く、いいちこ飲ませろ・・・」

「Hisae姉さん怖い~~~」

「うっせ・・・早く持ってこい」

その時ドアが開いた。

エバが「いらっしゃいませ~~~Sizuちゃんいらっしゃ~~~い
このオバサンの横の席、怖いからこっちに座りなさい」

Hisaeが「エバ・・おまえ、うるさい・・・」

Sizuが「わ~~い、姉さんだ~~~ちゃんと食べてるの?夜寝てる?」

「うん、寝てる・・・ていうか・・・お前は私の保護者か?」

全員笑いにこけた。

「家に帰ってなにやってる?」

「うん、ハローワーク行ったり。ネットで求人募集見てるよ」

「そっか。働いてみたい会社は無いのか?っていうか何がしたい?」

「姉さんみたいな仕事したい」

「そっか・・・」急にHisaeの顔が明るくなった。

「お前にあのパソコンあげるから、あんたの自宅で私の仕事手伝いなよ。
どう?給料は歩合制で?」

「・・・やりたい・・・また姉さんと仕事したいもん」

「わかった、じゃあ明日PC持ってお前の家に行くから。
お父さんお母さんにも挨拶するよ。それでどう?」

Sizuは親に報告すると告げ喜んでエバの店を出ていった。

「エバ、お前企んだろ。私達を会わせるように」

「偶然で~~~す」

「馬鹿野郎Sizuがひとりでオカマバーに来るか・・・アホ・・・ありがとうねエバ」

「ぐうぜん~~で~~す」


翌日パソコンを抱えたHisaeがSizuの家を訪問し、
話しがまとまった。

Hisaeも元気を取り戻し仕事に励んだ。

そんな矢先、一通のメールが届いた。

「前略 Hisae様 私は40歳、普通の主婦です。主人は公務員で
娘1人の3人家族。10年前に下の娘が6歳で他界しております。

この度、Hisaeさんにお願いがあってメールいたしました。
娘が旅立った先の霊界での生活を小説にしてもらえないでしょうか。

向こうの世界でどんな生活をしているのか知りたいのです。
依頼料は100万円の用意があります。
是非ご検討願えないものでしょうか。 山岸杏奈」 

この手の小説を請負うのは難しいのよね。

「メール拝見いたしました。残念ですがこの仕事は、お受けすること
出来ません。申し訳ありません。 Hisae」

またメールがあった。

「どうしてでしょうか?お聞かせ下さい。  山岸杏奈」

「霊界のことは私には解らないからです。失礼します。 Hisae」

そして数日が経過、また山岸からメールが届いた。

「先日は大変失礼しました。こんどは違う形で申込みいたします。
他界した娘のを主人公とした小説でお願いいたします。 

娘が大学を卒業し高校の先生という道を選びました。

生徒から評判の良い教師一筋の一生です。子供は女の子二人で、孫も
二人おり何処にでもいる普通の女教師として描いて下さい。 山岸杏奈」

Hisaeは首を傾げた。当たり前すぎというか文面から伝わるバイブ
レーションがどうも気になる・・・どうしようか・・・?

この感覚はHisaeが以前何処かで味わった記憶がある、言葉で表現
できない。だが確実に経験した感覚だった。

「なんだろう・・・しっくりこない・・・そうだ」

メールを返信した。

「イメージを作りたいので娘さんの写真を添付して下さい。 Hisae」

返信がきた「娘が死去して数年後に火災に遭い、思いで以外手元には
なにも残っていません。  山岸杏奈」

「そうきたか?・・・」

「大変申し訳ありませんがイメージが湧きません。私の手法は依頼者
からのバイブレーションを文章に創作してまとめます。

今回はそれが感じられません。イメージが湧かない仕事は書くことが
出来ません。すみません。 Hisae」

後日、また山岸からメールが届いていた。

「初めまして、私は山岸アズミと申します。杏奈という名前で
Hisae様とメールのやり取りがあったと思いますが、杏奈は他界した母の名前です。
私には事情が解りません。なぜ私のPCであなたに・・・
誰がメールしたのか皆目見当がつきません。

文面を見るとHisae様は、何か物書きを職業にしてるかたと見受けられます。

失礼とは思いますが簡単で結構ですので、事情を聞くわけに
いきませんか?悪戯なら返信の必要ありません。 山岸」

「なに?これ・・・?やっぱり・・・」

Hisaeはあの違和感の原因が何となく把握できた。

ひととおり事の経緯を山岸アズミにメールした。

また返信があった。

「Hisae様 私のかってで恐縮ですが、母とメールのやり取りを
続けてもらえないでしょうか?当然代金はお支払いいたします。

他界した母が今何を考えているのか知りたい気もします。

姉とも相談した結果、Hisae様にお願いしてみようという事になりました。

小説は適当でかまいません。母とHisaeさんのメールの
やり取りに興味があるからです。

是非願いいたします。私達の希望を叶えて下さい。 山岸アズミ・姉ムツミ」

「・・・・乗りかかった船・・書いてみるか」

Hisaeはキーボードに手を置いた。

「山岸杏奈様 この小説を書くにあたり多数質問があります。
質問に返答いただけるのでしたら執筆したいと思います。 Hisae」

「Hisae様 ありがとうございました。さっそく質問に
お答えしたいと思います。どうぞお聞き下さいませ。 山岸杏奈」 

「質問1、お二人のお子さんの産まれてからの思い出に残る
エピソードをお聞かせ下さい。Hisae」

「Hisae様 長女ムツミは小さい頃から気の利く子でした。
あの子がまだ3歳の頃、私が風邪で高熱を出して寝て
おりましたら、よちよち歩きのムツミは、私のそんな姿をみていた
あの子は、自分で冷蔵庫のフリーザーを開けてアイスノンを取出し、
私の枕元に持ってきたことがありました。

アズミは活発な子でした。いつも姉のあとをついて遊んでおりました。
でも、目をそらすと何処か違うところに勝手に行ってしまうので、
ムツミに叱られては泣いておりました」

こうして母杏奈の文面は長々とつづられていた。

家族への愛情に満ちたその文面から、生前の母としての思いが痛いほど感じられた。

「質問2、将来理想とする山岸家の夢をお聞かせ下さい。 Hisae」

「Hisae様 ムツミもアズも人並みで充分です。家族が皆、
健康で明るく、いつも笑いの絶えない家庭であることが私の
願いです。そして二人の子の笑顔が私の最大の望みです。 杏奈」

Hisaeは文面を見ていて心うたれ、熱いものが頬を伝わっていた。

我が子を思う母の愛情が強く伝わる文章だった。

数時間後ムツミとアズミからメールが届いた。

「Hisae様 私達姉妹はHisaeさんのおかげで改めて、家族を
思う母の愛情を感じております。二人で涙しました。

最後に、私達から母親にメッセージを伝えて下さい。

『お母さん、ムツミもアズミも幸せにしてます。

これからも私達家族仲良く生きていきますから、お母さんも天国から
視ていてください。こちらのことは心配しないでね。

産んでくれてありがとう。大好きなお母さんへ。ムツミ』

『お母さん、生前は心配ばかりかけてごめんね。
私は思い立ったらなにも考えずに行動してしまう癖があるの。
いつもお母さんには迷惑をかけてしまいましたね。

私の目標はお母さんのような母になることです。

私の生涯で最大級の感謝を送ります。お母さんありがとう。

今度また産まれる時はお母さんの子供に産んで下さい。
アズミ』そちらの世界で又会いましょうお母さん」

その後、杏奈からのメールが途絶えた。

「Hisae様 先日は誠にありがとうございました。
母は昨年病死しました。死後も私達のことを
気遣っていたことに、私達は感謝と同時に泣きました。

そして、Hisaeさんの仕事のすばらしさに感謝しております。

ただ、母のメールには父親のことがひと言も書かれておらず不思議でなりません。

このようなケース場合、何か事情があるのでしょうか?
心あたりがあったら教えてくれませんでしょうか?アズミ」

「アズミ様 私のところに来たメールは、全てそちらのPCからのもので、
それ以外の文面はありません。確かにお父さんの事は、何も書かれておりません。 
私も理解できません。Hisae」

