【SANGA(神々の戦い)】全18-2

2、「暗黒の神エレボス」

 世界の経済は不調を来たしているとテレビや新聞では報道されていたが、
街には物が溢れかえり、様々な様相の人間と物が入り乱れていた。

不景気とはほど遠い感がそこにあった。

世界は人口が過剰になり、明日の食料にも事欠くという地域や、
中東のある都市では、贅の限りを尽くした街が存在していた。 

世界的に格差が一段と増してきた。

東京の一角に超高層ビルが建っていた。その名はKUJIビル。
近代建築の粋を結集したハイテクビル。その最上階に鎮座するのが、
日本の政治・経済・文化・スポーツを思いのままにする陰の最高権力者
久慈健栄(75歳)である。

人は彼をエレボスと呼び、彼に歯向かう者はこの世に存在しなかった。

彼の勢力圏は主にオセアニア諸国で、世界には同じような立場の人間が
アメリカに一人、イギリスに一人と、世界はこの三人の権力者が君臨し、 
陰で政治経済を左右していた。

そんなエレボスの元に大手電機メーカーの野口代表がやってきた。 

「久慈様、私どもニッセイ電気はご承知の通り今、経営の危機に
瀕しております。度重なるリストラで急場をしのいでおりますが、
この不景気でなんとしたものか・・・一向に業績が上がりません。 
そこで、久慈様のお口利きで銀行融資を承りたくお願いにまいりました。
なにとぞ日銀へ手回しをよろしくお願いいたします」

「野口さん、あなたの会社の直系従業員数と関連会社の従業員数は?」 

「・・・はい、約二万五千人です」

「そうですか。現在ニッセイ電気さん独自の特許数とそれに関連する
売上げ収入は他社のメーカーさんの三分の二ですね。 
この数字では先が望めないと判断しております。 

どうやら野口さん、あなたは方向性を見間違えてるようですね。 
私の知る先代社長さんは気骨がありました。たぶんあの方なら社員を
簡単に切る様な真似はなさらなかったと思いますがねぇ。

ここらでニッセイ電気を閉めましょう。 

特許の数が少ないと云うことは電気メーカーとしては致命傷です。 

野口さんも知っての通り、近年電気の分野は特許の申請をしてる間に
次の新しい技術が開発され、先の申請した特許が下りる前にもう
古い技術と化します。 

どうやらニッセイ電気も潮時が来た様ですね」 

「久慈様、そう言わずに何とぞ御思案下さい」 

「残念ですがもう遅いですね。大切な従業員の事も考えてどこかの傘下に
入れてもらいなさい。それも立派な社長職の仕事ですよ・・・お疲れ様」 

その後、久慈は某電機メーカーの社長に電話を入れた「今、ニッセイ
電気の社長が帰りましたよ。打合せ通りに事が運びました。
もうじき世間を賑わすでしょうね。あとはあなたの手腕で頑張りなさい」

それからひと月後、新聞に「ニッセイ電気破綻」の文字が大きく一面
トップを飾り日本中の話題となった。

久慈の後ろには悪神エレボスが憑依しており、今回の件もエレボスの指示
通りに久慈は動いていたにすぎない。 

このように人間本人が考えている様に見えて、実は陰でネガティブ
エネルギーが憑依し誘導するというケースは非常に多い。

その様子をサンガの神々が天界より視ていた。 

智の神ウルが呟いた「相変らずエレボスは姑息な真似をする・・・
彼の思考は金と権力でいっぱいのようだ」 

その頃、政治の世界では日本に対して農作物の貿易自由化法案が
叫ばれていた。 

国民の絶対数の意見は反対派が占めており、与党議員の中でもその
法案に反対する議員が多くいた。 

内閣総理大臣の多田が久慈に面会していた。

「久慈様の思惑通りに事を勧めてまいりましたが最近、野党はもとより
世論までもが強くて困っております。 

たぶんこのままだと年内に解散総選挙という事になりかねません。 
そうなれば我が党は絶対不利になります。どうしたものかと思い
参上致しました」

「多田君よくやった・・・ご苦労だった。予定通りじゃて・・心配するな。 
君もここらで一休みしなさい。 

ここらで野党にまわり、のんびりと高見の見物でもしてなさい。
今にアメリカは中近東で戦争に荷担し、日本は又金銭援助を余儀なく
されるはず。 

今後の総理大臣も大変だが国民はマスメディアの流す、表面の情報しか
見てないから上手くいくだろう。そのうちまた君に動いてもらうよ。
その時まで羽を休めなさい」

人間界ではエレボスの言ったとおり戦争が始まり、日本は直接参加せずに
援助金と支援物資や燃料を国連軍に供給し間接的に参戦をした。

このように闇の世界の3人は長年思い通りに世界を独占してきた。
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【Pino】10-4 (アップするの忘れてました・・・)

4「Pino」

 ここは北海道、日高山脈の中腹。 

この世に生を受けて11歳までは麓の町で育った女の娘、
名前はピノ。彼女の数奇な生き方をちょっと覗いてみましょう。  

彼女が11歳の誕生日目前、人生を左右する悲惨な事件は起きた。 

ピノを学校まで迎えに父親の運転で弟と母親を乗せて向かった、
赤信号で停車中の車に前方からダンプカーが信号を無視して追突し、
3人とも一瞬のうちにこの世を去ったのだった。 

ピノは1人残され叔母の家に預けられたが極度のいじめに遭い、
何時も1人で山遊びをするのが唯一の安らぎだった。

山でリスや狐を観察するのがピノの日課となっていた。

そんなある日、裏山でピノが遊んでいると叔母の息子のヒデタカが
薪をピノめがけ投げつけた。 

そういう行為は日常の事でピノはもう平気だったが、 
たまたまその時は側でリスがドングリを啄んでいて
ヒデタカはそのリスめがけて投げたのだった。 

ピノはその事に気が付き、とっさに薪とリスの間に分け入った。 

薪はピノの頭を直撃しピノは意識を失いその場に倒れ込んでしまった。

その様子を見たヒデタカはピノをそのまま放置し逃げ帰ってしまった。 
 
空には月が昇り山はひんやりと冷え込んでいた、倒れたままのピノは意識を
取り戻し周りを見渡した瞬間ビックリした。 

そこには狐や野ウサギ、リスやテンといった動物が、ピノの様態を
案じているかの様にピノを中心に輪を作っていた。 

そして一匹のリスが側に寄って来た。 

ピノの視線と目があった瞬間、ピノに何かを語りかける様な仕草をした。 

「君、大丈夫なの?」ピノにはリスの言葉が理解が出来た。 

ピノは「頭が少し痛い・・・」返答した。

リスは「さっきはどうもありがとう、私はあなたに助けられたリスです。
本当に感謝してます」 

「・・・あっ・・・はい・・・」 

そう答えた瞬間ピノはまた気が遠くなった。

ピノはそのまま数日間、気を失っていた。 

目が覚めたのは東の空から太陽が昇って間もない頃だった。 

身体は毛皮に包まれる様な感触があった。
 
ピノは倒れてから3日経ってから気が付いたのだった。 

自分に何が起きたのか把握出来ていなかった。 

微かに声が聞こえた。

「気が付いたの?良かった・・・」

「もう大丈夫だ!」 

「良かった!良かった!」

ピノの周りがざわついていた。 

あの時のリスが「もう大丈夫よ、元気になって良かった!」ピノは突然飛び起きた

「あっ?」

ピノを包んでいたのは熊だった。 

熊は「驚かないで!私はあなたの味方・・・」

その他にも沢山の動物達がピノの周りに群がっていた。 

「人間さん、まずは水をお飲み」鹿とリスが何かを差し出した。 

それはフキの葉を数枚重ねた器に水が入っていた。
 
ピノはいっきに飲み干した。

さっきまで不安そうな顔をしていた動物たちは一瞬で安堵の顔になった。

次に、リスや狐などの小動物が次々と木の芽や山菜を運んで来て
ピノの周りに置いていった。 

「ありがとう」ピノはお礼を言った。

「ところで・・・みんな、どうしたの?」ピノが聞いた。 

キツネが「私達はこの山に住む仲間。君がいつもあの人間にいじめられて
いるのをずーっと見ていたんだ。今回リスさんがあの人間にやられそうに
なったのを君に助けてもらったから・・・この森の仲間がお礼したくて
集まったんだ・・・」

数十匹の動物の姿がそこにあった。 

そこには熊や狸、狐などの肉食の動物も、鹿などの草食系の動物も
みんな一緒にいた。 

「私、ピノといいます。私を救ってくれて本当にありがとう・・・それと、
ここは私の家からどのくらい離れているの?」 

熊が言った「ここは人が全く来ない山の中。私の背中に乗せて一日ほど
山奥に入った所。しばらくここに居なよ」

「ありがとうございます。でも私、食べ物とか取ってこれないから・・」 

「大丈夫だよ。君達が食べてるような動物の肉は無い・・・
けど魚と野菜と木の実は沢山あるからここに居なよ」狸が言った。

ピノはこの優しい動物達としばらく暮す事にした。
 
山の生活は夜明けと同時に始まり夜更け後眠りにつく。

食事は一日一食で完全菜食。 

水は身体が欲するままに飲む。 

自然の中で生活するというのは自然に従う事が基本となる。

雨が降れば何日も洞穴で過ごす事もある。

ピノにとって一番の楽しみは渡り鳥や地方から来た鳥達との会話だった。 

その地方や土地の変わった動物や自然の話を聞くのが楽しみだった。

中でもお気に入りはアイヌ民族と動物達の共存と交流の話や 
森の妖精達と動物との交流の話し。
 
昔はアイヌ民族と動物はお互いのテルトリーが決まっていて
境界線を越える事は希だった。 

それが日本人が南から入ってきて境界の収拾がつかなくなった話や 
動物は普通に妖精達と会話をし、今も交流が当たり前のように
なされているなど、おとぎ話しのような話を聞かされた。 

ピノが基本的に思ったことは、 

妖精も動物も自然もすべての動植物は調和を保つことを原則としており、
調和が乱れることや乱されることを極端に嫌いそして恐れた。

肉食動物と草食動物の間には制約があり、食用の為の捕食は双方合意の
もとでなされていた。 

無意味な殺生は存在しなかった。 

捕食される側も合意がなされていた。

ピノはキツネにその事で質問したことがあった。

「じゃあ、何で捕食される側は逃げるの?」 

キツネは答えた「逃げるのは生命体としての本能なんだ。
解ってはいても死は怖いのさ・・・」 

「ふ~ん」 

そんな暮らしも5年が過ぎようとした頃、ピノの目に登山者の人間二人が
目に映った。 

久々の人間であった。 

自然界には実在しない色遣いの服装とリュックを久々に見た。
 
ピノに何ともいえない懐かしさが頭に蘇ってきた。 

「ねえリスさん、あれは何?」 

リスは答えた「あれは敵よ。私達の仲間を見たら殺そうとするの。
絶対、音を立てたり見つかってはいけないのよ」 

リスは説明するも、ピノは懐かしさを拭えなかった。 

ピノはリスの制止を聞かず人間のあとを追った。

登山者の二人は倒木の上で一息ついていた。

ピノが様子を伺っていたら足下の木を踏んでしまい音をたててしまった。

二人は熊か・・・と警戒しながら音の方を振り返った。 

そこには丸裸で髪の長い少女らしき姿があった。

二人は一瞬目を疑った。 

「誰だ?」ひとりが声を掛けた。 

ピノは即、走り去っていった。

町に下山した二人は警察に通報し、見たままを説明した。

その二日後には20名ほどの救助隊が結成され山に捜索に入ってきた。

捜索が入って二日目に大きいなブナの木の下にあった洞穴から
10歳前後の少女のものと見られる白骨体が発見された。 

死因は頭部損傷の疑いがあり司法解剖に回された。

死因は頭蓋骨陥没によるものと判明され被害者のDNA鑑定の結果、
行方不明のピノと断定された。 

殺人事件と見なされ、関係者の事情聴取によりヒデタカの傷害による
殺人と死体遺棄が伝えられた。

後日、関係者に発見現場の状況報告と写真が送付された。 

ピノの白骨死体の周りにはクルミやドングリなど、さまざまな木の実と
動物の毛や鳥の羽毛が散乱した写真だった。

【SANGA(神々の戦い)】全18-1

1「サンガと10人の神官」

 人間時間の西暦2011年、天界のサンガである集会がなされた。
議題はこの荒廃した人間界を立て直しするという計画。 

長年にわたり陰で人間界を操つり支配してきた魔界を消滅させる必要があった。
今の人間界はそのネガティブなエネルギーに強く支配されてる為、逆三角形の
ような構図が展開されており、魔界の存在はそのダークなエネルギーを食して
生きていた。 

彼らの苦手な事は愛や慈しみといった他人を労る心や行為であった。

上辺だけ繕う偽善が得意で、世界もそれによって巧みに運営されていた。

人間時間2011年夏。天界サンガの神殿に10人の神々が集結した。


・創造の宮(神官アメン)それを囲むように
・美の宮(神官イズン)
・智の宮(神官ウル)
・太陽の宮(神官ユーギル)
・月の宮(神官オーズ)
・アマテラスの宮(神官トール)
・風の宮(神官フレイ)
・地の宮(神官ミーミル)
・光の宮(神官ヘル)
・水の宮(神官エイル)

計10の宮が存在する。各宮を取り巻く形で無数の集団が存在し
サンガの都は構成されていた。 

それぞれの宮には神官と呼ばれる長老がおり、その宮特有の役割が
設けられており、それら総てを統括するのが「創造の宮」であり
神官の長がアメンであった。 

同時にサンガの都をとりまとめる長でもある。

アメンが「本日の議題は人間界の心なき暴走と破壊についての対策である。
ぜひ皆の意見を仰ぎたい。このままでは地球が破壊されかねない。 
今後の地球の方向性を決定し、その方法を決める為に集まってもらった。 
順番に意見を聞きたい」


美の宮イズンが「私の宮からは数十人の魂を人間界に降ろし、報告も
受けておりますが、皆さんご承知の通り地球は暗黒の神エレボスの
支配下になり数千年が過ぎ心なき物質文明も此処にきて終焉を間近に
しておりますが、今だ悪あがきをしております。 

それに携わってる民衆も古き習慣を捨てる覚悟が全然出来ていません。 
それどころか格差がいちだんと激しくなっております。 

国によっては聖戦と称し神の名を借りた戦争や宗教の弾圧・洗脳など
相変わらずの社会です。 

この社会の在り方は違うと気付いている人間も大勢おりますが、
そのような人間に限って社会的に力がありません。 

力なき言動には民衆も耳を貸しません。それが大まかな人間世界の
現状であります」

智の宮ウルが「宗教はもはや政治権力と結びつき布教と称し世界各国で
人心を操り、挙げ句の果てに植民地化と化す合法的な占領等々、
キリストやモハメッドの意に反する教えが主流とされ、仏教は智を満足
させる為の手段となり、哲学化された教えは知識のみの仏教で、
もはや形式だけが残る宗教と化した。新興宗教も教祖の死後は形のみが
先行されております。これが今の地球の宗教事情でございます」

月の宮のオーズが「本来教義がない自然崇拝の宗教も形骸化され、 
我々への捧げ物や生け贄などと称し、未だに動物を殺してお供えしてるが、
我々はそのような事は一切望んでおりません。人間の愚かな解釈には
困っております」

水の宮エイルが「先の神々と同じ見解でございます。人間はどうも御利益
的要素と信仰を混同している様でございます。我々は祟りを与えるなど全く
思った事もなく、人間が勝手に作り上げた妄想で人間自身が苦しんでおります」 

太陽の宮ユーギルは「人間の愚かさは昨日今日の事ではないが、これだけ地球の
エーテル層にまで影響を及ぼす事となってしまっては、はやいとこ手を打たねば
地球存亡にかかわる。
よって暗黒の神エレボスを排除せねば真の平和は望めないだろう」

アマテラスの宮トールは「私もユーギル様に賛成でございます。 
但し、エレボスも元は我々と同じ神の一員。葬るのは容易い事ではござい
ません。いかなる方法で対処すれば良いものかと・・」

風の宮のフレイが「風の宮からは25年前、使者を人間界に降ろしました。 
その者、宮園風輝と名乗りすでに準備が出来ております。 

あとは本人の最終自覚があればいつでも交信が可能でございます、
なんなりとお申し付け下さい」

最後に神官アメンが締めくくった「そろそろ結論を言おう。知っての通り
我々、神界の者は人間界に直接関与出来ない。

よってサンガから転生させたその宮園風輝に使命を悟らせ、その風輝の
下に天使の役目を持つ者数人を各宮から選抜配備させ速急にエレボスと
対決してもらう事とした。 
 
他にも各宮で話し合って奥の手を用意しておいてもらいたい。 

相手はエレボス。今から遡ること三千有余年の間、陰から人間界を操ってきた邪神。
今度こそ奴を抹殺し平和な地球に立て直そうではないか・・・以上!」 

【SANGA(神々の戦い)】全18話

あらすじ

 宇宙には森羅万象を司る神の存在がある。
その存在は宇宙そのものであり人間的な意味合いの神とはちがう。

人間の云う神とはその下の存在を意味していた。
 
そこは天空の都「SNGA(サンガ)」人間界の秩序と発展を
天空から見守り間接的に調整する場所。

人はこのサンガの存在を古くから黄泉の国・神代の国と呼び
崇拝の対象としてきた。

近年の人間界は物質趣向主義者が地球の半数を占め、
心の伴わない文明と化してしまった。

結果として人間界の歪んだ集合意識が地球のエーテル層に
影響を及ぼし自然界に多大な影響をあたえ始めた。

地震や竜巻など極端な異常気象が多発し自然バランスが損なわれ、 
近い将来地球文明は重大な岐路に立たされようとしていた。 
 
この地球では過去6度の天変地異があり、多くの人間が失われ
現在が7度目の岐路にある。

7という数字は特別な意味をも含んでいた。

この数千年間、地球はサンガの神々とは対照的な存在達に
上手に無理なく誘導されてきた。 

その存在とは元々サンガの住人達であった。

この世に使命を持ってサンガより降りてきたが欲望に
流されて使命を忘れてしまった神々。 

元来神のパワーを持った存在であったがゆえにネガティブなパワーも
強く、この地球人類は簡単に誘導し服従させられた。

近年ではマスコミを操作して無理なく合法的に洗脳するという
手法で民衆を監視してきた。 

それが現代社会の様相であり集団意識。
 
ここに、地球人類をその呪縛から解放するために選ばれし
7人の賢者が得意の能力を発揮する。

それは当初間接的であったが結果的に集団意識を少しずつ覚醒させる
ことになった。

宮園風輝を中心とした7人の賢者。その変化の様子を描いた作品。

【Pino】10-10完結編

10「老人の涙」

 札幌の街が一望できる藻岩山の中腹に位置するホスピス。
医者の手を離れた患者が余生を穏やかに過ごす為だけに存在する施設。
ひとりの中年男性が少ない余生を過ごすために選んだところだった。

 早朝、介護士の相木が部屋を訪れた。

「西村さん、おはようございます。体調はどうですか?トイレは
行かれました?体温を測りますね」

かるい黄疸症状のある西村の顔が微笑んだ「おはよう相木ちゃん。うん今日は
なんだか調子がいいよ、久々に良い夢を視たしね・・・」

「そうですか・・・それは良かったですね・・・で・どんな夢でした?
聞かせていただいてもいいですか?」

西村は窓から街並みを眺め呟くように「うん・・・俺って若い頃は
やんちゃばっかりの半端者だったんだ・・・」

「へ~~そうなんだ・・・西村さんヤンキーだったんですか・・・」

「大きな悪事する勇気もねえ、ただの中途半端な大バカ者さあ・・アハハ」

体温計を差し出し「で?どんな夢でした?」

「母親が優しい顔でラーメンを出してくれる夢なんだ」

「え??ラ・ラーメンですか・・・?」

「そう・・・たかがラーメン、なんの飾り気もないどこにでも普通にある
醤油味のラーメンさ・・でも、俺にとってはこの世で唯一絶対の安らぎの
味なんだ。デパートの大衆食堂のただの普通のラーメン・・・

母親は無言なんだけど『いつもすまないねぇ・・・あんな父さんと一緒に
なったばっかりに・・・母さんが悪いんだ・・・ごめんね』子供ながらに
俺にはそう聞こえるんだ」

「唯一絶対ですか?」

「そう、俺の父親はろくすぽ働かねえ、昼間っから家で酒飲んで
酔っぱらっているようなグータラ男の基本のようなおやじでよ。
母親ばかり働らかせ、思うようにいかないとすぐに機嫌が悪くなるバカ親父さ・・・

それだけじゃねえ、俺は父親から虐待されてたんだ。年中から年中
身体中アザだらけよ。顔は殴らねえから友達や先生達は知らねんだ。
あの酔っぱらい親父なりに殴り方をちゃんと考えてるよ・・・

殴られた時は決まって母親の働くデパートの大衆食堂に逃げ込んだよ。
そんな俺の顔を見て察した母親は黙って・・・ラーメンを俺の前に
置いてくれたんだ。逃げ込んだ時はいつも・・・いつもさ・・・

中学校に入ってから俺も素行が悪くなりはじめ、一応高校に進学したが
中途退学して家を飛び出し、札幌で大工の見習いをしながら暴走族に
入ったんだ。何度も警察の世話になったよ。

その頃知り合った彼女と結婚してすぐに父親になったんだ。

俺は、てめえの父親みたいには絶対ならねえと心に決めてたんだけどな・・・
子供が小学校に入った頃、勤めていた工務店を喧嘩して辞めたんだ。
どういうわけか・・・それから家で酒を飲んで暴れるようになっちまった。

気がついたら一番嫌いなあの親父と同じことを俺の息子にしてたんだ・・・
この世で一番嫌いで軽蔑する・・・あのオヤジとこの俺が一緒だったんだ」

西村の目から涙が頬を伝わって落ちた。

「そうですか・・・」

「俺も、最期は遺体の引き取り手がない、ただのオヤジで終わりそうだ」

「そんな寂しいこと言わないでください・・・」

「悪いね朝から嫌な話し聞かせてしまって・・・すまないね・・・」

「いえ・・・わたしが思い出させたみたいで・・・すみません・・・」


 「それはそうと、この施設に来てひとつ気がついたことがあるんだけど
聞いていいかい?」

「なんでしょう?わたしで分かることでしたら・・・」

「ここに来て2月経つけど、何十名もの患者さんがここに入所するよね。
そういう人がさっ最初は険しい顔してたり、また魂が抜けたような人
だったりっていう印象なんだけど・・・
それがひと月も経たないうちにみんな穏やかな良い顔っていうか
優しそうな仏さんのような顔にも見えるんだけど・・・
俺の気のせいかな?相木ちゃんどう思う?」

「よく見てますね・・・そうなんです。そのとおりなんです。
わたしも途中で気がついて先輩に同じこと聞いたことありました。
この現象はここだけのことではなく、このような施設や死刑宣告された
服役中の方にみられるみたいです」

「死が近くにある人ってことかい?」

「その先輩いわく、死の宣告された方は三つの大きな壁に直面するようです。
一の壁、
余命を宣告された人は、とにかく絶望とい谷に落ちるようです。
人間のいちばんの問題は死。その死を突きつけられると、今まで培った全て
が音を立てて崩れ落ちるようです。ひと言で言うと『絶望』の意識状態。

二の壁、
一の壁を乗り越えた頃から、助かろうとする意識に変わるみたいです。
良いと云われる薬・医者・病院などとにかく模索して実行する。でも、
それもかなわぬと知る時が来ます。死以外の道はないと悟ります。

三の壁、
二の壁を越えた辺りから自分には死しかないと穏やかな気持ちで受け
入れます。死の超越です。そうなると恐れや迷いといった心が動揺する
ことがなくなります。逆にお見舞いに来た人を慰めるくらいの心のゆとり
までみせて見舞客の涙をそそります。

このような死までの心理状態の壁を『三つの大きな壁』と表現してるようです」

西村は「やはりそうか・・・」呟いた。

それから数日後西村が「相木ちゃん、頼みがあるんだが」

「はい、なんでしょう?」

「おれさ・・はやく元気になってさ・・ラーメン・・食いてぇ・・・
ただの素朴なラーメン・・・」

「分かりました。この相木がご馳走させていただきます。チャーシューと
玉子はどうしますか?」

西村は「チャーシューはいらねえ・・・海苔一枚あればいい・・・約束だよ」

「任せてください」相木は力一杯の笑みを浮かべた。

そして最期の時が来た。

「母さん・・・このラーメンとっても美味しい・・・ありがとう!

僕、父さんのことなんとも思ってないからね、気にしないでね・・・」

それが西村最後の言葉に・・・

【Pino】10-9

9「天才ヤスマサ」

彼はヤスマサ、30歳。ユニークな感性の持ち主。 

ヤスマサは中学・高校・東京国立大学その全てをトップの成績で卒業。

しかし 彼には大きな問題があった。 

他人と交わる事が苦手だったのだ。

唯一、気を許せた相手は母親とヨークシャーテリアのミルキー12歳。 

彼は大学生の頃、母親にねだって犬の言葉が理解出来るという
バウリンガルなる装置を買ってもらい、それを自分流に
アレンジして犬と会話が出来る装置に作り上げた。 

ミルキーも人間的な意識を持った天才犬であり、事実上ヤスマサの姉役でもあった。

ヤスマサの職業は物理学者と発明家で何処の組織からも束縛されない自由人。

たまに蟻の巣を観察するのが好きだった。 

ある時ミルキーに「ねえ、ミルキー聞いて。蟻ってひとつの宇宙を形成してるんだよ。

人間はひとつのコロニーの形成って言ってるけど何か違うんだよね。

あれはあれで宇宙なんだ。完璧なんだよ。 

蟻が歩く基本は六角形なんだ。

それを意識して歩くからどんなに遠く巣から離れても帰れるんだよ。 

たまに間違って他の巣に入ると、すぐ仲良くなってそっちの
巣で世話になるんだよ。面白いね」 

ミルキーは「私は蟻嫌いなの。あの匂いは鼻が痛くなるのよ。
ちゃんと手を洗ってから私に触ってね・・・」 

いつもこんな調子で二人はコンタクトをとっていた。


 ある時ミルキーが「ヤスマサ、少しは世の為になる発明や発見でもしたら?」 
ミルキーに尻を叩かれるこの光景は日常茶飯事。 

「もう考えたよ。後は実験だけなんだ」 

「・・・・どんなもの?」 

「原子振動装置だよ」

「??何に、それは?」 

「細胞を振動させたら発熱してしまう装置を電子レンジって云うでしょ。 
僕の発明は原子だけを振動させるんだ。 
結果、その物体は次元を越えて半透明になってしまうんだ。 
家の壁は荒い構造体だから壁も通り抜けちゃうんだよどう? 
理論的にはそれを繰り返すと身体の癌だって治っちゃうよ・・・」

「その発明はダメね」 

「何んでさ・・・?」 

「そんなのが世の中に広まったら死ぬ人がいなくなっちゃうでしょ。 
地球に人が溢れちゃうわ」

「そっか・・・そこまで考えなかったよ。さすがミルキーだね・・・」 

「そんな発明しなくていいから私の好きな美味しいジャーキーを空気と
水で作る装置でも考えて!」

「ハイ」

こんな調子で日の目を見ない大発明が過去に幾つも存在した。


ヤスマサとミルキーが公園を散歩していた時だった。 

公園の上空に葉巻型のUFOが浮かんでいた。 

「ヤスマサ、上を見て。あの白いのは・・・?」 

「あれはねえ、UFOと言って宇宙人の乗り物だよ」 

「静かだねぇ。どうやって飛んでるの?」 

「地球の乗り物でないから解らないよ」 

「あれ便利そうね。ヤスマサは作れないわけ・・・?」 

「原理さえ解れば作れると思うけど・・・作ってみようかな」 

「賛成!これからはそういう発明しなさい」

「はい!」

ヤスマサは何日も研究室に入り浸りだった。 

ミルキーも半ば心配になり始めた頃だった。

「解った!」部屋の中から声がした。

憔悴しきったヤスマサが研究室から出て来た「ミルキーやったよ。僕やった」 
そう言いながら倒れ込んでしまった。 

極度の過労である。 

目が覚めたヤスマサはミルキーに「これ見て」と言いながら
テニスボール大の物体を取り出し、放り投げたと思った瞬間、
空中でホバーリングして浮かんでいた。 

ミルキーが「オメデトウ!これ乗れるの?」 

「うん、乗れる大きさにしたら可能だよ。でもこの大きさだと無理だね。 
人間が乗れる大きさにするにはもっと予算が必要だから・・・個人では無理」

ヤスマサの携帯が鳴った「はい!あっ父さん?・・・」 

顔色が変わりすぐに携帯を切り宙を仰いだ。 

ミルキーが「ヤスマサどうしたの?何かあった?」心配そうに尋ねた。

「母さんが急に倒れて病院に運ばれたんだ、意識不明みたい。 
ミルキー、僕どうしよう?ねえ・・・」 

ヤスマサはうろたえていた「しっかりしなさい。すぐ病院に行きなさい」 

「うん、解った。僕行くね」
 
父とヤスマサが医師から、母の病状は脳梗塞と診断され、5日間は脳が
腫れる可能性が考えられるから危篤状態と告げられた。 

死んだ脳は再生しない為、今後は後遺症も考えられるという診断だった。

それから数日が過ぎ母の意識は戻ったがヤスマサの知る母とは何かが違う気がした。

ヤスマサはミルキーにそのことを説明をした。

ミルキーは「前に作った原子振動装置を工夫して何とかならない?」

ヤスマサの目が光った。即その装置を持って部屋に籠ってしまった。
部屋から出て来たのは5日後の朝だった。

ミルキーが心配そうに尋ねた「ヤスマサどうだったの?」 

「ミルキー、出来たと思うけど何かに試さないと解らない・・・」

「どうやって試したらいいの?」ミルキーは聞いた。 

「まず悪いヶ所周辺にこっちの赤い光を当てて細胞ごと分解するんだ。 
そして今度はこの青い光をもう一度照射したら他の健康な細胞と同調し、
死んだ細胞の再生が始まり完了する仕組みなんだけど・・・」 

ミルキーは意を決しヤスマサに言った「私は12歳なのね。
最近、足腰が弱ってるの。私で試せないかい・・・?」 

「それ絶対イヤだよ!ミルキーに何かあったら僕、生きていけないから」

「ヤスマサ、いいかい。しょせん犬と人間は寿命が違うの。
私はもう12歳のお婆ちゃん。あんたより必ず先に死ぬんだからね。 
ヤスマサの役に立てるのなら命は惜しまない。
ましてお母さんの一大事だもの・・・ヤスマサわかって・・・
人間とは構造が違うけど同じ動物だもの。私で試しなさい!解った?」

ミルキーは涙をためながら強い口調で言った。 

そしてミルキーが地権者となり、装置の光の照射が始まり30分経過した。
ミルキーはヨロヨロしながら起き上がった。

「ねえミルキーどう?痛いところ無い?ちょっと歩いてみて?」 

ミルキーはゆっくりと歩きヤスマサを見上げて「全然痛くないし、何となく 
前より快調かも・・・これならいけると思う。やったね!ヤスマサ!」 

「後遺症だとかはこの先解らないけど、基本的には自分の細胞での再生だから
大丈夫だと思うよ・・・」

それから一月後。普段と変わらない母の姿が台所にあった。 

その経緯を知るのはヤスマサとミルキーだけだった。


母親の一件がありヤスマサは人間の身体にも興味を持ち始めた。 

ある時、いつもの閉じこもりから出て来たヤスマサは頭に妙な
ヘッドホン装置を装着していた。
 
「今度はなに?」ミルキーが聞いた 

「これはね、脳細胞の活性化を図り超能力を身につける装置なんだ。 
僕が試したら意識が地球を飛び越えたんだよ。それから僕の生まれる前の
人生や今度生まれる場所まで見えちゃったよ」 

ミルキーはじっと聞いていた。 

「人間の脳って殆どの部分が寝ているからそこを刺激して活性化して
あげると今言った事が起きるんだ。お坊さんは長年修行して悟りを得るけど、 
この装置を付けるとたった数分で悟った気分になれるよ。 

装置を外したら前と同じだから疑似悟りだけど危険性はないと思うよ。 
疑似であってもそう云う世界を薬や葉っぱに頼らないで垣間見れるのは
いいと思うけどミルキーどう?」

この頃からヤスマサの発想はミルキーの理解を超えてきた。


 「 ミルキー、これ見て!」 

ヤスマサは満面の笑みを浮かべていた。

「また何か作ったの?」 

「うん、やったよ。無重力装置だよ」

「無重力?つまりどういう事?」

「前から宇宙線の力に着目してたんだ。宇宙エネルギーは宇宙から地球に
降り注いでいるんだ。しかも無尽蔵に。 

それを地球で使えるエネルギーに変換出来たらいいなと思ったんだ。

そしてその変換装置を作っていたんだ。でも殆ど失敗続きで半分諦めてた。 
ちょうど先週の今日、寝不足も重なって疲れたから一服しようとクエン酸
ジュースを作ろうと思い、クリスタルコップを洗おうと手に取ろうとしたら
間違って足下にあったチタンの粉に落としたんだ。 

そしたらコップに入っていた何かの物質が反応して、そのコップが変な
動きをしたんだ。おやっ?と思い、そこから又、研究が始まって、
今日これが完成したんだ」 

唐突に机の上にあった鉄球を乳白色の容器に入れ、ミルキーめがけて放り投げた。 

その物体は放物線を描き、軽いパルス音を出してミルキーの手前で
ホバーリングして静止した。 
 

「ミルキー、これが無重力装置だよ。計算ではこの大きさでエジプトの
ピラミッドを一週間もあれば作れると思うよ。但し、設計と石切りは別だけどね」

ヤスマサの能力に拍車が掛かった。 

さすがのミルキーもつき合いきれず、空返事が多くなってきた。

「ミルキー、聞いて。僕、昨日ねえ。熱の対流力学を研究したんだよ。
今年の夏前に天然の冷房装置を作ってあげるね。 

地熱の温度は特殊地帯とかは別にして季節や地域に関係なく15度なんだ、
それを上手く利用すれば夏は冷房に、冬は暖房の補助に使えるんだ・・・ 

道路の雪だって工夫次第で溶かせるよ。

あと部屋の芳香剤だって格安で作れちゃうよ。使うのは高分子吸収体と香水だけ。 
ミルキーのトイレシートを使うんだよ。 

あとは遮熱断熱塗料とか湿度取り剤とかシリコンのコーティング剤なんて
格安で簡単に作れちゃうよ。 

理屈が解れば結構化学も面白いよ。 

今、僕が考えてるのは宇宙線を利用した発電装置で、それを一家に一台
設置すれば電力会社から電気を買う必要無いんだ。 
究極の自家発電装置なんだよ。 良いと思わない?・・ねえ、ミルキー!
・・・・・・聞いてるの?・・・・」

最近の二人はこんな調子だった。

母親から電話で「ヤスマサ、お父さんが夕べ飲み過ぎたみたいで、
二日酔いがひどいのよね。速攻で効く方法ある?」 

「水だよ」 

「昨日寝る前にシジミの味噌汁を沢山飲んでたのよ。今朝もだけど・・・」 

「母さん、それ逆効果だよ!血液の水分より濃いものは反対に血液の水分を
奪うんだ。だから酒を飲み過ぎた朝は喉が渇く。味噌汁は液体だけど水分
じゃないから逆効果だよ。水や体液に近いスポーツドリンクを沢山飲ませて
尿を沢山出させてよ。それしかない。二日酔いはくれぐれも濃い飲み物は
控えてね。利尿作用を高める物が良いね、水や番茶のようなもの」

そばで聞いていたミルキーは「そんな事まで知ってるの?」ヤスマサに聞いた。

「これも化学の知識なんだよね。例えば寒暖の差もそうなんだ。 
流体力学なんだけど、液体や空気なんかは暖かい方から冷たい方へ移動。
液体は濃い方から薄い方へ移動して調和を保とうとするんだ。 
暖かい方は上で冷たい方が下で中間が飽和状態なんだ。

そしてその寒暖の差でエネルギーが生じ自然界では風という現象。 
我々は化学や物理学を知らず知らず上手に使いこなして生活してるんだね。
 
自然界は調和をしようとする本能があると思うんだ。 
自分が自分がって主張するけど他人の事も考えてやると調和が取れていいのにね。 
調和の取れた状態って平和だと思うけど・・・ねえミルキー聞いてる??」

その頃になるとミルキーはヤスマサの言ってることがわからなくなり、
遠い存在に思えてきた。

この頃からミルキーは寝る時間が増え、ヤスマサとの会話も少なくなり、
ミルキー13歳の春他界した。

【Pino】10-8

8「夢職人ミホコ」

私は夢職人ミホコ。仕事は依頼者の夢を実現にする手助けする事。
 
依頼者本人が望む職業は別世界(パラレルワールド)のもう一人の
自分が既に手がけているケースが多いんです。

そこからの情報をこちらの依頼者の深層意識に植え込む作業をします。
 
するとこちらの依頼者は約二ヶ月という短期間でそれを習得出来ます。
当然無いようにもよりますが・・・

理屈はこうです。パラレルの自分とこちらの自分は必ず繫がってます。
だから情報の収集が結構簡単なんです。  

依頼者は自分の望む才能を手に入れ、それを職業としたり趣味に活かしたり
出来ます。それがけっこう無理なく出来るんです。なんせ自分のことだから。 

今のところクレームはありません。
 
大まかな基本は私が作成しますが、あとは本人次第となります。 

ここだけの話、歌手のYやKさんはお客さんのひとりです。

芸術の世界ではH・山形もそう。

基本的に分野は問いません。依頼者が頭でなりたいと考える人物や
職業は既に別世界(パラレルワールド)の自分が経験してる可能性があります。
 
そこに行って意識を借りてきてこちらの依頼者の深層意識に植え付ける作業を
約ふた月繰り返すやり方です。 

別世界の自分が経験してない場合は見本になるお好みの人物の意識を
植え付ける方法もします。 

但し、前者よりも時間は掛かりますが基本的には可能です。

先だって文学好きの青年が来て、「吉川英治を尊敬してるのでその
意識を取り込んで小説を書きたい」との依頼を引き受けました。 

後日依頼者本人の書いた小説を見せてもらいましたが作風は吉川英治
そのもので、似すぎていて面白味に欠けていました。

だから全てが上手くいくとは限りません。

今日もひとりの依頼者が訪れた。


 「ごめん下さい」 

「はい、いらっしゃいませ。どうぞお掛け下さい」 

還暦をとうに過ぎたと思われる上品なご婦人だった。

「あのう、実は今年65歳になりますが子供の頃から長年助産師に
なるのが夢だったんです。生命の誕生をこの手で受け止めたかったんです。 

主人が公務員という事もあり転勤続きの為、ひとつの街で腰を据えて
何かを学ぶと云うことが出来なかったんです。 

この年齢では夢を実現出来ないのは解っていますが、せめて助産師さんの
意識をあじわう事だけでも出来ないでしょうか?」

「確かにお客様の年齢から考えるとこれから仕事に従事するのは
無理かも知れません・・・」 

ご婦人はうなだれ下を向いてしまった。 

ミホコは今までの経験とご婦人の透視から別の方法を探った。
 
ミホコの目が輝いた「こういうのはどうでしょう?別世界のお客様の中に
詩人のお客様がおります。その方もやはり生命の誕生に興味があるようです。 
その意識を取り入れてお客様も詩を作るんです。

普通の詩と違い生命の誕生を題材にして人間はもとより動物の誕生をも詩に
託すというのはどうでしょうか? 

年齢も環境も関係なくペンと紙があれば何処ででも出来ますし、
ネット上でしたら無制限に投稿出来ますけど。

当然、沢山の他人の目にも止まります。いかがですか? 

諦めかけていたご婦人の目が輝いた。 

ご婦人が言った「それはいい考えですね。別世界に詩で表現している
私がいるんですね?

私も実は詩が大好きで詩集を何冊も持っています。 

自分では書かないけど不思議と詩に惹かれます。ぜひその方法で宜しく
お願いいたします」

それから2ヶ月が経ちご婦人はネットに投稿し始めた。 

生命の誕生を表現したご婦人特有の表現が、年齢を問わず好評で、
それを見た出版社の目に止まり詩集の発売も決定したと、ミホコの事務所に
最大級のお礼とひとつの詩が同封された手紙が届いた。


 こんな依頼者もあった。 

「僕は建築設計の仕事をしてます。もう25年やってますが僕の作品は
日の目を見たことがありません。

多次元の僕で設計士は存在しないのでしょうか? 

僕自身多少の才能はあると思うのですが、これだけやって認められないと
自信喪失します。もし多次元に設計士の僕がいたらどんな具合か教えて下さい」 

こういう類の相談は厄介だった。 

才能が今生で開花するタイプと、次の生で開花するタイプがあるからだった。

夢職人という商売と意味合いが違うケースだった。 

「残念ですが、私の仕事と意図が違うようです。そのご相談は別の方に
相談なさって下さい」と断るしかなかった。 

多次元の自分が認められていたとしても、こちらもそうなるとは
限らないからである。

安易な事を云えないのもこの商売であった。

「僕は坂本龍馬を生涯の師と思っています。その坂本龍馬の
意識を取り込んで欲しいのです」 

「はい、それは可能ですがひとつ聞かせて下さい。あなたの尊敬する
坂本龍馬は机上の彼なのか?それともあなたが足を使った上での実像に
近い彼なのか?お聞かせ下さいませんか?」 

「はい、映画や小説などで情報を得ましたが・・」 

「そうですか。ひと言いいですか、小説の人間はあくまでも作者の意識化での
想像です。特に過去の偉人は創作が多いようです。  

もし実際と大きくかけ離れていたらあなたはどうなさいますか? 

私が繋がる人物は作りものではなく現実の坂本龍馬なんです。 
小説のように格好いい龍馬とは限りません。それでもよろしいですか?

脅しではありません。忠告と思って下さい。 

彼と重なると云うことは全てを受け入れるという事です。 
万一、期待と違った場合は少し厄介ですよ。 

なにせ深層意識の世界ですから。もういちど龍馬の事をよく調べた上でも
遅くないと思います。 

過去にヘミングウェイにあこがれたお客様がおられて彼を取り込んだんです。 

私もその頃はまだ解っていなかったんです。 

作品は確かにヘミングウェイ風に書けました。 

でも世間が英雄視する人間ヘミングウェイと実際は大きく違ったんです。 

夜は電気を付けないとひとりで眠れないという臆病で気の小さな人物だったんです。

彼の小説は自分には無いあこがれをデフォルメした姿として書いて
いたんですね・・・表向きと実際は大きく違ったんです。

その依頼者を元に戻すのに大変な思いをしました。 

これはひとつの例ですが実際、著名人の方は虚と実の差が私もよく解りません。 

急ぐ事はありません。よく考えて下さい」 

実像と虚像の違いは珍しいことではなかった。

特に書物にされるような著名人や歴史上の偉人は。作者で大きく影響されます。  

それを知るミホコは極力お客様自身のパラレルワールドを勧めるようにしていた。 

パラレルの自分は必ずどこかでこちらの自分と繋がっている事を知っていたから。

【Pino】10-7

7「小説請負人ハマⅡ」

 今日もまた依頼があった。今回の依頼は小さい頃の夢で歌手になって世界中
を飛び回り、みんなに感動を与える人間になりたいという女性の依頼。

例のごとくあらすじをFAXした。

あらすじ 

川田ミヨリ20歳。職業歌手。 

MIYORIは高校の時所属していた合唱部で歌う事の楽しさを経験した。 

その経験がMIYORIを歌の世界に導く切っ掛けとなった。 

しかし、MIYORIには性格上の問題があった。 

それは他人と同じ事をするのが大の苦手という事。 

だからMIYORIが歌の楽しさを知ると同時に独自の歌が作りたくなり、
ギター片手に作詞作曲を手がけ今では50曲のレパートリーを超えた。 

そのどれもが完成度が高く、プロのアレンジを加えると歌謡史に残るのでは
と専門家先生のお墨付きだった。 

でもMIYORIの意識は違った。 

まだデビューもしていないのに、夢の舞台は日本には無かった。 

そう、頭の中は世界を相手に歌っているMIYORIの姿だった。 

結局、日本の音楽関係者からは「世間知らずの天狗少女」と相手にされず
MIYORIの才能は埋もれてしまった。

だが夢を諦めないという強い意志のMIYORIはバイトでお金を貯め
単身渡米した。場所はニューヨーク。 

昼間はカフェで働き夜はバーのウェートレスをしながら、あらゆる
オーデションに応募するという下積み生活が3年ほど続いた。 

そんなある日の休憩中、店の裏道でMIYORIはアドリブでギターを
弾きながら今の心境をバラード調で歌っていた。 

そこにたまたま通りかかったのがプロデューサーのJ・キングだった。 

彼は大物歌手を何人も世に出した凄腕のプロデューサー。 

「ねえ君、もう一度今の歌やってみてよ」MIYORIは要求に応え歌った。 

じっと聞いていたJ・キングは歌い終わっても微動だにしない。 

MIYORIは「ごめんんなさい。私、休憩終わりだから行きます。
聞いてくれてありがとう」そう言って立ち去った。

J・キングは「この娘には一種特有な波長が感じられる。それは今まで
経験した事の無いものだ。世間に知らしめたい・・・」いつもの感がひらめいた。

彼はその衝撃を抑えきれなくなった。 

その事が切っ掛けでMIYORIは夢のアメリカデビューが叶った。 

そこからが怒濤の勢いでアメリカ、ヨーロッパと瞬く間にMIYORI
の歌は世界を駆けめぐった。 

MIYOという愛称で世界の人気者になっていった。 

日本でMIYORIを批難していた音楽関係者も手のひらを返したように
態度が豹変した。 

「こんな内容でどうでしょうか?」とハマはFAXした。 

先方から返信がきた「ありがとうございます。内容に申し分ありません
感謝してます。ただ、最後は人気絶頂の中、白血病でMIYORIを他界
させて下さい。最後は幻の歌手として終わりたいのです」 

小説は一冊だけ製本され依頼者ミヨリに届けられた。

今日もまたハマのもとに一通の手紙が届いた。


 僕は小林ヤスマサ。

来年定年退職を迎えるごく普通の公務員です。長年自分を抑えて組織に
従ってきた何処にでもいる公務員。

定年退職を迎えるに辺り、僕が若い頃夢見た職業に小説の世界だけでも
いいのでなりたいのです。 

その夢とは芸術家です。僕は長年規則の中で生きて来ました。
規則から外れることを許さない世界です。 

その反動もあり自由な発想の表現者として芸術家を選びました。
結末はどうでもかまいません。 
とにかく破天荒な自分を演じさせて下さい。 

小林ヤスマサ


 ハマは執筆に取りかかった。

 あらすじ 
K・ヤスマサ・年齢不詳・出身地不詳・職業アーティスト。

作風?本人曰く宇宙と風。 

かつて岡本太郎は「どんなものにも顔がある」と表現した。 

彼の場合は「どんなものにも宇宙がある」そんな調子のK・ヤスマサであった。

彼は世田谷の某大学を出たあと、叔父の薦めで世田谷区役所の勤務を
3年勤めたが、性分に合わないと退職し、毎日下北沢・渋谷・吉祥寺あたりで
路上に自分の作品を並べて販売し細々と生活をしていた。 

K・ヤスマサの作風は自分で云うとおり宇宙を意識しているらしいが、
なかなか理解に苦しむものだった。 

右と左が○と□のメガネを作って「宇宙を見るメガネ」と言ってかけてみたり、 
キューピー人形に鉄の鎖を巻き付け「悟り直前(宇宙即我)」
と題し販売したりと一般人の理解を超えた作風だった。

そんなK・ヤスマサにいつも優しく接していたのがイクヨだった。 
彼女には特異能力があり希望者の顔を見て、その人に今一番必要な言葉を
書で表現し販売する書家でもあった。

イクヨの感応能力は学生の間では評判だった。 

そんなイクヨはK・ヤスマサの一番の理解者でもあった。 

路上販売の生活が一年ほど続いた頃、何処から聞きつけてきたのか
大手広告代理店からK・ヤスマサに作品の依頼があった。 

来年竣工予定の駅前ビルの玄関ホール前に「宇宙をイメージした
オブジェを置きたい」との依頼。 

費用は材料費込みで300万円。
 
K・ヤスマサにとっては思いがけない仕事の依頼だった。

その作品を期にK・ヤスマサの名前は徐々に世間に浸透し数年後には
奇才K・ヤスマサと評され、世界的にも徐々にであるが有名な芸術家の
ひとりと評された。 

だが本人は「・・・?何かが違う。何か解らないけど何処かおかしい」
と眠れぬ夜が続いた。 

悩み続けたある日「そうだ!まだ宇宙が見えてない。僕の宇宙はこんな
ちっぽけな型には納まらない!」と悟る時が来た。 

「僕の宇宙は頭の中のその向こうに存在する世界。それが絶対の宇宙!」 

そう言い残しK・ヤスマサは全ての依頼を断ってイクヨと旅に出た。

 数年後、バルセロナの路上で東洋人のカップルが作品を展示販売していた。

女は色紙に筆字で○(調和を表現)を描き依頼者の顔を見てその人にあった
漢字を○の中に一文字書くというやり方で販売していた。 

西洋人には「東洋の神秘」と評され受けがよかった。

一方男性は何時間でも瞑想して目を開けたと同時にいっきに金属の造形に
取りかかった、その姿は西洋人には理解に苦しむものだったが、
作品は安定感のある斬新な出来が受け、こちらも違った意味で評判がよかった。

そんな二人を地元では「オリエンタルイリュージョン」と親しみを込めて評した。

ハマは依頼者にFAXした。

依頼者小林ヤスマサは作品に納得したが注文をだしてきた。 

「作品のあらすじは了承出来ますが、イクヨの神秘性も随所に入れて欲しい」

との依頼がありイクヨの才能も含め小説は出来上がり製本され小林ヤスマサに送られた。

小説請負人ハマの仕事が雑誌に紹介され、数年後には「小説請負人」という
商売が日本にとどまらず世界的にもメジャーになってきた。 

SF・恋愛・サスペンス・童話などなど多彩なジャンル専門の才能ある
小説請負人が、職業として普通に受けられるようになった。

小説請負人という職業のパイオニアはハマであった。
 
この形態のあり方を「ハマノベル」と称され世界の共通語とされた。

【Pino】10-6

6「小説請負人ハマⅠ」

私はハマ、職業は作家。貴方の為だけのオリジナル小説を書きます。  

恋愛・推理・サスペンス・SF・ジャンルは問いません。

貴方の希望する小説を貴方の為だけに執筆します。 

当然、貴方の大切な人に送る小説もOKです。 

人気小説は依頼者のパラレルな自分の自叙伝。 

別世界の自分の半生を描いた小説に人気があります。 

依頼者が来た場合、その依頼者の生い立ちと小説にしてみたい事柄、 
登場人物の名前を教えてもらい、ジャンルを聞いて依頼者にあった
書き方をします。内容が決まってない人は相談に応じます。 

最後にこの小説は誰の為に作成するのか? 

ここがポイントになり、それによってメッセージ性が変わってきます。

こんなすべり出しで客と1時間ほど打合せをしてから、制作に一週間ほど
時間を掛けて書き上げるというもので、費用は一律10万円。 

出張取材が必要な場合は別途料金で請負った。 

ハマの発想は今までこの業界には類がない。評判が評判を呼び予約も多くあった。 
 
今日も依頼者の訪問があった。


 「いらっしゃいませ」 

「小説を書いて下さい」来たのは初老の紳士だった。 

「はい、ではいくつか質問をさせて下さい。まず、この小説は誰の為に
作るものですか?」 

「妻の為です。昨年、体調不良で他界した妻の為です。58歳でした」 

「内容は随筆風・恋愛風・物語風等どのように描きたいですか?」 

「童話風で・・・妻を主人公としてケルトの妖精にしたてて欲しいです。 
生前、妻はケルト文化の神秘的な世界が好きだったものですから・・・」 

ハマは一瞬目を瞑り瞑想に入った。時間にして一瞬だったがハマには
数時間の感覚があった。ハマがいったん瞑想すると時間を超越できる
能力があった。

「はい、もう私の中にイメージが湧いてきました。あとはご主人さん
をどのような場面で登場させますか?」 

「僕は要りません。登場させないで下さい。妻には最後まで何一つ優しい
ことをしてあげられず苦労ばかり掛けてきたので、せめてこの小説は
僕抜きで違う伴侶と結ばせてやりたいのです。この小説は妻に捧げる
レクイエムのつもりです・・・」

ハマには視線をさげた依頼者の心根が辛く思えた。 

「そうですか解りました。今日の打合せの大筋を2~3日で通知します。 
それで良ければ執筆活動に入ります。それで宜しいでしょうか?」

「はい、お願いいたします」 

ハマは、概略の作成に取りかかった。
 

 ここはイギリスはウェールズにある小さな漁村。 

古来からのケルトの風習が多く残るこの村のある人間の家の屋根裏に 
ブラウニーという家事が好きな妖精がいた。 

よく人間の手伝いをしてくれ、報酬のミルクや蜂蜜を忘れたり、
仕事に文句をつけたりすると、ブラウニーは怒って家を
めちゃくちゃにする事もある。 

また、丁寧に扱わないと悪戯好きなボガードになりさがり、更に落ちると
醜くて物を壊したり投げつけたりするドビーになってしまう。

そのブラウニーがある時、人間の青年ニップに禁断の恋をしてしまう。 

妖精ブラウニーは事あるごとに山に入り、フェニックスの落とした羽を
集め帽子を作ったり、妖精ならではの手法による小物を作りニップに
手作りの小物をプレゼントした。 

ニップもその厚意に報いるためにブラウニー専用のドールハウスを作って
プレゼントをしたりと、二人の間はだんだんと深まりやがてふたりは
恋に落ちしまった。 

人間と妖精という大きな壁を抱えたまま時は過ぎていった。 

そんなある日、ケルトの神話伝説に人間の青年に恋をした妖精が
トネリコ山脈のどこかにある、ココというキノコと白龍の涙を煎じて
満月の夜に妖精が飲むと人間に変身出来るというのを耳にした。

ブラウニーはその伝説に掛けてみようと決断した。

ブラウニーの身内から「そんな伝説に信憑性がない。トネリコ山脈は
危険な山だから辞めた方がいい」 

「妖精は妖精同士で結ばれるべきだ・・・」との声も多くあった。 

そんなケルトの妖精ブラウニーの半生を描いた物語。
 
 二日後ハマは依頼者に概略を説明した。

電話の向こうで依頼者のむせび泣く声が聞こえた。 

それから6日間で小説は完成し、製本され依頼者に手渡された。 

「はい、この世でただひとつの物語です。お読み下さい」そう言って渡された。 

その4日後にお礼の手紙がハマの手元に届いた。 

心のこもった感謝の手紙だった。


 「いらっしゃいませ」依頼者の訪問であった。 

ハマは、ひととおり説明し相手の言葉を待った。

「あのう・・・」 

「はい?」

「こんなお願いの前例ありますか?」 

「はい!どんな事でしょうか?」 

「主人公は実は宇宙人の子で、大きくなって本当の自分に目覚め、 
地球を救うという使命を思い出す・・・という内容で描けませんか?」

「はい、可能ですよ。では登場人物の名前を数人教えて下さい。
二日前後にこちらから大筋を連絡します。それでよければ一週間で
描けると思います」 

「はい!よろしくお願いします」

二日して依頼者に概略をFAXした。


ここは渋谷駅、井の頭線の通路にあるコインロッカー。 

そのロッカーの中の一つから微かな声がした。 

駅員はロッカーの鍵を開け中を見て唖然とした。そこには産着に包まれ
指をくわえた生後間もない女の赤ん坊がいた。 

駅員の通報によりその赤ん坊は警察が保護し、渋谷区内の孤児院に引き取られた。

その子は生後間もないせいもあって里親が早く決まり、同じ渋谷区内の
夫婦に引き取られた。 

月子と命名され、幼児期青年期を愛情たっぷりに育てられた。

月子が二十歳になったある満月の夜、たまたま近くの公園をジョギング
していた月子は突然激しい目眩がしその場に倒れ込んでしまった。

気が付いてみると何やら身体が軽い。 

いや、重力が全く感じられなかった。 

周囲に視線を向けてびっくりした。 

そこは乳白色のブヨブヨとした狭いけど狭さを感じさせない心地良い空間。 

次の瞬間隣から声ではない声がした。 

「ニーナ・ニーナ」

誰かが月子に話しかけてくるのだった。 

「私はニーナでありません。月子・・・」

瞬間、月子にその意識体が重なってきた。 

「月子、あなたはプレアデスから来た宇宙巫女です。二十歳まで地球人に
育てられました。 
今、地球は修羅場と化し我々宇宙の存在も大変心配してます。
あなたにはこの地球を変える一役を生前から約束されていた」 

「??私、そんなこと知りません。地球に返して下さい。それにあなた達、 
宇宙人がやったらどうですか?」 

「我々には直接手を下してはいけないというルールがあって、 
そこで20年前、あなたを地球人として育て上げるために生後一ヶ月の
ニーナを失礼ですがコインロッカーに置いてきたんです。 

そして縁あって月子さんの今のご両親が育ててくれたんです。 
深層意識では御両親とも承諾済みですけどね・・・そしてあなたも・・・」

「チョット待ってよ。 じゃあ、私は両親と血が繋がってないと?・・・」 

「そうです」そのまま月子は気を失ってしまった。 

その時月子はその存在から黄色い石をもらった。その石は宇宙の存在と
会話が出来る能力や、他にも様々な力を秘めていた。 

やがて使命に目覚めた月子は地球を救うため友人を集め、地球人の
意識改革を始めることになったが、困難の連続。

だがそんな日々の中にも心温まる出会いがあり、独特のヒューマンドラマに
仕上がった。

依頼者はFAXを読み快諾した。 

後日、依頼者に一冊の本が届けられた。

ある時、ハマの友人マキコがやってきた。 

「ハマさん久しぶり。最近はどう?何か面白い事あった?」 

「そう簡単に面白い事なんて無いよ・・・」 

マキコが「私も一冊頼もうかな?」 

「あんたの何を書くのよ?」 

「私、最近考えてる事があるの。近い将来、家も家族も全部棄てて
旅に出ようかなって思ってるのね。 
そして長年思ってたんだけど世界中を回って絵を描きたいの。 
世界中の町並みを」 

ハマは驚いたが冷静に語りかけた「それ小説で実現しない?マキコが
これから実際にやるんでなくバーチャルでやってみたらどう?」

「バーチャル?なにそれ?」 

「マキコが実際に体験しないで小説の中だけで経験をするのよ。 
つまり仮想現実を小説にしてしまうの。 

小説の中で色んな体験をしながら旅を重ねるのよ。費用はかけず旅をし
絵も学ぶの。但し仮想でね。 

だからやりたいことをどんどんやるの。男にもなれるし神様にだってなれる。
神として人類に警告を発するなんてのはどう?

創造は自由で制限が無いから何だって出来る。想いのまま・・・どう?」

「ハマ、それ面白そう。自分の夢を追えない環境の人や、夢を一度挫折した
人が再トライして夢を達成するの。たとえ小説の中でも形にしたら何かが
変わるかもしれないよね・・・なんかワクワクする・・・・」 

「マキコ、私も夢が広がったわ。ありがとう。これ商売になるかもしれないね?
なんか喜ばれそう、ワクワクしちゃう。さっそくマキコの夢叶えちゃいましょう。 
当然無料でね・・・発想のお礼」

「OK」 

この企画はみるみる間に広がった。 特に中高年層や主婦に好評だった。

【Pino】10-5

5「覚醒の旅」

 神(ジン)エイジ55歳男性、妻子有り。職業タクシードライバー。  
彼は何処にでもいるごく普通の中年男性。 
 
寒さの厳しい朝。客待ちの為に地下鉄駅の近場で停車し客を待っていた。 

そこにダンプカーが後ろから追突するという事故が起きた。
運転手の居眠りが原因だった。 

当然ダンプ運転手による過失。 

エイジは病院へ救急搬送され精密検査の結果、腰の強打で全治2週間の
診断が下された。事故の大きさからすると軽傷で済んだ。

が、事の始まりはここからだった。


 エイジは事故以来、尾てい骨が熱く感じられ、背骨に沿って蟻が這うような、
あるいは電気が背骨に沿って上がるような何とも表現しようもないチクチク感を感じた。 

時には背中が火で炙られたかのような感じや、背中にバケツの水を
突然掛けられたような冷たい感じも味わった。


エイジは医者にいくら訴えても「異常は見あたりません」と毎回同じ答えだった。 

異常はそれだけでは無かった。胸の辺りが急に熱くなったり、頭のてっぺんが
圧迫感を感じ若干盛り上がったかのような感もあった。 

それは肉体の感覚であり医師には相談してないが他にも異変はあった。

急に目の前の景色がが光り輝いたり、相手の考えてることや行動が
事前に解ることに気が付いていた。 

自分が事故を契機に完全に気が触れたと思い、暗く重い日が続いた
かと思ったら急に全てが至福に満たされ光の世界に入ったかのように
感じられ、自分と全てが一体化されたような感じさえあった。

ハッキリいって、自分で自分をコントロール出来なくなっていた。

エイジは「何だ、この感覚は?どうなったんだ俺の頭は?
誰に相談すればいい?精神科にも一度受診したが、事故の後遺症と
診断され精神安定剤を処方された・・・俺はやはり精神疾患なのか・・・?」

エイジは心底困っていた。 

事故からふた月が過ぎ身体は完全に回復し、仕事に復帰したが、
お客さんが行き先を告げる前に行き先が解ってしまったり、 
客同士の会話も、言葉の嘘や虚栄も多くエイジはだんだん辛く思えてきた。 

何せ話す言葉と心の声が全く違ったり、本音と建て前の違いが解ってしまい、
自分とは関係ないと言聞かせてはいても仕事がどんどん辛くなってきた。

そんなある日雑誌を見に書店に入った。

何かに誘導されるかのように宗教思想のコーナーに立っていた。 

「何でこんなコーナーに?・・・」 

何気なく取り上げた本が「クンダリーニ覚醒のプロセス」という題名の本。 

ページをめくっていて突然、目が釘付けとなった。 

この本に書かれている体験と自分が事故後経験した不可思議な体験が
本の内容と酷似していたのであった。 

 
 さっそく購入し一日で読破した「そうか、そう言うことだったのか」 
何となく原因が解った気がした。

にしてもなんで僕がこんな目に・・・?

それから来る日も来る日もクンダリーニのことが頭を過ぎる・・・

・・・・なんで?