どうしたことかね?なんで父親が出てこないんだろう?
恨みか何かあるんだろうかね?ま、私には無関係・・・


それから数ヶ月、HisaeとSizuは忙しい日々が続いた。

Hisaeが「Sizu久しぶりに焼き肉食いに行こうかどう?」

「焼き肉行きたいです」

「了解、じゃあいつもの春光園で6時に待ち合わせ。
それと今日はオネェの髭でも行こうか。だから、私の家に泊まるって
お母さんに言ってから来な」

「乾杯~~」Sizuは満面の笑みをしていた。

「Sizu何か良いことあったのかい?」

「無いです・・・」

この頃のSizuはビールが飲めるようになっていた。
憧れのHisaeと乾杯したいが一心で、父親にビールを飲めるように
手ほどきを受けていた。

「にしてもなんで笑ってるの?」

「なんでも無いのだ」

「バカボン親父、禁止したろ・・・」

「ごめんなさい」

二人は焼き鳥を抱えてエバの店に行った。

「久しぶり~~姉さんとSizuちゃん。おゲンコしてた~~?」

Hisaeが「お前ね、古い言葉使うなよ。Sizuなんのことか
わからんだろうが」

「そうよねSizu元気だった??」

「元気です。エバ姉さんは?」

「ホイ、私も元気だホイ」

「キャ・・・ハハハ・・・」Sizuは喜んだ。

「Sizuこんな馬鹿ほっときな。馬鹿が移るよ・・・」

「馬鹿って移りますか?」Sizuは真剣だった。

「当然移るさ・・・そのうち片乳だけ大きくなるよ」

「キャ・・・ハハハ・・・」

エバは「Sizuちゃん言葉の遊びまで解るんだ・・・
もう、健常者と同じだね・・・凄いよSizuちゃん」

Hisaeは笑顔で頷いた。

【HisaeとSizu】10-7


7.「利 幸」

 Sizuはその後Hisaeのもとで正式に働くことになった。

従来の請負小説をHisaeが担当し、Sizuはチャネリングで
パラレル・セルフの小説を担当する事になった。

Sizuの知名度も徐々に上がり、ブログを見た客が多数依頼してくるようになった。

この頃のSizuは簡単な生活は支障なくこなせていた。

Hisaeが「Sizu今日はどんな人の小説書くの?」

「今日の依頼は大学関係の人なのだ」

「また出たな・・・なのだは禁止」

「無意識につい出ちゃうの・・・・です」

「よくこらえた。頑張れ」

「ハイ」

こうして二人の一日が始まった。

「その大学の関係の人ってどんなパラレルがあるの?・・・それと写真見せてみな」

「はい」PCに添付されていた。

Hisaeはじっと見ていた「この人の名前は?」

「新井田利幸25歳です」

「着信メールも開いてくれるかい」

「どうかしたの?」Sizuは意味が解らなかった。

Hisaeは写真とメールをじっと見ていたが、次の瞬間PCの
キーボードの上に手を置いた。

「この度はチャネリング小説の依頼ありがとうございます。執筆の前に
ひとつ質問させて下さい。あなたの本当の意図をお聞かせ下さい」

「Sizuこのままこの客は様子を見守って。次のメールが入ったら
私に教えてくれる・・・」

「ハイ??・・・・??」

その日の夜、新井田からメールが届いた。

「姉さんメール来たよ・・・」

「おっ、来たか・・・どれどれ」

「Hisaeさんの洞察力には驚かされます。偽りのメールで申し訳
ありません。私は先日、オネェの髭であなたと同席していたメガネで
スーツ姿の50歳の中年男です。新井田と申します。

話を聞いて個人的に沢山の質問をしたかったのですが質問が敵わぬまま、
あなたが帰ってしまわれました。

私は帰宅して早速PCで検索し、ホームページに辿り着きました。
最初はメールで質問する予定でした。がどういう訳か書いた文面が、
私の息子の名前を使って書いてしまいました。

私の息子、利幸はSizuさんと同じ障害者です。もしあなたの言って
いた、パラレルワールドの息子が存在するならばどんな生活をしてるのか?
その世界でも障害を持って生まれているのか?

Hisaeさんに大変失礼だと思いながら、息子を思う親心からか、好奇心を優先
してしまいました。この度のチャネリング小説申込を撤回いたします。
本当に申し訳ありませんでした」。

一緒に添付された写真には、二人並んだ姿があった。

「おっ、このおやじ覚えてる。私への視線がやたら真剣だったんだ。
そっか、そういうことか・・・」

Sizuに新井田のことを分りやすく説明した。

「Sizuこの男の子よく視て。この男の子のパラレル視てみな?視えたら教えて」

Sizuは写真を凝視した。

「姉さん、この人は時計とかメガネとかを修理する人。それと学校の
先生で数学を教えてる。それと動物園で働く人、猿の飼育やってる。まだ視る?」

「いや、ありがとうね」

Hisaeはキーボードに手を置いた「新居田様メール拝見いたしました。
息子さんのパラレルセルフには、貴金属の小物を修理される方と。
学校の教師。動物園で働き猿の飼育する方が存在するようです。

視る限りではいずれも健常者です。たぶん、今の利幸くんが障害者を
演じているのは、この世界のご家族とのカルマかも知れません。
それが私とSizuの見解です。   Hisae」

返信が届いた「ありがとうございました。メールを拝見して驚きました。
利幸は動物が好きで、今でも頻繁に上野動物園に行っております。
とくにチンパンジーが大好きで。オリの前から離れません。
それと、子供の頃から手先が器用な子です。どこかでパラレルと影響し
合ってるのかもしれませんね・・・」

Hisaeはそのメールを見て宙を凝視していた。

「姉さん・・・ネェ・・ネェさん・・私寝るから」

Sizuの声は全然聞こえてなかった。


 翌朝、Hisaeは早くからPCの前にいた。

「新井田様。利幸さんと一度会わせてもらえませんか?
ハッキリしたことは今の段階で云えませんが、
私にはある構想があります。会った時に説明いたします」

そして新宿にあるホテルニュートラルのラウンジで5人が顔を合わせた。

利幸の両親とHisaeとSizuはテーブルを囲み挨拶をした。

「君が利幸くんね。私はHisaeと、この娘がSizuです。よろしくね・・・」

利幸は頭を軽く下げた。そして母親の顔を不安そうに覗き込んでいた。

「お話しはご主人から聞いてると思いますが、私からもう一度説明
させていただきます。これがSizuの障害者手帳。
半年前までは自閉症と位置づけされていました。

私が友人から紹介されてSizuの持っている能力に興味を持ちました。
Sizuが失業と同時に家に遊びに来るようになったんです。

その間、数ヶ月私がSizuにしたことは、彼女の潜在意識に朝晩2回
働きかけることでした。

『Sizuの表現方法はそれだけではない。もっと違う表現方法を
見つけよう』って・・・それ以外何もやってません。

私は、ただ毎日同じことを話しかけることだけ、それ以外のことは望んでもいないし。
どういう風になるか想像すらしてませんでした。ある時その友達の・・・」

「Hisaeさん、オネェの髭のことは全部家内に話してありますから、
そのまま話して下さい。気遣いありがとうございます」

「あっ、はい。その店のエバという友達に指摘され、私が逆にビックリ
させられたんです。ですから、私がやったのはSizuの潜在意識に
語しかけるだけ。それ以外特別なことはなにもやってないし、心当たり
ありません。そういうことです」

横では、利幸とSizuがなにやら会話をしていた。

Sizuが「姉さん、利幸くんがね。前にオバサンに殴られたんだって。
だから今優しくしてもらうんだって」

Hisaeがじっと二人を見つめていた。


 母親が「あの~~う。利幸にオバサンとか叔母はおりませんけど・・・」

Hisaeは「Sizuもう一度、分りやすく話してくれるかい?」

「うん、利幸くんが、前にオバサンに殴られその傷が元で死んだの。
だから今、オネェちゃんが優しくしてくれるんだって」

利幸の両親はSizuの言葉に理解できず頭を傾げた。

Hisaeは「利幸くんが、なんでこのような障害者という表現方法を
とったかが理解できたような気がします。これは前世の問題ですね。
因みにお姉さんがおられるんですか?」

「はい、2歳違いの姉がおります」

「そのお姉さんは利幸くんに対してどうですか?」

「とっても優しいです。子供の頃はそうでもなかったんですが最近は
とても弟思いの姉です」

「これは私の推測で、ひとつの仮説です。どう取ってもらってもも
かまいません、多少話しはぶっ飛びます。

利幸くんは、前世でオバサンと何かあったようです。その時のオバサンの
魂が、今のお姉さんとして生まれ変わり利幸くんの助けになってる、
これで帳消しゼロ。カルマの解消。

これ、私のひとつの仮説で、当然断言できません。
ただ、Sizuにはそういうことを察知する能力があるんです。

魂には陽の因子と負の因子がたえずバランスを取ろうとしています。
最終的に調和の状態を目指します。

俗な言い方をすれば貸し借りゼロの状態です。

今、利幸くんとお姉さんはその状態にあると考えます。ベストな状態といえます」

両親は黙って聞いていた。

「このままで好いということですか?」母が聞いた。

「今現在は良い状態だと思いますが、お姉さんも年頃。自分のことを
考えなくてはいけませんよね。

子離れという言葉がありますが、弟離れも必要かと思います。遅かれ
早かれその日は必ず来ます」

父親が「利幸をSizuちゃんのように・・・その、潜在意識に
働きかけるにはどうやればいいのですか?教えて下さいお願いします。
私達に出来るのでしょうか」

二人の真剣な目線が利幸に注がれていた。

「理論的に可能です。ただ何度も云うようですが、もしかして偶然の
結果かSizuの能力がそうさせたのか?まったく分らないの。
それでも良いですか?」

「はい、かまいません」

「そうですかじゃぁ、利幸くんを何ヶ月か私に預けて下さい。
Sizuにやった方法でやってみます。下宿代だけひと月5万円下さい。それで良ければ」

「はい、お願いします。私の方から利幸に話して聞かせます。準備が
出来たら連絡しますが、Hisaeさんの方のご都合は?」

「布団用意したり色々準備します。来週に入ったらいつでもかまいません」


 そして、利幸がホームステイにやってきた。

「Sizuあんたが色々と生活のサイクルを教えてあげなね。私もやるから・・・頼むね」

「姉さん・・・」

「なに?」

「お風呂一緒ですか?」

「駄目よ・・・別々。当たり前でしょ・・・」

「利幸くん一人で洗えますか?」Sizuが聞いた。

「嫌です、できません。洗えません・・・」

SizuはHisaeの顔を見て「だそうです・・・」

「う~~~ん。分ったよ、私が水着きて入るよ。水着あったかな???遠い昔着たような
気がするよ。お前、はやく自分で洗えるようになれよ。もう25歳だろが・・・」

こうして3人の珍生活が始まった。

「利幸、お前は何が出来るの?」

「・・・お母さんって帰る」

「しばらくはここで生活するんだよっ」

「お父さんって帰る・・・」

「そのうち帰えれるから・・・」

「おねえちゃんって帰る・・・」

「Sizuお前からも何とか言ってよ」

Sizuはニヤニヤと笑いながら利幸を観て「ダメ・・・!」

「はい、です」利幸は即答した。

SizuはHisaeの顔を見て「だそうです」

「うそ・・・・あっ、そう・・・・この二人なんなの?・・・」


それからHisaeは朝晩2回利幸の潜在意識に語りかける日が続いた。

Sizuの時はやっていなかった観察日記を付けるように心がけた。
意識の変化を克明に付けることで何かが分ると考えた。


 利幸と暮らし初めて一ヶ月が経過した。

基本的な利幸の行動パターンが把握できた。

そしてSizuの言葉に反応しやすいことも分った。

それが変化なのか、日常の馴れなのかはまだハッキリとしない。

二ヶ月目が過ぎた辺りから何となく変化の兆しが見え始めた。

まず、テレビではマンガ主体だったものが、バラエティーを見るようになり。
そしてポイントポイントでしっかりと笑うようになっていた。

「花子、利幸、今日は吉祥寺に行って花子と美味しいご馳走でも食べようかね」

「ハイ・・・ですう」利幸だった。

「利幸あんたはタラちゃんか・・・」

「が、はははは・・姉さん面白いです」利幸が言った。

「そっかい・・・受けて良かった」

Hisaeは利幸の変化に気が付いていなかった。そばでSizuが
微笑んでいた。


 三人は吉祥寺にやってきた。

「花ちゃん久しぶり、こいつは利幸」

「利幸くん初めまして、花子です」

「ぼく利幸です・・・」

予め予約を入れておいた中華の春香飯店に4人は向った。

Hisaeは花子に利幸のことを報告していた。

「Sizu、利幸、好きなもの注文しなさいな」

「僕、天津飯と餃子お願いします」

「はいよ、Sizuは?」

注文したものが揃い4人は乾杯をした。

Hisaeが口を開いた「花ちゃんさぁ、今日は何かとニヤニヤにやけてない?」

「なんでたと思う?」

「・・・分らないよ・・・なにさ?」

「そのうち分るよ・・・」

その時だったHisaeの脳裏にあることが甦った。

昨年、Sizuを花子に会わせた時、やはり今と同じ事を花子から
言われたことを思い出した。

Hisaeは最近利幸日記を付けていなかった・・・というか利幸に
変化が感じられず、ただ怠けていたのだった。

Sizuの時もそうだったが自然と変化していたので気付いていなかった。

いきなりHisaeは「おい、利幸、お前なんか聞きたいことないか?
この花子姉さんはなんでも答えてくれるよ」

「僕は、なんでみんなと違うんですか?」

花子は微笑んで「みんなと、なにが違うの?どこが違うの?こっちが
聞きたいけど・・・」


「だって、みんなは仕事に行ってるでしょ。姉さんもSizuちゃんも
働いてるでしょ。僕、なにもやってません。みんなと同じ事出来ません」

そばで聞いていたHisaeは「利幸が他人と自分とを比べている。
っていうか文章になってる・・・こいつ・・・変わった・・・」

HisaeはSizuの顔を見た。

Sizuは母か姉のような眼差しで黙って利幸を見ていた。

一通り食事も終わり、Hisaeが思ってたことを切り出した。

「花ちゃんこれで二度目の経験なんだけど具体的に教えてくれない?どういうこと?」

相変らずの笑顔で花子はゆっくりと話し始めた。

「潜在意識に話しかけるってそういうことなの。気付く切っ掛けを
与えたの。二人の潜在意識にこれまでと違う表現のしかたを
Hisaeさんが気付かせたの。二人はそれに応えたのね」