・・・・・・・・どうして?

結論として本に書いてあるように、このままクンダリーニを頭頂から
抜けさせ悟りを目指すことに一大決心をした。

妻のムラサキにも今までの事情とこれからの事を話して聞かせた。 

最後に「今後一週間は食事は要らないし部屋にひとりにして欲しい。
外と完全に遮断したい。万いちこの方法が失敗したときは人間破壊が
起きる可能性もある・・・その時は・・・」 

そうムラサキに説明し許可を求めた。

結婚して30年間こんなに真剣なエイジをムラサキは見たことはなかった。 

ムラサキもエイジの一大決心に従う決意をした。 

その後エイジは会社を退職し部屋に籠もることになった。 
 
部屋は小電球の明かりだけ、最低限の明るさにし、
その薄暗い部屋でエイジはひとり行に入った。
 
手元にあるのはその本だけだった。最初のうちはもっぱら呼吸法に時間を費やし、
だんだん慣れてくると同時に胸の辺りにぼんやりとチャクラの輝く光が見えた。 

数日経った頃には眉間に意識を集中するとやはり色は違うが
ぼんやりとしたチャクラの光が心地よく感じた。 

と同時に自分の奥深いところにある自分と、重なる方法も憶えた。 
本とは若干違うところもあるが、それは個性の違いだと云うことも解った。

部屋に籠もって5日後の朝だった。

尾てい骨のチャクラから登ってきたエネルギーは頭頂を貫き
天に向かって伸びた。 

と同時にエイジの肉体はその衝撃で気絶していた。

意識だけは至福に満たされハッキリとしていた。 

次の瞬間、意識は地球の外に飛び宇宙と一体になり、そして自分の
この地球が生まれて去るまでのビジョンと自分の地球上での今までの
輪廻転生までもが全て思い出された。

「宇宙即我」どこかで聞いた事がある。

この感覚だったのか・・・ 

今のエイジにピッタリの言葉であった。

しばらく覚醒と戯れ、その後エイジは部屋を出た。 

妻のムラサキは変身したエイジを黙って迎え入れた。 

「お疲れ様でした」ムラサキが云うとエイジは涙顔で黙ってうなずいた。
 
二人の会話はそれだけで全てを物語っていた。

覚醒を果たしたエイジには恐れという感情は消えていた。

恐れは自分があるから生ずる心の乱れ。

今はあるがままにある。言葉で説明で表現できない世界観。

それからのエイジは数週間というもの何やら別世界を堪能してるかの
ように見え、   端から見ると宙に浮いたようなエイジがそこにあった。
 
当の自分が忘れていた事や、この世での自分や家族の経緯など
一つ一つ確かめていた。 

ひととおり確認を終えたエイジは脱皮した蝉のように自由の身となった。

覚醒のプロセスを終了した。

覚者となったエイジの中には葛藤がもはや存在しない。

葛藤が無いという事は考えも行動も自由であり何でも出来る、

つまり制限や制約のない自分がそこにあった。
 
自分を縛るものが無いという意識状態になっていた。 

エイジはムラサキの提案でとりあえず本を書こうということになり
執筆活動を始めた。

書きたい事は何も無かったが、パソコンの前に座りキーボード上に手を
乗せると文章が浮かんできた。 

その文章をキーボードを叩くという方法で本を執筆した。

一冊目は4日間で200ページを打ち込み、
ムラサキが編集を手伝うという方法で出来上がった。

その内容は大まかに、これからの人間と地球の在り方というものだった。

実際に近未来の地球を垣間見てきた者だからこそ描ける内容になっていて、
おもしろおかしく書き上げていた。 

他にも意識と制限の問題に触れた内容も多くあった。

書店から出版されるまで二年の歳月が流れ、その後エイジの元に
読者からの問い合わせや相談が増え、講演会も不定期ではあるが開催された。

その講演会は本の執筆と同様、題材は直前になって決まるというものだった。

「今日は僕の講演に来て頂きありがとうございます」 

ここから半トランス状態が始まり言葉が勝手に口を付いて出て来るのだった。

今日も要請で講演会がありエイジは出向いた。

「今日は近未来の事についてお話しさせて下さい。
 
近未来の地球は一定の期間、具体的に云うと今から20数年後まで続き、
その後、二つに分かれる事になります。 

一方は今の世界の在り方を良しとする人たちの地球であり、もう一方は
人間本来のありかた、つまり霊的な意味合いの生き方をする人たちの地球。 

この両方の地球が出来上がります。 

残念ながら親兄弟、配偶者でさえも一緒の世界に暮すとは限りません。 

どういう事かというと、各々が自分の居心地の良い、自分を表現しやすい
世界を選びそこに住む事になるんです。

物質欲の強い思考の人はそのような人の多い世界を選びます。
 
自分で自分をつくろったり、自分に嘘はつけないから普段の思いが
そのまま表面に出ます。

そしてそのような世界を選ぶんです。好きだから。
 
これはどちらの世界も同じで好きな方を選択します。自然なかたちで・・・
嘘は絶対に通用しません。

それが本来の魂の法則だからです。

宗教用語は使いたくないのですが、

今までの地球では地獄で仏という言葉があります。

どんなに辛いと思っても必ず助けてくれる人に巡り会えるという意味ですが、 
今後の世界では地獄的意識は地獄へ移行します。

この世のように同じステージに立つことはできないんです。気がつくまで。 

そして近い将来はこの世界も消滅します。つまり別れて存在します。 


 残る一方はバージョンアップした地球になります。

キリスト教では「神が審判を下す」とありますが神は審判を下しません。
 
全ては自分で自分を裁く事になります。

もう一度言います。 

嘘や偽りが絶対に通用しない世界が今後の世界です。

葛藤や障害の無い世界が待っています。 

それが近未来の地球意識の在り方。 

もう一度言います。 

今後、地球は分離して二つの道を歩みます。 

その後、片方はやがて消滅し、残った地球が今後の地球の
在り方で礎となります。

その時、今のこの文明を振り返りこう思うでしょう。

「猿が文明を創っていた」と。 

それほど今後に残る文明は霊的に目覚めた文明となるでしょう。 

双方どちらを選ぶのも自由。自分次第。


違う講演会では「2012年12月21日問題の件で説明して下さい」
来場者からの質問だった。

「その件に関して 私の見解を述べます。巷で言うところの
世の滅亡はありません。

但し、その日を境に目に見える早さで従来の世界の在り方の終焉を迎え、
新しい在り方へと変わっていくでしょう。 

その為に皆さんはこの地球へ転生して来たのです。

これからの在り方について色々なことが言われてますが、 
私の口からは宇宙時代の到来とだけ言わせてもらいます。
 
どの世界を選ぶのもあなた次第。 

今までの集団意識的常識は通用しませんから、 
内なる自分を信用して新しい時代を迎えて下さい」

【Pino】10-4

4「Pino」

 ここは北海道、日高山脈の中腹。 

この世に生を受けて11歳までは麓の町で育った女の娘、
名前はピノ。彼女の数奇な生き方をちょっと覗いてみましょう。  

彼女が11歳の誕生日目前、人生を左右する悲惨な事件は起きた。 

ピノを学校まで迎えに父親の運転で弟と母親を乗せて向かった、
赤信号で停車中の車に前方からダンプカーが信号を無視して追突し、
3人とも一瞬のうちにこの世を去ったのだった。 

ピノは1人残され叔母の家に預けられたが極度のいじめに遭い、
何時も1人で山遊びをするのが唯一の安らぎだった。

山でリスや狐を観察するのがピノの日課となっていた。

そんなある日、裏山でピノが遊んでいると叔母の息子のヒデタカが
薪をピノめがけ投げつけた。 

そういう行為は日常の事でピノはもう平気だったが、 
たまたまその時は側でリスがドングリを啄んでいて
ヒデタカはそのリスめがけて投げたのだった。 

ピノはその事に気が付き、とっさに薪とリスの間に分け入った。 

薪はピノの頭を直撃しピノは意識を失いその場に倒れ込んでしまった。

その様子を見たヒデタカはピノをそのまま放置し逃げ帰ってしまった。 
 
空には月が昇り山はひんやりと冷え込んでいた、倒れたままのピノは意識を
取り戻し周りを見渡した瞬間ビックリした。 

そこには狐や野ウサギ、リスやテンといった動物が、ピノの様態を
案じているかの様にピノを中心に輪を作っていた。 

そして一匹のリスが側に寄って来た。 

ピノの視線と目があった瞬間、ピノに何かを語りかける様な仕草をした。 

「君、大丈夫なの?」ピノにはリスの言葉が理解が出来た。 

ピノは「頭が少し痛い・・・」返答した。

リスは「さっきはどうもありがとう、私はあなたに助けられたリスです。
本当に感謝してます」 

「・・・あっ・・・はい・・・」 

そう答えた瞬間ピノはまた気が遠くなった。

ピノはそのまま数日間、気を失っていた。 

目が覚めたのは東の空から太陽が昇って間もない頃だった。 

身体は毛皮に包まれる様な感触があった。
 
ピノは倒れてから3日経ってから気が付いたのだった。 

自分に何が起きたのか把握出来ていなかった。 

微かに声が聞こえた。

「気が付いたの?良かった・・・」

「もう大丈夫だ!」 

「良かった!良かった!」

ピノの周りがざわついていた。 

あの時のリスが「もう大丈夫よ、元気になって良かった!」ピノは突然飛び起きた

「あっ?」

ピノを包んでいたのは熊だった。 

熊は「驚かないで!私はあなたの味方・・・」

その他にも沢山の動物達がピノの周りに群がっていた。 

「人間さん、まずは水をお飲み」鹿とリスが何かを差し出した。 

それはフキの葉を数枚重ねた器に水が入っていた。
 
ピノはいっきに飲み干した。

さっきまで不安そうな顔をしていた動物たちは一瞬で安堵の顔になった。

次に、リスや狐などの小動物が次々と木の芽や山菜を運んで来て
ピノの周りに置いていった。 

「ありがとう」ピノはお礼を言った。

「ところで・・・みんな、どうしたの?」ピノが聞いた。 

キツネが「私達はこの山に住む仲間。君がいつもあの人間にいじめられて
いるのをずーっと見ていたんだ。今回リスさんがあの人間にやられそうに
なったのを君に助けてもらったから・・・この森の仲間がお礼したくて
集まったんだ・・・」

数十匹の動物の姿がそこにあった。 

そこには熊や狸、狐などの肉食の動物も、鹿などの草食系の動物も
みんな一緒にいた。 

「私、ピノといいます。私を救ってくれて本当にありがとう・・・それと、
ここは私の家からどのくらい離れているの?」 

熊が言った「ここは人が全く来ない山の中。私の背中に乗せて一日ほど
山奥に入った所。しばらくここに居なよ」

「ありがとうございます。でも私、食べ物とか取ってこれないから・・」 

「大丈夫だよ。君達が食べてるような動物の肉は無い・・・
けど魚と野菜と木の実は沢山あるからここに居なよ」狸が言った。

ピノはこの優しい動物達としばらく暮す事にした。
 
山の生活は夜明けと同時に始まり夜更け後眠りにつく。

食事は一日一食で完全菜食。 

水は身体が欲するままに飲む。 

自然の中で生活するというのは自然に従う事が基本となる。

雨が降れば何日も洞穴で過ごす事もある。

ピノにとって一番の楽しみは渡り鳥や地方から来た鳥達との会話だった。 

その地方や土地の変わった動物や自然の話を聞くのが楽しみだった。

中でもお気に入りはアイヌ民族と動物達の共存と交流の話や 
森の妖精達と動物との交流の話し。
 
昔はアイヌ民族と動物はお互いのテルトリーが決まっていて
境界線を越える事は希だった。 

それが日本人が南から入ってきて境界の収拾がつかなくなった話や 
動物は普通に妖精達と会話をし、今も交流が当たり前のように
なされているなど、おとぎ話しのような話を聞かされた。 

ピノが基本的に思ったことは、 

妖精も動物も自然もすべての動植物は調和を保つことを原則としており、
調和が乱れることや乱されることを極端に嫌いそして恐れた。

肉食動物と草食動物の間には制約があり、食用の為の捕食は双方合意の
もとでなされていた。 

無意味な殺生は存在しなかった。 

捕食される側も合意がなされていた。

ピノはキツネにその事で質問したことがあった。

「じゃあ、何で捕食される側は逃げるの?」 

キツネは答えた「逃げるのは生命体としての本能なんだ。
解ってはいても死は怖いのさ・・・」 

「ふ~ん」 

そんな暮らしも5年が過ぎようとした頃、ピノの目に登山者の人間二人が
目に映った。 

久々の人間であった。 

自然界には実在しない色遣いの服装とリュックを久々に見た。
 
ピノに何ともいえない懐かしさが頭に蘇ってきた。 

「ねえリスさん、あれは何?」 

リスは答えた「あれは敵よ。私達の仲間を見たら殺そうとするの。
絶対、音を立てたり見つかってはいけないのよ」 

リスは説明するも、ピノは懐かしさを拭えなかった。 

ピノはリスの制止を聞かず人間のあとを追った。

登山者の二人は倒木の上で一息ついていた。

ピノが様子を伺っていたら足下の木を踏んでしまい音をたててしまった。

二人は熊か・・・と警戒しながら音の方を振り返った。 

そこには丸裸で髪の長い少女らしき姿があった。

二人は一瞬目を疑った。 

「誰だ?」ひとりが声を掛けた。 

ピノは即、走り去っていった。

町に下山した二人は警察に通報し、見たままを説明した。

その二日後には20名ほどの救助隊が結成され山に捜索に入ってきた。

捜索が入って二日目に大きいなブナの木の下にあった洞穴から
10歳前後の少女のものと見られる白骨体が発見された。 

死因は頭部損傷の疑いがあり司法解剖に回された。

死因は頭蓋骨陥没によるものと判明され被害者のDNA鑑定の結果、
行方不明のピノと断定された。 

殺人事件と見なされ、関係者の事情聴取によりヒデタカの傷害による
殺人と死体遺棄が伝えられた。

後日、関係者に発見現場の状況報告と写真が送付された。 

ピノの白骨死体の周りにはクルミやドングリなど、さまざまな木の実と
動物の毛や鳥の羽毛が散乱した写真だった。

【Pino】10-3

3「セールス」  

新井田マサオ45歳、職業住宅リフォームの営業。勤続20年のベテラン。

人はマサオを営業になる為に生まれた人間と評した。マサオは25歳で
車の営業を始めた。 

高度成長時代のおかげもあってカタログひとつで200万円の車を
月55台はコンスタントに販売してきた。 

ある時、同僚のクニオがマサオに「新井田君はどうしてそんなに売りまくるわけ? 
俺さあ、部長から今月30台売らないと来月は解雇と言われたんだ・・・」

クニオはセールスのコツを始めてマサオに尋ねてきた。 

「コツなんて無いよ。しいて言えば話し好きの客には聞き役を、
寡黙な客には多少雄弁に接する。相手の空気を読み、出来るだけ時間を
掛けずにたたみ込むようにしてるだけだよ。特別なテクニックって無いさ。

営業はクニオ君のほうが上手だと思ってるよ。車の事も僕なんかよりも
よく知ってるし・・・」

クニオはますます暗くなった。 

マサオは続けた「クニオ君はもしかして、やたら車の説明を客にしてない?」 

「・・・・確かにそう言われたら思い当たるけど・・・それが?」 

「いや、客は車の事を既に調べ上げた上でここに来てると思うんだ。
いや僕達以上に詳しいかも知れない。だからそれ以外の何かがあるのかもね。 
ちなみに僕はいつも車の説明は殆どしてないよ。聞きたい事あったら
パンフを読むかネットで調べてって云ってるけどね」

「うそっ!車屋なのに車の説明無しなの?」 

マサオは付け加えた「営業っていうのは何の商品を売るかでなく、
いかに自分を売るかが営業の仕事だと思うんだけど」

その後クニオは成績を伸ばし名実ともにトップセールスとなった。

マサオは車の販売28ヶ月連続日本一の実績を納め将来を有望視されたが
29歳の誕生を境に会社を辞職した。


 次にマサオが営業職として選んだのは住宅リフォームの訪問販売。
この業界は典型的な強引な売り込みの悪徳商法をする業者も少なからずあった。 

マサオが入社したのは町の塗装屋さん「HMペイント」という一般住宅専門の
塗装会社。家を遮熱し保護するという特殊ペイントの商品だった。
 
販売方法は訪問販売。売り方は自由。金額は大きさ形によって規定価格が
決定され、それ以上は売っただけ営業の利益になるというものだった。

マサオは訪問販売は初めての経験であったが、持ち前の笑顔と人なつっこさが
効をそうしここでもトップの成績を収めていた。 

そんなある日のこと、新人の水戸に営業のノウハウを教えてほしいと会社から云われた。
 
「ぼ・ぼく・・・水戸ダイスケと申します。25歳です。宜しくお願いします」 

「新井田です。皆はマサオと呼びます。宜しく」

二人は住宅地に到着した「今日は僕の後を黙ってついてきて雰囲気を読んでね。 
僕は教えるの苦手だから見ていて下さい。とりあえずそれだけ・・・」

「はい!」 

それから二人は住宅地に入り営業を開始した。 

「今日はここから始めます」二人は住宅地を歩き回り午後3時には契約を1件取った。 

「はい、これで今日は終了です」 

「??えっ!まだ3時ですし20件ぐらいしか訪問してませんけど・・・」 

「うん、僕は件数や時間は関係ないの。集中が途切れたらそこで終わりにしてる。
人それぞれのやり方があるからね。ところで何かひとつでも興味ある事あった?」 

「訪問販売は軒並み訪問すると思ってたけど新井田さんは違う様な気がしました」
 
「それは、塗装パターンの家を探してるんだ」
 
「パターン??・・・ですか?」 

「うん、例えば塗装は壁を保護するのと、外観を綺麗にするというのが
大きなポイントだよね。つまり外壁の綺麗な家には訪問しない。 

当然綺麗な家でも話さないと解らないけど僕の場合はとりあえず無視します。
低い可能性に掛ける時間がもったいないから・・・ 

次に家の周りが整理されていない住宅は無視します。その気はあっても予算が
無いとか子供が小さくて家の周りに気が廻らないお宅が多いから。 
家に気を配る人は、生活に余裕のある人と老夫婦の世帯が比較的多いよ。 

それと会話をしていて聞く側が頭を傾げて聞いていたら、話を聞いていない
証拠だよ。他にも沢山の判断基準がある。借家の場合は庭を手入れしていない家が
多い。そういう風に絞って訪問するから僕の場合は量より質を取るのさ。 

最初は僕も軒並み訪問したよ。でもポイントが解ったら、そのポイントを
つく仕事をした方が簡単で効果的な事が解ったんだ。 
ダイスケ君もこの仕事をやるなら自分にあった方法を考えるといいよ」

ダイスケはマサオの言葉を一字一句噛みしめた。

マサオはそれからしばらくは質問攻めにあった。

ダイスケは入社3ヶ月でマサオに次ぐ成績になり部下も与えられ教育する立場となった。

やがてマサオは訪問販売の業界を去るときがきた。 

最終日の朝礼でマサオはこんな話をした。 

「今日で訪問販売を卒業します。最後にこの商売で培ったポイントをひとつだけ伝授します。 

それは、売ろうとしない事。客と息を合わせる事が最大のポイントです。 

これは僕の見解ですけどね。 

今日までお世話になりました。
 
この会社と皆さんには感謝します。

ありがとうございます」

マサオは入社以来、退社までトップの成績だった。

【Pino】10-2

2「ガイドの仕事」

私はガイドのマーヤ。年齢、性別すべて不詳。というより私の世界では
必要無いからありません。
 
当然、名前もありません。人の世では便宜上マーヤといいます。

仕事はガイド。

一般的には守護霊と言われてますが宗教的制約が多いので
守護霊と言わずガイドと言います。 

仕事はこの世に生を受けた人間のガイド役。
 
ガイドの仕事はもっぱら人間の黒子役です。そう表現した方が解りやすいかも。

今、私がガイドを務めている魂は26歳の女性。名前はヒロコ。
 
群馬県前橋市在住の英会話と旅、バレーボールとお酒が好きな女の子。
ちょっと覗いてみましょうね・・・ 


 いつもと変わらない一日の始まりだった。

「母さん、行って来ま~す」 

「気を付けてね」 

ヒロコは黒の原付スクーターのズーマに乗って家を出た。

そのスクーターはちょっとエンジン改良を施したので時速80キロほど出た。

ガイドのマーヤはいつも微笑ましく上から観ていた。 

でも、今日は違った。

マーヤは真剣にヒロコの意識に念を送っていた。

いつも通勤で利用しているトンネルで崩壊のおそれがあり・・・
マーヤは進路を変えるように、ヒロコの意識に働きかけていた。 

『ヒロコ、その道は今日は通ってはダメ。危険!迂回しましょう。
あなたの人生にバイク事故は組み込まれてないの!ケガも無いの』 

マーヤはヒロコに念を送り続けた。 

当のヒロコは鼻歌交じりで運転、全然気が付いていない。 

あと1㎞程でトンネル、時間にして3分程だった。 

マーヤは方法を変えた。 

進路方向に狸を誘導し、進路を妨害し時間を稼ぐ事にした。 

「あらっ?犬かしら?いや違う?・・・た・た・狸??
何でこんな所に?危ないよ、どいてちょうだい!」 

狸は道路の真ん中をヨロヨロと進路を妨害しようとした。

「危ない!山へ帰りなさい・・・狸さん」

狸は愁いの満ちた目でろこを見つめた。 

「この狸、怪我をしてるのかしら?・・・」バイクを止めた。

ガイドのマーヤは方法を変更し、心優しいヒロコの性格を利用した。 

「ねえ狸さん、どうしたのよ?車にはねられた?大丈夫?」
バイクを降りて近寄った。 

その刹那、トンネルの方角で瓦礫が崩れる大きな音がした。

狸は急に飛び起き姿を消した。 

頭の整理がつかなかった。ヒロコは事の次第を母親に携帯で報告し安心させた。 

時が過ぎ事件の事を忘れかけた頃、店にある男性がやって来た。

ヒロコは靴屋の店員をしていた。 

「いらっしゃいませ」 

「すみません、黒いスニーカーありますか?」 

「はい、こちらです」普通の会話であった。 

男性はスニーカーを購入し帰って行った。 

『ヒロコ、その男性は運命の人なのよ。しっかり憶えておいてね』マーヤは呟いた。 

出会いから二日後の夜、ヒロコは同僚3人と前橋駅前で酒を飲む事になっていた。 

同僚のネネが「今夜は何処に行こうか?」 

別世界からはガイドのマーヤが念を送った。

『味処番屋・味処番屋』

ヒロコは「最近オープンした味処番屋はどう?」

ネネが「賛成!そこにしよう」 

3人は味処番屋に行った。 

店員が「いらっしゃいませ。3名様ですか?どうぞお好きな所にお座り下さい。
メニューです。どうぞ」

ヒロコは店員の顔を見ずにそのままメニューに目をやった。 

メニューから視線をずらすとその先に真新しい黒のスニーカーがあった。

あっ!このスニーカー?視線を店員の顔に向けた。 

あっ、この前の・・・お客さんだ・・・ 

店員も「たしか・・・そこの靴屋さんの店員さん・・・」

「履き心地はいかがですか?」ヒロコが声を掛けた。

「はい、足が軽く感じ仕事に最高っす・・」

「そうですか、良かった。またお越し下さい」ヒロコは言った。  

挨拶もそこそこに3人は乾杯をしたわいない話で時が過ぎた。 

そのままカラオケ店へと向かい、3人が別れたのは10時頃だった。 

ヒロコは友人のアクビが経営しているスタンドバーに一人で寄ることにした。

「アクビ元気してた?」 

「ロコちゃんいらっしゃい。聞いたわよ、トンネルの事故と狸の話・・」 

「アクビも知ってるの?今思うと不思議な話よね・・・びっくりだわよ」 

二人が話し始めて間もなく一人の男が入ってきた。 

「あ~~らっ。上野さんいらっしゃい。お久しぶり」 

ヒロコは目を疑った。 

そこに立っていたのは味処番屋の青年だった。

二人は同時に「あっ!」

アクビは言った「何?・・・どうして?・・・二人は知り合いなの?」 

その様子を観ていたマーヤは『予定通り。お幸せに!』と頷いていた。

やがて二人は結ばれ、子供を授かり5人の孫にも恵まれた平和な人生を過した。 

月日は流れご主人は他界し、ヒロコも80歳を過ぎ旅立ちの準備を無意識に始めていた。

ガイドのマーヤの世界からすると一瞬の早さであった。 

他界したヒロコを一番先に出迎えたのはガイドのマーヤだった。 

「ヒロコお疲れ様でした。今回の生でのガイド役のマーヤ、お久しぶり」

ヒロコにとってマーヤはかけがえのない存在だった。



 もうひとつ男性の例を見てみよう。

ここは渋谷。広域暴力団の水信会に属するトマリ連合の若頭カズトミ55歳。
通称念仏のカズ。 

カズトミの兄やんが念仏を唱えたら、敵味方関係なくその場から逃げろとまで
恐れられた存在だった。 

カズトミのガイドはダイスケという存在。 

今日もカズトミは、よその組と縄張り争いの抗争をしていた。

カズトミは敵対する組の若い者に、短刀で腹をひと突きされ
意識不明の重体に陥っていた。 

病院のベッドに横たわったカズトミはだんだんと意識が遠のき、

気が付いたら意識は天井近くにあり、下には血だらけの自分がそこにあった。 

「何だ・・・?これ・・・どうなってんだ?」 

『君の肉体は死のうとしてる』

カズトミは驚いてそちら側に意識を向けた。 

「何だ、てめえは?」

目に入ったのは懐かしい感じがするけど知らない存在だった。 

『私はダイスケ。あなたがこの世に来てからずーっと見守ってきた。 
あなたとは昔からの知り合い。今の抗争で刺され、肉体は死のうとしてる。 
私はあなたを復活させる事が出来る。但し条件付きで』 

「何じゃい・・・それは?俺をなめんじゃねえぜ、ったく・・」 

『そうですか。じゃあ好きにしていいです。強制はしません』 

「ちなみにどういう条件だ?」 

『まず組を解散し、あなたは通訳者として余生を生きる』

「通訳?バカいえ、俺は自慢じゃねえが日本語以外話せねえよ」 

『違います。あなたは今私と会話してるように、ガイドの言葉を伝えればいいの』 

「俺、霊能者じゃねえ・・・」 

『いえ、あなたは小学校まで能力はあった。でも中学に入った頃、その能力を批難され、
それが切っ掛けで、能力を自ら封印した。
たった一言の事で。それからは全く聞こうとしないから自然と聞こえなくなった』

カズトミは40年程前の事を思い出した。
 
そして自分が何故この世に生を受けたのか思い出した。

「あっ、そうだった!俺は通訳者として生まれたんだった」

次の瞬間、病室のカズトミの心臓が鼓動した。
 
看護師が走り、医者は急いで処置をした。

その後、刑を終えて出所後カズトミは組を解散し、しばらく
四国の田舎に籠もり、60歳を迎えた日。全く自分と縁のない
仙台市で路上に簡単なイスとテーブルを出して座った。 

テーブルの張り紙には、あなたのガイドの通訳いたします。
と書いてあった。

カズトミはすぐに有名になったが、偉ぶる事も高ぶる事もせず、 
残りの人生を通訳者として質素に生きた。

生涯TVやマスコミの出演を拒否し、不世出の通訳者として一生を貫いた。
 
通訳で得たお金は孤児院に寄付した。

カズトミは年明け一月の寒い朝に誰にも看取られずひとり亡くなった。
 
所持していた物はポケットの中に3,000円の現金と母親の写真だけだった。

【Pino】10-1

1「石と手紙」

 東京都三鷹市井の頭の閑静な住宅地。高校生の神居 誠(カムイ・マコト)
18才(通称ドリル)は日課となっていた散歩で井の頭公園に来ていた。  

平日だというのに多くのカップルが散歩したりボートに乗ったりで
楽しそうにしていた。 

ここ井頭公園は学生の街。吉祥寺駅から歩いてすぐの公園で昔から人気の
デートスポットでもある。

ドリルは公園内の辨財天堂でお参りするのが日課であり散歩コースになっていた。

今日も夕方の散歩をし辨財天堂に手を合わせた。 

庚申塔の方に目を向けた時、塔の下に何やら紫色をした卵形の石をみつけ、
それが光った様な感じがしたので近寄った。 

確かにその石は他の石と違い、どことなく自ら光を発してる様に感じられ、
ドリルは恐る恐る左手でそっと拾った。
 
一瞬、左手に電気が走ったようにチクチクっと感じられた。 

とりあえず帰ってからゆっくり確かめようと、その石を何気なくリュックに
無造作に入れ散歩を続けた。

一時間程の散歩を終え帰宅したドリルは手を洗い、拾った石も一緒に洗おうと
リュックから取り出し洗った。 

そして自分の部屋に戻り窓サッシの下に石を置き乾かした。 

ドリルはお気に入りのフォークギターを取り出し、今練習中のレッドツェペリン
の名曲、天国への階段を弾き始めた。 

弾き始めて5分ほど経った頃、窓ガラスが小さく振動し始め音がした。 

ドリルは何が起きたのか解らず、ただ呆然とギターを抱えたまま見入っていた。 

石は振動と同調するかの様に淡く光り、その光は微妙な強弱もあった。

不思議な事もあるものと石を手にしたその時だった・・・

後ろから「こんにちは・・・こんにちは・・・」と繰り返し声が聞こえた。

ドリルの声の方を振り返った。

瞬間「えっ?」思わず声を発した。

部屋に緊張が走った。 

そこには知らない何者かが立っていた。 

「ど・泥棒??」ドリルは声にならない声で叫んだ。 

その存在は「こんにちわ。驚かないで・・突然ごめんなさい」と言った。 

ドリルは「あなたは誰?なんでここにいる?」ここまで話すのが今のドリルには
精一杯。 

その存在は「突然済みません。私はファイと申します。あなたが先ほど拾った
その石の事で、私は150年ほど未来の日本から来ました」

「150年?未来?・・・なに??あんた、頭大丈夫?」ドリルは言った。

「ごめんなさい。納得出来ないですよね・・・無理もないよね・・・
証明するしか方法はないものね・・・
 
ちょっと耳を貸して下さい。

今日あなたはもう一度、井の頭公園へ行く事になります。そしてサンロードを
2往復することになります。 

今はそこまでしか解りません。明日また寄らせて下さい同じ時刻に・・・
また来ます。その時はあなたも信じてくれると思います。 
今日は帰ります。ほ、本当に失礼しました。お許し下さい・・・」

そう言い残してファイはその場から消えた。

ドリルは「今のなに?1人で勝手に語って、何で勝手に帰るんだよ?・・ったく。
腹立つ・・急に部屋に入って来て信じろと??ふざけんじゃねえよまったく。
絶対、公園なんて行かねえし・・・って云うかあいつつ誰????」

我に返り急に手が震えてきた。
 
ふるえも消え、ぶつぶつ呟きながらまたギターを弾き始めた。
 
しばらくして母親からメールが来た。 

「井の頭線が急に不通になった。タクシーが全然走ってない。
すまないけどサンロードに迎えに来て荷物持って欲しい。 
マコトへ。母より」

「何だよ、吉祥寺か・・・」ドリルは吉祥寺に向かった。 

サンロードに入ってから待ち合わせ場所に直行した。 

そのまま荷物を持ってサンロード入口を出た時母親が「あっ、マコト申し訳ない。
西友で買い忘れた物があるの。このまま戻って好い?」 

「ああ、かまわないよ。行こう」 

そう言った瞬間、ファイの言葉が脳裏をかすめた。 

「まじかよ?あいつの話そのまんまかよ?」
 
ドリルは好奇心と同時に何とも言われぬ不安を憶えた。

翌日、ドリルはいつものように学校から戻り日課の散歩をこなした。
途中、井之頭辨財天堂で昨日の事を思い出し帰宅した。 

内心ドリルはいくつかの質問を考えていた。そしてその時が来た。 
昨日のように紫の石が微細な振動を始めた。
 
突然、霧のような揺らめきの中からそれは現れた。 

「こんにちわ。昨日はごめんね、ドリル」  

もう呼び捨てかよ?

ドリルは妙に馴れ馴れしいと思った。 

「こんにちわ。昨日、君の言った通りになったから話を聞くよ・・」

「そう、信用してくれたんだ。ありがとう」 

「いや、まだ半分ですけど」ドリルが返した。 

「で、何ですか?」ぶっきらぼうにドリルは言った。 

ファイが「実は私が此処に来た理由は、この手紙なんだ」ファイは手紙を
ドリルに渡した。
 
その手紙の宛名は同じクラスの板垣久美子だった。

「??」ドリルは皆目見当がつかなかった。 

「ねえ、ファイさん。これどういう意味?」当然の質問であった。

「僕の事はファイでいいよ。じゃあ、これから説明するよ。
この差出人は板垣久美子さんのおばあちゃんのトメさんで、
板垣久美子さんへの手紙なんだ」

「えっ?確か、お婆さんは昨年亡くなったって聞いたけど?」 

「そう。そのトメさんなんだけど、彼女へひとつ言い忘れた事が
あったらしく、僕は彼女へこの手紙を渡してくれるように頼まれたんだ」

「何で君が?」ドリルは首を傾げながら聞いた。

「ドリルがその石の持ち主になったからなんだ。その石には太古の昔から、
ある役目があるんだよ。その石を所持した人間は霊界と、この世との
伝達人の使命が科せられるというものなんだ。 

以前の持ち主は高齢のため他界したんだ。

遺族はその使命を知らないままこの石を君が昨日行った井之頭辨財天堂に
棄ててしまったんだよ。もう50年も前の話しなんだけど。

そこへドリルが昨日通りかかり、その石との縁を50年振りに
作ってしまったんだ・・・君が」

「何で僕なの?」 

「ドリルはその石を洗う時に可哀想・・・と思ったからだよ、普通の人は
そんなこと思わないよ。それでその石は君を選んでしまったんだ。 
君と石が同調したのは、その石の意思だったんだ。君が石に選ばれたのさ」

「石の意思??それダジャレなの・・・勝手に選ばれても困るんだけど・・」

「それは・・・僕に言われても困るんだ」 

「まっ、大体のことは解ったけど、その手紙を板垣さんに何て説明して渡すの?」

「方法は二つあるんだ」

一つは彼女の夢に侵入して渡す方法 
但し、夢から覚めると忘れやすいというリスクがある。 

一つは彼女に直接手渡す方法
但し、受け取ってから3分以内に読んでしまわないと手紙は消滅してしまうんだ。

ドリルは聞いた
「直接読んで聞かせる方法はどう?一番簡単でてっとり早いと思うけど」

「じゃあ、その手紙読んでごらん?」

ドリルは手紙を広げた。

言葉に詰まった。・・・・「??」手紙は白紙だった。

「ねっ、解った?第三者は宛先しか読めないのさ」

「とりあえず3分以内に読むように伝えるよ、これ渡すから。 

でも板垣さんに何て言って渡そうか?渡す切っ掛けが難しいよ。
ファイも考えて」

「それがドリルの今後の仕事になるんだ。だから頑張って」 

そう言ってファイは消えた。


 翌日の放課後、板垣久美子を校庭の裏に呼び出した。 

「ドリル君、私に何か用・・・?」 

「こんな事、信じてくれないと思うけど、板垣さんの去年死んだ
お婆さんからの手紙をあるルートであの世から僕が預かったんだ。
それで受け取ったら3分以内に呼んでほしい。それ過ぎると手紙が
消滅するんだ」ドリルは言い終えるとホッとした。 

「何それ?・・何で私のお婆ちゃんなの?」 

「何か君に言い残した事があったらしく、それが重要な事だったみたいで、
今回僕が依頼されたんだ。僕も、なんで僕なのか解らないけど・・・」

板垣久美子は半信半疑で手紙を受け取り素早く読んだ。

しばらくして彼女の目から涙が頬を伝って落ちた。

そして彼女の手からその手紙が消えた。 

「板垣さん、どうだった?大丈夫?」

「ドリル君ありがとう。私、お父さんの事で長年悩んでいた事があったの。
この手紙で私の誤解だったと解ったわ。 

それをお婆ちゃんが気にしていて生前私に話して聞かせようと思ってたらしい。
それが出来ないまま他界したので、死んでからも気にしていたみたいなの。

ドリル君ありがとう。私、最初は半分疑ってたけど、あの手紙はお婆ちゃんに
間違いないわ。筆跡も同じだったし。ありがとう、ドリル君」 

「何の事か解らないけど誤解が解けて良かったね。お疲れさん」 

「でも不思議ね、あの世からの手紙なんて。三流SF小説みたいな事あるのね」

「僕も今回が初めての経験なんだ。だからまったく見当がつかないよ。
今日の事は内緒に頼む。面白い話があったら教えるね」

ドリルは不思議な達成感みたいなものを感じた。
 
これがドリルとファイと不思議な石との出会いであり、不思議な世界を旅する
物語の始まりとなった。


 ある日の夕方、突然ファイが手紙を持ってドリルの部屋に現れた。
 
「やぁ!いたの?」

「あっと、びっくりした・・・」ドリルは目を見開いた。 

「驚かしてごめん」 

「あのさあ、今度から現れる時、何かドアをノックするとか
合図のようなもの無いの?」

「ノックする体が無いからノック出来ないし・・そうだ!その石を
振るわせるって言うのはどう?」

「うん、それでいいよ」 

「これからそうするね。今日はこの手紙を渡して欲しいんだ」

そう言いながら手紙をドリルに渡した。 

「ハイ!・・・・水島信夫?・・・どっかで聞いたこと・・・??
もしかしてこの人って広域暴力団の水信会の組長と同じ名前だけど・・違うよね?」 

「そうだよ、その水島・・・」
 
「えっ!・・今回はお断りします」ドリルは即答した。

「大丈夫だよ。本人に会わなくても、もうひとつの夢に侵入する方法を
試したらどう?」
 
「あっそれ、聞こうと思ってたんだよね。どうするの?」 

「夜寝るときに左手に石を持ち右手に手紙を持って、頭の中で水島信夫って
何度も名前を云いながら寝るんだ。

そうすると起きた所が水島信夫氏の夢の中っていう訳さ。後は彼に説明してから
手紙を渡す。但し、こういう人達は夢の中でも荒っぽいのが多いからね。

ちなみに殴られてもダメージは無いけど夢の中の君は多少痛いと錯覚するかも。
肉体が無いからって無茶しないようにね」

「何にそれ・・・」

そしてドリルは説明された通り眠った。

 ここは水島信夫の夢の中。

子分と思われる者3人と水島信夫が渋谷のクラブで酒を飲んでいた。
これから他の組の者と何かあるらしい。不穏な空気。 

水島が「いいか、お前達。俺に何かあっても俺にかまわず逃げろ。
もし俺がおっちんでしまったらこの家業から足洗え。そしてまっとうに暮らせ。
解ったな」

「ヘイ頭、解りました。でも俺は頭を必ず護りますから」 

「ありがとうな、政晴」この一部始終を視ていたドリルは

「何なんだ?これから、もしかして抗争?そんな時にどうやって手紙を渡すの??」

夢の中のドリルは焦っていた。

次の瞬間、ドリルは水島信夫の前に立っていた。

これが夢のいい加減さである。

護衛役の政晴が急に立ち上がりドリルを威嚇した。 

「何だ、てめえ!・・・どっから出て来やがった?」

「はっ僕も解りません。これ読むように申し使ったんで渡しに来ました」 

上着のポケットから手紙を出そうと手を内ポケットに入れた瞬間、
水島はドリルが胸からピストルを取り出すと思った。

次の瞬間、水島はソファーの後ろに隠れた。政晴と他2名はドリルに飛びついた。 

「ま・ま・待って下さい。これは手紙ですから」
 
政晴はドリルの手から手紙をむしり取り「頭、これ」と水島に手紙を渡した。 

「何だこれは?」それには《信夫へ、ヒサより》と書いてあった。

死んだ母親から水島信夫に宛てた手紙だった。

「なめとんか、こらっ!」水島はドリルの胸ぐらをつかんだ。

「おう、若いの。俺の母親はとっくにあの世に行っちまってる。
もう少しましな嘘をつきな。えっこらっ!」

ドリルも必死だった。 

「まずは読んでもらえませんか?それから判断して下さい頼みます」

必死にドリルは説得した。

「読むだけなら読んでやらぁ!」水島は急に態度を変えた。

そして、ゆっくりと手紙を開いた。 

『信くん。突然の手紙で驚かせてごめんね。 

あなたは優しい子だった。

人の道を外したのはお母さんのせいなの。

私も子供の頃、お母さんからいつも厳しく育てられたの。

お母さんはいつも反発したかったけど出来なかった。
 
そしてお母さんが親になった時、母親のイヤだった躾の仕方を・・・
何故か、信くんにやってしまったの。

お前は当然反発したけど私はお前に何もしてやれなかった。
今になって本当に悪く思ってます。信くん、ごめんなさい』

その手紙を水島信夫は読み終えて、あっさり棄ててしまった。
次の瞬間、拳銃がドリルに向けられた。

そこで夢から覚めた。

「かぁ~~~。殺される所だった」

夢と知ってはいても、そのリアルさにドリルは、いたたまれなくなった。
それから数ヶ月が過ぎ、広域暴力団の水信会は突然解散し、
水島信夫組長以下135名は刑に服す者、かたぎに戻る者、
田舎に帰って家業を継ぐ者が続出し極道の世界では、この事を発端に組を
解散するのが相次いだ。

それを知ったドリルは自分のやってる、誰にも語れない不可思議な役割が
少しは世の為になってることをチョットだけ誇らしく思った。


 ドリルの部屋の石が振動し、ファイが手紙を持ってやってきた。

ファイは手紙を渡した「これ・・・」 

「ファイさあ、今日は君にチョット聞きたいことあるんだ」

「僕の解る事ならいいけど、なに?」

「ファイはどこの世界から来てるの?」 

「僕はね、君たちに解りやすく説明すると、君達は4次元で僕は5次元だよ」 

「ここは3次元じゃないの?」 

「正確には3次元に時間が加わるから4次元なんだ便宜上だからどっちでも
良いけどね」

「じゃあ、この手紙も5次元から?」 

「そうだよ」 

「死んだ人が逝く世界?」 

「そう、但しその上に逝く人もいるよ」 

「その上って?」 

「解りやすく言うと神に近くなるってことさ」

「えっ、神様っているの?」 

「大いなる神は存在するよ。君たちの考える神と違うけど、
本当の神はチョットずぼらだけど存るよ」

「ずぼらな神か・・・?面白い。じゃ、悪い事やって死んだ人はどうなるのさ?」

「ドリルはどうなると思う?」

「3次元とかに落ちるの?」 

「違うんだ。肉体が死んだら5次元に戻るんだよ」 

「戻るって?この世より上って事?」 

「次元で云うと上になる。それとこの世の人は全てが上の次元からの転生なんだ。
こっちの世は下なんだ。
 
これにはルールがあって、上の次元からから下の次元にしか転生出来ないという
ルールなんだ。そういう意味で人間は一番下の次元なのさ」

「じゃあ、地獄の世界も人間より上な訳?ファイ、それっておかしくない?」

「おかしくないよ。全ての人間は死んだら周波数がこの世の人間より高くなるんだ。

但し、死に方によっては思いっきり周波数の低い状態を選ぶ魂がいるんだ。
つまり一般的に言う地獄ってやつ。みんな自分で選んでるのさ。 

この世だって神様の様な人もいれば地獄の大将みたいな奴もいるだろう。
何でもリアルだし隠し事出来ないんだ。 

死んだ魂は本来の周波数の高い所に戻るけど、死んだ事を知らずに周波数の
低い場所を漂ったりポジテブな世界に移行するんだ。

閻魔様が決めるんでなく、全ては自分で行き先を決めてるのさ」 

「じゃあ、仏教の見解と違うね?」 

「あれはあれで一つの戒めとしていいと思うよ。本当は今、僕が言った様に
地獄も5次元なんだ。解ってもらえたかい?」

「・・・何となく」 

「そのうちドリルにも解るよ」 

「で、本題。今度の仕事」ドリルに手紙を渡した。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-13完結編

13、狸小路

 ある日マチコママがふたりに差入れを持って狸小路に遊びに来た。 

シリパに話しかけた「最近シリパの会への質問で2012年問題を取り
上げた質問が多いのね。京子ちゃんの所にはそういう類の質問は無い?」

「私の所は相変わらず恋愛問題が多いけど、ケンタの所は、未来にトリップさ
せてるから半信半疑か、それ系の質問が多いみたい」

「でも、未来はたえず変わってるから下手な説明できないし、
ママも言葉選ぶわよ・・・」

シリパが「そ・・そこなのよ。パラレル的に云うと未来は必ず分裂するから、
自分がどこを選択するかで結構違ってくるしね。曖昧な答え方も出来ないわ」

「だから私は一応の見解を出そうと思ってるの。
未来については大きく二つに分離されると思う。
今云えるのはその事だけってね。京子ちゃんはどう思う?」

「そうね、それが今の段階では無難な答えかもね」

京子は家に帰ってからママとの会話をケンタに話した。 

ケンタは「まあ、それだけ現状は不確かだからそういう言い方がベストかもね。 
神の感覚だと100年の時間的誤差は許容範囲。
だから予言は外れることが多いし難しい。そのことが解ってるから本当の覚者は
日時を克明にしないのもうなずけるよ・・・」


 狸小路の京子のところにリョウゼンが初めて尋ねて来た。 

「きょ・きょ・京子ちゃん・・・なに・なにやってらの?」 

「リョウ??リョウゼンなの?・・あんた久しぶりね・・・元気?」 

「あっ・はい」 

「そう・で、今日はどうしたの?1人なの?こんな夜にリョウゼンの来る
ところじゃないよここは・・・」 

「・・・・」リョウゼンは黙ってしまった。 

「リョウゼンどうした?」京子は優しい口調で言った。

「こ・これ・」リョウゼンはポケットから一枚の絵を出しそっと差し出した。

「な~に?これ」未来都市を背景にした二人の人間と犬を描いた挿絵だった。 

「なに?リョウゼンはこんな世界を観てみたいのかい?」

「はい」 

途中でリョウゼンの雰囲気に何かを察知した。 

「チョット待ってね」京子は携帯でマチコママに連絡を取った。 

最近、会員の誰かともめたらしくしく、それ以来リョウゼンは会に顔を出さなくなったという事。

京子は「お前、シリパの会でもめたんだって・・・どうしたの?」

リョウゼンは耳を両手で塞ぎ座り込んだ。これ以上、外からの情報は
拒否するというリョウゼンの表現のひとつだった。

「もういい。わかったからさ、ちょっと私の話を聞いて!」

「はい聞きますです。です」 

「未来に行くのもいいけど、この絵と少し違うかも知れないよ。わかった?」 

「はい、です~~ぅ」  

「お前はサザエさんのタラちゃんか・・・」

KENに事情を話し二人の身体の管理を頼みトリップした。
 

 ここは500年後の札幌。リョウゼンの思い描いた世界とは大きく違っていた。 

雑誌にあるSFの世界は透明のドームがあり、未来型の車が空中を飛ぶ
世界がリョウゼンの頭の世界であった。リョウゼンは何か考えていた。 

京子が「リョウゼン、どうしたの?なに考えてるの?」

「そうですよね。これが現実ですよね」リョウゼンの言葉使いが変わっていた。 

京子は思い出した。トリップした世界ではリョウゼンの意識は一般人の感覚だったことを。 

リョウゼンは夢に描いた世界と違った事にショックをおぼえた。 

「現実はこんなものですよね」悲壮感があった。 

京子が「どうせならこのままの世界を描いたら?そして未来は精神的な文明で、
理にかなった世界は実際こうなってます。みたいなお手本を描いたらどう? 
未来人はビックリするわよ。500年も前にこんな絵を描いた人間がいるってね・・」

「面白いですね。さすが京子ちゃんです」 

ほどなくして二人は戻ってきた。 

京子は「リョウゼン、今日は楽しかったわね。マチコママも心配してたわよ。
会に顔出しなさいね」

「あ・あ・ありがとう・・バイバイです」

会の話になるとうつむくリョウゼンだった。 

「気をつけて帰りなよ、お休み・・リョウゼン」 

リョウゼンは後ろ向きのまま手を振った。相変わらずのリョウゼンに京子は微笑んだ。

 
 それからひと月程経ち再びリョウゼンが京子の前に顔を出した。 

「リョウゼンいらっしゃい。今日はどうしたの?」 

リョウゼンは画板から8枚の作品を取り出した「こ・こ・これっ!」 

「おっ!作品出来たのかい?どれ、見せてね」

目をやった瞬間京子は絶句した。

そして「KEN!!来て!」大きな声で叫んでいた。
京子の声が狸小路に響きわたった。

「どうしたのシリパ?大きな声出して」 

「KENごめんね。これ!この絵見てよ!」
 
「おう、リョウゼン来てたのかい?」 

京子が差し出した絵を見たKENは息を呑んだ。

「これ、リョウゼンが画いたの・・・?」 

絵は8枚有り一枚の絵に七つの世界が描かれており、それが7部構成に
なっていて一枚一枚しっかりしたストーリーがあった。

計49の世界が緻密に描かれていた。最後の8枚目には地球が変わる直前の絵が描かれていた。
この絵は実際を観てきた人間にしか描けない絵であった。この絵の価値を知る
人間はこの3人だけだった。 

シリパがリョウゼンに「リョウゼンはもうひとりだけでトリップ出来るんだね。頑張ったね」

リョウゼンは満面の笑みを浮かべうなずいた。

KENが「それにしても完璧な絵だ。僕の観た通りの世界。あの世界をカメラで撮ったようだ」

京子が「リョウゼン、この絵は、リョウゼンが大きくなるまでお母さんに言って
封印してもらいなさい」

「ふういん??わ・わ・わかりませんです・・・」

京子は母親に手紙を書いた『この絵は今、世に出す絵ではないと思います。
この作品は社会的に影響を与え兼ねません。
それだけ今のリョウゼン君の絵は、一作品一作品が注目を集めます。
 
因みに、この絵は約500年後の世界まで見事に描かれています。
我々夫婦と他数名が垣間見てきた未来の世界と寸分違わず一致しております。

リョウゼン君が大きくなるまで封印をお奨めいたします。生意気なこと言って
すみません 京子』そう走り書きをし、母親へ渡すように言った。 

「リョウゼン、どうせ描くなら昔の東京・・江戸って云うけどそっちの方が
みんなは喜ぶかもね」 

「む・む・昔ですか?」

「そう、昔よ。頭はチョンマゲで着物を着て刀持ってる時代。日本の皆は
好きだから沢山の人が喜ぶと思うけど・・・どう?」

「き・き・京子ちゃんと行った京都とかですか?」 

「そう。あれは京都だけど、今の東京を昔は江戸っていうの。
日本の中心なのよ。面白いよ。リョウゼンくん解りましたか?」

「はい、解りました」そう云ってリョウゼンは帰って行った。 

ふたりをを観ていたKENが「彼は天才だね。あそこまで正確に描けるなんて
思わなかったよ。久々にビックリした・・・」 

「私も以前からあの子の絵は見ていたけど、今回のは特別だったわよ。
だって一枚の絵で10年ごとのドラマを7回トリップして、ひとつの絵に見事に
納めちゃうんだもの。それも7枚で約500年分よ、最後の一枚は視点が宇宙空間から
未来の地球を観たものだった、完璧に出来上がっていたわ。 
もしかしたら昔のミケランジェロやダビンチの絵を世に先んじて見た心境?」

「でも500年後の人は解ると思うけど、今の人が解るかどうか???」
KENは遠くを見ていた。

しだいに常連が増え路上では限界が出始めた。 

「ねえケンタ、これから冬になるし、トリップして帰ったら客と二人とも
冷たくなって震えてるよ」 

「そうだね。札幌の屋外では僕のやってることは限界があるかも。
小さな店舗でも借りる?」
 
「でも、それならシリパの会と同じくなるよね。かといって宗教色は絶対イヤだし・・・」

寒冷地ならではの課題が生まれた。

結局、二人は一戸建てに引越し、そこで看板を上げて再スタートした。 

会員ナンバーの一番がリョウゼンだった。

The END

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-12

12、時空の旅

 ケンタと京子は宇宙の存在との約束が遅れてることを気にしていた。 

「さて、ケンタ。これから先どうするの?今までは神社廻ったりとふたりの
都合でどうにでもなったけどさ、ひとを育てるって簡単じゃないよ。
今までの会は技術だけだから何とかなったけど、石の力も借りたし・・・」

「そこだよ京子ちゃん。最初に両方の世界を視せるんだよ。そして二つの
世界の意識の在り方の違いを説明するんだよ。視てるから話が早いと思わない?」 

「なるほどケンタらしい考え方だね。でも事務所無いしどうやって人集める?」 

「最初は狸小路でやるしかないかな・・・今まではカウンセリングみたいな
感じだったけど明日からは地球の未来を旅しませんか?て言うのはどう? 

二つの世界があることを説明しておいて、両方ともトリップして見せるのさ。 
あの妖精の長老達に視せたようにね。自分たちが変わらなければ未来は
変わらないという事を自覚してもらうんだよ。どう?」 

「私の旦那は天才だ・・・」

「とりあえず僕はその方向で行く。京子ちゃんは今のスタイルを維持してほしい」

「なんで?」 

「それはそれで必要だからさ僕の方はチョット、カルト風に取られがちだから
敬遠されると思うんだ。だから食べるためには仕方ないよ。頼む」

「・・・うん、わかった」

ふたりは狸小路にいた。

ケンタのテーブルには「時空の旅」と書いた張り紙があった。 

3人の男が興味ありげに張り紙を見ていた。

25歳位いのレゲエ風の男が「これどういう事っすか?」 

KENが「葉っぱや薬を使わずに未来の札幌にトリップするのさ」 

3人は笑った。 

「マジッスか?」 

「マジッスよ、1人3千円、3人まとめてだと割り引いて1人2千円。
合わせて6千円でどう?もしトリップ出来なかったら全額返金するけど」

色黒のゲンが興味を示した。

レゲエのオキが「1人2千円だって。タイキもやろうぜ」

「いいよ」 

KENが「座らないと出来ないから3人とも、そこのベンチに座ってほしい。
そして深呼吸を三回して」 

3人は従った。 

「次は3人手を繋いでゲン君は僕の手を握って目を閉じて僕の指示を待ってほしい。
視る世界は二つ。僕も同行するから心配は要りません。では未来に飛びます。
心を空にして下さい」KENは片方の手の黒石に集中した。 

4人は同じ狸小路に飛んだ「はい、目を開けていいですよ」

そこは明るくそして全体に白っぽい透明感のある狸小路だった。
 
3人は初めてテーマパークにいった子供のように目を輝かせていた。 

タイキが「この辺りはラルズのあたりだよ。全然雰囲気が違うね」 

ゲンは「メッチャやばくない?人もなんか半分透明だし。光ってるよ」 

オキは「このまま歩いてススキノ行ってみない?」

四人は南に移動した。 

先にオキが声を上げた「無い。ススキノが無い!ただの公園に変わってるぜ」 

KENが「そうなんだ。未来の世界ではススキノは消滅してるんだ。酒を飲むという
習慣が無くなるのさ。当然風俗もね。だから酒場はこの時代には消滅したんだ。 
車を見てごらん、乳白色のブヨブヨした感じ。あれが未来の車だよ。
燃料は宇宙線だから永遠に動くのさ。無尽蔵のタダ燃料だよ。一台に一個の装置なんだ。
これは家も同じ仕組みだから未来に北海道電力さんは存在しない」 

車好きのオキはいたたまれない気持ちになった。

「次は上から札幌を見てみようか?またみんな手を握って。いいかい・・・行くよ」 

瞬間、藻岩山山頂に移動した。

「これが未来の札幌市だよ。高い建物が無いでしょう?これは都市集中型の過去と
違い、未来はみんな好きな所に住むんだ。仕事の為に都会に住む必要が無いからね。
しばらく見学してよ」 

3人は目を皿のようにして札幌の街を眺めた。 

「じゃあ、もうひとつの世界に行くよ。手を握って」

4人は大通り公園にいた。 

「ここは4人離れないようにしてね。絡んでくる人間が多いから無視して」 

ゲンは思った「臭せ~~。何だ?この匂いとジメジメした重い空気?薄暗い空。
公園なのに全体が重たい。人の顔も全員がヤクザか変質者みたいな奴らばっか」 

「おい兄ちゃん達、金貸してくんねえかなあ?良い服着てんなあ。
俺のと交換してくれよ。おい、その髪の変なの。おめえのはいらねえ。
安心しな・・・但し、金貸しな」

KENが振り向いた「やめなよ!俺、ミノルさんのダチだよ」 

「な、な、な、なんだ!もっと早く言ってくれよな」 

絡んできた男は走って逃げた。

「なんなんすか?あいつは」 

「この世界は絡まれてばっかりだから、うちの嫁さんが過去で知り合った
ヤクザもんがこの世界にいるから何かあったらその人の名前を使いなと話を
付けてあったのさ。それを利用しただけ。この世界は自分の欲望だけで生きて
るんだ。特徴は他人の事は考えない世界。これも未来の札幌なんだよ残念だけどね」

タイチは「俺、こんな世界イヤだよ・・・」 

「大丈夫ださ。執着を持たない、人を傷つけない、いつもにこやかにワクワク
してればこの未来には来ないよ」KENは言った。 

「あと見たいところある?」 

ゲンが「僕の家族のこと気になるんだけど・・」

KENは「ごめん。それはルールがあって見せてはいけない事になってるんだ。
ごめんね・・・」 

オキが言った「誰のルールなのさ?」

KENは天を指さした。 

「次どこか行きたいとこある?」

そう言ってる間に今度は女らしき者がタイチに寄ってきた。

「ねえ、兄さんいい事して遊ばない?あんた良い男だから安くするけど。どう?」

「イヤ結構です」

「なんだい兄さん、おだてりゃ普通はハイって言うもんだよ。
このアタイをいったい誰だと思ってんだい?えっコラ若いの」 

豹変してドスの効いた声だった。 

「姉さんごめんな。さっきこいつらを遊ばせたとこなんだよ。また今度くるからさ」
KENが割って入った。

女は「ちっ、解ったよ、絶対だよ。んじゃな・・・」

3人は「もう帰りたい」とKENに言った。

KENは了承しもとの狸小路に戻った。

そこには京子の姿があった。

「お疲れさん。気になって来てみたら、人だかりがあるじゃない。見てみたら4人が
手を繋いでぐったりしてるから、みんな救急車や警察呼ぼうとか言ってるし、
私が言い訳して付き添ってたのよ。で、どうだった?」
 
3人は戻ってからしばらくは呆然としていた。

KENが「お3人さん、どうでしたか?」 

オキが「いい経験しました。あれは何十後の札幌ですか?」 

「近未来かな。ミノルって今ススキノに実在するからね」 

「えっ!近い将来であんなに変わるんですか?」 

「確定はしてないけど可能性は充分あるよ」

ゲンが「楽しかったです。で、僕達はどっちを選ぶんですか?」

KENは「自由なんだ・・可能性は最初の方だけど選択権は自分にあるから、
その時に心に葛藤がある人は後の方に。葛藤を手放した人は最初の世界に
移行するんだ。今日は僕にとっても君たちが初めてのお客さんなんだ。
楽しかったよ、ありがとうね」 

3人は今、経験したことをお互い確認し合いながら歩いていった。

京子が「やりかたを少し変えないと危ないね。四人もぐったりしてるんだもの。
絶対薬か何かを疑われるよ」 

「ごめんごめん。そうだよね・・・」

二人は今後の課題をかかえて帰宅した。

結局ふたりは近場で店を開きKENの客の場合、京子がトリップ後の身体の
介護をすると言うことになった。初日に来たオキ・ゲン・タイチの3人は
沢山の客を紹介してくれた。 

噂はあっという間に広がり一日に大勢が訪れる日もあった。

KENの体力は5人まで。その後は京子に任せることにした。
リピーターも多くなった。

そんなある日、KENの前に1人の婦人が現れた。 

内容は、歳若くして死んだ息子に会いたいのでその世界に行って欲しい
というものだった。 

KENは「それは可能ですけど、行ってあなたはどうなさりたいのですか?」 

「ただ会えればいいの。他に望む事は無い。ただ会えればいいそれだけ」

「ごめんなさい。僕にはお手伝い出来ません」キッパリ断った。 

「あなたはインチキなの?どういう事?じゃあ、なんでこんな事やってるわけ?」

KENは下を向いたまま黙った。婦人は怒り心頭で去っていった。 

側にいた京子がその光景を見ていた。 

「KENさんどうしたの?今日は調子悪いのかい?」 

「・・・。今の女の人は死んだ子供さんは男の子だと思うけど、
思い入れが強過ぎなんだよ。視せるのは簡単なんだけど場合によっては、
すごくショックな場合があるんだ。
そうしたら今の彼女はその世界に行って助けようとする。つまり彼女は死を
選ぶことになりかねない・・と思ったのさ。誰にでも簡単にトリップさせないよ、
特に本人に害になると思った場合は・・・」 

今度の客は20才くらいの女の子だった。

「いらっしゃいませ」 

「あのう、前世の私を視ること出来ますか?」 

「・・・あなたは前世は何がいいですか?」

「??・・・どういう事ですか?」

「今のあなたと前世のあなたは関係無いですよ。
未来はあなたが創造して下さいね。仮にあなたの前世は農家で苦労して
死にましたよって言ったら、あなたは一生それを引きずって生きていきます。
そしたら知らない方がいいと思いませんか?
それにこの地球人の前世は大体が農家か漁師なんですよ・・・」

「じゃあ、三年後の未来を視せて下さい。」 

「事情はどういう事ことかな?聞いてもいいかなあ?」

「また事情ですか?もういいです・・・」

帰ってしまった。 

イッセイが聞いてきた「今日はどうかしたんすか?」 

「ふふ・・彼女は何でも良かったのさ。暇つぶしなんだ。まったく関心がない。
本当に興味があったらちゃんと考えて質問してくるよ。お金もったいないから
帰ってもらったのさ」

向こうでシリパがKENを見て微笑んでいた。

今日の札幌の空は満月が輝く穏やかなな夜だった。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-11

11、テロ工作

 ミルキーが突然京子の前に現れた。 

「おや、ミルキーどうしたの?先日は世話になったね。で、今日はどうかしの?」 

「いきなりごめんなさいダニ。実は先日、北海道各地の妖精たちが
旭川のコタンに集まったダニ。

その内容が、人間の自然破壊とその対策についてなのね。

その事はよくある会議の内容で問題は無いダニ。話しはその後に起こったダニ」

京子は真顔になった。 

「シャコタンにある神威岬の長老が『長年人間達の黒い想念の影響を受けてきた。
そのせいで自然破壊が進んだ。でも我々は耐えてきた。だがもう限界。

この辺で我々は立ち上がり人間社会に忠告を発したい。
それには、皆の力を集結する必要がある』って演説したダニ」

「具体的にどういう事になるのよ?」

「本州の人間が350年程前、北海道を侵略した事があるダニ。 
その時は我々妖精と自然をつかさどる龍神と北海道アイヌの頭の
シャクシャインさんが組んで本州からの侵略に対し人間界と妖精界の
両方で戦って我々の民が勝利したダニ。 

その時は人間界に多大な犠牲者が出たダニよ。 

今回、人間のアイヌさん達は少ないから加わらないけど、
妖精達はみな本気みたいなの。

それでミルキーが相談にきたダニ。 

本来人間から視えない世界の我々は人間界と戦ってはいけないダニよ。 

視えない敵は絶対有利ダニ。人間が滅ぶのは間違いないダニ。 

長老達は全てのダムに人間に検知されない毒を入れるとか、鳥に乗って
人の多く集まる場所の空から、秘伝の毒花粉を蒔くって相談してたダニ。
人間全員死ぬダニ」

「ケンタ聞いた?」

「ごめん僕、波長合わせてなかった。後で聞かせて」 

京子は「ミルキー達は反対出来なかった訳?」 

「北海道の長老同士が決めたことは絶対ダニ。反対した者は村八分に
なるから生きていけないダニ」 

「チョット待ってね。ケンタと相談するわよ」

京子は事の次第をケンタに話した。

「そっか解ったよ。でも妖精達の手を汚さなくても人間界は今後変わるよ。 
その事を長老達に説明し中止するように説得しようか?
ミルキーに長老会を開いてもらって、その場で説明しよう」

ミルキーはその事を伝えに戻った。 

「ねえ京子、二つの石でどのくらいの精霊を未来にトリップ出来ると思う?」 

「精霊は人間じゃないから結構多く運べるかもね。どうして?」

「多くの精霊に地球の近未来を視せたいのさ。人間は黙ってても二つの
世界に別れて、新しい世界で人間と妖精さんは一緒に暮らせるって教えたいのさ」 

「なるほどね」 

ミルキーが戻ってきた。

「明後日が満月の夜だからその日に決定の会議ですって。場所は白老のコタン
との事。でも人間は見学だけで口出し無用って言われたダニよ」

「まっ、参加出来るだけとりあえず良し」ケンタは笑みを浮かべた。


満月の夜ふたりは、ふたつの黒石を持って末席で長老達の話を聞いていた。 

長老のひとりが「それでは、ちょうどひと月後の夜に空部隊とダム部隊で、
同時進行と云う事でいいダニね」

「チョット待って下さい!」ケンタが末席で立ち上がった。 

「お前は人間だ!人間は意見するな!」強い口調でケンタは恫喝された。

「是非、話しを聞いて下さい」 

「意見無用ダニ」ケンタはふたりの妖精に手を押さえられた。 

今度は京子が「待って下さい。すぐに済みますから時間を下さい」

「駄目ダニ!」ふたりは強引に外へ連れ出さされた。 

中ではざわめく声が止まらない。

そのうち聞き慣れた声がした?ざわめきがやんだ。
 
静寂の中でミルキーの必死さが伝わる叫びの声だった。 

「みなさん、待って下さい!あのふたりは私が札幌で一年間お世話に
なったふたりなんです。決して皆さんの思うような人間ではありません。
どうぞふたりの話を聞いてやって下さい。お願いしますダニ」 

「お前は人間のスパイか?」

「違います。ただ話を聞いて欲しいだけダニ。なんにも要求しません。 
ただ聞いて欲しいそれだけダニ!」 

ミルキーは悲痛な声で訴えた。 

ある長老が「事が済むまで三人ともひと月の間、監禁だ!」 

「そうだ、そうだ!」三人は真っ暗闇の中、別々の部屋に監禁された。

「なに、この空間は?トリップが効かない。全ての能力が封印されたみたいよ。
ケンタとコンタクトも出来ないじゃん」

ケンタは秘策を考えていた。

ここに来る事は我々三人しか知らないから心配する人間もいないって事か。
ましてこの空間は封印された空間か・・?