「もう利幸は実家に戻してもいい?」

「うん、気付きは忘れないよ。一生涯」


 利幸を帰宅させる時が訪れた。

「利幸、今日またみんなで食事に行こうか」

「僕行きません。姉さんの家が良いです」

感づいている・・・・Hisaeは思った。

「新宿のホテルだよ最初に私達と会ったところ。覚えてるでしょ。
お父さんもお母さんも一緒だったでしょ」

「今日もお父さんとお母さんは来るの?」

「はい、来ます。久しぶりだね。お前が会って、帰りたくなったら
そのまま家に帰っていいよ・・・」

「・・・・・」

利幸は急に我が家が恋しく思えた。

利幸の母親が「お父さん、利幸はどんな風に変わったろうね」

「そうだな、利幸がHisaeさんのところに行って、お前と姉ちゃんは、
気が抜けたようになってたからなぁ。途中経過も全然聞かされてないし。
ドキドキするよ」

ホテルのラウンジでは、姉も一緒に三人そろって利幸が来るのをじっと待っていた。

出入り口のドアが開いた。

最初に入ってきたのが利幸だった。脇目もふらず家族のテーブルに歩いてきた。

三人の顔を見て「・・・みんな顔怖いよ・・・どうしたの?」

そのわずか数文字の言葉は利幸の歴史を覆す言葉だった。
家族には充分すぎるほど解った。

瞬間、三人の目から大粒の涙が溢れていた。

両親はHisaeのほうを向いて何度も何度も頭を下げた。

6人は席について食事をした。

健常者と比べるとまだ多少ぎこちない話し方だが、以前の利幸を
知るものは激変してることに驚きを隠せない。

食事を済ませHisaeから利幸に言葉をかけた。

「利幸、ここからお前は自宅に帰りなさい。お父さんお母さんに
しっかり報告しなさい。分った・・・?」

「はい・・・」

「それから一人で何でも出来ること見せてあげな。風呂も一人で入れて
洗えるよってね。分ったの?」

「それから・・・」

すかさずSizuが「姉さん、しつこいぞ・・・」

瞬間みんなの緊張がほつれた。

Hisaeは「くれぐれも甘やかさないで下さい。すべて自分で決め
させてください。私からはそれだけです・・・」

その場からHisaeとSizuが出て行こうとした時だった。

利幸が「姉さんSizuちゃんありがとう」と手を大きく振った。

ラウンジをあとにする二人の目も涙で赤くなっていた。

Hisaeが「Sizu」

「なに?姉さん」

「エバのところに行って飲もうか。今日は利幸に乾杯だべ・・・」

開店時間より少し早めだったが店に入り、エバと三人で乾杯した。

「姉さん、大変なことしたよね。たぶん歴史覆すかも。キリストが死者を蘇えさせた。
モーゼが海を割った。釈迦が水の上を歩いた。次ぐらいに大変な偉業かもよ」

「それがさっ、実感がないのよね。Sizuといい利幸といい手応えが
無いのよ。こう・・・やったっていう手応えが。
なんか気が付いたら変わってたみたいな・・・」

「で、今後どうするの?また聞きつけて問い合わせあるかも」

「もう、お断りよ。結構エネルギー使うし、依頼者の期待に添えるか
どうか自信ないよ。万一期待を裏切る結果になったら依頼者どう思う?
すごく落胆すると思わない?たぶん半端無い落胆だと思う。
だったら最初から安請け合いしない・・・」

「確かにそうよね・・・」

「わかった、私も口止めするね」


その後、問い合わせがあったがHisaeは取り合おうとしなかった。

確証のない安請け合いはしないと心に決めたHisaeだった。

その後、Sizuも実家に戻り元の一人暮らしになった。

「さあ、久々にCONAに行ってヘアースタイルを決めて
ひとり淋しく寝ようか・・・・Sizu・・・・・」

【HisaeとSizu】10-6

6.「Sizuと花子と覚醒」

 「花ちゃん久しぶり。この娘Sizu」

「私、花子初めまして」

「Sizuです・・・なのだ」

「なのださん、よろしく・・・」

花子にはSizuのことを話していた。

ホームレス花子とは吉祥寺のアーケード街で椅子とテーブルを置いて、
相談者のガイドとチャネリングやスピリチュアルなカウンセラーを
職業としているホームレス上がりの女性。

花子は横浜で大学卒業と同時にホームレスの中に入り、
次郎さんという老人に師事した。

その次郎が殺されたのを期に精神的に乱れてしまう。

そんなある時、突然悟りを開き突如ホームレスを辞め、吉祥寺の実家に
戻り、今は、サンロードで店を広げ相談者の話し相手をしている。

Hisaeとはエバの紹介で数年前から親交があり、年に何度か酒を
飲む間柄でもあった。

境涯の高さからエバやHisaeの相談相手にもなっている存在。
それがホームレス花子のだった。

吉祥寺の居酒屋Noroで焼き鳥を食べる約束になっていた。

「乾杯」

「Sizuこの花子姉さんは何でも答えてくれるから聞きたいことが
あったら聞きなよ」

「・・・・・ホームレスなの?」

「うん、昔、横浜でホームレスしてた」

「Sizuちゃんは?」

「Sizuは印刷屋さん・・・なのだ」

Hisaeが「電話で話したように小説では表現が普通なのにこうして
話すと断片的なのはどうして?」


 「元もと魂の段階つまりエーテル体では障害者はひとりも存在しない。
肉体がないから当たり前だけど。でもこの世での表現方法を障害者
というかたちで表現してる魂もあるの。こうしてSizuちゃんのように」

「なんで?」

「ひとつの表現方法よ、今世では、そういう表現の仕方を選んだのね。
こういう場合は、潜在意識に語りかけるの、他にも表現方法があることをね。
すると変わるよ。現にこの子は今小説という表現方法を選んだのよ。
だんだんとSizuちゃんは変わるよ・・・」

「そうなんだ・・・でも、他にもそういう子はいるけど、
なんでSizuちゃんは小説なの?」

「Sizuちゃんはチャネリング能力あるでしょ」

「うん、すごく強いよ」

「自分の頭で考えてないのよ。いわば、勝手に湧いてくるって表現した
方がはやいかな。キーボードから手を離したらすぐ戻るよ」

「確かに云えてる」

「Hisaeさん次第でだんだんと変わってくるよ。仕事上差し支え
ないのなら、そのまま雇用してみたら?

HisaeさんもSizuちゃんの能力に同調して、新たな自分を
発見できるよ、きっと・・・お互いの相乗効果にもなるから」

「なるほどね。さすが花ちゃん的確な意見ありがとう。Sizuちゃんあんた分ったの?」

「分った・・・なのだ」

「お前、キ-ボード持ってあるきなよ。普段とまったく違うんだから。もう・・・」

「違うのだ違うのだ・・・・違うのだ違うのだ」

「勝手にやってろ・・・」

花子が「他の才能も開花されると思うよ」

「Sizuに?」

「いや、二人に」

「二人?・・・」Hisaeの声が大きくなった。

「どういう事・・・」

「まだ分らない」

「ふ~~ん、期待して待ってるよ」

その時Sizuが「美味しいのだ・・・」

「なにが?」Hisaeが聞いた。

「餅ベーコンなのだ・・・」

「あっ、そう。あんたは幸せでいい」

こうして三人は楽しい時間を過ごし帰宅した。


翌朝「Sizuおはよう・・・もうキーボード叩いてるのかい?
ちゃんと寝たのかい?」

「・・・・・」

「無視かい・・・PCの前に座ると外界とはシャットアウトだものね、
その驚異的な集中力私も欲しいよまったく・・・」

さて、このままじゃぁHisaeらしくないから。

Sizuをどう導こうか・・・?

チャネリング小説か・・・

誰とチャネリング・・・

なにをチャネリング・・・

どれもベタだよね・・・・

突然なにかを書きたい衝動に駆られたのでとりあえずキーボードの上に手を置いた。

画面に「体外離脱」という文字を無意識で入力していた。

体外離脱?・・・そっか!!面白い。

Hisaeはリビングに向った。

「ねぇ、Sizuチョット手を止めてくれる」

集中しているSizuには聞こえてない。

「ねぇ、Sizu・・・お~~い・・・???