ミルキーは「長老達は解ってないの・・・本当の仕組みを・・・
あの二人には申し訳ないことをしてしまったダニ。アポイの神どうか・・・」

次の日の早朝、三部屋のドアが開いた「長老がお呼びだ」と声がした。 

三人は昨日の部屋へ通された。 

「解ったと思うがあの部屋は封印された部屋だ。なんの力も使えまい。 
どうだ、我々はお前達と争うつもりは毛頭無い。よっておとなしく引き下がる
なら解放しよう。さもなくば一ヶ月監禁する。
人間の肉体は水・食料が無ければ維持出来まい。置いてきた肉体はひと月
持たないダニ。どうするダニ?」
 
ケンタは京子に意識を飛ばした。

「京子とミルキーはおとなしく引き下がって欲しい。
そして京子は自分の身体に戻り、僕の身体にも入って、たまに食事を
させて肉体の維持を頼みたい。京子なら出来るはず。頼む」 

京子に通じた。

「わかった・・・私と彼女は引揚げます」 

「京子さん・・・」ミルキーは悲痛な顔で言った。 

「ミルキーは黙って・・・申し訳ありませんでした。今すぐ私を解放して下さい」

ふたりは無事解放されたが、ケンタは再び監禁された。 

札幌に戻った京子はケンタの肉体に水と食料を補給させ、そのままシリパの会へ向かった。

マチコママとサキがいた。 

「京子ちゃん久しぶりね」 

京子の顔を見てママは、あの時のことが脳裏によみがえった。 
そう、ケンタが沖縄で倒れたときと同じ顔をしていた。

「京子ちゃんケンタくんに何があった?」

京子は一部始終を説明した。 

「そう・・・で私や会は何をすればいい?何でも言ってちょうだい」 

京子もそこまでは考えていなかった。

ただママに話したかった。

聞いてほしかった。 

ママが察し「解った。一緒に最良の方法を考えようか」 

サキが「ママ、両事務所でトリップできる会員さんって何人いるんですか?」

「う~~ん、チョット待ってね・・・」

ママが電話した。

「あっそう、スタッフ入れて34名。ありがとう。こっちが28名で計62名ね」
 
京子が「ママ、私 新たな石を一つ持ってるわよ」 

ママが「総勢62名でどうする・・・?」 

サキが「人間62名がその集会に参加して、人間として説得するのはどうかしら?」

京子が「私達もそう思った。でも長老達は話しすら聞いてくれなかったのよ。
おまけに仲介で入ったミルキーも監禁されたの。問答無用なの」

沈黙が走った。

サキが「いきなり長老さん達に地球の近未来のビジョンを見せる方法無いかしら?
百聞は一見にしかずよ。あの光景を視たら話を聞くと思うけど・・」

ママが「チョット待ってサキちゃん、ミルキーとコンタクトしてここに呼んで欲しいの」

「ええ」サキは眼を閉じた。

「ハイ」ミルキーと繋がりました。 

「京子さん申し訳ないダニ、ミルキーのせいでこんなことに・・・」

京子が「なに言ってるのよ。ミルキーが教えてくれなかったら大惨事になってたわ。
今ならまだ防げるわよ。希望を棄てたら駄目」 

ママが「今、来てもらったのはミルキーさんの世界には、人間界でいう
映画のようなものかホームシアターみたいな、なにか想念を投影出来る
ような物ないかしら?
無くても工夫して作れないかしら?もしそれが可能なら近未来の映像を映し出すの。
そしたら明るい未来があることを解らせること出来るの。 

一度目を向けたら後は楽よ。興味を持ったら説得出来る可能性が充分あると
思うのね。ミルキーさんも何か考えてちょうだい・・・」

「映画はないダニね・・テレビとか映画は人間の世界独特ダニよ」 

サキが「何でもいいの。白い大きな幕を作りたいの」 

「どの位の大きさがいいダニ?」

「この窓4枚分ぐらい・・・どう?」 

「それなら出来るダニ」 

「あとこちらの世界は電気がない世界なのよね・・・」 

京子が「そこは念写しかないわね」

ママが「あとは映像をスクリーンに投影する方法よね。向こうの世界での
投影だから全てが想念写か。そんなパワー持ってないわね・・・」 

京子が「沖縄でケンタが倒れたときみんなから集めたエネルギーは大変な
パワーだったわ。その方法でひとりにパワーを集中させて集めたパワーを
集約して映像化するのはどう?

但しそのパワーは前回と違い未来の統一した映像でないと駄目なの。
バラバラだと映像にムラが出来て駄目なの。

だからみんな同じ未来のビジョンを同時に視ることが大事なのよ。 
そしてひとりに集中して未来から送るの。
受けた側は幕に映像を投影するのよ。どう?」 

ママが「さすが京子ちゃんね、それ完璧よ。その投影する役、私にさせて
ちょうだい。京子ちゃんはケンタくんの事があるから力が入って集中が
ブレる可能性があるわ。これはマチコの命令・・・いいわね!」

京子は深々と頭を下げ「ママ、これで二度目ね。ありがとうございます」


 ママが口を開いた。

「さっ!サキちゃん伝令を出してね。日時は追って連絡します。都合のいい人は
自分の都合の良い事務所に指定の30分前に集合で頼みますって」

指示は続く「私とサキちゃんはその村に一緒に行ってスタンバイね。
会のみんなから私に送られた映像を投射するけど、サキちゃんは石を
片手で持って、もう一方の手は私の手を握って投影させるためのパワーを送ってほしいの。

たぶんこの方法は多くのパワーが必要よ。頼むわね。 あと、こちらは
メメちゃんの指導でまとめてもらう。
ここは京子ちゃんは一応部外者だからメメとナベの指示に従ってね」

「はい!」 

日時は決定した。二日後の午後6時開始。

ママにはもう一仕事あった。 

長老達にその映像を見てもらう方法をミルキーとサキとママで考える事だった。

それが一番難解なこと。ミルキーは単純に「私が人間世界のお友達に教えて
もらって視てきた未来の世界を見せますって云うのはどう?」 

ママは「当たって砕けろ!それで行きましょうか?」

サキがミルキーに「ミルキーの世界の人たちは未来にトリップ出来ないの?」 

「そう言う能力ないダニ。コロポックルは今を楽しむ方向性だから
そんなに未来のこと興味湧かないダニよ。ミルキーは一度視てるから別だけどね」

当日の朝が来た。

ここはケンタの住まい。あれから一週間、ケンタの身体の維持をしていたが、
一週間でもだんだん痩せて来たので軽いジョギングもして肉体の維持をした。

今日はいよいよ交渉の日か、気を引き締めて行こう。
 
5時にママとサキは二風谷にいた。 

ミルキーは会議に先立って長老達に「私が人間世界に世話になってた時の
友人に地球の近未来世界を視せてもらったダニ。その映像が今日届くダニよ。
この地球の未来がどうなってるか皆さんに視てもらいたいダニ。お願いしますダニ」 

長老のひとりが「視るのはかまわないがそのふたりは誰ダニ?」 

ミルキーが「はい、この方達が未来の映像を実際にこの白い幕に出してくれる
マチコさんとサキさんダニ・・・」 

「今、紹介いただいた私がマチコでこの子がサキです。宜しくお願い致します」

ひとりの長老が「最近の人間は解らんからな。おかしな事やったら拘束するダニよ。
覚悟しておくダニ」

いきなりのプレッシャーだった。 

ママは「ハイ」と素直に返事をした。

ママは会に念を送った。数秒後にパワーが送られてきた。

「サキちゃんこのパワーをもっと増幅して映像に・・・」 

白幕に未来の光景が鮮やかに投影された。 

全ての精霊達が視入っていたが、少し過ぎた頃から少しずつざわめきが起こって来た。

そこにミルキーが駆けつけた。

「ここの住人には何の事か理解出来ていないダニ」 

ママは気が付いた「そっか、私達目線か・・説明が必要みたいね・・・
ミルキー悪いけど私達手が離せないから、京子ちゃんを至急ここに呼んできて
ちょうだい。お願い」

すぐに京子がやってきた。 

ママは「京子ちゃんお願い、画面の解説して。この精霊達は意味が解らないの」 

「わかった!」京子がビジョンを視ながら説明を始めた。

だんだんざわめきが消え精霊達は目を丸くしてビジョンに釘付けとなった。 

京子節を交えながら30分が過ぎた。

会場は最初とまるで違う雰囲気になっていた。 

その時、長老のひとりが「この女は悪魔だ。惑わされるなよ皆の衆。
こいつは一週間前に収監された女ダニ。お前は何の企みでここにいる?」

全ての集中が途切れた。そしてビジョンも消えた。

「はい、私は確かに一週間前、収監された女です。主人も収監されたままです。 
でも、私は納得がいかずこのような手段を考えました。 

もし私の云うことが嘘だと云うならその時は私を一生収監して下さい。そのうち
別世界の肉体も死ぬでしょうけど、死を覚悟でこの場にこさせてもらいました」 

ある長老が「のう、話を聞いてからでも遅くないダニ。この者は本当に死を
覚悟でここにおるダニ」 

「そうじゃのう・・・聞くだけならかまわんかものう」 

ひとりの長老が「じゃあ、多数決で今の意見に賛成な者は?」 

半数を超えた。

「それでは手短に話すダニ」

「皆さんありがとうございます。今のは未来の片側の世界です。 
実はもう片側が存在します。どうぞご覧下さい」 

「ミルキー、シリパの会に飛んで反対の世界の映像を送るように頼むわ。行って!」 

京子はママの顔を見た。

ママも用意が出来てるようだった。

サキちゃんもうなずいた。

ビジョンが再開された。

そこは札幌の大通り公園、薄暗い空と重たい空気感が漂う世界だった。

目を見開いた男が弱者を棒のような者で叩き、何やら汚い言葉を吐いている。
 
警察官は笑って見ている。そこは修羅場の世界だった。
 
視線を下に向けたコロポックルも多くいた。 

京子がママを制止させた。 

「どうでしょうか?これも近未来の世界です。今視たのは札幌市です。
私の住む未来の様子です。先ほどのも私の住む未来の世界です。
このように世界は完全に二つに分かれる運命を辿ります。 

ですから皆さんが手を汚すことなく自然に、世界はこのように変わります。

今、皆さんが動いたら、もうひとつの明るい世界が無くなる可能性があるんです。 
正直皆さんにそのような権限は神から与えられておりません。 

今一度考え直して下さい。

今この場で、私と収監されている主人をどうするかお決め下さい。
考えたうえで主人を投獄するなら私も一緒に監禁して下さい・・・」

そこにミルキーが現れた。

「長老の皆さん、解ってやって下さいダニ。彼女達に大それた望みはありません。 
ただ、平和な世の中と笑顔のある生活だけが望みです。

我々妖精も調和が目的のはず。調和の形が今皆さんのやろうとしてることですか?
わたし・・・なんか違うような気がします・・・教えて下さい?」

ママが「私は人間です。自然破壊や動物の迫害、全部人間がやった事です。
今更言い訳しません。でも人間の世界はあなた方が言う悪い人間ばかりでは
ありません。今回あなた方に考え直してほしく集まった数は80人です。 

みんな私の住む札幌から先ほどのビジョンを見せるために、映像にあった
別の未来世界に行って、ここにビジョンを送ってくれました。
どうか、もう一度考え直して下さい。お願いします」 

話しているママの後ろに62名の仲間がいつのまにか立っていた。

全員が長老達に向かって頭を垂れた。

両者の間に長い沈黙が走った。 

だんだんと長老達の険しい顔が柔和な顔に変わった。 

ほどなくしてケンタも京子の横に立っていた。

それは人間と妖精の和解であった。 

その後、シリパの会では妖精の世界との交流が始まった。

親善大使はミルキーとサキであった。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-10

10、天照大御神

 二人がシリパの会を脱会して3日。とりあえず脱会したがその先の事は
全てが未定だった。 

「ねえケンタ、どういう形態取ればいいと思う?」 

「僕も解らないから、とりあえず寝る前に今の地球を透視したんだ。
そしたら青いはずの地球が黒に近いグレーなんだよ。

こりゃ重傷だと実感したんだ。と同時に丸山公園が浮かんだんだ。
とりあえず丸山でも行って高いところから街を眺めてみるよ、どう・・・?」

「そっしようか・・・」

二人は円山公園に来た。

京子が「この公園久々だね。札幌の街もちょっと見ぬまに高い建物が多くなったのね」 

突然ケンタが「シッ!」と京子の言葉を制止させた。

ケンタにメッセージが来たようだ。その場に黙って立っていた。 

「何言ってきたの?」京子が聞いた。 

「狸小路って・・・何だろ?」


その日の夜、二人は大通公園から狸小路に向かって歩いていた。 

「???ねえケンタ。さっきから後ろに気配を感じるのよ。どう?」

「うん、僕も同じさ・・・これ生身の人間じゃない。一回止まろうか?」

止まった瞬間、二人は後ろを振り向いた。 

京子は気を失ったように倒れ込んだ。

ケンタは状況判断ができていなかった。

「京子!京子!京子!」顔をさすったり背中をさすったりと意識の回復をまった。 

やがて京子は意識が戻りケンタの顔を見ながら「あのね、あれと目があった
瞬間、私の中にいきなり入ってきて気が遠くなったのよ。 

気が付いたら私、月にいたのよ。そこで色んな宇宙人が一斉に語りかけてくるの。
それが全部、何を言ってるか解るのね。 

要約すると各場所の封印を解いて残り二つの黒石を探せっていう事なの。 

だから、石のある場所を教えてって言ったら、

出来ないって言うのよね。私もつい、じゃあ偉そうに言うな。
バカ野郎!って言ってやったわよ。腹立つわ!まったく」

「京子ちゃんホントにバカ野郎って言ったの?」 

「本当よ。駄目だった・・・?」 

「いや・・・ じゃあ明日から石探しするかい?」 

「その前にみんなの所寄って行こうよ。チョットだけでいいからさ」   

「姉さん、久しぶりです。」 

「おう、元気でやってるのかい?また家出少女連れ込んでないだろうね」 

「シリパ姉さんは会えば必ずそれだよ。もうやってませんから」 

「そうかい、真面目になったかい?」 

「そうでもないけど」 

「バカ野郎、じゃあまたなっ」 

ケンタが「なんか京子ちゃんは水を得た魚のようだね。いつもこんな会話なの?」

「そう」

今度は向こうから厄介そうな男が二人歩いてきた。 

京子が「おう、ミノルとエイジ、久しぶりだね。何年ぶりだよ?相変らず二人かい?
あんたらも出世しないね。元気にしてた? こちら私の旦那でケンタ」

エイジが言った「結婚したんか・・・よろしく」 

「この二人はミノルとエイジ。いつも二人なの。ホモなんだ」

「ばっかやろう相変らずだな、シリパも。この人が旦那さんかい?・・俺、
ミノルっていう極道者なんだ。宜しく・・・。シリパには世話になってます」

続けてエイジが「だ、だ、だ、旦那さんも大変なのと一緒になったねえ。
ま、ま、ま、まっ、シリパの面倒みてやって下さいや」

「ミノル、エイジ。お前達、言ってることがヤクザっぽいよ!
ウザイからとっとと消えなよ・・・」 

「ガハハハ・・そっか。じゃあな、シリパおめでとうさん」

「ハイヨ!」

ケンタの知らない京子の顔を垣間見た。複雑な思いがした。 

「ここに何年座ったかな?色々と楽しかったよ。ここに集まる人間は
正直でいいよ。不器用だけど一生懸命がいいね」

京子は自分の言葉を心に噛みしめていた。翌日からふたりは石探しを始めた。 

「ねえケンタさあ、やっぱり神社かな?会の石は奉納されてる石でなく、
社務所の後ろに落ちたって言ったよね・・・」 

「僕は氏神様のような小さな祠かなんかの感じがするんだけど・・・」

「神社や祠なんてそこらじゅうにあるよ。どうやって探すのさ?」 

「いや、必ず切っ掛けがあるはずだよ・・・」

ケンタはふとミルキーの事を思い出した。

「京子ちゃんそうだよ!ミルキーがいた!二風谷の赤石だよ!」 

「あっ、そうだ!赤石と黒石も共鳴し合うのよね。その手があったわね。
ミルキーとコンタクト取るわ」

ここは二風谷。京子はミルキーに念を送り気配を読んだ。

「あっ!京子さん久しぶりダニ。来てくれたダニ?・・・うれしいダニ」

「ミルキー突然ごめんね」 

「ぜんぜんかまいません。尋ねてくれてありがとうダニ」

「実はね・・・・」と経緯を話した。 

「そうですか。たぶん二日あれば探せると思うダニ。但し、封印が
掛かってたら感知出来ない可能性もあるダニよ。
あんまり期待しないで待って下さいダニ」 

「ミルキーありがとう。恩に着るよ」

しばらくしてミルキーの気配があった。 

「おや?ミルキー、ありがとうね。で、どうだった?」

「京子さん、やっぱりひとつは封印してあるみたいダニ。
もうひとつは余市の隣町で仁木の神社の小さいお堂の辺りみたいダニ」 

「へ~~!そこまで解るのかい?凄いよミルキーは!」

「シリパの会のおかげで力がついたみたいダニ」 

「そっかい。良かったね。ありがとう。ついでにシリパの会に寄ってったら?
 サキちゃんもスタッフとしていつもいるよ」 

「はい寄ってくダニ」

ふたりは仁木神社に向かった。 

「ここか、お堂があったよ。まず参拝しようか?」二礼三拝した。 

突然ケンタの様子が変だった。 

「ケンタどうしたのよ?」 

「ごめん。上半身が痺れて死ぬかと思うような衝撃だったよ」 

「へ~~!」ふたりはお堂の周りを探した。

「あった・・・!」京子が見つけた。 

「これだよね。ケンタ触ってみてよ」   

ケンタは石を握った。

次の瞬間また電気が走り異空間を移動していた。

ケンタが視たのは大正時代の仁木だった。

数人の村人らしき人と神主さんがこのお堂に祝詞をあげていた。 

この神社のご神体に魂入れをしてるようだった。

天地を貫く紫色の光が視える。

天照大御神とガイドが教えてくれた。

ケンタは戻った。

「この石で間違いない。久々に石でトリップしたよ。同じ感触だった」
 
ふたりは寄り道せずに札幌に帰った。部屋に戻って石を綺麗に洗い
太陽光を浴びせた。

「ねえケンタさあ、この仕事も使命感があっていいけどさ、
もう米びつの底が見えてるよ。また、狸小路にでも座るかい?」

「僕も一緒に座ろうかな・・・?」

「イヤだよ。ふたりでなんか」

「違うよ。僕は僕で絵とか詩を描いて、やり方を変えた占い師ってどう?」

「面白い」

ふたりは夜、狸小路に座ることになった。

「言い掛かり付ける奴がいたら私にいいなよ。それと、ここじゃアタシは
シリパで通してるから呼ぶとき気をつけてね。じゃあ・・宜しく!新米さん」

「僕はKENでいくよ。シリパ先輩宜しくお願いします」 

「おう任せな新入のKEN。但し、売上の30%は私に上納しなよ新米さん」 

ケンタは久々にガッペむかついた。

KENは占い相談に来てくれた客にガイドからのメッセージをひと言、
書にして添え営業した。

途中シリパは何度も冷やかしに顔を出した。

平日はふたりで売上が一万円。帰りは早くても12時近かった。 

それから、もうひとつの石の捜索方法をふたりで話し合うのが日課になった。

「砂の中からダイヤを探すようで滅入ってきそうだよ。ケンタはどう?」 

「うん。さすが手掛かりが無いのは滅入るよ」

ある朝、ケンタは夢を視た。

『大切な山は神河の東』

??ケンタは解らなかった。京子に聞いても無理だった。 

半分諦めかけていた。ふた月ほど経ったある日、客のひとりと話してると

「僕の出身は上川町です」と言った。 

KENは首を傾げた。

「上川?それってどの辺でしたっけ?」

「大雪山の下、層雲峡と旭川の間です」

KENはピンときた。

「あっ!」 

「どうかしましか?」客は何のことか解らなかった。 

「あのう、神河ってありますか?」 

「神河って聞いたことあります。東川町の方じゃないですか?」

さっそくケンタと京子はネットで調べ、飛んだ、大雪山の東上川とふたりは仮定した。

そこは東川神社だった。

仁木神社と同じくらいの御堂があった。

ケンタは石を取り出し注意深く様子を観察した。

なんの反応もない。本殿に向かった。ここも天照大御神とあった。 

京子も「なんの変化もないわね・・・ここじゃあないのよ。
ケンタ、せっかくだけど帰ろう・・・」

「・・・そうしようか」 

ふたりが車に乗り、来た道を戻ろうとした瞬間、道路にリスがいて
進行を妨害した。 

とっさに京子が「待って!」と声をあげた。 

「どうかした?」 

「やっぱりここよ。りすが帰るなって進路妨害したの。
もう少し気配を感じてみようよ」

「了解」ふたりは車内で瞑想した。 

ケンタが目を開けた『木の下』ふたりは車から降り意識を集中した。 

一時間ほど経過した時、さっきのリスがいた。京子はそのリスに
導かれたかのように近寄った。 

「ケンタ」京子の声がした。 

「あったのかい?」

大きな木の根元に黒い小さい石があった。

ケンタが「二つの石が同調してる。これだね間違いないよ」

「よかった。リスさん導きありがとうね。これで三位一体よ」

それからふたりは車中泊しながら各寺社の封印と解いて廻った。

ひととおり北海道を廻ったふたりは久し振りに自宅でゆっくり休息をとった。

京子が「なんか独特の達成感があるね。廻って初めて解ったけど天照大御神って
多いのね。それって分霊って言うのかな。あとお寺は一軒も無いのね」 

「お寺は人間が造ったもので、今の役場の住民課的な役目が事の始めだから、
本来の信仰の形態と違うのかもね。だから神社周りが主体だったかもね」

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-9

9、旅立ち

ケンタと京子は二人揃って余市町に帰郷した。 

「ねえケンタ、のどかね・・・やっぱり田舎はいいね・・・」 

「山・川・海。余市町は三拍子揃ったいい所だよ・・将来は余市町かな?」
運転しながらケンタは呟いた。

トンネルを潜り余市に入ってすぐ右手の海の方に巨大なUFOが浮かんでいた。 
一辺が200m以以ありそうな三角形のUFOだ。二人はしばらく見入った。 

ケンタが「こんな田舎に何の用事だろうね?」 

「それにしても見事ね。他は誰も気付いてないみたいよ。見てないもの」

「そっか僕達だけか・・・」

「もしかして私達になんか用事があるわけ?」 

ケンタは京子と金星の一件を思い出した。

ケンタの実家に着いた二人はその事には触れないでいた。

夕食を済ませ、ろ酔いの二人はUFOの事を語り始めた。 

ケンタが「何だろうね?あれは母船だよ。余市に地震か何か起こるのかなあ?
東北の地震の時もその前後はUFOだらけだったから」

「二人でUFOに繋がってみようか?」

「さすが京子ちゃん、物怖じしないね」 

「よし!コンタクト取ろう」 

二人は手を繋いで瞑想に入り、体外離脱して二人はUFOに乗り込んだ。

ケンタが「うわっ!広いね・・・こりゃ案内がいるね・・・
誰かとコンタクト取ろうか・・・?いいかいやるよ」

次の瞬間別の空間に二人は移動していた。目の前には霧状の光った意識体が二つあった。 

ケンタがコンタクトを開始した。 

「私はこの町に縁のある者。何かこの町に用事でもあるんですか?」 

意識体は「驚かしてすまない。あなた達に用事があって此処に来ました」 

「?・・・僕たちに??な・何でしょうか?」

「我々の仲間は世界中に網羅して、あなた達のような方とコンタクトを勧めてきました。
今回もその一環です。あなた達二人だけで出かけるのを待っていました」 

京子が「あんた達はストーカーか?おい」宇宙人を恫喝した。 

「話を聞いて下さい。これは人類の未来にも関わるる話なんです。 
今の地球は夜明け前の一番暗い苦しい時期です。お二人も既にご承知のとおりです。 

この地球は今後二つの道に分かれて進む事に決定してます。それもご存じのはず。 

それで、新生地球の為の先駆者をひとりでも多く増やしてほしい。
いわば新人類の育成・・・」 

「で?」 

「今のシリパの会を閉鎖するか、お二人には脱会してもらいたい」 

「どうしてよ?」 

「今の会は正直、神秘主義の会で趣旨が違います。いまのメンバーは能力を
付けたい人の集団で自分の欲求を満たす為に存続してる会です。 

残念ながらこれからの地球は実践的でなければならないのです。 
今の会を軌道修正するには時間が掛かります。 

それなら閉会するか新しく趣旨の違う会を結成するかしか。 
二人にはよく考えていただきたい。 

地球は両極の氷が溶け始めています。するとその多くの水が増えて重力
バランスが変わります。今のバランスが変わりより球体に近くなります。 
そうなると極の移動も否めません。

地震や火山活動が増えます。結果、人類に多大な悪影響を及ぼします。 
決して遠い未来でなく、すぐそこまで来てます。

そうなった場合地球の人口は大きく減るのです。 

その事はハッキリ言って阻止できません。だから一人でも多くの人間を
アセンションさせる手助けが必要となります。 

それには今の体制では無理なのです。今ある習慣を変えなくては新しい
地球に移行できません。

古い体制の地球、つまり今の地球にしか住めなくなります。
今後、時間が消滅した世界では思ったことがすぐ形になります。

つまりもう一つの取り残された世界は修羅場となります。
これは間違いなくそうなります。 

何故なら宇宙ではそうなった星が多くあるからです。実証済みです。 

話が長くなってすみません。早い話が二つに分離される地球の片方の
新地球へ多くの魂を移行させるお手伝いをしませんか?と言う提案です。 

我々地球外の魂はこの事に直接関与できません。だからこういう形を取って
いるのです。お判り頂けましたか?」 

ケンタは「大方の見当はついておりました。ですが今、急にシリパの会の
解散・離脱といいますが我々にも準備が必要です。
返答の余地は無いと思いますがいつ頃までに返答したらいいのですか?」

「すぐです。もう既にあなた達はその事を決めて生まれてきてます。 
あとは実行のみです。すでに奥様の心は決定しています。奥様、頑張りましょう」 

ケンタは京子の顔を覗いた。 

京子はケンタの顔を見て黙ってうなずいていた。 

ケンタは「・・・・・解りました。札幌に帰ったら早速、行動に移します。
今後とも我々二人を導いて下さい。お願いいたします」

二人の意識は戻ってきた。 

京子が口を開いた「さっ、つべこべ言ってる暇無いよ。帰ったら5人集合して
伝えましょ。その前に私達の意向を確認しましょう。ケンタはどうしたいの?」 

「僕は二人が抜けて、あとは三人に任せたいと思う。それでもう一人スタッフを
増やそうと思う」 

「それ賛成よ。スタッフにいい子がいるのよ。サキちゃんって子なんだけど、
ミルキーさんが来たとき面倒をみてたの。本質をついた見方が出来るのよ。 

彼女なら素質ある。そして考えたんだけど、置土産に石を置いていくのはどう?
もともとケンタの石だから・・・これは私の意見だけど・・・」 

「うん、僕もそう考えていた・・・」 

「じゃ、決定だね。早速、集合かけるよ」 

「うん頼む」

二人は余市の空を眺めた。澄んだ空に星が綺麗に輝いていた。 

「こんな運命になろうとは子供の頃思いもしなかったわよ」 

「僕もさ」


 居酒屋リンちゃんに5人集合し、余市であった事を包み隠さず説明した。 

京子が「そういうわけで、二人は脱会させてください。
今後私たちはどんな活動になるかまったく決まってないけど。

決まったら連絡する。あと、スタッフをひとり育ててあるのね。
みんなの意見を聞いてからと思って今日は連れてきてないけど素質あるの。

妖精のミルキーの面倒をみてくれていたサキちゃんなんだけど、みんなの力になるわよ。

それとシリパの会に置みやげがあるの。この石使ってください。
ケンタと私から皆へのお礼なの・・・本当に勝手言ってすみません・・・」

ケンタと京子は深々と頭を下げた。 

ママが「事情は解った。二人の決意は固いようだから反対は出来ない。 
でも、これだけは云わせてちょうだい。 

この会は、この場所で三人で発足したの。ここが船出の場所。
ケンタくんと京子ちゃんががいなかったらこの会は存在しなかった。
私はそれを忘れない。

石は単なる切っ掛けで、この会に命を与えてくれたのはケンタくんなの。 
だから何かあったらこの会はいつでも応援します。 

いや、もし会が応援しなくても私は全てを投げ打ってでも二人を応援する。 

平凡な飲み屋のママで終わるはずの人生が、こんな充実した人生に
なったんだもの・・・困ったらいつでも言ってちょうだい」 

ママは言葉に詰まり下を向いた。 

メメが口を開いた「私もママと同じです。応援させて下さい。 
私も平凡なOLでした。京子さんに出会って人間として育ててもらいました。 

今は指導する立場にまで育ててもらいました。このご恩は忘れません。 
お二人のお手伝い出来る日が必ず来ると思っています。 

その時は無条件でお手伝いさせてもらいます。私からの最大級のお礼を
言わせて下さい。ケンタさん京子さん、どうもありがとうございました・・・」 

マチコママが「今日も貸し切りで飲み食べ放題やっちゃいます。 
二人の旅立ちに乾杯!」

みんな笑顔で泣いていた。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-8

8,ミルキーの別れ

ミルキーがシリパの会を訪れてから約一年が過ぎた。

シリパの会でもすっかり人気者でミルキー目当てに来る会員もいるが、
ただ普通に好奇心だけではミルキーは見えないので自分の波動を上げる
必要があった。 

最初の切っ掛けはミルキーへの好奇心であっても、そのうち自分の
固定概念が邪魔になっていることに気付き始め会のプロセスに沿って
実行するようになり意識が変わる者も多くいた。

会員のひとりが「ミルキーさんって結婚とかしないの?」 

「私はシャーマンだからしなくてもいいダニ。でも、今後は解らないダニ」

「好きな人いないの?」

「旭川のコタンにひとりいるダニ・・・ダニ。 

私達の結婚は人間の世界のと違うダニよ。

私達は魂の結合を意味するの。だから結婚すると二つの魂が一つに重なり
合って新しい一つの存在になるダニ。それが私達の結婚の意味ダニ」 

「なんかステキですね。ありがとうございます」

このような形でミルキーはいつも質問攻めであった。

そんなある日ミルキーが京子の所に来た。 

「京子さん、そろそろミルキーは二風谷に戻る時期が来たみたいダニ。
これからは本格的に北海道の自然界の浄めの旅に出なさいと長老さんに
指示されたダニ」 

「ここを拠点に出来ないのかい?」

「二風谷には特別な場所があって浄めの旅で、下がってきた波動を調整して
くれる場所があるダニね。だから二風谷を拠点にするのが都合が良いダニ」 

「そうかい。こっちの都合ばかり云えないよね。じゃ、みんな集めてミルキーの
送別会しようかね。」

「京子さん、ミルキーはこのまま二風谷へ帰ります。シリパの会の皆さんに
会うと別れが辛くなる・・・ダニ」

「そうかい、またおいでよ。いつでもあんたは大歓迎さ。楽しい日々を一緒に
過ごさせてもらったわ。ありがとうございます。立派なシャーマンになってね」

京子の目から涙が溢れてきた。

ミルキーは手を振りながらゆっくりと消えていった。

メメちゃんちょっと来て京子が云った。

「実は今朝ミルキーがきて・・・」事の次第を話した。 

「だから会員さんにミルキーからくれぐれも宜しくと伝えてね」

「そうですか。解りました。皆さん残念がるわね・・・私も寂しいです」

ミルキーとの別れから数ヶ月が過ぎ、ミルキーの事を語る人も少なくなった。
そしていつもの日々が流れた。
 
ママが呟いた「あ~あ、こんな空白の時間にはミルキーちゃん最高よね。
色んな話題提供してくれたわね。特に動物の意識とか自然の摂理の話し
なんて楽しかったわ」 

メメも「そうですね。今まで人間サイドだけの考えで、とくに動物学者さん
なんて語ってたけど実際にミルキーさんの話しと大きく違うところ多かったわね。
勉強になったわ」 

「そう、動物はオーラを視て感じてるなんて絶対に学者さんなんて
解らないわよね・・・」

「今頃お浄めの旅で、あっちこっち飛び回ってるのかしらね」

二人は宙を見つめていた。

「ごめんください」訪問者があった。 

「ハイ」メメが応対した。 

「あの~~う。私はオイマツと申しますがこちらにミルキーさんという
妖精さんが居ると聞いて来たんですけど・・・」 

「ミルキーとは非物質の存在でして、誰でも視えると云うものではありません。
それに今は日高に帰郷しましたが何かありましたか?」

「そうですか。実は私の家の納戸に小人さんが数人住んでるみたいなんです。
私は見えないですけど気配と話し声を感じるんですね。 
それでこちらにもそういう方がいると聞いたのでお邪魔しました」

「そうですか。それでミルキーさんにご相談というのは?」 

「はい。何故、我が家なのか?何か要求ごとがあるのか通訳って云うんですか?
その子達の声を聞いて欲しいと思って訪問させていただいた次第なんです」

「そうですか。チョット待って下さい」メメはママの顔を見た。 

ママが「今言った事情でミルキーは日高に帰郷したんですよね。もし良かったら
私で良ければ、その小人さんに話し聞いてみましょうか?」 

「えっ、お願い出来るんですか?」 

「断言は出来ないですけど、試す価値はあると思います。わたしミルキーという
妖精とコンタクト取れてましたから試す価値はあります」

「はい。ではお願いします」 

「それでは深呼吸を三回して私の手を取ってその情景を心に思い浮かべて下さい」

「ここでですか??」

ママが「あの世界は時間や距離がないんです。いつも今なんですね」

オイマツはママの手を取って思い浮かべた。

ママはその納戸に飛んだ。するとそこには6人の妖精がいた。 

「こんにちわ、私はマチコといいます。この家の方があなた達が何の
目的でこの納戸にいるのか教えてほしいと私の所に相談に来たんです。

それで私がここに来ました。事情を聞かせてもらえませんか?」

マチコママは単刀直入に聞いた。

「私達は白老町のコタンから来た妖精ダニ。ここの子供さんにレイトくん
という私達の知り合いがいるんですけど、ここに生まれる前は私達の仲間
だったダニ。今度は人間として生まれるから、生まれた時には是非遊びに
来てねって言われました。

明日がレイトくんが誕生して三年目なんです。それが過ぎると私達の意識が
伝わりずらくなるので最後の誕生祝いの儀式を何日間かやってました。

それも明日で終了です。驚かして申し訳ありませんダニ。明日になったら帰ります」

ママは戻ってきた「オイマツさん、もう少し私に時間くれますか?」 

「ハイ、かまいませんけど」再びママはオイマツの手を握り集中した。
 
そこは白老のコタン「オイマツさんここは白老にあるアイヌのコタンです。
この集落の湖の奥まった所を意識してくれますか?」 

「はい、小さな人たち数人が花から蜜のようなもの?を集めてます」 

「あの人達はここの妖精達です。そこにオイマツさんの知ってる人がいますか?」 

「あの黒い毛皮のベストを着た妖精さんってたぶん、私・・?見覚えあります」

「よく思い出してください・・・」

「たぶん私です。その横にいる髭の人が主人です」

「そうですか。そのご主人が今のあなたの息子さんのレイトくんなんですよ」 

ふたりは戻りマチコママが「いまのビジョンで息子さんとの縁が解りましたか?」 

「はい、夫婦でした・・・」

「それは大いにあり得る事です。不思議でも何でもありません。お宅の納戸に
いる妖精達はレイトくん誕生の祝いの儀式を数日掛けてしていたようですね。 
レイト君が生まれる前の彼らとの約束みたいですっよ。
明日には終って帰るみたいです。ご迷惑掛けたこと詫びてました」

「そうでしたか・・・ありがとうございました」 

狐につままれたように半信半疑でオイマツは帰っていった。

「ちょっとサービスし過ぎたかしら?聞くよりも視た方が早いと思って
サービスしちゃったわよ。余計な知識がない人の方がトリップするの楽ね。 
それと妖精も人間に転生するんだと解ったわよ」

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-7


7、同窓会

12月の中頃、シリパの会に珍しい訪問者二人が顔を出した。
ケイスケと蛯子であった。

「こんにちは」ナベが出た。

「あっはい!いらっしゃいませ」 

「蛯子と申しますが、京子ちゃんおりますか?」奥から声がした。 

「蛯子かい?」 

「そうで~~す、蛯子です」

「ナベさん、今、留守って言って、帰えってもらって・・・」

聞いていた会の全員が笑った。

奥から京子が出てきた。

「なに?詐欺師蛯子、あんたが来ると良いことないからね」

「京子ちゃん相変わらずだな・・・もう時効だよ・・・」 

「何、蛯子その馴れ馴れしい態度は・・・・で、二人揃ってどうかしたの?」

ケイスケが「今度、札幌のホテルで中学校の同窓会を予定してるんだ」 

「良かったじゃない。それで?」 

「それで、京子ちゃんに幹事やってほしいんだ」 

「良いよ。但し仕事優先だからね。それでいいならここに出欠の
ハガキ集まるようにしておいてよ。あとは誰が幹事なの?」

「僕達二人とハマさんの4人」

「ハマさんか・・・懐かしいね。今、何してるのさ?」 

「結婚して小樽で美装屋さんで働いてるって」 

「そっか・・・うん、了解したよ」 


 同窓会がジャスマックプラザで開催された。総勢85名の会だった。 

ケンタと京子は雛壇に立たされ結婚を全員に祝福された。

「ありがとうございます」ケンタがお礼を言った。 

その横では京子が目を険しくして一点を視ていた。 

ケンタが「・・・どうかした?」と言いながら寄ってきた。

「ケンタ、あのマサコの左横視て」

ケンタにはすぐ意味が解った。

「あいつ確か・・・」

「そう、B組のケンジよ、間違いないわ」 

「あいつ3年前に車の事故で死んだはず・・・どうしたんだろ?

・・・いいから、ほっておこう」 

京子は渋い顔で「うん解った」

ハルミが京子の横に来た「京子ちゃんおめでとう」 

「ありがとう、近場で手を打ったわよ・・・」 

「ほんと、でもみんなはそうなるって思ってたわよ」 

「そうなんだ。ところで話し変わるけど、ハルミはB組よね。
死んだケンジとマサコって何かあったっけ?」 

「京子知らないの?あの二人結婚寸前だったらしいのよ。
それであの事故でしょ、一時はハルミ落ち込んでしまい自殺未遂までしたとか。
それ以上の詳しいこと知らないけど今日は久々に見たわよ」 

「フ~~ん」  

蛯子とケンタが近づいてきた。

「よっ京子ちゃん飲んでるかい?」 

「飲んでるわよ。詐欺師蛯子、今日はお疲れさん」 

「あんたもまともに挨拶出来るんじゃない」

「京子ちゃん、ケンタは?」ケイスケが聞いた。 

「ケンタ?知らないわよ。戻ったら何か伝えておく?」 

「いや、俺たちで探すよ」

京子はマサコの横にいるケンジがやはり気になった。

トイレにいた京子が戻ってきた。 

会場を見渡すと、なんとケンタがマサコと話しをしていた。 

その上からケンジがケンタを睨んでいた。 

ケンタ本人もその事を知っていた。 

京子が近寄った。 

ケンタが京子に向かって「ちょっとマサコちゃんと京子話してくれる?
僕トイレに行くから」

どういう訳かケンジもケンタのあとを着いていった。 

ケンタは声にならない声でケンジと話を始めた。

「なんで彼女に付きまとう?」 

「マサコは俺の嫁だ。俺が何しようがオメエに関係ねえ」 

「そうはいかない。マサコちゃん苦しんでるぞ。解放してやれよ」 

「オメエに関係ねえ」 

「ケンジは死んだんだ。マサコちゃんと住む世界が違うんだ。
冷静に思いだしてみろよ」

「おれはこうしてここにいる。それにしてもお前誰だ?うるせえ野郎だな」 

「俺はお前のこと知ってるぞ。ケンジって言うんだよ」 

「ケンジ?ケンジ?どっかで聞いたことある・・・?けど関係ねえ」

ケンタはポケットから石を出した。

石は急に光り始めた。

ケンジは何かを思い出したようにじっとしていた。 

そして突然柔和な顔になり自分のガイドと消えた。

ケンタに「ありがとう」と伝わってきた。 

ケンタが会場に戻ると京子とマサコがにこやかに話していた。 

京子が「お疲れさん。マサコのガイドから聞いたわ、お礼言われたわよ。
マサコも急に顔色が良くなったわ」

会場内では蛯子が酒を飲み過ぎたらしく鼻水を垂らし寝ていた。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-6

6,リョウゼン

 札幌は山から冷たい風が降りてくる季節になっていた。 

最近シリパの会は異色の新会員さんの話しが多くなされていた。 

その新人さんはリョウゼンといって、若干20才の青年。 

彼はサバン症候群で、一度見たものは忘れずにそのまま絵に描くことが出来た。
その類い希な才能は北海道内では有名でTVに作品が紹介されたりもしていた。 

ひょんなことからここに入会してきた。担当は京子だった。 

「リョウゼンくん、私と一緒に200年前の日本に行ってみない?
どうせなら京都なんてどう?」

「な、なんで?なんで?」 

「200年前の京都はリョウゼンくんの描きたい物が沢山あるような気がするのよ」 

「はいはい、行きましょう」

「ハイは一回でいいの。じゃあ深呼吸を3回してから私の手を握ってね。
目を閉じて・・・リョウゼンくん行くよ!」

ここは200年前の京都の四条大宮だった。

「ここから四条通りを八坂神社に向かってゆっくり移動しようね」 

「はい」 

「リョウゼンくんどう?描いてみたいもの沢山ないですか?」 

「京子ちゃんここの街とっても良いだすね!ゆっくり移動して下さい」 

「リョウゼンくんチョットまって。君、なんか変わった?」 

「実は違う世界に来ると感覚がみんなと同じくなるんですね。
何回トリップしてもこの感覚なんです」

「なるほどね!私たちのいる世界だけがリョウゼンくんの表現が普通と
違うのね。なぜかな?・・・面白い」

京子は続けた「リョウゼンくん何でだと思う?」 

「解らないです。僕のもっと深い部分に何かあるのかも知れません」

「リョウゼンくん、ここが四条河原町よ。昔は呉服屋さんと旅籠が多いのね。
そば屋もあるし時代劇と似てるね。四条大橋の手前左が先斗町で橋を越えて
右が祇園で正面が八坂神社よ。清水寺に行ってみようか?」 

現代とは先斗町も祇園も全然違う。二人は三年坂を通って清水寺に着いた。 

京子が「全てが全然違う。全然観光化されてないよ。すごくシンプルね。
門前に数件茶店があるだけよ。リョウゼンくん、ここ絵になる?」 

「はい、清水の舞台は変わってないです。それと下に広がる町並みの
茶と黒のモノトーンはそれなりに面白いと思います」

「なるほど。絵のセンスは変わってないのね」

「せっかく京都に来たから他も観る?」

「比叡山」 

「じゃあ、手を握って」 

「さすがここはお坊さんばっかりね。天台宗か。大きいお寺ねこれが延暦寺か・・」 

「あのお坊さん、僕だよ・・・」 

「えっ?・・よく見ると目の辺りが似てるわね。何を話してるの?・・
大峯千日回峰行がどうしたって?私解らないわ。リョウゼンくん解る?」 

「解りますが説明が込み入って面倒くさいですよ。聞きますか?」 

「今度ゆっくり聞かせてね。で・・ももしかしてそれでリョウゼンっていう
名前なの?もしそうだとしたら君の親も凄いね」
 
ひととおり京都の街を見て回り二人は現代に戻ってきた。

京子の第一声が「面白い発見があったのよ。ナベ、今晩四人にマチコママの所に
招集掛けてもらえるかい?頼むね」

京子はミルキーと狸小路を歩いた。

「ここに座ってカウンセリングの商売を始めたのがこの仕事の
切っ掛けなのよ。メメともここで出会ったの。私達の原点よ」 

「京子さん久しぶりです」 

狸小路の仲間に「これ鯛焼き差入れ。みんなに配りな・・・はい」 

「この人達も古い仲間なの」京子は一瞬セキロウを思い出した。

居酒屋シリパで久々に5人が揃った。

「今日は急にすみません。実はリョウゼンくんという自閉症の会員さんが居るの。
彼はサバンなの、その事は問題じゃなく、実は二人で200年前の京都へ
一緒に飛んだのね。そしてリョウゼンくんと会話をしたの。 

ところが、なんか私の知ってるリョウゼンと違うのよ。 

なんと、普通に私と会話してるの! 

つまり別世界では障害が無いのよ。当然と言えば当然の事なんだけどね。

で、リョウゼンくんはこの世界だけの表現方法が自閉症だとしたら、
やり方次第では健常者と同じ表現出来ると思ったのね。

リョウゼンだけじゃないわよ。世の中に沢山いるの。

どう思う?やり方によっては潜在意識に働きかけるから
表立ってやらなくても可能性があると思うのね。

ただリョウゼンくんのようなサバンの子はその才能まで無くなってしまうか
どうかが課題なのよ。みんなどう思う?」

京子は一気に語った。

ケンタが「京子ちゃんの言わんとしてることは解る。でもこちら側の見解で
仮にそういう子が健常者になった場合、周りも変わらなくてはならない訳だよね。

もし絵の才能が無くなったら、ごく普通の子に変わるわけだよね。
そうなった時、こちらの対応とか・・」

ママが「う~~ん、確かに会は病院と違うからとっても難しいよね」 

メメが「京子さんの云うように自閉症は肉体的問題が無いから治ると思います。 
ただ、それを良しとする家族の場合はかまわないけど、今が良いと思ってる
家族もいると思うと正直考えちゃいます」

ママが言った「条件付きならどうかしらね?例えば自閉症が発覚してすぐとか、
つまり幼いうちって事よ。
あと、例えば40才くらいの大人の場合、いきなり健常者になったら世の中を
上手く渡っていけずに逆にストレスを感じると思うのね。

数十年分の世の中を健常者の目線で勉強しなきゃいけないから大変なことだと思うの。

それなら元のままが良かったと思ったって遅い気がするのね。どう思うナベちゃん?」

「僕はすぐに結論出せません。現にリョウゼンくんはうちの事務所の会員さんで、
よく知ってるけど会うたびに笑顔で楽しそうなんですよ。
この会が大好きみたいなんです。

彼を健常者にするっていう事は彼本人と周りが変わらなければ成立しないと思います」

「さすがナベちゃんね、それで?」 

「わかりません・・」皆こけた。 

京子が「そうよね。簡単に結論出せる問題じゃないよね。世の中自閉症と言う
障害があっても、すごい発明や発見をする科学者や物理学者がじっさい存在
するんだもの。チョット私、軽率だったかも・・・反省します」 

ママが「でも、リョウゼンくんのケースはとっても役に立ったわ。 
なんか人に言えないけど重要なこと学んだ気がするの。

いい勉強になりました。ありがとう京子ちゃん」

メメは「本当に可能性って無限ですね。ところでミルキーさんは今の
話しどうでしたか?」 

「ミルキーも勉強になったダニ。私達の世界には病気がないから考えた事
ないダニね。私たちは基本が動物と自然と調和に限定されてるダニ。
でも人間って面白いダニ。今度生まれる時は人間も良いかもねダニ」

みんな笑っていた。

ママが「京子ちゃん、それでリョウゼンくんのこと今後どうするの?」 

「親御さんに一度打診するわ。せっかくの可能性だからやり過ごすのも
どうかと思うのよ。結論はお任せね」

シリパの会の壁には数枚の絵が飾ってあった。

すべて京都の古い町並みであった。

リョウゼンくんの事は身内の希望で、今のままで良しとされた。 

だが、シリパの会には日の目を見ない極秘のプロセスが追加された。

やがてリョウゼンは日本画壇から「天才アーティスト」の称号を頂くことになる。  

当のリョウゼンはそんなことはお構いなしでシリパの会にいつもどおり顔を出し、
みんなと楽しいひと時を過していた。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-5

5、動物園

京子はミルキーに「あなた達は何人くらい居るの?」 

「二風谷で50人位7グループ。北海道全地域に生息していてここ札幌にもいるダニ」

「食事は?」

「木の芽や野草が主で海の民は海藻も食べるダニ。原則、肉系は食べないダニ。
寿命は基本好きなだけ生きられるダニ」 

「娯楽は?」

「笛・太鼓・踊り・童話ダニ」 

「結婚、出産は?」 

「結婚は別の集落に行ったり来たり。子供は夫婦で念ずれば次の日には出産するダニ」

「質問攻めで本当にごめんなさい。争い・戦争の類は?」 

「無いダニ。こちらの世界は自己利益追求で侵略し奪い合いの為に戦うダニ。
 私たちは調和と奉仕が全てという理念。奪いあう、と与え合う、の違いダニ」

「あなた達にとって神とは?」 

「自然を司るのが神ダニ」

「学校は?文字は言葉は誰が教えるの?」 

「全て無い。正確に言うと必要ないダニ。最初から知って生まれるから
誰も教えない。教わらないダニ」

「最後にあなたは誰?」 

「私はあなたで、あなたは私。それ以上でもそれ以下でもないダニ」

「ミルキーさんありがとうね。久しぶりに真剣に話したよ。
ミルキーさん達は素晴らしい世界に住んでるのね。勉強になりました。
ありがとうございます」 

「長い間私たちは人間界に知られず生きてきたダニ。
たまに里の人間に姿を見せたら、物の怪とか妖怪などと噂され続けて
生きてきたダニ。今、本当に分かち合えてうれしいダニ。 

もっとも、昔はお互い交流してたのに、いつしか伝説扱いにされたダニ。 
今回あなた達と解り合えたのが嬉しいダニよ。

村長に話したら喜ぶダニよ。たぶん200年振りとか言われそうダニ。 
京子さん、サキさんありがとうダニダニ」


 会員のショウタが宇宙人の話をしていた。

それを横で聞いていたミルキーはその会員に話しかけたが会員には視えずにいた。

それを見ていた京子は二人の通訳にはいった。 

「ショウタくん、ミルキーが話をしたいらしいのね。通訳する?」 

「はいお願いします。今どこに居るんですか?」 

「この花瓶の横にいるの。私はそのまま伝えるからね。ミルキーさんどうぞ」 

「宇宙人と私たちは交流してるよ。昔から地球に来てるけど地球人が宇宙人達を
認めるまでは干渉出来ない決まりがあるだって」 

「でもTVとかでよくやってるけど?」 

「あれは地球人が操作してるものと、実際の事が含まれてるんですって。
その場合、その地球人も了承してこの世に生まれてるんですって」

「何をしに地球に居るんですか?」
 
「あなたは蝉が木の幹で殻からもうすぐ出ようとしてるのを見たら、
出るまで見届けようと思いませんか?」

「思います」

「それと同じで、今地球が脱皮しようとしてるから宇宙人は見に来てるんだって。
脱皮したら宇宙人が実は沢山地球にいるのが解るはずだって」

「なんで視えないのですか?」

「まず、半霊半物質という事と動きが速すぎて今の地球人の目には映らないですって」

「ふ~~ん」 

「ショウタロウくんまだある?」 

「半霊半物質って何次元ですか?」

「4,5次元ですって」

「SFのような地球侵略ってあるんですか?」

「私の知る限り邪悪な宇宙人はいませんって」

「名前や性別はあるんですか?」 

「名前も性別も必要ありません。そこが超越した存在の宇宙人と人間との違いだって」 

「解りました」


「はい、ショウタくんもういいの?」 

「はい結構です。ありがとうございます」

「僕、ミルキーさんにお目に掛かりたかったよう」

「君の意識を変えれたらばっちりよ。制限を外してね。中程中程」

「え~~と、ミルキーさんは何かある?」

「ショウタくんは7という数字に縁があるから今後大切にしてねってそう言ってるよ」 

「ありがとうございます」

「ねえミルキーさん、明日なんだけど私に半日でいいから私に付き合わない?」 

「どこにダニ?」 

「円山動物園よ」 

「行くダニ」


京子とミルキーは動物園にやってきた。

「さあ、ここが動物園よ。動物の意識をいろいろ教えてね」 

「ダニダニ」

「ここが鳥、猛禽類ね。意識を視てほしいの」

「大ワシやオジロわしか。この意識はね、基本捕食だけど風を読むのが好きダニ。 

目に見えるのは小動物のオーラと同じ仲間のオーラ。

同類の雌と雄の違いはオーラで瞬時に見分けるダニ。

普段はのんびりした意識ダニ。お腹が空くとあの目が役に立つダニ。

でもカラスがよくバカにしてるダニよ。力は下でも意識は上ダニ」

「ねえ、カラスって世界中に生息してて悪賢いでしょ?何故なの?」 

「カラスの賢さは持って生まれた才能ダニ。生物の意識が形で視えるダニ。

そしてそれを認識してるダニ。だから死に逝く生物は目で判断出来るダニ。

だいたい当たってるダニ。鳥類の中では意識は上。 

私たちコロポックルに肉体があったら全員カラスにやられて絶滅してるダニ」

「草食動物はどう?」 

「ひたすら食べることを考えてるダニ。野心が無いから発展性もないダニ。
性格も穏やか・・・地を這う安定感ダニ。

動物園のライオン・虎・チーターなどの猛獣たちは意識的には草食に近いダニ。

ここの暮らしが長いからかな?野生の意識を外に向けなくても食べて
いけるからダニ」

「猿はどう?」 

「猿は・・・チンパンジーのオーラが人間に一番近いダニね。ミルキーも初めて、
こんな賢い動物は・・・京子さんチョット自由にして良いダニか?」

「思う存分どうぞ」

ミルキーはオリに近づいた。その瞬間、何かを察したチンパンジーは
挙動不審になった。ミルキーはチンパンジーの横にいた。

次の瞬間、一匹のチンパンジーに重なった。

京子の方を向いて手を振り始めた。京子も手を振り返していた。
そして手振りで京子とミルチンパンは会話をしていた。 
遠くでその様子を見ていた飼育員が京子に寄ってきた。 

「あのうお客さん、ちょっといいですか?」 

「・・・はい?」いきなりだったので京子もびっくりした。 

「お客さんこのチンパンジーはノアって言うんですが、何かコンタクトを
取ってませんでしたか?」 

京子はマズイと思った。 

「あっあのチンパンの真似をしてみたんです。可愛いですよね・・・」
とやりすごした。 

ミルキーが戻ってきた。 

「チンパンジーって今まで知ってる動物の中で一番賢いダニ。 
ああやってても次の行動を考えているダニ。

ボスに対しての信頼感もしっかりしてるダニ。

あのチンパンジーは人間を観察するのが好きみたいで特に子供が
お気に入りのようダニ」 

「私も今度やってみよっと。さっ、次は爬虫類館に行こうか?」

「ヘビは温度に反応するダニ。小動物の体温とオーラの色と体臭を
感知するダニよ。皮膚全体で感知出来るダニ。 

だからいつも新鮮な皮に取替えるダニ。乾燥が嫌いダニ。
この類の動物はみんな乾燥が嫌いダニ」 

「ミルキーさんありがとうね。おかげでとっても楽しかった・・・」

「京子さん、さっきから気になってる事あるダニ」 

「何?」

「この辺に龍がいるダニ?龍の気配がするダニ。龍は私たちと同じ世界に
いるダニ。自然を司る力があるダニよ」 

「そうだ、この山の辺りは結構龍神さんを奉ってるわよ。
ミルキーさん感じるんだ?出たら教えてね」 

ミルキーがすでに京子の左後ろ上空を指さしていた。

京子が振り返った、その方向に白い50メートルくらいの大きな龍が
浮かんでいた。龍の視線は京子を観ていた。

京子と目があった。

さすがの京子もあまりの威厳さに身動き出来ないで立ちすくんだ。

ミルキーは手を振って挨拶しに龍に向かって飛んでいった。 

京子は貴重な体験に心震わせていた。

ミルキーが戻ってきた。 

「京子さん、龍が宜しく言ってましたダニ」 

「ミルキーさんなにか話したの?」

「初めましての挨拶と動物園のチンパンジーの話ししたダニ」

「ミルキーさんも人間っぽいね。全般的に動物園どうだった?」 

「はい、捕食という意識が少なくてみんな寝てるような感じがしたダニ。
全般に犬猫のペットみたいなのんびり感が野生と大きく違うダニね」

「なるほどね。今日は龍にも会えて貴重な体験をさせてもらいました。
本当にありがとう。みんなにも今日の体験を話すわね」

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-4

4、三つの黒石

サキはミルキーを会に連れてきた。 

「京子さんケンタさんに聞いてると思うけど、こちらが二風谷のミルキーさん」 

「あなたがミルキーさんね、私は京子。よろしく」

「あっミルキーです、初めましてダニ」

「あなたが赤い石の持ち主さんね?詳しく聞きたいな、その石のこと」
 
「はい、昔から我が村に先祖代々伝わった石ダニ。紫と青と赤の三つがあって
我が村のフチセの家計に伝わるものダニ。 
この石の効果は今ひとつ解らないけど、先日ケンタさんから少し教わったダニ。 
なんでもこの会の黒い石と波長が似てるからって言ってたダニ。 
制限を外す効果があるって言ってたダニよ」

京子が「三つの石か・・赤石ね・・・」 

「どうかしたダニか?」

「いや、この会の黒石はケンタくんが神社の裏で拾った物なんだけど、
それ以外にも存在するのかなって思ったのよね」

「サキはあるような気がします」 

「でしょ、私もなんか気になるのよね。別にほしい訳じゃないけど、
あるならお目に掛かりたいものよね」

サキが続けた「ミルキーさんが人捜しをした時に、石同士が共鳴するから
その振動を追うって言ってましたよ」 

「なるほどね」京子は何か閃いた。 

「ねえ、ミルキーさん。先日見たシリパの会の黒石も波長の共振を感じ取れる?」

「はいダニ」

「それ感じ取ってほしいのね。見てみたいのよ他の石も探してくれない?」 

「いいダニよ」

「サキさんミルキーはカムイの窓に行ってくるダニね。夜には帰るダニ」 

「ミルキーさんごめんね。お願いします」サキが言った。

京子が「サキさん、ルキーはしばらく札幌に居るの?」

「なんでも、せっかく札幌に来て知り合いも出来たからしばらく
滞在したいって言ってましたけど」 

「私、ミルキーさん見てて感じたんだけど、動物のこと詳しいと思うの。 

それでサキちゃんがあの子からその能力をレクチャーして貰うのよ。 
そのお返しに私が石の能力をもっと開花させるわ。お互いの能力を
教え合うのよ。どう?」

サキは「何だか楽しそう!戻ったら聞いてみます」

ミルキーが戻った。 

「ただいま戻りましたダニ。解りましたよ。札幌には無いけど全部北海道に
あるダニ。にっき?大切な山は神河の東黒??そんな町ミルキー知らないダニ」
 
「ミルキーさんありがとうね、ごめんね。それで、さっきサキさんと
話したんだけど・・・」京子は経緯を話した。 

「ミルキーさんはどう?」 

「楽しいダニ。この石もっと知りたいダニ」 

「じゃあ成立ね」 

「ミルキーさん、動物の事そんなに詳しいの?」サキが聞いた。 

「動物も食物も木や花も解るダニ、人間はそんなに興味ないみたいだけど、ダニ」

ミルキーのレクチャーが始まった。 

「基本的に動物は感性で生きてるダニ。自然環境と波長を合わせながら
生きてるダニよ。コツは匂いと雰囲気と波長ダニ。

目はもっぱらオーラを確認する為に使うダニ。 
捕食して自分に害があるかどうかはオーラの色で判断するダニ。 

当然、動物によって見え方が全部違うダニ。 

人間は犬とか猫を飼うけど犬は単純で無邪気だけど猫の方が犬より賢く
レベルは上ダニ。

木の意識は穏やかで感情は一定。植物は繊細で空気と光が
栄養源で私たちの遊び場ダニ」 

サキが「人間の考えと似てるけど人間は考えが基本人間的なのよね。
オーラで視るなんて思ってなかったわ。さすが妖精ミルキーさん、
凄く解りやすいね。
ところで犬とかで、すぐ吠える犬が多いでしょ、あれはどういうこと?」 

「威嚇、恐怖、遊び、臆病犬の警戒心、色々あるダニ。猫は状況判断の天才ダニ。
猫は風を感じてるダニ。山の猫はそれ以上でその山全部を感じて行動してるダニ。
犬はどちらかというと目先のことだけダニ。 ミルキーは猫のお友達多いダニ。
ずるいのは狐や狸。ミンクもずる賢いダニ。熊なんかすごく単純さんダニ。
余計なこと考えないで食べることが好きなだけ。
食べ物のために一日で山ひとつ越えるダニよ。でもみんな仲間ダニ」

「人間の思いこみって勝手ね。反省しなくちゃね・・・だって、
人間中心の考えだもの。ミルキーさんゴメンね」

「基本、明るい暗い、腹減った腹いっぱい、繁殖と子育て、
あとわずかな遊び、そして警戒心ダニ」

「とっても解りやすいわ。ミルキーさんありがとう。
あと、死に対する捉え方は?」

「淡々としてるダニよ。基本死は怖くないの。だから死の恐怖ってそんなに
無いダニ。当然私たちもダニ」

「ありがとう。じゃあミルキーさんから質問どうぞ」

「黒石と私の赤石、違うけどどうしてダニ?」 

「私の解る事は、シリパの会の黒石はこの世の硬い石だけど、
赤石はこの世での物ではない石なのね、非物質なの。 

だから普通の人間には視えないでしょ?そこを除けば二つは一緒の波調だよね。

あとは使い方のコツ。私の知る限りパラレルワールドやタイムスリップに
多く使うけど、それ以外の可能性もあると思うわ。私は試したこと無いのね」

「なるほどダニ」 

「あと、この会の石のことを制限を外す石とケンタさんは言ってたけど」 

「制限?・・・」ミルキーはしばらく黙った。  

「なるほどダニ。制限を付けるからそれ以上になれない。つまり出来ないと
勝手に勘違いするということかダニ・・・なるほどダニ」 

サキは、この子どんどん知識を吸収する恐るべし妖精と思った。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-3

3、ギジムナー

  ミルキーが「まだ青石の気配が無いのでカムイの窓から青石の居場所を突き
止めるからもうチョット待ってて下さいダニ。

あっ!それと、お土産。ミミズクの涙で作った丸薬と丹頂鶴の爪で作った
丸薬ダニ。ミミズクは夜でも遠くの物がよく見えるダニ。

丹頂鶴の爪は疲れた時、飲むと身体が軽くなるダニ」

「ありがとう」

ミルキーはカムイの窓から小一時間で戻ってきた。 

「ミルキーさんどうだった?」 

「解りました。青石は沖縄の小さい島にあったダニ。今すぐ飛ぶダニよ。
サキさんの膝に乗らして下さいダニ」 

ミルキーはサキの膝の上に乗った。 

「行きます、エイ!」

二人は沖縄の伊江島に飛んだ。 

「ヨイショット!」 

二人は小さい山の頂に立っていた。

「あれ?ミルキーさん、身体が大きくなってるよ?」 

「違うダニ。サキさんが小さくなってるダニよ」

「たぶんミルキーに同調したダニ。あっ!赤石が同調し始めたダニ」 

二人は青々とした海岸を見渡した。

「あっ居た!」ミルキーが叫んだ。 

そしてミルキーはサキの手を握った。

次の瞬間、二人は浜辺に立っていた。

「あんた何やってるダニ?」ミルキーはいきなり語気を強めて青年に言った。

ビックリした青年は「なんでこんな所まであんたが来たダニ?」

「長老があんたに青石を盗まれたから取り返してこいって、命令されたダニ。
 あなたどういうことダニ?それになんでこんな所にいるダニ?」

「ご、ご、ごめん。盗む気は無かったダニ。お婆が最近妙に塞ぎ込んでいて
オッカァもオドも心配さして、お婆に聞いたダニよ。お婆どうかしたかって? 