こら、Sizu手を止めろ、てめぇ・・・このやろう」

Sizuはやっと気が付いた「???・・・なのだ?」

Hisaeは肩を落とした。

「Sizuごめん・・・おはよう」

「おはようなのだ・・・はい、なんなのだ?」

「お前、正気に戻るまで長いよ・・・」

「????」

「まっ、いっか・・あのさ、Sizuは夢に入ること出来る」

「??・・・・??」

「寝てる時夢見るだろ」

「はい」

「その夢に入ること出来るのかい?」

「???」

「じゃぁ、夢を自分で作ること出来ますか?」

「うん、出来る・・・」

「今日のお昼ご飯を食べたら、私と一緒に昼寝しようね」

「??・・・なのだ??」

Hisaeは試してみたいもくろみがあった。


 軽い昼食を済ませた二人はアイマスクをして手を繋ぎ、シーター波
発生CDをかけて横になった。

「いいかい~~~これからゆ~~~っくりこの音楽を聴いて」

二人が横になって5分が過ぎた頃だった。

急に意識が頭から抜ける感覚がしたと思ったら次の瞬間広い空間があった。
視界のはるか先には高い山がそびえ立っていたが、どういう訳か距離感が
全く感じられない。

景色を眺めているといつの間にかHisaeの横にSizuが立っていた。

Sizuが話し始めた「姉さん、ここはSizuの意識の一部。
私の意識にようこそ」

「Sizuここは何処?」

「私の中にある世界の一部」

「一部と言うことは他にもある?」

Hisaeが質問した次の瞬間景色が変わった。

そこは宇宙空間で視界の先には月があって、その向こうには青い地球が浮かんでいた。

「月?」

「そう、月の裏側、後ろの青いあれが地球」

Hisaeは言葉を無くした。

次の瞬間場面が中世のヨーロッパのような雰囲気に変わった。視界の先には城が見えた。

「ここも、Sizuの一部?」

「はい」

次の瞬間、南米の密林で川の水を、木の皮の器に入れている人が現われた。

「ここもSizu?」

「そう」

次の瞬間、小さな庭で丸いテーブルを囲んで、お茶をしながら話している
三人の女性が視界に入った。その刹那Sizuとエバと私と実感した。

そして二人は現実に戻った。

「なんだこれは?」Hisaeが叫んだ。

横でSizuがにやけながらHisaeの顔を見ていた。

Sizu・・・まったく普通・・・なんで???

そうよね、数%の表面意識は自閉症のSizuだけど霊体は全く別よね。

なんで、わざわざ自閉症のSizuを演じてるの?

だんだん面白くなってきたよ。

小説書いてるよりリアル感があるからおもしろいよ。


それから事あるごとに二人は同時に体外離脱をして別世界を
楽しんでいた。だが、Hisaeには、あるもくろみがあった。

自閉症のSizuは表現方法のひとつ。本当のSizuというのは別。

自閉症の表現意外に本当のSizuがあることを教え込んでしまおうと考えた。
それから数ヶ月間ほとんど毎日のように二人は体外離脱を繰り返した。

「Sizu昼ご飯頼むよ」Hisaeが言った。

「任せて下さい。で、なに食べたいの?」

「う~~ん、Sizuはなんか食べたいのある?」

「モスバーガー食べたい」

「おっ、たまにジャンクもいいか。私は、チキンとモスとポテト頼むね」

「ハイ!」

そう、Sizuの会話にはあきらかに変化が現われていた。

Sizuの家族とHisaeは、変化に気付いていなかった。

その日の夕方「Sizu今日はオネェの髭行こうか?」

「わ~~うれしい。エバ姉さん久しぶりだ嬉しい」

あきらかにSizuは変化していた。

Hisaeが「まいど・・・」店のドアを開けた。

「いらっしゃ~~い、姉さん、Sizuちゃん。久しぶり~~。
元気してたの~~」エバだった

Sizuが「エバ姉さん久しぶりで~~す」

エバは唖然と立ちつくした。そしてHisaeの顔を見た。

Hisaeは何事も無いかのようにしていた。

エバは「・・・・・」なにか異次元を視たような気になった。

とりあえず平静を装いグラスに焼酎を注いでSizuとHisaeの前に置いた。

Hisaeが「乾杯」というと。

Sizuも「乾杯」

普通に何処にでもある当たり前の光景だが、Sizuを知るものは
天地がひっくり返るほど驚くことだった。

エバは立ったまま無言になっていた。

そして目から大粒の涙が溢れ大きな声を出して泣いてしまった。

Hisaeが「エバどうした?なにがあった?」声をかけた。

Sizuも「エバ姉さん、どうかしたの・・・?」

気を取り直してエバが二人に言った「Sizuどうしたの・・・?

あんた何があったの・・・?

姉さんSizuになにか魔法かけたの・・・?

私に分るようにいやこの店のみんなに分るように説明して・・・」

Sizuの事をよく知るオネェ3人も目を丸くして頷いた。

Hisaeはここで事の重大さに気が付いた。

「そうだ・・・私は毎日Sizuと一緒だから自然と当たり前に感じていた。
そうだよね・・・Sizuがちゃんと会話できてるよね・・・そうだ。
今・・・気付いた」

エバが「うんそれは分ったけど。どういう風にSizuが変わったって
いうか変えたの?」


 Hisaeが「たぶん体外離脱を毎日欠かさずやってるから、
Sizuの表面意識が変化したのかもしれないよ。

体外離脱してる時のSizuは全然健常者だから・・・
肉体がないから健常者という表現も不的確かも知れないけどね。

とにかく何ヶ月もやったよ。事あるごとにこの世での表現方法
変えたらってね・・・そんだけ」

「親御さんはなんて言ってるの」

「そういえばしばらく帰ってないな~~。Sizu、この店はお前家に
近いから今日は帰りなよ・・・」

「Sizu帰りたくない」

「いや、たまには帰りなさい。そうだ、私達1回出るよSizuを
自宅に送ってから私だけ出直す」

そう言って二人は店をあとにした。

二人が帰ったあと店はSizuとHisaeの話題で大変な騒ぎになっていた。


 「Sizu今日は帰ってゆっくりしな。お父さんお母さんに
お土産でも買ってくか。何が好きなんだい?」

「どら焼きが好きだよ」

「本当だ、受け答えがハッキリしてる。私もバカだね、毎日一緒なのに
気が付かなかったよ・・・」


 Sizuの家のチャイムを鳴らした。

「ハイ」

「私、Sizu」

「お帰り、待ってね」

母親が玄関を開けて出て来た。

そこにHisaeが立っていたので丁寧に二人は挨拶をした。

「Hisaeさんにはお世話になりっぱなしですみません」

「いえ、こちらも楽しくやっておりますので」

「中にお入り下さい。主人も買物に行ってるので、すぐ戻りますから。どうぞ中に・・・」

「はい、お邪魔いたします」リビングに通された。

そこに父親が帰宅した。

「やぁ、Hisaeさん来てたんですか?Sizuが世話になっております」

Sizuが「お父さんお母さん只今。今日は池袋のエバ姉さんの店で
飲んでたら。姉さんがSizuの家近いから帰りなさいって言ったの。
それでお土産にって、どら焼き好きだから1200円で買ってくれました」

父親と母親はエバ同様なにが起きたのか分らないでいた。
二人の知る我が子Sizuとは全然違っていた。

二人の心と感情と脳の意見がかみ合っていなかった。

それどころか空白というか虚無のような感覚だった。

場の空気を察知したHisaeが「説明させていただきますが
よろしいですか?」

その瞬間だった、母親が大きな声で泣き出した。その横で父親も顔を歪めていた。

母親が「チョット待って下さい。こ・・・心の整理がまだ・・・・」

HisaeはSizuの顔を見て言った「Sizuは大変なことをしたんだよ。
こんなに喜んでるよ。よかったね」

黙っていたSizuも大粒の涙を浮かべていた。

その情景を見たHisaeも涙が溢れていた。


 時間をおいてHisaeが今までの自分とSizuの経緯を分りやすく説明した。

父親が「まだ、心の整理が出来ていないので正直分りません。
ですが、今は、感謝しております。ありがとうございました・・・」


「Sizuあんた何日間か家に帰ってなさい。それからまたおいで」

そう言い残してHisaeはオネェの髭に戻ってきた。

店に入った瞬間、沢山の目がHisae一点に集中した。
従業員以外ほとんどがHisaeのしらない顔だった。

エバが「姉さんごめんなさい、姉さんの噂をしてたら話が聞きたいって。
つぎつぎこんなに集まっちゃったの」

「あっ、Sizuのことかい?」

「うん」

全員がミミをすまして固唾を呑んでいた。

「分ったは。でも、他言はしないで。私も今日気づいたばかりで、
私自身が動転してるの。まずはと・・・エバ、ビールをジョッキーでちょうだい」


 「何から話そうか?。Sizuのことは?」

エバが言った「それは説明済み。あとはどうやってSizuが変わったか?
ってことを知りたがってるの」

Hisaeはビールを飲みながら話した。

「簡単に説明すると、人の意識体って本当はみんな健康なのね、
だから障害者っていう概念が本当はないの。

この世に生を受けてから、たまにその意識体が歪な表現をする場合が
あるの、それが精神障害だったり身体障害だったりするの。
それ以外にも色々要因はあるけど一般的に大まかに。

私はそれを知ってたからSizuちゃんの意識に、違う表現方法も
あることを数ヶ月かけて教えたのよ。

そしたら徐々に変わってたのよ。私は毎日一緒だったから実感が
なかったのね。今日、エバに私的されて私も気が付いたの。

今、実家に行ったら両親は大泣きしてたの。私も思わず泣いてしまったわ。
部屋の空気が一変した瞬間って凄いよ。

その夜は終始Hisaeへの質疑応答で終わった。

「最後にこの事は他言しないでね。Sizuちゃんだからそうなったのか
分らないの。他に依頼があっても私責任もてないからくれぐれも他言し
ないで下さい。お願いします」

【HisaeとSizu】10-5

5.「SizuとHisae」

 Sizuは毎日Hisaeの家に遊びに来るようになっていた。

「姉さんSizu来た・・・のだ」

「ハイどうぞ」Hisaeはオートロックを解除した。


 「Sizuあんたに、この部屋の鍵預けるよだから今度から黙って
入っていいからね。私が留守の時でも勝手に部屋に入っていいよ」

手の渡されたルームキーを見てSizuは嬉しそうにじっと見て
そして呟いた「な・の・だ・・・」

HisaeはSizuに妹のような感覚を覚えた。
Sizuも姉のように慕っていた。


 Hisaeが部屋に籠もって執筆している時は、Sizuが部屋掃除を
するか好きな絵を描くか、なにかをキーボードで打ち込んでいた。

「Sizu今日はヘアーサロンに行こう、KOHEIっていう男の子を
からかいに行こう。決定」

「決定・・・なのだ」

二人はヘアーサロンKONAにいた。

「Hisaeさんいらっしゃいませ。お久しぶりでした」

「こんにちわは、KOHEI。この娘Sizuちゃん。今日はあんたが
やってちょうだい。いいかい綺麗に可愛くネ・・・頼んだよ」

「はいお任せ下さい。こちらにどうぞ」

「??なのだ・・・」

「はい???」

「Sizuちゃんは天才なの、少し寡黙なんだ。だから話しかけないで
ほっといてやって」

「どのような感じにしたいのかと思って・・・」

Hisaeが「Sizuどんな頭にしたいの?」

Sizuが壁の写真を指を差して言った「あれ・・・」

指の先にあったのはモヒカン頭のモデルの写真だった。

「Hisaeさん、ああ言ってますけど宜しいので?」

「チョット待って。Sizuこんな頭にしたいのかい?」

「したいのだ・・・」

「う・・・さすがにモヒカンは・・あんたの場合は親の承認を
もらわないと・・う~~・・・・困った」

KOHEIは初めてHisaeの困惑している顔を見て、うっすらとにやけていた。

「KOHEIなに見てんのよ・・・」

「Sizuその頭は今度にしようよ。お前は就職活動中だからその頭は
チョットまずいかも・・・面接にいった会社の人ビックリするべ・・・」

Sizuが次に選んだのが黒柳徹子風の写真だった。

「KOHEIなんでこんな写真ばっか置いてあるのよ。ここはモデルさん
御用達の店なのかい・・・たくもう?変な写真撤去・撤去。普通の写真集ちょうだい」

「この中からどうぞ」KOHEIがSizuに渡したのはストレート
ヘアーの写真集だった。

「これなのだ・・・」次に選んだのは写真の中では地味な感じだった。

Hisaeは「これが好いのかい?」

「なのだ・・」

「じゃ、KOHEIこれで頼む」

KOHEIが「本当にこれで好いですか?」

「なにが??」

「後ろ借り上げですよ」

「な~~に。KOHEIてめ・・・俺を舐めてるのか・・・」

Sizuが「舐めてる舐めてる」大はしゃぎしていた。

結局スタイルが決まるまで一時間を要し、決まったのがHisae風
カットで二人は双子の姉妹のようになった。

「なんで私がSizuと同じカットなのよ・・・」

「これで・・・いいのだ」Sizuは大満足だった。


 後日、Hisaeは仕事で寝たのが早朝のためSizuが来ても
熟睡状態で目が醒めたら昼の2時を廻っていた。

「おう、Sizu来てた・・・」

「昼グワン(昼ご飯)作ったのだ」

「いつもありがとうね、助かるよ」

「助かるのだ・・・」

Sizuはここに通うようになってから料理や洗濯・掃除と何でも
こなすようになってきた。

Hisaeに誉めてもらうのがSizuは嬉しかった。

「Sizu今日も忙しいから相手してあげられないのよごめんね。
もう少しで終わるからそしたらエバのところに行こうか?」

「うん、エバ姉ちゃん兄ちゃんって行く」

「姉ちゃん兄ちゃんか??あんた上手いこと言うね」


 Hisaeはリビングにある古いノートパソコンに電源が
入っているのを見た。何気なくフタを開けてみた。

「何々??・・・・」しばらく見入ってしまった。

「なに?これ・・・?」

そこに書いてあった文章はSizuが書いたであろう小説だった。

なぜなら句読点が全くなく、です、ます、なのだ、の文章の
言い回しがSizuそのものだったからだ。

原稿用紙で訳約100枚程度のものだった。短編小説で3章形式と、
書き出しのが一章あった。

内容はSizuの目線から見た社会の動きを交えたファミリー小説っぽい
ものと。宮沢賢治が書くようなメルヘンチックな動物の物語と、
抽象的なHisaeでも形容しがたい世界の小説になっていた。

どれも句読点や構成がデタラメだけどそこがSizuらしい表現に思えた。

「Sizuこれあんたが書いたのかい?」

無言で首を縦に振った。

「どうしてこれ書こうと思ったの?」当然の疑問だった。

普段Sizuが話す会話は要点だけで、断片的であり会話として
成り立っていないのに、小説ではしっかりと形容詞も心理描写も交えた
会話になっていたからだ。

そして、なによりも驚いたのは、絶対にSizuが見たことがないで
あろう明治・大正・昭和の背景や当時の人の意識も書かれていたことだった。

何故なら、Sizuはテレビを見ていてもドラマやニュースなど
まったく興味を示さないし、動物が出る番組以外はまったく興味を
示さないからだった。当然本も読まない。

「姉さんが書いてるから・・・Sizuも書くのだ・・・」

もしかして、Sizuは感能力がずば抜けてるから、私のやり方に感応してる・・・?

とりあえず私の仕事を済ませたらエバに相談してこよう。


 数日後、二人は池袋のオネェの髭にやってきた。

「いらっしゃいませ~~」

Sizuが「エバ姉さん兄ちゃん~~~」

すかさず男の声で「兄ちゃんは付けなくていいから」エバが言った。

Sizuも低い声で「兄さん付けなくて好いから」店に居た全員が笑った。

Hisaeはエバに感応能力のことを話した。

「姉さん、Sizuは私達の知らない能力がもっとあるかも知れない。
チャネリングだって出来るはずよ。チャネリングで小説執筆させたらどう?」

「チャネリングか・・・・面白そう。アイデアは私が考えるとして
それをどう伝えるかよね・・・とにかく初めての事だからとりあえずやってみようかね」

「カラオケベートーベン第9」をリクエストした。

Sizuと言えば第9よね。


 それから二人は飲んで歌って店をあとにした。

「まだ10時か・・・Sizuお前の家に電話しろ。今日は姉さんの
ところにお泊まりしますって言いな。なんか言ったら私と替われ」

Sizuが「お母さん、今日姉さんが泊まれって言うのだ。
良いですか?・・・・・・はい、変わるのだ」

「もしもしHisaeですご無沙汰してます。今晩うちに
泊めますので・・・はい失礼します」

電話を切って「良いのだ。良いのだ」Sizuは嬉しい時に言葉を
二度繰り返す癖があった。

「さっ、今度は下北沢で飲むぞ・・・」

「ワーイ・・・飲むぞ、飲むぞ」

二人は下北沢のスナックに入っていった。


 翌朝「Sizuおはよ???あれ??いない??」

家の中からSizuが消えていた。

時計に目をやった。

まだ、8時じゃない、あいつ何処行った?