そんだら沖縄の島にギジムナー族の人で昔大変世話になったお人が居て、
ひと目会いたいって言ったダニ」 

「お前のお婆幾つになったダニ?」 

「250才くらいダニ」 

「おめえの婆さま、達者だな。それにしても青石を持ち出すのは違反ダニ。
長老は怒ってしまったダニ。
お前の両親は肩身の狭い思いしてるダニよ。それで見つかったダニ?そのお方」

「カムイの窓から視たらこの辺だったから来たけどまだ見つかんね」

「そっか・・・」 

「ここの人たちは、皆のんびりしてるから、こっちまでいい気分になって、
つい探すの忘れるとこだったダニ」

「事情は判ったダニ。でも違反は違反ダニ。帰ったら覚悟するダニよ」 

「うん!んでこの方は?見た事無いダニね?どなたさん?」

「札幌であんたを捜す手伝いと、私の面倒を見てくれてるサキさんダニ」 

「こんにちは」

「サキさんご迷惑掛けますダニ。そのような事情で本当にすみません。
ところで黒砂糖食べますか?ここの美味しいダニよ」

ミルキーが「あんたそれどころじゃないダニ。私達も一緒に探すから、
早く探して二風谷に帰ろうダニ。・・・で、特徴は?」

「ギジムナーで250才くらいダニ」

「それで?」

「そんだけダニ」 

「あんた、ばっかじゃないの!」

サキが「まず、ギジムナーの長老を探そうよ。そして相談するのよ」 

「サキさん頭いいダニ」 

「あんたがバカなのよ。ダニ」

三人は長老を捜した。 

サキが提案した「ミルキー、あなた達は笛持ってないの?」 

「あるダニよ。それが?」

「笛の音色は吹く側の特徴が出るのよ。つまりギジムナーと違うあなた達の
音色に興味を持ち、向こうから寄ってくるかもよ」

「さすがサキさん。じゃあミルキーが吹くダニね」 

ミルキーの音色はアイヌの民族音楽に近い独特な音色だった。

笛を吹き始めてから一時間ほど経った。

沖縄の夕日が空一面を赤く染め、笛の音が島の空に響く後ろの方で
ザワザワと音がした。

ミルキーは振り返った。数人のギジムナーが居た。 

ミルキーが「あっ、初めまして。私たち北海道から妖精探しに来た三人組です。
宜しくお願いしますダニ」

「ニングルか?」ひとりの長老らしき者が聞いた。 

「いえ、どちらかというとコロポックルです」

「そっか、懐かしいなあ」 

「懐かしいと言いますと、コロポックルの誰かとお知り合いでしたか?」

「そうよのう、もう200数十年前かな。ひとりのコロポックルのメノコが
船に乗ってここに来たことがあったワイ。

ギジムナー衆と何年か暮らしたあと台風に乗って本土に帰って行ったワイ」 

「もしかしたら僕の婆ちゃんかもしれないダニ」ひととおり経緯を話した。 

「そっか、それはそれはご苦労さんでしたワイ。もしかしたらワシの
事かもな・・・じゃが、わしも会いたいが会いに行く元気がないワイ」

「それが良い方法があるダニよ。時空を越えて行けばすぐ着くダニ。もし良ければ
僕に触って下さいダニ。すぐ飛んで行って婆さんと会って戻るダニ。どう?」


「そっか、じゃあ頼むかワイ」そのまま二人は消えた。

ミルキーが「まあ、勝手なこと。何の挨拶もなく、さっさとあの子
行ってしまったダニ」

「でも、願いが叶って良かったじゃないの」サキが言った。

「サキさん、迷惑掛けてすみませんダニ」

「いいのよ。それよりもせっかくギジムナーさん達が
居るんだから少し遊んでいこうよ」 

「そうダニね・・」

それから二人は3日間ギジムナー達と飲めや歌えで沖縄を満喫して帰郷した。

ここはサキの家。 

「ギジムナーさん達とても楽しかったね。ずーっとユンタクだもの。
肉体が無いから酔わないはずなのに、ほろ酔いになったわね。 観念だけでも酔うのね」

「本当に楽しかったダニ。サキちゃんミルキーせっかくここに来たから
もう少し札幌に居たいダニ、それにシリパの会の人ともっと話しをしたいダニ」

「じゃそうしよう。決まり!」

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-2

2、三つの石

 アヤミの持っていた黒い石を見たミルキーは、自分の持っている赤い石を
ポケットから取り出した。

「これは私たちの世界で先祖代々受け継がれた石ダニ。この赤い石はメノコの赤石
というダニ。 他にオッカイの青石とカムイの紫石の三つの石があるダニよ。
そのうちの一つがこのメノコの赤石ダニ」 

アヤミが「あなた達の仲間もみんな持ってるの?」 

「違う。赤石と青石はカムイの使い、シャーマンが持つダニ。
紫はその上の神官が持つダニ。その三つダニ」 

メメが聞いた「なんでミルキーはアヤミさんのこの黒い石に反応したの?」 

「石から出てる波動がとっても似てたから驚いたダニ」 

今度はメメが「こちらの黒い石は特殊な力があるのね。手に握ると思いが叶うの。 
叶うといっても私達の次元から他の次元に移動する力限定なのね。

それと今アヤミちゃんはこの石を握ってるからあなたが視えるのよ。
普通はあなたの姿は視えないのよ」 

「でもメメちゃんやケンタさんは視えてたダニよ」

「この二人は無くても視えるようになったのよ」 

「解ったダニ!」

メメが「その赤い石は何か力あるの?」 

「ミルキーまだフチ(おばあさん)から習ってないダニ。習う前に出て来たダニよ」

「そっか」

メメが「その赤い石もこの黒い石も同じ波動ならもしかしたら同じ事、
出来るかもね。アヤミさん試してみない?
私たちは石が無くても出来るから実験にならないわ。どう?」

アヤミが言った「面白いですね。ミルキーさんやってみない?」

「ダニ!」 

「じゃあ決定ね!ケンタさんよろしいですか?」 

「うん、面白いね!ミルキーさん戻り方だけ教えるね。戻る時は石を握って
心にこの場所の情景を思うこと。すると簡単に戻れるからね。

アヤミさん、ミルキーさんは次元が元々違うからそこだけ勘違いしないでね。
それだけ。じゃあ行ってらっしゃい」

アヤミとミルキーは他次元へ移動した。 

残ったメメとケンタは会話を始めた。 

「メメちゃん面白い人連れて来たね・・・」 

「でも妖精はどの次元に属するのかな?」

「仙人とか修験者とか自然を司る世界だよ。神界より下の辺りで人間界より上。
そこに龍もいるよ」 

「でも話してる内容は人間っぽいですね」

「僕達に合わせてるみたいだね。元々自然相手だから感覚がチョット違うかも」

ほどなくして二人が戻ってきた。 

メメが聞いた「ミルキーさん、どうでしたか?」

「出来るダニ」 

「アヤミさんは?」 

「はい、ミルキーさんの赤石も同じ感覚みたいです。今は未来の二風谷に
行って来ました。ダムも何にも無くって澄み切った空気の中で熊も鹿も狼も皆、
人間と共存してました。

まるでおとぎ話の本の絵みたいでした。ミルキーさんったらそれを見て泣いて
ましたよ。この世界最高ダニって。私ももらい泣きです。楽しかったです」

事務所入口のドアが開いた。 

「すみません。中央店の京子さんからこちらに寄るようにって
言われて来ました。サキって言います」

アヤミが「そろそろ時間なので行きます」と言ってサキと入れ違いに出て行った。

メメが「あっ、京子さんから伺ってます。明日そちらに女の人を行かせるからって。
こちらにどうぞ。何でも京子さんのガイドが言って来たらしいですよ。」 

「そっか」

メメが「サキさん、どうぞ入って下さい」 

サキは奥に入ってきた。

その瞬間、「あら!可愛い!」 

メメが「サキさんに視えるのね?」

「はい!先日もこの妖精さん位の大きさの子に会いました」 

「どこでダニ?」 

「大通公園の9丁目の花壇の処でです」 

メメが「ミルキーの知り合いか何かなの?」 

「すいません。その子、青い帽子とベスト着てませんでしたか?ダニ」 

「そう、その話し方よ。ダニって言ってましたよ。あなたのお知り合い?」 

メメが「ミルキー、何か事情あるんでしょ?差し支えなければ聞かせて」

「はい。さっき石の話したダニ。その青石を無断で持ちだしたのがいて、
時空を駆け回って好き放題してるダニ。 

私は村長から頼まれてその子を探しに札幌に来たダニ。
今までウソ言ってすみませんダニ」

メメが「私、嘘は嫌いなの。もう駄目よ。今度嘘ついたら家から出て行ってね」 

「メメさんケンタさんごめんなさいダニ・・・」

ケンタが口を開いた「まあ事情は解ったよ。知り合ったのも何かの縁。
お手伝いします。でもどうやって探す?札幌はそれなりに広いよ。
それに札幌にまだ居るとは限らないし・・・」 

「すみません。その探すお手伝い役を私にやらせてもらえないですか?
 私、何故京子さんにここに行けって言われたか・・・今、解りました。
この事だったんですね」とサキが言った。

「なるほど、彼女がサキさんをここに行くように言ったわけが解ったよ。
僕、彼女の旦那でケンタと申します。いつもお世話になります。
でも、こんなお願いして良いのですか?」

「はい」 

メメが「ミルキーさん良かったわね」

「ダニダニ・・」ミルキーは丁寧にお辞儀をしていた。 

メメが「この子、嬉しい時、ダニダニって言うのよ」みんな笑った。

その日からミルキーはサキの家にやっかいになり青石探しを始めた。

「ミルキーさんの赤石とその青石が近づいたら何らかの反応があるわけ?」 

「三つの石は三位一体ダニ。だから近いほど共鳴が大きくて、三つが重なると
凄い光になるダニ」

「今回もその共鳴を辿って札幌に来たダニ。でも次元移動してたら解らないダニ。
今は違う次元に居ると思うダニ」

「大体解りました。それで明日からどういう動きするの?」

「明日の昼頃まで待って共鳴がなかったら、別次元にカムイの森っていう処が
あって、そこにカムイの窓という場所があるダニ。

その窓から覗いて青石の行き先を視て飛んでみるダニ」 

「明日を待たないで直接今行ったら?」

「そこに入るにはルールがあるダニよ。十勝岳と旭岳と二風谷にある鉱山植物を
煮込み、鹿の角のエキス少量を混ぜて煎じた液体を、カムイ神殿に奉納しないと
カムイの森に入れないダニよ。急いでも半日以上かかるダニよ」 

「面倒くさいのね」

「だからこれから山に戻って液体を作って戻るダニ。帰りは明日の昼頃に
なると思うダニ」

「私に出来る事、何かある?」 

「ありがとう。これは巫女のミルキーにしか出来ないから。
明日戻ったらまたお願いしますダニ」

「はい、じゃあ待ってますダニ・・」

翌日の昼前に鹿の胃袋で作った水筒に奉納する液体を入れて
ミルキーは戻ってきた。

【不思議な黒石-(妖精ミルキー)】13-1

1、二風谷の妖精ミルキー

 シリパの会は慌ただしい一日となり、メメは夕食を外で済ませ
夜10時の帰宅となった。 

部屋のドアを開け、今日もちょっとした異変に気付いた。
数日前からスズランの香りがほのかに香る? 

部屋にスズラン系の香料を含んだ物は無いはずだった。
 
原因がわからなかったが気にするほどの事でもないし、スズランの香りは
嫌いではなかったので原因を追及せずにいた。 


遅めの風呂と洗濯となったが、ひととおり済ませベットに入ったのは12時を過ぎていた。

至福の瞬間である。 

そのまま寝入った瞬間、またスズランの香りがして起きた。

今度は今までよりも香りがきつく感じた。 

辺りを見回した、次の瞬間ゴミ籠の裏に隠れた何かを発見した。 

メメは思わず「なに?」そして恐る恐るゴミ籠の裏を確認した。

そこには20センチほどの小さな人影。 

お互いに眼と眼が合った。

内心驚いたが、平静を装ったメメが優しく聞いた。 

「今晩わ、私はメメ。あなたはどなたですか?」 

メメは仕事柄、異空間の存在とのコンタクトはお手のものだった。 

「私に名前はありません。日高はニ風谷の山の方からこの街に来たダニ」 

「どうしてここに来たの?」 

「花屋さんで遊んでいたら、あなたが店の前を通りかかったダニ。
何だか分かんないけどあなたと話をしてみたくなり、
後をついて来てしまった・・・ダニ」

「何日も前からここに居るの?」

「そうダニ。いつ気が付いてくれるか待ってたダニ」 

「それで最近、この部屋、花の香りがしたのね。これはあなたの香りだったのね」

「臭くてすみませんダニ」 

「あっ、謝らなくていいのよ。この香り、わたし好きよ。それよりあなたに
名前付けない?名無しさんだと話しにくいし、好きな名前何かある?」 

「ミルキー・・・ダニ」

「ミルキーさんか・・・可愛いね。何か意味でもあるの?」 

「前に世話になってた家の人が付けてくれたダニ。それが好いダニ」

「そっか・・・じゃあミルキーさんねよろしくね。ところでミルキーさんは
年齢は幾つぐらいなの?」 

「ミルキーに歳は無いダニ」

「そっか、ゴメンね。ついこの世界の癖なのよ。で、何でこの札幌に来たの?」

「仲間はみんな植物の世話してるけど、私は違う事やってみたいって
長老にそう言ったダニ。

そしたら長老さんが我々部族は昔からそう決まってるって怒ったダニ。

ミルキーに皆と同じことが出来ないなら村から出て行くようにって
命令されたダニ・・・それで出て来てしまったダニよ」

ミルキーの目は半分涙ぐんでいた。

「ミルキーさんは何をやってみたかったの?」 

「ないダニ」 

「え・・・??」 

「違う世界を見た事あまり無いから、何をやりたいか解らないダニ」 

「なるほどね。じゃあ、やりたいことが見つかるまで私の部屋に居てもいいわよ。
ゆっくりやりたいことを探してちょうだいね。ず~~っとここに居て良いよ」 

「メメさんありがとうダニ」

「今日は遅いからまた明日話そうね。お休みなさい、ミルキーさん」 

「メメさん、ひとついいダニか?」 

「はいどうぞ」 

「ミルキーは寝ないダニ」 

「どうして?」 

「生まれてから一度も寝た事無いダニ」 

「そっか、私たちのこの世界は身体があるから休めないと壊れちゃうのね。
だから8時間ぐらいは身体を休めるのよ。それを寝るって云うの。お休みなさい」

メメは即、寝に入った。

翌朝6時にメメは起床した。 

「ミルキーさんおはよう」 

「メメさんどーもダニ」

「朝まで何やってたの?」

「そこの公園で花の手入れしてたダニ。サルビアの蜜がいっぱいあったから、
ついでに持ってきたダニ。人間はサルビアの蜜好きダニか?」

「あっありがとう。ミルキーさん」 

「ミルキーでいいダニ」

「はい、ミルキー。私もメメでいいダニよ」 

「ダニダニ」ミルキーはこの家に来て初めて笑った。 

「今日は仕事に行くから適当にやってていいよ。帰りは夜の7時頃になるの」 

「仕事は何?」 

「う~~~ん説明できないよ・・・そうだ、私について来る?」

「行くダニ」二人はシリパの会に向かった。

「おはようございます」メメがケンタに挨拶をした。 

「メメちゃん今日は目が光ってるよ。何か良いことあった?・・・・れれ???
メメちゃん、また可愛いお友達肩に乗せて・・・どうしたの?」

メメは笑顔でケンタの側に寄ってきた。 

ケンタが「おやっこれは・・・妖精さんだね。珍しいお客様で・・・」

メメが「こちら日高の二風谷の方から来たミルキーさん。
年齢不詳、性別は無いらしいけど見た感じ女の子の意識が強いみたい」

「こちらは私のボスでケンタさんです」

「ミルキーさんよろしくね」

「ケンタさんもよろしくお願いしますダニ」

「あははは可愛いね。ゆっくり遊んでいって下さいね」

ケンタが続けた「ミルキーさんは食事とかどうしてるの?」 

単純な質問である。

「私たちは花や木のエナジーを頂くダニ」

「なるほど」 

メメが言った「色々な経験がしたくて街に出て来たらしいのね。
それで私がたまたま花屋の前を通りかかったら、私に目が止り興味を
持ったみたいで、家までついて来たらしいの」

「それはそれは。メメちゃんのどんな所に興味持ったのかな?」

「メメのオーラがみんなと違ったダニ。それで確かめたくなった」

「そうですか。納得いきました。シリパの会へようこそ」 

ほどなくして会員のアヤミさんが入ってきた。

「おはようございます」 

アヤミは全く気付いてないようだった。

ケンタとメメは目を合わせた。 

メメは心の中で「人によっては見えないのね」

ケンタが「アヤミさんこの石持ってメメさんの机の上を見てくれるかい」

そう言って石をアヤミに渡した。 

アヤミは云われたとおりメメの机に目をやった。 

「あっ、これは・・・」メメがにこやかな顔で頷いた

「こんにちわ」 

「こんにちわ、私ミルキー。二風谷から来てメメさんの家で昨日から
お世話になってるダニ」

「私はアヤミです。札幌生れです。よろしくダニ」

ミルキーは喜んだ。

「アヤミさんこの子どうしたんですか?」 

「今もケンタさんに話してたの。花屋の前を通りかかったら
私が目に止まったらしく興味を持ったみたいでついて来のよ」 

アヤミが「おもしろい」 

その時、ミルキーがアヤミの手にある黒い石を見て叫んだ。 

「あっ!それ!その石どうしたダニ??」

「これ?」 

アヤミはケンタの顔を見た。

「なんでこの石に興味があるの?」とケンタが聞いた。 

ミルキーは自分のポケットから同じ形の赤い石を取り出した。

【HisaeとSizu】10-10完結編

10.「母さんの塩むすび」

あ~~よく寝た。昨日は花子と下北沢で遅くまで飲んでたのに、
この清々しい気持ちの朝は何だろう?花子と飲むとストレス感じないから?

Hisaeは布団から出てPCの電源を入れた。一日の作業はここから始まる。

メールが入っていた。

「Hisae様、初めてメールいたします。

先日、他界した友達のこと書いて欲しくてメールしました。

その友達の名前は納谷勝雄と申します。

勝雄と僕は高校からの友達です。

その勝雄が先日、肝硬変で他界しました。56歳でした。

僕は彼から沢山のことを学びました。

勝雄は高校卒業後調理師を目指し専門学校に入り、その後調理師として
36年頑張ってきました。

ごく普通の優しい二児の父親としての生涯と、料理の本質を見極めようと
鋭く厳しい目を持った人間です。

そんな彼を偲び形にしたいと考えメールしました。

内容は、Hisae様のアレンジで結構です。

勝雄にはこれという大きなエピソードはありません、平凡なので逆に
表現が難しいと思いますがお願いいたします。    松岡幸彦」

う~~ん。これといったエピソードが無いのか・・・チョット
難しいかもね・・・まっ、何とかするけども・・・よし引き受けようか・・・

「松岡様 お引き受けしたいと思います。執筆にあたり納谷さんの
人柄と、お二人の写真があれば添付して下さい。

私の中にお二人のイメージを作りたいのです。あらすじが出来
上がったらメールいたします。  Hisae」

「ありがとうございました。写真は二年前の同窓会の集合写真と本人の
近影です。あと、彼の性格は地味で自分から表面に出るタイプでは
ありません。いつも影から冷静な視線でものごとを見つめ適切なことを
言ってくれます。侍の調理師のような男でした。

僕が若い頃、東京で家庭を持っていました。長女の出産も東京でした。
出産を知った彼はわざわざ札幌から東京に日帰りで出産祝いを持って来てくれたんです。

あの時は本当にビックリと同時に感激しました。

僕は妻の実家小樽に住みついてから、数度だけ酒を交わしました。
お互いに休みが合わず飲む回数は少ないほうでした。今になって
悔やんでおります。もっと飲みたかったと・・・

最後に飲んだのが2年前のクラス会です。本当に良い想い出になりました。

その後、僕は大阪に転勤になり現在に至っております。
今、心には空白ができております。どうぞ宜しくお願いいたします。 松岡」


 Hisaeは考えた。

調理師か・・・私、料理苦手だからどこまで表現できるか?
こんな事なら料理の基本だけでも学ぶんだった~~

「母さんの塩むすび」

あらすじ

彼の名は納谷勝雄。他人は彼のことを調理界の哲学者と呼ぶ。

類い希な才能を持つ彼は、高校の時、調理人だった兄がおり、
その兄の作ってくれた一杯のラーメンの味に魅了され、
自分も高校を卒業したら料理の道を極めてみたい。

そう心に誓い、調理の道に足を踏み入れることになった。

調理の学校を出た彼は最初社会に馴れるため学校で斡旋している
レストランで働くことになった。

その後、調理に道は一ヶ処に止まってはいけない。もっと料理を
学びたいと思いから複数の店を歩いた。

調理の世界の閉塞感を感じながらも38年間思考してきた。

そんな彼が心に秘めた調理のある思いがあった。

調理仲間には話せないが、高校時代からの親友で、今は調理の世界から
離れて公務員になった心の友である松岡に密かに語っていた。

彼流の料理に対する哲学があった。

彼の料理の極意は『塩むすび』という4文字だった。

その4文字に納谷勝雄の調理人生が表わされていた。

決して華やかではないが数日間じっくり煮込んだスープのように、
奥深く味わいのある彼の人生を綴った作品」

「松岡様、簡単ですがこんな内容でどうでしょうか?ご検討願います。 Hisae」

「Hisae様 宜しくお願いいたします。 松岡」

その後、二人は打合せを重ね執筆をする事になった。

Hisaeは、そっか・・・調理の世界は出来るだけ避けてきたけど、
衣食住に携わることは避けて通れないか。

Hisaeガンバンべ・・・自分に気合いを入れた。


 「母さんの塩むすび」

 ここは北海道岩内町。札幌から東に2時間半の港町その町で
主人公の納谷勝雄は産まれた。

勝雄は納谷家の次男として育ち、岩内町の中学を卒業し近隣の町、余市町の高校に通った。
通学に時間が掛かるという理由ので下宿し、その町で高校時代を過ごした。

勝雄は温厚な性格で、たくさんの友達に囲まれ、生涯の友と巡り
会ったのもこの高校であった。


 三年生の春。

「勝雄、今日の放課後、俺の家でジンギスカンパーテーやろうぜ」
仲間のひとり地元出身の富田が誘った。

勝雄は「いいね~~。俺、飲み物担当するよ。で、何人来るの?」

富田は「15人位かな」

「なに・・そんなに来るの?」

「そう」

勝雄は瞬時に金額を頭の中で計算し「じゃあ一人300円会費だな」

富田が「ああ頼む、俺が鍋とか燃料を用意してるから食料は全部、
勝雄と松岡とダイスケに任せていい?」

二人は勝雄の指示で買物に行った。

15人が食べてる最中。話を聞きつけた隣のクラスの伊藤や曽我部や秀敏が
急にやってきた。

松岡は「肉足りなくなりそうだからお前ら、ひとり300円だから
900円分の肉を買い足してこいよ・・・楽しくやろうや・・・」

当然だった・・・が、勝雄は違った。

「チョット待って。肉だけでなく燃料や野菜も飲み物も
トータルして考えて買ってきてよ」勝雄が言った。

エイジが「うん、さすが勝雄、ちゃんとポイントをついてるね・・・」

勝雄はその場の感情に流されないで冷静に観る目を持っていた。

瞬間的に判断し、そして対応する生徒だったが、反面、人情もろく、
すぐ涙するタイプでもあった。

そこが、勝雄の友達受けする要因でもあった。

そんな勝雄がみんな大好きだった。


 勝雄のクラス3年C組は普段はバラバラでまとまりが全然無かった。
が、ここぞという時は学校でトップのまとまりをみせ、他の先生や
生徒をいつもアッと言わせた。

合唱コンクールや球技大会は2年連続総合優勝に輝いた。
小さいことではあるが開校以来の快挙だった。

球技大会などは練習もしない、意見もバラバラで競技開始寸前まで
各々が適当にやっていたかと思いきや、いざ始まると一枚岩のような
まとまりをみせて三宅先生を驚かせた。

勝雄はそんなクラスが大好きだった。

そして一生涯つきあっていく友もこの時期に出来たのだった。

因みに、2年・3年とクラス替えのない学校で、担任の三宅千種が
女性特有の優しさのある指導を展開するが、男子生徒の向井などは
何時も勘違いして好き放題して、三宅を困らせることがよくあった。

そんな向井に意見するのが決まって勝雄だった。

勝雄は1年から卒業まで千種のクラスで、三宅先生からの信頼も厚く、
千種も勝雄をいつも心の何処かで頼っていた。


 3年の秋、学校祭も終わり就職試験の結果も出て。大方の仲間は進路が決定していた。

「学校祭が無事終ったし、みんな僕の下宿先に集まり騒ごうや・・」と
声を掛けたのも勝雄だった。

その下宿で10名ほどが集り学校祭の打ち上げをやっている最中だった。

突然警察官が6名ほどその場に入ってきた。

「君達、何をやってる!」ひとりの警官が大きな声を張り上げた。

「オイ、そこ、すぐタバコを消しなさい」

当然だった。学生服を着た高校生が喫煙していたのだから。

その偉そうにしていた警官が「ここで、何をしている?君達はどこの
学生だ」威厳のある声で尋問した。

勝雄が「全員、後志高校です」

「何年生かね?」

「はい、3年です」

「近所から不穏な動きがあると通報があった。おい、そこの・・・
タバコを消しなさいと言ってるだろう」

「す・すいません」トシアキだった。

勝雄が「はい、今日は最後に就職が決まった、上野くんの就職祝いで
集まってました。喫煙しうるさくして大変申し訳ありません」

勝雄は深々と頭を下げた。

続く全員も深く頭を下げた。

警官は「他に薬だとか、シンナーの類は所持してないのか?あるなら
さっさと出しなさい。あとで出したら面倒くさい事になるからな・・・」

勝雄が「そんな悪いことやってません」

「そんなって、未成年のタバコも悪いことだろが・・・」

「そうでした・・・すみません・・・」

「いいか、君達。折角就職も決まったというのに警察に厄介になったら
就職内定も台無しだろう。そんなことも解らんで浮かれてたのか?」

「何度も何度も面接で落とされて、やっと受かったんです。僕達・・
嬉しくてつい・・・軽はずみな行動を取ってしまいました。すみません」
勝雄の半分泣いたような神妙な声だった。

その偉そうな警官が「解った、今回は目を瞑ろう。但し、今度このような
騒ぎを起こしたら学校に連絡するから心しなさい。今日は即刻解散しなさい」

下宿人の勝雄と他3人を残して解散した。

後日、あれは演技だったと勝雄が話していた。

全て、勝雄が咄嗟に考えた嘘・・いや、シナリオであった。
勝雄はこのように瞬時のアドリブに長けていた。


勝雄が進路を決める切っ掛けになったのは、札幌の兄が作ってくれた
ラーメンが美味しかったからと松岡にに話していた。

松岡も勝雄からその話しを聞かされ、調理の世界は面白そうと考え
調理師学校に進路を決めた。

学校を卒業して数年後。松岡は仕事で東京に身籠もった
妻と二人住むことになった。そして女の子をもうけた。

出産のことは当時東京に住んでいた富田だけに知らされていたが、
何処から聞いたのか勝雄の耳にも入り、彼は東京に出産祝いを渡しに
わざわざ上京し、その日のうちに札幌に帰省した。

後日、松岡が仲間で酒を飲む時は、必ず嬉しそうにその時のことを語っていた。

 
 調理師になった勝雄は最初、小さなホテルで働いていたが、経営不振で
倒産し、その後上司から紹介されたレストランに移ったがそこも閉鎖。

幾度か職場を変わって気づいたことがあった。

人の数だけ調理方法があって、味付けも考え方もみんな違う。
諸先輩の理屈は皆ごもっとも・・・

でも、持論が多すぎて憤りを感ずることが多多あった。

最後の二十二年は大型病院の経営するレストランの調理長として晩年を終えた。


 事あるごとに高校時代の仲間と酒を交わす機会も多く、若い頃の
エピソードを話すのが勝雄の楽しみだった。

決まって出る話題が下宿でのその警察の話題だった。

本当に楽しい3年間だったようである。

また、料理の哲学をよく語っていた。心の底から調理が好きだった。

ある時、勝雄とダイスケとミノルが居酒屋で飲んでいた。

ミノルが「勝雄は職業だからしかたないけど、料理に凄いこだわりが
強いようだけどなんで?」

勝雄は笑顔で応えた「うん、いい塩梅ってひと口に表現するけど、
どの辺りの加減をいうと思う?」

「う~~ん、おいしさ加減?」ミノルが言った。

「でも、その加減って人によってみんな違うよ。たとえば家庭環境や国の違い、
体調や季節の違いなどきりがないと思わない?」勝雄は焼酎を口に含んで言った。

ミノルが「うん、そうだよね、焼酎だってロックもいれば水割りだって
人それぞれに好みの加減があるよね・・・」

ダイスケが「そうだけど、それ言ったらやっぱきりがないけど・・・」


「そこなんだ、料理って案外、絶対数の問題でさ、美味しいっていう
人が多いとその味は良いと言われる。
つまり、味は目と鼻と舌と思い込みの感覚なんだ。特に感覚って
個人差がある。つまり美味しいって幻影だと思ったんだ。
早い話が・・・錯覚だよ。錯覚・・・

それを踏まえた上で、僕はいい塩梅を追求したくなったんだ。
色々試したり考えたりしたけど結果解らなかった・・・

でも、三十数年間やってひとつ見えたことがあるんだ。
目隠しをして鼻も塞いで何か食べたらどうなると思う?」

ダイスケが「・・・・?味気ないと思う」

「そう・・・つまり味って観念でも決まるんだ。カレーの味はさ、
頭の中に子供の頃からインプットされてるからあの味がカレーと
云えるんだ。あれがカレー風シチューだったら・・・
カレーかシチューかどっちだと思う?」

ミノルが「シチュー」

勝雄が「でも、カレーって云って出されたら?」

ミノルが「???・・・カレーかな・・・」こころなしか声が
少し小さくなった。

「そう、他から与えられた観念でカレーになるんだ」

ダイスケが「言ってることが解らないけど・・・」

「うん、早い話が、思い込みで脳は変化するっていうこと」

ダイスケが「思い込みで脳の変化???・・・勝雄悪い、
もう少し解りやすく説明してくれる?」

「うん、味は味わう人によって変化したり。作ってる人のひと言でも
変化する。つまり、観念で変化する。それが僕の結論なんだ」

ミノルが「そしたらさぁ。作る側の立場どうなるの?・・・」

「美味しく食べられるように、食材に魔法を掛けるんだ」

「魔法???じゃぁ、勝雄が一番美味しいと思う最高の料理はなに?」

「海苔の巻いてない、具も何も入ってない今は死んだ母さんが子供の
頃作ってくれた塩むすび・・・今のところそれが一番美味しかったんだ。
もう二度と味わえないけど・・・心にあるお袋の味」

ミノルとダイスケは納得した。

ミノルが「確かにあれは無条件で美味しい。絶対あれ以上シンプルで
美味しい料理は無いかもね・・・」

勝雄が付け加えた「あれこそ塩加減で簡単に味が左右される食べ物は無いね。
シンプルイズベストな食べ物・・・それが・・・かあさあの塩むすび・・・」

ダイスケが「言ってることよく解るよ。勝雄は食の哲学者だね・・・」

勝雄が「哲学者か・・ダイスケ面白いこというね。今まで料理の世界でしか
表現できなかったけどさ。なんか人生でも同じ事が云えるような気がするんだ。

人生経験豊富な人や金銭面でも何不自由してないで、高い車に乗って、
いい家に住んで宝石をたくさん飾って、それって、豪華なフランス
料理か日本料理みたいでさ。

でも、時が経つどんなに優雅な料理でも消えるんだよね、絶対最後は無くなるんだ。

腐った高価なフランス料理と、腐ったただの塩むすびと何処が
違うと思う?結局腐ったら同じだと思わない?

最後に残るのは思いで。

これは詭弁で究極の例えかも知れないけどさ。
最近になってそんなこと考えたんだ。

そしたら急に、数年前に他界した母親の作ってくれた塩むすびが頭に
浮かんだんだ・・・胸が熱くなり涙が出て来たよ。

世界各国、色んな食材や調理のしかたがあるけど、最後は母親の作った
手料理に敵わないかも。

料理の味プラス愛情・・・

味って脳の何処かにインプットされる。それが生涯に渡って味覚の好みにも出るんだ。

途中どんなに手の込んだ料理を食しても、最後は母親の素朴な
手料理に戻るような気がする。

あと料理って絶対笑顔で食べて欲しい・・・

母親の通夜の席での料理は全然美味しくなかった・・・

味が美味しいとかそうじゃなく僕の心が沈んでたんだ。

そういう意味では笑顔ってバイブレーション上げてくれるんだ。
今日みたいに普通にある居酒屋料理でも。

味覚以外の部分で美味しく感じる。

当然料理をつくる側も笑顔で作るのが本当は良い。

そんな人の作ってくれた料理って、美味しさや楽しさが
食べる側に絶対伝わると思う。

この世界に入って最初の料理長が『納谷いいか、食は命だ。
どんな料理でも絶対に手を抜くな。手を抜いて良い料理なんてひとつも無い。
俺たちは命を提供してるんだから』そう教えてくれたんだ・・・今でもそう思うよ。

それに食に国境は無い。中華料理やフランス料理が日本に来るのに
パスポート持ってこない。ミノル話しが周りくどくなってゴメンな」

ミノルが「勝雄・・・なんか料理の話しから、すごい話しに
進展したね・・・でも・・なんか凄いよ」

ダイスケが「やっぱ、シンプルイズベストって事なの?」

勝雄が「うんそれが俺の結論かも知れない。やっぱ、料理の基本は
母さんの塩むすびかも・・・」

後日、ミノルがその時の三人の会話を語っていた。


 勝雄の晩年には不定期だけれど、死んだ恩師三宅千種を
忍ぶ会を「千種の会」と命名し飲み会が行われた。

富田は珍しい料理が出ると決まって「勝雄これどういう風に作ったの?
これ何に?」と質問すると、勝雄はひとつひとつ丁寧に答えていた。

数年ぶりのクラス会が余市の富田家で宿泊可能な有志による手作り
料理のおもてなしで開催された。

勝雄は久しぶりに同級生の顔をみた。

そして「やっぱ友達って良いよな。高校時代に何時でも簡単に戻れる。
あの頃は毎日、何をやって遊ぼうか?どういう風にしたら楽しいか?
そんなことばっか考えてた」

クラス会では明け方まで楽しそうに勝雄は飲んでいた。

翌朝、多少のアルコールが残っていたがみんなの制止も聞かず札幌に帰っていった。

皮肉にも、それが全員がみた勝雄最後の姿となった。

2014年3月21日春分、肝硬変でこの世を去った。勝夫56歳の誕生日の数日後だった。

葬儀には高校の友人11名が列席した。

通夜に儀が終了し最後の焼香も終った。

その時、幸夫がその10名に声を掛けた。

「すまないけど、友人みんな勝雄の遺影の前、横一列に並んで欲しい、
最後の挨拶をしようよ。俺が勝雄に引導を渡す・・・」

横一列に11名が並んだ。

幸夫が前に出て手を合わせ「合掌」大きな声で言った。

全員合掌した。

遺影に向かい「納谷勝雄・・・大変お疲れ様でした。俺たちはみんな
勝雄が友達だったこと誇りに思ってる。

本当に楽しい想い出ありがとう。先にそっちに行っててくれ。

そのうち・・・必ず俺達も行く。そしたらまた千種の会やクラス会やろう。

その時は勝雄が幹事やってくれ、先に死んだ千種先生や敏明も呼んで欲しい。

先にそっちに行った勝雄の役目だ。幹事を頼んだぞ。

そして、そして、今度この世に生まれたらまた俺たち友達になろうな。
約束だからな・・・

本当にありがとう。そしてお疲れ様でした。合掌」

全員泣きながら合掌して終わった。

松岡は勝雄の塩むすびの話しが頭を過ぎり懐かしんでむせび泣いていた。

ここに、納谷勝雄追悼の小説を捧げる。 松岡

END


Hisaeは手を止め、製本して松岡に送った。

やっぱ、何度書いても死は苦手だね・・・

でも、最後の松岡が引導を渡す場面は書いてて泣いてしまった。

実際の葬儀でもでもやればいいのに・・・

訳の解らない僧侶のお経より、友人などの引導の方が
よっぽど好いと思うけど・・・そう思うの私だけかな?

そして、全ての職業や人にもよるけど、ある一線を越えた人って
共通する見解があるのよね。

シンプルが基本みたいな・・・

行き着いた人って今回の調理・武道・芸術・音楽・他の分野
でも達人って行き着くところは同じ臭いがする。

昨日一緒に酒を飲んだ花子も同じだった。

表現は皆違うけど・・・お母さんの塩むすびかも。

THE END

【HisaeとSizu】10-9

9.「夢」

 「何処なのよ・・ここは??」

HisaeはSizuと池袋で飲んで自宅に戻り、たしか・・・布団を敷いて
シャワーを浴び寝た・・・うん。昨日のことだからしっかり覚えている。

確かに寝た・・けど??ここ何処だ??

Hisaeはアイヌの代表的な楽器ムックリを囲炉裏のまえで演奏していた。

「なんで?」

その時後ろから「ヌック・・・朝からムックリを鳴らしてどうした?」

Hisaeは振り返り声の主に視線を向けた。

「誰??」髭の生えた濃い顔をした見知らぬ男。

この出立は・・・みかしてアイヌの人?

それに私の持っている紐の付いた楽器っぽいものは?

私の頭どうかした?オネェの髭で焼酎飲み過ぎか・・?

Hisaeは「あんた誰だ?」

その男が「なんだって???」

「イシリクラン(なんか変)」Hisaeが言った。

これってアイヌ語?・・・なんで私がアイヌ語出来るのよ?

「イペルスイ(腹がすいた)」男が言った。

「うるせ・・腹がすいたぐらいで、ぐだぐだ言うなっ。
こっちは何が何だかさっぱり解らねんだから・・・」

「エシアンテ(腹立つ)」と言い捨てて男は出て行った。

「何が腹立つだ・・・こっちがエシアンテだよ。あれ??私の頭やっぱ変だよ・・・」

その時Sizuのことが頭を過ぎった。

「Sizuはどうなった???」

次の瞬間ひとりの女が入ってきた。

「姉さん目が醒めたの?」

紛れもなくSizuの声だった。でも姿形は全く違う。

「あんたSizuなの?」恐る恐る聞いた。

「そうだよ、私はSizu」

「なんかおかしいと思わない?」Hisaeは目を丸くして言った。

「おかしくないの。ここは130年程前の北海道なの。場所でいうと太平洋側の静内」

「なんで静内に?しかもアイヌ?」

「これは私の夢の中なの。ただの夢じゃないのSizuと姉さんの前世」

「夢って事は解ったけど、なんで私があんたの夢の中にいるのよ?」

「Sizuねぇ、他人の夢と同調させること出来るの。同時に同じ
夢を二人で共有できるの」

「お前そんなこと出来るのかい?・・たまげたね・・・
でも面白いね。で、これはどっちの夢なの?」

「二人共通の夢、姉さんと前世で一緒だったから当時のこと思い出してるの」

「・・・解ったわよ。そういう事なら表に出て楽しもうよ。
それと、あの男は誰なの?」

「姉さんの旦那さんでセキという名前だよ」

「ふん~~。で、私は主婦なのかい・・・」

「フチというシャーマンよ」

「あんたは?」

「私もフチなんだけど病気とかのお払い専門のフチで祈祷師みたいなもの」

「私は?」

「姉さんは、神託とか妖精とアイヌの架け橋というか、通訳みたいなこと」

「へ~~面白い」

「それとラマッコロクルという長老の知恵者がここでは
絶対的存在なのね、だから逆らったりしないでね。

それと、倭人は北海道を我が物顔で歩いているけど逆らわないように。
私達アイヌはハッキリいって迫害を受けてるの人種差別」

「そっか、そういう時代か・・・・解ったよ、外を案内してよ」
Hisaeは複雑な気分で表に出た。


外は澄み切った空と海と川が一度に視界に入る所だった。

「Sizuここ凄い所ね・・・綺麗・・・」

「綺麗でしょ・・・これからこの地も文明が栄えて段々と
町が変わるの。本当に進化って呼べるのかどうか?」

「あっ・・・思い出した。さっき私の旦那らしき男が腹減ったって
言ってたけど・・・どうするの」

「大丈夫だよ、何処かに行って食べてるよ」

「何を食べてるの?」

「夏場はそこら中食べ物が豊富にあるの。蓄えは冬場のぶんだけ、
肉や魚を干したりするの」

「なんかそれって原始風で好いね」

それから二人は村を散策して歩いた。

「姉さん全然思い出せないの?」

「うん、断片的に、言葉だとか、音楽や服や家の造りなど良いなって感じるけど。
あんたのように詳しく思い出せない」

「そっか・・私はこの時代は楽しい事ばかりだったから結構鮮明に覚えてたのね」

「そういえば姉さんは、いつもラマッコロクルと言い争い
してたから・・・一度、村を追放されたことあったのよ」

「あんたそんなことまで覚えてるの?」

そこへ、向こうから長老ラマッコロクルが二人に向って歩いてきた。

Sizuが「噂をすれば何とかよ」

Hisaeは深々とお辞儀をした。

それを横でSizuが慌てて辞めさせた。

長老は一瞬怪訝な顔をしたがそのまま通り過ぎた。

「Sizuなんで折角の挨拶止めるの?」

「お姉さん、今の挨拶は倭人式なの。アイヌ式とは違うのね。
だから村長は変な顔してたの」

「なるほどね・・・めんどくせぇ・・・」といいながら道ばたの小石を蹴っていた。

Sizuはその仕草が面白いと笑っていた。

「Sizu・・・ところで、この夢いつ覚めるのよ?」

「もう帰りたいですか?」

「いや、帰らないで、みんなをからかって遊ばない?」

「姉さん、こっちの人達は純粋なんだから。それに姉さんのというか・・・
フチの言葉には影響力あるんだから・・・」

「はいはい」

Hisaeは思った「なんで私がSizuから注意を・・・???」

「姉さんこっちに来て」

「はいよ」

二人は小川の淵に来た。

Sizuがスズランの群生を指さした。

「おや、スズランかい・・・綺麗だね・・・」

Hisaeが近寄ると葉の陰に黒い影が隠れた。

「なに?・・・Sizu今、何か動いたけど??」

Sizuはその影に近寄って声をかけた。

「出ておいで・・・」

スズランの葉の陰から小さい人の形をした生きものが顔を出した。

ジッと見ていたHisaeは「あんた誰?」声をかけた。

「この人達はコロポックル族、妖精だよ」Sizuが応えた。

「妖精なの・・・ウソッ・・本当に妖精なの??可愛い・・・
こんにちは私ヌック。あなたは?」

「Pinoだよ・・・」

「Pinoちゃんよろしくね。Sizu、この子Pinoちゃんだって、
可愛いね・・・」

「Sizuは前からこの子らと知り合いで、妖精さん達の世話役なの」

「へ~~。他にも仲間いるんですか?」

Pinoはヌックの後方を指さした。

ヌックが振り返るとそこには10人ほどのコロボックルの集団が立っていた。

ヌックが「皆さんこんにいちは・・・」

その中の一人が「ヌックさん、こんにちはダニ。ここで何やってるダニ?」

「Sizuおもしろい・・・この子達ダニだって」

「姉さん・・・」ヌックはまた叱られた。

ヌックはその場に屈んで「Pinoさんはここで何をやってるダニ?」

「ノッキリ(花)から蜜を採ってるダニ」

「蜜は美味しいの?」

「美味しいから採ってるダニよ・・・」

「それもそうね・・・変なこと聞いてすいませんでした」

「ヌックさん、あなたおもしろいダニダニ」

それから二人と妖精達は太陽が真上に来るまで語り合っていた。


 Sizuが「姉さんそろそろ帰りましょう」

「えっ、もう帰るのかい?もっとコロポックル達と話そうよ・・・」


 次の瞬間Hisaeは自宅のベットの上で目が醒めた。

「????なに????夢???」

ベットから起き上がっり、Sizuの寝ている部屋に入り、いきなり
寝ているSizuを揺らし「おい、Sizu起きろ・・・」

「なに???あっ、姉さんおはようございます」

「お前さ、今、夢見てなかった??」

「姉さんとアイヌ部落で妖精達と遊ぶ夢見たけど」

「やっぱり、あの夢は本当だったんだ・・夢に妖精のPino出て来た?」

「Pinoちゃんや10人の仲間もいたよ」

「同じだ。あんた夢を操作できるのかい?」

「操作かどうか解らないけど、こういう夢視たいと思ったら。
なんかその夢が視えるけど」

「へ~~、そういうこと出来るんだ。今朝の夢みたいに二人同時に
同じ夢も視られるのかい?」

「姉さんと前世の何処かで一緒だったのかな?って思って寝たの。
同時に同じ夢を視たいとは思ってなかったけど・・・」

「そういうことか。あんたの能力は凄いよ。そしたらさ、あんたが
なんで今回は自閉症という表現方法で産まれてきたのか知りたいと思わない?」

「それ解らない・・・解りたいと思わないし・・・」」

「そっか・・・ごめんねSizu」

「はい」

「話し変えようね。Sizuはアイヌ以外に他の世界にも遊びに行くのかい?」

「たくさん行きました」

「何処か思いでに強く残る夢ある?」

「印度でヨガをやってました」

「それはどんな想い出があるの?」

「肉体の感覚を超越して光の世界に繫がる修行をヨガを通してやってよ」

「ヨガね・・・で、出来たの?」

「結構簡単にやってたよ」

「今のSizuは出来ないのかい?」

「必要ないからやってない・・・」

「なんで?」

「出来ても役に立たないもん」

「・・・なるほどね。しかしお前本当に変わったね。これからもその
感覚を磨いてね。頭は限界があるから感覚を研ぎすますのよ」

「はい、姉さんのおかげです」

「なんだい、そんなお世辞も使うようになったのかい」

「お世辞ではありません。Sizuの本心です」

「はい、ありがとう素直に受け取っておくよ」

【HisaeとSizu】10-8

8.「亡くなった母からのメール」

Sizuが実家に戻って一ヶ月が過ぎた。

Hisaeは仕事に追われ寝る暇も無く働いた。チャネリング小説という
分野を確立したおかげで依頼や問い合わせが多く、仕事に追われる毎日が続いた。

「あ~~~。Sizuの奴がいたおかげで結構助かってたんだな・・・
なんで帰したんだろう???あれはあれで楽しかった・・・・」

最近のHisaeはSizuのことでひとり呟くことが多くなった。

チョット、エバに電話してみよっと。

「もし~~~エバかい・・・Sizuからなんか言ってこない?」

「なんにも言ってこないけど・・・どうして?気になるなら自分で
電話してみたらいいジャン・・・」

「なんで私が?Sizuに電話しなきゃいけないのよ」

「そうよね・・・で、何にか用なの?・・・」

「何かって???」

「用事あるから私に電話くれたんでしょ?」

「あ・・・いや・・・もういいのゴメンね」

姉さん、Sizuが帰ったもんだから淋しんだ・・・わかりやすい
ババァだ・・・・顔に似ず可愛いかも・・・

エバは即、Sizuに電話した。

「Sizu・・エバだけど今日辺り店に遊びに来ない?
・・・えっ??Hisae姉さんなにやってるって?
わたし知らないわよ・・・自分で電話してみたら?」

あの二人どうなってるの?・・・姉さんはめんどくせ~~けど
Sizuは可愛い・・・

エバの計らいで同時にオネエの髭で顔を合わせることになった。
二人には当然内緒であった。


 「いらっしゃいませ~~~。姉さん久しぶりね・・・生きてたの?」

「当たり前でしょ、私を誰だと思ってるの・・・たく!」

「なんかイライラしてる?」

「なんもしてねぇよ・・・カタチチのエバさんよ・・・」

「やだ・・・なにそれ・・・喧嘩売ってる~~」

「売ってねえし・・・早く、いいちこ飲ませろ・・・」

「Hisae姉さん怖い~~~」

「うっせ・・・早く持ってこい」

その時ドアが開いた。

エバが「いらっしゃいませ~~~Sizuちゃんいらっしゃ~~~い
このオバサンの横の席、怖いからこっちに座りなさい」

Hisaeが「エバ・・おまえ、うるさい・・・」

Sizuが「わ~~い、姉さんだ~~~ちゃんと食べてるの?夜寝てる?」

「うん、寝てる・・・ていうか・・・お前は私の保護者か?」

全員笑いにこけた。

「家に帰ってなにやってる?」

「うん、ハローワーク行ったり。ネットで求人募集見てるよ」

「そっか。働いてみたい会社は無いのか?っていうか何がしたい?」

「姉さんみたいな仕事したい」

「そっか・・・」急にHisaeの顔が明るくなった。

「お前にあのパソコンあげるから、あんたの自宅で私の仕事手伝いなよ。
どう?給料は歩合制で?」

「・・・やりたい・・・また姉さんと仕事したいもん」

「わかった、じゃあ明日PC持ってお前の家に行くから。
お父さんお母さんにも挨拶するよ。それでどう?」

Sizuは親に報告すると告げ喜んでエバの店を出ていった。

「エバ、お前企んだろ。私達を会わせるように」

「偶然で~~~す」

「馬鹿野郎Sizuがひとりでオカマバーに来るか・・・アホ・・・ありがとうねエバ」

「ぐうぜん~~で~~す」


翌日パソコンを抱えたHisaeがSizuの家を訪問し、
話しがまとまった。

Hisaeも元気を取り戻し仕事に励んだ。

そんな矢先、一通のメールが届いた。

「前略 Hisae様 私は40歳、普通の主婦です。主人は公務員で
娘1人の3人家族。10年前に下の娘が6歳で他界しております。

この度、Hisaeさんにお願いがあってメールいたしました。
娘が旅立った先の霊界での生活を小説にしてもらえないでしょうか。

向こうの世界でどんな生活をしているのか知りたいのです。
依頼料は100万円の用意があります。
是非ご検討願えないものでしょうか。 山岸杏奈」 

この手の小説を請負うのは難しいのよね。

「メール拝見いたしました。残念ですがこの仕事は、お受けすること
出来ません。申し訳ありません。 Hisae」

またメールがあった。

「どうしてでしょうか?お聞かせ下さい。  山岸杏奈」

「霊界のことは私には解らないからです。失礼します。 Hisae」

そして数日が経過、また山岸からメールが届いた。

「先日は大変失礼しました。こんどは違う形で申込みいたします。
他界した娘のを主人公とした小説でお願いいたします。 

娘が大学を卒業し高校の先生という道を選びました。

生徒から評判の良い教師一筋の一生です。子供は女の子二人で、孫も
二人おり何処にでもいる普通の女教師として描いて下さい。 山岸杏奈」

Hisaeは首を傾げた。当たり前すぎというか文面から伝わるバイブ
レーションがどうも気になる・・・どうしようか・・・?

この感覚はHisaeが以前何処かで味わった記憶がある、言葉で表現
できない。だが確実に経験した感覚だった。

「なんだろう・・・しっくりこない・・・そうだ」

メールを返信した。

「イメージを作りたいので娘さんの写真を添付して下さい。 Hisae」

返信がきた「娘が死去して数年後に火災に遭い、思いで以外手元には
なにも残っていません。  山岸杏奈」

「そうきたか?・・・」

「大変申し訳ありませんがイメージが湧きません。私の手法は依頼者
からのバイブレーションを文章に創作してまとめます。

今回はそれが感じられません。イメージが湧かない仕事は書くことが
出来ません。すみません。 Hisae」

後日、また山岸からメールが届いていた。

「初めまして、私は山岸アズミと申します。杏奈という名前で
Hisae様とメールのやり取りがあったと思いますが、杏奈は他界した母の名前です。
私には事情が解りません。なぜ私のPCであなたに・・・
誰がメールしたのか皆目見当がつきません。

文面を見るとHisae様は、何か物書きを職業にしてるかたと見受けられます。

失礼とは思いますが簡単で結構ですので、事情を聞くわけに
いきませんか?悪戯なら返信の必要ありません。 山岸」

「なに?これ・・・?やっぱり・・・」

Hisaeはあの違和感の原因が何となく把握できた。

ひととおり事の経緯を山岸アズミにメールした。

また返信があった。

「Hisae様 私のかってで恐縮ですが、母とメールのやり取りを
続けてもらえないでしょうか?当然代金はお支払いいたします。

他界した母が今何を考えているのか知りたい気もします。

姉とも相談した結果、Hisae様にお願いしてみようという事になりました。

小説は適当でかまいません。母とHisaeさんのメールの
やり取りに興味があるからです。

是非願いいたします。私達の希望を叶えて下さい。 山岸アズミ・姉ムツミ」

「・・・・乗りかかった船・・書いてみるか」

Hisaeはキーボードに手を置いた。

「山岸杏奈様 この小説を書くにあたり多数質問があります。
質問に返答いただけるのでしたら執筆したいと思います。 Hisae」

「Hisae様 ありがとうございました。さっそく質問に
お答えしたいと思います。どうぞお聞き下さいませ。 山岸杏奈」 

「質問1、お二人のお子さんの産まれてからの思い出に残る
エピソードをお聞かせ下さい。Hisae」

「Hisae様 長女ムツミは小さい頃から気の利く子でした。
あの子がまだ3歳の頃、私が風邪で高熱を出して寝て
おりましたら、よちよち歩きのムツミは、私のそんな姿をみていた
あの子は、自分で冷蔵庫のフリーザーを開けてアイスノンを取出し、
私の枕元に持ってきたことがありました。

アズミは活発な子でした。いつも姉のあとをついて遊んでおりました。
でも、目をそらすと何処か違うところに勝手に行ってしまうので、
ムツミに叱られては泣いておりました」

こうして母杏奈の文面は長々とつづられていた。

家族への愛情に満ちたその文面から、生前の母としての思いが痛いほど感じられた。

「質問2、将来理想とする山岸家の夢をお聞かせ下さい。 Hisae」

「Hisae様 ムツミもアズも人並みで充分です。家族が皆、
健康で明るく、いつも笑いの絶えない家庭であることが私の
願いです。そして二人の子の笑顔が私の最大の望みです。 杏奈」

Hisaeは文面を見ていて心うたれ、熱いものが頬を伝わっていた。

我が子を思う母の愛情が強く伝わる文章だった。

数時間後ムツミとアズミからメールが届いた。

「Hisae様 私達姉妹はHisaeさんのおかげで改めて、家族を
思う母の愛情を感じております。二人で涙しました。

最後に、私達から母親にメッセージを伝えて下さい。

『お母さん、ムツミもアズミも幸せにしてます。

これからも私達家族仲良く生きていきますから、お母さんも天国から
視ていてください。こちらのことは心配しないでね。

産んでくれてありがとう。大好きなお母さんへ。ムツミ』

『お母さん、生前は心配ばかりかけてごめんね。
私は思い立ったらなにも考えずに行動してしまう癖があるの。
いつもお母さんには迷惑をかけてしまいましたね。

私の目標はお母さんのような母になることです。

私の生涯で最大級の感謝を送ります。お母さんありがとう。

今度また産まれる時はお母さんの子供に産んで下さい。
アズミ』そちらの世界で又会いましょうお母さん」

その後、杏奈からのメールが途絶えた。

「Hisae様 先日は誠にありがとうございました。
母は昨年病死しました。死後も私達のことを
気遣っていたことに、私達は感謝と同時に泣きました。

そして、Hisaeさんの仕事のすばらしさに感謝しております。

ただ、母のメールには父親のことがひと言も書かれておらず不思議でなりません。

このようなケース場合、何か事情があるのでしょうか?
心あたりがあったら教えてくれませんでしょうか?アズミ」

「アズミ様 私のところに来たメールは、全てそちらのPCからのもので、
それ以外の文面はありません。確かにお父さんの事は、何も書かれておりません。 
私も理解できません。Hisae」

どうしたことかね?なんで父親が出てこないんだろう?
恨みか何かあるんだろうかね?ま、私には無関係・・・


それから数ヶ月、HisaeとSizuは忙しい日々が続いた。

Hisaeが「Sizu久しぶりに焼き肉食いに行こうかどう?」

「焼き肉行きたいです」

「了解、じゃあいつもの春光園で6時に待ち合わせ。
それと今日はオネェの髭でも行こうか。だから、私の家に泊まるって
お母さんに言ってから来な」

「乾杯~~」Sizuは満面の笑みをしていた。

「Sizu何か良いことあったのかい?」

「無いです・・・」

この頃のSizuはビールが飲めるようになっていた。
憧れのHisaeと乾杯したいが一心で、父親にビールを飲めるように
手ほどきを受けていた。

「にしてもなんで笑ってるの?」

「なんでも無いのだ」

「バカボン親父、禁止したろ・・・」

「ごめんなさい」

二人は焼き鳥を抱えてエバの店に行った。

「久しぶり~~姉さんとSizuちゃん。おゲンコしてた~~?」

Hisaeが「お前ね、古い言葉使うなよ。Sizuなんのことか
わからんだろうが」

「そうよねSizu元気だった??」

「元気です。エバ姉さんは?」

「ホイ、私も元気だホイ」

「キャ・・・ハハハ・・・」Sizuは喜んだ。

「Sizuこんな馬鹿ほっときな。馬鹿が移るよ・・・」

「馬鹿って移りますか?」Sizuは真剣だった。

「当然移るさ・・・そのうち片乳だけ大きくなるよ」

「キャ・・・ハハハ・・・」

エバは「Sizuちゃん言葉の遊びまで解るんだ・・・
もう、健常者と同じだね・・・凄いよSizuちゃん」

Hisaeは笑顔で頷いた。

【HisaeとSizu】10-7


7.「利 幸」

 Sizuはその後Hisaeのもとで正式に働くことになった。

従来の請負小説をHisaeが担当し、Sizuはチャネリングで
パラレル・セルフの小説を担当する事になった。

Sizuの知名度も徐々に上がり、ブログを見た客が多数依頼してくるようになった。

この頃のSizuは簡単な生活は支障なくこなせていた。

Hisaeが「Sizu今日はどんな人の小説書くの?」

「今日の依頼は大学関係の人なのだ」

「また出たな・・・なのだは禁止」

「無意識につい出ちゃうの・・・・です」

「よくこらえた。頑張れ」

「ハイ」

こうして二人の一日が始まった。

「その大学の関係の人ってどんなパラレルがあるの?・・・それと写真見せてみな」

「はい」PCに添付されていた。

Hisaeはじっと見ていた「この人の名前は?」

「新井田利幸25歳です」

「着信メールも開いてくれるかい」

「どうかしたの?」Sizuは意味が解らなかった。

Hisaeは写真とメールをじっと見ていたが、次の瞬間PCの
キーボードの上に手を置いた。

「この度はチャネリング小説の依頼ありがとうございます。執筆の前に
ひとつ質問させて下さい。あなたの本当の意図をお聞かせ下さい」

「Sizuこのままこの客は様子を見守って。次のメールが入ったら
私に教えてくれる・・・」

「ハイ??・・・・??」

その日の夜、新井田からメールが届いた。

「姉さんメール来たよ・・・」

「おっ、来たか・・・どれどれ」

「Hisaeさんの洞察力には驚かされます。偽りのメールで申し訳
ありません。私は先日、オネェの髭であなたと同席していたメガネで
スーツ姿の50歳の中年男です。新井田と申します。

話を聞いて個人的に沢山の質問をしたかったのですが質問が敵わぬまま、
あなたが帰ってしまわれました。

私は帰宅して早速PCで検索し、ホームページに辿り着きました。
最初はメールで質問する予定でした。がどういう訳か書いた文面が、
私の息子の名前を使って書いてしまいました。

私の息子、利幸はSizuさんと同じ障害者です。もしあなたの言って
いた、パラレルワールドの息子が存在するならばどんな生活をしてるのか?
その世界でも障害を持って生まれているのか?