とりあえずSizuの携帯に電話した。

「只今電話の出来ない地域に・・・」

???何処行った???

その時ドアの鍵の音がした。

「姉さんおはようなのだ・・・」

「Sizu何処行ってたの?」

「スズメのご飯買ってきた」言い終えるとコンビニの袋から米を出した。

「そっかい・・スズメね・・・分ったよ。でも、なんで急にスズメの餌なの?」

「お腹空いたって言うのだ」

「うん、分った。質問した私が間違ってた。どうぞ、餌やってください」

二人は朝食を終えてひと息ついた。

「ところでさ、あんたもなんか書いてみない?例えば・・・スズメの
学校なんてどう?スズメはいつも群れて生活してるよね。 
その中には私みたいな変わったスズメがいるかもしれない。
そのスズメの物語なんてどう?」

「Sizuスズメさん好き・・・書くのだ」

「分った。じゃあ、そこのパソコン使っていいから書いてみなよ。
バックアップの取り方は分るかい?」

「分るのだ」

「そっかい、じゃあ書いてみな」

Sizuは食卓にパソコンを乗せて向き合った。

ここから、奇才Sizuちゃんの小説活動が始まった。

<スズメの学校>
スズメの学校に通う一羽のミミというスズメの物語。
ミミは、みんなと同じ事をするのが苦手なタイプ。
ある日、学校でお遊戯の時間に突然空からハヤブサが群れを
めがけて急降下してきました。

スズメたちは一斉に避難しました。
が、ミミだけは逃げ出さずにその場にジッとしていました。
ハヤブサは鋭い爪をミミに向けて飛びかかってきました。

ミミはたじろぎもせずに「どうぞ・・・食べて」そう言ってその場に
羽を広げて立っていました。

それを見たハヤブサはなにを思ったか、急にミミの前に舞い降りて、
威厳ある声で「お前はなんで逃げない」と聞いてきました。

ミミは「どうぞ食べて下さい」

「お前は私が怖くないのか?」

「怖いです。でも私はいいの。どうぞ食べて下さい」

ハヤブサはこんなスズメと会ったのは初めての経験

逃げまどう動物には本能が反応するけど、ジッと死を待つ動物には
会ったことがないし、なにか拍子抜けする。

「なんで?逃げない?」

「私が逃げたら、あなたは他のスズメを狙うでしょ?」

「当たり前だ・・・」

「だったら私をどうぞ・・・」

「だから・・・そこが分らないのだ。お前は確実に死ぬんだぞ。
お前の、父さん母さんや兄弟と会えなくなるんだぞ、それでもいいのか?」

「しかたありません。さぁ早く、私を食べて下さい」

「お前は頭がおかしいぞ。又来るからその時は食ってやる」

そう言い残してハヤブサは、大空めがけて飛び去って行きました。

遠くから見ていたお父さんスズメがミミに近寄てきて言った。

「ミミ、お前はどうして逃げなかった?」

「もし、殺されたらそれもミミの人生だもの。それに、みんなと
お遊戯して遊ぶのつまんないもん」

「なに言ってる。我々は昔からいやこの先もずっとこうやって生きるんだ。
それがスズメというものなんだ」


「だから、分らないの?ミミはもっと違うところを見てみたいぞ。
みんなと同じ事したくないの・・・ごめんなさいぞ」

そう言い残してミミは大空に飛んでいきました。ここからスズメの
ミミの物語が始まります。


 Hisaeが1時間程度で見に来た。

「Sizu書いてるかい?」

Sizuは真剣にパソコンに向ったまま返事もしなかった。

Hisaeは後ろに回りモニターを覗いた。

この娘ったらちゃんと文章になってるし句読点も打ち始めてる。
これってどういうこと?・・・Sizuのチャネリング能力は凄い。

これを書けるのにキーボードから手を離すといつもの「なのだネェチャン」
に戻るんだからなんだろうね??


 Hisaeが「Sizu今日お泊まりしなよ。吉祥寺に連れてってあげるから。
家に電話しな・・・」

「吉祥寺ですか?」

「うん吉祥寺だ」

「吉祥寺にエバ姉さんいますか?」

「今日はエバはいないけど花子姉さんがおります」

「花子??」

「そう花子姉さんです」

原稿料が振り込まれると、二人で食事に出かけることがすっかり習慣となった。

「今日はホームレス花子っていう友達に会いに行くよ。
三人で酒を飲むべし・・・」

「花子・花子・花子・・・なのだ」

「お前は九官鳥か?」

【HisaeとSizu】10-4


4.「Sizuとスパイ」

 Sizuからの不思議なメールの後、Hisaeは仕事に身が入らず苛立ちさえ覚えてきた。

「どういう事??なんでなの??」

この心の動揺は何処から来るの?

携帯が鳴った「はい、おっ、エバ?どうかした?」

「姉さん、私、なんかしっくりこないのよねぇ・・・」

「エバもかい、私も同じよ。あの後数回メールがあったけど、最後に警察に
云ってみたらって。そっけない文章を打ったの、その後、途絶えたっきりよ」

「分った、私からSizuちゃんにメールと電話してみるね、何かあったらメールします」

その日の夜エバから直接電話が入った。

「姉さん、私、今Sizuちゃんからメール入ったよ。『助けて』って
それだけなのよどう思う?」

「私の時と一緒だよ。とにかく会って話ししようってメールしてよ。
場所が決まったら私もそこに行くからさ」

エバからメールが入った「明日6時に池袋の喫茶Konaで待ち合わせ」

「了解」


 Hisaeは30分前から店に来て二人を待っていた。

「お待たせ~~」エバだった。

「お疲れさま。Sizuちゃん来るかな?」

「うん、来なかったらもう忘れようよ。姉さんも落ち着いてられないでしょ」

「私のことはいいけど・・・なんかしっくりこないのね」

「私もそうなの健常者ならいざ知らずSizuちゃんは・・・やっぱねぇ・・・」

二人が話しているとそっと横に座ったのがSizuだった。

Hisaeが「Sizuちゃんどうしたの?あんた何があったの?」

「姉さんチョット待って・・・」エバはHisaeの話しを遮った。

そしてHisaeの後ろ側を指で指し示した。

Hisaeが振り返るとそこには、Sizuの会社のあの応対に出た
女性が立っていた。

次の瞬間その女性は「あなた達ねこの子に訳の解らない事吹き込んで
いるのは。いったいどういうつもりなの?弱者虐待で警察に届け出しますよ・・・」

いきなりのけんまくに二人は呆気にとられていた。

「あれ・・・あなたはオカマバーのエバとかいう・・・」

「まいどお世話になってます・・・」気まずそうなエバの顔だった。

それを察知したHisaeは「今、警察って言いました??
どうぞどうぞ。なんなら私が呼びましょうか?」

「シズ、この人達はなんなのよ?」女は矛先をSizuに変えた。

「チョット待ってよ。今、あなたと話してるのは私なのね、私はHisaeと云って
Sizuちゃんの友達よ。

Sizuちゃんから助けを請うメールを受け取ったからここに事情を聞くために来てるの。
なんならその文章を警察に見せましょうか?私は全然かまいませんけど・・どうします?」

女は一瞬たじろいだ。

その様子を二人が見過ごすわけがない。

「どうします?・・・返事は?・・・どうなのよ」

態度が一変した「いやそこまで事を大げさにしなくてもいいかと・・・」
女の声がだんだん小さくなってきた。

「だって警察を呼びますか?って言ったのはあんたでしょうが。あの勢いはどうしたの?」

「すみません・・・」

「えっ・・・なんか言った?」

「すみませんでした私の失言でした。申し訳ありません」

「まっ、それはいい、その前にSizuちゃんと話しさせてちょうだい」

Hisaeは向きを変えた「ねぇ、Sizuちゃんが私とエバにメールした内容覚えてる?」

「・・・・・・」

「じゃぁ、エバ携帯メールを出して」

エバはメールをHisaeに渡した。

「いい、読むよ。『助けて』これどういうこと?」

「・・・・・・」小刻みにSizuの身体が震えてきた。

「エバがSizuちゃんもう話さなくいいから。ごめんね・・・」

Hisaeが女に向かい「あなた見たでしょSizuちゃんの身体の震え。
なにがあったのか説明しなさいよ。本当に警察に行くよ。

これは助けてだけど、私のPCには殺されるっていうメールが届いてるの。
殺されるって何度も着信あるの。どういう事か説明しなさいよ。

したくないならそれでも結構です。警察にこの話し持っていきます。
私、刑事に知人がいるから」

女は口を開いた「これから話すことは他言しないと約束して下さい。
それが出来るのなら話します」

「他言するかどうかは今はいえません。私達が聞いた上で判断させてもらいます。
それに・・・おたくさんは立場の間違えてません?
こちらが聞かなくても警察が聞くことになりますけど・・・」

「・・・・・分りました」女はこの二人には小手先の騙しは通用しない
こと、そしてHisaeの賢さを見抜いた。

「おたくさん達が何処まで彼女の能力を把握してるか分らないけど、
彼女の夢は未知数の能力を持ってるの。予知をしたり。
見えないものを視てきたりと不思議な能力の持ち主なの。

最近はますます能力に磨きが掛かり、詳細まで把握できてるみたいなの。
例えば今開発中の車の設計図だとかかなり正確に透視できるの。

但し夢だけど。その正確さは、かつてテレビや雑誌で騒がれたブラジルの
ジャンセリーノなんか比でないの、そのくらい凄いのよ。

私の会社は色んな会社から仕事を請負っていて、開発会社のお客様も多くいます。

彼女のことを何処からか聞きつけた企業が、彼女指名の依頼があったの。

その内容が商売敵が次回どんな商品を世に出すか?っていう事でした。

Sizuちゃんはその商品を正確に克明に言い当てたの。

依頼主は商品をいち早く開発アレンジし、その会社よりも2ヶ月早く
世に出すことに成功したの。

そして、それがとんでもない商品で一気に世界を駆けめぐったんです。
その商品名を言ったらお二方も解ると思います。

すべて彼女Sizuちゃんの能力のおかげです。

彼女の存在は知る人ぞ知る有名な女の子なんです。

そんな彼女だから、外部との接触や友好関係にもたえず目を光らしてるんです・・・以上よ」

エバが言った「あなたの話は解りました。でも、Sizuちゃんは殺されると言ってるんです。
殺すっていう言葉は普段簡単に使いません。それはどういう事ですか?」

「たぶん、最近外部から不穏な動きがあるようなので軟禁状態にしたんです。
通勤には必ずボディーガードも付けてました。
たぶんシズにはかなり息苦しい思いをしたんだと思います」

Hisaeは顔を傾げた・・・

話しは確かに面白い・・・けど実際メーカがそんな小さな町工場に
会社を左右するスパイの依頼をはたして発注するかどうか?

もうひとつ、このオバサンの話しかたは事前に用意されていたかのように流暢な言葉使い。
まったく淀みが感じられない。

Hisaeは考えた。そして切り出した。

「ねぇ、Sizuちゃんひとつ質問していい?」

「ハイなのだ・・・」

「じゃぁ、Sizuちゃんの夢は白黒?それともカラー?」

「両方なのだ」

「はい、ありがとう。エバは何か聞きたいことある?」

エバが「会社は今後Sizuちゃんをどう考えてるの?」

「それを決めるのは社長で私には分りません」

Hisaeが「Sizuちゃんは今のままで良いの?」

Sizuが口を開いた「会社辞めたい・・・」

「それがSizuちゃんの意向です。おたくの社長さんに伝えて
もらえますか?」Hisaeが言った。

「ええ、伝えますよ・・・でもみなさんSizuちゃんのような障害者の就職率を
分って言ってるの?同じような娘が何年も失業中なんて当たり前なのよ。

親御さんは、ただ同然の給金でも社会の一員として働かせたいと思ってるの。
あなた達は責任ある行動してると考えてるの?親御さんの気持ち考えてるの?」

Hisaeが「あなたねぇ雇用する方が立場が上って考えてるようね。
ということは障害者を雇用してやってるから会社のいいなりに
なりなさいって聞こえるけど・・・私の勘違いかしら?」

「そんなこと言ってません。私は今の社会の現状を踏まえて話してるだけ。
あなた達のように感情論では言ってません。
親御さんと話し合った方が好いわよ。親御さんはその辺のこと十分心得てると思うけど。
まぁいいわシズのことは私個人では対応できないので社長に伝えておきます」

そこまで言って女は去っていった。

エバが「Sizuちゃんの親と今から会えない?」

「会えるのだ。家に来ますか?・・・」

Hisaeが「エバ、ここは私に任せてくれる?あんたは店もあるし。
あとで、あんたに報告するから」

「でも姉さんに任せたままだと・・・」

「いいの、Sizuちゃんの大事だから任せて」


 SizuとHisaeは自宅に向った。

「今晩は」

「ハ~イ、いらっしゃいませ。あら、シズお帰り」

Sizuが客を連れてくる事は初めてだった。

「あのう~~手前どもの娘がなにか?」

「私はSizuちゃんの友達でHisaeと申します。
実は娘さんの仕事のことでお話しがあって訪問いたしました。

できればお父さんとお母さんが揃った上でお話ししたいのですが、
お父さんの帰宅は遅いのでしょうか」

「はぁ、あと30分程で戻ると思います。それまでシズの部屋で
お待ち下さい。散らかってますが・・・」

Hisaeはシズの部屋に通された。

「Sizuちゃん案外綺麗にしてるのね。私の部屋なんかひどいのよ」

「なにが・・・なのだ?」

「私の部屋が汚いの・・・」

「Hisaeバッテンか?・・・」

「おう、言われた・・・」

「でも、あんたの部屋・・・なんか暖かい感じがするね・・・」

しばらくして下から「シズ、お父さん帰ったよ・・・」


 4人はリビングで向き合って座った。

一通りHisaeは今日の話しを説明し終えた。

父親が「Hisaeさん、あなたの話は簡潔で解りやすい。
お仕事はなにをなさってるのですか?」

「はい、物書きをしてます。請負で小説を書いて生計を立てております」

「なるほど、どうりで話しに無駄が無く明瞭で分りやすい。私どもも
シズが疲れた様子で帰宅するのを見てましたが仕事の内容までは分りま
せんでした。シズが働いてくれるのが幸せだと思っておりました。

助けて!なんてシズの口から出るとは思ってもみませんでした。
ありがとうございます。

よく聞き出して下さいました。シズは自分の考えや感情を表現しません
から正直驚いています。これからも話し相手になってやって下さい。

事の善し悪しなど私には分りません。が、シズが苦しんでいて辞めたい
というのなら私はシズの意向に従います」

Sizuは月の締め日で会社を退職し失業保険の手続きをした。


 HisaeがSizuに電話をした「Sizu?何やってるの~~?」

「姉さんですか・・・Sizuなにもしてないのだ」

「そっかい、あんた下北沢まで一人でこられる?私の家に遊びに来ない?
駅まで来てから私に携帯くれたら迎えに行くけど」

「今、いくのだ」

「分った、ちゃんとお母さんに話してから気付けてくるのよ。
待ってるから」初めてHisaeの家にお呼ばれした。

「散らかってるでしょ。女の一人暮らしはそんなもんよ。
ケーキでも食ってのんびりやって」

「掃除してもいいのか?・・・」

「なに?いきなり?・・Sizuが掃除してくれるのかい?」

「うん・・・なのだ」

「助~~か~~る~~Sizu大好き。頼む・・・」

HisaeとSizuは息の合う二人だった。