Hisaeさんに大変失礼だと思いながら、息子を思う親心からか、好奇心を優先
してしまいました。この度のチャネリング小説申込を撤回いたします。
本当に申し訳ありませんでした」。

一緒に添付された写真には、二人並んだ姿があった。

「おっ、このおやじ覚えてる。私への視線がやたら真剣だったんだ。
そっか、そういうことか・・・」

Sizuに新井田のことを分りやすく説明した。

「Sizuこの男の子よく視て。この男の子のパラレル視てみな?視えたら教えて」

Sizuは写真を凝視した。

「姉さん、この人は時計とかメガネとかを修理する人。それと学校の
先生で数学を教えてる。それと動物園で働く人、猿の飼育やってる。まだ視る?」

「いや、ありがとうね」

Hisaeはキーボードに手を置いた「新居田様メール拝見いたしました。
息子さんのパラレルセルフには、貴金属の小物を修理される方と。
学校の教師。動物園で働き猿の飼育する方が存在するようです。

視る限りではいずれも健常者です。たぶん、今の利幸くんが障害者を
演じているのは、この世界のご家族とのカルマかも知れません。
それが私とSizuの見解です。   Hisae」

返信が届いた「ありがとうございました。メールを拝見して驚きました。
利幸は動物が好きで、今でも頻繁に上野動物園に行っております。
とくにチンパンジーが大好きで。オリの前から離れません。
それと、子供の頃から手先が器用な子です。どこかでパラレルと影響し
合ってるのかもしれませんね・・・」

Hisaeはそのメールを見て宙を凝視していた。

「姉さん・・・ネェ・・ネェさん・・私寝るから」

Sizuの声は全然聞こえてなかった。


 翌朝、Hisaeは早くからPCの前にいた。

「新井田様。利幸さんと一度会わせてもらえませんか?
ハッキリしたことは今の段階で云えませんが、
私にはある構想があります。会った時に説明いたします」

そして新宿にあるホテルニュートラルのラウンジで5人が顔を合わせた。

利幸の両親とHisaeとSizuはテーブルを囲み挨拶をした。

「君が利幸くんね。私はHisaeと、この娘がSizuです。よろしくね・・・」

利幸は頭を軽く下げた。そして母親の顔を不安そうに覗き込んでいた。

「お話しはご主人から聞いてると思いますが、私からもう一度説明
させていただきます。これがSizuの障害者手帳。
半年前までは自閉症と位置づけされていました。

私が友人から紹介されてSizuの持っている能力に興味を持ちました。
Sizuが失業と同時に家に遊びに来るようになったんです。

その間、数ヶ月私がSizuにしたことは、彼女の潜在意識に朝晩2回
働きかけることでした。

『Sizuの表現方法はそれだけではない。もっと違う表現方法を
見つけよう』って・・・それ以外何もやってません。

私は、ただ毎日同じことを話しかけることだけ、それ以外のことは望んでもいないし。
どういう風になるか想像すらしてませんでした。ある時その友達の・・・」

「Hisaeさん、オネェの髭のことは全部家内に話してありますから、
そのまま話して下さい。気遣いありがとうございます」

「あっ、はい。その店のエバという友達に指摘され、私が逆にビックリ
させられたんです。ですから、私がやったのはSizuの潜在意識に
語しかけるだけ。それ以外特別なことはなにもやってないし、心当たり
ありません。そういうことです」

横では、利幸とSizuがなにやら会話をしていた。

Sizuが「姉さん、利幸くんがね。前にオバサンに殴られたんだって。
だから今優しくしてもらうんだって」

Hisaeがじっと二人を見つめていた。


 母親が「あの~~う。利幸にオバサンとか叔母はおりませんけど・・・」

Hisaeは「Sizuもう一度、分りやすく話してくれるかい?」

「うん、利幸くんが、前にオバサンに殴られその傷が元で死んだの。
だから今、オネェちゃんが優しくしてくれるんだって」

利幸の両親はSizuの言葉に理解できず頭を傾げた。

Hisaeは「利幸くんが、なんでこのような障害者という表現方法を
とったかが理解できたような気がします。これは前世の問題ですね。
因みにお姉さんがおられるんですか?」

「はい、2歳違いの姉がおります」

「そのお姉さんは利幸くんに対してどうですか?」

「とっても優しいです。子供の頃はそうでもなかったんですが最近は
とても弟思いの姉です」

「これは私の推測で、ひとつの仮説です。どう取ってもらってもも
かまいません、多少話しはぶっ飛びます。

利幸くんは、前世でオバサンと何かあったようです。その時のオバサンの
魂が、今のお姉さんとして生まれ変わり利幸くんの助けになってる、
これで帳消しゼロ。カルマの解消。

これ、私のひとつの仮説で、当然断言できません。
ただ、Sizuにはそういうことを察知する能力があるんです。

魂には陽の因子と負の因子がたえずバランスを取ろうとしています。
最終的に調和の状態を目指します。

俗な言い方をすれば貸し借りゼロの状態です。

今、利幸くんとお姉さんはその状態にあると考えます。ベストな状態といえます」

両親は黙って聞いていた。

「このままで好いということですか?」母が聞いた。

「今現在は良い状態だと思いますが、お姉さんも年頃。自分のことを
考えなくてはいけませんよね。

子離れという言葉がありますが、弟離れも必要かと思います。遅かれ
早かれその日は必ず来ます」

父親が「利幸をSizuちゃんのように・・・その、潜在意識に
働きかけるにはどうやればいいのですか?教えて下さいお願いします。
私達に出来るのでしょうか」

二人の真剣な目線が利幸に注がれていた。

「理論的に可能です。ただ何度も云うようですが、もしかして偶然の
結果かSizuの能力がそうさせたのか?まったく分らないの。
それでも良いですか?」

「はい、かまいません」

「そうですかじゃぁ、利幸くんを何ヶ月か私に預けて下さい。
Sizuにやった方法でやってみます。下宿代だけひと月5万円下さい。それで良ければ」

「はい、お願いします。私の方から利幸に話して聞かせます。準備が
出来たら連絡しますが、Hisaeさんの方のご都合は?」

「布団用意したり色々準備します。来週に入ったらいつでもかまいません」


 そして、利幸がホームステイにやってきた。

「Sizuあんたが色々と生活のサイクルを教えてあげなね。私もやるから・・・頼むね」

「姉さん・・・」

「なに?」

「お風呂一緒ですか?」

「駄目よ・・・別々。当たり前でしょ・・・」

「利幸くん一人で洗えますか?」Sizuが聞いた。

「嫌です、できません。洗えません・・・」

SizuはHisaeの顔を見て「だそうです・・・」

「う~~~ん。分ったよ、私が水着きて入るよ。水着あったかな???遠い昔着たような
気がするよ。お前、はやく自分で洗えるようになれよ。もう25歳だろが・・・」

こうして3人の珍生活が始まった。

「利幸、お前は何が出来るの?」

「・・・お母さんって帰る」

「しばらくはここで生活するんだよっ」

「お父さんって帰る・・・」

「そのうち帰えれるから・・・」

「おねえちゃんって帰る・・・」

「Sizuお前からも何とか言ってよ」

Sizuはニヤニヤと笑いながら利幸を観て「ダメ・・・!」

「はい、です」利幸は即答した。

SizuはHisaeの顔を見て「だそうです」

「うそ・・・・あっ、そう・・・・この二人なんなの?・・・」


それからHisaeは朝晩2回利幸の潜在意識に語りかける日が続いた。

Sizuの時はやっていなかった観察日記を付けるように心がけた。
意識の変化を克明に付けることで何かが分ると考えた。


 利幸と暮らし初めて一ヶ月が経過した。

基本的な利幸の行動パターンが把握できた。

そしてSizuの言葉に反応しやすいことも分った。

それが変化なのか、日常の馴れなのかはまだハッキリとしない。

二ヶ月目が過ぎた辺りから何となく変化の兆しが見え始めた。

まず、テレビではマンガ主体だったものが、バラエティーを見るようになり。
そしてポイントポイントでしっかりと笑うようになっていた。

「花子、利幸、今日は吉祥寺に行って花子と美味しいご馳走でも食べようかね」

「ハイ・・・ですう」利幸だった。

「利幸あんたはタラちゃんか・・・」

「が、はははは・・姉さん面白いです」利幸が言った。

「そっかい・・・受けて良かった」

Hisaeは利幸の変化に気が付いていなかった。そばでSizuが
微笑んでいた。


 三人は吉祥寺にやってきた。

「花ちゃん久しぶり、こいつは利幸」

「利幸くん初めまして、花子です」

「ぼく利幸です・・・」

予め予約を入れておいた中華の春香飯店に4人は向った。

Hisaeは花子に利幸のことを報告していた。

「Sizu、利幸、好きなもの注文しなさいな」

「僕、天津飯と餃子お願いします」

「はいよ、Sizuは?」

注文したものが揃い4人は乾杯をした。

Hisaeが口を開いた「花ちゃんさぁ、今日は何かとニヤニヤにやけてない?」

「なんでたと思う?」

「・・・分らないよ・・・なにさ?」

「そのうち分るよ・・・」

その時だったHisaeの脳裏にあることが甦った。

昨年、Sizuを花子に会わせた時、やはり今と同じ事を花子から
言われたことを思い出した。

Hisaeは最近利幸日記を付けていなかった・・・というか利幸に
変化が感じられず、ただ怠けていたのだった。

Sizuの時もそうだったが自然と変化していたので気付いていなかった。

いきなりHisaeは「おい、利幸、お前なんか聞きたいことないか?
この花子姉さんはなんでも答えてくれるよ」

「僕は、なんでみんなと違うんですか?」

花子は微笑んで「みんなと、なにが違うの?どこが違うの?こっちが
聞きたいけど・・・」


「だって、みんなは仕事に行ってるでしょ。姉さんもSizuちゃんも
働いてるでしょ。僕、なにもやってません。みんなと同じ事出来ません」

そばで聞いていたHisaeは「利幸が他人と自分とを比べている。
っていうか文章になってる・・・こいつ・・・変わった・・・」

HisaeはSizuの顔を見た。

Sizuは母か姉のような眼差しで黙って利幸を見ていた。

一通り食事も終わり、Hisaeが思ってたことを切り出した。

「花ちゃんこれで二度目の経験なんだけど具体的に教えてくれない?どういうこと?」

相変らずの笑顔で花子はゆっくりと話し始めた。

「潜在意識に話しかけるってそういうことなの。気付く切っ掛けを
与えたの。二人の潜在意識にこれまでと違う表現のしかたを
Hisaeさんが気付かせたの。二人はそれに応えたのね」

「もう利幸は実家に戻してもいい?」

「うん、気付きは忘れないよ。一生涯」


 利幸を帰宅させる時が訪れた。

「利幸、今日またみんなで食事に行こうか」

「僕行きません。姉さんの家が良いです」

感づいている・・・・Hisaeは思った。

「新宿のホテルだよ最初に私達と会ったところ。覚えてるでしょ。
お父さんもお母さんも一緒だったでしょ」

「今日もお父さんとお母さんは来るの?」

「はい、来ます。久しぶりだね。お前が会って、帰りたくなったら
そのまま家に帰っていいよ・・・」

「・・・・・」

利幸は急に我が家が恋しく思えた。

利幸の母親が「お父さん、利幸はどんな風に変わったろうね」

「そうだな、利幸がHisaeさんのところに行って、お前と姉ちゃんは、
気が抜けたようになってたからなぁ。途中経過も全然聞かされてないし。
ドキドキするよ」

ホテルのラウンジでは、姉も一緒に三人そろって利幸が来るのをじっと待っていた。

出入り口のドアが開いた。

最初に入ってきたのが利幸だった。脇目もふらず家族のテーブルに歩いてきた。

三人の顔を見て「・・・みんな顔怖いよ・・・どうしたの?」

そのわずか数文字の言葉は利幸の歴史を覆す言葉だった。
家族には充分すぎるほど解った。

瞬間、三人の目から大粒の涙が溢れていた。

両親はHisaeのほうを向いて何度も何度も頭を下げた。

6人は席について食事をした。

健常者と比べるとまだ多少ぎこちない話し方だが、以前の利幸を
知るものは激変してることに驚きを隠せない。

食事を済ませHisaeから利幸に言葉をかけた。

「利幸、ここからお前は自宅に帰りなさい。お父さんお母さんに
しっかり報告しなさい。分った・・・?」

「はい・・・」

「それから一人で何でも出来ること見せてあげな。風呂も一人で入れて
洗えるよってね。分ったの?」

「それから・・・」

すかさずSizuが「姉さん、しつこいぞ・・・」

瞬間みんなの緊張がほつれた。

Hisaeは「くれぐれも甘やかさないで下さい。すべて自分で決め
させてください。私からはそれだけです・・・」

その場からHisaeとSizuが出て行こうとした時だった。

利幸が「姉さんSizuちゃんありがとう」と手を大きく振った。

ラウンジをあとにする二人の目も涙で赤くなっていた。

Hisaeが「Sizu」

「なに?姉さん」

「エバのところに行って飲もうか。今日は利幸に乾杯だべ・・・」

開店時間より少し早めだったが店に入り、エバと三人で乾杯した。

「姉さん、大変なことしたよね。たぶん歴史覆すかも。キリストが死者を蘇えさせた。
モーゼが海を割った。釈迦が水の上を歩いた。次ぐらいに大変な偉業かもよ」

「それがさっ、実感がないのよね。Sizuといい利幸といい手応えが
無いのよ。こう・・・やったっていう手応えが。
なんか気が付いたら変わってたみたいな・・・」

「で、今後どうするの?また聞きつけて問い合わせあるかも」

「もう、お断りよ。結構エネルギー使うし、依頼者の期待に添えるか
どうか自信ないよ。万一期待を裏切る結果になったら依頼者どう思う?
すごく落胆すると思わない?たぶん半端無い落胆だと思う。
だったら最初から安請け合いしない・・・」

「確かにそうよね・・・」

「わかった、私も口止めするね」


その後、問い合わせがあったがHisaeは取り合おうとしなかった。

確証のない安請け合いはしないと心に決めたHisaeだった。

その後、Sizuも実家に戻り元の一人暮らしになった。

「さあ、久々にCONAに行ってヘアースタイルを決めて
ひとり淋しく寝ようか・・・・Sizu・・・・・」

【HisaeとSizu】10-6

6.「Sizuと花子と覚醒」

 「花ちゃん久しぶり。この娘Sizu」

「私、花子初めまして」

「Sizuです・・・なのだ」

「なのださん、よろしく・・・」

花子にはSizuのことを話していた。

ホームレス花子とは吉祥寺のアーケード街で椅子とテーブルを置いて、
相談者のガイドとチャネリングやスピリチュアルなカウンセラーを
職業としているホームレス上がりの女性。

花子は横浜で大学卒業と同時にホームレスの中に入り、
次郎さんという老人に師事した。

その次郎が殺されたのを期に精神的に乱れてしまう。

そんなある時、突然悟りを開き突如ホームレスを辞め、吉祥寺の実家に
戻り、今は、サンロードで店を広げ相談者の話し相手をしている。

Hisaeとはエバの紹介で数年前から親交があり、年に何度か酒を
飲む間柄でもあった。

境涯の高さからエバやHisaeの相談相手にもなっている存在。
それがホームレス花子のだった。

吉祥寺の居酒屋Noroで焼き鳥を食べる約束になっていた。

「乾杯」

「Sizuこの花子姉さんは何でも答えてくれるから聞きたいことが
あったら聞きなよ」

「・・・・・ホームレスなの?」

「うん、昔、横浜でホームレスしてた」

「Sizuちゃんは?」

「Sizuは印刷屋さん・・・なのだ」

Hisaeが「電話で話したように小説では表現が普通なのにこうして
話すと断片的なのはどうして?」


 「元もと魂の段階つまりエーテル体では障害者はひとりも存在しない。
肉体がないから当たり前だけど。でもこの世での表現方法を障害者
というかたちで表現してる魂もあるの。こうしてSizuちゃんのように」

「なんで?」

「ひとつの表現方法よ、今世では、そういう表現の仕方を選んだのね。
こういう場合は、潜在意識に語りかけるの、他にも表現方法があることをね。
すると変わるよ。現にこの子は今小説という表現方法を選んだのよ。
だんだんとSizuちゃんは変わるよ・・・」

「そうなんだ・・・でも、他にもそういう子はいるけど、
なんでSizuちゃんは小説なの?」

「Sizuちゃんはチャネリング能力あるでしょ」

「うん、すごく強いよ」

「自分の頭で考えてないのよ。いわば、勝手に湧いてくるって表現した
方がはやいかな。キーボードから手を離したらすぐ戻るよ」

「確かに云えてる」

「Hisaeさん次第でだんだんと変わってくるよ。仕事上差し支え
ないのなら、そのまま雇用してみたら?

HisaeさんもSizuちゃんの能力に同調して、新たな自分を
発見できるよ、きっと・・・お互いの相乗効果にもなるから」

「なるほどね。さすが花ちゃん的確な意見ありがとう。Sizuちゃんあんた分ったの?」

「分った・・・なのだ」

「お前、キ-ボード持ってあるきなよ。普段とまったく違うんだから。もう・・・」

「違うのだ違うのだ・・・・違うのだ違うのだ」

「勝手にやってろ・・・」

花子が「他の才能も開花されると思うよ」

「Sizuに?」

「いや、二人に」

「二人?・・・」Hisaeの声が大きくなった。

「どういう事・・・」

「まだ分らない」

「ふ~~ん、期待して待ってるよ」

その時Sizuが「美味しいのだ・・・」

「なにが?」Hisaeが聞いた。

「餅ベーコンなのだ・・・」

「あっ、そう。あんたは幸せでいい」

こうして三人は楽しい時間を過ごし帰宅した。


翌朝「Sizuおはよう・・・もうキーボード叩いてるのかい?
ちゃんと寝たのかい?」

「・・・・・」

「無視かい・・・PCの前に座ると外界とはシャットアウトだものね、
その驚異的な集中力私も欲しいよまったく・・・」

さて、このままじゃぁHisaeらしくないから。

Sizuをどう導こうか・・・?

チャネリング小説か・・・

誰とチャネリング・・・

なにをチャネリング・・・

どれもベタだよね・・・・

突然なにかを書きたい衝動に駆られたのでとりあえずキーボードの上に手を置いた。

画面に「体外離脱」という文字を無意識で入力していた。

体外離脱?・・・そっか!!面白い。

Hisaeはリビングに向った。

「ねぇ、Sizuチョット手を止めてくれる」

集中しているSizuには聞こえてない。

「ねぇ、Sizu・・・お~~い・・・???

こら、Sizu手を止めろ、てめぇ・・・このやろう」

Sizuはやっと気が付いた「???・・・なのだ?」

Hisaeは肩を落とした。

「Sizuごめん・・・おはよう」

「おはようなのだ・・・はい、なんなのだ?」

「お前、正気に戻るまで長いよ・・・」

「????」

「まっ、いっか・・あのさ、Sizuは夢に入ること出来る」

「??・・・・??」

「寝てる時夢見るだろ」

「はい」

「その夢に入ること出来るのかい?」

「???」

「じゃぁ、夢を自分で作ること出来ますか?」

「うん、出来る・・・」

「今日のお昼ご飯を食べたら、私と一緒に昼寝しようね」

「??・・・なのだ??」

Hisaeは試してみたいもくろみがあった。


 軽い昼食を済ませた二人はアイマスクをして手を繋ぎ、シーター波
発生CDをかけて横になった。

「いいかい~~~これからゆ~~~っくりこの音楽を聴いて」

二人が横になって5分が過ぎた頃だった。

急に意識が頭から抜ける感覚がしたと思ったら次の瞬間広い空間があった。
視界のはるか先には高い山がそびえ立っていたが、どういう訳か距離感が
全く感じられない。

景色を眺めているといつの間にかHisaeの横にSizuが立っていた。

Sizuが話し始めた「姉さん、ここはSizuの意識の一部。
私の意識にようこそ」

「Sizuここは何処?」

「私の中にある世界の一部」

「一部と言うことは他にもある?」

Hisaeが質問した次の瞬間景色が変わった。

そこは宇宙空間で視界の先には月があって、その向こうには青い地球が浮かんでいた。

「月?」

「そう、月の裏側、後ろの青いあれが地球」

Hisaeは言葉を無くした。

次の瞬間場面が中世のヨーロッパのような雰囲気に変わった。視界の先には城が見えた。

「ここも、Sizuの一部?」

「はい」

次の瞬間、南米の密林で川の水を、木の皮の器に入れている人が現われた。

「ここもSizu?」

「そう」

次の瞬間、小さな庭で丸いテーブルを囲んで、お茶をしながら話している
三人の女性が視界に入った。その刹那Sizuとエバと私と実感した。

そして二人は現実に戻った。

「なんだこれは?」Hisaeが叫んだ。

横でSizuがにやけながらHisaeの顔を見ていた。

Sizu・・・まったく普通・・・なんで???

そうよね、数%の表面意識は自閉症のSizuだけど霊体は全く別よね。

なんで、わざわざ自閉症のSizuを演じてるの?

だんだん面白くなってきたよ。

小説書いてるよりリアル感があるからおもしろいよ。


それから事あるごとに二人は同時に体外離脱をして別世界を
楽しんでいた。だが、Hisaeには、あるもくろみがあった。

自閉症のSizuは表現方法のひとつ。本当のSizuというのは別。

自閉症の表現意外に本当のSizuがあることを教え込んでしまおうと考えた。
それから数ヶ月間ほとんど毎日のように二人は体外離脱を繰り返した。

「Sizu昼ご飯頼むよ」Hisaeが言った。

「任せて下さい。で、なに食べたいの?」

「う~~ん、Sizuはなんか食べたいのある?」

「モスバーガー食べたい」

「おっ、たまにジャンクもいいか。私は、チキンとモスとポテト頼むね」

「ハイ!」

そう、Sizuの会話にはあきらかに変化が現われていた。

Sizuの家族とHisaeは、変化に気付いていなかった。

その日の夕方「Sizu今日はオネェの髭行こうか?」

「わ~~うれしい。エバ姉さん久しぶりだ嬉しい」

あきらかにSizuは変化していた。

Hisaeが「まいど・・・」店のドアを開けた。

「いらっしゃ~~い、姉さん、Sizuちゃん。久しぶり~~。
元気してたの~~」エバだった

Sizuが「エバ姉さん久しぶりで~~す」

エバは唖然と立ちつくした。そしてHisaeの顔を見た。

Hisaeは何事も無いかのようにしていた。

エバは「・・・・・」なにか異次元を視たような気になった。

とりあえず平静を装いグラスに焼酎を注いでSizuとHisaeの前に置いた。

Hisaeが「乾杯」というと。

Sizuも「乾杯」

普通に何処にでもある当たり前の光景だが、Sizuを知るものは
天地がひっくり返るほど驚くことだった。

エバは立ったまま無言になっていた。

そして目から大粒の涙が溢れ大きな声を出して泣いてしまった。

Hisaeが「エバどうした?なにがあった?」声をかけた。

Sizuも「エバ姉さん、どうかしたの・・・?」

気を取り直してエバが二人に言った「Sizuどうしたの・・・?

あんた何があったの・・・?

姉さんSizuになにか魔法かけたの・・・?

私に分るようにいやこの店のみんなに分るように説明して・・・」

Sizuの事をよく知るオネェ3人も目を丸くして頷いた。

Hisaeはここで事の重大さに気が付いた。

「そうだ・・・私は毎日Sizuと一緒だから自然と当たり前に感じていた。
そうだよね・・・Sizuがちゃんと会話できてるよね・・・そうだ。
今・・・気付いた」

エバが「うんそれは分ったけど。どういう風にSizuが変わったって
いうか変えたの?」


 Hisaeが「たぶん体外離脱を毎日欠かさずやってるから、
Sizuの表面意識が変化したのかもしれないよ。

体外離脱してる時のSizuは全然健常者だから・・・
肉体がないから健常者という表現も不的確かも知れないけどね。

とにかく何ヶ月もやったよ。事あるごとにこの世での表現方法
変えたらってね・・・そんだけ」

「親御さんはなんて言ってるの」

「そういえばしばらく帰ってないな~~。Sizu、この店はお前家に
近いから今日は帰りなよ・・・」

「Sizu帰りたくない」

「いや、たまには帰りなさい。そうだ、私達1回出るよSizuを
自宅に送ってから私だけ出直す」

そう言って二人は店をあとにした。

二人が帰ったあと店はSizuとHisaeの話題で大変な騒ぎになっていた。


 「Sizu今日は帰ってゆっくりしな。お父さんお母さんに
お土産でも買ってくか。何が好きなんだい?」

「どら焼きが好きだよ」

「本当だ、受け答えがハッキリしてる。私もバカだね、毎日一緒なのに
気が付かなかったよ・・・」


 Sizuの家のチャイムを鳴らした。

「ハイ」

「私、Sizu」

「お帰り、待ってね」

母親が玄関を開けて出て来た。

そこにHisaeが立っていたので丁寧に二人は挨拶をした。

「Hisaeさんにはお世話になりっぱなしですみません」

「いえ、こちらも楽しくやっておりますので」

「中にお入り下さい。主人も買物に行ってるので、すぐ戻りますから。どうぞ中に・・・」

「はい、お邪魔いたします」リビングに通された。

そこに父親が帰宅した。

「やぁ、Hisaeさん来てたんですか?Sizuが世話になっております」

Sizuが「お父さんお母さん只今。今日は池袋のエバ姉さんの店で
飲んでたら。姉さんがSizuの家近いから帰りなさいって言ったの。
それでお土産にって、どら焼き好きだから1200円で買ってくれました」

父親と母親はエバ同様なにが起きたのか分らないでいた。
二人の知る我が子Sizuとは全然違っていた。

二人の心と感情と脳の意見がかみ合っていなかった。

それどころか空白というか虚無のような感覚だった。

場の空気を察知したHisaeが「説明させていただきますが
よろしいですか?」

その瞬間だった、母親が大きな声で泣き出した。その横で父親も顔を歪めていた。

母親が「チョット待って下さい。こ・・・心の整理がまだ・・・・」

HisaeはSizuの顔を見て言った「Sizuは大変なことをしたんだよ。
こんなに喜んでるよ。よかったね」

黙っていたSizuも大粒の涙を浮かべていた。

その情景を見たHisaeも涙が溢れていた。


 時間をおいてHisaeが今までの自分とSizuの経緯を分りやすく説明した。

父親が「まだ、心の整理が出来ていないので正直分りません。
ですが、今は、感謝しております。ありがとうございました・・・」


「Sizuあんた何日間か家に帰ってなさい。それからまたおいで」

そう言い残してHisaeはオネェの髭に戻ってきた。

店に入った瞬間、沢山の目がHisae一点に集中した。
従業員以外ほとんどがHisaeのしらない顔だった。

エバが「姉さんごめんなさい、姉さんの噂をしてたら話が聞きたいって。
つぎつぎこんなに集まっちゃったの」

「あっ、Sizuのことかい?」

「うん」

全員がミミをすまして固唾を呑んでいた。

「分ったは。でも、他言はしないで。私も今日気づいたばかりで、
私自身が動転してるの。まずはと・・・エバ、ビールをジョッキーでちょうだい」


 「何から話そうか?。Sizuのことは?」

エバが言った「それは説明済み。あとはどうやってSizuが変わったか?
ってことを知りたがってるの」

Hisaeはビールを飲みながら話した。

「簡単に説明すると、人の意識体って本当はみんな健康なのね、
だから障害者っていう概念が本当はないの。

この世に生を受けてから、たまにその意識体が歪な表現をする場合が
あるの、それが精神障害だったり身体障害だったりするの。
それ以外にも色々要因はあるけど一般的に大まかに。

私はそれを知ってたからSizuちゃんの意識に、違う表現方法も
あることを数ヶ月かけて教えたのよ。

そしたら徐々に変わってたのよ。私は毎日一緒だったから実感が
なかったのね。今日、エバに私的されて私も気が付いたの。

今、実家に行ったら両親は大泣きしてたの。私も思わず泣いてしまったわ。
部屋の空気が一変した瞬間って凄いよ。

その夜は終始Hisaeへの質疑応答で終わった。

「最後にこの事は他言しないでね。Sizuちゃんだからそうなったのか
分らないの。他に依頼があっても私責任もてないからくれぐれも他言し
ないで下さい。お願いします」

【ニュートラル・イン】2

「ステージ」

 ニュートラル・インで第2ステージが開始された。

指導員小林が「では時間になりました。休憩終わりま~~す。続いて
第2ステージに入りますが、その前に第1ステージの簡単なおさらいをしますね・・・
 
まずはじめに、呼吸を整えリラックスしました。

呼吸は総てにおいて大事な基本になります。

 『呼吸は大事なポイント』です。

そして母親の子宮内をイメージしました。子宮内は宇宙と同じリズムでした。
そのリズムと同調しましたね・・・宇宙に病気は存在しません。

子宮内に宿って育つ自分は、心身ともに健康体。本来のすがたでした。

 『本来健康体ここも大事なポイント』です。

病気は成長過程の中で心のひづみ・歪みから生じたものです。

妊娠段階での異常はカルマの問題なので、ここニュートラル・インでは
専門外とさせていただきます。別ステージとなりますので・・・

第1ステージは身体と子宮内宇宙との調和。

第2ステージはさらに一歩進めて再生のステージになります。

では、先ほどのように座り、呼吸を整え準備してください」

証明が落とされスピーカーから再び血流と心臓音が流された。

「では、はじめます。最初は、母親の子宮内にもう一度意識を向けてください。

子宮内の純真無垢な状態です・・・自分の身体が健康体に蘇生されます。

特に疾患のある部位は、丁寧に、丁寧に、一つ、一つ蘇生するイメージを
心にしっかりと焼き付けてください・・・

たとえば臓疾患の人は、健康な時の心臓が鼓動してるイメージ。本来のあなた
の心臓は元気でたくましいのです。なにも問題はありません。

疾患のある方はその部位をピンポイントで健康をイメージしてください・・・
第2ステージ終了少し前にまた合図します。それまで集中してください」

全員、第2ステージ入った。

身体を揺らす者、全身が小刻みに震える者、背筋を伸ばし禅の基本のような者
などそれぞれ個性があった。

 ステージ終了10分前。

小林が「終了10分前です。徐々に瞑想を徐々に解いてください。

何度も云うように焦らずに何度でも何度でもこの一連の作業を繰り返してください。
成果はかならず現れます。以上が第2ステージです」

10分の小休止後最後のステージに入った。


 「では、第3ステージに入ります。ここからの担当はφが受け持ちます」

小林の横で控えていた女性が前に出た。

「この会代表のφです。よろしくお願いいたします。

この第3ステージはメンタルの領域になります。

今までのステージで健康な心身を取り戻しても、もとに戻ってしまってはなにもなりません。

一旦は癒えたものの、また同じことを繰り返す場合が多々あります。
長年の癖とでもいいましょうか・・・

人間にはもとに戻ろうとする癖があるんですんね。

病気というのはネガティブ思いの現れです。そこを変えるには潜在する意識も
変える必要があると考えるからです。

このステージはズバリ、一連の心身の癒しからもう一つ奥にある
スピリチュアルな癒しに移行します。潜在意識も含みます。

このステージを習得していただければ身体だけではありません。
考え方まで変わります。考えが変わるということは行動も変わり結果的に人生も替わります。

かといってこれは宗教でも何ではありません。

普通のことです。当たり前のことなんです。

当たり前のことが、当たり前になされないから病気になったんです。
例外を除いて。ご理解願います。


 このステージも瞑想の姿勢から入ります。

それじゃあ皆さん座ってください。

目を瞑り、わたしの言葉に耳を傾けてください・・・

今度も子宮内をイメージしてください。その中心に自分がおります。
子宮内の羊水は青色の液体で満たされております。

透明感のある青色です・・・

今までのステージを繰り返すことである時・・・急に・・・

あれ?自分の治したい疾患どこだっけ?・・・出てこない・・・
???思い浮かばない・・・あれ?・・・どこが悪るかったの?・・・
突然そういうことが起きます。

『あれ?わたしは何処が悪かったの??・・・忘れた・・・』

不思議ですね・・・でもこれは、どなたも経験してます。

私もスタッフも経験しました。

我々は、病気が消えた瞬間と表現します。白紙のような状態です。
病気に執着が無くなったんですね。そのころから目に見えて回復します。

但し、疾患を覚えてるからと言って効果がないわけではありません。

受講数分後には疾患が改善されたケースも多々あります。

受講前までリュウマチで曲がってた指が帰りには真っ直ぐになってたり、
間接の病みが治まったなどなど症例はたくさんあります。

この違いはハッキリ言って私にもわかりません。

たぶん、病気を心から切り捨てた結果の現れかもしれません。


 ここに来るということは、治そうというポジテブな気持ちの表れ。
受講しようと思い立った時・・・そこからもう癒しは始まってます。

何度も云いますが本来、病気は存在しません。病気は気の迷い。

迷った心を子宮という羅針盤で再誘導し、正常に戻すのがニュートラル・
インの仕組み。宗教っぽく聞こえたら切り捨ててください。

私が若い頃の経験から禅宗が身についてしまったので、表現が偏るのかも
しれません・・・すみません。

因みに、禅宗ではこんなこと一切教えませんけどね・・・
でも、それらを経て今があるのも事実。

寄り道しましたが、このステージは病気を再度繰り返さないためのメンタルの
あり方を説明します。

どっかで聞いた台詞のアレンジですが・・・

『病気を繰り返すか、繰り返さないかは・・・あなた次第・・・』


 こうあるべき・・・こう考えてください、というようなお節介はしません。
各々の考えや思想の邪魔はしません。

私どもの考えるのは、メンタルな偏りが心身に影響するというものです。
偏らないニュートラルが弾力性のある強い心を作ると考えています。

仏教では中道と表現します。偏らない心。

ベタな表現ですが、本来丸い心が弾力性のある円満な状態。

幼子のような・・・

チョットした偏りが、丸を歪に変形し、しまいには角張った余裕のない心に変貌します。

角張った心は他人をも排除したり攻撃したり・・・そして心身の異常に繋がります。

影響を受けた心身は病気になり・・・場合によっては破滅に至ります。とても痛ましい話しです。

そのような時は思い起こしてください・・・子宮の中を・・・

無理して心の痛手を治そうとか、癒そうとか思わなくても好いです。
ただぼ~~~と宇宙を漂ってください。

しまいには、宇宙も自分も子宮も総てがひとつと感ずることがあります。

三位一体の境地・・・これ以上説明するとくどくなるので控えます。


 すべての予防薬は笑いです。笑いから来るワクワク感は最高です・・・
おなじ考え行動するなら、ワクワクすることを考えてください。

私も以前思いましたが、楽を経験するには苦を経験しなければ得られない。

苦が大きければそのぶん楽も大きい、と考えた時期があります。
ハッキリ言って、それは間違ってました。大間違いです。

苦を経験しなければ・・・という考えが前提にある以上・・・必ず苦を
呼んでしまいます。本当は苦なんて無くても構わないのです。

つまり、苦は無くても楽は存在します。

楽だけの呼び寄せが可能なんです。

近年、書店には『引き寄せの法則』を題材にする書物が多くあります。
それが今云った意味です。


 仏教では、難行苦行を捨てた釈迦が、菩提樹の下で瞑想し明けの明星を
観て忽然と悟りを開いたと表現してます。

では、難行苦行の森で6年修行を積んだ釈迦が、それらを捨ててなぜ菩提樹
の下に座したのか?・・・ポイントはここです・・・

そこから仏教ではある意味誤解を生じ、仏教イコール難行苦行が付きものと、
定義付けしたんですね・・・多くの宗派に修行が盛り込まれています。

 なぜ、釈迦が難行苦行を捨てたのか・・・ズバリ、それらが悟りの邪魔
だったこと・・・難行苦行が悟りとは無縁ないことを知ったのです。

偏らない心がベスト・・・だと

そのことに気がついた釈迦が苦行を捨て、心身脱落し、修行の森を飛び出し、
ネーランジャラー河の岸辺で、村娘スジャータが作ってくれた“牛乳がゆ”
を食べ、中道の物差しで反省し、菩提樹の下で8日間座り続け、明けの明星
を観た瞬間、大いなる悟りを開いた。仏教徒なら誰でも知ってること・・・

ここで中道が入ってきます。仏教の根本教義ですね・・・

因みに、中道を説いてるにもかかわらず『我が宗こ仏教の本道。他は邪宗』
と避難・・・おまけに他宗の本尊を排除までした宗派が現在でも存続します。

ここまで来ると中道の意味が判りません・・・実話です。
話しがまたそれました・・・ごめんなさい」

 
  側で聞いていた小林が小声で「φさん、今日はどうしたんだろう・・・?
いつになく力はいってるけど・・・」

スタッフ松山が「きっとφさんも○○会の折伏されたことあるのかもね」

「案外ね・・・○○会、昔は凄くしつこかったって云ってたから・・・」


 「話しそれましたが、ニュートラルはすべての根本と考えます。
偏らない心を大事にされてください。なんせ宇宙ですから・・・

せっかく縁あって、ここで皆さん同じ空間を感じてるわけです。
ニュートラル・インを自分のものにしてください。

ニュートラル・インは害になるものではありません。いつでもどこでも
実践してください。特別な場所も教えもありません・・・

それからアレンジされて、まったく独自の癒し方法を考案されても
好いと思います。

癒される人がひとりでも多い方が素敵ですから・・・

受講されたみなさん、一生のうちの数時間でも皆さんと同じ時を共有
できたこと本当に感謝します。ありがとうございました。

世界が平和でワクワクでありますように・・・

これで、ニュートラル・インの受講を終了します。

ありがとうございました」

【HisaeとSizu】10-5

5.「SizuとHisae」

 Sizuは毎日Hisaeの家に遊びに来るようになっていた。

「姉さんSizu来た・・・のだ」

「ハイどうぞ」Hisaeはオートロックを解除した。


 「Sizuあんたに、この部屋の鍵預けるよだから今度から黙って
入っていいからね。私が留守の時でも勝手に部屋に入っていいよ」

手の渡されたルームキーを見てSizuは嬉しそうにじっと見て
そして呟いた「な・の・だ・・・」

HisaeはSizuに妹のような感覚を覚えた。
Sizuも姉のように慕っていた。


 Hisaeが部屋に籠もって執筆している時は、Sizuが部屋掃除を
するか好きな絵を描くか、なにかをキーボードで打ち込んでいた。

「Sizu今日はヘアーサロンに行こう、KOHEIっていう男の子を
からかいに行こう。決定」

「決定・・・なのだ」

二人はヘアーサロンKONAにいた。

「Hisaeさんいらっしゃいませ。お久しぶりでした」

「こんにちわは、KOHEI。この娘Sizuちゃん。今日はあんたが
やってちょうだい。いいかい綺麗に可愛くネ・・・頼んだよ」

「はいお任せ下さい。こちらにどうぞ」

「??なのだ・・・」

「はい???」

「Sizuちゃんは天才なの、少し寡黙なんだ。だから話しかけないで
ほっといてやって」

「どのような感じにしたいのかと思って・・・」

Hisaeが「Sizuどんな頭にしたいの?」

Sizuが壁の写真を指を差して言った「あれ・・・」

指の先にあったのはモヒカン頭のモデルの写真だった。

「Hisaeさん、ああ言ってますけど宜しいので?」

「チョット待って。Sizuこんな頭にしたいのかい?」

「したいのだ・・・」

「う・・・さすがにモヒカンは・・あんたの場合は親の承認を
もらわないと・・う~~・・・・困った」

KOHEIは初めてHisaeの困惑している顔を見て、うっすらとにやけていた。

「KOHEIなに見てんのよ・・・」

「Sizuその頭は今度にしようよ。お前は就職活動中だからその頭は
チョットまずいかも・・・面接にいった会社の人ビックリするべ・・・」

Sizuが次に選んだのが黒柳徹子風の写真だった。

「KOHEIなんでこんな写真ばっか置いてあるのよ。ここはモデルさん
御用達の店なのかい・・・たくもう?変な写真撤去・撤去。普通の写真集ちょうだい」

「この中からどうぞ」KOHEIがSizuに渡したのはストレート
ヘアーの写真集だった。

「これなのだ・・・」次に選んだのは写真の中では地味な感じだった。

Hisaeは「これが好いのかい?」

「なのだ・・」

「じゃ、KOHEIこれで頼む」

KOHEIが「本当にこれで好いですか?」

「なにが??」

「後ろ借り上げですよ」

「な~~に。KOHEIてめ・・・俺を舐めてるのか・・・」

Sizuが「舐めてる舐めてる」大はしゃぎしていた。

結局スタイルが決まるまで一時間を要し、決まったのがHisae風
カットで二人は双子の姉妹のようになった。

「なんで私がSizuと同じカットなのよ・・・」

「これで・・・いいのだ」Sizuは大満足だった。


 後日、Hisaeは仕事で寝たのが早朝のためSizuが来ても
熟睡状態で目が醒めたら昼の2時を廻っていた。

「おう、Sizu来てた・・・」

「昼グワン(昼ご飯)作ったのだ」

「いつもありがとうね、助かるよ」

「助かるのだ・・・」

Sizuはここに通うようになってから料理や洗濯・掃除と何でも
こなすようになってきた。

Hisaeに誉めてもらうのがSizuは嬉しかった。

「Sizu今日も忙しいから相手してあげられないのよごめんね。
もう少しで終わるからそしたらエバのところに行こうか?」

「うん、エバ姉ちゃん兄ちゃんって行く」

「姉ちゃん兄ちゃんか??あんた上手いこと言うね」


 Hisaeはリビングにある古いノートパソコンに電源が
入っているのを見た。何気なくフタを開けてみた。

「何々??・・・・」しばらく見入ってしまった。

「なに?これ・・・?」

そこに書いてあった文章はSizuが書いたであろう小説だった。

なぜなら句読点が全くなく、です、ます、なのだ、の文章の
言い回しがSizuそのものだったからだ。

原稿用紙で訳約100枚程度のものだった。短編小説で3章形式と、
書き出しのが一章あった。

内容はSizuの目線から見た社会の動きを交えたファミリー小説っぽい
ものと。宮沢賢治が書くようなメルヘンチックな動物の物語と、
抽象的なHisaeでも形容しがたい世界の小説になっていた。

どれも句読点や構成がデタラメだけどそこがSizuらしい表現に思えた。

「Sizuこれあんたが書いたのかい?」

無言で首を縦に振った。

「どうしてこれ書こうと思ったの?」当然の疑問だった。

普段Sizuが話す会話は要点だけで、断片的であり会話として
成り立っていないのに、小説ではしっかりと形容詞も心理描写も交えた
会話になっていたからだ。

そして、なによりも驚いたのは、絶対にSizuが見たことがないで
あろう明治・大正・昭和の背景や当時の人の意識も書かれていたことだった。

何故なら、Sizuはテレビを見ていてもドラマやニュースなど
まったく興味を示さないし、動物が出る番組以外はまったく興味を
示さないからだった。当然本も読まない。

「姉さんが書いてるから・・・Sizuも書くのだ・・・」

もしかして、Sizuは感能力がずば抜けてるから、私のやり方に感応してる・・・?

とりあえず私の仕事を済ませたらエバに相談してこよう。


 数日後、二人は池袋のオネェの髭にやってきた。

「いらっしゃいませ~~」

Sizuが「エバ姉さん兄ちゃん~~~」

すかさず男の声で「兄ちゃんは付けなくていいから」エバが言った。

Sizuも低い声で「兄さん付けなくて好いから」店に居た全員が笑った。

Hisaeはエバに感応能力のことを話した。

「姉さん、Sizuは私達の知らない能力がもっとあるかも知れない。
チャネリングだって出来るはずよ。チャネリングで小説執筆させたらどう?」

「チャネリングか・・・・面白そう。アイデアは私が考えるとして
それをどう伝えるかよね・・・とにかく初めての事だからとりあえずやってみようかね」

「カラオケベートーベン第9」をリクエストした。

Sizuと言えば第9よね。


 それから二人は飲んで歌って店をあとにした。

「まだ10時か・・・Sizuお前の家に電話しろ。今日は姉さんの
ところにお泊まりしますって言いな。なんか言ったら私と替われ」

Sizuが「お母さん、今日姉さんが泊まれって言うのだ。
良いですか?・・・・・・はい、変わるのだ」

「もしもしHisaeですご無沙汰してます。今晩うちに
泊めますので・・・はい失礼します」

電話を切って「良いのだ。良いのだ」Sizuは嬉しい時に言葉を
二度繰り返す癖があった。

「さっ、今度は下北沢で飲むぞ・・・」

「ワーイ・・・飲むぞ、飲むぞ」

二人は下北沢のスナックに入っていった。


 翌朝「Sizuおはよ???あれ??いない??」

家の中からSizuが消えていた。

時計に目をやった。

まだ、8時じゃない、あいつ何処行った?

とりあえずSizuの携帯に電話した。

「只今電話の出来ない地域に・・・」

???何処行った???

その時ドアの鍵の音がした。

「姉さんおはようなのだ・・・」

「Sizu何処行ってたの?」

「スズメのご飯買ってきた」言い終えるとコンビニの袋から米を出した。

「そっかい・・スズメね・・・分ったよ。でも、なんで急にスズメの餌なの?」

「お腹空いたって言うのだ」

「うん、分った。質問した私が間違ってた。どうぞ、餌やってください」

二人は朝食を終えてひと息ついた。

「ところでさ、あんたもなんか書いてみない?例えば・・・スズメの
学校なんてどう?スズメはいつも群れて生活してるよね。 
その中には私みたいな変わったスズメがいるかもしれない。
そのスズメの物語なんてどう?」

「Sizuスズメさん好き・・・書くのだ」

「分った。じゃあ、そこのパソコン使っていいから書いてみなよ。
バックアップの取り方は分るかい?」

「分るのだ」

「そっかい、じゃあ書いてみな」

Sizuは食卓にパソコンを乗せて向き合った。

ここから、奇才Sizuちゃんの小説活動が始まった。

<スズメの学校>
スズメの学校に通う一羽のミミというスズメの物語。
ミミは、みんなと同じ事をするのが苦手なタイプ。
ある日、学校でお遊戯の時間に突然空からハヤブサが群れを
めがけて急降下してきました。

スズメたちは一斉に避難しました。
が、ミミだけは逃げ出さずにその場にジッとしていました。
ハヤブサは鋭い爪をミミに向けて飛びかかってきました。

ミミはたじろぎもせずに「どうぞ・・・食べて」そう言ってその場に
羽を広げて立っていました。

それを見たハヤブサはなにを思ったか、急にミミの前に舞い降りて、
威厳ある声で「お前はなんで逃げない」と聞いてきました。

ミミは「どうぞ食べて下さい」

「お前は私が怖くないのか?」

「怖いです。でも私はいいの。どうぞ食べて下さい」

ハヤブサはこんなスズメと会ったのは初めての経験

逃げまどう動物には本能が反応するけど、ジッと死を待つ動物には
会ったことがないし、なにか拍子抜けする。

「なんで?逃げない?」

「私が逃げたら、あなたは他のスズメを狙うでしょ?」

「当たり前だ・・・」

「だったら私をどうぞ・・・」

「だから・・・そこが分らないのだ。お前は確実に死ぬんだぞ。
お前の、父さん母さんや兄弟と会えなくなるんだぞ、それでもいいのか?」

「しかたありません。さぁ早く、私を食べて下さい」

「お前は頭がおかしいぞ。又来るからその時は食ってやる」

そう言い残してハヤブサは、大空めがけて飛び去って行きました。

遠くから見ていたお父さんスズメがミミに近寄てきて言った。

「ミミ、お前はどうして逃げなかった?」

「もし、殺されたらそれもミミの人生だもの。それに、みんなと
お遊戯して遊ぶのつまんないもん」

「なに言ってる。我々は昔からいやこの先もずっとこうやって生きるんだ。
それがスズメというものなんだ」


「だから、分らないの?ミミはもっと違うところを見てみたいぞ。
みんなと同じ事したくないの・・・ごめんなさいぞ」

そう言い残してミミは大空に飛んでいきました。ここからスズメの
ミミの物語が始まります。


 Hisaeが1時間程度で見に来た。

「Sizu書いてるかい?」

Sizuは真剣にパソコンに向ったまま返事もしなかった。

Hisaeは後ろに回りモニターを覗いた。

この娘ったらちゃんと文章になってるし句読点も打ち始めてる。
これってどういうこと?・・・Sizuのチャネリング能力は凄い。

これを書けるのにキーボードから手を離すといつもの「なのだネェチャン」
に戻るんだからなんだろうね??


 Hisaeが「Sizu今日お泊まりしなよ。吉祥寺に連れてってあげるから。
家に電話しな・・・」

「吉祥寺ですか?」

「うん吉祥寺だ」

「吉祥寺にエバ姉さんいますか?」

「今日はエバはいないけど花子姉さんがおります」

「花子??」

「そう花子姉さんです」

原稿料が振り込まれると、二人で食事に出かけることがすっかり習慣となった。

「今日はホームレス花子っていう友達に会いに行くよ。
三人で酒を飲むべし・・・」

「花子・花子・花子・・・なのだ」

「お前は九官鳥か?」

【HisaeとSizu】10-4


4.「Sizuとスパイ」

 Sizuからの不思議なメールの後、Hisaeは仕事に身が入らず苛立ちさえ覚えてきた。

「どういう事??なんでなの??」

この心の動揺は何処から来るの?

携帯が鳴った「はい、おっ、エバ?どうかした?」

「姉さん、私、なんかしっくりこないのよねぇ・・・」

「エバもかい、私も同じよ。あの後数回メールがあったけど、最後に警察に
云ってみたらって。そっけない文章を打ったの、その後、途絶えたっきりよ」

「分った、私からSizuちゃんにメールと電話してみるね、何かあったらメールします」

その日の夜エバから直接電話が入った。

「姉さん、私、今Sizuちゃんからメール入ったよ。『助けて』って
それだけなのよどう思う?」

「私の時と一緒だよ。とにかく会って話ししようってメールしてよ。
場所が決まったら私もそこに行くからさ」

エバからメールが入った「明日6時に池袋の喫茶Konaで待ち合わせ」

「了解」


 Hisaeは30分前から店に来て二人を待っていた。

「お待たせ~~」エバだった。

「お疲れさま。Sizuちゃん来るかな?」

「うん、来なかったらもう忘れようよ。姉さんも落ち着いてられないでしょ」

「私のことはいいけど・・・なんかしっくりこないのね」

「私もそうなの健常者ならいざ知らずSizuちゃんは・・・やっぱねぇ・・・」

二人が話しているとそっと横に座ったのがSizuだった。

Hisaeが「Sizuちゃんどうしたの?あんた何があったの?」

「姉さんチョット待って・・・」エバはHisaeの話しを遮った。

そしてHisaeの後ろ側を指で指し示した。

Hisaeが振り返るとそこには、Sizuの会社のあの応対に出た
女性が立っていた。

次の瞬間その女性は「あなた達ねこの子に訳の解らない事吹き込んで
いるのは。いったいどういうつもりなの?弱者虐待で警察に届け出しますよ・・・」

いきなりのけんまくに二人は呆気にとられていた。

「あれ・・・あなたはオカマバーのエバとかいう・・・」

「まいどお世話になってます・・・」気まずそうなエバの顔だった。

それを察知したHisaeは「今、警察って言いました??
どうぞどうぞ。なんなら私が呼びましょうか?」

「シズ、この人達はなんなのよ?」女は矛先をSizuに変えた。

「チョット待ってよ。今、あなたと話してるのは私なのね、私はHisaeと云って
Sizuちゃんの友達よ。

Sizuちゃんから助けを請うメールを受け取ったからここに事情を聞くために来てるの。
なんならその文章を警察に見せましょうか?私は全然かまいませんけど・・どうします?」

女は一瞬たじろいだ。

その様子を二人が見過ごすわけがない。

「どうします?・・・返事は?・・・どうなのよ」

態度が一変した「いやそこまで事を大げさにしなくてもいいかと・・・」
女の声がだんだん小さくなってきた。

「だって警察を呼びますか?って言ったのはあんたでしょうが。あの勢いはどうしたの?」

「すみません・・・」

「えっ・・・なんか言った?」

「すみませんでした私の失言でした。申し訳ありません」

「まっ、それはいい、その前にSizuちゃんと話しさせてちょうだい」

Hisaeは向きを変えた「ねぇ、Sizuちゃんが私とエバにメールした内容覚えてる?」

「・・・・・・」

「じゃぁ、エバ携帯メールを出して」

エバはメールをHisaeに渡した。

「いい、読むよ。『助けて』これどういうこと?」

「・・・・・・」小刻みにSizuの身体が震えてきた。

「エバがSizuちゃんもう話さなくいいから。ごめんね・・・」

Hisaeが女に向かい「あなた見たでしょSizuちゃんの身体の震え。
なにがあったのか説明しなさいよ。本当に警察に行くよ。

これは助けてだけど、私のPCには殺されるっていうメールが届いてるの。
殺されるって何度も着信あるの。どういう事か説明しなさいよ。

したくないならそれでも結構です。警察にこの話し持っていきます。
私、刑事に知人がいるから」

女は口を開いた「これから話すことは他言しないと約束して下さい。
それが出来るのなら話します」

「他言するかどうかは今はいえません。私達が聞いた上で判断させてもらいます。
それに・・・おたくさんは立場の間違えてません?
こちらが聞かなくても警察が聞くことになりますけど・・・」

「・・・・・分りました」女はこの二人には小手先の騙しは通用しない
こと、そしてHisaeの賢さを見抜いた。

「おたくさん達が何処まで彼女の能力を把握してるか分らないけど、
彼女の夢は未知数の能力を持ってるの。予知をしたり。
見えないものを視てきたりと不思議な能力の持ち主なの。

最近はますます能力に磨きが掛かり、詳細まで把握できてるみたいなの。
例えば今開発中の車の設計図だとかかなり正確に透視できるの。

但し夢だけど。その正確さは、かつてテレビや雑誌で騒がれたブラジルの
ジャンセリーノなんか比でないの、そのくらい凄いのよ。

私の会社は色んな会社から仕事を請負っていて、開発会社のお客様も多くいます。

彼女のことを何処からか聞きつけた企業が、彼女指名の依頼があったの。

その内容が商売敵が次回どんな商品を世に出すか?っていう事でした。

Sizuちゃんはその商品を正確に克明に言い当てたの。

依頼主は商品をいち早く開発アレンジし、その会社よりも2ヶ月早く
世に出すことに成功したの。

そして、それがとんでもない商品で一気に世界を駆けめぐったんです。
その商品名を言ったらお二方も解ると思います。

すべて彼女Sizuちゃんの能力のおかげです。

彼女の存在は知る人ぞ知る有名な女の子なんです。

そんな彼女だから、外部との接触や友好関係にもたえず目を光らしてるんです・・・以上よ」

エバが言った「あなたの話は解りました。でも、Sizuちゃんは殺されると言ってるんです。
殺すっていう言葉は普段簡単に使いません。それはどういう事ですか?」

「たぶん、最近外部から不穏な動きがあるようなので軟禁状態にしたんです。
通勤には必ずボディーガードも付けてました。
たぶんシズにはかなり息苦しい思いをしたんだと思います」

Hisaeは顔を傾げた・・・

話しは確かに面白い・・・けど実際メーカがそんな小さな町工場に
会社を左右するスパイの依頼をはたして発注するかどうか?

もうひとつ、このオバサンの話しかたは事前に用意されていたかのように流暢な言葉使い。
まったく淀みが感じられない。

Hisaeは考えた。そして切り出した。

「ねぇ、Sizuちゃんひとつ質問していい?」

「ハイなのだ・・・」

「じゃぁ、Sizuちゃんの夢は白黒?それともカラー?」

「両方なのだ」

「はい、ありがとう。エバは何か聞きたいことある?」

エバが「会社は今後Sizuちゃんをどう考えてるの?」

「それを決めるのは社長で私には分りません」

Hisaeが「Sizuちゃんは今のままで良いの?」

Sizuが口を開いた「会社辞めたい・・・」

「それがSizuちゃんの意向です。おたくの社長さんに伝えて
もらえますか?」Hisaeが言った。

「ええ、伝えますよ・・・でもみなさんSizuちゃんのような障害者の就職率を
分って言ってるの?同じような娘が何年も失業中なんて当たり前なのよ。

親御さんは、ただ同然の給金でも社会の一員として働かせたいと思ってるの。
あなた達は責任ある行動してると考えてるの?親御さんの気持ち考えてるの?」

Hisaeが「あなたねぇ雇用する方が立場が上って考えてるようね。
ということは障害者を雇用してやってるから会社のいいなりに
なりなさいって聞こえるけど・・・私の勘違いかしら?」

「そんなこと言ってません。私は今の社会の現状を踏まえて話してるだけ。
あなた達のように感情論では言ってません。
親御さんと話し合った方が好いわよ。親御さんはその辺のこと十分心得てると思うけど。
まぁいいわシズのことは私個人では対応できないので社長に伝えておきます」

そこまで言って女は去っていった。

エバが「Sizuちゃんの親と今から会えない?」

「会えるのだ。家に来ますか?・・・」

Hisaeが「エバ、ここは私に任せてくれる?あんたは店もあるし。
あとで、あんたに報告するから」

「でも姉さんに任せたままだと・・・」

「いいの、Sizuちゃんの大事だから任せて」


 SizuとHisaeは自宅に向った。

「今晩は」

「ハ~イ、いらっしゃいませ。あら、シズお帰り」

Sizuが客を連れてくる事は初めてだった。

「あのう~~手前どもの娘がなにか?」

「私はSizuちゃんの友達でHisaeと申します。
実は娘さんの仕事のことでお話しがあって訪問いたしました。

できればお父さんとお母さんが揃った上でお話ししたいのですが、
お父さんの帰宅は遅いのでしょうか」

「はぁ、あと30分程で戻ると思います。それまでシズの部屋で
お待ち下さい。散らかってますが・・・」

Hisaeはシズの部屋に通された。

「Sizuちゃん案外綺麗にしてるのね。私の部屋なんかひどいのよ」

「なにが・・・なのだ?」

「私の部屋が汚いの・・・」

「Hisaeバッテンか?・・・」

「おう、言われた・・・」

「でも、あんたの部屋・・・なんか暖かい感じがするね・・・」

しばらくして下から「シズ、お父さん帰ったよ・・・」


 4人はリビングで向き合って座った。

一通りHisaeは今日の話しを説明し終えた。

父親が「Hisaeさん、あなたの話は簡潔で解りやすい。
お仕事はなにをなさってるのですか?」

「はい、物書きをしてます。請負で小説を書いて生計を立てております」

「なるほど、どうりで話しに無駄が無く明瞭で分りやすい。私どもも
シズが疲れた様子で帰宅するのを見てましたが仕事の内容までは分りま
せんでした。シズが働いてくれるのが幸せだと思っておりました。

助けて!なんてシズの口から出るとは思ってもみませんでした。
ありがとうございます。

よく聞き出して下さいました。シズは自分の考えや感情を表現しません
から正直驚いています。これからも話し相手になってやって下さい。

事の善し悪しなど私には分りません。が、シズが苦しんでいて辞めたい
というのなら私はシズの意向に従います」

Sizuは月の締め日で会社を退職し失業保険の手続きをした。


 HisaeがSizuに電話をした「Sizu?何やってるの~~?」

「姉さんですか・・・Sizuなにもしてないのだ」

「そっかい、あんた下北沢まで一人でこられる?私の家に遊びに来ない?
駅まで来てから私に携帯くれたら迎えに行くけど」

「今、いくのだ」

「分った、ちゃんとお母さんに話してから気付けてくるのよ。
待ってるから」初めてHisaeの家にお呼ばれした。

「散らかってるでしょ。女の一人暮らしはそんなもんよ。
ケーキでも食ってのんびりやって」

「掃除してもいいのか?・・・」

「なに?いきなり?・・Sizuが掃除してくれるのかい?」

「うん・・・なのだ」

「助~~か~~る~~Sizu大好き。頼む・・・」

HisaeとSizuは息の合う二人だった。

【HisaeとSizu】10-3

3.「Sizuと会社」

Hisaeは久々に大作をこなし、ひと息ついていた。

金も入ったし、池袋のオネェの髭にでも行くかな?おっ・・・そうだ!
どうせ行くなら・・・あいつも。

携帯でエバに「エバ?私。今日、焼き肉に行ってからオネ髭に行かない?
私がご馳走するけど・・・どう?」

「あら、珍しい。姉さんがご馳走してくれるの??
ゴチになりま~~~ス。じゃぁ7時、南口の焼き肉の聖園で」


 「姉さん、先日はお世話になりま~~~す」

「どういたしまして。今日は腹一杯食べてちょうだい」

Hisaeとエバが焼き肉を食べ始めてまもなくして、
店のドアが開き、まっすぐに二人に向って歩いてくる人影があった。

「いらっしゃいませ~~待ち合わせですか?」店員の声だった。

その女性は二人の前に立ちはだかりいきなり声を掛けてきた。

「なのだ~~」

Hisaeとエバは食べる手を止めて唖然とした。

エバが「Sizuちゃんどうしたの???」

Hisaeも「Sizuちゃん、よくここがわかったね・・・??
どうぞお座りください。一緒に食べようか?」

エバはHisaeの方を見て「姉さんが知らせたの?」

Hisaeは首を横に振った。

エバが「Sizuちゃんどうしてここが分ったの?」

「夢で視た・・・のだ」

エバは「あっそう夢で視たの・・・えっ??夢で~~?
Sizuちゃんの夢って、店の名前と場所まで視えたのかい?」

二人はSizuの能力に驚かされた。

Hisaeが「Sizuちゃんも一緒に乾杯しようよ。大きい仕事して
お金入ったから、好きなもの食べてちょうだい」

Sizuが「100万円なのだ・・・」

Hisaeは思わず息を呑みエバを見つめ「エバ、この娘凄い能力だよ!
当たってるよ・・・びっくり!」

「この娘にどれだけの能力があるんだろう?」エバが云った。

二人は改めてSizuの顔を凝視した。


Hisaeが「チョット話し変わるんだけど、Sizuちゃんはなんで
言葉の最後になのだって付けるの?」

「あっそれ私も同じ事聞いたのよ。Sizuちゃんは天才バカドンの
パパが好きなんだって。だから言葉の語尾に『なのだ』が付くんだって言ってた・・・」

黙って聞いていたSizuが笑顔で「そうなのだ・・・」

Hisaeとエバはまた大笑いした。

エバが「この娘といると1回は必ず笑わせてくれるのよ。私がSizu
ちゃんにはまるの理解できるでしょ?」

「わかるわかる・・・」Hisaeの目はSizuの顔を見ていた。

Hisaeは真顔になって話し始めた「私、Sizuちゃんの隠された
能力、調べてみたくなってきたわ。私の中の知りたい虫が起き出してきたみたい・・・」

その後、3人はオネェの髭で飲みなおした。

「Sizuちゃん、今の仕事面白い?」Hisaeが聞いた。

「わからないのだ・・・」

「どんな仕事やってるの?」

「伝票整理・・・なのだ」

そこにエバが「印刷会社なのよ。そこで身体障害者雇用っていう形式で
働いてるの。よくあるでしょ?障害者を雇用する会社には国から助成金が
支給されるっていうシステムのやつ」

「なるほどね・・・Sizuちゃん頑張ってるじゃない。
仕事、楽しいのかい?・・・」

「・・・・・」

Hisaeの問いかけに反応しなかった。

Sizuの表情をHisaeとエバは一瞬で読み取った。

二人は目を合わせお互いに頷いていた。

一時間あまりでSizuちゃんは帰るからと、席を立ち上がったその時だった。

Hisaeの耳元で「助けて・・・」小さな声が囁いた。


 翌朝、Hisaeは多少酒は残っていたが、普段通り起床し、食事を
済ませ机に座った。キーボードに手を乗せた瞬間。

何かを書きたい気分に襲われ手が勝手に動き始めた。

ワードのモニターに「助けて、Sizu」と無意識に入力している。

えっ・・チョット待って・・なに今の???

書き終えると、その変な感覚は消えていた。が、モニターには
「助けて、Sizu」の文字がしっかりと映し出されていた。

どういう事???とりあえずエバに話してみよう。

「エバ、おはよう。昨日はお疲れ・・・朝早くてごめん。
チョット調べて欲しい事があって・・・」

「朝早いけど姉さんだから許す・・・どうしたの?」

Sizuの、昨夜の帰り際と今朝のPCへの書き込みのことを一通り聞かせた。

エバは「う~~~ん。何かあるわね。でも私、会社の人達皆知ってるけど、
そんな変な人心当たりないけど・・・」

普通のホステスならいざしらず、Hisaeの認めるエバの言う事なので
信用した。それにしても2度も同じ言葉を聞いたのは気に掛かる。


 それから数日してPCにまたSizuから書き込みがあった。

「助けて」同じ文面だった。

Hisaeは直接Sizuに電話を掛けた。

「・・・・・」何度かけても通じない。

もしかして着信拒否されてるの?もう一度エバに電話した。

「エバ・・・私・・・電話の経緯を話し終え、私が会社に直接様子を
見に行ってみたいからさあ、会社名と住所教えてくれない?」

「うん、いいけど、上手くやってね。Sizuちゃんみたいな人が再就職
するって大変なことなの。皆それを知ってるから、極力おとなしく、波風
立てないように黙って働いてるのよね」

「うん解った。まだ何もわかった訳じゃないから、また報告するよ。エバありがとうね」


HisaeはPCで地図をプリントし部屋を出た。

ここは池袋2丁目にある、こぢんまりとした東建印刷という印刷会社。
その会社の前にHisaeは立っていた。

どうしよう、思わずここまで来たけど・・・休み時間めがけて行こうか?
でも・・こういう時はいきなりの方が自然か?

えい・・・行こう!Hisaeは会社に入っていった。

「ごめん下さい」

「は~~い」奥の方から女性が返事をしながら出て来た。
年の頃なら50歳位の品のいい女性だった。

「あの~~う・・??私??あっ・・Sizuの名字聞いてなかった・・・
こちらにSizuちゃんっていう女性おられますか?」

その女性は少し怪訝な顔をして「前田静ですか?」

「ごめんなさい。何度か話してるんですけど、いつもSizuちゃんと
しか呼んでないので名字がわからないもので・・・で、おられますか?」

「たぶん前田静だと思いますが今、手を離せないので、10時の15分
休憩か、12時から13時の昼食時間に又こられます?
来たことは伝えておきますから。で、失礼ですがあなたのお名前は?」

「Hisaeと申します」

その場を離れた。

「まっ、普通の応対ね。今のオバハンは問題無し」


 12時ちょうどにもう一度訪ねた。

さっきの女性が現われ「前田に伝えたのですが、お会いしたくないと
申しておりまして・・・申し訳ありませんが・・・」

そう一方的に言い終えると背を向け立ち去ろうとした。

「あのう、チョット待って下さい。すぐ帰るのでひと目だけSizu
ちゃんに会わせて下さい」

「あなたしつこいよ。本人が嫌だって言ってるんだから仕方がないでしょ。
帰りなさいな・・・」

さっきと違い語気が強くなっている。

「あのう、会わせてもらえない事情でもあるんですか?」

「事情もなにも本人が嫌だって言ってるんだから、しょうがないでしょ。
あなた、私の言ってる意味わかります?」

Hisaeは内心ごもっともと思った。

「わかりました。じゃぁ、メール下さいと伝えて下さい」
そう伝言し会社を後にした。

帰りの電車の中で、私っていったい何をしに出かけたの?
私の一人勝手な思い込み?だんだん、Hisaeの心は沈んできた。

経緯をエバに報告し家に帰った。


 いったい何だったの・・・?遅めの昼食を食べながらひとり呟いた。

 その日の深夜に携帯が鳴った。エバからだった。

「はい、今日はどうもね・・・どうかした?」

「さっき、Sizuちゃんの会社の部長が店に来たの。それで『Sizu
ちゃん元気してた?』って言ってやったのよ。そしたら何て言ったと思う?
あの子は仕事だらしないから解雇したって言うのよ。

だから『いつ辞めたの?』って聞いたの。そしたら先週の金曜日っ言うの。
なんか変でしょ?

だって今日、姉さんが会社行った時は退社したなんてひと言も云って
なかったんでしょ?おかしいと思わない?絶対なにか隠してるわよ・・・

店のお得意さんだから、それ以上突っ込んだ話しは聞けなかったけど、
何かあるよあの会社・・・」

「エバありがとうね、もう一度Sizuちゃんにメール入れとくよ。
何かあったらまた連絡する・・・じゃぁ」

Hisaeにとってはどうでもいいことなんだけど。

「助けて」の文面が気になっていた。

通常、助けてという言葉はそうやたらに使う言葉ではない。
ましてSizuちゃんはその辺の障害者とは違う。

Hisaeは意識を合わせようと瞑想を始めた。

頭の中に「Sizuなのだ」という言葉を思い浮かべ集中してすぐだった。

また「助けて」という声が聞こえた。どういうこと?ガイドさん教えて?
いつになく真剣に思ったその刹那「虐待」の二文字が浮かんできた。

虐待ってどういう事よ・・・?

その時、携帯が鳴った。エバからだった。

「姉さん、Sizuちゃんのこと考えてたら、虐待っていう字が浮かんで
くるの・・・嫌な予感がする・・・」

「私も同じこと感じてるのだからチョット慎重に行動するよ。
今日はもう遅いし、明日の朝一から調べてみるから待って」

翌朝、Hisaeは8時前から東建印刷の前に立っていた。

内心、なんで私がここに立ってなきゃいけないの???
私はSizuのなんなの?親?姉?保護者?・・・
たった2度会っただけなのに・・・!どうして?・・・なんで?・・・


8時過ぎた頃から従業員と思われる男女数人が会社に入っていく。

「あっ、昨日応対してくれたあのオバハンね・・・」

そこに昭和風出立のSizuを発見した。

Hisaeは急ぎ足で近寄った。

「Sizuちゃん、おはよう・・・私・・・」

SizuはHisaeの顔を見て言った。

「おばさん誰・・・なのだ??」

「えっ?・・・Hisaeだけど・・・」拍子抜けした声で言った。

「そうですか・・・で、なになのだ?」

「で、なにって???」次の言葉が浮かばなかった。

「失礼するのだ」Sizuちゃんはそのまま会社に入っていった。

「あっ・・・そう・・・????」

Hisaeは泣きたい気持ちになったけど堪えた。


 昼過ぎ、Hisaeはエバに今朝のことを話した。

「姉さん何それ?部長は解雇したって云うし、昨日は姉さんに会いたくないって云うし、
今日はあんた誰?でしょ・・・姉さん、もうSizuと係わるの辞めようよ」

「そうするしかないよね。とりあえずほっとこか・・・」

Hisaeはそう言い終えると電話を切りPCに向った。

PCを立ちあげてすぐメールが届いた。

開くとSizuからのメールだった。

「もういい加減にしてよね」そういいながらメールを開くと、

「Hisaeさん助けてSizu」

「どうしたの?」

「助けて・・・なのだ」

こいつ、しつこいな・・・「なにをどう助けて欲しいの?」

「会社に殺される」

「どうやって?」

「暗い部屋で・・・」

「警察に云ってみたら?」

その後Sizuからのメールは途絶えた。

あのSizuが私をからかうわけが無いか・・・

私のガイドが虐待と伝えてきた・・・

やっぱ・・・気になることは気になる。

今のHisaeは様子をみること以外なにも出来ないでいた。

【HisaeとSizu】10-2

2.「Sizuちゃん」

Hisaeは久々に渋谷の街に出た。いつ来ても渋谷って若者の
パワーが凄いところなのね。

ここも日本か・・・嗚呼、田舎が懐かしいな~~何故か渋谷に来るといつも思い出す。

Hisaeは群馬県は赤城山の麓、富士見村という田舎で生まれ育った。
東京に憧れ、上京したのは18歳の時。東京の街は全てが新鮮だった。


なんで・・・なんで?今だ独身なわけ???私って変??
渋谷に来るたび、毎回同じ思いが頭を過ぎる。

スペイン坂の辺りを歩いていると女性と軽く手が接触した。

「あっ、すいません」30歳前後くらいの女性?だった。

「いえ・・・」Hisaeはそのまま立ち去ろうとした。

「チョット待って下さい」その若い女性?・・・らしき?が話しかけてきた。

「なに?」

「いえ・・ってそれだけなの?」

Hisaeはその女性を凝視して言った「???なにが?」

「なに??このオバハン」

禁句の言葉を云ってしまった。

「今なんて云った?」

「オバハンって言ったの。それが何か?・・・ふんだ・・・」

「オバハンって誰のこと?」

「あなたでぇ~~す」

「???おかしいオカマ・・・」

「なにそれ・・・頭にきた。誰がオカマよ!」

「誰がって、あんた以外ここにオカマいないよ?」

「そんなこと言ってるから彼氏出来ないのよ」

「オカマに言われたくない」

「だから今だにHisae姉さんは独身なのよ」

「要らぬお世話だよ、あんただって今だに片乳だろうが。えっ・・・片乳のエバさんよ」

そう、二人は知り合いであった。

「Hisae姉さん、久しぶり~~」

「久しぶりだね~~相変らず片乳なのかい?」

「そう片乳で~~す。たぶんこの先もずっとカタチチ・・・」

「何年ぶりだいネ?」

「私が池袋店に移った頃だから・・5年ぶりかしら?」

そう、Hisaeはスナック「オネェの髭」の常連だった。
エバが池袋店に移るまで、二人は毎週六本木で朝まで飲み明かす仲だった。

二人は喫茶店に入って話し始めた。

「姉さん元気してたの?」

「あったりまえよ。誰だと思ってるの?」

「あ~~変わってな~~~い。受ける~~」

「なんだい、そのコギャルみたいな話し方は?」

「コギャルだって~~~。久々に聞いたっていうか、それ何十年前の言葉なの?」

「うるせっ。それより急にどうした?」

「姉さん、私より男臭い・・・」

「エバてめぇ・・・帰るぞ」

「メ・ン・ゴ~~~」

「エバ・・・お前も十分古いよ・・・」

なかなか話しが先に進まない二人である。

エバが話し始めた「実はね、店の客なんだけどチョット変わったタイプ
の女の子がいるの。

私との何気ない会話の中で、その娘が急に『私、目標にしてる人がいて、
小説を書いてる』っていうのよのね。そしてこうも言ったのよ。

『その人はHisaeっていう人なの』って。

それを聞いた時、正直ビックリしたわ・・・

そのHisaeは私の知り合いよって言いたかったけど少しこらえたの。

何処がいいの?って聞いたら『わからないけど、良い』って言うのよ。

当然、何でそう思うの?って聞いたのね。

『私、分るんです』って答えたので、思わずその娘を透視してみたの。
そしたらその娘のガイドが現われて黙ってうなずいたのよ。

で、Hisaeさんを紹介しようかどうか迷って、気が付いたら電話し
てたの。以上・・・どう思う?」

「べつに紹介したっていんじゃないの?」

「いいの?」

「だって・・・金貸せとか恨みがあるとか、そんな事じゃないんだから、
べつにかまわないでしょが」

「えっ本当に?・・良かった!実は今日、連れて来てるの。紹介するね」

エバは言い終わるか終わらないうちにメールを打ち始めた。

「あんたねぇ、そういう事は早く言いなよ」

5分ほどで女の子がやってきた。

現代ではチョットこころなしかお地味な・・・どちらかというと昭和の
ファッションという感じの娘だった。

「わたしSizu・・・なのだ」

「こんにちわ、わたしエバの友達のHisaeです・・・」

「エバさんに知り合いだって聞いてびっくりしたのだ。
Sizu会わせて下さいって言った。夢が叶いました。
会ってくれてありがとうございます・・・なのだ・・・
じゃぁ、さようなら・・・なのだ」

そのまま席を立って歩き出した。

Hisaeはコーヒーカップを持ち上げた手が途中で固まってしまった。

そして、エバに目線を向けた。

エバは笑顔で手を振り、Sizuを見送っていた。

「エバ・・・今、何かあったっけ?」

「ごめんなさい、姉さん。説明が足らなかった」

「足らないっていうよりも・・・今のなに?・・・なにがあったの?」

「Sizuはサバン症候群なの。でも全然、軽度の障害で、普通に
印刷会社にお勤めしてるOLさんなのよ」

「なんで?エバの店にSizuちゃんが出入りするのよ?」

「最初は会社の飲み会で連れてこられたのよ。その時、どういう訳か
私と話が合ったっていうか同調したっていうか姉さんならわかるでしょ?
その後、何度か会社の飲み会には彼女も参加するようになったらしいの、
私に会いたい一心で・・・」

「それって怖いもの見たさから?」

「おい、Hisae・・・こら・・・だから、一次会など他の店では
ほとんど無言なんだって。私の店に来たら、私とは沢山話しするのに。

去年の忘年会の時、二次会、うちの店じゃなかったのね。
そしたら翌日、会社を無断で休んだらしいのよ。
オネェの髭に来られない事で彼女ひねくれたらしいの」

「そうなんだ・・・で、なんで私の事を知ってるの?」

「ネットで妖怪を調べていてリンクしたらしいのよ。それで姉さんの
ブログが彼女の目に止まり是非会いたい。エバ知ってるっていう具合」


「なるほど・・で、なんで妖怪からHisaeにリンクするわけよ?」


「妖怪と共通する何かを姉さんのブログが持ってるのよ・・・きっと・・・」

「なるほどね・・・納得したわ。・・・するか馬鹿野郎。
エバ表に出ろオラ・・・。でも、会った瞬間帰るってどういう事?」

「たぶん一瞬で姉さんの事、見抜いたか・・・姉さんに会う事だけが目的だったと思う」

「私の何をどう見抜くっていうのよ?」

「そこがSizuちゃんなの。私達凡人には理解出来ない世界かも」

「なにが凡人よ。エバは凡人というより奇人。で、私は天才Hisae」

「奇人?・・・相変らず姉さんと会話してると面白い」

「私もSizuちゃんに興味持ったかもしんない。ねぇ、もう一度
電話してここに呼びなよ。なんかこのまま別れるの、もったいない・・・」

「そうね、私も姉さんとSizuちゃんの会話を見てみたい」


 そして三人は場所をカラオケBOXに移し酒を飲んだ。

Hisaeが切り出した「Sizuちゃんはなんで私に興味を持ったの?」

「ブログが綺麗だったから・・・なのだ」

「あっ、そう・・・ありがとうね。で、どういうところが?」

「形・・・なのだ」

「あっお姉さん、言い忘れたけど彼女、私達と似たような能力を持ってるの。
Sizuちゃんは意識の形が視えるの。
たぶん、ブログから姉さんの持ってる意識の形が視えたんだと思うよ」

「なるほど、あんたも片乳なのかい?」

「おいHisaeこらっ・・・」

「そう言うことか。へ~~え面白い能力持ってるのね・・・」

「・・・・・」

「それと、Sizuちゃんは質問には答えるけど、自分から他人に
質問しないから。ねぇSizuちゃん」

「なのだ・・・」

「へぇ~~ブログが綺麗か・・・初めて云われたよ」

「私なんか初対面の時、オネェさん?お兄さん?どっち?って聞かれたのね。
だからお姉さんですって少し強めに云ったのよ。

そしたら『半分なのだ』って笑い出したのよ。失礼でしょ?
でもSizuちゃんは気持ちに裏表が無いから好きなのよ」

「Sizuちゃんには目には映らない感覚が視えるのね。
Hisaeもファンになりそう・・・」

「でしょ?私もすぐSizuちゃんんファンになったの。
そんなSizuちゃんの口から姉さんのHisaeっていう名前が出た
時は本当に驚いたわ。二度ビックリよ・・・これって絶対何かの運命って
感じたの。早く姉さんに会わせたかった」

Sizuは二人の会話を楽しそうに聞いていた。
そしていきなり「二人、仲良くやれよ。・・・なのだ」

Hisaeとエバはコケながら大笑いした。

その時いきなりスピーカーが鳴りだした。

誰も曲をセットしてなかったのに、スピカーからイントロが流れ出した。
ベートーベンの第九交響曲合唱だった。

エバが曲を止めようとリモコンに手を伸ばした瞬間、Hisaeが
その手を制止させ、Sizuを見ろと目配せをした。

視線の先にはマイクを持ったSizuの姿があった。

Sizuは淡々と歌い始めた。しかも流暢なドイツ語で歌っていた。

Sizuのカラオケを聴いた事が無かったエバは、ただ呆気にとられ、
目にはうっすらと涙まで浮かばせていた。

歌い終えたSizuに二人は大きな拍手を送った。

エバが「あんた、どこでその曲、覚えてきたのよ?店では一度も歌った事、
無いのに・・・凄いよ・・・」

「CD聞いたのだ」

Hisaeが「Sizuちゃん、他にも何か歌ってよ」

Sizuは気を良くしたのか続けて3曲アニソンを熱唱したが調子が
外れていた。つまり音痴だった。

聞いていた二人は何故第九だけが上手に歌えたのか、その時は知るよしも無かった。


 それから数日が過ぎ、Hisaeのもとにエバからメールが届いた。

「姉さん、先日はご馳走様でした。あの後Sizuからメールが来て、
またHisaeさんに会いたいと書いてありました。
この前は本当に楽しかったみたいです」

「OK、私のPCメール教えてあげてちょうだい。よろしく。Hisae」


数日後、PCにSizuからメールが届いた。

「Hisaeへカラオケ楽しかった。また行こう・・なのだ」

か~~色気も何にもねえSizuちゃんらしい文だこと。

「OK!また行こうね Hisae」そう返信した。

返事が来た「いつ行きます?・・・なのだ」

「そのうち行こう」

「そのうちって??・・・いつなのだ?」

勘弁してけろ~~~

【HisaeとSizu】10-1


1.「チャネリング小説家」

 私は、請負小説家Hisaeです。但しこれは表の顔。

実はもうひとつ仕事をやってるの・・・聞きたい?

えっ・・・別に聞かなくていいですって???

なんで?・・・興味ないの?

どっちでもいい

ねぇ・・・そんなこと言わないで聞いてみたら?

・・・やっぱ、どちらでもいい

そこまで話したら話さないわけにいかないわね・・・

だから、どっちでもいい

いや、話す・・・話させてちょうだい。聞いてちょうだい。

だから、どっちでもいいですって。Hisaeさんしつこい。

わかった・・・お願い聞いてやって下さい。

じゃぁどうぞ。


 私は、裏の仕事もしてるの。

それ・・さっき聞いた

あっ・・・わかった・・・ごめん。話しには勢いというか
話し始めが肝心だから・・・そこんところよろしく。

その裏の仕事とは・・・チャネリング小説なの。

チャネリング小説っていうのは私の造語なんだけど・・・
小説請負人っていうのは依頼者の要望に添って書くのが原則。

チャネリング小説は、チャネリングして執筆するの。どう?

そのまんまでしょっ・・・

まぁ・まぁ・・・そう焦らないで聞いてちょうだい。

焦ってないけど・・・

そうよね・・・わかった。ゴメン・・・説明する。

依頼者がやってみたい職業や、思い描いた人生など心にあるものは
パラレルワールドの自分が既にやっている場合が多いの。

それを、私がパラレルのもう一人の依頼者にチャネリングして人生や
生き方を小説風に書くの。

それがHisae流チャネリング小説。

だからフィクションなんだけど・・・本当はパラレル・ワールド
ではノンフィクションなの。わかる?

わからないけど・・・

う~~ん、架空の物語として書いてるけど本当は実話なのよ。パラレル
ワールドのもう一人の自分の生活を出来るだけ忠実に書いてるから。

その辺がわかりにくい・・・

う~~ん・・パラレル・ワールドってわかるよね?

その世界の依頼者の事を小説風に私が書くの。

どういう風に・・・?

チャネリングよ。

長い人生をチャネリングするって大変では?・・・

気を遣っていただいてありがとう。

でも、チャネリングっていうのは基本的に時間が存在しないもの。
全てが瞬間たえず今しかないの。

パラレの自分の性格はどんなんかな?と思った瞬間、刹那的に
性格がわかる。

時間が存在しないってそういうことなの。

いつも今しかないのよ。

時間だけじゃなく当然距離も存在しない。

それがチャネリングの世界なの。もっというと、チャネリングという
概念も本当は無い。チャネリングをするという私と、される相手とは
チャネリングをした段階で二元性から一元性に統一されてしまうのね
だからチャネリングという相対性の概念は本来、無い。
それは究極だけど、でもそれが真実なの。わかってもらえた?

・・・めんどくさい

そっかぁ・・・忘れてちょうだい。

早い話が、依頼者のもうひとつの世界の依頼者に重なって、
その人の人生を小説にするの。

それ、わかりやすい。

・・・・・・Hisaeに沈黙した。

あのね、名前は云えないけどこんな依頼があったのよ。聞く?

聞きたい・・・

今度は素直ね・・・じゃぁ話す。


 Sさんという方から一通のメールが届いたの。その内容は・・・

Hisaeさんのブログ見ました。
私も依頼したいのですがチョット普通と違うので、
先に確認したいと思いメールを差し上げました。

私、パラレルセルフの小説を書いて欲しいんです。

パラレの私は何をやってるのか、興味があるんです。
とても知りたいです・・・

そういう文面だったのね。私も初めての事だったから、正直、
不安だった。私に出来るんだろうかって・・・で、こんなメールを返したの。

 パラレルの小説は正直、経験ありません・・・でも挑戦してみたい
気持ちはあります。もしよろしければSさんの写真と自分がなってみたい
職業なり表現したい自分を感じてみて下さい。まとまったら簡単な
文章にしてメール下さい。

 Sさんのパラレル・セルフにチャネリングして、私が実際に視てきます。
それをあらすじにしてメールしますから、それで好ければご依頼ください。

追伸 写真は私が依頼者にリアルに重なる為、重要なアイテムです。
出来れば添付して下さい。ってね。 

そしたら返信があったの。

内容は子供の頃から芸術が好きで、自分でも色々な作品を作っていました。
でも実際は生活に追われ芸術とは遠い世界におります。

なのでパラレセルフに、それを職業としてやってる自分がいたら是非、
チャネリングして欲しいんです。

そこまでいわれたら、私もチョット本気になっちゃってさ・・・

行きつけの美容室に行ってカットしてもらい、風呂入って身を清め、
パソコンの前に座って写真に集中してみた。

5分くらい集中したら、視えた!もう一人のSさんが。

ここからは、Sさんに送ったあらすじをそのまま伝えます。


あらすじ

 ここは長崎県佐世保市、主人公のSは子供の頃から手先が器用で、
高校在学中、美術部所属の彼女はある作品を文部科学省主催のアート
コンクールに応募しました。

作品は人間の潜在意識から湧出してくるワクワク感をイメージした
木の3次元造形と、絵の2次元的平面空間を融合させた作品。

これが文部科学大臣賞に入選した。それを期に将来芸術の分野で働こうと
意を決し上京。

美大では絵に描いたような貧しい生活。

同じ大学生でも綺麗な服を着て遊びほうけるようなお坊ちゃん生徒と違い、
Sは少ない仕送りで質素な生活をし、アルバイトで稼いだ少ないお金で、
アクリルペンやその他諸々の芸術に必要な工具や材料を工面するという
貧困な生活を続けた。

そんな彼女が大学を卒業し就職したのは某大手デザイン会社。

入社前からこのような大手の会社は企業受けする仕事専門になるから、
自分の目指すものとは違うと云う事は承知の上で入社した。


 父母に世話になった手前入社はしてみたが、やはり納得いかず3年で
依願退社してしまう。

自分の目指す世界を突き詰めてみたい一心からの行動だった。

退社してからは出来るだけ出費を抑えた生活が5年ほど続いた。
生活は苦しかったが楽しく充実した日々。結果的にその5年間が今後の
基礎をつくる事に繫がった。

ある時、御茶ノ水駅前のカフェでコーヒーを飲んでいたら声を掛けられた。

「君、Sさんだよね・・・」その声の主は以前勤めていた大手会社の同僚だった。
話しから彼は規格デザイン室のチーフに抜擢され、ひとつの大きな
プロジェクトを任されているとのこと。

そしてSの独創的な発想を認めていた彼は、そのプロジェクトに使う
あるデザインを発注してきた。そのデザインが採用になれば今後も
継続して取引したいという申し出である。

それは大成功をおさめその会社から引き続き仕事が入るようになり、
やがて全てが順調に運び、日本はおろかアメリカからもオファーが入
るようになり、原宿にアトリエを設け夢が叶う事となった。

順風満帆の日々が10年ほど続いた。

そんなある日Sのもとに一通のメールが舞い込んだ。

「拝啓 S様 私は以前からSさんの作品のファンです。
あなたの斬新で革新的なデザインを楽しく拝見しております。

私事で恐縮ですが先日主治医から癌の告知を受け、余命3ヶ月から
6ヶ月との診断を下されました。

そこでSさんへの仕事の依頼なんですが、私のお墓の制作をお任せしたく、
メールいたしました」

Sにとって墓のデザインは初めてだった。

そこからSの人生が一変する出来事に出くわすことになる。 以上
                       

 Hisaeは話しを止めた。

まっ、こんなあらすじを提出したわけよ。

そんな細かいことまでわかるの?

そこまではわからない。わかるのはSのパラレルセルフの一人に、
長崎生まれで高校時代になんかの作品展で賞をもらいそれが切っ掛けで
上京した子がいるの。

そして、初めに勤めた会社を辞めて独立しまあまあ成功した。

この辺までとその心の動きはわかるの。

あと具体的にはピンポイントでチャネリングしないとわからない。
チャネリング能力の限界ってやつかもね。

パラレル小説ではそこに脚色しないと作品にはならないの。

音楽でもアレンジが欠かせないでしょ?・・・同じ理屈よ。

いくら私でも他人のパラレル・ワールドを映画やTVドラマ
を見るようにハッキリとは表現出来ないわ。

そのまま書いたんじゃ全然味気ないよ。

だから私のような人間が必要なのね・・・きっと。

霊界を視たり、ガイドやハイアーセルフとの会話なんて本当に素朴よ。

こう思ったとかああだろう・・・なんて人間的な言葉遣いや感情移入なんて無いから。

聞いたら答えるけど答え方は簡単明瞭。

だろうとか、かも知れないとか、そう思う・・・なんていう曖昧な言葉は使わない。

チャネリングは電話同士の会話とそこがまったく違う。早い話し要点だけなの。

TVに出るような事細かに話す霊能者さんって、事実を大げさに
脚色してるかデタラメかもよ・・・

あるいは力ある制作ディレクターからの指示ね。

早い話し、やらせかも・・・これはここだけの話しよ。
目に見えない世界を操る人はインチキか狂言者か妄想癖人間が多いの。
残念だけど・・・くれぐれも他言しないでね。

Hisaeさんはどうなの? 

当然、狂言者って言われたら反論できないよ。だって実証出来ないもの。
だから霊能者やチャネラーって言われるの苦手なのよ・・・

じゃぁ何て呼ぶかって・・・?

うんっ??・・・感応能力者かな?

人間ラジオか人間チューナーかしら?

なんでもいいけどね。

話し長くなったけど、わかってもらえたの?

わかりました、デタラメって事でしょ?

てめぇぶっ飛ばすぞ!顔貸せ!表に出ろ、オラ!!


Hisaeは心落ち着けた。ふと我に返り・・・

で・・??今のあいつ誰??何処から入ってきたの?

なに?今の??もしかして私は病気か??

気持ち悪いから風呂入って屁こいて寝よっと。

南無阿弥陀仏・南無妙法蓮華教・南無大師遍照金剛
アーメンそーめんチャーシューめんってね・・・チョット古いか・・・

【TEIZI】全9-9完結編


9、「フゴッペ村中学生」

 札幌の町で占い師をしている女性がいた名前はTeiko。

Teikoは5年前にフゴッペ村中学生の要請で占いを頼まれて
引き受けたのが最初の切っ掛けだった。

フゴッペ村とは、札幌の西50キロに位置する人口数千人の小さな村。

フゴッペ村中学校では5年前から極秘の伝統がある。
それは、卒業を控えた3年生の有志が占い師Teikoを招き、
札幌のカラオケ店でフゴッペ中3年生の集団相談会を開催する
というものだった。

既に5年間続いた行事で生徒会長が発起人となり、学校や親に
知られないよう口伝で受け継がれた。

その札幌の占い師の名前はスピリチュアル占い師Teikoという女性。

Teikoは5年前から蘭島生徒の要請で毎年開催された。

会場は札幌駅近くのカラオケBOXのパーティールームひと部屋と、
個室をひと部屋借りて行われた。

時間は人数にもよるが4時間で予約されていた。

最初の2時間は個人の相談、後半の2時間はTeikoとの質疑応答だった。

後半のギャラはTeikoの好意により無料。

今回の参加者は9名、女生徒4名。男子生徒5名。

前日の放課後9名が最終打合せで教室に集まった。

幹事の生徒会長の三浦祐里子が「いよいよ明日だ、小樽駅さ各自11時集合ね、
ほんで全員で札幌さ向うべ!たぶん札幌駅には12時には到着すっからぁ、
札幌駅の地下で昼ご飯食べて1時にカラオケまねき牛さ向うべし」

ミツオが「おれ、先輩さ聞いたけんど、田舎もんは都会さ出ると目が泳いで
いるからすぐバレルらしい、んだからおめぇら絶対キョロキョロすんなよ、
ひとりが田舎もんだと解るとみんなそうだと思われるからな」

「一番キョロキョロすんのはミツオお前だんべ!」蘭島の暴れん坊マサが言った。

「言えてる・・・」ハチが手を叩きながら言った。

「ハチ、そんなに笑うところでねぇべ、だから女は・・・」

「女がどうかしたぁ・・・?」巨漢ミヨリが言った。

育代が「おぃ、ミツオ・・祐里子は今そんな話しでねぇべ!おめぇ・・
話し最後まで聞け!・・・ったくもう」

「ゴメンな祐里子」ミツオは下を向いて頭を下げた。

祐里子が言った「以上です!」話はそれで終わった、全員こけた。


 札幌駅地下街で軽く昼食を済ませることにした。

9名は田舎から出て来たことを悟られまいと容姿や言葉遣いに注意した。

だが男子生徒全員がジーンズの下に革の紳士靴という目立つスタイルだった。
どう見ても集団で田舎から来ている集団にしか見えなかった。

駅の地下のフードコートに全員座った。10分しても注文を採りに
誰も来ない・・・??。全員の目は完全に泳いでいた。

マサハルが「オイ、もしかしてここはセルフでねぇのか?」

全員、ほぼ同時に気が付いて各売り場に向った。

エイジが「普通メニューさ持ってオーダー捕りに来るのが当たり前ぇ
でねえのか?ここの責任者はな~~にやってんだべ?」

「こんな店、長く続かねぇぞ・・・これ。そっだらこと・・
俺でも解るべや」トッチが言った。

ブツブツ言いながら昼食を食べた9人はカラオケ招き牛に向った。

「でっけえビルいっぱいあるな~~や、小樽とも違うな。都会って
このことさ言うんだぞミツオ」

「ば~~か。俺、2回目だから知ってるべや・・・」

まねき牛の特別室に9人全員通された。

「なんか緊張するな・・・」マサハルが言った。

「Teikoってどんな人なんだろうね?綺麗って言うよりも味があるって
聞いたことあるけど」育代は期待と不安でいっぱいだった。

ドアがノックされた時計の針はちょうど一時にさしていた。

「こんにちは、Teikoと申します・・・」

緊張が走った。

「今年で6回目ね、私毎年楽しみにしております。お招きいただきありがとうね。
私もあれから6年すっかり年を重ねました」

エイジが「もう、立派なオバサンさんだな~~や」

がははは、全員爆笑した。

「君なまえなんて言うの?」

「はい!エイジです」

「そう、エイジくんね、あとで顔貸せ・・・」

が・・ははは、全員爆笑した。

「まっ、そう言うことで三浦さんに話しておいたけど、最初の2時間は
個人セッション。
今日は9人だから、そこの、エイジ・・・120分割る9はひとり何分?」

「チョット待って下さい」エイジは指を使い始めた。

「いまどき指使う生徒いるんだ・・・もういいよ。三浦さん何分?」

「はい、ひとり13分です」

「じゃあひとり15分目安だから・・・

一問一答ってとこかな?複数聞きたいことある人は無駄を省くため
質問内容を簡単に言えるようにしてね。エイジくん解った?・・・」

応答がない。

「おい、エイジ!」

「あっ、はい・・・なにか?」

「なにかじゃないよ、指使って何やってるの?」

「ひとり15分だから9人で何分かなと思って・・・」

「まだそこかい・・・」

全員が笑った。

「三浦さん後で教えといてね」

「そのあとの約100分は全員で質疑応答とします。解りましたか?」

「はい!」全員が答えた。

「じゃあ最初の人から別ルームに来てくれる。エイジくん解りましたか」

「なにが・・・?」

「おまえねっ、3回ぶっ飛ばしてやる」

全員爆笑した。

「じゃあ、最初の人、私と行きましょう!最初は誰ですか?」

「はい」

ミツオとTeikoは別室に向った。ほぼ予定通り135分で全員の
個別相談は終わり、最後の三浦とTeikoは大部屋に戻ってきた。

「はい、今日はどうもお疲れ様でした。エイジ・・・私の話きいてるか?」

「聞いてま~~す」

「ハイ、良い返事です。エイジも人並みに悩みがあってTeiko嬉しいです。
でも、あとで必ずぶっ飛ばすから逃げないようにな。逃げてもフゴッペ村まで
追っかけるからね」

エイジは照れ隠しに頭をかいていた。

また、全員爆笑した。 

「え~~、Teikoも今年でここに立つのは6回目になります。
合計で約60人前後の生徒とお話しさせてもらいました。

そこで、相談内容には、ある共通する事があるの、それは依存なの、
中学生はまだ親の保護下にあるから仕方ない部分はあるけど、
これから社会に出て自立したら基本自分のことは自分で責任を負うわけだからね。

まずは自分で解決しようとする癖を付けるのよ。自分の目の前に出て来た
障害は自分の為にあるの。

そこから目を背けても、形を変えて何度でも現われるからね、

逃げないで正面からぶち当たって下さい。

私はこの商売やってて何人も視てきたの。

あと多いのが、他人のせいにする癖をつけないこと。

自分が失敗してもすぐ誰かのせいにする人、結構いるでしょそういうタイプの人。

これだけは覚えてよ・・・他人のせいはひとつもありません、
全ては全ては自分のせいなの、ここはポイント。エイジ解ったの?」

「はい」

「なにが解ったの?」

「他人のせいにするな、全ては自分のせいだっぺ・・・」

「ちゃんと他人の話し聞いてるんだ、日本語通じるんだ・・・」

「Teikoさん、俺を馬鹿にしたら駄目だ、たんと、
ひょうずん語覚えてらよ・・・」

「内容は解ったけど・・あんたの訛りすげえな・・・話し戻すけど、
自分で解決できる癖つけなさいね。

自分に解決できない障害は目の前に現われないの、目の前にある障害は
自分で解決できるだけのパワーが既に備わってるともいえるの。
だから現われたの。

現われた時が解決のチャンスです。言い方を変えるなら自分のためにだけ
ある障害なの。これは覚えておいて邪魔にならないと思います。

え~~次はみんなの疑問に答えたいと思います。
但し私の占い師としての経験上のね」

マサハルが手を挙げた。

「ハイ、どうぞ」

「僕は空手をやってます、一生懸命練習をしてるけんど、どうしても勝てない
人がいます、どしたらもっど強くなれますか?」

「武道のことあまりよく解らないの、でも、ひとつ解ることあるよ。
芯を自分の中心に置くことよ、芯がぶれると身体や技にもブレが出てしまうのね。

合気道創始者の植芝盛平って人を視たことがあるの。
あの人は凄いよ。芯がぶれてないから絶対に負けないと思った。

細かいことはあの人の本を読んだ方がいいわ。
武道をする人は必見です。他は・・・?」

「はい、Teikoさんはなに占いですか?どうしたらTeikoさん
みたいになれるんですか!」育代が言った。

「私は波長解読とガイドさんからの伝言。誰でもなれるよ、コツさえ
覚えたら簡単、後は、数をこなす事。それと基本は人を好きになることよ」

ハチが言った「好きになることとどう関係あるんですか?」

「好きっていう好意は、肯定的?否定的?どうですか?育代さん」

「肯定・・・」

「そうね、つまり肯定は理解する又は理解しようとする好意。
それに比べて否定はずばり拒否または無視。

肯定は発展性あるけど、否定はなにも産まないそこで終わり。

この商売は相談者に来た客をまず先に理解する必要があるのね、
つまり、相談者を肯定しなくちゃ次進まないのよ。

悩みや問題が何処から来てるかを知らないと相談できないの。
人を好きになれば、だんだんと色んな物が見えてくるよ。

色んな物が見えたら、後は相談者と照らし合わせるの、
そしたら解決策も徐々に見えてくるの。

今日もそう、みんなが部屋に入ってき時、まず先に私が
したことなにか解る?三浦さん」

「生年月日と名前と好きなこと」

「そう、生年月日と名前と好きなこと、これはある意味自分だけのことでしょ。
自分のことを云うっていう好意は、自分の中にいちど意識を入れる必要があるの。

名前を聞くだけだと表面だけで答えちゃうでしょ、

でも生年月日は答え慣れてないから意識をもっと深く持っていくの。

その時に私も一緒に中に入るの一瞬でね、だからある程度君達を
知ることが出来るの。

あとは、相談内容に応じて君達に一番良い方法を言葉にするの。

場合によっては君達のガイドに聞くこともあるけど。

これは難しいことでないの。みんな出来る能力よ。

ただし、人が好きな人はね・・・

人が嫌いな人は出来ません。ハッキリ言います。
これは、君達が社会に出てから死ぬまで人の世の中で生活するの。

人との対話の基本は人の話を聞くことからなの。
一方的に自分の話しや主張をする人いるけど・・・
あれは会話とはいえない、たんなる自分の主張よ。

恋愛でも結婚でもそう・・・これも私の所に来る相談者が多いの。
彼が、主人が、私のこと全然解ってくれません・・・てね、

私は問い返すの、あなたはどうなの?恋人やご主人のこと解って
あげてますか?って。多くの人は『私なりに考えてます』とか云うの・・・

じゃあどういう風に接したら相手があなたのこと理解してくれるか
解るのでは?って聞き返すの。そこで相談者の言葉は止まるんだけどね。

いいですか、恋愛は相手を理解することが大事だと私は思います。

理解してあげることが大事、この商売を通じて私が思うことなの。

当然、三者三様あるでしょう。それをこれから皆さんは社会に出て学ぶ
ことなのね、障害から逃げずにガチで勝負して下さい。

障害から逃げる人は逃げる癖が付きます。他人に頼る人も頼り癖が付きます。
自分の目の前に出て来た障害は自分のためにある障害なの、既にその障害を
乗り越えるパワーがあるから目の前に現われたの。今が乗り越えるチャンス。

逃げても違う形で何度でも何度でもやってくるわよ。

向き合う姿勢が出来たらまわりも必ず変わるよ、もう一度言います。
今がチャンス」

エイジが言った「だったらTeikoさんの商売いらねえべ!」

「エイジ好いこというね・・・今日一番のヒットよ。いい、今言ったことが
解らないから私の所に来るの。社会に出てから簡単に私のところに相談に
来るんじゃないよ、来る時は最後の最後にしなさいね。

遊びに来るならいくらでも来て下さい。

フゴッペ村中学生ですってね。そしたら私が言います。
それがどうしたの?ってね・・・」

全員こけた。

「今日はお招きありがとう。気をつけて帰ってね、それとエイジ表に出たら
ぶっ飛ばすからね・・・逃げるなよ」

フゴッペ村中学生9人は深く頭を下げ別れた。


渡辺敏郎は小説を書き終わった。

体調もよくなり大空を舞う小鳥を眺めながら呟いた。

「な~~んだ」

          THE END

【TEIZI】全9-8

8.「アカシックマスター貞司」

 僕は貞司、スナックを経営してます。元ホストでした。常連さんにはその時の
お客さんが多く、今でも長い付き合いさせてもらってます。

このスナックの売りはずばりアカシックカード占いです。僕のアカシック
カード占いは当たると評判なんです。

アカシックとは、異次元のデーターバンクでこの地球が始まってから終わり
までの全ての情報が詰まってる図書館のような場所。
そのアカシックレコードにカードで繋がり、そこにある個人情報を相談者に
伝えるという方法。

スナック経営は僕の趣味でやってます。一度飲みにきて下さい、絶対損は
させません。

あっ、肝心なこと忘れてました。店の名前は「アーバン」よ・ろ・し・く。

 「明美さんいらっしゃい、今日も美しいねその指輪」

「指輪かい・・・誉めるところもっと他にないの?」明美が返した。

「顔はいつも綺麗だから今更誉めないよ・・・」

「言うことが相変らずホストくさいのね」

「そうかい・・・」

「今日はタロットお願いしたいの、好い?」

「お任せあれ、ところで何を視たらいい?・・・」

「私、転職しようかどうか悩んでるの、その仕事って看護師なの、
当然資格は持ってる。

今の仕事はアパレル関係なんだけど先のこと考えると不安もあるの・・・
転職の時期かどうか視て欲しいの」

「なるほど、明美さんは看護師の資格持ってたんだ・・面白いね」

貞司はカードを並べた。

「はい、看護師は、ある意味明美さんの天職と出てるよ、逆になんで
アパレルやってるの?」

「親への反発なの、子供の頃から親の引いたレールに乗っかってきたの、
その事への反発だったのね」

「なるほど、でもカードには人の世話を示す暗示が出てるよ。他にはっと?
チョット待ってね・・・」

違うカードをめくった。

「うん、そこには人生を左右する人か出来事があるかもね」

もう一枚カードをめくった。

「うん、これは人ね。ずばり出会いだと思うよ」

「えっ、出会い~~解った。マスターありがとう勇気が出た」

「はい、頑張って下さい。いい出会いがありますように」

これがスナック・アーバンの売りだった。

 
 「いらっしゃいませ」

「マスター久しぶり」

常連の横井茂夫が赤い顔してやってきた。

「横井さん今日は結構飲んでますね?」

「うん今日はやけに酔いの廻りが早いよ・・・ヘネシのーロックダブルで・・・」

「ハイ、お待ち下さい」

配膳室の脇には客から見えないスペースあってカードが常備されていた。

客の様子に異変を感じた時にはそこでカードをひくのだった。
カードはウェルネスの逆パターンが示された。
意味は、不満と病気の暗示を示していた。

「どうぞ、ヘネシーロック、ダブルです」

「ありがとう」

「ところで横井さんはなんのお仕事されてるんですか?」

横井は仕事の話しを語ったことが無かった。

「なんだと思う?そのカードで当てたらマスターの好きな物ご馳走するよ」

「そこまでは解らないと思いますよ・・・でも興味あるからやってみますよ」

そう言いながら貞司はカードを手にした。

「う~~と、建築に関係する仕事で美を表わす・・・
表具か塗装、左官???」

一瞬横井の指と爪の間に小さな赤色が見えた。

「解った・・・ペンキ、塗装やさんですか?」

「うそっ!マスターそこまで解るのかい?」

「いや、最後の塗装は、横井さんの指のペンキらしい赤い色を
見たんですよ、僕はそこまで読めませんよ・・・」


「いや、でも数ある職業から塗装屋を言い当てたのは本物だよ・・・立派。
マスター好きな物飲んでよ」

「はい、じゃあビール頂きます」

二人は乾杯した。

「体調はどうなんですか?以前より少し痩せたような感じがしますけど?」

「食欲が無いだけだよ」

「そうですか塗装やさんは体力使うから気をつけて下さいよ」

「ありがとう・・・マスター・・・もう知ってるね?」

「えっ、なんの事ですか?」

「身体のこと・・・この俺の」

「さぁ~なんのことか解りませんけど」

「まっいいさ、今言ったこと忘れて」

二人に沈黙が走った。

ドアの開く音がした。

「いらっしゃいませ」

ホステスのANNAだった。

「ANNAちゃん今日は早いね」

「今日のお客がイヤな奴でさ、そいつ、まだ帰りそうもないから先に
こっちが帰ってきたの」

「それはそれは」

貞司はボトルと氷の入ったグラスを出しバーボンを注いだ。

「ハイ、どうぞ」

「ねぇ、マスターは苦手な客が相手の場合はどうしてるの?」

「黙って話しを聞いてるだけだよ」

「なんで?」

「なんでって言われても・・・ここに来るお客はお金を出して酒を飲むと
同時に雰囲気や会話を楽しみに来られるよね。

ただの酒好きなら自分の家が一番安いわけだし。飲みに出るって言うことは
接待は別かも知れないけど、今言ったそれ以外のものがあると思うから・・・

折角うちに来てくれるからには最低限のおもてなしは
必要かなって思うんだけど。

僕はそれ以上の難しいこと考えたこと無いけど」

ANNAが「確かにそうだけど・・・でも苦手な客いるんだよね」

「当然いると思うけど、高い金出して来るわけだからね・・・
もし客を選ぶんだったらこの商売辞めた方が・・・」

横で黙って聞いていた横井茂夫が口を開いた。

「僕は客の立場だけど・・・僕の場合はほとんど仕事の付き合いで
飲みに出てるんだ。仕事といことは会社の大事な経費だよね。

僕は塗装屋だからペンキの一塗り一塗りで稼いだ大切な金でもあるんだ。
だから経費は一滴の血とも言えるよ。

姿形は違うけどさ、自分の大事な血を飲んでるかもしれない。
ANNAさん気悪くしたらゴメンね!」


「いえ、生意気言ってごめんなさい。私、勘違いしてたようです。
私の立場ばっかり考えてました。明日から出直します・・・
馬鹿なこと言ってごめんなさい」

三人は笑いながら飲み明かした。

「マスター今日は楽しい酒だったよ。ANNAさんも明日からガンバって!」

「横井さんも当店においで下さい、お待ちしてます。今日はありがとう
ございました。『経費は一滴の血』この言葉ドキッとしました」

その後、横井茂夫は来店することはなかった。


数ヶ月後、店にANNAがやってきた。

「マスターお久しぶり・・」

「いらっしゃい、いつもので?」

バーボンで乾杯した。

「マスター、あのペンキ屋の横井さんその後ここに来てないの?」

「僕も人づてなんだけど、体調良くないらしいよ」

「あん時は楽しかった」ANNAは呟いた。


それから数年が過ぎた。

貞司はアカシックカードを使わなくても自由にアカシックレコードを
視ることが出来るまで上達していた。

それに伴い客の半数が相談事の客だった。

ホスト時代からの常連ヒデミが言った「マスターさあ、最近やたら相談事
多くない?なんかこの店の客層変わったよね」

「そうなんだよね、僕がアカシック占いをしたせいなんだよ。
今更辞めたって言えないし」

「だったら日中何処か小さい店借りて、そっちで占い専門にやったら?」

「身体が続かないよ」

「この店が夜9時オープンの2時閉店で5時間でしょ。9時か10時に
起床・・・11時から5時頃まで占い出来るじゃない」

「そうなると、なんか働きどうしみたいだね・・・」貞司は呟いた。

「夜の仕事は助っ人頼んだら?ホスト時代の友人いないの?
出来れば若くていい男なんてどう!」

「うん、考えてみるよ。アドバイスありがとうね」

まもなくして貞司は商業ビルオーナーの客から、ビルの一角にスペースを借り、
日中の6時間をアカシック相談として営業し、夜は、知り合いの元ホストの
トミーに手伝ってもらった。

【TEIZI】全9-7

7.「ショップTG(アヤミ編)」

 「いらっしゃいませ~~」ショップの1日はシゲミの一声から始まった。

「テ~ジ店長、最近石もカードも売上悪いですね。同時に客も少ないと
思いませんか?なんか客引きの新商品考えましょうよ」

「うん、解るんだけどね~~。シゲミちゃんなんか考えてくんない?
考えてくれたら、その商品の利益の10%を謝礼として給与に加算するよ」

そう言われたシゲミは、俄然やる気に火が付いた。

「いらっしゃいませ~~」

女子高生が入ってきた。

「あっ、シゲミさんですよね」

「はい、シゲミですが・・・」

「私に合う水晶を選んでもらえますか?」

「はい、承知しました」

シゲミはいつものように無作為に石を選んで客に渡した。

「えっ、もっと小さいの無いでしょうか?

出来ればストラップの様なのが希望なんですけど・・・」

「当店には無いのね、ごめんね・・・」

結局、客はなにも買わずに帰っていった。

それからのシゲミは店の空いた時間や帰宅後も真剣になにか書いていた。

数日後、テ~ジにノートを無造作に渡した。

「どうしたの、これ?」新商品原案と書いてあった。

テ~ジはノートを開き真剣に見つめた。

<シゲミ手作り水晶アクセサリー>

シゲミの水晶ストラップ・水晶ヘアーゴム・水晶バレッタ
水晶リング・ペンダント・ブレスレット・etc

「これ面白いね、でも発注は?製造は?」

「アヤミ姉ちゃんなら出来ると思います。以前、全国を旅しながら路上で
売ってたことあるみたい」

「よく路上で商売してる、あの手作りアクセサリー?」

「そう、あれです」

「以前ここでシゲミちゃんと大げんかした?・・あの・・・アヤミさん?」

「そう、あの・・姉ちゃん・・あっ、でもそれはもう大丈夫です」

「そう、よかった・・」

それから数日して各2個づつサンプルが出来てきた。

「テ~ジ店長、見て下さい」

テ~ジは鋭い目で一つ一つ丁寧に眺めた。

「凄いよ、これは思ってた以上の出来だよ!で、仕入れ原価はどの位になるの?」

「高くても2300円ですって、ストラップだと800円」

「じゃあ、1,5倍ぐらいで店に置いてみようか?」


 早速、特設コーナーを設置し商品を並べた。

結果、その日の午前中に全20点すべて完売した。

テ~ジは気をよくし「シゲミちゃん、早速お姉ちゃんと契約したいので、
すぐにでも店に来てもらえないかなぁ?」

「はい、言っておきます」

早速、アヤミが店にやってきた。

テ~ジは不思議な感覚だった。どこが違うんだ?・・・この二人は?

商談はすぐ成立した。

店を、見渡していたアヤミは畳一枚ほどの空きスペースを指して呟いた。

「シゲミ、ここで週2回、実演させてもらえない?あんたが休みの時で
いいからさ。どう?」

テ~ジは了承した。

シゲミの休みの時アヤミが商品の公開作業することになった。

だが、ただの公開作業ではなく、見学に来た中高生相手に「貴女にあった
アクセサリーを作りませんか?」という触れ込みで作成するというもの。


初日から客がきた「じゃあ、この石でネックレスお願いします」

「この石、持ってみて!」アヤミはもっともらしく石を手のひらで転がした。

「う~~~ん?これ駄目ね。こっちの石持ってみて~~。うん、これ
ピッタリよ!これどう・・・?」

「じゃあ、お任せします・・・」

「じゃっ、これでね。で、デザインはどれにする?デザインに
相性はないから、お好みのをどうぞ・・・」

「これでお願いします」

「はい・・30分位待ってね、急いで作るから店内見ててね!」

こんな具合にオーダーに答えていた。

近くで見ていたテ~ジがアヤミに聞いた。

「もしかしてアヤミちゃんも石と客の相性解るの?」

「やだ~~店長・・・私も解りませんよ。シゲミがそういう言い方すると
中高生は喜ぶよって。まっ、リップサービスです・・・」

テ~ジは思った。この姉妹、恐るべし・・店の方向性が変わってきたぞ。

姉のアヤミが来てから3ヶ月が過ぎた。


 「シゲミちゃん家族って凄いね」

「なにがですか?」

「だって、まずシゲミちゃんが来て売上が上がって、アヤミちゃんへの
オーダーも多くて店は大繁盛だよ・・・助かるよ・・・」

「良かったですね、店長」

「どうだろう、今晩アヤミちゃん誘って閉店後に食事行かない?
好きな物ご馳走するよ。どう?」

アヤミと連絡を取ったシゲミはテ~ジにOKサインを出した。

3人は繁華街にやってきた。

「いや~あ、3人での食事初めてだね。なに食べる?」

二人は口を揃えて「寿司!」

その頃、母京子は「あの子達、まさか『寿司』って言わないでしょうね?」
京子に悪寒が走った。

「へい、らっしゃい!どうぞ!」

小樽でも老舗のみどり寿司である。

「まずは、乾杯!好きな物、食べていいからね」

シゲミとアヤミは顔を合わせてニヤッとした。

シゲミが「とりあえず、ウニとイクラとトロとアワビ6人前」

テ~ジは一瞬ドキッとしたが「どうぞ、どうぞ・・・」

アヤミが「私も同じのでいいで~~す」

同じのでいい?ってことは・・・もしかして、僕の分は入ってないって事?

シゲミが「店長は食べないの?」

「いっ・・・いや・・僕は青肌が好きだから・・・」

「やだ~~。うちのお母さんと一緒・・・」

テ~ジには彼女らの母親の気持ちが痛いほど解った。

「店長、このあとカラオケ行きませんか?」

「いいね、いいね、カラオケならいいね!」

「私達、ザ・ピーナッツ歌います」

さすが双子!いい選曲だ。でも、二人は異常に音痴だった。
マイクは二人が占領し、結局テ~ジにマイクは一度も廻ってこなかった。

「もう、帰ろうかね?」

アヤミが言った「店長ったら、まだ1時ですよ。こんなに早く帰ったら、
神様のバチがあたりますよ~~」

テ~ジはもうバチは当たってると思った。

翌朝、母親がシゲミを起こしにきた。

「今日はシゲミの出番でしょが・・・早く支度しなさい」

起きてきたシゲミに母は言った「昨日は遅かったのかい?」

「1時半頃だよ~~、おぇっ・おえっ・・・」

「なんだい二日酔いかい?」

「チョッチね~~」

「ところでお前達、寿司屋は行かなかっただろうね?」

「寿司屋だよ。久しぶりに高いの食った食った~」

「あ~~あっ。店長さん、今頃死んでるよ、きっと・・・」

「大丈夫だよ。私達食べ方セーブしたし、店長は青肌とイカや
タコばっかりだったから・・・」

台所の影で「店長さん、ごめんなさい」と合掌する母だった。


 「店長、おはようございます」

「おはよう」小さな声だった。

「昨日は楽しかったです!ごちそうさまでした。また、ご馳走して下さい」

「・・・・・」テ~ジは無言だった。

たぶん今度は無いと思うけど、小声で呟いていた。

「あなたに合った水晶、見つけませんか~?オリジナルもお作りしますよ~」
シゲミは今日も絶好調。


 「ごめん下さい」

PTA風の女性が入ってきた。見るからにクレームを言いたそうな雰囲気。

「この店の責任者の方おられて・・・?」

「は~~い、店長~!お客様ですよ~~」

「???・・・店長の村井ですが・・・」

「あなたにお聞きしますけど、この石を言葉巧みに理屈の解らない
若い子相手に売りつけてるって聞いて抗議に来ました」

「失礼ですけど、どちら様でしょうか?」

「誰でもいいでしょ!」

「そうはいきません。私どもが法に触れる売り方をしたんであれば、
まず、その内容をお聞かせ下さい。お宅様のお名前も・・・」

婦人は店長の言葉を無視して「この石のバイブレーションが合うとか
合わないとか、子供達に巧みに嘘をついて、売りつけていいものでしょうか?」

「私どもは売りつけておりません。どれを買うのかは、お客様の自由意思です」

「ここにシゲミって言う店員さんおられますの?」

そばで聞いていたシゲミが話し始めた。

「はい、私がシゲミと申しますがなにか?」

「あなたね、あなたの販売の仕方に問題があると言ってるの」

「はあ?・・・具体的に云ってもらえますか?」

「今、云ったでしょ!何度も云わせないでよ」

「私は聞いてません。あなたが店長に勝手になにか話したんでしょ?私に言いましたか?」

「わかったわ。あなたの水晶の売り方に問題があるって云ってるんです。」

「なんで?」

「なんでって?こんな水晶の波長が人間の波長となんの関係があるっていうの?」

「はぁ?私にもなんの関係があるか解りませんけど・・・」

出た!シゲミの、いつものおとぼけトークが出た~~!とテ~ジは思った。

「なにを今更、言い逃れしてるの?・・ったく!子供達がそう言ってますの」

「じゃあ、お聞きします。さっきあなたは理屈の解らない子供に
売りつけたような言い方しましたよね?」

「ええ、言ったわ。それがなにか?」

「いいですか、その理屈の解らない子供のいう事を一方的に、真に受け
判断しているあなたはどうなの?」

「どうなのってなによ・・・」

「そう言うのを偏見って言うのよ。ハッキリ言ってその様な、いかがわしい
販売は当店ではしておりません。オープン以来ひとつもその類のクレームを
受けたこともありません。
例えば、お正月にみなさん神社に行って商売繁盛のお札や御守り、破魔矢を
買われますがあれはどうなのよ?

あんなお札で商売繁盛に繋がると思いますか?御守りで災難から
逃れること出来ますか?あれこそ本当のまやかしじゃあないですか?
あの売り方こそ異常じゃないですか?

あっちは合法でこっちの売り方は違法ですか?

私に解るように教えて下さいませんか?・・・」

明らかに形勢は逆転した。

テ~ジは「シゲミは天才だ!俺、彼女に付いていこう」と思った。

「今日は帰るわよ。必ずシッポ掴むからね・・・」

そのPTAは捨て台詞を吐き帰って行った。

シゲミはいつものように表に出て


「いらっしゃいませ~~!あなたに合う水晶どうですか~~?探しますよ~~」

テ~ジの心は完全にシゲミ依存症になっていた。


 数日後、アヤミの出番の日、あのPTA風の女性がまたまたやってきた。
今度は3人の助っ人が加わっている。

「先日はどうも、この方達は同じ会の同士です」

「はあ?誰?・・・」

シゲミからはなんの説明も受けていなかった。

「どちら様ですか?」

「あなた、人を馬鹿にするのもいい加減におし!」

「はあ???あなた誰???そしてなに?」

「奥様達この方よ。インチキ石を高値で売りつけてる店員は」

一緒に来た助っ人が「まぁ!ふてぶてしい面構えだこと」

アヤミはぶち切れた。

「オバサン方、誰に物言ってるの?」

「あなたよ、他に誰かおられて?貴女も面白いこというのね・・・ほっほっほ」

「喧嘩ならいくらでも受けて立つけど、その前に聞かせな。あんた達は誰で、
なんで私に喧嘩売るの?まずそこからハッキリさせな」

「なに偉そうに・・この前の威勢はどうしたのよ?」

「チョット待ちな」

アヤミは携帯でシゲミから話を聞いた。なるほどね・・・勘違いか・・・

「オバハン方、ちょっと待ってな。もう少しで面白いもの見せてあげる」

15分後、スクーターに乗ったシゲミが現われた。

「お待ちどうさん」

シゲミを見た4人は言葉を失った。

シゲミが「なんだ、またあんたなの?今度はなに・・・?」

アヤミが割って入った。

「チョット待てや・・・その前に私に謝れ・・・おい、そこの二人!
それが礼儀だろうが?いきなり人を捕まえて、『なに偉そうに・・この前の
威勢はどうしたのよ』って言ったね・・・えっ!
常識を語りたいなら、最低限の常識を守りな。そこの二人・・・」

二人は小声で「ごめんなさい・・・」

「声が小さい!聞こえない」

「ごめんなさい」

「はい。シゲミ、バトンタッチ」

「今度はわたしね。今日はどうしたって?」

アヤミに出鼻を挫かれた4人だった。

「もういい、今日は帰る・・・」

シゲミが「どうしたの?言いたいことあってここに来たんじゃないの?」

「だから、もういいって言ってるの」

「良くないよ。ここに来たって事はだよ、自分達は間違ってないって
思うから来たんでしょ?だったら言いなよ。私、聞くから・・・」

アヤミは思った。シゲミのこのパターンは超しつこいよ・・・フフっ

シゲミが「私が言おうか?中高生相手にくだらん石売ってからに、
少し懲らしめてやろうか・・てか?・・どう!4人もいたらびびるだろう
・・・ってね」

「いや、そこまでは言ってませんけど・・・」

「だったら、なにが言いたいの?・・・えっ!」

「だからもうよろしいのよ」

「いい、もう一度言うよ私は石を売りつけてません。向こうが自分の
意思で店に来て買っていくの。前にも言ったように買う側の問題なの。
こちらからは何も云ってないの。

神社でも安産のお札なんかは、このお札は安産に効きますなんて
神主さん絶対言わないの・・・そんなこと言っちゃいけないのよ。
買う側の問題だから。解ったら商売の邪魔になるからお引き取り下さい」

側で聞いていたアヤミは、あいつ、いつも言ってるくせに・・・
よく言うよ・・たく。

4人は返り討ちにあい無惨に退散した。

その後テ~ジが店に帰ってきた。

「あら、シゲミちゃん休みなのにどうかしたの?」

「店長の顔が見たくてきました。なんか店長のその間の抜けた顔、
毎日見ないと不安なんで~~す」

「いやぁそんなぁ~~」

アヤミが「店長なに照れてるの?からかわれてるの解らないの?」

「シゲミちゃん本当に僕のことからかってるの?」

シゲミは「いえ、ほんとうで~~す」

テ~ジはアヤミの方を振り返って「ほらっ・・・」

「シゲミいいかげんにしな・・・」

シゲミが「そんなことないですよ、店長また寿司食べに行きましょう。
私と・・・ふ・た・り・で・・ねっ!」

瞬間、テ~ジはみどり寿司を思い出し顔が青くなった。

「さっ仕事だ仕事、アヤミちゃん仕事しよう。あなたに合った水晶
見つけませんか~~水晶で作るオリジナルアクセサリーもお作りしますよ~~」

騒動を何も知らないテ~ジだった。


「ごめんください」

「はい、いらっしゃいませ」

「私、札幌の消費者保護の部屋の久慈和子と申します。
こちらの店の代表の方おられますか?」

「ハイ、僕ですがなにか?」

「こちらの商品の売り方でお聞きしたいことがありまして
訪問させていただきました」

「どういう事ですか?」

「こちらで水晶石の販売をなさってますね」

「はい」

「その売り方についてお聞きしたいのですが?」

「はい、どうぞ」

「こちらでは水晶に何かしらのパワーまたは御利益があると
言って販売なさっているとか聞きましたが、事実なんでしょうか?」

「い~えその様な売り方はしておりませんが」

「そうですか?私どもに苦情が寄せられておりますけど」

「もし苦情であれば直接その水晶をお持ち下さい。事実関係を調べた上で
私が責任を持って返品させていただきますけど」

「こちらにシゲミさんという店員さんおられますか?」

「はい、あの娘ですけど」

「シゲミさんお仕事中すみませんが・・・」

「はい、なにか?」

「今店長さんにお話ししたんですけど」

「あなたの販売の仕方に・・・」

最後まで聞かないうちにシゲミが「あの~~う、今仕事中なんですが
行政指導か何かですか?消費者保護の部屋って公設ですか私設ですか?」

「私設ですけど何か?」

「名刺はあります?」

「いいえ、必要ありませんの」

「じゃああなたを証明するもの何かあります?」

「いいえ、私が言ってることはそうじゃありませんの」

「ちょっと待ってね『そうじゃありません』って、
そのそうはなにを意味してるの?」

「いえ、その」

「公でもない、名刺も無い、って私はいったい何処の誰と話してるのかしら。
ただのいちゃもんなら業務妨害で警察呼ぶよ・・・どうなのよ?」

「話しても無駄ね・・・」捨て台詞を吐いて帰って行った。

シゲミの3連勝目であった。

「シゲミちゃんまたうるさいのが来たら頼むね。僕シゲミちゃんの
言い方聞いたらホッとするんだ・・・」

シゲミは店長の顔を見て「おめえがしっかりしろっ!」

「はいっ!」

瞬間二人は大声で笑った。


 それから数ヶ月なにもなく経過した。非番のアヤミが突然店を訪れた。

「シゲミうちの店の丁度裏手にスピリチュアルショップがオープンするらしいよ」

店長が「えっ、今改装中の店はスピリチュアルショップなの?
シゲミちゃんどう思う?」

「結構なことじゃないですか」

「小樽の観光客は半数がひやかしなんだし、向こうに来る客はこっちにも
顔出しますよ。どうせならスピリチュアルエリアに知名度が上がれば楽しいのに」

テ~ジはシゲミのこういう前向きな発想を尊敬していた。

そんな時「あの~~すいません」

「はい、なんでしょうか」テ~ジが言った。

「この度、裏にオープンするスピリチュアルショップの大広と申します。
開店の挨拶に伺いました。どうぞ宜しくお願いいたします」

上品そうな女性だった。

「それはご丁寧にどうも・・・初めまして。僕が店主の村井です。
頑張って下さい。解らないことあったら気兼ねなく聞いて下さい」

「助かります、宜しくお願いいたします」

帰ったあとを潤んだ目線で追うテ~ジがいた。

「店長・・・!」

「なに?」

「目が星になってんぞ」シゲミが言った。

「そんなことないサ~~」

「あんたは沖縄人か?」


 渡辺敏郎はここで筆を止めた。

空想の世界が形になるって面白い。これからはアルバイトしながら書き
続ける価値ありと思った。もう少しこの世で頑張ろうか・・・・

【TEIZI】全9-6

6.「ショップTG(シゲミ編)」

 観光の町小樽に中高校生相手の小物店があった。

店の名はスピリチュアルショップ・TGここはメイン通りから少し奥に
入った、間口3.6mの小さなショップ。

知る人ぞ知る、スピリチュアル小物専門店。

スピリチュアルに関する物なら一通り扱っていた。水晶・占い各種カード・
仏像・ロザリオ・本・お香など、手ごろな価格が学生には買いやすく、
店はそれなりに繁盛していた。

「いらっしゃいませ。ご自由に見て下さい」今日も修学旅行で小樽に来た
女子がやってきた。

「あの~う、こちらでお客の相性にあった水晶を選んでもらえると
聞いて来たんですけど」

「はい、貴女ですか?」

「いえ、彼なんですけど・・・」

「結構ですよ。彼の写真、持ってたら見せてもらえますか?」

「どうぞ、彼です」

「ハイ、解りました」

店主のテ~ジはその写真に手をかざし眼をとじた。

次の瞬間、数ある水晶の中から、ひとつの水晶を選び「これですね・・・」
と言いながら手にとり、そっと女の子に渡した。

「これが彼のエナジーとあなたのエナジーの調和を司る水晶ですね。
あなたも購入されると、良い効果が生まれるかもしれません」

「じゃあ、私のも選んで下さい」

「はい、ありがとうございます。ひとつ1500円ですけどふたつだと
2500円になります」


 そばで見ていた女の子も「あの~~私もお願いします」その子も携帯の
写真を見せた。


 ひととおり客が帰った後、昨日から店で働くことになった
パート従業員のシゲミが「テ~ジ店長さん、凄いですね・・・
私、そんな能力全然ありません」

「僕もそんな能力ないよ・・・」笑顔で答えた。

「えっ、でもさっき・・・」

「あっ、あれね。あれデタラメ・・・」

シゲミは我が耳を疑った。

「うそなんですか?」

「嘘じゃないよ、デタラメだよ」

「??どう違うんですか?」

「嘘は故意的につくもの。デタラメは、かも知れないということ。
もしかしたら当たってるかも知れないでしょが?
鰯の頭も信心からって言うでしょう?当のお客も半信半疑だからいいの。
今までクレームも無いし・・・」

瞬間、シゲミは就職先を間違ったと後悔した。


 その日の夕方、同じように水晶を求める女子学生の団体が来た。

シゲミが応対していた。

「すみません」と云いながらスマホの写真を見せた。

シゲミは躊躇無く手のひらを水晶にかざし眼を閉じた。
とっても順応しやすい性格である。

テ~ジはしっかりとその様子を見ていた。


 今日も店が開いた。

「いらっしゃいませ~~。あなたに合った石、探しませんか~~?
当店がお手伝いさせてもらいますよ~~」

テ~ジが指示していないのに勝手に呼び込みをやってるシゲミがいた。
この娘に天性の素質を感じた。久々のヒット!・・・と思った。

「オネエさん、すいません」

「はい、なんですか?」

「あの~、手相占いの好い本ありませんか?」

「この辺の本が初心者にお勧めですよ・・・」

「じゃあ、これ下さい」

客が帰った後テ~ジが聞いた。

「手相占い、詳しいのかい?」

「いいえ、知りません」

「だって、さっき客に・・・」

「あっ、あれはデ・タ・ラ・メ・・・です」

テ~ジはまたまたシゲミに天性の才能を感じた。

ある時、店に手紙が届いた。

「先日、水晶をふたつ購入した学生ですが、おかげさまで彼との間が
深まりました。水晶の効果に驚いています。ありがとうございました」

テ~ジはシゲミに手紙を渡し「デタラメとはこういう事を云うんだよ・・」
訳の解らない理屈を力説した。

「お姉さん、私のお母さんが体調を崩して入院してるんです。
お守りにどれか効く石ありませんか?」

「ありますよ」

なにも考えずシゲミは即答した。

「このムラサキ水晶なんか病気が癒えそうですよ・・・」

「じゃぁ、これ下さい」

「はい、2000円です」

客が帰ってから頃合いを計りテ~ジは「大事なこと云うの忘れてたけど、
身体に関することはコメントしないでね。当事者にとっては大事なこと
なんだ。責任が負えないコメントはくれぐれも避けてね・・・」

「は~~い」シゲミは案外軽かった。

それからひと月後、店に一通の手紙が届いた。

「ひと月程前、母の病気が癒えるようにと紫水晶を購入した女子学生です。
あの石を選んでいただいた綺麗なお姉さん、ありがとうございました。

お姉さんに選んでいただいた石を母親に渡してから体調が日に日に
良くなり、先日無事退院できました。後から聞かされたんですけど、
母親は癌だったようです。母親の回復を医者も不思議だと云ってたそうです。

それだけではありません。
昨日、私が学校行くのに家を出て直後、急に紫水晶が気になったので
家に戻り母親から石を借りて家を出たんです。

いつも乗るバスに間に合わず、ひとバス遅れて乗りました。
そして次のバス停の前で悲惨な光景を目撃しました。私が乗る予定だった
バスがダンプカーと激突し横転してたんです。

あのバスに乗ってたら災難に遭ってたと思います。私が無事だったのは、
この紫水晶のおかげだと思っております。

この石を勧めてくれたお姉さんに感謝します。 
スピリチュアルショップ・TG 素敵なお姉様へ  山口ミオ」

それを読んだシゲミは「あっそう」と、そのまま手紙を丸めゴミ箱に
棄ててしまった。シゲミにはどうでもいいことだった。

それを物陰から見ていたテ~ジは思った「この女ただ者でない・・・」

「今日から世の中4連休。忙しくなるから頼むね・・・シゲミちゃん」

シゲミは4連休か・・・ちぇっ、めんどくせ~~と心で思っていた。

「いらっしゃいませ~~。あなたの意識を波動チューニングしませんか~?」

テ~ジは思った「この娘は、どこでそんな言葉、覚えてきたんだ?」

この仕事が天職のようだ。
久々のホームランか?盆と正月が一度にきたようだと思った。

3人の女子高生が入ってきた。

シゲミが「いらっしゃいませ」

3人は店内を見渡していた。

その内の1人が「このタロットって本当に当たるの~~?」

シゲミが答えた「当たりますよ、タロットの歴史は古いですから。
今でも存在するっていうことは、当たるからだと思いませんか?」

見本用のタロットを手にしたシゲミは「1回やってみます?」

「えっ、いいですか?」

何処からかタロット用のフェールトを取り出しテーブルに広げた。

「で、なにを占いたいの?」

「私は大学受験と看護師と進路を迷ってます。私に向いてるのはどちらか、
タロットで解りますか?」

側で聞いていたテ~ジは「シゲミでもタロットは無理だろう」と思った。

「解りますよ」

シゲミはカードをシャッフルしてから作業に入った。

一枚のカードを取り出し「はい、このカードがあなたの未来を暗示してるの。
よくみるのよ。いくよ・・・」

シゲミは、これ見よがしにカードを開いた。

「はい、結論から言うと看護師ね。あなたは勉強はあまり好きでない。
あなたの持って生まれた武器はズバリ!母性愛ね。看護師は天職かも。考えた事無い?」

「あります、あります」

「ありますは1回でいいの」

みんな爆笑すると同時に驚いていた。

残り二人も占ってもらった。

「いいかい、タロットは誰でも出来るの。カードに大まかな意味があるから、
まずそれを覚えること。それを元にインスピレーションを働かせるの。

世の中には偶然がないの。どんな占いにも偶然は無い。ただし、同じ内容で
何回も引かないこと。たとえそれが意に反するカードでもね。
どうしても再占いしたい場合は期間をおいて半年後にすること。

未来はたえず変化するの。決まった未来は無いからよ。

あなた達にも簡単にできるわ・・・どう、買わない?たったの3500円。
3セットまとめたら300円引きの3200円でどう?ハゲ店長に内緒よ」

3人は口を揃えて「頂きます」

「ありがとうございました~~!」

3人が帰った後、テ~ジがやって来た。

「シゲミちゃん、タロット出来るの?」

「出来ない」

「??えっ・・・だって今の彼女たちに???」

「あれ全部デタラメです。わたし一度だけ、姉が持ってたタロットの本
読んだことあって、たまたまそのカードの内容を覚えてたの。

でも、3人目の髪の長い娘のカードは解らないから直感です。
テ~ジさんも占いましょうか?」

「いや、僕はけっこうです・・・」

テ~ジはこの女・・・完全に俺を上回ってると思った。


 店に少し派手目の女性が入ってきた。

シゲミは「いらっしゃいま・・・なにしに来た!」急に言葉を荒げた。

「あんた、お客にその態度はどういうことよ?」

「ひやかしはお断りしま~~す」

「バッカじゃないの?・・小樽の客は観光客が多いの。
観光客の多くは冷やかしよ。店員ならよく覚えておきな・・・」

「ふん、偉そうに・・・なにがひやかしよ。ひやかしみたいな
顔してさ・・・バ~~カ!」

「ひやかしみたいな顔ってどんな顔よ?」

「そんな顔よ・・・バッカじゃねぇの?」

それを聞きつけたテ~ジがやってきた。

「どうもすみません???プッ・・・」客の顔を見た瞬間吹き出した。

同じ顔の二人のシゲミが言い合いしていたからだった。

客のシゲミが言った「お宅が店主のテ~ジさん?いつもこのお馬鹿な
妹がお世話になっております。双子の姉のアヤミです。どうも・・・」

「お姉さんですか?シゲミさんにはお世話になってます。
私が店主のテージです。初めまして・・・」

「あなたがデタラメに石を売ってらっしゃるテ~ジさんですか・・・?」

テ~ジはシゲミの顔を睨んだ。

「で、今日はなに?」シゲミが言った。

「用事でそこまで来たからチョット寄ってみたの」

「買わないなら、商売の邪魔だから帰ってくれますか・・・?」

「なによ、水晶でも買おうかなって思ってるのにその態度は。
テ~ジさん、私に合った石ありますか?」

「勘弁して下さいよ・・・」テ~ジが頭をかきながら言った。

それを見ていたシゲミが「お客様、私が選んであげましょうか?」

「あなたに解るの?」

「商売ですから・・・」

無作為に石を選び「これなんてピッタリですよ、失恋の痛みを忘れ
させてくれますよ・・・」

「な~に~!てめ~~シゲミ・・・こら!」

アヤミは最近、彼に振られたばかりだった。

「まあまあ冷静に・・二人とも。喧嘩は家に帰ってからご自由に」

「この店、気分悪いから帰る・・・」アヤミはそう言い残して店を出た。

「テ~ジさん、塩蒔いて!塩!」

「シゲミちゃん、折角様子を見に来てくれたんだからさ・・・」

「すいませんでした・・・」

お客が入ってきた。

「いらっしゃいませ~~」満面の笑みを浮かばせたシゲミだった。

女は怖い・・・テ~ジは思った。


 仕事を終えシゲミは自宅に帰った「ただいま~~!」

アヤミが近寄ってきた。

「お帰り~~!楽しかったねぇ~~!あの店主の顔、見た?」

「見た見た。あのビックリした顔。面白かった~~最高!」

母親の京子が近寄ってきた「あんた達、またやったのね!・・・
で、どうだったの?母さんにも教えてちょうだ~~い」

「ガ・ハ・ハ・ハ・」3人の笑い声が家中に響いた。   


「おはようございます」

「おはようシゲミちゃん。昨日帰ってからまたお姉ちゃんと喧嘩したのかい?」

「いえ、普通ですけど・・・」

「あっそう・・・」昨日のあれはなに?とテージは思った。

「いらっしゃいませ~~」

今日もショップTGの1日が始まった。


 「店長、水晶の在庫少なくなって来ましたよ」

シゲミが入社してから水晶とタロットカードは以前の3倍売れていた。

今では、そのふたつを目当てに客が増えた。

中には小樽に来られない友達の分まで購入する客も多くいた。

小樽のショップTGの水晶とタロットが中高生女子の間で人気があった。

特にシゲミという店員が触れた水晶はご利益があると噂された。

「ごめんください」

「いらっしゃいませ」

テ~ジが接客した。

「 私、ショッピング北海道編集記者の小黒タカコと申します。
実はこちらの店員さんの触れた水晶になにか不思議なパワーが
秘められていると聞いて取材に来ました。
どなたか責任者の方にお話しを聞きたいのですが?」

「僕が店主でオーナーの村井と申します。そんな話し聞いたこと
ありませんけど?」マズイのが来たと思った。

「えっ?今、若い子の間では有名ですよ。小樽のパワースポット・・・
と言ってる人もいるんですよ」

「いや~僕は初めて聞きましたけど?・・・」

「こちらにシゲミさんという従業員の方おられますか?」

「はい、彼女ですけど」テ~ジはシゲミを指さした。

「オーナーさん、彼女にチョットお話ししてもいいですか?」

「彼女に聞かないと解りませんし、店内は狭いので他の
お客さんに迷惑かと・・・」

「じゃあスタッフは表で待ってますから、私がここで彼女に取材の許可を
取ってもかまいませんか?」

「・・・あっ、それでしたらどうぞ」断る理由が無くなった。
心の中では「シゲミ、拒否しろ~~」と念じていた。

「あのう、シゲミさん。取材の件でお時間、宜しいでしょうか?
店長さんの許可はもらってますけど・・・」

「店長はなんて?」

「シゲミさんが許可したら、かまわないと言われました」

「そうですか。じゃあ、手短にどうぞ」

「では、表で店をバックに写真を一枚撮って、それから簡単な
インタビューお願いします」

「あいつインタビュー受けやがった・・変なこと言うなよ!」
テ~ジは頭の中で祈った。

「では質問しますから答えて下さい」

「どうぞ」

「この店は中高生の間で有名になってることはご存じですか?」

「いいえ、知りません」

「小樽のスピリチュアルショップ・TGのシゲミさんは、
お客様の顔とバイブレーションを視て、その客に相応しい水晶や小物を
選んでくれるって。そして選んでくれた水晶に特別のパワーがあるとう
評判ですけど・・・それについてどう思われますか?」

「そうですか、そんな噂が立ってるんですか・・・知りませんでした。
私がやってることは、宝石や服をお奨めするのと同じですけど。
あなたは宝石や服を買いに行きますか?」

「ハイ行きますけど・・・」

「似たような指輪があった時、どれにしようかと悩んでいるところに、
それを察知した店員さんが来て、こちらの方がお似合いですよって
話しかけてきたら?

私のやってることは、ただそれだけのことです。あとは、買った人が
勝手に解釈してるだけだと思います。

そんな効果のある石があったら私が買います。

そして高く売りつけますよ。そんな中高生の噂で小樽までわざわざ取材しに
ご苦労さまでした。以上」

シゲミは何事もなかったようにそのまま店に入っていった。

小黒タカコが視線を落として言った。

「今日は取材になりませんね、撤収しましょう。彼女の云うとおりよね。
噂に惑わされるとこだったわ、まったく・・・撤収、撤収」

難を逃れた店主テ~ジは、シゲミは本当に素晴らしいと思った。
敵に回したら怖いタイプとは彼女のこと・・・

石の売り場ではシゲミが「オネェちゃん、この石の効果知ってる?
普通の水晶と少し違うのよ・・・私が選んであげる。
今も札幌の雑誌社が噂を聞きつけ、取材に来たとこなのよ」

シゲミの神経は図太かった。

【TEIZI】全9-5


5.「貞治のタイムマシン」

 「カズノリ、お~~い、カズノリ」

「はい、貞治社長。何か?」

「貞治は付け無くて良い。何回言えば解るんだ?」

「すいません・・・社長」

「それは良いけど、昨日お前に頼んだ家庭用ヘルシーバイクの組立は
どこまで進んだ?」

「もう出来てますよ」

「どこだ?おまえ、また嘘ついたな・・・この会社辞めるか?」

「貞治社長、僕、ウソ付いてません・・・」

カズノリは村瀬研究所所長、村瀬貞治の同級生だった。

「何処にあるんだ?」

「ほら、そこに・・??あれれ???昨日、確かにここに置いて
帰りましたけど?」

「どこにある?」

「いやだなあ社長・・俺を騙そうとしてる?それとも、
自分で片付けたの忘れました?」

「カズノリ!」

「はい!」

「おめぇ・・・クビだ!」

「社長、冗談はよしこさんですよ」

「誰がお前に冗談言わねえとなんねぇだ?」

「ですよね???」


 二人は工場の隅々まで捜したが見つからない。

貞治が床の傷と歪みを発見した。

「おい、ここに置いたって言ったよな?」

「はい、その辺です。そこに4つの傷があるでしょ?そこです、
間違いありません」

カズノリがその場に近づくと軽いモーター音がした。

次の瞬間だった。探していた家庭用ヘルシーバイクらしきシルエットが
突然なにも無い空間から浮かび上がってきた。そして徐々に輪郭が
ハッキリして、そのヘルシーバイクが姿を表わした。

二人は呆然と立ちつくしていた。

「カズノリあんちゃん、お前なにやった?この機械に何か細工したのか?」

「そういえば昨日の帰り際、家庭用ヘルシーバイクから変なモーター音が
したから・・・」急視線を上に向けた。


「したからどうした?」

「したから・・・200ボルトの電流を流してやりました。貞治社長、
すいません。すいません。どうかクビだけは勘弁して下さい!」

貞治は家庭用ヘルシーバイクをくまなく調べた。

「解った。その代わりお前、このバイクに乗れ!」

「乗りますけど、電気流さないで下さいよ」

「ああ、流さないから。とっとと乗れ!」

貞治は下を向き不気味な笑みを浮かべた。


 「約束ですよ」

「ああ、解ってる」

カズノリがヘルシーバイクにまたがった瞬間、貞治は剥き身の200ボルトの
配線をバイクの金属部に当てた。

瞬間、カズノリが悲鳴を上げた。

「嗚呼!!!・・・て・い・じ・てめぇ、このやろ・・・・」

と同時にさっきと同じモーター音がして、そしてカズノリはバイクごと
影が薄くなり消えた。

「消えた・・・???」貞治は小さな声で呟いた。


 カズノリは意識が遠くなった・・・

そして、気が付くと景色が変わっていた。

あれ?さっきは作業場だったのに・・・ここは?・・・どこだ?

空き地のど真ん中でヘルシーバイクに乗っていた。

どこだここは??なんか古そうな町並みだな?

バイクから降り、町を眺めた瞬間、カズノリは息を飲んだ。

なんか知ってる・・・この町に見覚えがある??

あっ!

これって貞治と6年間通った小学校?ずいぶん新しく見える。

でも、もう取り壊して存在しないはずなのに??

あっ、あの車はコルト1000だ、しかも新車?

ここはいったい?

もう一度ゆっくり辺りを見渡した。そこへ通りを歩いてくる丸刈りの
小学生がいたので声を掛けてみた。

「ぼく、ここは何ていう町なの?」

「ええ??ここ知らないの?吉祥寺だよ」

「今、何年?」

「何が?」

「西暦だよ」

「西暦か・・・1957年だよ。そんなことも知らないの?おじさんなんか?
・・・どっから来たのさ?」

「いや、いいんだ。ありがとうね」

なんだ?これって昭和にタイムスリップしたのか?

しかも生まれる前・・・だから小学校がまだ新しかったんだ。

だんだん不安になってきた。

どうやって元に帰る?

とりあえず、ヘルシーバイクに乗ってみた。

なにも変わらない・・・

ライト用のダイナモを回してみる。

回し始めて数十秒後、急にあのモーター音がした。

同じ音だと思った次の瞬間、目の前に貞治社長が立っていた。

「おう、戻ったか!で、どうだった?」

「あっ、社長!俺、戻ったんですね。これ凄いですよ・・・
歴史が変わりますよ!」

「どう変わると?」

「知りたい?」

「もったいぶるな!カズノリてめぇ・・」

「あれ?俺がバイクに乗った途端、電気通したのは??誰だったか
覚えているのかなあ~~?しかも200ボルトの・・」

「あっ、あれは手が滑ったんだ。すまない・・」

「手が・・・滑った???あの離れた位置にある電線が手が
滑ってここにある???」

「カズノリ・・・ゴメン・・・ゴメンなさい」

「おう、今度は素直だね・・貞治さん」

「もう、俺が悪かった。給与上げるからひとつ」

「解った、じゃあ説明するよ。これはとんでもない機械だよ。
気が付いたら別の世界にいたんだ。

たぶんこの工場が出来る前で、ここは原っぱだった。

しかも1957年で、そばにあった小学校も全然、新しいままだった。
俺たちの生まれた昭和32年なんだ。そこに通う小学生とも話ししたよ。
年数はその子から聞いたんだけどね。これは、とんでもない発明だよ!」

「そっか・・・俺も体験しようかな。どう思う?」

「うん、まだ全然解らないけど、ライトのダイナモを回してみたら戻ってきたよ」

「そっか、解った。俺もやってみるよ」

そう言って貞治はヘルシーバイクをこいでみた。

しばらくこいだが何もかわらない。するといきなりカズノリが
200ボルトの線を鉄部に当てた。

その瞬間、例のモーター音が聞こえてきて貞治は消えた。


意識が戻った貞治はヘルシーバイクを物陰に隠し一目散で走り出した。

足を止めた場所は井の頭公園の外れにある一軒家の前。

そこに洗濯物を干している女性の姿があった。

瞬間、貞治の眼から急に涙が溢れてきた。

視線の先にあったのは若い頃の母親シゲミだった。

シゲミは貞治が中学校に入った年、交通事故で他界していた。

気持ちを静めた貞治は、母親の方に向かって歩き出した。

「あのう~~すいませんが、この辺で村瀬さんのお宅、知りませんか?」

「村瀬ならうちですけど?」

懐かしい母の声。また涙が出そうになったのを必死にこらえた。

「ご主人は何時頃、お帰りになりますか?」

「だいたい6時半頃には帰りますけど・・・。どちら様ですか?」

「はい、御主人のケンエイさんの知人で、久慈カズノリと申します。
じゃあ、6時15分頃、駅で待ってれば会えますね?」咄嗟に名前を偽った。

「はい、その頃には・・」

「じゃあ、そうさせてもらいます」

シゲミは主人の知人にしては、珍しく年配だと感じた。
と同時に不思議な親近感も感じていた。

貞治は父の帰宅まであと9時間あるので、いったん元の世界に戻った。

工場に戻った貞治は、今晩いかにして父親に自分を認めさせようか考えた。

父のケンエイは中学校の教師で堅物な性格。

「なあ、カズノリ。俺、今日の夕方6時頃、母親の件で父親に会おうと思うんだ。
知ってると思うけど母親は13年後、事故死した。それを父親に知らせたいと思う。
だけど、どうやれば信用するかなって考えてるんだけど・・・」

貞治は珍しく真剣にカズノリに相談した。

「貞治、気持ちは解るけど、それって歴史を変えることにならないの?」

「うん、少なくとも我が家の歴史とその取り巻きは一変するだろうな」

「もしかしたら貞治だって、この会社立ちあげるかどうか解らないしょ?」

「それは云えるけど・・・母親が生きていてくれるならこんな会社無くたって構わないよ」

「お母さんの死まで、まだ13年あるよね。この装置を上手く操作出来るようになったら、
お母さんが亡くなる1日前でも事故は回避できるって事だよね」

「つまり何が言いたいわけ?」

「この機械を時空設定可能に出来るようにすれば、事故直前に行って
回避出来るよね。最悪まだ13年あるんだから、そっちを考えない?

もしそれが可能になったら世界は変わるよね。この村瀬研究所から
世界が変わるんだ・・・どう?」

「お前、たまには良いこと言うな」

結局その日は父親に会わずに終わった。


 二人は翌日から装置の開発に没頭した。

完成までに10年の月日が流れ、そしてついに実行の時を迎えた。

「貞治、10年前にも言ったけど、歴史が変わるかも知れないよ。
心して頑張ってほしい・・・じゃあな」

貞治は手を振って微笑んだ。

次の瞬間、事故当日にタイムスリップした。

事故直前だった。井の頭街道に貞治は立っていた。

事故の予定時刻10分前、貞治は母親に声を掛けた。

「お母さん、僕は未来から来ました。もうすぐここにダンプカーが
飛び込んできます。危ないのでこのまま帰宅しませんか?」

「誰ですか?貴男は何を云ってるの?全くお話しになりません。
失礼します」

貞治はこう来るだろうと読んでいた。

「私は未来から来た貴女の息子、貞治です。父はケンエイ、中学校の先生です。

3人暮らし。貴女の父はミノル、母はアケミ。貴女のすぐ上の優しいお姉さんは
結核で早くに他界しました」

母親は貞治の言葉を遮った。

「それがどうかなさいました?そんなこと、私の履歴を見れば
簡単に解ること。いったい何が目的ですか?」ムッとした声だった。

これも想定内・・と貞治は思った。

「じゃあ、最期にします。僕が来た世界では、貴女の死後、
タンスの中から一遍の詩が出て来ました。花という詩です。

貴女の故郷、小樽の海岸に咲くハマナスをテーマにした詩です。
高校時代に書いたお気に入りの詩のようです。詩の最期には美鈴と書いてありました。
父に聞いたら貴女のペンネームだと聞かされました」

母親は貞治の言葉を止めた。

目には涙が滲んでいた。

「解りました。お前は本当に貞治なのかい??。今、年はいくつになるの?」

貞治は涙ぐんで言った「56歳・・・」

「良い人生を歩んでいるのかい?」

「うん・・おかげさまで・・・」

「家族は?」

「妻と2男1女の子供の5人家族だよ。孫は2人、もうすぐ1人増えるんだ」

「そうかい、幸せなのかい?」

「うん・・・」話しながら昔に戻っている自分がいた。

「それは良かった。未来のお父さんは元気なのかい?」
母親も大粒の涙をためながら言った。

「うん、元気だよ。今だ、ひとり身なんだ。母さん以上の人出てこないみたいだよ」

「お前がここに来るということは、何にも聞かされてないということなのね・・・」

「??えっ、なにが??意味が解らないけど?」

「私はもうこの世から去る運命なの。たとえお前がその事故から私を
救ったとしても、私の寿命が尽きる時がもう目の前まできてるのよ。

そう、私は末期の癌で医者のいう余命を過ぎてしまってるの。
未来では癌の特効薬はあるのかい?」

「・・・・まだ」

「いっとき延命しても結果は大きく変わらないのね。そうかい、父さんから
聞かされてなかったのかい・・・

父さんを宜しくね。今日はありがとう。

最後の最後に、お前の成長した姿をこの目で拝めたんだから母さんは幸せ。
ありがとうね貞治。

歴史を変えたら駄目よ世界はこれでも上手く廻ってるの」

数分後、救急車の音が吉祥寺の町に響いていた。


 貞治はその後、塞ぎ込む事が多くなった。

「社長、元気出していきましょうよ」

「なぁ、カズノリ。この装置、解体しようかと思うんだけど」

「えっ、長年の労力をフイにするの・・・?どうして?」

「母さんの『歴史を変えたら駄目よ、これでも世界は上手く廻ってるのよ』って
いう言葉の意味が気になるんだ」

「僕も最近、考えてたことあるんだ。神は人間に必要なものは全て
与えてるってね。時間もそのひとつかと思う。

だから、必要以上のものは逆に害になるかもって?
原子力のようなものは、害になるかも知れないってね」

「カズノリ、お前は何十年に1回良いこと云うな。この装置を設計図ごと
破棄しようや・・・長年手伝ってもらったのにごめんなカズ・・・」

「うんいいよ、好い経験させてもらったし・・・破棄賛成」

大発明タイムマシンは日の目を見ないまま破棄された。

だがその後、二人は未来への移動装置を考えていた。

懲りもせず・・・

END


渡辺敏郎は4編の短編小説を一気に書き上げた。

そこへもうひとりの僕が突然やってきた。

「やぁ!小説、書けたかい?」

「あっビックリした!本当に来たんだね?」

「冗談だと思ったのかい?」

「そんなことはないけど・・・最初はパラレルを意識して書いたけど、
途中でどれがパラレルなのか解らなくなってしまったよ」

「君から出た君の物語は全部、僕達のパラレル・セルフだよ。
僕達の中に無いものは創造できない。だから書けない」

「そういうものなの?」

「そういうもの!但し、デタラメは別」

「パラレルの仕組み、簡単に教えてくれる?」

「前にも言ったけど、パラレルは平行。ワールドは世界or宇宙。 
セルフは自分。つまり同時進行する別宇宙の中の地球や自分。

もっと簡単に言うと、無数の隣り合わせの世界の自分。

自分は宇宙なんだ。その宇宙の中には無数の世界が存在しそのどれにも自分がいる。
似てはいるが確実に別物なんだ。同じ自分は万に一つも存在しない。

だから、今のこの自分が一番大事な存在なんだよ」

「その数は?」

「無限」

「じゃあ、ここにいる君もその地球から来たのかい?」

「そういうこと」

「じゃあ絵描きの僕も居るのかなあ?」

「当然、存在する」

「なんで解るの?」

「君が思うことは偶然だと思うかい」

「言ってる意味が解らないけど?」

「頭にあるものは、形になるんだ。君は、警察官の自分を思い浮かべたことある?」

「警察官は無いけど」

「僕らのパラレルに警察官はたぶん存在しないからね。
だから、想像すらしないと思うよ。

なんで君や僕が小説を書くか・・・という事なんだけど、創造の訓練でもあるのさ」

「創造の訓練?・・・つまりどういう事?」

「僕達はトータルした制限の中で活動しているのさ。社会・地域・家庭・そして自分。
それらには勝手なルールと言うか取り決めがあって自然と従ってるのさ。

身体だってだんだん老いていくだろう?本来は好きなだけ生きて
かまわないんだ。近年では寿命は80歳以上とされてるよね?
でもひと昔前は寿命50年とも云われていたんだ。どこが違うと思う?」

「医療の進歩や食生活?」

「それも一理ある、でも字のごとく一理ね。集団意識の違いなのさ。
皆が寿命意識を80歳以上に引揚げたからその位は生きるという意識が
当前働くんだ。もしそれが120歳だとしたらその位までは生きられるよ。
この肉体もその意識に従うからね。

極端な話し、ある集団がこの人間社会から完璧に離れ何処かの山の中か
ジャングルで生活すると仮定する。

現代の人間の作ったルールなんて全く関係なく生活するんだ。
当然、寿命という言葉も無い。そうすると病気や死の概念も変わる。
結果、年齢は300歳・・だってありえるんだ。

これは近年、紹介されたんだけど、ヒマラヤに住むある
修行僧集団がいるんだ。裸で雪の中に寝る場面が紹介されたんだ。

たぶん、どんな医者に聞いても首を傾げると思うよ。
そんなの不可能とね。一笑されておしまう。

でも彼ら修行僧は知ってるんだ。雪の中でも裸で暮すことは可能なんだってことをね。

出来るという肯定した意識が働くから本当に出来ちゃう。我々現代人は制限に
縛られてるのさ、無意識に。それが今、変わろうとしてる。地球ごとそっくりね。

またひとつのパラレル・ワールドが作られるよ。
話し戻すけど、君の書く小説はSFファンタジーが多くないかい?」

「ああ、よく解るね。そう言われたらそうなんだ・・・」

「僕もそうだからね」

「なんで・・・?」

「創造の訓練をしてるんだ。固定観念に縛られない自由な発想を。
まっ、そういう事だからこれからも創造し続けなよ。
書くということは創造が形になる前の第一歩だからね。
僕達はいや、人類は絶えず創造し続けるんだ、永遠に永遠に」

そう言い終え、もうひとりの敏郎は消えた。

【TEIZI】全9-4


4,禅僧、定慈(テイジ)

 禅宗の僧侶定慈。彼は30歳になった月、思うところがあり全国行脚の
旅に出た。それから20年、雲水をしながら日本全国を托鉢して廻った。

普通の職業坊主と違い、定慈の宗派は禅宗であったが、行く先々で
要望があればどんな宗派のお経もあげられる宗派に囚われない僧侶。

彼が好きな言葉はずばり「雲水」流れる雲と水のごとし。
だから、彼は自鉢という木の器と網代笠にワラジのみで全国を行脚した。

京都を出てから20年という歳月を掛け、北は稚内。南は沖縄の波照間まで、
日本一周ひとりで托鉢した。そして今、20年ぶりに京都へ戻って来たのであった。

宇治にある報国寺の山門前に定慈は立っていた。

この山門を出たのが20年前・・・懐かしさがこみ上げてきた。

「拙僧のことなど覚えてる僧はいないだろうなぁ・・・20年は長い・・・」

寺務所に声を掛けた「ごめんください」

「はい!いらっしゃいませ」定慈を見た僧侶は合掌をした。

「拙僧は20年前、この寺から行脚の旅に出た定慈と申します。当時は
栄源僧正に師事しておりました。その頃すでにご70歳過ぎの高齢で、
今はもうおられないと存じますが、ご存じの方はおられませんでしょうか?」

「はい、お待ち下さい」

ほどなくし、僧は戻ってきた。

「栄善という僧がおります。20数年前から当寺におります。
今、こちらに来ますのでお掛けになってお待ち下さい」

引戸が開き栄善と思われる僧侶がやってきた。

「お疲れ様です。拙僧が栄善です」

定慈に見覚えはなかった。

「拙僧は定慈と申します。栄源僧正に師事しておりましたが思うところがあり、
20年前、全国行脚の旅に出ましてただいま戻りました」

「はあ??、20年前、栄源僧正ですか・・・?拙僧は25年前から
在籍してますが・・・そのようなお名前の僧侶に記憶ありませんが・・・」

「待って下さい。100年前ならいざ知らず、たかだか20年。私はともかく、
僧正の記憶も無いとは信じられません。もう一度よく思い出して下さいませんか?」

「それは良いですけど、本当に報国寺で間違いないですか?」

「報国寺・・・?ここ報国寺って云うの・・・?」

「ハイ、禅宗別格本山報国寺ですけど・・・」

「応国寺では??」

「応国寺さんは隣の小さいお寺でしょ?

・・・あっ!思い出した。そういえば、20年位い前にお布施を持ち逃げした
僧侶がいて、それっきり帰ってこなかったと・・・あっ、名前が確か・・・
てい??何とか??それってもしかして御坊で・・・?」

「拙僧の勘違いでした・・・失礼致しました!」

定慈は報国寺から逃げ出すように出て行った。


あっ、思い出した。20年前、応国寺のお布施を勝手に持出し、
すき焼き食って見つかり咎められ、その後、托鉢に出てそのまま旅に
出たんだった・・・どうしようか??とりあえず、応国寺を覗いてみよ。

あっ、こっちだ・・・この寺だ。思い出した。定慈は山門を入った。
本堂の前に僧侶がいたので声を掛けた。

「あのう・・失礼します」

「ハイ」僧侶が振り返えり

定慈の顔をジッとみつめた。

「・・・お帰り。確か貴僧は定慈だったね?」

「はい、定慈でございますご無沙汰しておりました。義道さま」

「ほう・・ワシの名前を覚えておったか。ところで、お布施を返しに来たのかな?」

「いえ、まだでございます」

「・・・では、なにをしに?」

「近くに来たものですから、懐かしくて思い立ち寄りました」

「そうか、茶でも飲むか?」

「はい、頂きます」

「では、どうぞ入りなさい」

二人は釈迦如来座像に線香をあげ茶室に入った。

「貴僧がこの寺を出て何年になるかのう?」

「はい、20年になります」

「その20年、どうしておったのじゃ?」

「全国托鉢行脚の旅をしておりました」

「20年もか?」

「はい、20年ずっとです」

「で、何か解ったかのう?」

「今だ、解らないことだらけです」

「何が知りたいのじゃ?」

「何を知りたいのかも解らないのです」

「困ったもんじゃの・・何故、歩くのじゃ?」

「雲水ですから」

「しからば、雲水ってなんじゃ?」

「行く雲,流れる水のごとく」

「定慈を見ていると、雲水が雲水のごとく雲水を楽しんで
るようにも見えるがのう」

「私が雲水を楽しんでる・・・ですか?」

「そう、雲が雲水を楽しんでるようだ。禅僧の目的はなんじゃ?」

「座禅を組んで悟りを開くことです」

「そうか・・・悟りを開くために座るのか・・・
では、禅を組まぬ人間は悟りは遠くにある。ということか・・・」

「・・・・いいえ、そういうわけでは・・・」

「では、なにゆえに座る?」

「只、只、座る・・・只管打坐」

「座ってどうする?」

「草になり・山になり・雲になり、空になります」

「空になって、そこになにがある?」

「何もありません」

老僧は煙管に葉を詰め一服し「貴僧定慈は20年ひたすら行脚する。
何処か違っておるか?」

「いいえ・・・なにも・・・」

「ところが大きく違うんじゃ。今の定慈には解るまいのう」

「何処が違うのですか?」

「まっ、慌てなさんな。ゆっくり考えなさい。それが解ったらどうするかもう一度
考えなさい。解るまでここにいて構わんよ・・・その代わり作務はきっちり頼む」

「義道さま、宜しくお願いいたします」

定慈は入山後、来る日も来る日も頭の中が雲水でいっぱいだった。

若い修行僧の慈雲が義道に「義道様、あの定慈さんは毎日毎日口癖のように
『雲水雲水』って唱えてますけど如何なる修行なんですか?」

「定慈は自分の20年間を見つめ直してるんじゃ」

「20年ですか?」

「そう20年じゃ。だが、ただの20年とちがうぞ。その20年が今後の
20年にもなりうるし、過去の20年にもなりうる。そういう20年なんじゃ」


定慈が応国寺に来てから1年が過ぎた。もう誰も定慈の噂をする者はいない。
与えられた仕事はきっちりとこなし、修行も熱心に励んでいた。

そんなある日、空を眺めていた定慈はこんな事を思った。

雲・風の吹くまま

水、高きから低きへ

流れのままに・・・雲水か

そっか!そうだったのか!なんだ!

自分は目的が間違っていたのか。

この20年間、目的が悟りから遠いところを歩いていた。

雲水は雲水であってはいけないのだ。

よし、寺を出よう。

「義道様、長らくお世話になりました。また、旅に出ます」

「そっか、なにか得るものがあったようだな。また何時でも帰ってきなさい」

「はい、今度の旅は短いと思います。帰った時には世話になります」


 旅立ちの日が来た。

「これは、この一年間の労賃とワシからの餞別じゃ。お疲れ様。
21年前、寺が定慈に貸した千円はこの中から返してもらった。
これで、貸し借り無し。大手を振って何時でも帰ってきなさい・・・」

定慈は深々と頭を下げ、山門を出ていった。

定慈51歳の春。

【TEIZI】全9-3


3.「KY・TEIZI」

「帰れ!・帰れ!・帰れ!・帰れ!・帰れ!」

コンサート会場は突如、帰れコールに包まれた。

ステージから「う~~るせんだ~~つぅの!帰りたがったらおめえらが帰れや!
俺の歌を聞きてぇ客がいるから俺は歌う・・そんだけ。なんか文句あっか!このやろう」

「ば~~か。おめぇが帰れ!・・馬鹿野郎が!おめぇは誰だ?」客席からの罵声だった。

「誰だ!今、馬鹿野郎と云ったのは?どいつだ~出てこいコラ?」

ステージと客席は大荒れだった。


 ステージ横では本日のメインミュージシャンのリョウが見守っていた。

スタッフから、ところであいつ誰だ?関係者は誰も解らない。
そのうちスタッフが気ぜわしく動き始めた。

「あいつ、もしかして部外者じゃねえのか?」誰かが叫んだ。

「マジで?」

「ウソでしょ・・・」

「オイ!誰か引きずり下ろせ!」チーフリーダー久慈の声だ。

ステージにスタッフの4人が出て来て、その男を羽交い締めにし退場させた。

会場は笑いの渦に包まれた。

会場から「あいつ誰?・・馬鹿だけどおもしれェ」

「はははは・・」会場は笑いでどよめいていた。


 楽屋では「あんた、いったい誰?誰かの関係者?警察に通報するよ」

「俺、ミュージシャンのTEIZIだけど・・・」

「えっ???」

「TEIZI」彼は満面の笑みで答えた。

スタッフは「解った。で、今日は何?」

「何って・・おめぇ、一曲歌おうかと思ってステージに上がっただけだべ」

「一曲歌う???で誰が許可したの?」

「許可っておめぇ・・・??必要なの?」

「当たり前だ」

「何処に書いてあるんだ?オイ」


「じゃあ聞くけど、ステージに勝手に上がって良いって何処に書いてありますか?」


「書いてねえけんども、客が暇そうだったから、ここらでオラが一曲、
歌ってやんべかと思って・・・そしたらおめっ、帰れ帰れって人っこの歌、
聞く前に言うもんだから礼儀を教えてやろうと思ってつい・・・
なっ、オラ悪くねっぺ・・・?」

「悪いです」

「あ~~んら、おめっ!礼儀、教えることのどこが悪いって?」

「あんたねぇ、時と場所があるでしょ。あんたは勝手に他人の家に入ってきて、
礼儀が悪いとどやしつけてるだけなの」

「う~ん、なるほど。おめぇは頭良いな。さては、おめぇ大学出が?」

「で、どうなんです?」

「オラが悪かった。どんもすみませんでした」スタッフに深々と頭を下げた。

「あっ、解ってくれれば、それで良いですけど・・」

スタッフはTEIZIのあっけない返答に拍子抜けした。

「じゃあ、今日のところは大目に見ますから、おとなしく帰って下さい」

「はい!」いさぎよい返事だった。

TEIZIは楽屋を後にした。

リョウのコンサートは無事終わりアンコールの拍手が始まった。


 リョウが渇いた喉を潤し、ギターをもって再びステージに向かおうと
した時だった。会場で歓声が上がっていた。

一瞬リョウは戸惑った・・・なに?何にが起こったのか解らなかった。

ステージ上ではギターを持ったあのTEIZIが立っていた。

「さっきは、どうもごめんなさい。皆さんが暇そうにしてたから、
僕が、歌ッこさ一曲歌おうと思いまして、そしたらあんな事になりまひた。
どうもすみまへんでした・・・」

「おう、素直に謝ったから許す。にしても、おめぇ・・なんでギター持ってんだ?」

観客はどっと笑った。

ステージ袖では「あいつ、まだいたのか!とっととつまみ出せ~」

リョウが云った「チョット待って。一曲、聞いてみない?客も喜んでるし
僕も興味あるんだ・・・」

「僕、TEIZIって云います。王貞治の貞治と書いてTEIZIと読みます。
青森から来ました。チョット訛ってます」

「だいぶ訛ってんぞ」客が言った。

「すんません、歌います」

「曲はオリズナル曲で五所川原の星」

客席はまた沸いた。

歌は最悪だった。

そのうち客席から「おめぇ青森に帰れ!キャラは面白いけど歌は辞めたほうがいいぞ~」


 「いや、心はある。顔は悪いけど」

客席は歌を聞くというより野次合戦に変わっていった。

TEIZIの歌が終わると同時に、会場にはリョウのアンコール曲の
イントロが流れた。客は大盛り上がりで会場は揺れていた。

興奮の中、コンサートは無事終わった。

リョウが楽屋に戻る途中の通路にあのTEIZIが立っていた。

リョウは笑顔で通り過ぎた。

TEIZIはまたスタッフに呼ばれた。

スタッフが「あなた今度は何?」

「いや、お客さんに謝りたいと思って・・・」

「なんでギター持って行くの?」

「あっ、はい・・・いえ」

「で?TEIZIさんは何が言いたいのですか?」

「いえ、帰ります・・・」

「今度は無いと思うけど、あったらその時は本当に警察呼びますから。
じゃあ、そう言うことで・・・さようなら!」

TEIZIは会場を後にし駅へと向かった。

そして、そのまま青森行きの新幹線に乗って帰って行った。

新幹線の中で「どうしたもんかなあぁ~~なんで解ってくんねぇかな~や。」

あくまでも自分は最高のミュージシャンだと思っていた。


「帰れ!・帰れ!・・帰れ!」

コンサート会場は帰れコールに包まれた。

ステージからは「う~るせんだ~つぅの!帰りたかったらおめえらが帰れ!」

どこかで見たことのある場面だった。

「俺はリョウからも前フリ頼まれて歌ったことあるんだぞ・・・
だからこうして・・・&$%$(’%」

例のTEIZIだった。そして警備員に強制退去された。

「あんた困りますよ~~。何なんですか?あんたは誰・・・?」

「TEIZIだよ・・・」

「TEIZI?・・で、なんなの?」

「いや、客が暇そうだから・・その・・・」

「暇そうだからどうしたの?」

「歌を・・・その・・一曲・・・僕が」

「一曲どうしたの?」スタッフの語気は荒かった。

「挨拶代わりに・・」

「なんで、あんたが挨拶するの?ここは、アヤカのステージなの。
みんなこれから興奮する為に、嵐の前の静けさをあえて作ってるの。
エネルギーを充電してるの・・・わかる?」

「会場のみんなは、一曲目から弾けるために、今はエネルギーを充電してる
とこなのね。それを、あんたがたった今、台無しにしてしまったの。
どうしてくれるんだ!・・・警察呼ぶか・・」

「僕、みんなに謝ってきます」

「どうやって?」

「いえ、ステージに立って・・・・」

「お・ま・え・は馬鹿か?おい、誰か警察呼べや。コイツは俺らでは
どうにもならねえ。思考回路がブッ飛んでるぞあとは警察に任せようぜ」

「あの~う、チョット待って下さい」

アヤカ本人だった。

スタッフが「アヤカさん、こいつは・・・」

「いえ、すぐ終わります。ごめんなさい」

アヤカ.は振り返ってTEIZIに視線をむけた。

「TEIZIさん・・と云いましたね。私の歌、聞いたことあります?」

テイジはアヤカに視線を向けて云った「???あんた誰?」

スタッフが「コイツ、やっぱ、つまみ出せオイ!」

アヤカは微笑み淡々とした口調で「私がそのアヤカと申します」

「えっ?お姉さんがか・・・?僕、ファースト・メッセージのアルバム
持ってます。なんか、アルバムの写真と実物では全然違うはんで
解りまへんでした。アルバムはやっぱり綺麗に修正するんだな~や」

「どっちが綺麗ですか?」

「アルバムだな」即答だった。

スタッフが「おい、やっぱ警察呼べ・・・」

TEIZIは言った「メモリーや、はぎの月は確かに良いけど・・・
オラ個人的には時を返してと日常の物語が好きだな」

「どういうとこが好きなの?」

「日常の物語は静かなメロディーでいて、しっかりとしたアヤカらしい
アレンジがオラは好きだ。時を返しては歌詞が好きだ。特に2番目の歌詞の
始まりは良いな~あのアルバムは良く出来てると思ったではんで」

「君ね、いい加減にその生意気な・・・」

アヤカはスタッフを制した。

「ちゃんとアルバム聞いてくれてるんですね、ありがとうございます。
皆さん、今日は大目に見てあげて下さい。本当に私のアルバム、聞いて
くれてるみたいでアヤカ嬉しいんです。どうか私に免じて何とぞお許し下さい」

「アヤカさんのお気持ちは解りました。でも、コイツは・・・解りました・・
アヤカさんがそう言うなら・・但し、今度、なにかしでかしたら即刻
警察呼びますからね・・・」

TEIZIが「アヤカさん、よかったね」

スタッフは「あんたね・・・まっ、いいかこのまま帰って下さい」

「僕、チケット買って青森から東京さ来たんですけど・・・
客席から見させて下さい・・・ほらプレミア席だんべ・・・なぁ」

スタッフは係員に「席にお連れして」


アヤカがステージに立った時、プレミア席にTEIZIの姿を確認した。

歓声の中でもひときわTEIZIの大きな声援がアヤカの耳に残った。

コンサートは何事もなく終了した。

TEIZIは会場を後にし東京駅へと向かい、そのまま青森行きの
新幹線に乗って帰って行った。

新幹線の中で「どうしたもんかなあぁ~~なんでみんな解ってくんねぇかな~
まだオラを理解するのには少し時代が早かったようだな?」
 

 ある土曜日の夜、井の頭公園の野外音楽ステージに
あのTEIZIがギターを抱えて座っていた。

TEIZIの廻りにはビールの空き缶が散乱していた。

そこに中年の男が近寄ってきた。

「よう、兄さんなんか歌ってくんネエかな?」

「おい、じじい。他人にものを頼む態度がいい年こいて解らねえようだな~~や」

「なんじゃいおめぇ・・・偉そうに。青森で相手にされねえもんだから東京に出て来たか?」

「えっ・・・?おめぇさん、オラのこと知ってるだか?」

「いや、おめぇの事なんか知らねえけんど、その訛りは青森しかいねえべ。バ~カ」

「おめぇ、洞察力あるな。見上げたもんだ」

「そういう問題じゃあねえ。その訛り聞けば、誰でも解るってぇの・・・」

「いや、てぇしたもんだ!おめぇ、なにやってるお方だ?」

「そんなこといいから。なんか歌うのか?歌わねぇのか?どっちなんだ?」

「解ったよ。歌うけどリクエストなんかあるけ?」

「ビバリの愛凛々でもやってくれよ」

「じじぃ、・・・ちゃんとさんを付けろ・・・ビバリさんと呼べ!
ビバリ先生とか言い方あるべ」

「おめぇビバリ好きなんだか?」

「いや!そうでもねぇけど。どうしてだ?」

「いんや、面倒くせいからいい・・・」

「解った。じゃあ『川の流れたように』歌います」

「おめぇ!一曲歌うまで長げぇよ・・・」

「すらず、すらず歩いてきた、細く長いこの道~」

「青森兄さん、もういい・・・」

「どうしたんだ?これからだべ???」

「兄さんとこの歌の意見が合わねぇようだな。まっ、そういう事もあるさ。次、歌おうや」

「うんだぁ~~な!なに聞きてぇ?」

「そしたら、最近の歌いこうか?アヤカなんてどうだ?」

「あぁ、つい最近彼女と会ったよ。彼女、僕を気に入ったみたいでさ、
スタッフに僕のこと紹介してたよ。さすがの僕も少し照れたけどね」

「兄さん、急に標準語になったけど・・・どうかしたか?」

「そんなことないよ」

「めんどくせぇ・・・いいから歌えや」

「じゃぁリクエストに応えて。アヤカのアルバム・ファースト・メッセージから
『はぎの月』聞いて下さい・・・」

「ずっと一緒にいた 二人で歩いた一本道・・・」

TEIZIが歌い終わった時には爺さんの姿がなかった。

「みんな、アヤカの曲の良さが解らねんだな・・・」


 翌日も朝早くからTEIZIは井の頭公園でギターを抱えて池を眺めていた。

池の向こうに知った顔があった。

おっ、昨日の爺さんだ。

「お~~い爺さん」大きな声で叫んだ。

爺さんは知らん顔して足早に去ろうとしていた。明らかに避けているとしか思えない。

TEIZIは執拗に追いかけて爺さんの前にでた。

「爺さん、おはよう!」満面の笑みを浮かべていた。

「おう、昨日の君か?ワシは用事があるんで。それじゃあな・・・」

「昨日、急にいなくなってどうした?」

「腹が痛くなってのう、折角歌ってるのに水を差すようで悪いと思ったで、黙って帰った」

「そっか。心配したぞ。んで、もう大丈夫か?」

「まだ少し病むけど昨日よりは良くなったよ」

「昨日の続き、歌おうか?」

「そそそれにはおよばん。ワシは急ぐんでなそれじゃ。兄さんがんばれよ」

老人は去っていった。


なんだよ、ひとが折角、青森から歌っこさ歌いに来たのに・・・

聞いたのは途中で腹痛くて帰った爺いだけか・・・

また、誰かのコンサートに飛び入りすっぺかな・・・。

吉幾二にすっぺか?百昌夫か?ドリカムもいいな・・・

なんかワクワクするな・・・・

【TEIZI】全9-2

2、「テロリスト・テイジ」

 昭和32年5月に村井テイジは誕生した。

テイジは子供の頃から人と同じ事をするということにずっと抵抗を感じていた。

当然、学生になっても性格は変わらず、クラスみんなから何時も離れた
存在だった。なぜクラスのみんなと順応できないのか?

そう、テイジには普通のみんなと違う世界が視えていたのだった。

それは高校に入学して間もない頃。新しい学校とクラスに早くなじもうと
してた時に、同じクラスの斉藤正治の視線がなんか気になっていた。

ある時の放課後だった。その正治君が「おい村井」声をかけてきた。

「なに・・・?」

「チョット体育館の裏に顔貸せや」正治の威圧的な態度だった。

「いいけど・・・?」

2人は体育館裏にいた。

正治は急にテイジの胸ぐらを掴んだ「こら、村井おめえ生意気なんだよ。
むかつくんだ・・・」と言い終わらないうちにテイジの顔面を殴った。

不意のパンチにテイジは驚いた。

「斉藤君、僕は君に何をしたって言うの?」

「何時も俺に眼飛ばしやがて・・・」

テイジは意味が解らない「なんで僕が斉藤君に??・・・」

「うるせんだよ・・・」そう言って一方的に斉藤はその場を
急ぎ足で去っていった。

その場に一人残されたテイジは狐に摘まれたように呆然と立ちつくしていた。

その日テイジは、夕食が終わり部屋に戻り、なんとなく殴られた左頬を
触った瞬間だった。

突然、目眩がして目の前が暗くなった。

テイジは一瞬昼間の後遺症か?と思った。

次の瞬間視界が明るくなった。

でも感覚が何んか・・・どこか違う?

でも見覚えのある教室がそこにはあった。

視線の先には自分と斉藤正治の二人だけがいた。

もうひとりのテイジが斉藤に向かって何か怒鳴っていた。

「おい正治。少し金カンパしてくれ、3千円もあれば良いからよ・・・」

テイジは正治を恐喝していたのだった。

「テイジ君、勘弁してよ・・・なんで僕が君にカンパするの?
その理由が解らないんだけど・・・」正治の声は震えていた。

瞬間テイジは正治の顔面にパンチを見舞った。

そしてテイジは自分に戻った。

???今の・・・なに???

テイジの意識が元に戻った。

「君のもうひとつの世界」心の奥で声がした。

どういう事?テイジは自問した。

「パラレル・ワールド」

パラレル・ワールド???聞いたことのない言葉だった。

また自問した?

それ何?

「平行する複数の世界と自分」

聞いたこと無いけど?

「この世界以外にも複数の世界が存在。その同時に進行する世界が
パラレル・ワールド」

今度は心にある意識をハッキリと感じられた。

「じゃあ、今日の放課後に正治君に殴られたことと、今僕が正治君を
喝上げしたこととなにか関係があるの?」

「正次君も別世界の僕の君への恐喝を視てきた。それを、恨みに
感じていて放課後にこっちの君を殴った」

「今起こった恐喝を、なんで昨日僕を殴った正治君が知ってるの?」

「時間が軸が無いから」

時間軸が無いっていう意味が解らないけど・・・

「そのうち解る」

「結局別世界の僕が正治君を恐喝したから。それを知ったこっちの
彼が放課後、僕へ復讐したって云うことなの?」

「ピンポーン、当り!」

「君でもピンポーンっていう云うんだ・・・」

「僕は君だから・・・」

「話し戻すけど僕がそもそもの原因って事なの?」

「そう云うこと」

腑に落ちないテイジだった。

翌日、学校でテイジは正治に近寄った。

「意味が解ったよ、君もあっちの世界視えるわけ?」

正治はなんのことか理解できなかった。

「おい、村井もう一回殴ってやろうか?」

「???なんだよ、もういいよ・・・」

テイジは頭が混乱してきたので自分の席についた。

そして、もうひとりの自分を念じて目を瞑った。

「どうした?」返事がきた。

「どうしたのじゃないよ。正治君に全然無視されたけど」

「彼は潜在意識で反応してたんだ。だから表面意識では全然解ってないんだ」

「じゃあ謝った僕の立場はどうなるの?」

返答がなかった。

「無視かよ・・・・!心に呟いた」


テイジはその後パラレル・ワールドにトリップすることが増え、向こうの
世界に親友と彼女が出来た。こちらの世界の興味がだんだんと失せてきた。

高校を卒業して社会に出たが全てにおいて仕事に身が入らず、
ある時、この世を去る決心をした。


 村井テイジ22歳。梅雨の時期で濡れた紫陽花から淡い香りのする頃。

こっちの世界はもういい・・・ハッキリいってこんな僕つまらん。

5階建てのマンションの屋上にテイジは立っていた。

飛び降りようとしたその時「待った!」大きな声が胸に響いた。

意識を内に向けた。

「パラレルの君が大変なことになってるんだ。君の助けがほしいから
死ぬのを少し待って欲しい。死ぬのはそれからにしてくれないか?」

テイジは思った。

「こっちの僕も死のうとして大変なのに・・・なんでパラレルの僕の
手助けをしないといけないの?」

なんの返答もなかった。

死ぬ気が失せたテイジはその場に倒れ込んだ。


 気が付いた時には何処か知らない街を歩いていた。

「ここは何処だ・・・?」

辺りを見渡すとアーケードがあり扇町と書いてあった。

「大阪の南森町にある扇町商店街?なんで?この街に?」当然の疑問である。

商店街を歩いていると後ろから声をかけられた。

「テイジやんか」

テイジは後ろを振り返った。そこに立っていたのはいかにも極道風の
こわおもてのお兄さんだった。

「どなたですか?」

「なに、ねぶたい事言うとんねん!」

「な、なんですか?」テイジは少しムッとした。

「ほう、なんですか?ときたか・・・このボケが。しばいたろか~ほんま」

「僕はあなたのこと知りませんけど・・・」

「なんやて?お前は村井テイジちゃうんかい・・・こら!」

「はい、確かに村井ですけど、おたくの言ってる村井さんとは違うと思います。
僕は今、ここへ来たばかりですけど・・」

「なにこらっ!しょうもない標準語使いよってからに」

そうこうしてるうちにもうひとりの村井テイジが現われた。

ふたりのテイジはお互い、顔を合わせたまま止まってしまった。

大阪のテイジが言った「あんさん、どなたはんでっか?」

「僕は東京から来た村井と申します」

「わては、村井テイジ言いマンネン」

さっきの極道風のお兄さんは気色悪そうに去っていった。

「あの極道風のお兄さん、いきなり言い掛かりつけて来たんで困ってました。
いったい何なんですか?」

「すんまへんな・・悪う思わんといてや。あれがこの辺の挨拶なんや。
それより、あんたに興味ありますねんけど・・年は幾つ?」

「22さい・・・」

「歳もわてと一緒やん。それはええけど折角の初顔合わせやし、
お好み焼きでも食べながら話さへん?・・・」

「良いけど僕、お金持ってないよ」

「お金はかまへん任せて。けどお金持たんと、どないして大阪に来たん?」


 「うん、好み焼き食べながらゆっくり話すよ」

2人は店に入った。

「いらっしゃいませ???あんれ、たまげた・・テイジはん、あんさん
双子でおましたん?」

「いや、今日初めて会うたんや、初顔合わせや。お好み焼きでも食べながら、
ゆっくり話そかって言うことになってん」

「そうでっか、それにしてもよう似とりまんなぁ・・・」

水を差し出しながら2人をじろじろ見る店員だった。

「豚玉でええか?」

「うんそれで」

鉄板にお好み焼きをセットし終え、東京のテイジが言った。

「君もパラレル移動出来るの?」

「パラ・・・?パラレルって何の話し?」

「平行宇宙だよ」

「平行宇宙って何・・・?」

「解った、じゃあ質問を変えるね。君、最近困ってる事無い?」

「お宅はんも初対面の相手に失礼なこと聞きまんなぁ。一発どついたろか・・・」

「あっ、気悪くしたよね・・そうだよね・・ごめんなさい」

「まぁええけど。それより何かしっくりきいへんけど、
何か事情あってここ大阪に来たん?」

東京のテイジは今までの経緯を全部話して聞かせた。

「ホンマかいな?」


「本当だよ。これ見る?」

取り出したのは運転免許証だった。

手に取ったテイジは「ホンマや住所以外、ワイと同じや。
でも、待ってや??このひらなりって何?」

「ひらなり?・・・ああ、平成ね。・・えっ?」

大阪のテイジが財布から免許証を取り出した。

「ほら、比べてみいや」

「平成がない・・・西暦表示になってる?」

「なんや、そっちの世界はまだ天皇の元号制があるの?こっちは昭和の天皇が
亡くなった後、昔からある元号制の廃止があって西暦表示に変わったんや」

「じゃあ天皇家は?」

「普通にあるよ。変わったのは元号だけやけどな」

その時、大阪のテイジの携帯が鳴った。

「もしもし、へい・・・そうですか・・・解りました。
今、食事してますので食べたら行きます。ほな」

「ゴメンな急用やさかい、急いで食べよか!オッチャンおあいそしてんか」

2人は店を出た。

「ところで、これからどないしますの?」

「別にあてはないけど・・・」

「じゃあ、ワシと一緒に行きまひょか・」

「いいの?お邪魔じゃないの・・・」

「かましまへん」


 2人のテイジは、雑居ビルの地下にいた。

「お待たせ・・・です」

「なんや?お前、兄弟おったんかい?」

「はい、そんなようなもんです。東に児童の児と書いて東児と言います。
訳あって離ればなれになっとりました。こいつは東京で自分が大阪です」

「テイジに東児か・・・俺、ヤスシや。宜しく」

「東児です。宜しくお願いいたします」

「テイジ、ここのことは説明したんかい?」

「いえ、まだです」

「そうか、東児くん、よく聞いてや。他言したら大阪湾に沈みますが
聞きますか?それとも即刻帰りますか?どうします?
即決で返事してくれます?」

「聞きます」東児は答えた。

「じゃあ簡単に話します。ようく聞いておいてや。そして聞いたら最期や。
もう一度聞きます、どうします?」

「聞きます」東児は即決した。

「よっしゃあ!我々はある国からの指示で動いていて総勢56名からなる組織や。
56名ほぼ全国に散らばり情報屋として活動してます。

目的はひとつ、この日本国を解体して北海道はロシアに、東京以北は韓国に、
そこから南は中国に譲渡される予定で動いとりまんのや。

その切っ掛けを与える仕事をわしらがするという段取り。

これから徐々に、そしてこの先5年かけて実行に移す計画や。

具体的な計画は今の段階では言えんけど。もう、実行部隊が動いとります。
テイジの仕事は、ネットでの情報かく乱と情報の伝達。
これからの日本はオモろうなりまっせ」

テイジには単なるテロとしか思えなかった。

大阪のテイジとヤスシは40分ほど打合せをしその場から離れた。

「テイジ君は間違ってると思う。僕と一緒に大阪から逃げようよ」

「もう無理なんや。わしは組織の中枢にいる人間やから、組織を離れる
言うことは死を意味するんや・・・

それに組織の奴ら俺の家族にまで害を及ぼす。過去にそういう例をわしは
この目で見てんのや。気を使こうてもうてありがとう。テイジくん」

テイジはなんでこの大阪に来たのかが解った。

でも、この先どうしたら良いのか見当が付かない。

何かハリウッドのテロ映画かドラマの世界に思えた。

その日はミナミの町に出て漫画喫茶で話しをした。

テイジはテロに反感を感じているのも解った。

この先、行き詰まりを感じた。


テイジが大阪に来てから半月が過ぎ、集会にも何度か顔を出したが、
少し気になることがあった。

組織の首謀者が誰なのか全然解らないこと。

解ったのは、実行のさいの段取りだけが先行され、声明文や目的の核心が
不明確・・・という事。

大阪のテイジやそれ以外の仲間も解っていないようだ。

全員に共通するのは、何かに怯えてるという点だ。

ある時、大阪のテイジにこんな話をしてみた。

「ねぇ、このことが実行され成功した時、一番得するのは誰なの?」

大阪のテイジは返答に困った。

「お前、なんちゅうこと聞くんや、しょうもない・・・」

「誰にどんなメリットがあるの?簡単な疑問なんだけど」

大阪のテイジは宙を見た。

「そうやな、みんな違う方に気をとられて、肝心要なこと見落とすところやった。
単純なことやがな。誰の為にやるのやろ?中国?ロシア?韓国?アメリカ?

せや、これがホンマに日本の為になるんか?

なんや、怖くなってきたで・・・どないしよう?・・・東児、なんか言ってえな」

2人の間に沈黙が走った。

しばらくして、東京のテイジが「とりあえず、この組織の一番の頭は誰なの?」

「解らん」

東京のテイジは言葉を失った。

「解らんって・・・じゃあ、誰が何の為に?」

大阪のテイジは頭を抱えうずくまってしまった。

「中止しよう!」東京のテイジが呟いた。

「もう無理や・・・今日が実行日や」

「えっ?!」またも言葉を失った。

「実行場所は何処と何処なの?」

「東京発、福岡行きの新幹線と福岡発、千歳着の飛行機。
そして東京国会議員会館の3ヶ所で正午丁度に時限爆弾が・・・」

聞いたテイジは固まってしまった。

実行まであと1時間だった。

「もう、中止出来ないんや。数ヶ月前から爆弾は解らないように
セットされてるし外そうものなら、その場で爆発する仕組みになってるんや。
もう遅いで・・・」

東京のテイジは時間が止まったような感覚になった。

そうだ!パラレルのもうひとりのテイジに相談してみよう。

テイジは集中した。

即、返答があった「どうしたの?」そこにいたのはイラストレーターのテイジだった。

挨拶もそこそこに事の経緯を説明した。

そして出た解決策がこうだった。

3人各々に新幹線と飛行機に乗り込み、時限爆弾を外し抱えたまま
瞬間移動して棄てるという、漫画のような無謀な案だった。

タイミングが悪ければ当然その場で爆死。

イラストレーターのテイジは早急な結論をせまられた。

残り時間10分に迫った。

外して太平洋に瞬間移動するまではもうぎりぎりの時間。

3人のテイジは決心した。

3人は固い握手をして消えた。


 新幹線に乗り込んだのは大阪のテイジだった。

「しゃあないなぁ、他の2人に迷惑かけてもうたがな。
わては死んでお詫びしようか。2人のわて、ゴメンなさい・・・」


博多から札幌への飛行機にはイラストレーターのテイジが乗り込んだ。

「寒いなあ、ここは荷物室か?・・・突然の事で心の整理も何にも出来無い
まま、ここに来てしまった。夢なら早く覚めてほしい」


「僕はビルから飛び降りようとしたんだから、このまま場所が変わっただけだし、
人を救って死ねるんなら光栄だと思う。ただ、イラストレーターのテイジには
申し訳ないと思う。テイジさん、ごめんなさい」

次の瞬間、ビルの屋上にテイジはいた。

「なに?今の?超リアルなんだけど・・・?大阪のテイジや
イラストレーターのテイジやこの僕など・・わけ解らないけど・・・

それに、なんで僕がテロからこの国を護らないといけないの?」

テイジは自殺するのが面倒くさくなったので辞めた。

【TEIZI】全9-1

1,「サラリーマン村井貞治」

 紫陽花の咲く頃、北鎌倉の円長寺山門でひとりの青年がたたずんでいた。
彼を近くで見たいた寺の老僧が声を掛けてきた。

「中に入ってみませんか?今は紫陽花が綺麗に咲いてますよ、私が50年程前
からずっと手入れしてきました。良かったら見てやってください」

老僧の深くて慈しみのある声。

「紫陽花ですか・・・あっ、はい観させて頂きます」

青年は山門を潜り境内に足を勧めた。禅宗ならではの質素ながら風格の
ある凛とした建物が青年を迎えた。

青年は初めて修行寺というものを目にした。ここから沢山のお坊さんが
日本各地の町寺に散らばったんだろうな・・・

先ほどのお坊さんがまた声を掛けてきた。

「禅寺は初めてですか?」

「はい、本格的な修行寺は初めてです」

「そうですか・・・ここは日本各地の臨済宗のお寺から僧侶が修行しに
来るんですよ。最近は世界的に禅ブームとかで外人さんも多く入門されます。

今日は一般参加の座禅会があります。もし良かったら禅を体験されませんか?」

「禅ですか?」

「そう、座禅です。何も難しいことを考えずに、只々座れば良いんです」

急の誘いに少し困惑したが、急に禅を組んでみたくなった。

「はい、座ってみたいです。お願いします」

老僧は禅堂に青年を招き入れた。禅堂の中には3人の墨染めの衣を着た
僧侶と私服を着た一般の参禅者が15名ほどいた。

先ほどの老僧が青年に「これを使ってください、座布といいます。座禅を組む
時に尻に敷くんです。背筋が真っ直ぐ伸びて安定し禅を組みやすくします」

黒くて丸い20㎝ほどの厚みのある固めの円形座蒲団だった。

「はい、ありがとうございます」

青年にとって、僧堂はもちろん禅じたいが初めての体験だった。

老僧が簡単な説明をした。

「目は半眼にして、視線を1メートル先に落とす。
手はみんなと同じように右手を下にします、親指どうしは少し離します。
これを法界上印といいます。背筋を伸ばし、呼吸は鼻からゆっくり吸って、
ゆっくりヘソ下の炭田に落し、そのまま止めます。

止めた呼吸は背筋を通って登り口からゆっくりと吐きます。
舌は上顎に軽くつけます。それが禅の姿勢と呼吸法です。

あの棒は警策(けいさく)といいまして、雑念が入ると自然と親指がくっついたり、
大きく離れたりします、それを目安に警策を持った僧が禅者の前に立ちます。
そしたら合掌して静かに身体を前に倒して下さい、警策を左右三度づつ打ちます。
以上が簡単な禅の作法です」

その後、鈴の叩く音がした。禅の開始の合図だった。

禅堂内に緊張と静寂が同時に訪れた。青年は禅僧の云われるままに呼吸を整えた。
どの位い経った頃か警策を持った僧侶が目の前に立った、

青年は姿勢をを前屈みにし警策を左右3度ずつ叩かれた。
その跡がヒリヒリと痛くそして暖かく感じられた。

青年は妄想に入っていたが、また我に返り座り直した。
しばらくすると鈴の音がした。張り詰めていた空気が一瞬で溶けた。

後ろから声がした「どうでしたか?」先ほどの老僧だった。

「なんか緊張してしまって、気が付いたら終わってました」

「気が付いたら終わってたということは、禅に入っていた証拠ですよ。
初めて禅を組む人は、頭の中にたくさんの思いが過ぎってしまい、
足が痛く時間が長く感じるんです」

「そうですか、いい体験させて頂きました。今日はどうもありがとうございました」

「良ければ、毎週日曜日の朝は、一般参禅の日ですから、禅を組にまた
いらっしゃいませんか」

「はい、ありがとうございます」


青年は円長寺を後にし、そのまま細い道を通って八幡宮へ向けて歩き出した。


 青年の名は村井貞治30歳独身、仕事は大手建築メーカーの設計士を
8年勤めてきた。ごく普通のサラリーマンだった。

30歳を期に突然疑問に思うことがあった。

それは、僕がこのまま死んだらどうなる?何をしにここに居るんだ?
僕って何に?こんな単純なことが何で解らない?そんなことを考えることが
変なのか・・・・?もう、ひと月も考えている。

そんな悶々としたある日曜の朝のことだった。

貞治は気が付くと北鎌倉の駅で下車し、円長寺の山門前でたたずんでいた。
その時に老僧が声をかけてきたのだった。


自宅に戻った貞治は円長寺での座禅を振り返った。

座禅中に感じたことがあった。もうひとりの自分がいるような気がした。
それが何処にいるのか全然解らないけど・・・
でも、その存在も貞治を意識してるのがなんとなく解った。

翌日には普通通り会社に出社していた。

鎌倉で禅を組んでから一週間が過ぎ、又円長寺の禅堂で座っている自分がいた。

そう貞治は、あの経験が忘れられずもう一度、円長寺に足を運んだのだった。

禅を組み、最初は呼吸に気を取られていたが、徐々に意識が鮮明になり、
そのうち、例のもうひとりの自分が存在することが前回より明瞭に確認できた。

同時に二つの意識がそこにあった。ひとりの自分は座禅を組んでいる自分。
もうひとりは小説を書いている自分。

同時に感じられる意識だったが、比率からすると小説を書いている意識が
優位。書くといってもパソコンのキーボードを叩いている自分だった。

小説の内容はパラレルワールドを題材にしたもので、文面は解らないけど
書こうとする内容は何故か理解できた。

次の瞬間禅を組んでいる自分に戻った。

座禅後はお粥をいただいて会は終了した。

あの老僧に挨拶した。

老僧から「今週もお出でになりましたね。何か座禅を通じて見えた
ことでもありましたか?」

「はい、座禅中にビジョンが見えました」

「ほう、どんなビジョンでしたか?」

貞治が視たビジョンをそのまま話した。

「それは自分の中にあるもうひとつの世界が視えたのかも知れませんね。
仏教では三千世界といって、沢山の世界が存在するといわれてます。
それを垣間見たのかもしれません。

禅の世界では絶えず今を大事にしますから、ビジョンが視えてもビジョンは
ビジョンであり全てではありません、ビジョンに囚われないで下さい。それが禅の見解です」

「解りました」

貞治はなにか釈然としないけど老僧の言葉を心に止めた。

もうひとりの自分をそれほど鮮明に感じたからだった。

その後、円長寺に参禅することはなかった。


 また、いつもの会社と自宅の日々が始まり円長寺の経験からひと月が過ぎた頃だった。

本屋で立ち読みしてると一冊の本が目に入った。

ONEという本だった。著者はリチャード・バックとあった。

内容がパラレル・ワールドといって、同時に複数の宇宙が存在するという内容だった。

本を購入し、その日のうちに読破したが、もっと知りたいという思いが敏郎を駆り立てた。

座禅中に経験した小説家の自分ももっと知りたい・・・

思ってはみてもどうやって知ればいいのか皆目検討が付かない。
家で座禅をしてもあの感覚になれない。でも、どうしても知りたい。

だんだんと会社に行くのも辛くなってきた・・・

体調にも変化が出て来た。

食欲不振・下痢で微熱が理由もなくつづく。

次に思ったことが死にたい・・


小説家の自分が気になる・・・

誰か・・・

教えて・・・

会社も辞めた。

というか続けられなかった。

僕って誰?

人って?

貞治は会社を辞めて2ヶ月が過ぎた。

精神科に行こう。

もう自分では何も出来ない。

何もしたくない。

お母さんごめんなさい。

僕は・・・先に逝くかもしれない。

嗚呼、今日も目が醒めた。

その時だった。

自分の奥深いところで声がした。

「大丈夫」

「えっ」思わず聞き返した。

もう声はなかった。

「何が大丈夫なんだ?」

誰の声だ・・・?

しばらく考えたが解らない??

何日ぶりかで窓を開けて朝日を見た。

その瞬間だった。

意識が飛び出てパラレル・ワールドの貞治と重なった。

その貞治は淡々と小説を書いていた。

意識が飛びだしもうひとりの自分に重なった瞬間だった。

何処からか湧き出るような文章をキーボードで打ち込んでいた。

なるほど・・・こんな感覚で執筆してるのか・・・

戻った貞治はパソコンに向かった。

書ける・・・あの感覚と同じだ。

あとはテーマが必要だ・・・そうだ建築設計について書いてみよう。

書ける、頭で考えなくても文章が勝手に出てくる。

ほぼ4日で原稿用紙300ページ出来上がった。

妙に面白い。

他のパラレル・ワールドも視られるのかな?

・・・・?結婚してる僕がいるのか視てみよう。

意識を集中した。

いた。結婚してる自分がいた・・・しかも子供が2人いる、
2人とも男の子だ。しかも僕ソックリだよ。嘘っ・・・

嫁さんは?・・・えっ、これって・・・もしかしてノ・リ・コ・・・?

そうだ幼なじみの紀子だ。パラレル・ワールドの僕は紀子と結婚してたのか。

あまりにも身近すぎて考えてもみなかった。

で、仕事はなにを?

あっ、建築設計屋だ。

こっちの僕と同じだ・・・

意識は戻った。

そっか、パラレル・ワールドの僕はこっちの僕と無関係ではないんだ。

なんか似たようなところがあるんだ。

もしかしたら何処かで繋がってるんだ、これは面白い。

もう少しパラレル・ワールドを研究してみたい。

幾つのパラレル・ワールドと繋がってるのか?

パラレルって並行。

ワールドは世界か。

並行世界という意味か。

並行ということは同時進行か・・・

同時に並行している複数の世界という意味か。

僕は二つの世界しか視てないけど似て異なものという感じだった。

パラレルの僕と話が出来たらいいのに・・・

そう思った瞬間だった「出来る」

「えっ???」頭の中で声にならない声がした。

「誰?」僕は頭の中に問いかけた。

「パラレルの君」

「なぜ?」

「なぜって?君が話しかけてきた」

僕はハットした。

「君は何をやっている僕なの?」

「その質問のしかた面白いね、僕は小説を書いてる」

「他にもパラレルの自分を視たことあるのかい?」

「僕は4人まで視てきた。こうして会話したのは君だけだけ」

「みんなどんな仕事してたの?」

「小説家・建築設計・イラストレーター。みんな創造性ある仕事」

「こっちの僕は会社を辞めてから鬱状態が続き、死まで意識し始めてるんだ。
笑っちゃうだろ・・・」

「そんなことない、始まりはいつも順調とは限らない。
ゼロやマイナスからの出発もある」

「なるほど・・・君いいこという僕だね・・」

「君いいこという僕だね・・・それも面白い。小説に頂く」

「どうぞ」

「で、会社辞めたしこれからどうする?君も小説書かないか?」

「どんな?」

「パラレル・ワールドをもっと視てきて、文章にするのはどう?」

「それらしい事は、もうやってるけど」

「じゃぁ、やってみなよ」

「うん、考えてみる・・・」

「じゃあ、又来るから書いておいて」

そう言って小説家の僕は消えた。

どうせ、今の僕はなんにもやることないし、とりあえずPCの電源を入れた。

一太郎の原稿用紙を出して書き始めた。

まず題名は・・・「テロリスト・テイジ」よし。

【Akemi(ハーデス観光)】全10-10

10「パラレ・ルワールド」

 出社した京子がタイムカードを押しながら「理恵ちゃんおはよう。
社長は今日も籠もるのかなあ?なんか聞いてる?」

理恵が「京子さんおはようございます。私なんにも聞いてないけど」

二人の会話が耳に入った真智子が「今日で2週間籠もったきり。
なんかの開発してるかしら?」

理恵が「ハーデス装置の時も睡眠取らずに研究室に籠もりっぱなし
だったらしいよ。社長のことだから絶対何か作ってるよ・・・
なんかワクワクする・・・」

2週間前の朝、社長がいきなり朝礼でこんな事を言った。

「私、今日から研究室で取り組みたいことあるの。今はまだ話せないけど
頭の中に、ある設計図があるの・・・それが面白いのよ。どんな具合に
なるか解らないけどとりあえずやってみる。

会社のことは理恵さんお願い・・・それから食事だとか身の回り
一切のことは気にしないで・・・じゃぁ頼みます」

社員に、そう言い残し研究室に籠もったのが2週間前。

たまに部屋から「よし。か~~~。ちくしょう~~。よっしゃあ。
などの奇声が聞こえていた」

それからまた一週間後の夕方だった。研究室のドアが開いた。そこから出て来た社長は、
ホームレスと見間違うような出立で、異様にギラギラ光った目が印象的だった。

「水くれる?」そう言ってその場に座り込んだ。

「社長大丈夫ですか?」そう叫びながら理恵が足早に近寄った。

「理恵さんごめんね・・・・出来たよ・・・完成だ・・・」

水を一気に飲んだ社長はいきなりイビキをかいて寝てしまった。
とりあえず社長室に布団を敷いて寝かせ、目覚めるのを待つことにした。

結局目覚めたのは2日後の夕方だった。

社長室から「誰かいる?」か細い声が聞こえた。

京子が「社長お目覚めですか?何か呑みます?」

「水と食べ物・・・何でも良いからちょうだい・・・お願い・・・」


社長室に全員集合した。

「ごめんね・・・みんな・・・心配かけました。私ね、新しい装置の
開発してたの・・・それは多次元宇宙に行って体験してくる装置なの」

理恵が「従来のハーデス装置とどう違うんですか?」

「ハーデスは異次元でしょ。今度のは平行宇宙つまりパラレルワールド
に行って、もうひとりの自分に重なり合うの。

それが、パラレルの自分はひとりだけじゃなく何人も存在するのよ。
私が体験したのは5人の私なの、ハーデスと同じくリアルなのよ」

京子が「それってあの物理学者のリサ・スティック何とかっていう
人が提唱してる、あの・・・パラレ・??ルワールドですか?」

「そうそれ。ハーデスの場合は多次元を体験する装置でしょ。
今回の装置は、自分の中にある同時進行の複数の世界なの。
早い話が、外宇宙と内宇宙のちがい。

例えば、ある世界では美容室を経営してる私がいるの。それとか、化学の
研究をしてる学者の私もいるの。あと、今と同じくハーデスの仕事をしてる
私もいたの。全部、この私と何処かで係わってるのが解ったよ」

真智子が「やはり頭にハーネスを取付けるんですか?」

「そうなの頭の松果体に一定のパルスを当てるの。そのパルスの振動数を
探すのに今回は手こずったのよ。ところで、理恵さん明日の予約は何件入ってるの?」

「3件ですけど」

「ちょうど良かった・・・明日、早速装置をみんなに体験してもらうね。
誰か予約入ってる3件を上手にローテーション組んでちょうだい。
1人に掛かる時間は120分。遂にやるわよパラレル・ワールド」

 翌朝 「はい、おはようございます。朝礼始めます。約3週間みんなには
迷惑掛けました。昨日も話したようにパラレ・ルワールド体験装置が完成しました」

一斉に拍手をした。

「おめでとうございます」理恵が言った。

「ありがとう、でも幾つか手を加えることになると思うけど、
基本は出来上がったから期待してちょうだい。

そして、なんでこんな発想をしたかというと、ある時こんな事考えたの。
パラレの自分がやってる職業なり技術というのは自分単独でやってるように
見えるけど、実はどの自分とも何処かで繋がってるような気がしたの。

そして、その既にパラレルの自分がで習得してる技術を、今の自分が習得
できるかもと考えたの・・・

つまり、昨日私が美容室経営者が存在するって話したでしょ。
という事は、その自分と重なれば私も美容師の技術の習得が出来るかもと思ったの。

この装置は考えようで一種の技術支援装置的な扱いが出来るかもしれないってね。

あとハーデスの仕事をしているもうひとりの私が存在してたの。
そことも繋がったの、その私はもっと面白い研究も考えてた・・・
それは後々に話します。ここまででなにか質問ある?」

京子が「パラレルの自分に会うということは、その世界で二人の自分が
存在するという事ですか?」

「好い質問ね。従来のハーデスはアストラルボディーが存在したけど、
この装置は意識だけがもうひとりの私の意識に入り込むの。だから物理的
には1人しかその世界には存在しない。そこが従来と違うところ」

理恵が「じゃぁ、フルトランスっていうことですか?」

「・・・とも違うのよ。まだどの位の割合か解らないけど向こうの意識も
ちゃんとあるの。こっちの客観視してる意識もあるの・・・
配分は向こうが多いの、そうね80%くらいかな?」

理恵が「じゃぁ、あっちの社長はコンタクトとられているという実感があるんですか?」

「漠然と感づいてるかもしれない」

真智子が「相手の身体の誘導は可能なんですか?」

「意識に働きかけてるから当然可能よ。どう表現したらいいかなぁ・・・
同じ身体に意識が二つって表現したらいいのかも。

簡単に言うと自分で考えて行動してるように思うけど、実はガイドが
働きかけてるっていうケースあるでしょ。あれに近いかな・・・」

京子が「コマは必要ですか?」

「やっぱり必要ね。自分を見失わないためにも。あと、こっちの世界では
知り合いの友人でも、あっちの世界では全然知らないケースもあるの。

その逆もあるけど・・・でも今いったように、パラレルの自分の意識も
同時に働いているからその辺は大丈夫よ。

まずは、百聞は一見にしかず、順番に体験しましょう。

それと、これは添乗する必要ないの危険性はありません。行く時とこっちに
戻った時に説明するだけで好いと思うの・・・て云うか早い話しこれは添乗できないよ。

じゃぁ、30分後から開始するから順番に来てね。
持ち時間はひとり2時間にしましょう。じぁあ研究室で・・・」


 ドアをノックする音と共にドアが開いた最初に来たのは理恵だった。

研究室の中は社長が三週間試行錯誤したと思われる形跡がそこら中に
散乱していた。

「理恵さんごめんね散らかったままなのよ明日綺麗にするからね」

「私、やりますからいいですよ」

「ありがとう、でもひとつひとつ思い入れがあるの。だから復讐の意味も
込めて自分でゆっくり片付けたいの」

「・・・解りました。手が必要になった時は云って下さい」

「ありがとう。じゃぁ、この装置を付けて。ハーデス装置と同じ要領でね」

理恵は新開発した装置を装着してリクライニング椅子に横たわった。

「片方の鼻の穴を塞いでゆっくり大きく呼吸をしてちょうだい。
その時の意識は自分の頭の中に広大な宇宙を思い描くの、
息を吸う時は宇宙が身体に入ってくるイメージで、
吐く時は宇宙全体に息というか意識が広がるようにするの。
そして宇宙と一体化するイメージを持つこと。じゃぁ、いくよ」

社長は装置に繋がっているコントロールBOXのスイッチを入れた。

理恵は軽いパルス音を感じながら宇宙を意識して呼吸を整えた。

徐々に身体が軽く感じられて胸の奥が熱くなってきた。
そして次の瞬間意識が引っ張られ気が付いたら宇宙空間に漂っている
感じがした。一瞬意識がなくなってしまった。

どの位の時間が経過したか解らないが気が付いたところは自宅の
お風呂場でシャワーを浴びている自分だった。

「???ここは???」

理恵はシャワーを止めて鏡を眺めていた。「だれ?・・・」

すぐに気が付いた。

「これがパラレ・ルワールドの私なの?なんでシャワー中なの?」

でも、もうひとりの意識が身体をバスタオルで拭いて、
それを身体に巻き付けていた。

「この感覚が社長の言っていた同時に二つの意識ってやつなんだ・・・」

理恵が「ケンタも食事の前にシャワー浴びたら・・・?」

「うん、そうする」そのままケンタは浴室に入っていった。

「なにこれ?・・・わたし結婚してるの?それとも同棲?
それに、このケンタって人は誰?見たことないけど・・・」

しばらくして浴室のドアが開いて素っ裸のケンタが出て来た。

「どういうこと?なんで素っ裸なの?」

「そこに下着出しておいたからね」

「おす・・・」

理恵は思わず「あんた誰?」と叫んでしまった。

ケンタは「?????」完全に言葉を失っていた。

次の瞬間気を取り直したケンタが「俺のこと?」

「そう、あんた・・・」

「理恵大丈夫か??」

「あっ・・・ごめんケンタ、私なんでこんなこと言ったんだろう?」

「理恵ビックリさせるなよ・・・なんだよ今の『あんた誰』って・・・
俺、焦ってしまったよ・・・まったく・・・」

「ごめん、ごめん私も解らない・・・」

こっちの理恵は瞬時に理屈が解ったから、しばらく様子を伺うことにした。


 翌日、理恵は書道教室に座って生徒の指導をしていた。この世界の理恵は
書道の先生をしていた。

書家の書らしい字を畳み大の紙にバランス良く「山川草木」と書きあげていた。

「なかなかやるじゃない・・・私も習字は6段で書は好きなの。
どっか影響し合ってるのね」

次の瞬間さっき感じた宇宙が見えまた気が遠くなった。

次に視界に入ったのが、なにかの研究室?試験管やビーカー・遠心分離器
など、実験に必要な化学の実験道具が部屋中いっぱいに広がっていた。

「ここ何?どっかの化学実験室?」

1人の男性が「山崎さん、そこのトレーとってくれる?」

「はい、解りました」

「えっ??私は高橋でしょ・・・なんで山崎で返事したの?」

トレイを男性に手渡した「はい、どうぞ」

「ありがとう。今日はもう遅いから返っていいよ。明日又続き頼むね」

「はい、帰えらせていただきます。教授もたまには早く帰って身体休めて
ください。奥さん心配しますよ」

「ああ、ありがとう」

この世界の理恵は山崎という名の女性で、新薬の開発をする研究所の
開発スタッフをしていた。

理恵は、この私は頭の中に化学式がいっぱい詰まっている。
今取り組んでいる研究は副作用の無い精神安定剤の開発か・・・
これも面白そうね。このままどんな生活をしてるのか監察しよう・・・

高層マンションに山崎は入っていった。

へ~~。こんな部屋に住んでるのか?職業柄か几帳面に整理され
分類も完璧にされてる。

寝室らしい部屋に入ってみると写真が目に入った。

なに?この私も結婚してるの?・・・しかもあのケンタと・・・
ということは。もしかしてこっちの私のお相手もケンタなの?
山崎ケンタっていう名前なんだ・・・タイプじゃないし・・・やだ!

また、次の瞬間景色が宇宙になり気が遠のいた。

次に何処かのこじんまりとした研究室が視界に入った。ここは・・・いつも
見慣れた会社の研究室だった。

社長が「お疲れ様。次の客待ってるから30分したらB室に待機してて」

はい、???B室???とりあえずトイレにで用を足して戻ってきた。

あれ??いつのまにAやBやCだのドアにプレートが貼ってあるの?
社長B室って云ってたからここね。理恵は部屋に入りで待機していた。

「山崎さん」どこかで声が聞こえた。

しばらくするとまた「山崎さ~~ん」同じ声だった。

この声は京子さんだ・・・なんだろう?

ドアがノックされた。

「はい」理恵が言った。

ドアが開いて入ってきたのが京子だった。

チョッと苛ついた顔して「山崎さん、私が呼んだの聞こえませんでした」

「京子さんが言ったのは山崎でしょ・・・」

「そう、聞こえてるじゃない」

「山崎っていうのは聞こえたけどそれが何か?」

「今、なにかって言った?」

「そう、言いましたけど・・・」

「山崎理恵さんって他にいるの?」京子が憮然とした態度で言った。

「なんで?・・・私は高橋理恵でしょ。京子さんもしかして私をからかってるの?」

京子はそれ以上言葉が出なかった。そして出て行った。

3分ほどして社長が京子と入ってきた。

社長が「理恵さん、よく私の話し聞いて。理恵さんあなたは今パラレ・
ルワールドの世界に来てるの。もうひとりの私が装置を完成させたの。憶えてる?」

「あっ・・・私もしかして・・・」

「そう、そのもしかなのよ。理恵さんあなたはこっちの世界では
結婚してて山崎さんという名前に変わってるのよ」

「社長、私理解できました。でもこっちの私の意識が見あたりませんけど?
どうしてでしょ?」

「それはチョット解らない・・・でもよくいらっしゃいました。
ようこそもうひとつの世界へ」

「あっ、初めまして???って言うのも変?」理恵が言った。

京子が「そうよね・・・変な感じよね・・・そっちの世界の会社の
雰囲気はどう?私は結婚してる?」

理恵が「私も京子さんも社長も独身です。既婚者は真智子さんだけです」

社長が「真智子さんっていう人が働いてるの?」

「えっ、こっちでは勤務してないの・・・ですか?」

「そのうち面接に来るかもね?楽しみ・・・」


 それから理恵はコマを回して実験室に戻った。

社長が「どうだった?」

「この装置も凄いです。私の行った世界でこの会社に出たんです。
似てるけどどこか違うんですね。私は山崎っていう人と結婚していて名字が変わってました。

他に、書道の先生や化学実験室の助手もしてました。

それと・・・気になることがひとつ、最後にハーデス観光に出たんです。
そこはこっちと多少違うんですけど。

私の意識が100%優先してるんです、あっちの世界の私の意識が
関与してなかったんです。だから一瞬戸惑いました」

「なるほどね、まだまだ課題はあるのね・・・」

それから数ヶ月が過ぎ、ひとりの男性客が会社に訪れた。 

「おはようございます」京子が応対した。

年の頃なら30歳前後の男性だった。

「ネットで申込した山崎と申します」

「はい、お待ちしておりました」

京子は待合室に通し「この誓約書をお読みになって今日の日付と住所と
お名前を記名捺印して下さい。担当の者が案内いたしますからここでお待ちください」

ドアがノックされ理恵が入室してきた。

「お客様、本日ガイドさせていただく高橋理恵と申します。
よろしくお願いいたします。え~~と、お渡しした誓約書頂けますか?」

「はい、どうぞ」

「はい、山崎ケンタさまですね・・・・」

その時理恵は動揺して書類を落としてしまった。

ケンタが「大丈夫ですか・・・よろしくお願いいたします」

理恵は瞬間的に「これが運命の人か・・・」淡い期待が胸を過ぎっていた。

数ヶ月後この二人は交際し、そして婚約を発表し結ばれることになった。

「安田様ですね。私、今回ハーデスのガイドを勤めます山崎理恵と申します。
よろしくお願いいたします」

THE END

【Akemi(ハーデス観光)】全10-9

9「意識変化とハーデス越え」

社長と山田は第4ハーデスに移行した。

「山田さん多少馴れるのに時間が掛かりますがすぐ馴れますから」

「さて、お二人の所を視てきましょう。但し、お二人が一緒とは
かぎりません。このハーデスは意識の合う者同士が一緒に住むところ。

そこが一番落ち着くからです。その意識とはもともと個人に備わってる
意識の事をいいます。たとえそれが親子であっても意識が違う、つまり
波長が合わないと一緒に暮らすには窮屈というか落ち着かないんです。

ずばり親子関係は肉体だけの関係。我々の住む世界限定の関係を言います。
奥様や娘さんは、肉体として縁ある関係です」

「また、さっきみたいに『あんた誰?』みたいになるだか?」

「いえ、それはありません。ここでは生まれる以前の前世もすべて
把握しておりますから、そういった心配はありません。

でも、今は子供でも妻でもありません。みんな対等な魂ですから、絶対に
上から目線の話し方はしないで下さい。

言い方を変えると、今現在は肉体のある山田様の意識レベルの方が下です。
それが嫌ならこのまま身体に戻りましょう。コマを回すと戻れます」

「社長さん、ここまで来たら視てみたいですだ・・・」

「では、娘さんの意識を念じて下さい」


 次の瞬間小さな集落に出た。ここは花が咲き乱れて動物たちがのどかに
遊んでいる。その横では人が農作業をしていた。

「なんか、のどかで良い感じだな、空気も花の香りで心地良いな」

「ここは俗に云う天国に当たります」

「これが天国か・・・いいな~~」

「山田様、あちらに視える女性風の方が紗英さんだった魂ですよ」

「なに言ってるだ。さっき社長さん娘と会った時視たんべよ。
娘はまだセーラー服着てたべ。その目で視たべ・・・」

「もうひとつ説明します。魂は年齢というものが無いのです。
年齢という概念は肉体があった時だけのはなし。ここは肉体がないから
年齢というものが無いのです」

「な~~るほどね。なんか俺わからねえだ・・・」

「いいです、とりあえずあの人の前に行ってみましょう」

瞬間二人は移動した。

「こんにちわ」社長が意識を飛ばした。

「こんにちわ。そのせつはお世話になりました」

「お父さんをお連れしました」

山田を視て「人間世界では大変の世話になりました。ありがとう
ございました。おかげで楽しい人間生活を送りました」

「あんた・・・紗英だか?」

「はい、人間界では紗英という名前でした」

「人間界っておめぇ、そんな他人行儀な・・・」

「名前は必要ないのです」

「なんか、さっきと別人だな~~や。紗英じゃねぇみてぇだな」

社長が「情の絡みは人間界だけです」

「ほんだかね?・・・オラおっかぁのとこ行くべか・・・」

「よろしいですけど、娘さんに挨拶されて下さい」

「わがった、紗英・・父さんは帰るからな。俺が死んだらまた会おうな・・・
それまでお別れだ。達者でな・・・??達者も変だか??」」

「ありがとうございました。また会える日を楽しみにしてます」

 社長と山田は移動した。

次に向った世界は高い山の頂にある集落だった。

「ここが奥様の選んだところです。さっきと同じように情のような
ものは無いかも知れません。情は人間特有の感情だからです。
奥さんと会われますか?」

「はい・・・ここまで来たらあっ会います」不安そうに返事をした。

そこは山小屋のたくさん建ち並ぶ別荘地のようなところだった。

「あそこで犬とお話しいてるのが奥様だった方です」

「おっかぁ」山田が意識を掛けた。

「はい・・・山田さん?」

凄く若くて綺麗な装いだった。

「???・・・悦子???」

「そのせつはお世話になりました」

「悦子おめぇ若くなって綺麗になったな。眩しいくらいだ」

「あなたもここに来たらそうなりますよ。自分の意識の世界だから、
自分にあった顔かたちが表現できるの」

「そんなもんだかねぇ・・・なんか・・・味けねぇべ」

「楽しいのよ、全ての動物と話が出来て。夜がないからず~~と
楽しんでられるの。あっごめんなさい、人間の時の記憶が薄れていくの」

「うん、楽しいならそれが良いやね。オラもそのうち来っから
そん時は案内してけれや。悦子世話になったな・・・
社長さんもう帰してけろ。もうオラ帰りたいてぇだよ・・・」

山田の期待は裏切られた。もっと喜んで迎えてくれることを
期待していただけに、落胆が大きかった。

「はい、戻りますからコマを回して下さい」


 「はい、お疲れ様でした。どうでしたか?」理恵の声だった。

社長が「理恵さん、山田さんのケア頼みますね。第3から第4にそのまま移行したの。
例の結末だったの」

「はい、解りました」

理恵が「山田さん、大丈夫ですか?聞こえますか?」

「おう、だいじょ~~ぶだ~~~」

「あんたは志村けんか?」

「姉さんどうもお世話無いなりましただ、おかげで吹っ切れました」

「そうですか。お役に立てて良かったです」

「姉さんにひとつ聞きたいことあるんだけんども・・・」

「?・・・私の解ることでしたらなんなりと」

「今、第4ハーデスに行って、二人と会って来たんだけんども。
あの二人は成仏してるんだよな」

「はい、そうです」

「じゃぁ、仏壇にお詣りしたりって必要あるのけ?なんか意味あるだか?」

「そうですよね、心の問題だからハッキリ言えませんけど。
私の場合は拝むという行為は一切しません。人間より境涯が上の魂に
なんにも言うことありませんから。なにを言って良いのかも解りません」

「そうだよな・・・オラ帰ったらそういう物お寺に預けて処分するだ。
あんな幸せそうな二人視てたらそう思っただ。逆に向こうがオラに向って
供養して欲しいくらいだ・・・」

「山田様、素敵です。分ってもらえたんですね」

「あれを視て考え変えなかったらどうかしてるべさ・・・」

山田は高橋社長にも丁寧に礼を言って会社を出て行った。


 社長が「今日は気になることがあるからミーティングします。
理恵さんみんなに声かけておいてね。お願い」

「はい、解りました」

社長室に集合した。

「今日、一日ご苦労様でした。急に集まってもらったのは、
今日のお客様のことで気になったことがあったの。

奥さんと娘さんを3.11の時に津波で亡くされたの、それで
何処かでうちのこと聞きつけて青森から来たお客様なの。

ハーデスには興味ないの、目的は奥さんと子供さんに未練があって
会いたいだけなの。いつもは断ってるケースなんだけど、

今日はどうしたことかそのお客さん青森訛りで、私も死んだ婆さんが青森でね、
訛りが懐かしくってつい受けてしまったの。

私が添乗したんだけどね、二人は第3ハーデスにいたのよ。そして案内したのね、
3人が話してるうちに奥さんと娘さんが気付いて、目の前で第4に移行したの。

そこまでは良かったんだけれど。

お客様、今度は第4に生きたいということで私も簡単に請負ったの。
あまり深く考えなかったの。

第4は別々の集団に別れてたの普通のことなんだけど。お客さんが
コンタクトとった時娘さんが『あんた誰?』ってなったの。

奥さんもそうなんだけど、数時間前の事なんだけど二人には遠い記憶に
変わってたの。そのお客さんはすっかり落胆してしまったの。

そして理恵に仏壇とかもう必要ないから処分するまで言ってたらしいの。
これからもありえる事なんだけど、みんなで決めたいのは二つあるの。

一つ目は、今後このようなケースにどう対応したらいいのか。

二つ目は、今回は第3だったけど、意識体も身内の話だと多少聞く
耳をもつのかもしれないの。聞いたら必ず上に移行できると確信してるの
前回も無関係の女の子が移行したのを視てるの。案外そんなに難しくないの。

この二点に絞って協議して欲しいの 以上です」

水上が「一つ目の場合、今日は上手くいったケースですけど第1なんて
全く自信ありません。というか人の話し全然聞きません。
だから私は今のままで良いと考えます」

理恵が「確かに第1と第2は聞く耳をもたないですけど、第3はまだ
可能性があるかもしれません。だから第3は場合によっては良いかと」

真智子が「もし請負うと言うことになったら、なんかその辺の祈祷師と
同じというか・・・考えがまだまとまりません」

社長が「確かにそれだけでこられても困るよね・・・うん。

ごめん、この提案は撤回今まで通り原則禁止。決定

じゃぁ、二つ目も原則として禁止。あとはケースバイケース
ということで・・・ということでこの後みんなで、焼き肉食べに行こうか」

全員「さんせ~~~い」

 それから数日後青森の山田さんから手紙が届いた。

「拝啓、高橋社長様 先日はありがとうございました。
おかげで二人の成仏をこの目でみられて良かったと思っています。
行くまで半信半疑でした。これで思い残すことありません。
残りの人生は神様の決めた定めに従い生きていきます。

一緒にリンゴも送りました皆さんでお召し上がり下さい。
今度お金が貯まったらお釈迦様とキリストさんに会いたいと思います。
その日を励みに頑張ります。 山田秀樹」

【ニュートラル・イン】

「ニュートラル・イン(心身再生プログラム)」

「よろしいですか?まず母親をイメージしてください・・・

次は母親の呼吸を意識してください・・・

穏やかでゆ~~っくりと規則正しく・・・

母胎と呼吸を合わせてください・・・

ゆ~~くり吐いて~~~・ゆ~~くり吸う~~~

ゆ~~くり吐いて~~~・ゆ~~くり吸う~~~

呼吸が整ったら・・・次は母親の子宮を意識してください・・・」

指導員小林の前に7名の男女が瞑想をしていた。

薄明かるい部屋の正面に設置された樽型の特殊スピーカーから、
血流の響きと、微かに聞こえる心臓の規則正しい鼓動音が心地よく
流れていた。ニュートラル・イン(心身再生プログラム)のレッスン風景。

「母親の子宮内をイメージしてください・・・

ゆ~~っくり、子宮内のリズムと同調してください・・・

子宮内のリズム・・・それは宇宙のリズムと同じです・・・

全身全霊で感じてください・・・

耳・目・皮膚の感覚はありません・・・

頭ではなく総てで・総てで感じてください・・・

あなたは出産の前の段階・・・

そう・・・胎児の状態・・・

皆さんは今、母親の子宮内の胎児です・・・

子宮という宇宙空間に浮かぶ胎児・・・

汚れのないまっさらの状態・・・

どこにも属さないニュートラルな状態・・・

この状態を維持してください・・・

雑念が沸いたらもう一度繰り返してください・・・

焦らず・・・何度でも・・・何度でも・・・

子宮内は純真無垢・・・

なんの問題もありません・・・

あるのは母親の心臓の鼓動と血流そして宇宙・・・

もう再生は始ってます・・・」


 一時間後、第一ステージを終え小休止でジャスミンティーが配られた。

参加者の女性が「あの~~う、質問よろしいですか?」

「はい、なにか・・・」

「このニュートラル・インのポイントを説明してもらえませんか?
私、じつはよく知らないで知人に勧められるまま受講したんですね。
知らないよりは知った上で受講した方がいいななって思いまして・・・
なんか・・・すみません・・・」

「はい、解りました。今日は初めての方もおられますので、簡単に
ニュートラル・インのポイントを説明させていただきます」

みんなワクワクした目で小林を直視した。

「この、ニュートラル・インは、身体に変調をきたした方が多く受講
されます・・・が、健康体の方でも純粋意識の再確認として受講
されてる方も多くおります。

ニュートラル・インの創始者φ曰く、人は基本健康体でこの世に生まれ
育ちます。先天的傷害を抱えて生まれる場合は別の理由があると
説明してます。

では、本来健康な肉体で生まれ育った身体がなぜ病気になるのか、
多くの場合精神的、つまり心の歪みが原因と考えます。

もっと突き詰めれば魂のカルマの段階もありますが、今は省かせていただきます。

病気になった時、今の日本では簡単に病院に行きますよね。
日本の場合は社会保険制度がありますし、患者の経済的負担を
出来るだけ軽減する医療制度も拍車をかけます。

病気にかかったことは仕方ありません。事実ですから・・・
でも、本当は病気というのは幻覚なんですと、φは云います。

つまり・・・本来は健康体なんです。

ニュートラル・インの目的は病気を作らないようにすることではありません。
疲れた心や病気になった身体をニュートラル・インで、生まれた時の純粋な
心身にリセットするのが目的。

たとえ完璧に出来なくてもなんらかの改善は出来るはずだと考え、
φ自ら考案したのが、このニュートラル・インです。

長年の習慣から生じた病気などの疾患が、すぐに成果を出すと
思わないでください。ですが、気づきがあると必ず快方に向かいます。
快方には当然個人差がありますけど。

早くても最低2ヶ月はかかると思ってください。当然疾患の度合いにも
よると思いますが肉体の細胞や思考・意識を変えるには2ヶ月そのくらい必要だからです

即効性を期待するのであればニュートラル・インは不向きかも知れません。
考え方が今の医学と反対だからです。

症状を即改善したいのであればお医者さん。症状の原因を改善したいの
であればニュートラル・インと考えます」
 
 
 女性参加者が「あの~~う。ニュートラル・インを考案された
φさんってどのような方なんですか?」

「当会の考案者はφと書いてファイと読みます。名前の意味は私も正式に
知らされてません。φはギリシャ文字のようですけど・・・

φは社会人になってスピリチュアルな世界。特に禅の世界観を好むようになり、
若い時は会社の休暇を利用し鎌倉や京都の禅寺で参禅をしていたようです。

特に12月1日から8日間。不眠不休の臘八大攝心は何度も参加し、  
その年を締めくくる大切な行事にもなっていたと聞いております。

普段は禅の書物以外にも新興宗教や不思議世界にも興味を示し、
精神世界の本はそれなりに読破していたみたいです。

年頃になると結婚出産を経験し2人の子供を育て、ごく一般的平和な家庭を
きずいていたようです。

でもφが中年に差し掛かった辺りから、体調に異変を感ずることが多くなり。

心臓疾患の不整脈がもとで脳梗塞を患い入院。十数年間は薬漬けの日々を
過ごすことになったようです。

そんなある時、風邪で高熱になり本人はそんなに気にしてなかったと云ってましたが、
トイレに行った時に生理でもないのに便器内が真っ赤に染まっていたようです。

『なにこれ???私どこ悪いの??これって・・・もしかして腎臓疾患?
子宮疾患?』と思ったそうです。

ですが、熱が下がってくると徐々に尿が透明になってきたので、熱のせいで
異常を来したぐらいに思ったと・・・それから数年は病気のことも忘れ、
家事に追われる毎日だったようです。

それがある時、耳鳴りが聞こえてくるようになり、でもそのまま一年ほど
処置せずにいたら右の耳が機能してないこと気がついたようです。
耳鼻科に行くも老人性機能不全と診断されたみたいです。57歳でした。

耳の治療をあきらめた頃。重複して他の病気がφの身体にダメージを
与えることになったんです。

持病の心臓機能不全に加え、腎臓機能の不全・右耳の聴覚機能不全・糖尿・
逆流性食道炎。これらの疾病がφを一度に襲ったようです。

私なら落ち込んでしまいそう。でも、ここからがφと私の違うところです。

あっ・・・残念です。受講時間が来たので次の休憩の時に続きを話します。

では、皆さんスタンバイしてください・・・」


 第二ステージが終わり再び休憩に入った。

「では、先ほどの続きを話します・・・」受講者はみな真剣な眼差し。

「え~~と・・・重複障害を抱えたφは、こんなことを考えたと言ってます。
『このまま一生涯薬を飲み続けなくてはいけないのかな?』と真剣に考えた
ようです。そして通院の予定日を迎えたのです。

「一生涯薬を飲み続ける・・・??」この言葉が再び頭を過ぎったようです。

そこでφは『もう薬を辞めよう・・・薬の代わりに食べ物と瞑想で意識と
身体を整えよう・・・』そう考えたそうです。

ある意味命をかけた冒険ですよね、薬の中には心臓の薬もあるわけですから。

スピリチュアルに傾倒していたφは、想念が身体に影響を及ぼすことを
既に知ってたんですね。想念には当然潜在意識も含まれます。

それでφがどういう行動をとったか・・・ということです。

まず、薬はすべて廃止。食事は朝が食パン一枚で昼は抜き。
夜は普通に食べる。但し、基本は肉抜きで野菜と納豆を毎日食べる。
ひと口の咀嚼を50回以上必ず噛む。

そして、毎朝ニュートラル・インの瞑想を日課にする。

それを毎日繰り返し半年が過ぎた頃には体重も10キロ減り、
すこぶる体調が良くなったと言っておりました。

医師から完治はないと云われた心臓・腎臓・食道炎逆流・糖尿・耳の老人性
機能不全。これらがほぼ完治したのです。

因みに、後日まったく無関係な事情の知らない病院で検診を受けた結果
異常なしとのことでした。ただし、耳の聞こえが今ひとつかんばしくない
とだけ云っておりました。

φがいつも言ってることは『固定観念を外す』ということでした。

つまり、勝手な思いこみが多岐にわたって制限をつける・・・
その制限を外せたら本当の意味で自由になれると・・・教わりました。

φは一生の病気とされている心臓・腎臓・食道炎逆流・糖尿・などを
全部ニュートラル・インで克服したのです。

たぶん医者が聞くと『そんな馬鹿な・・・』と首を傾げるでしょう。
だって、今の医学が治らない疾患と位置づけたわけですから・・・

ニュートラル・インは長年培った医療を否定するかたちになるからです・・・

まっ、それはともかくφはこのようにして自分の内面と会話をし、
ニュートラル・インを体系化し、多くの人に実践してほしいという
ことから始まりました。

因みに、私は初回の受講生でした。長年リュウマチでした。今は完治してます」


 小林の後ろに、ひとりの中年女性が笑顔で立っていた。

気がついた小林は「えっ・・・あら??φさんいらしてたんですか・・・
あのう・・・みなさん今話した考案者のφさんです・・・」

φは頭をさげた。

「初めまして、φと申します。小林さんの説明を後ろで聞いておりました。
私からも簡単に説明させてください。よろしいでしょうか?」

7人は拍手をした。

「では、説明します。概略は小林が説明したとおりです。

病気の原因は心。このことは私も解っておりました。
その心をさかのぼって修正するのはこっこう大変でした。

そこで私は純粋無垢な子宮内の時まで戻れないか?・・・

胎児の時は病気など皆無のはず・・・と単純に考えました。

だから自分が胎児の状態を瞑想で意識したんです。

母親の胎内はものすごく安らかで心地よくて安定してました。
ずっとここに居たいと思いました。心身がリフレッシュされました。

そしたら、いつしか健康体に戻っていたんですね・・・

知人にも話をしたんです。そしたら直笑う人も数人おりました。
でも、体調を崩してる人や、崩した経験のある知人は実践してみたんです。

そして効果が思った以上にでたんですね、それがニュートラル・インの
始まりだったんです。それが今日に至ってます。以上です・・・」

 受講者が「えっ・・・??それだけですか?」

「はい、それだけです」

「他にテクニックや技法とか心構えとか?・・・」

「難しいことは私にも解りません。単純ではダメでしょうか?・・・」

「いえ、φさんのように重複障害を持ち克服された方なので、
いろいろな工夫やプロセスがあるのかな?って思ったんです」

「あると言えば、あります・・・意識を胎児の状態に・・・そして
子宮と同化することです。子宮は宇宙です。宇宙は完璧。
それだけです。他はなにも必要ありません」

他の受講者から「ニュートラル・インの意味を教えてください」

「ニュートラルつまり偏らない、中ほという意味です。生と死の中間世界。
ノージャッジも含まれます。どう解釈していただいても結構です。
単純にニュートラルな世界に意識を向ける。そういう意味です」

「今までのφさんの培った知識等の結晶ですか?」

「全然逆です。その生まれ育った知識が案外邪魔になるんです。
自分に制限を付けてこぢんまりした人間になってたんですね」

今まで培った知識・常識が案外健康を害する原因だと考えたの。
つまり病気は心の歪みの現れであって、一度結果が出たものは
それを消去することは出来ません。
 
大事なのはそこに気をとられることよりも、心身をリセットして子宮内の
胎児のように、病気のない無垢な状態に戻そうと考えたんです・・・

意識がそこまで到達すると自ずと病気も癒えてると云う考えです。

今後このニュートラル・インがどのように変化するかわかりませんが、
今は好い結果が出ているから好しとします・・・」

スタッフが「φさん次のステージの時間です・・・」

φが「案外早いのね。ごめんなさい・・・最後のステージです。
終わりましたら続きを話しましょうか・・・」

 
 最後のステージも終わり7人全員がその場に座っていた。

再びφが現れ「ご苦労様でした・・・さっき話したように難しい話しは
わたし的に苦手なんですね・・・考えれば考えるほど疲れます。

きっとそのネガティブな意識が重複障害の原因だったんだと思います。

それと、この仕事をしていて思うのは笑いの大切さ。

特にその期待感とワクワク感は最高のバイブレーシャンです・・・

心も体もニュートラルが一番強いかも知れません。

自宅でも簡単にできます。場所も時間も選びません。

何度でも何度でもリセットしてください。

この世に肉体がある限りは・・・」
 

 30代後半ぐらいの女性受講者がいきなり「身体疾患の人間は良い
わよね・・・私のような鬱の人間は自分をうまくコントロール出来ないのよ。
ここに来たら何とかなるかと思ったけど・・・所詮、心的健常者の発想よね」
たたき捨てるような口調で言った。

全員が彼女の顔を見た。

φが優しい口調で「わたしからあなたに質問してよろしいかしら・・・?」

「・・・どうぞ」

「あなたは今、鬱とおっしゃいましたね」

「そう、鬱ですけど・・・」

「今から話すことは仮りの話しですけど、答えたくなければ答えなくて結構です」

「なんですか?・・・」

「もし、あなたの前に鬱の疾患のある方が『私、鬱なんです。夜も睡眠が
出来ず、一日中暗い気分でなにも手に付かないの・・・』そう相談されたら
あなたはその方にどのように対応しますか?」

「φさんの言ってる意味がわかりませんけど」少し憮然とした態度だった。

「あなたに、あなたと同じような症状の女性が精神的アドバイスを
くださいと、相談しに来たらあなたはなんと答えますか?」

「・・・安定剤を服用しなさい・・・」

「そうですか、お薬をすすめますか・・・彼女は通院していて薬は
いつでも手にはいるのにあなたに相談にくるんですよ・・・それでも?」

「・・・なにかから、逃げたいことでもあるんですか?・・・」

「逃げたいこと・・・それはなんですか?」φはゆっくり丁寧に言った。

「現状・・・自分・・・」

「現状・自分から逃げ出せなくって、鬱という方法を選んだの?」

「私が鬱というと周りが優しくしてくれるから・・・」

「じゃあ、今、あなたのところにアドバイスを求めに来た彼女に、
薬をすすめたのもあなたの優しさですか?」

「薬はいっとき楽になるだけ・・・それだけ・・・」

「いっとき楽になるためだけに薬を勧めたの?」

「・・・・・ほ・・本当は鬱の状態を自分でコントロールしてる・・・
鬱はなにもしなくていいから・・・みんな理解してくれるから・・・」

「もう一度聞きます『鬱の相談者にそのままで良い。あなたの隠れ蓑か
心のバリアとして鬱を大事になさい』ってそうアドバイスするの?」

「・・・・・」彼女は下を向いたまま黙ってしまった。

φが「精神疾患は誰にでもあります。医者に行けばいくらでも病名を考えて
くれます『私、憂鬱で夜もまともに寝られません』と言えばちゃんと
病名を付けて薬を処方してくれます。

わたしから見ると、世の中の多くの人はみんな分裂病に思えます。
自分をさしおいて周りばかりををキョロキョロ。まるで社会が正しい
かのようにそれに合わせようとする。自分の意向と違ってもブツブツ
言いながら従う。世の中が白といったら黒でも白と口をそろえる。

マスコミが言うことは自分で判断せず鵜呑みにする。

大切な自分をさしおいて、なにをしたいというのか?

社会に順応できる人を立派な人間というの?・・・どう思います?

社会から外れた生き方をしたら病気なの?・・・

社会に順応できない人はみな病気?・・・

医者の『鬱です』のひとことで鬱なの?・・・

話し長くなりごめんなさい。

私、本当は病気は存在しないと確信してるの。

みんな病気という幻影を見てるの。

幻影に惑わされているだけなの。

母親のお腹の中にいる時はこの世と言うよりもあの世に近いから病気がないの。

ごめんなさい。あなたの話しから脱線しちゃって申し訳ありません。

病気はいろいろな要因があるけど、みんな自分で作ってるの100%の
確率で、自分が作ってる以上必ず自分で完治できるはず。

いえ完治します

あなたも、鬱という幻影に負けないでください。

私流に言うなら、医者よりも薬よりも母親の子宮内は完璧です。

だって、宇宙は完璧だから・・・

なによりも、命をゼロから作り上げたんだから・・・」

φは頭をさげた。

鬱と言った女性も頭をさげた。

指導員小林が「みなさん今日はお疲れ様でした。ニュートラル・インは
継続されてくださいね・・・ありがとうございました」

END